(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】弁構造体及び建設機械
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20230810BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
F16K31/06 310Z
E02F9/22 Z
(21)【出願番号】P 2018132623
(22)【出願日】2018-07-12
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100130719
【氏名又は名称】村越 卓
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 仁
(72)【発明者】
【氏名】志垣 富雄
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭64-024410(JP,U)
【文献】特開平10-047521(JP,A)
【文献】特開2001-122105(JP,A)
【文献】特開2008-309237(JP,A)
【文献】特表2015-518595(JP,A)
【文献】特開平01-172688(JP,A)
【文献】特開平08-054081(JP,A)
【文献】米国特許第04901758(US,A)
【文献】国際公開第2017/038315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
E02F 9/22
G05D 16/00-16/20
F15B 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁部と、
前記弁部を駆動電流に応じて駆動する駆動部と、
前記駆動部によって支持され、前記駆動部に供給する前記駆動電流を制御する弁コントローラと、を備え、
前記弁コントローラは、密閉空間に配置され
、
前記駆動部は、前記駆動電流に応じて基準軸線上を移動する単一の可動部を含み、
前記弁コントローラは、前記基準軸線と平行な方向に関して、前記駆動部からずれた位置に設けられる、弁構造体。
【請求項2】
前記密閉空間は液密に設けられる請求項
1に記載の弁構造体。
【請求項3】
前記駆動部は、前記駆動電流が流される電磁石と、当該電磁石によってもたらされる磁力に応じて移動するプランジャーと、を含む請求項1
又は2に記載の弁構造体。
【請求項4】
前記弁部は、前記駆動部によって駆動されるスプールを含む請求項1~
3のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項5】
前記弁コントローラは、他のコントローラから入力される駆動信号に応じて、前記駆動部に前記駆動電流を供給する請求項1~
4のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項6】
前記弁コントローラは、センサから入力される検出信号に応じて、前記駆動部に前記駆動電流を供給する請求項1~
5のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項7】
前記弁コントローラは、前記駆動部を収容する弁ハウジングの径方向の幅の範囲内で、前記弁ハウジング内に収容される請求項1~
6のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の弁構造体を備える建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁構造体及び建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械は油圧アクチュエータを備え、油圧アクチュエータに供給する圧油(すなわち作動油)の流れを電気的に駆動される電磁弁等(以下「電気駆動弁」とも称する)によって調整することにより、油圧アクチュエータを動作させることができる。例えば特許文献1が開示する液圧駆動装置では、電磁比例制御弁の出力圧がパイロット圧として方向制御弁に与えられ、方向制御弁はこのパイロット圧に応じた流量の油を対応のアクチュエータに供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧アクチュエータを備える機械において、圧油の流れを電気駆動弁によって調整する場合、油圧アクチュエータの数に応じた数の電気駆動弁を設ける必要がある。特に建設機械では様々な油圧アクチュエータを駆動する必要があり、電気駆動弁の数も多くなる傾向がある。例えば、油圧ショベルにおいてブーム、アーム、バケット、旋回装置及び走行装置のそれぞれを油圧アクチュエータによって作動させる場合、5以上の電気駆動弁を設ける必要がある。
【0005】
特に建設機械の分野では、近年、油圧アクチュエータの制御方式として、油圧のみを使った制御方式から、油圧を使った制御(油圧制御)と電気駆動弁を使った制御(電気制御)とが組み合わされた制御方式に移行している。例えば、操作レバーの操作量に応じて油圧アクチュエータの駆動速度を変更する場合、従来はスプールの開度をチューニングする必要があったが、電気駆動弁を使う場合には駆動電流を調整すればよい。このように、油圧アクチュエータの制御において電気駆動弁の活用の要求は今後ますます高まることが予想される。
【0006】
電気駆動弁はコントローラによって制御され、コントローラが各電気駆動弁に駆動電流を供給することによって、各油圧アクチュエータを適切に作動させることができる。このコントローラは、通常は、機械の本体部の清浄環境下に設けられるマイコンによって構成され、多くの場合、1つのコントローラ(すなわち1つのマイコン)によって複数の電気駆動弁が統括的に駆動及び制御される。この場合、コントローラを設計する段階で、使用される電気駆動弁の数や種類を想定しておく必要がある。特に、電気駆動弁に駆動電流を供給する駆動回路(出力ポート)は電気駆動弁毎に設ける必要があるため、コントローラは、電気駆動弁の数に応じた数の駆動回路を具備することが求められる。
【0007】
その一方で、複数の電気駆動弁を統括的に駆動及び制御する従来型のコントローラは、追加の駆動回路(出力ポート)を後から設けることができず、電気駆動弁の数の増加に対して柔軟に対応することができない。すなわちコントローラの設計後に電気駆動弁の数を増やす必要がある場合(特に駆動回路の数が足りない場合)、既存のコントローラを、適切な数の駆動回路を具備する新たなコントローラに置き換えたり、新たなコントローラを既存のコントローラと併設したりする必要がある。新たなコントローラの設置は、多額のコストが必要になるとともに配線等の装置設計を見直す必要があるため、電気駆動弁の数を後から増やすことの障壁となっている。
【0008】
また、コントローラを持たない既存の機械に対し、電気駆動弁を追加的に搭載することの要望もある。しかしながら、上述のように新たなコントローラの設置には多大な労力及びコストを要することが、コントローラを持たない機械に対して電気駆動弁を新たに導入することを妨げている。
【0009】
