(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】ファブリペロー・エタロン、これを用いた波長変化量検出器、及び波長計
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20230810BHJP
G01J 3/26 20060101ALI20230810BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
G02B5/28
G01J3/26
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2019181768
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】516359333
【氏名又は名称】スペクトラ・クエスト・ラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】室 清文
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-508392(JP,A)
【文献】特開2013-117668(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0193814(US,A1)
【文献】特開平03-087084(JP,A)
【文献】特開2019-179817(JP,A)
【文献】特開2001-156388(JP,A)
【文献】特開2014-106110(JP,A)
【文献】特開2013-096877(JP,A)
【文献】特開平02-176628(JP,A)
【文献】特開2012-073477(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102203660(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G01J 3/26
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面を有する二つの部分反射素子が向かい合いかつ平行に設置され、前記二つの部分反射素子の間に位相板を有するファブリペロー・エタロンであって、
前記位相板が
λ/8波長板又はλ/16波長板であるファブリペロー・エタロン。
【請求項2】
入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面を有する二つの部分反射素子が向かい合いかつ平行に設置され、前記二つの部分反射素子の間に位相板を有するファブリペロー・エタロンと、
前記ファブリペロー・エタロンから出射される光を偏光状態に応じて分離する偏光型光路分離素子と、
前記偏光型光路分離素子のそれぞれの出射面側に配置される二つの光電変換素子を備える波長変化量検出器。
【請求項3】
前記二つの光電変換素子のそれぞれに接続され、前記二つの光電変換素子の出力信号処理を行う制御装置を備える
請求項2記載の波長変化量検出器。
【請求項4】
入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面を有する二つの部分反射素子が向かい合いかつ平行に設置され、該部分反射素子の間に
λ/8波長板又はλ/16波長板を有するファブリペロー・エタロンと、
前記λ/8波長板又は前記λ/16波長板の遅延軸に対して45度をなす角度の直線偏光をもつレーザ光が前記ファブリペロー・エタロンを透過又は反射した後に前記波長板の遅延軸に対して平行及び直交の偏光成分へとそれぞれ分離させる偏光型光路分岐素子と、
前記偏光型光路分岐素子により分離された各々の偏光成分の光量に対応する信号を出力する光電変換素子と、
前記光電変換素子の信号を処理する制御装置と、を有し、
前記出力を用いて前記レーザ光の発振波長の変化を定量的に検出可能な波長変化量検出器。
【請求項5】
請求項4記載の波長変化量検出器と、
既知の波長を出力する基準光源と、を有し、
入射したレーザ光の波長を、前記基準光源の波長と前記波長変化量検出器の出力に基づいて算出する波長計。
【請求項6】
請求項4記載の波長変化量検出器と、
1点以上の特定の波長について絶対波長を検知できる波長検知器と、を有し、
入射されたレーザ光の波長を前記絶対波長と前記波長変化量検出器の出力に基づいて算出する波長計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファブリペロー・エタロン(エタロン)を用いた波長ロッカーモジュール、波長変化量検出器及び波長計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分光計測の分野において、発振する光の波長を可変することができる波長可変光源が注目されている。そして波長可変光源においては、分光領域の拡大を目的として波長可変範囲の広帯域化が求められており、また、計測の信頼性・定量性向上を目的として発振波長の時間的安定化、及び波長変化量の高確度化が求められている。
