(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20230810BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/073 545
(21)【出願番号】P 2019201870
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046411(WO,A1)
【文献】特開2016-43357(JP,A)
【文献】特開2017-24054(JP,A)
【文献】特開2017-100179(JP,A)
【文献】国際公開第2011/004586(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接するアーク溶接制御方法において、
溶接を開始する際に、定常溶接期間に収束するまでの過渡溶接期間中は、前記送給速度の逆送ピーク値の絶対値及び正送ピーク値の絶対値を経時的に大きくする、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記過渡溶接期間を、溶接電流が通電を開始した時点から、所定期間又は前記短絡期間と前記アーク期間との所定周期が経過した時点までの期間とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記送給速度の平均値が、前記過渡溶接期間中と前記定常溶接期間中とで同一値になるように前記
逆送ピーク値及び前記正送ピーク値を設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接するアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換える正逆送給制御を行い、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接するアーク溶接方法が使用されている。このアーク溶接方法において、溶接開始時から定常溶接期間に収束するまでの過渡溶接期間中に、定常溶接期間と同一の正逆送給制御を行うと、溶接状態が不安定になるという問題があった。特許文献1の発明では、送給速度の波形パラメータを、過渡溶接期間中は定常溶接期間中とは異なる値に設定することによって、過渡溶接期間中の溶接状態を安定化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、過渡溶接期間と定常溶接期間とで送給速度の波形パラメータが異なる値に設定されているために、過渡溶接期間が終了して定常溶接期間に切り換わった直後に溶接状態が不安定になりやすいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、送給速度の正送期間と逆送期間とを交互に切り換える溶接において、過渡溶接期間から定常溶接期間に切り換わるときの溶接状態を安定化することができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接するアーク溶接制御方法において、
溶接を開始する際に、定常溶接期間に収束するまでの過渡溶接期間中は、前記送給速度の逆送ピーク値の絶対値及び正送ピーク値の絶対値を経時的に大きくする、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記過渡溶接期間を、溶接電流が通電を開始した時点から、所定期間又は前記短絡期間と前記アーク期間との所定周期が経過した時点までの期間とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記送給速度の平均値が、前記過渡溶接期間中と前記定常溶接期間中とで同一値になるように前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値を設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送給速度の正送期間と逆送期間とを交互に切り換える溶接において、過渡溶接期間から定常溶接期間に切り換わるときの溶接状態を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す、
図1の溶接電源における溶接開始時の各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の駆動信号Dvによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0015】
リアクトルWLは、上記の出力を平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば200μHである。
【0016】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0017】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。
【0018】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0019】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。この回路によって、溶接電源は定電圧制御される。
【0020】
ホットスタート電流設定回路IHRは、予め定めたホットスタート電流設定信号Ihrを出力する。電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0021】
電流誤差増幅回路EIは、上記のホットスタート電流設定信号Ihr及び上記の電流検出信号Idを入力として、ホットスタート電流設定信号Ihr(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この回路によって、ホットスタート電流が通電する期間(ホットスタート期間)中は溶接電源は定電流制御される。
【0022】
電流通電判別回路CDは、上記の電流検出信号Idを入力として、この値がしきい値(10A程度)以上のときは溶接電流Iwが通電していると判別してHighレベルとなる電流通電判別信号Cdを出力する。
【0023】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の電流通電判別信号Cdを入力として、電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化した時点から予め定めたホットスタート期間中は電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、それ以外の期間中は電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
【0024】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間であると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間であると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0025】