また複数の電気駆動弁を統括的に駆動及び制御するコントローラは、電気駆動弁の数が増えるに従って構造が複雑化するとともにサイズも大きくなる傾向がある。そのため、電気駆動弁の数が増えるに従って、コントローラの構造が複雑になるとともに大型化し、コントローラ自体が高価になり、またコントローラの設置に伴う手間及びコストも増える。
【0010】
このように、1つのコントローラによって複数の電気駆動弁を統括的に駆動及び制御する機械は、電気駆動弁の数の変動に対する適応性に欠ける。特に建設機械の分野では、今後ますます電気駆動弁の活用の要求が高まることが予想されるため、様々な形態に対して柔軟に応用可能な弁構造体が望まれている。
【0011】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、様々な形態に応用可能な弁構造体及びそのような弁構造体に関連する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、弁部と、弁部を駆動電流に応じて駆動する駆動部と、駆動部に供給する駆動電流を制御する弁コントローラと、を備え、弁コントローラは駆動部によって支持されている弁構造体に関する。
【0013】
駆動部は、駆動電流に応じて基準軸線上を移動する可動部を含み、弁コントローラは、基準軸線と平行な方向に関して、駆動部からずれた位置に設けられてもよい。
【0014】
駆動部は、駆動電流に応じて基準軸線上を移動する可動部を含み、弁コントローラは、基準軸線と直角を成す放射方向に関して、駆動部からずれた位置に設けられてもよい。
【0015】
弁コントローラは、密閉空間に配置されてもよい。
【0016】
駆動部は、駆動電流が流される電磁石と、当該電磁石によってもたらされる磁力に応じて移動するプランジャーと、を含んでもよい。
【0017】
弁部は、駆動部によって駆動されるスプールを含んでもよい。
【0018】
弁コントローラは、他のコントローラから入力される駆動信号に応じて、駆動部に駆動電流を供給してもよい。
【0019】
弁コントローラは、センサから入力される検出信号に応じて、駆動部に駆動電流を供給してもよい。
【0020】
弁コントローラは、駆動部を収容する弁ハウジングの径方向の幅の範囲内で、弁ハウジング内に収容されてもよい。
【0021】
本発明の他の態様は、上記の弁構造体を備える建設機械に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、様々な形態に応用可能な弁構造体及びそのような弁構造体に関連する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、弁構造体の概略を示す側面図である。
【
図2】
図2は、弁コントローラの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、駆動部の典型例を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、ポジティブタイプの電磁比例弁の概略構成を示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、ポジティブタイプの電磁比例弁の概略構成を示す断面図である。
【
図4C】
図4Cは、ポジティブタイプの電磁比例弁の概略構成を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、ネガティブタイプの電磁比例弁の概略構成を示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、ネガティブタイプの電磁比例弁の概略構成を示す断面図である。
【
図5C】
図5Cは、ネガティブタイプの電磁比例弁の概略構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、油圧ショベルの典型的な構成例の概略を示す外観図である。
【
図9】
図9は、駆動部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0025】
図1は、弁構造体10の概略を示す側面図である。弁構造体10は、弁部15、駆動部16及び弁コントローラ17を備える電磁比例弁として構成されている。駆動部16は、弁部15を駆動電流に応じて駆動し、弁部15を動作させる。弁コントローラ17は、駆動部16に供給する駆動電流を制御し、弁部15の動作に応じた駆動電流を駆動部16に供給する。
【0026】
図1に示す弁構造体10は、弁ハウジング20及び基部21を有する。弁ハウジング20は、基準軸線Axに沿って延びるように設けられている。駆動部16及び弁コントローラ17は、基準軸線Axに沿って並んで配置された状態で、弁ハウジング20の内側に収容されている。すなわち弁コントローラ17は、基準軸線Axと平行な方向(以下、「軸方向」とも称する)Dxに関して、駆動部16からずれた位置に設けられている。このように弁コントローラ17は、駆動部16を収容する弁ハウジング20の、基準軸線Axと直角を成す放射方向(すなわち径方向)Drの幅の範囲内で、弁ハウジング20内に収容され、放射方向Drに関する弁構造体10の大型化を防ぐことができる。なお図示の弁構造体10では、基準軸線Ax上に、駆動部16の可動部(後述の
図3の符号「25」参照)が移動可能に設けられており、弁コントローラ17もその基準軸線Ax上に設けられている。
【0027】
基部21は、弁ハウジング20の一方の端部に対して固定的に接続され、放射方向Drに延びるように設けられており、他の部材に対して弁構造体10を取り付けるための接続部として働く。例えば、図示しない取り付け孔(図示省略)を基部21に形成し、ネジ、ボルト或いはビス等の締結具を当該取り付け孔に嵌合させてその締結具を基部21に対して固定することにより、弁構造体10を他の部材に取り付けることができる。
【0028】
本実施形態の弁コントローラ17は、駆動部16によって支持されている。
図1に示す弁構造体10では、駆動部16及び弁コントローラ17の各々が弁ハウジング20に取り付けられており、弁コントローラ17は弁ハウジング20を介して駆動部16により間接的に支持されている。なお弁コントローラ17は駆動部16によって直接的に支持されてもよく、例えば後述の端位置ストッパ33(
図3参照)によって弁コントローラ17が支持されてもよい。弁コントローラ17が駆動部16によって支持される構造を弁構造体10が採用することによって、駆動部16及び弁コントローラ17をユニット化することができる。このように本実施形態によれば、弁部15の駆動及び制御の両者に関わる要素を物理的に一体的に設けつつ、全体としてコンパクトに構成された弁構造体10を提供することができる。このような弁構造体10は、弁部15に作動に必要な駆動部16及び弁コントローラ17を既に具備しているため、取り扱い性及び適応性に優れており、後述のように様々な形態に対して柔軟に応用することが可能である。
【0029】
なお
図1に示す弁コントローラ17は、密閉空間Ssに配置されている。具体的には、液密に設けられた密閉空間Ssが弁ハウジング20内に形成され、その密閉空間Ssに弁コントローラ17が配置されている。これにより、圧油等の液体が密閉空間Ssに侵入することを防いで、弁コントローラ17の故障の誘発を効果的に回避できる。特に建設機械は厳しい環境下で使用されることが多いため、使用中に圧油以外の異物(例えば塵や泥等)が飛散して弁コントローラ17に影響を及ぼす懸念がある。これに関し、本実施形態のように弁コントローラ17を密閉空間Ssに配置することによって、そのような懸念を解消することができる。
