(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】殺菌剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/08 20060101AFI20230810BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
A01N59/08 A
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2022211128
(22)【出願日】2022-12-28
【審査請求日】2023-01-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】319016286
【氏名又は名称】オキシリンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003373
【氏名又は名称】弁理士法人石黒国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 昭紀
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-91658(JP,A)
【文献】特開2017-52656(JP,A)
【文献】火薬学会誌,1995年,Vol. 56, No. 2,pp. 59-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/08
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸カルシウムを含む殺菌剤の製造方法において、
次亜塩素酸カルシウムと、第2鉄イオンを供給する第2鉄イオン供給化合物と、塩化物イオン、ならびに、アルカリ金属イオン、および、カルシウムイオンを除くアルカリ土類金属イオンの中から選択された金属イオンを有し
、塩化物イオンを供給する塩化物イオン供給化合物とを含む水溶液を調整し、
この水溶液に、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの水酸化物を添加することを特徴とする殺菌剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の殺菌剤の製造方法において、
前記水酸化物は、水酸化カルシウムであることを特徴とする殺菌剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸カルシウムを含む殺菌剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、次亜塩素酸イオンの殺菌力を利用した殺菌剤が公知となっており、様々な分野に利用されている。そして、次亜塩素酸イオンを供給する次亜塩素酸塩の中でも、次亜塩素酸カルシウムを用いた殺菌剤は、取り扱いの容易さ、コスト優位性などの観点から、広く利用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、次亜塩素酸カルシウムを用いた殺菌剤に関し、第2鉄イオンを含ませることで、殺菌力を高めることができること、また、塩化物イオンを含ませることで第2鉄イオンが酸化鉄や水酸化鉄として沈殿するのを防止できることが開示されている。さらに、塩化物イオンを供給するための塩化物イオン供給化合物として塩化カルシウムを使用しないことで、殺菌力の低下を回避することも開示されている。
そして、これらの特徴により、特許文献1の殺菌剤によれば、動植物に対する安全性を下げることなく、殺菌力を高めることができる、と考えられている。
【0004】
ところで、次亜塩素酸カルシウムは、次亜塩素酸ナトリウム等の他の次亜塩素酸に比べると分解しにくく、長期間殺菌力が低下しないと考えられている。そして、特許文献1の殺菌剤も、3か月ほどの保存期間であれば、殺菌力が低下しておらず、十分、使用に耐えることができる。
しかし、長期保存に対する要求は高まる一方であり、例えば、1年以上もの長期間保存しても殺菌力が低下しないことが要求されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、次亜塩素酸カルシウムを含む殺菌剤の製造方法に関し、1年以上保存しても殺菌力が低下しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の殺菌剤の製造方法によれば、殺菌剤は、次亜塩素酸カルシウムを含む。また、本開示の殺菌剤の製造方法によれば、まず、次亜塩素酸カルシウム、ならび、以下のような第2鉄イオン供給化合物、および、塩化物イオン供給化合物を含む水溶液を調整する。ここで、第2鉄イオン供給化合物とは、殺菌剤に第2鉄イオンを供給するものである。また、塩化物イオン供給化合物とは、塩化物イオン、ならびに、アルカリ金属イオン、および、カルシウムイオンを除くアルカリ土類金属イオンの中から選択された金属イオンを有し、殺菌剤に塩化物イオンを供給するものである。