溶接開始回路STは、溶接を開始するときにHighレベルとなる溶接開始信号Stを出力する。この溶接開始回路STは、溶接トーチ4の起動スイッチ、溶接工程を制御する機器、ロボット制御装置等が該当する。
【0026】
駆動回路DVは、上記の誤差増幅信号Ea及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベル(溶接開始)のときは誤差増幅信号Eaに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0027】
過渡溶接期間タイマ回路STKは、上記の電流通電判別信号Cdを入力として、電流判別信号CdがHighレベル(通電)に変化した時点から、所定期間又は短絡期間とアーク期間との所定周期が経過した時点までの過渡溶接期間Tk中のみHighレベルとなる過渡溶接期間タイマ信号Stkを出力する。
【0028】
初期正送ピーク値設定回路WSIRは、予め定めた正の値の初期正送ピーク値設定信号Wsirを出力する。
【0029】
定常正送ピーク値設定回路WSCRは、予め定めた正の値の定常正送ピーク値設定信号Wscrを出力する。ここで、Wsir<Wscrである。
【0030】
初期逆送ピーク値設定回路WRIRは、予め定めた負の値の初期逆送ピーク値設定信号Wrirを出力する。
【0031】
定常逆送ピーク値設定回路WRCRは、予め定めた負の値の定常逆送ピーク値設定信号Wrcrを出力する。ここで、|Wrir|<|Wrcr|である。
【0032】
正送ピーク値設定回路WSRは、上記の過渡溶接期間タイマ信号Stk、上記の初期正送ピーク値設定信号Wsir及び上記の定常正送ピーク値設定信号Wscrを入力として、過渡溶接期間タイマ信号StkがHighレベルに変化した時点からLowレベルに変化するまでの過渡溶接期間Tk中に、初期正送ピーク値設定信号Wsirの値から定常正送ピーク値設定信号Wscrの値まで経時的に大きくなる正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0033】
逆送ピーク値設定回路WRRは、上記の過渡溶接期間タイマ信号Stk、上記の初期逆送ピーク値設定信号Wrir及び上記の定常逆送ピーク値設定信号Wrcrを入力として、過渡溶接期間タイマ信号StkがHighレベルに変化した時点からLowレベルに変化するまでの過渡溶接期間Tk中に、初期逆送ピーク値設定信号Wrirの絶対値から定常逆送ピーク値設定信号Wrcrの絶対値までその絶対値が経時的に大きくなる負の値の逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0034】
送給速度設定回路FRは、上記の溶接開始信号St、上記の電流通電判別信号Cd、上記の短絡判別信号Sd、上記の正送ピーク値設定信号Wsr及び上記の逆送ピーク値設定信号Wrrを入力として、以下の処理を行い、送給速度設定信号Frを出力する。
1)溶接開始信号StがHighレベル(溶接開始)に変化すると、0から予め定めたスローダウン速度に切り換えられた送給速度設定信号Frを出力する。Fr=0のときは溶接ワイヤ1の送給は停止している。
2)電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)であり、かつ、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)のときは逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる逆送ピーク値Wrpとなる送給速度設定信号Frを出力する。
3)電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)であり、かつ、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正送ピーク値Wspとなる送給速度設定信号Frを出力する。
【0035】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す、
図1の溶接電源における溶接開始時の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(E)は電流通電判別信号Cdの時間変化を示し、同図(F)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(G)は過渡溶接期間タイマ信号Stkの時間変化を示す。以下、同図を参照して溶接開始時における各信号の動作について説明する。
【0037】
同図(B)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側が正送期間となり、下側が逆送期間となる。正送とは溶接ワイヤ1を母材2に近づける方向に送給することであり、逆送とは母材2から離反する方向に送給することである。送給速度Fwは、台形波状に変化しており、正送側にシフトした波形となっている。このために、送給速度Fwの平均値は正の値となり、溶接ワイヤ1は平均的には正送されている。
【0038】
時刻t1において、溶接開始信号StがHighレベル(溶接開始)に変化すると、同図(B)に示すように、送給速度Fwは0から予め定めた正の値のスローダウン速度に変化し、溶接ワイヤ1は正送される。このスローダウン速度は、1m/min程度の小さな値に設定される。同時に、時刻t1において、溶接電源が起動されるので、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは最大出力電圧値の無負荷電圧値になる。
【0039】
時刻t2において、上記の正送によって溶接ワイヤ1が母材2と接触(短絡)すると、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、溶接電圧Vwの値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満になるので、同図(F)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化する。同時に、時刻t2において、同図(C)に示すように、予め定めたホットスタート電流値(200~500A程度)の溶接電流Iwが通電を開始し、同図(E)に示すように、電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化する。これに応動して、同図(G)に示すように、過渡溶接期間タイマ信号StkがHighレベルに変化し、後述するように時刻t6にLowレベルに戻る。この時刻t2~t6の期間が過渡溶接期間Tkとなる。上記のホットスタート電流は、時刻t2~t31の予め定めたホットスタート期間中通電する。
【0040】
上記の過渡溶接期間Tkは、
図1の過渡溶接期間タイマ回路STKによって、電流判別信号CdがHighレベル(通電)に変化した時点から、所定期間又は短絡期間とアーク期間との所定周期が経過した時点までの期間として設定される。例えば、所定期間は150msであり、所定周期は15周期である。ちなみに、短絡期間とアーク期間との1周期は、約10msである。同図においては、時刻t2~t6の過渡溶接期間Tk中に2周期が含まれる場合として描画しているが、実際には、例えば15周期が含まれる。過渡溶接期間Tkの終了時点を、短絡期間又はアーク期間の切り換わり時点と同期させても良い。このようにすると、短絡期間及びアーク期間の途中で送給速度Fwが変化することを抑制することができるので、溶接状態がより安定化する。