【0003】
ところで、広帯域に波長可変が可能な波長可変光源としては、外部共振器を用いた半導体レーザ(ECDL)が用いられているが、ECDLは温度変化などの外乱によりその発振波長が変動するという性質がある。そのため、ECDLの出力光を検出し、その発振波長を安定化させる波長ロッカーモジュールが必要である。
【0004】
また、ECDLの発振波長は外部共振器を構成する波長分散素子の角度で規定されているが、常に外部共振器モードの数倍程度(数~10GHz程度)の不定性を含んでおり、波長変化に際して、その変化量の目盛りとなる波長校正モジュールが必要である。
【0005】
ところで、ある波長において波長変動を是正してレーザの発振波長を安定させる場合、波長変化に対して透過率等が変化する光学素子(バンドパスフィルタやエタロン等)の透過信号を用いることが一般的である。
【0006】
例えば、下記特許文献1には、バンドパスフィルタを用いた特定の1波長だけで波長安定化が可能な方法が開示されており、下記特許文献2には、エタロンを用いた幅広い複数の波長で波長安定化が可能な方法が記載されている。どちらの方法でも、透過率が変化する素子を透過した光Aと、該素子に入射しない光Bの出力を光電変換素子(PD)で受光し、その2つの信号の差を利用し、特定の波長において0を横切る信号を生成し、それを誤差信号として利用したPID制御により波長安定化を行うことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-209546公報
【文献】特開2003-204111公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来技術の波長ロッカーモジュールにおいては、特定の波長において安定した波長ロックを行うことは可能であるが、幅広い波長帯域に対応することにおいて課題がある。例えば、上記特許文献1に記載のバンドパスフィルタを用いる方法では特定の1波長のみで有効であるにすぎない。また、上記特許文献2に記載のエタロンを用いた方法であっても、幅広い波長帯域に対応することは困難である。これは、
エタロンを透過する信号Aとエタロンに入射しない信号Bの差分を用いた方法の場合、波長が数十nmを超えて大きく変化した際は、エタロンやその導入光学系の色収差や透過特性の変化により、AとBの強度比やエタロン透過信号の振幅が変化するため、波長ロックを行う各々の波長でA、B信号の強度比のトリミングが必要となる。これでは、広帯域に波長を変化させる光源での使用に適しているとはいえない。
【0009】
そこで、本発明は、上述の諸問題を解決し、広い波長帯域において精度よく波長ロックが可能となる波長ロッカーモジュール及びこれに用いられるエタロンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の一観点に係るファブリペロー・エタロンは、入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面を有する二つの部分反射素子が向かい合いかつ平行に設置されたファブリペロー・エタロンであり、部分反射素子の間に位相板を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の一観点に係る波長変化量検出器は、入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面を有する二つの部分反射素子が向かい合いかつ平行に設置され、二つの部分反射素子の間に位相板を有するファブリペロー・エタロンと、ファブリペロー・エタロンから出射される光を偏光状態に応じて分離する偏光型光路分離素子と、偏光型光路分離素子のそれぞれの出射面側に配置される二つの光電変換素子を備えるものである。
【0012】