【0008】
そして、この水溶液に、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの水酸化物を添加する。
これにより、次亜塩素酸カルシウムを用いた殺菌剤に関し、1年以上保存しても殺菌力が低下しないようにする、という課題を潜在的に解決することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態について説明する。
実施形態の殺菌剤の製造方法によれば、まず、次亜塩素酸カルシウム、ならびに、以下に説明する第2鉄イオン供給化合物および塩化物イオン供給化合物を含む水溶液を調整する。ここで、第2鉄イオン供給化合物とは、殺菌剤に第2鉄イオンを供給するものである。また、塩化物イオン供給化合物とは、塩化物イオン、ならびに、アルカリ金属イオン、および、カルシウムイオンを除くアルカリ土類金属イオンの中から選択された金属イオンを有し、殺菌剤に塩化物イオンを供給するものである。そして、この水溶液に、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの水酸化物を添加する。
【0010】
以下、第2鉄イオン供給化合物、塩化物イオン供給化合物および水酸化物について、順次、説明する。
まず、第2鉄イオン供給化合物は、構成イオンとして第2鉄イオンを含む鉄塩であり、例えば、塩化第2鉄、ピロリン酸第2鉄、硝酸第2鉄等の鉄塩を挙げることができ、好ましくは、塩化第2鉄を挙げることができる。
【0011】
次亜塩素酸カルシウムを含む殺菌剤に、第2鉄イオンを含ませることにより殺菌力が強化する。この殺菌力強化の原理は明確ではないが、以下のように考えられる。すなわち、第2鉄イオンによる病原微生物等の有機汚染物質に対する凝集効果により、活性酸素やラジカル水酸基の発生が促進され、殺菌力を強化することができるものと考えられる。
【0012】
次亜塩素酸イオンに対する第2鉄イオンの存在量の範囲は、殺菌力が有効に強化されているか否か、および第2鉄イオンが殺菌剤中で安定して存在できるか否か、つまり、第2鉄イオンが酸化鉄や水酸化鉄等として沈殿せず殺菌力強化に対し有効に機能しているか否かに基づいて決められる。そして、この観点から、次亜塩素酸イオンの100重量部に対する第2鉄イオンの存在量は、0.001~5重量部が好ましい。
【0013】
また、塩化物イオン供給化合物は、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化マグネシウム等であり、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムである。
そして、第2鉄イオンを含む殺菌剤に塩化物イオンを含ませることで、第2鉄イオンの錯体化を促進し、第2鉄イオンが酸化鉄や水酸化鉄等として沈殿するのを抑制し、殺菌剤中に第2鉄イオンを安定的に存在させることができる。
【0014】
第2鉄イオンに対する塩化物イオンの存在量の範囲は、第2鉄イオンを安定的に存在させることができるか否かに基づいて決められる。そして、この観点から、第2鉄イオンの1重量部に対する塩化物イオンの存在量は、10~5000重量部が好ましい。
【0015】
さらに、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの水酸化物は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウム等であり、好ましくは、水酸化カルシウムである。
そして、次亜塩素酸カルシウム、第2鉄イオン供給化合物および塩化物イオン供給化合物を含む殺菌剤に水酸化物を含ませることで、1年以上もの長期間保存しても殺菌力が低下しないようにすることができる。
【0016】
ここで、水酸化物を含ませる目的は、pH調整ではなく、殺菌力の1年以上もの長期維持にある。
すなわち、次亜塩素酸カルシウム、第2鉄イオン供給化合物および塩化物イオン供給化合物を含む殺菌剤を調整したときに、pHが、例えば、9以上であっても、水酸化物を添加しない場合、1年以上殺菌力を維持することはできない。
【0017】
なお、本開示の殺菌剤を家畜の飲用水に添加して用いる等、動植物に使用する場合、動植物に対する安全性から、次亜塩素酸カルシウム、第2鉄イオン供給化合物、塩化物イオン供給化合物には、食品または食品添加物の少なくとも一方として認められたものを用いるのが好ましい。
同様に、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの水酸化物も、食品または食品添加物の少なくとも一方として認められたものを用いるのが好ましい。
以下、本開示の殺菌剤の製造方法を実施例および比較例に基づき説明する。
【実施例】
【0018】
〔実施例1〕
実施例1の殺菌剤の製造方法を説明する。