【0030】
なお密閉空間Ssの密閉度は限定されず、実際の装置構成や使用環境を踏まえ、圧油等の異物により弁コントローラ17に不具合が生じることを有効に防げる程度の密閉度を、密閉空間Ssは有することが好ましい。したがって大気中に漂う水分や圧油成分が密閉空間Ssに進入することを防ぐ観点からは、密閉空間Ssは気密に設けられ、外気が密閉空間Ss内に進入することを防いでもよい。ただし実際には、温度調整等の観点から密閉空間Ssに外気が取り入れられることが好ましい場合もある。そのため密閉空間Ssの密閉度は、様々な要求を総合的に勘案して決められることが好ましい。
【0031】
なお駆動部16が配置される弁ハウジング20内の空間は、圧油等の油によって満たされていてもよい。その場合、駆動部16が配置される弁ハウジング20内の空間から外部に油が漏れ出すことを防ぐシール構造が設けられることが好ましい。
【0032】
次に、弁コントローラ17の典型例について説明する。
【0033】
図2は、弁コントローラ17の機能構成を示すブロック図である。弁コントローラ17の各機能ブロックは、任意のハードウエア及び/又はソフトウエアによって実現可能であり、例えば2以上の機能ブロックが単一のハードウエア/ソフトウエアによって実現されてもよい。また弁コントローラ17は、
図2に示す機能構成とは異なる機能構成を有していてもよい。例えば、入力部53は、CAN通信等の通信手段を介し、センサ73や他のコントローラ72との間で各種の情報を入出力してもよい。
【0034】
図2に示す弁コントローラ17は、処理部51、記憶部52、入力部53、駆動電流供給部54及び出力部55を含む。
【0035】
処理部51は、各種の情報に基づいて演算を行い、演算結果を出力する処理デバイスであり、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算回路により構成可能である。記憶部52は、各種のデータを記憶し、必要に応じてデータの書き込み及び読み出しが行われるメモリデバイスであり、例えばEEPROM等によって構成可能である。処理部51は、入力部53等を介して情報が入力され、必要に応じて記憶部52から情報を読み出し及び/又は記憶部52に情報を書き込み、駆動電流供給部54及び出力部55に情報を出力する。なお弁コントローラ17において取り扱われる「情報」は広義に解釈され、数値等の各種データ、他のデバイスに対する指示(コマンド)、及びその他の情報を含みうる概念である。
【0036】
入力部53は、弁コントローラ17の入力インタフェース部として機能し、処理部51に接続されるとともに各種の外部デバイスが接続される。入力部53は、接続された外部デバイスから入力される信号に応じて、入力された情報を処理部51に与える。入力部53に接続可能な外部デバイスは限定されないが、本実施形態では他のコントローラ72及び/又はセンサ73を入力部53に接続することが可能である。例えば、他のコントローラ72は、駆動部16に対する駆動電流の供給及びその駆動電流の大きさを指示する駆動信号を、入力部53に送信してもよい。後述の統合コントローラ(
図7の符号「18」参照)は、ここで言う「他のコントローラ72」に該当しうる。センサ73は、所定の情報を検出し、その検出結果を示す検出信号を入力部53に入力する。センサ73は、駆動部16に対する駆動電流の供給及びその駆動電流の大きさを決めるために必要とされる任意の情報を検出することが可能であり、例えば弁部15によって流れが調整される油路内の圧油の流量及び/又は圧力を検出してもよい。
【0037】
出力部55は、弁コントローラ17の出力インタフェース部として機能し、処理部51に接続されるとともに各種の外部デバイスが接続される。出力部55は、処理部51からの情報に応じ、各種情報を含む信号を外部デバイスに出力する。
図2に示す出力部55は、表示デバイス74に接続される情報出力部56と、警報デバイス75に接続される異常出力部57とを含む。情報出力部56は、処理部51に入力されたデータ及び/又は処理部51により導出されたデータを含む信号を、表示デバイス74に送信する。表示デバイス74は、情報出力部56からの信号に応じて各種情報を表示する。異常出力部57は、処理部51に入力されたデータ及び/又は処理部51により導出されたデータから異常が検知される場合に、検知された異常を示す出力信号を警報デバイス75に送信する。そのような異常を検知する処理は、処理部51で行われてもよいし、異常出力部57で行われてもよい。警報デバイス75は、異常出力部57からの信号に基づいて、異常を示す表示や音声等の警報を必要に応じて発する。
【0038】
駆動電流供給部54は、処理部51からの情報に応じて、駆動部16に駆動電流を供給する。処理部51は、入力部53を介して他のコントローラ72及び/又はセンサ73から入力されるデータに基づいて、弁部15を駆動するのに必要な駆動電流の大きさを直接的又は間接的に導出する。駆動電流供給部54は、処理部51のこの導出結果に応じて駆動部16に駆動電流を供給し、駆動部16には所望の大きさの駆動電流が加えられる。駆動電流は、駆動部16(特に可動部25)を駆動するためのエネルギーであり、駆動電流供給部54は、弁コントローラ17に接続される電源71からの電気を利用して、所望の駆動電流を駆動部16に供給する。
【0039】
このように弁コントローラ17は、他のコントローラ72から入力される駆動信号に応じて、駆動部16に駆動電流を供給することができる。また弁コントローラ17は、センサ73から入力される検出信号に応じて、駆動部16に駆動電流を供給することもできる。
【0040】
次に、駆動部16の典型例について説明する。
【0041】
図3は、駆動部16の典型例を示す断面図である。なお
図3には、いわゆるプッシュ型のソレノイドアクチュエータによって構成される駆動部16が示されているが、駆動部16の駆動方式及び構成は限定されない。したがって、例えばプル型の駆動方式を採用する駆動部16が、上述の弁構造体10において用いられてよい。
【0042】
駆動部16は、駆動電流に応じて基準軸線Ax上を移動する可動部25を含む。具体的には、駆動部16は、弁コントローラ17から供給される駆動電流が流される電磁石27と、当該電磁石27によってもたらされる磁力に応じて移動するプランジャー28とを含む。
【0043】
図3に示す可動部25は、プランジャー28と、プランジャー28の一方の端部(
図3の右側端部)に対して固定的に取り付けられるプッシュロッド30と、プランジャー28の他方の端部(
図3の左側端部)に対して固定的に取り付けられるばねストッパ32とを含む。ばねストッパ32、プランジャー28及びプッシュロッド30は、基準軸線Axに沿って並んで配置されており、電磁石27の磁力に応じて軸方向Dxへ一体的に移動可能に設けられている。
【0044】
電磁石27はソレノイドコイルによって構成され、