また、本発明の他の一観点に係る波長変化量検出器は、入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面を有する二つの部分反射素子が向かい合いかつ平行に設置され、部分反射素子の間にλ/16波長板を有するファブリペロー・エタロンと、λ/16波長板の遅延軸に対して45度をなす角度の直線偏光をもつレーザ光がファブリペロー・エタロンを透過又は反射した後に波長板の遅延軸に対して平行及び直交の偏光成分へとそれぞれ分離させる偏光型光路分岐素子と、偏光型光路分岐素子により分離された各々の偏光成分の光量に対応する信号を出力する光電変換素子と、光電変換素子の信号を処理する制御装置と、を有し、出力を用いてレーザ光の発振波長の変化を定量的に検出可能なものである。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明によって、広い波長帯域において精度よく波長ロックが可能となる波長ロッカーモジュール及びこれに用いられるエタロンを提供することが可能となる。これにより、波長可変光源の発振波長の長期安定化が可能となり、また、波長可変レーザの発振波長を変化させた際の波長変化量を高確度に得ることが可能となる。また、本発明によって、精度よく波長の変化量を検出することができる波長変化量検出器、さらにはこれを用いる波長計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係るファブリペロー・エタロンの光学配置の概略を示す図である。
【
図2】実施形態1に係るファブリペロー・エタロンによって得られる透過光の波長依存性を示す図である。
【
図3】実施形態1に係るファブリペロー・エタロンによって得られる透過光の強度における和と差の商の例を示す図である。
【
図4】実施形態2に係るファブリペロー・エタロンの光学配置の概略を示す図である。
【
図5】実施形態3に係る波長変化量検出器の概略を示す図である。
【
図6】実施形態3に係るファブリペロー・エタロンの干渉波形を示す図である。
【
図7】実施例において作製したファブリペロー・エタロンの写真図である。
【
図8】実施例において作製したファブリペロー・エタロンにより得られたx偏光の出力PDa、y偏光の出力PDbの1060nm近傍での値を示すグラフである。
【
図9】実施例において作製したファブリペロー・エタロンにより得られた誤差信号波形を示す図である。
【
図10】実施例において作製したファブリペロー・エタロンにより得られる990nm~1080nmまでのPDa,bそれぞれの出力を示す図である。
【
図11】実施例において作製したファブリペロー・エタロンにより得られる990nm~1080nmまでのPDa,bそれぞれの出力を示す図である。
【
図12】実施例において、1064nmに波長ロックした際の波長変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、応用例の記載に限定されるものではない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係るファブリペロー・エタロン(以下「本エタロン」という。2を用いた波長ロックモジュール(以下「本モジュール」という。)1の光学配置の概略を示す図である。本図で示されるように、本モジュール1における本エタロン2は、入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面を有する二つの部分反射素子3a、3bが向かい合いかつ平行に設置されており、二つの部分反射素子3a、3bの間に位相板4を有している。
【0017】
また、本エタロン2では、更に、一対の部分反射素子3の外、かつ、光が入射される側とは反対側に、偏光型光路分離素子5を備えており、さらに、この偏光型光路分離素子5によって分離された光のそれぞれの光の量を電気信号に変換する光電変換素子6a、6bとを備えている。
【0018】
さらに、本エタロン2では、光電変換素子6a,6bに電気的に接続される制御装置7を備えており、後述するような所定の処理を行い、その結果を外部に出力することができる。
【0019】
本エタロン2において、部分反射素子3a、3bは、上記の通り、入射した光の一部を反射させ一部を透過させる部分反射面31a、31bを有するものである。本エタロン2において、部分反射素子3a,3bは、部分反射面31a、31bが向かい合い、かつ正対して設置され、中空のファブリペロー・エタロンを構成する。部分反射素子3a、3bの例としては上記機能を有するものである限りにおいて限定されるわけではないが、例えばハーフミラー、ビームスプリッタ、ビームサンプラ等を挙げることができる。
【0020】
また本エタロン2において、部分反射面31a、31bの裏面32a、32bは無反射コート面及びウェッジの少なくともいずれかを有することが望ましい。このようにすることで、一度一対の部分反射素子31a、31bの外部に出た光が再び一対の部分反射素子31a、31b内に入ってしまうことを防止できる。
【0021】
また、本エタロン2の位相板3a、3bにおいて、部分反射面31a、31b間の距離は、本エタロン2の効果を得ることができる限りにおいて限定されるわけではなく適宜調整可能である。
【0022】