まず、塩化ナトリウム4.60g、塩化マグネシウムの6水和物0.98gを水20gに添加して溶解させ、その後、塩化第2鉄0.15gを添加して溶解させた。引き続き、この水溶液に高度さらし粉24.9gを添加するとともに、水を追加して全量250gとした。そして、この水溶液を振蕩して混和したのち放置熟成した。
つまり、実施例1によれば、塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウムは、塩化物イオン供給化合物として用い、塩化第2鉄は、塩化物イオン供給化合物かつ第2鉄イオン供給化合物として用いた。
【0019】
ここで、塩化ナトリウムには、株式会社高助製の「天日粉砕塩(細粒)」を採用し、塩化マグネシウムの6水和物には、赤穂化成株式会社製の「食品添加物 ソフトウエハー」を採用し、塩化第2鉄には、純正化学株式会社製の「塩化第二鉄」を採用し、高度さらし粉には、日本曹達株式会社製の「70%高度サラシ粉」を採用した。
【0020】
放置熟成後、上記の水溶液に水酸化カルシウム0.13gを添加して溶解させた(このようにして調整した水溶液を実施例1の殺菌剤とする。)。ここで、水酸化カルシウムには、秩父石灰工業株式会社製の「消石灰 SA149」を採用した。
そして、実施例1の殺菌剤の一部を採取して1000倍に希釈し、10分後にORP(酸化-還元電位)、pH、残留塩素濃度をそれぞれ測定した。ここで、ORPおよびpHの測定は、株式会社堀場製作所製のLAQUA F-73を用いて行った。また、残留塩素濃度の測定は、株式会社共立理化学研究所製のデジタルパックテスト・マルチSPを用いて行った。
【0021】
その後、実施例1の殺菌剤を保存容器に入れて密栓し、遮光して冷暗所にて保存した。そして、1年2ヶ月経過後、再度、調整直後と同様の方法でORP、pHおよび残留塩素濃度を測定した。
【0022】
なお、実施例1の殺菌剤では、次亜塩素酸イオンの100重量部に対する第2鉄イオンの存在量は、0.25重量部であり、第2鉄イオンの1重量部に対する塩化物イオンの存在量は、103重量部である。また、次亜塩素酸カルシウムから供給されたカルシウムイオンの100重量部に対する水酸化カルシウムから供給されたカルシウムイオンの存在量は、1.36重量部である。
【0023】
〔実施例2〕
実施例2の殺菌剤の製造方法を、実施例1と異なる点を中心に説明する。
実施例2の殺菌剤の製造方法では、水酸化カルシウム0.23gを添加して溶解させ、他の処方は実施例1と同様とした(このようにして調整した水溶液を実施例2の殺菌剤とする。)。
【0024】
そして、実施例2でも、実施例1と同様の方法で、調整直後、および、1年2ヶ月経過後、各々の時期に、ORP、pHおよび残留塩素濃度を測定した。
なお、実施例2の殺菌剤では、次亜塩素酸カルシウムから供給されたカルシウムイオンの100重量部に対する水酸化カルシウムから供給されたカルシウムイオンの存在量は、2.45重量部である。
【0025】
〔比較例〕
比較例の殺菌剤の製造方法を、実施例1と異なる点を中心に説明する。
比較例の殺菌剤の製造方法では、水酸化カルシウムを添加せず、他の処方は実施例1と同様とした(このようにして調整した水溶液を比較例の殺菌剤とする。)。
そして、比較例でも、実施例1と同様の方法で、調整直後、および、1年2ヶ月経過後、各々の時期に、ORP、pHおよび残留塩素濃度を測定した。
【0026】
〔実施例の効果〕
実施例1、2および比較例それぞれのORP、pHおよび残留塩素濃度の測定結果を、水酸化カルシウムの添加量と併せて表1に示す。
【表1】
【0027】
これによれば、実施例1、2の殺菌剤のORPおよびpHは、1年2ヶ月経過後も調整直後に比べて変動が小さいが、比較例の殺菌剤では、1年2ヶ月経過後、大幅に低下している。また、実施例1、2の殺菌剤の残留塩素濃度は、1年2ヶ月経過後、調整直後に比べて半減しているものの、比較例の殺菌剤では、1/20以下に低下している。
【0028】
このため、実施例1、2の殺菌剤は、1年2か月経過後も殺菌力を維持できていると考えられるが、比較例の殺菌剤は、1年2か月経過後では殺菌力を維持できていないと考えられる。
以上により、実施例1、2の殺菌剤の製造方法によれば、1年以上保存しても殺菌力が低下しないようにすることができる。
【要約】
【課題】次亜塩素酸カルシウムを含む殺菌剤の製造方法に関し、1年以上保存しても殺菌力が低下しないようにする。
【課題を解決するための手段】まず、次亜塩素酸カルシウム、ならびに、以下のような第2鉄イオン供給化合物、および、塩化物イオン供給化合物とを含む水溶液を調整する。ここで、第2鉄イオン供給化合物とは、殺菌剤に第2鉄イオンを供給するものである。また、塩化物イオン供給化合物とは、塩化物イオン、ならびに、アルカリ金属イオン、および、カルシウムイオンを除くアルカリ土類金属イオンの中から選択された金属イオンを有し、殺菌剤に塩化物イオンを供給するものである。そして、この水溶液に、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの水酸化物を添加する。
【選択図】なし