【0041】
[時刻t2~t6の過渡溶接期間Tk中の動作]
時刻t2において、同図(E)に示す電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)になり、かつ、同図(F)に示す短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)になるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは正送のスローダウン速度から傾斜を有して負の値の逆送ピーク値Wrpに変化する。逆送ピーク値Wrpは、
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって設定される。さらに、逆送ピーク値Wrpは、同図(G)に示す過渡溶接期間タイマ信号StkがHighレベルに変化した時刻t2からLowレベルに変化する時刻t6までの過渡溶接期間Tk中に、
図1の初期逆送ピーク値設定信号Wrirの絶対値から
図1の定常逆送ピーク値設定信号Wrcrの絶対値までその絶対値が経時的に大きくなるように変化する。同図(B)に示す送給速度Fwの0から逆送ピーク値Wrpまでの傾斜は、
図1の送給モータWMの過渡特性によって定まる。この傾斜を所望値に設定しても良い。傾斜期間は、1ms程度である。同図(C)に示すように、溶接電流Iwはホットスタート電流となっており、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値となっている。ホットスタート電流は、
図1のホットスタート電流設定信号Ihrによって設定される。
【0042】
時刻t3において、上記のホットスタート電流の通電によって、アーク3が発生すると、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増し、これに応動して、同図(F)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)に変化する。
【0043】
時刻t3において、同図(E)に示す電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)になり、かつ、同図(F)に示す短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)になるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは負の値の逆送ピーク値Wrpから傾斜を有して正の値の正送ピーク値Wspに変化する。正送ピーク値Wspは、
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって設定される。さらに、正送ピーク値Wspは、同図(G)に示す過渡溶接期間タイマ信号StkがHighレベルに変化した時刻t2からLowレベルに変化する時刻t6までの過渡溶接期間Tk中に、
図1の初期正送ピーク値設定信号Wsirの値から
図1の定常正送ピーク値設定信号Wscrの値までその値が経時的に大きくなるように変化する。同図(B)に示す送給速度Fwの逆送ピーク値Wrpから0までの傾斜及び0から正送ピーク値Wspまでの傾斜は、それぞれ
図1の送給モータWMの過渡特性によって定まる。各傾斜を所望値に設定しても良い。各傾斜期間は、1ms程度である。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t31までの予め定めたホットスタート期間まではホットスタート電流となり、その後はアーク電流となる。この溶接電流Iwの通電によって、溶接ワイヤ1の先端に溶滴が形成される。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となる。
【0044】
時刻t4において、溶接ワイヤ1の正送によって、溶接ワイヤ1と母材2とが短絡すると、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、これに応動して、同図(F)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベル(短絡)に変化する。
【0045】
時刻t4において、同図(E)に示す電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)になり、かつ、同図(F)に示す短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)になるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは正の値の正送ピーク値Wspから傾斜を有して負の値の逆送ピーク値Wrpに変化する。同図(B)に示す送給速度Fwの正送ピーク値Wspから0までの傾斜及び0から逆送ピーク値Wrpまでの傾斜は、それぞれ
図1の送給モータWMの過渡特性によって定まる。各傾斜を所望値に設定しても良い。各傾斜期間は、1ms程度である。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、次第に大きくなる短絡電流となる。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値となる。短絡期間中は、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwの通電によって溶滴が移行する。
【0046】
時刻t5において、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwの通電によって、アーク3が発生すると、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増し、これに応動して、同図(F)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)に変化する。
【0047】
時刻t5において、同図(E)に示す電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)になり、かつ、同図(F)に示す短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)になるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは負の値の逆送ピーク値Wrpから傾斜を有して正の値の正送ピーク値Wspに変化する。同図(B)に示す送給速度Fwの逆送ピーク値Wrpから0までの傾斜及び0から正送ピーク値Wspまでの傾斜は、それぞれ
図1の送給モータWMの過渡特性によって定まる。各傾斜を所望値に設定しても良い。各傾斜期間は、1ms程度である。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、アーク電流となる。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となる。アーク期間中は、溶接電流Iwの通電によって溶滴が形成される。
【0048】