図3に示す駆動部16では、箱型の駆動ハウジング26の内側において、可動部25(特にプランジャー28及びプッシュロッド30)を囲むように電磁石27が配置されている。なお駆動ハウジング26は、弁ハウジング20の一部によって構成されてもよいし、弁ハウジング20とは別体に構成されてもよい。一体的に設けられるばねストッパ32、プランジャー28及びプッシュロッド30は、全体として駆動ハウジング26を貫通するように設けられているが、ばねストッパ32は駆動ハウジング26の外側に配置される。一方、プランジャー28及びプッシュロッド30は、部分的に駆動ハウジング26の内側に配置される。なお、ばねストッパ32に加え、後述の端位置ストッパ33及びばね29は、
図3において駆動ハウジング26の外側に配置されているが、弁ハウジング20(
図1参照)の内側に位置している。
【0045】
駆動ハウジング26にはプランジャーストッパ31が取り付けられている。プランジャーストッパ31は、駆動ハウジング26の内側に向かって軸方向Dx(特に逆軸方向Dx2)に延びるように設けられており、基準軸線Axに沿って延びる貫通孔が形成されている。プッシュロッド30は、この貫通孔に配置されてプランジャーストッパ31を貫通し、プランジャーストッパ31によって阻害されることなく、軸方向Dxに往復移動自在に設けられている。プランジャーストッパ31のうちプランジャー28側の端部(
図3の左側端部)は、プランジャー28の形状に対応する形状を有する。
図3に示す駆動部16では、プランジャー28のうちプランジャーストッパ31側の端部(
図3の右側端部)はテーパー形状を有し、プランジャーストッパ31のうちプランジャー28側の端部(
図3の左側端部)には、テーパー面を有する凹部が形成されている。そして、プランジャーストッパ31の当該凹部にプランジャー28が係合することで、プランジャー28の軸方向Dx(特に順軸方向Dx1)への移動が制限される。このようにプランジャーストッパ31は、プッシュロッド30を案内する部材として働くとともに、プランジャー28(すなわち可動部25)の移動を制限する部材として働く。
【0046】
ばねストッパ32と駆動ハウジング26との間には、圧縮状態のばね29が配置されている。ばね29は、ばねストッパ32と駆動ハウジング26との間の間隔(特に軸方向Dxの間隔)を広げるように、ばねストッパ32及び駆動ハウジング26に弾性力を付与する。
【0047】
弁コントローラ17によって電磁石27に駆動電流が流されると、プランジャー28は駆動ハウジング26内に引き込まれる。すなわちプランジャー28は、磁力により電磁石27に吸い寄せられ、軸方向Dx(特に順軸方向Dx1)へ移動する。この際、ばね29は、ばねストッパ32と駆動ハウジング26との間で圧縮され、ばね29からばねストッパ32及び駆動ハウジング26に付与される弾性力は増大する。したがって可動部25(すなわちばねストッパ32、プランジャー28及びプッシュロッド30)は、プランジャー28とプランジャーストッパ31とが接触していない状態では、ばね29によって加えられる弾性力と、電磁石27によって加えられる磁力とが釣り合う位置に配置される。そのため、電磁石27に駆動電流が供給されない場合、プランジャー28には磁力が加えられず、可動部25はばね29の弾性力を受けて
図3において相対的に左側に配置され、駆動ハウジング26からのプッシュロッド30の突出量は相対的に小さくなる。一方、電磁石27に駆動電流が加えられる場合、プランジャー28には磁力が加えられ、可動部25は
図3において相対的に右側に配置され、駆動ハウジング26からのプッシュロッド30の突出量は相対的に大きくなる。
【0048】
なお、ばねストッパ32を介してばね29とは反対側には、端位置ストッパ33が固定的に設けられている。例えば弁ハウジング20によって端位置ストッパ33が固定的に支持されていてもよい。ばねストッパ32が端位置ストッパ33と接触することによってばねストッパ32の移動(すなわち逆軸方向Dx2への移動)が制限される一方で、プランジャー28がプランジャーストッパ31と接触することによってプランジャー28の移動(すなわち順軸方向Dx1への移動)が制限される。したがって、端位置ストッパ33の位置に応じて、駆動ハウジング26からのプッシュロッド30の最小突出量が決められ、またプランジャーストッパ31の位置に応じて、駆動ハウジング26からのプッシュロッド30の最大突出量が決められる。
【0049】
また、駆動部16(特に
図3に示す電磁石27)と弁コントローラ17との間には断熱体(図示省略)が設けられることが好ましく、例えば弁ハウジング20によってそのような断熱体が固定的に支持されてもよい。この場合、弁コントローラ17で発せられた熱が駆動部16に伝わるのを防ぐことができ、また駆動部16で発せられた熱が弁コントローラ17に伝わるのを防ぐことができる。
【0050】
次に、弁部15の典型例について説明する。
【0051】
以下では、油圧アクチュエータに対して所望圧の圧油を供給するための電磁比例弁によって弁部15が構成される場合について例示するが、弁部15を構成する弁の構成及び機能は限定されない。
【0052】
駆動電流(すなわち励磁電流)に応じて圧油の供給圧を制御できる電磁比例弁は、油圧アクチュエータ等の油圧機器に接続され、所望圧の圧油を当該油圧機器に供給する。なお、ここで言う圧油は、必ずしも鉱物油等の油には限定されず、エネルギー伝達媒体として使用可能な流体(特に液体)全般を含みうる概念である。一般に、電磁比例弁の種類には、ポジティブタイプの電磁比例弁と、ネガティブタイプの電磁比例弁とが存在する。駆動電流が増大するに従って、出力される圧油の圧力(すなわち油圧)が増大する電磁比例弁はポジティブタイプの電磁比例弁に分類され、出力される圧油の圧力が低下する電磁比例弁はネガティブタイプの電磁比例弁に分類される。
【0053】
上述の弁部15としては、ポジティブタイプの電磁比例弁及びネガティブタイプの電磁比例弁のいずれも採用可能である。以下に例示する弁部15はスプール式の電磁比例弁によって構成され、駆動部16によって駆動されるスプールが設けられている。まずポジティブタイプの弁部15について説明し、その後、ネガティブタイプの弁部15について説明する。
【0054】
[ポジティブタイプの弁部]
図4A~
図4Cは、ポジティブタイプの弁部15の概略構成を示す断面図である。
図4Aは、駆動部16に対して駆動電流が流されていない非励磁状態を示す。
図4Bは、駆動部16に対して比較的小さな駆動電流が流され、スプール本体112が中立位置に配置されている状態を示す。
図4Cは、駆動部16に対して比較的大きな駆動電流が流されている状態を示す。
【0055】
図4A~
図4Cに示す弁部15は、弁本体111、スプール本体112及び押付部114を備える。弁本体111は、軸方向Dxに延在する弁孔121と、当該弁孔121に開口する入口ポート131、出口ポート132、ドレーンポート133及び出力ポート134と、を有する。入口ポート131は圧油を供給する油圧源Pに連通し、出口ポート132は圧油が排出される排液部Tに連通する。ドレーンポート133は、圧油が排出されるドレーン部に連通する。
図4A~
図4Cに示す弁部15では排液部Tがドレーン部として働き、出口ポート132及びドレーンポート133は、共通の排液部T(すなわちドレーン部)に連通する。出力ポート134は、圧油の供給対象である油圧アクチュエータAに連通する。油圧アクチュエータAの具体的構成は限定されず、典型的には油圧シリンダや油圧モータによって油圧アクチュエータAが構成される。
【0056】
