(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】固体電解質を有する電気化学スタック及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/23 20210101AFI20230810BHJP
C01B 21/06 20060101ALI20230810BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20230810BHJP
【FI】
C25B9/23
C01B21/06 B
C25B13/04 301
(21)【出願番号】P 2018133472
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-07-06
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ディヴヤラジ・デサイ
(72)【発明者】
【氏名】スコット・エイ・エルロッド
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ・ルイ・ベイカー・リヴェスト
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-189169(JP,A)
【文献】特表2014-516461(JP,A)
【文献】特開2015-074566(JP,A)
【文献】特開2005-272856(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0241328(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0164305(US,A1)
【文献】特表2005-502990(JP,A)
【文献】特開2016-194094(JP,A)
【文献】特開2002-003209(JP,A)
【文献】特開2012-026036(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1863208(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
C01B 21/06-21/076
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学スタックを形成する方法であって、
反応体金属を含む金属層を含む前駆体スタックを組み立てることと、
反応体ガスを前記前駆体スタック中へ導入することと、を含み、
前記反応体ガスが前記反応体金属と反応してその場で固体電解質膜を形成
し、
前記固体電解質膜が、金属酸化物または混合金属酸化物を含む、方法。
【請求項2】
前記固体電解質膜が、窒化物を含み、前記反応体金属が、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応体金属が、リチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応体ガスが、窒素(N
2)及びアンモニア(NH
3)からなる群から選択される少なくとも1つのガスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応体ガスが、25℃~800℃の範囲の温度で前記電気化学スタックに導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
固体電解質膜を形成するための方法であって、
反応体金属を含む金属層を提供することと、
反応体ガスを提供して前記反応体金属と反応させて前記固体電解質膜を形成することと、を含み、
前記固体電解質膜が、電気化学セルにおいてその場で形成され
、
前記固体電解質膜が、金属酸化物または混合金属酸化物を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アンモニア(NH3)は、例えば、肥料において、CO2を含まない水素担体として、他の窒素含有化合物を製造するための反応物として、クリーニング製品、煙道ガスにおいて多くの用途を有する。その多くの用途のために、アンモニアには巨大な需要があり、その製造に関連する新技術への関心がある。
【0002】
現在、ハーバーボッシュ法は、アンモニアを製造するための主要な製造方法である。ハーバーボッシュ法では、金属触媒(例えば酸化鉄、FeOx)の存在において、高温(例えば380~520℃)及び高圧(例えば120~220バール)条件下で、窒素(N2)を水素(H2)と反応させてアンモニアを形成する。
N2+3H2→2NH3
【0003】
残念ながら、高温条件はアンモニアの熱力学的分解をもたらし、それによりアンモニア転化率が低下する。既知のアンモニア製造方法はまた、典型的には、可動部品が原因で装置及びメンテナンス費用に大きな設備投資も必要である。
【0004】