また、本エタロン2における部分反射部材3a、3bの材料は、上記の機能を有する限りにおいて特に限定されるわけではないが、熱的に安定な材料で規定されていることが望ましく、例えばスーパーインバー等が好適である。
【0023】
また、本エタロン1において位相板4は、入射される光の位相に対し変化を与えることができる部材であり、この位相の変化を利用することで上述及び後述の本エタロンの効果を達成することができる。
【0024】
具体的に、本エタロン2において、位相板4は、位相板4の遅延軸に平行な偏光成分と直交な偏光成分の光に対するフリースペクトラルレンジ(FSR)が有限の差異を持つものとなっていることが好ましい。ここで「有限の差異を持つ」とは、入射される光のスペクトル応答が異なること、すなわち、強め合い・弱め合い干渉が生じる波長が異なることを意味する。
【0025】
また、本エタロン2において、位相板4は、遅延軸に平行な偏光を1/8波長だけ遅延させるλ/8波長板であることが好ましい。これによる効果については改めて後述する。
【0026】
また、本エタロン2において、波長板4の遅延軸は、偏光型光路分離素子5の入射面に対して直交又は平行に設置されることが好ましい。本図では便宜上、波長板の遅延軸がy方向となるように記述しておく。
【0027】
また、本モジュール1において、偏光型光路分離素子5は、入射される光の偏光状態に応じて光の進行方向を異ならせて光を分離することができる部材である。偏光型光路分離素子5の構成としては、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、偏光ビームスプリッタ、ビームディスプレーサ、グラントムソン等を例示することができる。
【0028】
また、本モジュール1において、偏光型光路分離素子5は、入射面が上記位相板3の遅延軸に対して平行又は垂直に配置されていることが好ましい。このようにすることで、より確実に位相変化を受けた光をそれぞれ異なる偏光として分離することができる。
【0029】
また、本モジュール1では、更に、上記偏光型光路分離素子5によって分離された光それぞれに対し、その光量を電気信号に変換する光電変換素子6a、6bを有する。光電変換素子6a、6bとしては、この機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばフォトダイオードであることが好ましい。
【0030】
また、本モジュール1の本エタロン2に入射される光(入射光)8は、レーザ光であり、かつ、偏光型光路分離素子5の入射面と45度の角度を為す直線偏光であることが好ましい。このようにすることで、偏光型分離素子5で分離された後に光電変換素子6a,6bに到達するそれぞれの光の強度が1:1となり、雑音の影響が最小化されるとともに信号処理が簡便になる。部分反射素子3a,3bの部分反射面31a、31bで一度も反射されず透過した光と、1回ずつ反射された光が偏光型光路分離素子5でx、y偏光成分に分離された後に光電変換素子6a,6bにおいて干渉し、エタロン透過波形を生じさせる。このとき、波長板の遅延軸に沿った偏光成分に対するエタロンの光路長は、遅延軸に垂直な偏光成分の光路長に対してλ/4だけ長くなるため、光電変換素子6a,6bで得られる透過光の波長依存性は、
図2に示すごとく相対的に半FSRだけずれることとなる。そして、この信号の差と和の商は
図3のごとく0を横切る信号となるため、負帰還によるPID制御が可能となる。
【0031】
上記誤差信号は、FSRがλ/4だけ異なる2台のエタロンの透過信号の差分を得ることに相当する。これを1台のエタロンに波長板を挿入することで実現しているため、経済的かつ省スペースなことはいうまでもない。また、偏光型光路分離素子5で分岐する直前まで全く同じ光軸を共有するため、熱や振動等の外乱に対する変化が全く等しく、各オプティクスが有する波長依存性も等しい。このため安定した波長ロック及び波長較正が可能となる。
【0032】
上記の信号処理は、上記制御装置7によって実現できる。制御装置7の例としては上記処理を行うことができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばCPU、ハードディスク、メモリ等を備えたコンピュータ等の情報処理装置や、上記処理が可能なIC等を積層した専用装置等が好適である。
【0033】
(実施形態2)
本実施形態では、ほぼ上記実施形態1と同様であるが、ファブリペロー・エタロンから出射される光の方向及びそのための光学配置が異なる。以下主として異なる点について説明する。説明が省略されている部分については上記実施形態1と同様である。
【0034】