[時刻t6以降の定常溶接期間中の動作]
時刻t6において、過渡溶接期間Tkが終了すると、同図(G)に示すように、過渡溶接期間タイマ信号StkはLowレベルに変化して、定常溶接期間に入る。時刻t6において、溶接ワイヤ1の正送によって、溶接ワイヤ1と母材2とが短絡すると、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、これに応動して、同図(F)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベル(短絡)に変化する。
【0049】
時刻t6において、同図(E)に示す電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)になり、かつ、同図(F)に示す短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)になるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは正の値の正送ピーク値Wspから傾斜を有して負の値の逆送ピーク値Wrpに変化する。定常溶接期間中の逆送ピーク値Wrpは、
図1の定常逆送ピーク値設定信号Wrcrによって設定される。同図(B)に示す送給速度Fwの正送ピーク値Wspから0までの傾斜及び0から逆送ピーク値Wrpまでの傾斜は、それぞれ
図1の送給モータWMの過渡特性によって定まる。各傾斜を所望値に設定しても良い。各傾斜期間は、1ms程度である。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、次第に大きくなる短絡電流となる。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値となる。短絡期間中は、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwの通電によって溶滴が移行する。
【0050】
時刻t7において、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwの通電によって、アーク3が発生すると、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増し、これに応動して、同図(F)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)に変化する。
【0051】
時刻t7において、同図(E)に示す電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)になり、かつ、同図(F)に示す短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)になるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは負の値の逆送ピーク値Wrpから傾斜を有して正の値の正送ピーク値Wspに変化する。定常溶接期間中の正送ピーク値Wspは、
図1の定常正送ピーク値設定信号Wscrによって設定される。同図(B)に示す送給速度Fwの逆送ピーク値Wrpから0までの傾斜及び0から正送ピーク値Wspまでの傾斜は、それぞれ
図1の送給モータWMの過渡特性によって定まる。各傾斜を所望値に設定しても良い。各傾斜期間は、1ms程度である。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、アーク電流となる。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となる。アーク期間中は、溶接電流Iwの通電によって溶滴が形成される。そして、時刻t8に再び短絡が発生する。
【0052】
これ以降は、時刻t6~t8の動作を繰り返すことになる。
【0053】
同図における数値例を以下に示す。
初期逆送ピーク値=-20m/min、初期正送ピーク値=40m/min
定常逆送ピーク値=-40m/min、定常正送ピーク値=70m/min
送給速度の各傾斜期間=1ms、逆送ピーク期間=2ms、正送ピーク期間=4ms
逆送期間=4ms、正送期間=6ms
短絡期間とアーク期間との1周期=逆送期間と正送期間との1周期=10ms
【0054】
上述した実施の形態1によれば、溶接を開始する際に、定常溶接期間に収束するまでの過渡溶接期間中は、送給速度の逆送ピーク値の絶対値及び正送ピーク値の絶対値を経時的に大きくする。これにより、逆走ピーク値及び正送ピーク値は、過渡溶接期間から定常溶接期間に切り換わるときに円滑に変化する。このために、本実施の形態では、送給速度の正送期間と逆送期間とを交互に切り換える溶接において、過渡溶接期間から定常溶接期間に切り換わるときの溶接状態を安定化することができる
【0055】
さらに、本実施の形態によれば、過渡溶接期間を、溶接電流が通電を開始した時点から、所定期間又は短絡期間とアーク期間との所定周期が経過した時点までの期間とする。所定期間及び所定周期を、溶接開始時のビード外観が定常溶接期間のビード外観とは異なっている期間に設定する。このようにすると、溶接開始時のビード外観が改善される。
【0056】
さらに、本実施の形態によれば、送給速度の平均値が、過渡溶接期間中と定常溶接期間中とで同一値になるように
逆送ピーク値及び正送ピーク値を設定する。
図2において、過渡溶接期間Tk中の送給速度Fwの平均値と、定常溶接期間中の送給速度Fwの平均値が同一値となるように、初期逆送/正送ピーク値及び定常逆送/正送ピーク値の各パラメータを設定する。このようにすると、溶接開始時点からの送給速度の平均値が一定になるので、ビード外観、溶け込み等の溶接品質がさらに向上する。上記の同一値には、±10%程度の差分があることも含んでいる。また、過渡溶接中の逆送期間と正送期間との周期ごとの平均値が一定になるようにすると、さらに好ましい。
【符号の説明】
【0057】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CD 電流通電判別回路
Cd 電流通電判別信号
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
IHR ホットスタート電流設定回路
Ihr ホットスタート電流設定信号
Iw 溶接電流
PM 電源主回路
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
ST 溶接開始回路
St 溶接開始信号
STK 過渡溶接期間タイマ回路
Stk 過渡溶接期間タイマ信号
SW 電源特性切換回路
Tk 過渡溶接期間
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ
WRCR 定常逆送ピーク値設定回路
Wrcr 定常逆送ピーク値設定信号
WRIR 初期逆送ピーク値設定回路
Wrir 初期逆送ピーク値設定信号
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
WSCR 定常正送ピーク値設定回路
Wscr 定常正送ピーク値設定信号
WSIR 初期正送ピーク値設定回路
Wsir 初期正送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号