NH3製造におけるプロセス強化は82PJ/年の国内エネルギー節約機会に相当する。2015年の国内ガスフレア燃焼は、推定300PJのエネルギー損失及び7MtCO2の排出量となった。大量で安価なH2製造のためにこの資源を使用することは魅力的である。しかしながら、長距離のH2の流通コストにより、これは非実用的である。メタンフレアから製造されたH2が、液体として輸送するのにはるかに容易なNH3に転化された場合、改善されたエネルギー節約、排出回避、及びエネルギー安全保障がもたらされることになる。ガスフレア燃焼データを分析すると、このスキームには1日あたり100トンのメタン(CH4)→NH3プラントサイズが必要であることが示唆され、これは、貧弱なコストスケーリングの故に、ハーバーボッシュ法を使用して達成するには困難である。すべての米国の天然ガスフレアがNH3に転化された場合、それによってアンモニアの国内製造(10.3MtNH3)の47%を供給することができ、エネルギー削減機会に有意に進出することができ(66PJ/年)、それと同時に10MtCO2/年の関連排出を回避することができる。
【0005】
ハーバーボッシュ法を用いる典型的なアンモニア合成製造設備に含まれる単位プロセスを
図1に示す。そのプロセスは、安価な水素源に基づいており、水素は水蒸気改質を用いて典型的に製造される。水蒸気改質装置SRでは、遷移金属触媒(Ni)上で天然ガス(メタン、CH
4)を高圧蒸気(100バール)と反応させて以下の反応に従ってH
2を製造する。
CH
4+2H
2O→4H
2+CO
2
【0006】
製造された水素は、圧力スイング吸着を用いて精製して反応体ガス及びCO2を除去し、圧縮し、ハーバーボッシュ合成ループHBに送る。同時に、極低温蒸留または圧力スイング吸着のいずれかを用いて、空気分離ユニットASUにおいて窒素を空気から分離し、圧縮して、HBに入れる。
【0007】
アンモニア合成経路における律速段階は、非常に安定なN2分子の緩やかな解離である。ルテニウム(Ru)触媒は、白金(Pt)などの他の触媒よりもはるかに窒素還元において活性が高いことが知られているが、H2被毒を受けやすい。触媒被毒は、化学化合物への曝露による触媒の部分的または完全な失活を指す。この場合、触媒被毒によって、商業的プロセスにおけるRu系触媒の使用が妨げられている。最先端のハーバーボッシュ法は、小規模での効率が悪く、経済的実現可能性のために大規模なプラント(1日あたり1000トン超)が必要である。小規模なハーバーボッシュ合成は、フレアガスの分散特性を経済的に利用するためには、合成ループコストを大幅に削減する必要がある。特に、ASUとHBの合成ループを統合すると、2つのプロセスの資本コストが単一プロセス装置に統合され、それにより製造コストが削減される。
【0008】
アンモニアはまた、ヒドラジン(N2H4)、シアン化水素(HCN)、尿素(N2H4CO)、アセトニトリル、及びフェノールなどの複数の化学物質の合成においても重要な前駆体である。分散アンモニア合成は、これらのプロセスにおける製造コストを削減する要因となり得る。
【0009】
小規模製造設備を用いてアンモニアを分散生成させるニーズでは、特に小規模で、改善された効率でアンモニアを製造するための新規なシステム及び方法を開発することが望まれている。電気化学NH3合成アプローチは、小規模で高い効率を約束するが、現在は、低いNH3フラックス及びその結果としての高いコストが障害となっている。これまでのところ、この分野での研究は、プロトン(H+)、カーボネート([CO3]2-)、水酸化物([OH]-)、酸化物(O2-)または溶融窒化物(N3-)イオン伝導体の使用を含む。プロトン輸送は、典型的には、寄生H2の生成に起因する高過電圧での非常に低いファラデー効率(<2%)と関連がある。溶融共晶中に溶解された窒化リチウムは現在までに最高のNH3フラックス(20nmol cm-2s-1)とファラデー効率(72%)を生成するが、まだ低過ぎて商業的には実現されていない。ハイブリッド手法はまた、電気化学水電解と化学的N2還元ステップとを組み合わせることによってNH3製造の速度を向上させるためにも使用されているが、開発の極めて初期段階であり、確立されたハーバーボッシュ法(96.5mmol g-1h-1、ZA-5触媒)よりもはるかに性能が低い(7.6mmol g-1h-1)。
【0010】
アンモニア合成の反応速度は、供給ガスの濃度に依存し、H2及びNH3の分圧に逆依存する。反応速度は以下の式で与えられる。
【0011】
【0012】
反応速度を高めるには、低減された分圧下かまたはH2及び高いN2分圧下で運転する必要がある。溶融した電解質は、それらの差圧を維持することができないために特に不利である。このために、中圧での運転もまた、反応体ガスを圧縮するためのエネルギーコストを低減するのに望ましい。固体電解質は、典型的には、固体状態アンモニア合成で使用される。しかしながら、セラミックス電解質は、典型的には、破壊靱性の低い脆い材料であって、機械加工または切削を容易にすることができず、組み立て中の機械的応力に起因して特に割れ易い。さらに、イオン酸化膜は、典型的には、高い運転温度(例えば800~1000℃)を必要とし、始動及び停止の繰り返し期間中に熱応力を受けやすい。