図4は、本実施形態に係る波長ロックモジュール1の光学系を示す。本図で示すように、本モジュールにおいては、上記実施形態1に係るように、部分反射面31a、31bを有する二つの部分反射素子3a,3bと、この間に配置される位相板4を備えた中空のファブリペロー・エタロンと、このファブリペロー・エタロンの外側に設けられる無偏光型光路分離素子9、偏光型光路分離素子5、光量を電気信号に変換する光電変換素子6a,6b、を含んで構成される。上記実施形態1と同様、部分反射素子3a,3bは、部分反射面31a、31bが向かい合い、かつ正対して設置されている。
【0035】
また、本ロックモジュールでは、光を入射する側に無偏光型光路分離素子9が設けられており、この本エタロンから出射される光が無偏光型光路分離素子によって反射される先(側)に、偏光型光路分離素子5が設けられている点が上記実施形態1と大きく異なる。
【0036】
また、本モジュール1では上記と同様、制御装置7が光電変換素子6a、6bに接続され、所定の処理を行った後、信号として出力される。
【0037】
また、本モジュール1では、偏光型光路分離素子5の入射面に対する入射光8の偏光や波長板2の遅延軸は実施形態1と同様の関係とすることが好ましい。
【0038】
また位相板4は、上記実施形態1と同様、遅延軸に平行な偏光を1/8波長だけ遅延させるλ/8波長板となっていることが好ましい。
【0039】
本モジュール1では、入射光8を本エタロン2に入射させる前に一度無偏光型光路分離素子9に入射させる。そして、一方の部分反射素子3aの部分反射面で反射された光と、他方の部分反射素子2bの部分反射面で反射された光とが無偏光型光路分離素子9によって入射光軸から分離し、偏光型光路分離素子5によってx、y偏光成分に分岐された後に光電変換素子5a,5b上において干渉しエタロン透過波形を生じさせる。
【0040】
すなわち本実施形態では、光電変換素子5a,5bで得られる透過光の波長依存性は、実施形態1と同様に
図2に示すごとく相対的に半FSRだけずれることとなる。この信号の差と和の商は
図3のごとく0を横切る信号となるため、負帰還によるPID制御が可能となる。
【0041】
この配置ではエタロン反射光を用いるため、部分反射面の反射率によらず、干渉波形の暗部をゼロにすることが可能となる。そのため、4%程度の反射率を持つ無コート面等を部分反射面として用いることで、サインカーブに近似した誤差信号を得ることが可能になる。これにより、誤差信号の上昇/下降スロープのどちらの点で波長ロックしたとしても等間隔な波長ロックが可能となるため、2倍の長さのエタロンを用いたと同様の効果が得られる。
【0042】
(実施形態3)
本実施形態は、波長の変化量を検出する波長変化量検出器に関する実施形態である。本実施形態に係る波長変化量検出器(以下「本検出器」という。)1の配置図を
図5に示す。ただし、本検出器の構成はおおむね上記実施形態と同様の構造であり、以下主として異なる点について説明する。説明が省略されている部分については上記実施形態1と同様である。
【0043】
本実施形態では、一対の部分反射素子3a,3bは、部分反射面31a、31bが向かい合い、かつ正対して設置されている。そしてその間に配置される位相板4は、遅延軸に平行な偏光を1/16波長だけ遅延させるλ/16波長板となっている。
【0044】
また、本実施形態ではこのファブリペロー・エタロン2の外側には、光路分離素子9が設けられており、ファブリペロー・エタロン2から出射される光を分離する。なおこの光路分離素子9は無偏光型であってもよいが偏光型でもよい。また、この光路分離素子9から分離された光の一方は光電変換素子6cに入射され、他方はさらに他の光路分離素子5に入射され、それぞれ光電変換素子6a、6bに入射され電気信号に変換される。
【0045】
本実施形態において、光電変換素子6a、6bで得られる透過光の波長依存性は、
図6に示すごとく相対的にFSRの4分の1だけずれたエタロン干渉波形となる。6a出力の一つの極大点を与える波長をλ
0とし、そこからの周波数変化をΔνとすると、6a,6b及び7出力は以下の式であらわされる。
【0046】
4aの出力:X=2Acos(θ/2)^2 =A(1+cosθ)
4bの出力:Y=2Acos(θ/2-λ/8)^2
=A(1+cos(θ-λ/4))
=A(1+sinθ)
6cの出力:A
【0047】
このとき、θは、エタロンのフリンジ間隔をFSRとすると、θ=Δν/FSR×2πである。そして、これらの出力を以下のように計算することにより、±FSR/4の範囲でλ0からの周波数差を得ることができる。
【0048】
x=X-A=Acosθ
y=Y-A=Asinθ
arctan(y/x)=θ=Δν/FSR×2π
【0049】
入射レーザの周波数変化がFSRに対して十分に連続的である場合(一つの目安としてFSRの十分の一よりは細かい変化の場合)、±FSR/4を超えた範囲で周波数が変化したとしても、±FSR/4に加算・減算し周波数範囲を拡大して周波数変化を捉えることが可能である。