弁孔121は、軸方向Dxと直角な放射方向Drに関して第1の径H1を有する大径孔部122と、放射方向Drに関して第1の径H1よりも小さな第2の径H2を有する小径孔部123と、を含む。大径孔部122は、小径孔部123と隣り合って設けられており、小径孔部123よりも順軸方向Dx1側に配置される。大径孔部122にはスプール本体112の一端側が配置され、小径孔部123にはスプール本体112の他端側が配置される。
図4A~
図4Cには、明確には示されていないが、大径孔部122及び小径孔部123の各々は閉じられた空間を形成し、油圧源Pから供給される圧油によって満たされる。なお大径孔部122は、出力ポート134を介して油圧アクチュエータAに連通する。
【0057】
大径孔部122のうち小径スプール部146、大径スプール部147及び弁本体111によって囲まれる空間であるドレーン空間124は、スプール本体112の軸方向Dxの位置に応じて容積が変わるが、スプール本体112の軸方向Dxの位置によらずドレーンポート133に連通する。そのため、スプール本体112の軸方向Dxの位置によらず、ドレーン空間124内の圧油はドレーンポート133を介して排液部Tに流出し、弁本体111及びスプール本体112はドレーン空間124内の圧油から圧力を受けない。
【0058】
スプール本体112は、弁孔121において軸方向Dxへ移動可能に配置されている。スプール本体112の一端側は大径孔部122に配置され、スプール本体112の他端側は小径孔部123に配置される。大径孔部122に配置されるスプール本体112の一端側には、大径孔部122の径に対応する外径を有する大径スプール部147が設けられている。小径孔部123に配置されるスプール本体112の他端側には、小径孔部123の径に対応する外径を有する小径スプール部146が設けられている。
【0059】
大径スプール部147は、スプール本体112の軸方向Dxへの移動を許容する程度に、弁本体111の内壁面(特に大径孔部122を形成する内壁面)に密着している。また小径スプール部146は、スプール本体112の軸方向Dxへの移動を許容する程度に、弁本体111の内壁面(特に小径孔部123を形成する内壁面)に密着している。ただし弁孔121内の圧油は、基本的に、大径スプール部147と弁本体111との間及び小径スプール部146と弁本体111との間を通過しない。
【0060】
スプール本体112は、軸方向Dxに延在するスプール孔141と、スプール孔141に開口する連絡孔142、出口孔143、入口孔144及び制御孔145と、を有する。本実施形態では、連絡孔142及び制御孔145が、それぞれスプール本体112の両端部に形成され、出口孔143及び入口孔144が、スプール本体112のうちの連絡孔142と制御孔145との間の部分に形成されている。
【0061】
連絡孔142、出口孔143及び入口孔144は、放射方向Drに開口している。特に、連絡孔142は、小径孔部123に開口し、スプール本体112の軸方向Dxの位置によらず、小径孔部123とスプール孔141とを相互に連通させる。またスプール本体112の軸方向Dxの位置に応じて、出口孔143は出口ポート132又は弁本体111の内壁面(特に大径孔部122を形成する内壁面)に向かって開口し、入口孔144は入口ポート131又は弁本体111の内壁面(特に大径孔部122を形成する内壁面)に向かって開口する。
【0062】
一方、制御孔145は、軸方向Dx(
図4A~
図4Cでは順軸方向Dx1)に開口し、弁孔121(特に大径孔部122)を介して出力ポート134に連通する。出力ポート134を介して油圧アクチュエータAに接続される大径孔部122は、連絡孔142及び制御孔145のうちの一方(
図4A~
図4Cでは「制御孔145」)を介し、スプール孔141に連通する。また小径孔部123は、連絡孔142及び制御孔145のうちの他方(
図4A~
図4Cでは「連絡孔142」)を介してスプール孔141に連通する。したがって弁孔121における大径孔部122と小径孔部123とは、スプール孔141、連絡孔142及び制御孔145を介して相互に連通し、大径孔部122内の圧油の圧力、小径孔部123内の圧油の圧力、及び弁孔121内の圧油の圧力は相互に等しい。
【0063】
駆動部16の可動部25(特にプッシュロッド30)は、順軸方向Dx1へスプール本体112を押圧し、弁コントローラ17によって印加される駆動電流に応じてスプール本体112に対する押圧力が可変である。
【0064】
押付部114は、逆軸方向Dx2へスプール本体112(本実施形態では大径スプール部147)を押し付ける。スプール本体112の軸方向Dxの位置に応じて押付部114からスプール本体112に加えられる力は変動し、スプール本体112が順軸方向Dx1側に配置される程、押付部114からスプール本体112に加えられる力は大きくなる。
【0065】
上述の構成を有するポジティブタイプの弁部15では、スプール本体112の両端部間に受圧面積差が設けられており、この受圧面積差に起因する油圧力、駆動部16の推進力及び押付部114の押付力を相互にバランスさせることによって、所望圧の圧油を制御孔145から油圧アクチュエータAに向かって送り出すことができる。すなわち、弁孔121及びスプール孔141に充填された圧油から順軸方向Dx1に力を受けるスプール本体112の表面積は、当該圧油から逆軸方向Dx2に力を受けるスプール本体112の表面積と異なっている。具体的には、圧油から逆軸方向Dx2に力を受けるスプール本体112の表面積の方が、圧油から順軸方向Dx1に力を受けるスプール本体112の表面積よりも大きい。
【0066】
そのため、スプール本体112に対して圧油が順軸方向Dx1に及ぼす力F1は、スプール本体112に対して圧油が逆軸方向Dx2に及ぼす力F2と異なっており、
図4A~
図4Cに示す弁部15では「F1<F2」の関係が成立する。したがってスプール本体112は、弁孔121及びスプール孔141に充填された圧油から逆軸方向Dx2に力を受ける。具体的には「F0=F2-F1」によって導き出される力F0が、圧油からスプール本体112に対して逆軸方向Dx2へ作用する。
【0067】
スプール本体112は、更に駆動部16のプッシュロッド30及び押付部114からも力を受ける。弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力を「Ph」で表し、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油から順軸方向Dx1に力を受けるスプール本体112の表面積S1と当該圧油から逆軸方向Dx2に力を受けるスプール本体112の表面積S2との差を「Up(=S2-S1)」で表し、駆動部16が順軸方向Dx1へスプール本体112に付与する力を「Fd」で表し、押付部114が逆軸方向Dx2へスプール本体112に付与する力を「Fsp」で表した場合、以下の関係式1が成立する。
【0068】
[関係式1] Fd=Ph×Up+Fsp
【0069】