【0013】
テープキャスティングは、セラミック膜を製作するための好ましい経路である。これは、適切な液体中にセラミック粒子を含むセラミックスラリーを調製し、それを薄いフィルム(テープ)にキャスティングし、それを高温で焼結することを含む。この脆弱な材料がさらなる処理を必要とせず、セルによって機械的に保護されるように、電気化学セルの内部にその場で膜を製作することが望ましい。これにより、はるかに薄い膜を使用することが可能になり、エネルギー性能を高め、かつシステムコストを低減する。
【0014】
テープキャスト膜は、典型的には、代表径よりも数倍大きく、それらのイオン面積比抵抗(ASR)及びガス不透過性を低下させる。例えば、焼結リチウム含有膜は、典型的には、バルクまたは単結晶フィルムと比較して比較的低いイオン伝導率を有する。セラミック材料由来の焼結膜はまた、バルクフィルムに比べて低下した電気化学及びガス透過性を示し、それらのすべては、イオン輸送膜にとっては望ましくない特性である。高い多結晶イオン伝導率を可能にする完全に緻密な膜として固体セラミックイオン伝導体を製作することが望ましい。さらに、伝導率が単結晶伝導率に近づくように、結晶粒の代表長さに匹敵する膜厚を有するより薄い膜を作り出すことも望ましい。改善されたイオン伝導率及び薄い厚さの両方により、改善されたシステム性能及び資本コストの削減がもたらされる。
【0015】
アンモニア合成における別のプロセス改善は、運転温度の低下である。この点に関して、ハーバーボッシュ合成ループは、好ましくない熱力学的平衡に悩まされ、シングルパス効率は典型的には自然生成的なアンモニア分解に起因して低い。中間温度運転(<300℃)は、高いNH3転化効率を確保するのに望ましい。
【0016】
高速イオン伝導膜は、アンモニア合成とは無関係な他の用途にも使用される。具体例としては、燃料電池における酸化物輸送用の安定化ジルコニア膜(Y2O3、Sc2O3、Gd2O3安定剤)、イオン感受性電極におけるフッ化物輸送用のフッ化鉛(β-PbF2)または三フッ化ランタン(LaF3)膜、銀イオン輸送用の沃化銀(AgI)が挙げられる。現在、これらの材料のバルクフィルムを直接合成する手法はない。これらの特定の材料の高密度のガス不透過性膜により、関連する電気化学プロセスにおける性能が改善されることになる。
【発明の概要】
【0017】
本開示は、固体電解質膜及びその作製方法及び使用方法に関する。
【0018】
いくつかの実施形態では、電気化学スタックを形成する方法であって、反応体金属を含む金属層を含む前駆体スタックを組み立てること、及び反応体ガスを前駆体スタック中へ導入することと、を含み、その反応体ガスが反応体金属と反応してその場で固体電解質膜を形成する、方法を開示する。
【0019】
いくつかの実施形態では、固体電解質膜は、窒化物を含み、反応体金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0020】
反応体金属はリチウムで有り得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、反応体ガスは、窒素(N2)及びアンモニア(NH3)からなる群から選択される少なくとも1つのガスを含む。
【0022】
固体電解質膜は、金属酸化物または混合金属酸化物を含むことができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、反応体金属は、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、及びガドリニウムからなる群から選択される1つ以上の元素を含み、反応体ガスは酸素(O2)またはオゾン(O3)である。
【0024】
固体電解質膜は、フッ化物、硫化物、またはヨウ化物を含むことができ、反応体ガスは、フッ素(F2)、ヨウ素(I2)、または硫化水素(H2S)を含むことができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、反応体ガスは、25℃~800℃の範囲の温度で電気化学スタックに導入される。例えば、温度は、窒化リチウム膜の場合、100℃~325℃の範囲であることができ、イットリア、スカンジア、セリア、ガドリニア、またはジルコニア膜の場合は25℃~800℃、フッ化鉛またはフッ化ランタン膜の場合は100~325℃、または沃化銀膜の場合は185~325℃であることができる。
【0026】
反応体ガスは、1バール~10バールの範囲の圧力で電気化学スタックに導入することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、前駆体スタックは、第1の触媒電極層と第2の触媒電極層とをさらに備え、その第1の触媒電極層及び第2の触媒電極層のうちの少なくとも1つはルテニウム(Ru)触媒を含む。