【0050】
実施形態2の配置では波長変化量をエタロンのフリンジ間隔(FSR)で周波数変化を定量的に得ることができるが、この配置ではFSRの1/100程度の分解能まで高確度に定量評価することが可能である。
【0051】
また、本実施形態の波長変化量は、基準となる光源と組み合わせることで波長計として使用することができる。具体的には、本波長変化量検出器と、既知の波長を出力する基準光源と、を組み合わせ、入射したレーザ光の波長を、基準光源の波長と波長変化量検出器の出力に基づいて算出することで波長計として機能させることができる。または、本実施形態に係る波長変化検出器と、1点以上の特定の波長について絶対波長を検知できる波長検知器と、を組み合わせ、入射されたレーザ光の波長を絶対波長と波長変化量検出器の出力に基づいて算出することで波長計として機能させることができる。
【実施例】
【0052】
ここで、上記実施形態に係るファブリペロー・エタロンに関し、実際に作製しその効果を確認した。なお、本実施例では上記実施形態2に記載の光学配置のものを作製した。
【0053】
図7に実施例の写真を示す。波長ロックのターゲットとなるレーザはスペクトラ・クエスト・ラボ社製λ-Master1040を用い、直線偏光出力を偏波面保存ファイバで波長ロッカーモジュール系へ導入した。
【0054】
部分反射素子としてThorlabs社製ビームサンプラBSF05-Bを用い、無コート面(反射率4%)を部分反射面としてエタロンを構成した。エタロン間の距離は低熱膨張材であるスーパーインバー線板棒を用いた鏡筒により規定した。エタロンの部分反射面間の距離は15cm程度であり、このときのFSRは1GHz(3.3pm)である。
【0055】
位相板2として1/8波長板を用い、1040nmゼロ次波長板を中国CRYSLASER社で特注し用いた。
【0056】
偏光無依存光路分岐光学素子としてThorlabs社製偏光無依存ハーフビームスプリッターキューブBS014を用いた。
【0057】
また、偏光型光路分岐光学素子としては、Thorlabs社製広帯域偏光ビームスプリッタキューブCCM5-PBS203を用いた。
【0058】
そして、Thorlabs社製フォトディテクタPDA100Aを用いて光量検知を行い、専用の回路等で誤差信号を算出し波長ロックのターゲットであるλ-Master1040の発振波長に対してフィードバック制御を行った。λ-Master1040はLD電流値の外部変調機能を有しており、誤差信号に適切なゲインを付加することで容易にフィードバック制御を行うことが可能である。
【0059】
図8に、x偏光の出力PDa、y偏光の出力PDbの1060nm近傍での値を示す。PDa,bの波長依存性は同じ周期で半山だけずれており、λ/8波長板によりFSRに有限の差異が生じていることがわかる。
【0060】
また、実際に(PDa-PDb)/(PDa+PDb)を計算して出力される誤差信号を
図9に示す。ゼロに対して正負に振れる誤差信号が得られており、これを用いてフィードバックによる波長ロックを行うことは容易である。また、4%反射面を部分反射面として用いたことで、サインカーブに類似した信号が得られ、アップ/ダウンスロープに係わらずゼロを横切る波長が等間隔に整列している。これにより、2倍の波長ピッチで等間隔な波長ロックが可能である。
【0061】
また、
図10、
図11に990nm~1080nmまでのPDa,bそれぞれの出力を示す。両者ほぼ同じ波長依存性を示しており、PDa,bそれぞれのゲイン調整等の必要なく、λ-Master1040の発振波長全域で波長ロックが可能である。エタロンのFSR3.3pmよりも大きな1nm程度の周期でみられる強度変動はビームスプリッタ等の干渉によるものであるが、PDa,bで全く同じ依存性を示すことから誤差信号の演算で相殺され波長ロックには何らの支障も与えない。
【0062】
また、
図12に、本波長ロッカーモジュールを用いて、1064nmに波長ロックした際の波長変化を示す。波長変化はBristol社製波長計A771(波長確度:60MHz)を用いて計測した。黒実線が波長ロック時のデータを、灰色実線が波長ロックなしのデータを示している。ロックなしでは外気温等の変化により出力波長がドリフトしているが、波長ロックにより波長計の精度の範囲内で安定した発振波長が得られている。
【0063】
以上、本実施例により、本発明の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ファブリペロー・エタロン及びこれを用いた波長ロッカーモジュールとして産業上の利用可能性がある。また、このファブリペロー・エタロンを用いる波長変化量検出器と、波長計としても産業上の利用可能性がある。