実際の弁部15では、上記の「Up」は基本的に固定値に設定される。また上記「Fsp」は、スプール本体112の軸方向Dxの位置に応じてスプール孔141及び弁孔121に対する圧油の供給及び排出が行われる本実施形態の弁部15では、ある範囲内の値をとる。そのため、上記関係式1からも明らかなように、駆動部16からスプール本体112に付与される力「Fd」の増大に伴って、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力「Ph」も増大する。したがって、駆動部16に印加する駆動電流値を弁コントローラ17が制御し、駆動部16がスプール本体112に付与する力(Fd)を調整することによって、所望の圧力を有する圧油を、制御孔145から大径孔部122及び出力ポート134を介して油圧アクチュエータAに送り出すことができる。
【0070】
次に、上述のポジティブタイプの弁部15における挙動について説明する。
【0071】
駆動部16に電流が印加されない場合又は駆動部16に第1の駆動電流が印加される場合には、スプール本体112は
図4Aに示す第1の位置に配置される。この場合、スプール孔141は出口孔143を介して出口ポート132に連通し、スプール孔141内の圧油及び弁孔121内の圧油の圧力は低下する。
【0072】
また第1の駆動電流よりも大きな第2の電流が駆動部16に印加される場合、スプール本体112は、駆動部16のプッシュロッド30により順軸方向Dx1へ押され、
図4Cに示す第2の位置に配置される。この場合、スプール孔141は入口孔144を介して入口ポート131に連通し、油圧源Pからの圧油がスプール孔141に供給されるため、スプール孔141内の圧油及び弁孔121内の圧油の圧力は増大する。このように本実施形態の弁部15では、第1の位置に配置されたスプール本体112(
図4A参照)が、第2の位置に配置されたスプール本体112(
図4C参照)よりも、逆軸方向Dx2側に位置する。
【0073】
また第1の駆動電流よりも大きく且つ第2の電流よりも小さい第3の電流が駆動部16に印加される場合、スプール本体112は、
図4Bに示す第3の位置(すなわち中立位置)に配置される。この場合、出口孔143は出口ポート132と連通せず且つ入口孔144は入口ポート131と連通しない。これにより、スプール孔141が入口ポート131及び出口ポート132の両者から遮断され、スプール孔141内の圧油及び弁孔121内の圧油の圧力は、基本的に低下も増大もせずに維持される。
【0074】
このようにポジティブタイプの弁部15では、駆動部16に印加する駆動電流が小さくプッシュロッド30の推力がゼロ(0)又は弱い場合には、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油が排液部Tに排出される量が増え、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力は低下する。一方、駆動部16に印加する駆動電流が大きくプッシュロッド30の推力が強い場合には、油圧源Pから弁孔121内及びスプール孔141内に供給される圧油の量が増え、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力は上昇する。そして、駆動部16に印加する駆動電流が中間的な範囲にありスプール本体112が
図4Bに示す中立位置に配置される場合には、弁孔121及びスプール孔141と油圧源P及び排液部Tとの間の流路は遮断され、弁孔121内及びスプール孔141内に対する圧油の供給及び排出は停止する。
【0075】
上述の挙動を示すポジティブタイプの弁部15は、以下のメカニズムに従って、所望圧の圧油を制御孔145から送り出す。
【0076】
すなわち弁コントローラ17(特に駆動電流供給部54)によって、圧油の所望圧に応じて予め定められた値の駆動電流が駆動部16に印加される。これにより、駆動部16のプッシュロッド30はスプール本体112を順軸方向Dx1へ移動させて第2の位置(
図4C参照)に配置し、出口孔143と出口ポート132との間が遮断されるとともに入口孔144を入口ポート131に連通させる。そのため、油圧源Pからの圧油がスプール孔141及び弁孔121に供給され、スプール孔141内及び弁孔121内の圧油は圧力が上昇する。
【0077】
そして、駆動部16に印加される駆動電流の大きさが維持された状態でスプール孔141内及び弁孔121内の圧油の圧力が所望圧よりも大きくなると、スプール本体112が逆軸方向Dx2へ移動して第1の位置(
図4A参照)に配置される。これにより、入口孔144と入口ポート131との間が遮断されるとともに出口孔143が出口ポート132に連通し、スプール孔141内及び弁孔121内の圧油は圧力が低下する。
【0078】
そして、駆動部16に印加される駆動電流の大きさが維持された状態でスプール孔141内及び弁孔121内の圧油の圧力が所望圧よりも小さくなると、スプール本体112が順軸方向Dx1へ移動して、再び第2の位置(
図4C参照)に配置される。これにより、出口孔143と出口ポート132との間が遮断されるとともに入口孔144が入口ポート131に連通し、スプール孔141内の圧油の圧力は再び上昇する。
【0079】
このように、圧油の所望圧に応じて予め定められた値の駆動電流が駆動部16に対して継続的に印加された状態で、スプール本体112が第2の位置(
図4C参照)と第1の位置(
図4A参照)との間での移動を繰り返し行うことで、スプール孔141に対する圧油の供給及び排出が繰り返し行われる。これにより、スプール孔141内及び弁孔121内の圧油の圧力が所望圧に保たれ、所望圧の圧油が制御孔145から流出して油圧アクチュエータAに供給される。
【0080】
[ネガティブタイプの電磁比例弁]
以下に説明するネガティブタイプの弁部15において、上述のポジティブタイプの弁部15(
図4A~
図4C参照)と同一又は同様の構成には同一の符合を付し、その詳細な説明は省略する。
【0081】
図5A~
図5Cは、ネガティブタイプの弁部15の概略構成を示す断面図である。
図5Aは駆動部16に対して駆動電流が流されていない非励磁状態を示し、
図5Bはスプール本体112が中立位置に配置されている状態を示し、
図5Cは駆動部16に対して比較的大きな駆動電流が流されている状態を示す。
【0082】
本実施形態の弁孔121の小径孔部123は、大径孔部122と隣り合って設けられており、大径孔部122よりも順軸方向Dx1側に配置される。
図5A~
図5Cには、明確には示されていないが、大径孔部122及び小径孔部123の各々は閉じられた空間を形成し、油圧源Pから供給される圧油によって満たされる。なお小径孔部123は、出力ポート134を介して油圧アクチュエータAに連通する。
【0083】
スプール本体112の一端側は大径孔部122に配置され、スプール本体112の他端側は小径孔部123に配置される。大径孔部122に配置されるスプール本体112の一端側には、大径孔部122の径に対応する外径を有する大径スプール部147が設けられている。小径孔部123に配置されるスプール本体112の他端側には、小径孔部123の径に対応する外径を有する小径スプール部146が設けられている。
【0084】
スプール本体112の一端側及び他端側のうちの一方において制御孔145が形成され、他方において連絡孔142が形成されている。また、スプール本体112の小径スプール部146に、出口孔143及び入口孔144が形成されている。
【0085】
連絡孔142は、大径孔部122に開口し、スプール本体112の軸方向Dxの位置によらず、大径孔部122とスプール孔141とを相互に連通させる。またスプール本体112の軸方向Dxの位置に応じて、出口孔143は出口ポート132又は弁本体111の内壁面(特に小径孔部123を形成する内壁面)に向かって開口し、入口孔144は入口ポート131又は弁本体111の内壁面(特に小径孔部123を形成する内壁面)に向かって開口する。