【0028】
他の実施形態では、固体電解質膜を形成するための方法であって、反応体金属を含む金属層を提供することと、反応体ガスを供給して反応体金属と反応させて固体電解質膜を形成することと、を含む、方法を開示する。
【0029】
いくつかの実施形態では、固体電解質膜は、電気化学セルにおいてその場で形成される。
【0030】
反応体金属は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、またはそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、反応体金属はリチウムである。
【0032】
反応体ガスは、窒素(N2)及びアンモニア(NH3)からなる群から選択される少なくとも1つのガスを含むことができる。
【0033】
その方法によって製造された固体電解質膜も開示する。
【0034】
さらなる実施形態では、電気化学スタックのための固体電解質膜を含むシステムであって、その固体電解質膜が、電気化学スタック内で組み立てられるときに、反応体金属と反応体ガスとの間のその場化学反応によって形成される、システムを開示する。
【0035】
形成される固体電解質は窒化リチウムであってもよい。
【0036】
追加の実施形態では、その場で固体電解質膜を形成する電気化学デバイスを開示する。
【0037】
また、金属窒化物を含む固体電解質(例えば固体電解質膜)を横断させて窒化物イオン(N3-)を輸送するための方法も開示する。その方法は、固体電解質の第1の側に窒素を供給することを含み、その窒素は反応して窒化物イオンを形成し、固体電解質を横断して窒化物イオンを輸送する。窒素は、限定するものではないが、N2及びNH3を含む任意の適切な形態で提供することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、窒化金属は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ナトリウム(Na)、またはそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む。
【0039】
固体電解質は窒化リチウムを含むことができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、固体電解質は、第1の触媒電極層と第2の触媒電極層との間に配置される。
【0041】
いくつかの実施形態では、第1の触媒電極層及び第2の触媒電極層のうちの少なくとも1つは、ルテニウム(Ru)触媒を含む。ルテニウム触媒は、アルカリ促進ルテニウム触媒であってもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、金属窒化物電解質を、電気化学セルにおいてその場で形成した。
【0043】
他の実施形態では、電気化学セルにおいて少なくとも1つの窒素含有化合物を製造する方法であって、その電気化学セルは固体電解質膜を含み、その固体電解質膜は、金属窒化物を含み、窒化物イオンを輸送することができ、その膜の第1の側へ窒素を供給することであって、その窒素は反応して窒化物イオン(N3-)を形成し、その固体金属窒化物電解質は窒化物イオン(N3-)を輸送することができる(例えば窒化物イオンに対して透過性である)、窒素を供給することと、その膜の第2の側に反応体を供給することであって、その反応体は窒化物イオン(N3-)と反応して少なくとも1つの窒素含有化合物を形成する、反応体を供給することと、を含む、方法を開示する。
【0044】
そのセルは、複数のセルを含む電気化学スタックに配置することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、電気化学セルに水素源及び窒素源を供給し、電気化学セルを電源と一体化させ、その方法は電気化学的にアンモニアを製造する。
【0046】
いくつかの実施形態では、金属窒化物は窒化リチウムである。
【0047】
金属窒化物は窒化リチウムを含むことができ、電気科学セルは、第1の触媒電極層と第2の触媒電極層とをさらに備えることができ、第1の触媒電極層及び第2の触媒電極層のうちの少なくとも1つはルテニウム(Ru)触媒を含むことができる。任意選択的に、固体電解質膜はガスに対して不透過性であってもよい。任意選択的に、第1の触媒電極層及び第2の触媒電極層のうちの1つのみがルテニウム(Ru)触媒を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、電気化学セルは150℃~250℃の範囲の温度で運転する。
【0049】
窒素は、第1の触媒電極層に対して、1バール~10バールの範囲の圧力で供給することができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、方法は、ヒドラジン、ヒドラゾン酸、またはシアン化水素を電気化学的に製造する。
【0051】
さらなる実施形態では、電気化学セルにおいて窒素(N2)を分離または圧縮するための方法であって、その電気化学セルは、順番に、第1の集電装置と、任意選択的に第1のガス拡散層と、任意選択的に第1の触媒電極層と、固体電解質膜とを備え、ここで固体電解質膜は、金属窒化物を含み、かつ窒化物イオンを輸送することができ、任意選択的に第2の触媒電極層と、任意選択的に第2のガス拡散層と、第2の集電装置とを備え、膜の第1の側に、第1の圧力または分圧で窒素(N2)を含む組成物を供給することであって、窒素は反応して窒化物イオン(N3-)を形成し、窒化物イオンはその膜の第2の側で反応して窒素(N2)を形成する、組成物を供給することと、電気化学スタックから第2の集電装置の出口を通して第2の圧力または分圧で窒素(N2)を除去することであって、第2の圧力または分圧は第1の圧力または分圧よりも大きい、窒素(N2)を除去することと、を含む、方法を開示する。
【0052】
窒素は、少なくとも1つの追加のガスをさらに含むガス混合物で膜の第1の側に供給することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、第1の触媒電極層はルテニウムを含み、第2の触媒電極層はルテニウムを含む。
【0054】
組成物は本質的に窒素から成っていてもよく、その方法は窒素を圧縮することができる。
【0055】
追加の実施形態では、窒化物イオン(N3-)を輸送するための電気化学システムを開示する。そのシステムは、金属窒化物を含み、窒化物イオンを輸送することができる固体電解質膜を含む。
【0056】
これら及び他の非限定的な特徴は、以下でより詳細に説明する。
【0057】
以下は、図面の簡単な説明であり、それは、本明細書で開示される例示的な実施形態を図示する目的のために提示されるものであり、本発明を限定することを目的としていない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】ハーバーボッシュ法を用いるアンモニア合成に関与するプロセスステップを示すフローチャートである。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態に従う電気化学スタックを製造するための方法を示すフローチャートである。
【
図3】本開示のいくつかの実施形態に従う電気化学スタックの横断面図である。
【
図4】本開示のいくつかの実施形態に従う別の電気化学スタックの分解図である。
【
図5】本開示のいくつかの実施形態に従う固体状態窒化物伝導膜を使用するアンモニア合成を概略的に示している図である。
【
図6】本開示のいくつかの実施形態に従うH
2製造プロセス(水蒸気改質、SR)、空気分離プロセス(極低温蒸留)、及び発電プロセス(ガスタービン)を備えたモジュール式電気化学アンモニア生成スタック(MEGA)のシステム統合を示している図である。
【
図7】本開示のいくつかの実施形態に従う窒化物伝導性固体膜を使用する窒素圧縮を概略的に示している図である。
【
図8A】既存の文献によるLi
3Nイオン伝導率の予備的電気化学インピーダンス分光法測定と、α-Li
3Nの結晶構造とのそれぞれの比較を示している図である。
【
図8B】既存の文献によるLi
3Nイオン伝導率の予備的電気化学インピーダンス分光法測定と、α-Li
3Nの結晶構造とのそれぞれの比較を示している図である。
【
図9】220℃で1バールのN
2中でLiを反応させることによる厚さ1.5mmの窒化リチウム膜の合成を示す写真を含む図であり、カソード触媒(4mg/cm
2 Pt/Ru)、アノード触媒(4mg/cm
2 Pt)、及びLi金属を使用してプロトタイプの電気化学スタック(3cm
2の活性領域)を製作した。Li金属をN
2の流路下で反応させてその場で窒化リチウム膜を形成した。
【
図10】Pt-Ru触媒(N
2)及びPt触媒(H
2)で運転された予備電池における180℃でのNH
3合成を実証しているサイクリックボルタモグラム(10mV/s)を示している図である。製造されたNH
3は、100ppmのセンサーを用いて検出され、そのセンサーはより高い値の印加電位で飽和される。
【
図11】は、窒素生成に関する概念実証の結果のいくつかを示しているグラフである。
【
図12】本開示の実施例のうちの1つに従って形成された、分解された層状電気化学セルの一部分の写真である。
【
図13】
図12のデバイスに電界を印加したときの経時的な圧力変化を示しているグラフである。
【
図14】
図13の印加電界を逆にしたときの経時的な圧力変化を示しているグラフである。
【
図15】本開示のいくつかの実施形態に従う例示的な熱プロファイルを示している図である。
【
図16】本開示のいくつかの実施形態に従う例示的な化学物質(ガス)プロファイルを示している図である。
【