【0086】
制御孔145は、順軸方向Dx1に開口し、弁孔121(特に小径孔部123)を介して出力ポート134に連通する。このように、出力ポート134を介して油圧アクチュエータAに接続される小径孔部123は、連絡孔142及び制御孔145のうちの一方(
図5A~
図5Cでは「制御孔145」)を介し、スプール孔141に連通する。また大径孔部122は、連絡孔142及び制御孔145のうちの他方(
図5A~
図5Cでは「連絡孔142」)を介してスプール孔141に連通する。したがって大径孔部122と小径孔部123とは、スプール孔141、連絡孔142及び制御孔145を介して相互に連通し、大径孔部122内の圧油の圧力、小径孔部123内の圧油の圧力、及びスプール孔141内の圧油の圧力が相互に等しくなる。
【0087】
駆動部16の可動部25(特にプッシュロッド30)は、順軸方向Dx1へスプール本体112を押圧し、駆動電流に応じてスプール本体112に対する押圧力が可変である。押付部114は、逆軸方向Dx2へスプール本体112(本実施形態では小径スプール部146)を押し付ける。
【0088】
上述のネガティブタイプの弁部15においても、スプール本体112の両端部間に受圧面積差が設けられており、この受圧面積差に起因する油圧力、駆動部16の推進力及び押付部114の押付力を相互にバランスさせることによって、所望圧の圧油を制御孔145から油圧アクチュエータAに向かって送り出すことができる。
【0089】
すなわち、弁孔121及びスプール孔141に充填された圧油から順軸方向Dx1に力を受けるスプール本体112の表面積は、当該圧油から逆軸方向Dx2に力を受けるスプール本体112の表面積と異なっている。具体的には、圧油から順軸方向Dx1に力を受けるスプール本体112の表面積の方が、圧油から逆軸方向Dx2に力を受けるスプール本体112の表面積よりも大きい。
【0090】
そのため、スプール本体112に対して圧油が順軸方向Dx1に及ぼす力F1は、スプール本体112に対して圧油が逆軸方向Dx2に及ぼす力F2と異なっており、
図5A~
図5Cに示す弁部15では「F1>F2」の関係が成立する。したがってスプール本体112は、弁孔121及びスプール孔141に充填された圧油から順軸方向Dx1に力を受ける。具体的には「F0=F1-F2」によって導き出される力F0が、圧油からスプール本体112に対して順軸方向Dx1へ作用する。
【0091】
弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力を「Ph」で表し、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油から順軸方向Dx1に力を受けるスプール本体112の表面積S1と当該圧油から逆軸方向Dx2に力を受けるスプール本体112の表面積S2との差を「Un(=S1-S2)」で表し、駆動部16が順軸方向Dx1にスプール本体112に付与する力を「Fd」で表し、押付部114が逆軸方向Dx2にスプール本体112に付与する力を「Fsp」で表した場合、以下の関係式2が成立する。
【0092】
[関係式2] Fd=Fsp-Ph×Un
【0093】
実際の弁部15では、上記の「Un」は基本的に固定値に設定される。また上記「Fsp」は、スプール本体112の軸方向Dxの位置に応じてスプール孔141及び弁孔121に対する圧油の供給及び排出が行われる本実施形態の弁部15では、ある範囲内の値をとる。そのため、上記関係式2からも明らかなように、駆動部16からスプール本体112に付与される力「Fd」の増大に伴って、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力「Ph」は低減する。したがって、駆動部16に印加する駆動電流値を弁コントローラ17によって制御し、駆動部16がスプール本体112に付与する力(Fd)を調整することによって、所望の圧力を有する圧油を、制御孔145から小径孔部123及び出力ポート134を介して油圧アクチュエータAに送り出すことができる。
【0094】
次に、上述のネガティブタイプの弁部15における挙動について説明する。
【0095】
駆動部16に電流が印加されない場合又は駆動部16に第1の駆動電流が印加される場合には、スプール本体112は
図5Aに示す第1の位置に配置される。この場合、スプール孔141は入口孔144を介して入口ポート131に連通し、スプール孔141内の圧油及び弁孔121内の圧油の圧力は増大する。
【0096】
また第1の駆動電流よりも大きな第2の電流が駆動部16に印加される場合、スプール本体112は、駆動部16のプッシュロッド30により順軸方向Dx1へ押され、
図5Cに示す第2の位置に配置される。この場合、スプール孔141は出口孔143を介して出口ポート132に連通し、スプール孔141内の圧油及び弁孔121内の圧油の圧力は低下する。なお本実施形態の弁部15では、第1の位置に配置されたスプール本体112(
図5A参照)が、第2の位置に配置されたスプール本体112(
図5C参照)よりも、逆軸方向Dx2側に位置する。
【0097】
また第1の駆動電流よりも大きく且つ第2の電流よりも小さい第3の電流が駆動部16に印加される場合、スプール本体112は、
図5Bに示す第3の位置に配置される。この場合、出口孔143は出口ポート132と連通せず且つ入口孔144は入口ポート131と連通せず、スプール孔141内の圧油及び弁孔121内の圧油の圧力は、基本的に低下も増大もせずに維持される。
【0098】
このようにネガティブタイプの弁部15では、駆動部16に印加する駆動電流が小さくプッシュロッド30の推力がゼロ(0)又は弱い場合には、油圧源Pから弁孔121内及びスプール孔141内に供給される圧油の量が増え、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力は上昇する。一方、駆動部16に印加する駆動電流が大きくプッシュロッド30の推力が強い場合には、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油が排液部Tに排出される量が増え、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力は低下する。そして、駆動部16に印加する駆動電流が中間的な範囲にありスプール本体112が
図5Bに示す中立位置に配置される場合には、弁孔121及びスプール孔141と油圧源P及び排液部Tとの間の流路は遮断される。これにより、弁孔121内及びスプール孔141内に対する圧油の供給及び排出は停止し、弁孔121内及びスプール孔141内の圧油の圧力は維持される。
【0099】
上述の挙動を示すネガティブタイプの弁部15は、以下のメカニズムに従って、所望圧の圧油が制御孔145から送り出される。
【0100】
すなわち、弁孔121内及びスプール孔141内が圧油で満たされている状態で、圧油の所望圧に応じて予め定められた値の駆動電流が駆動部16に印加される。これにより、駆動部16のプッシュロッド30はスプール本体112を順軸方向Dx1へ移動させて第2の位置(