図17】倍率37倍及び倍率1000倍(挿入)における実施例のうちの1つに従って製造された膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図18】実施例のうちの1つに従って作製された膜の横断面にわたる窒素含量のEDXラインスキャンである。
【
図19】実施例のうちの1つに従って作製された電気化学セルにおけるファラデー効率及びアンモニアフラックスを図示しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本明細書で開示する膜、スタック、システム、及び方法のより完全な理解は、添付の図面を参照することによって得ることができる。これらの図は、既存の技術及び/または現在の開発を示すことに関する簡便及び容易さに基づく概略的な表現に過ぎず、したがってアセンブリまたはそれらの成分の相対的なサイズ及び寸法を示すことを意図していない。
【0060】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解される意味と同じである。争いがある場合は、定義を含めて本明細書に従う。好ましい方法及び材料が以下に記載されるが、類似または等価な方法及び材料を本開示の実施または試験で使用することができる。本明細書で開示される材料、方法、及び物品は、単に例示に過ぎず、限定することを意図していない。例えば、窒化リチウム固体電解質は、本出願を通して、特に実施例の節で考察される。しかしながら、リチウム以外の反応体金属も企図される。同様に、アンモニア製造については、本出願を通して企図されるが、他の適用も企図される。
【0061】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0062】
明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、用語「含む、備える(comprising)」は、「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる(consisting essentially of)」実施形態を含むことができる。本明細書で使用される場合、「含む、備える(comprise(s))」、「含む、挙げられる(include(s))」、「有する(having)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含有する(contain(s))」、及びその変形語は、指定された成分/ステップの存在を要求し、他の成分/ステップの存在を可能にするオープンエンドの移行フレーズであることを意図している。しかしながら、係る説明は、列挙された成分/ステップ「からなる」及び「本質的にからなる」として組成物、混合物、またはプロセスを記載するとも解釈されるべきであり、これは、それらからもたらされ得る任意の不純物と一緒に、指定された成分/ステップのみの存在を許し、他の成分/ステップを排除する。
【0063】
特に明記しない限り、明細書の数値は、同数の有効数字に四捨五入した際に同じ値となる数値と、特定の値を決定するために使用されるタイプの従来の測定技術の実験誤差未満だけ記載の数値と異なる数値と、を含むものと理解されるべきである。
【0064】
本明細書で開示されるすべての範囲は、列挙された端点を含み、独立に組み合わせ可能である(例えば、「2~10」の範囲は、端点2及び10、そしてすべての中間値を含む。本明細書で開示される範囲及び任意の値の端点は、明確な範囲または値に限定されず、これらの範囲及び/または値を近似する値を含む程度に十分に不明確である。
【0065】
本明細書で使用する場合、関連する基本機能の変化をもたらすことなく変更し得る任意の量的表現を修飾するために近似言語を適用してもよい。したがって、「約」及び「実質的に」などの単数または複数の用語によって修飾された数値は、いくつかの場合、特定の明確な値に限定されないこともある。修飾語「約」はまた、2つの端点の絶対値によって定義される範囲を開示するとも考えるべきである。例えば、「約2~約4」という表現はまた、範囲「2~4」も開示する。用語「約」は、示された数のプラスまたはマイナス10%を意味することができる。例えば、「約10%」は9%~11%の範囲を示すことができ、「約1」は0.9~1.1を意味することができる。
【0066】
本明細書において数値範囲を列挙するために、同じ程度の精度を有するその間の各介在数が明示的に企図される。例えば、6~9の範囲では6及び9に加えて7及び8の数値が企図され、6.0~7.0の範囲では6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、及び7.0の数値が明示的に企図される。
【0067】
本開示は、固体電解質膜を含む電気化学スタックに関する。電気化学スタック及び固体電解質膜を作製及び使用するための方法もまた開示する。いくつかの実施形態では、その膜は、金属窒化物、金属酸化物または混合金属酸化物、金属フッ化物、金属ヨウ化物、または金属硫化物を含む。