図5C参照)に配置し、入口孔144と入口ポート131との間が遮断されるとともに出口孔143が出口ポート132に連通する。これによりスプール孔141内及び弁孔121内の圧油は圧力が低下する。
【0101】
そして、駆動部16に印加される駆動電流の大きさが維持された状態でスプール孔141内及び弁孔121内の圧油の圧力が所望圧よりも小さくなると、スプール本体112が逆軸方向Dx2へ移動して第1の位置(
図5A参照)に配置される。これにより、出口孔143と出口ポート132との間が遮断されるとともに入口孔144は入口ポート131に連通し、油圧源Pからの圧油がスプール孔141及び弁孔121に供給され、スプール孔141内及び弁孔121内の圧油は圧力が上昇する。
【0102】
そして、駆動部16に印加される駆動電流の大きさが維持された状態でスプール孔141内及び弁孔121内の圧油の圧力が所望圧よりも大きくなると、スプール本体112が順軸方向Dx1へ移動して、入口孔144と入口ポート131との間が遮断されるとともに出口孔143が出口ポート132に連通する。これによりスプール孔141内及び弁孔121内の圧油は圧力が再び低下する。
【0103】
このように、圧油の所望圧に応じて予め定められた値の駆動電流が駆動部16に対して継続的に印加された状態で、スプール本体112が第2の位置(
図5C参照)と第1の位置(
図5A参照)との間での移動を繰り返し行うことで、スプール孔141に対する圧油の供給及び排出が繰り返し行われる。これにより、スプール孔141内及び弁孔121内の圧油の圧力が所望圧に保たれ、所望圧の圧油が制御孔145から流出して油圧アクチュエータAに供給される。
【0104】
[応用例]
上述の弁構造体10は、各種機械に搭載することが可能であり、特に油圧ショベル等の建設機械に対して好適に搭載することが可能である。
【0105】
図6は、油圧ショベル210の典型的な構成例の概略を示す外観図である。油圧ショベル210は、一般に、クローラを具備する下部フレーム244と、下部フレーム244に対して旋回可能に設けられる上部フレーム245と、上部フレーム245に取り付けられるブーム247と、ブーム247に取り付けられるアーム248と、アーム248に取り付けられるバケット249とを備える。アクチュエータとしての油圧シリンダ267、268、269は、ブーム用、アーム用、バケット用の油圧シリンダであり、それぞれブーム247、アーム248及びバケット249を駆動する。旋回モータ246によって上部フレーム245が旋回させられるように、上部フレーム245には旋回モータ246からの回転駆動力が伝達される。また走行モータ251によりクローラが駆動されて油圧ショベル210が走行するように、下部フレーム244のクローラには走行モータ251からの回転駆動力が伝達される。
【0106】
この油圧ショベル210において、油圧シリンダ267、268、269、旋回モータ246及び走行モータ251の各々が
図4A~
図5Cに示す油圧アクチュエータAに対応する。したがって、油圧シリンダ267、268、269、旋回モータ246及び走行モータ251のそれぞれに対応する複数の弁構造体10を、油路のうちの適切な箇所に設置することができる。この場合、所望圧の圧油を、油圧シリンダ267、268、269、旋回モータ246及び走行モータ251のそれぞれに供給することができる。
【0107】
次に、上述の弁構造体10を使った制御構成の典型例について説明する。上述のように駆動部16及び弁コントローラ17を具備する弁構造体10は、様々な形態に応用可能である。
【0108】
例えば、
図7に示すように複数の弁コントローラ17を統合コントローラ18に接続し、これらの弁コントローラ17を統合コントローラ18によって統合的に制御してもよい。この場合、それぞれの弁コントローラ17が駆動電流供給部54を具備しているので、統合コントローラ18は駆動電流供給部54を具備していなくてもよい。そのため既存の統合コントローラ18に対して新たな弁構造体10(弁コントローラ17)を接続する場合であっても、既存の統合コントローラ18に対して駆動電流供給部54を増設する必要がない。そのため、簡単且つ低コストで、既存の機械に対して上述の弁構造体10を新たに導入することが可能である。
【0109】
また
図8に示すように、配線Nを介して複数の弁コントローラ17同士を相互に接続してもよい。この場合、統合コントローラ18が設けられていなくても、配線Nを介して弁コントローラ17間で情報の送受信を行うことができ、そのような情報に基づいて各弁コントローラ17は対応の駆動部16を制御することができる。したがって、統合コントローラ18(
図7参照)が設けられていない機械に対しても、簡単且つ低コストで、上述の弁構造体10を新たに導入することができる。なお、
図8に示すように複数の弁コントローラ17同士を相互に接続する場合であっても、
図7に示すような統合コントローラ18が設けられてもよい。
【0110】
[変形例]
例えば
図9に示すように、弁コントローラ17は、放射方向Drに関して、基準軸線Ax及び駆動部16(特に可動部25)からずれた位置に設けられてもよい。この場合にも、駆動部16の可動部25は駆動電流に応じて基準軸線Ax上を移動し、弁コントローラ17は駆動部16によって支持されている。すなわち
図9に示す弁構造体10では、弁コントローラ17は弁ハウジング20を介して駆動部16によって支持されており、駆動部16及び弁コントローラ17は物理的に一体的に構成されている。これにより、軸方向Dxに関する弁構造体10の大型化を防ぐことができる。
【0111】
また
図4A~
図5Cには、所望圧の圧油を油圧アクチュエータAに供給するための電磁比例弁によって構成される弁部15が示されているが、弁部15は他の機能を持つ弁によって構成されてもよい。例えば、駆動部16に供給される駆動電流に応じて油路内の圧油の流れ方向を切り換えることができる方向切換弁によって、弁部15を構成してもよい。例えば、駆動電流に応じてプッシュロッド30(可動部25)の突出量を制御することで、スプール本体の位置を調整して圧油の流れ方向を切り換えることができるスプール式の方向切換弁によって、弁部15が構成されてもよい。なお、そのような方向切換弁の典型的な構造は既知であるため図示は省略する。
【0112】
本発明は、上述の実施形態及び変形例には限定されない。例えば、上述の実施形態及び変形例の各要素に各種の変形が加えられてもよいし、実施形態及び変形例が部分的に組み合わせられてもよい。また、本発明によって奏される効果も上述の効果に限定されず、具体的な構成に応じた特有の効果が発揮される。
【符号の説明】
【0113】
10 弁構造体
15 弁部
16 駆動部
17 弁コントローラ
18 統合コントローラ
20 弁ハウジング
21 基部
25 可動部
26 駆動ハウジング
27 電磁石
28 プランジャー
29 ばね
30 プッシュロッド
31 プランジャーストッパ
32 ばねストッパ
33 端位置ストッパ
51 処理部
52 記憶部
53 入力部
54 駆動電流供給部
55 出力部
56 情報出力部
57 異常出力部
71 電源
72 他のコントローラ
73 センサ
74 表示デバイス
75 警報デバイス
A 油圧アクチュエータ
Ax 基準軸線
Dr 放射方向
Dx 軸方向
Dx1 順軸方向
Dx2 逆軸方向
N 配線
P 油圧源
Ss 密閉空間
T 排液部