【0068】
本開示の窒化リチウム(例えばLi3N)膜は、印加された電界の下でイオン電気移動を促進する固体窒化物イオン(N3-)伝導電解質として作用する。膜は、中間温度(σ453K=4.5mS cm-1)で、高い窒化物イオン移動度(tN3-~0.4)を有する良好なイオン伝導体である。
【0069】
金属は、一般に、より大きな脆弱性及び延性に起因して、金属酸化物よりも機械加工が容易である。反応性卑金属から始める電気化学スタックの組み立てはより容易であり、組み立て中の機械的応力の有害な影響が最小になる。その場反応によるイオン輸送膜の製造は、物理的な膜クラッキングの結果としての膜破壊の可能性を低減する。
【0070】
さらに、本開示のシステム及び方法を使用して作製される膜は、バルクフィルムの特性を保持し、本質的により多結晶である。これは、イオン伝導率が、単結晶値に近い窒化リチウム膜をもたらし、それは焼結リチウムの値よりも有意に高い。
【0071】
膜は、触媒電極と組み合わされて膜電極アセンブリ(MEA)を形成することができ、膜電極アセンブリ(MEA)は、高度にモジュール式の電気化学スタックのビルディングブロックである。膜は、Li金属シート及びN2ガスを反応させることによって合成され、その合成は膜電極アセンブリ(MEA)が組み立てられるとその場で起こり、そしてそれ自体をリールツーリール処理へと導き、スタックアセンブリを単純化しかつ製作コストを劇的に低減する。
【0072】
本開示の電気化学スタックを使用して、膜が金属窒化物を含むとき、様々な窒素性化学物質を製造することができる。例えば、電気化学スタックは、ヒドラジン(N2H4)、ヒドラゾン酸(HN3)、またはアンモニアを製造することができ、それらは以下の全体反応によって生成され得る。その反応生成物は、触媒の選択と、電圧、ガス組成、及び温度の運転条件の選択とによって決まる。これにより、はるかに危険性の低い中間体を使用して、これらの化学物質のオンデマンド合成が可能になる。
【0073】
【0074】
中間温度運転及びN3-伝導性固体電解質の使用により、現在のアンモニア生成技術における以下の2つの主要な問題が回避される。
1.ハーバーボッシュ法における高温での熱力学的アンモニア分解に起因する低いアンモニア転化率、
2.電気化学プロセスにおける寄生水素生成に起因する低いアンモニア転化率。
【0075】
モジュール式スタック設計は、可動部品を有しておらず、小規模なNH3生成用のハーバーボッシュなどの最先端のアンモニア生成プロセスよりも、資本コストがはるかに低い。この小規模なアンモニア生成により、天然ガスフレア燃焼または再生可能エネルギーの削減の間に現在では失われているエネルギーの利用が可能になる。
【0076】
運転中、供給ガス(N2/H2)は、中間温度(例えば約200~約250℃)に維持された、アンモニアのモジュール式電気化学生成(MEGA)スタックに入る。この温度でのNH3の熱力学的分解は、中程度の静水圧(例えば約5バール未満)で運転することによって、回避される。固体膜を使用する供給ガスの分離により、H2被毒のリスク無しにN2-選択性Ru触媒の使用が可能になる。カソードでは、N2は還元され(1/2N2+3e-→N3-)、N3-は膜を横断して移動し、そしてH2と反応してNH3を製造する(3/2H2+N3-→NH3+3e-)。
【0077】
MEGAのモジュール方式は、風力発電所またはガスフレアと組み合わせて使用するのに適しており、場所や強度によって大きく変わる。MEGAスタックは、小規模の水蒸気改質器及び空気分離ユニットと一体化することができる。
【0078】
製造コストを評価するための予備的コストモデルは、小規模水蒸気改質装置(SR)及び空気分離ユニット(ASU)プラントに関してスケーリング指数0.6を想定し、フレアガスに関するコストは想定していない。MEGAを使用して得られるNH3のコストは、はるかに大きなハーバーボッシュ設備と比較して有利であり、肥料製造のためのNH3輸送コストを削減することができる。例えば、ノースダコタ州のフレアガスは、コーンベルトのNH3需要の>40%を供給するために使用することができる。MEGA、SR、及びASUの統合中のプロセスの最適化は、いっそう好ましいエネルギー論及び経済学をもたらす可能性がある。
【0079】
図2は、電気化学スタックにおいてその場で固体電解質膜を生成するための例示的な方法を図示しているフローチャートである。最初に、金属層105を提供する。図示した実施形態では、金属層はロールの形態で提供される。金属層105を切断し、積層して(160)、第1の触媒層130、第2の触媒層135、及び封止ガスケット132,137によって膜電極アセンブリを形成する。その膜電極アセンブリを、集電装置150,155(例えばバイポーラー板)を設けることによって反応性金属スタックに組み立てる(165)。最後に、(ハーバーボッシュ法と比較して)比較的低い温度及び圧力で反応体ガス(例えば窒素ガス、アンモニアガス、または窒素酸化物ガス)を、反応性金属スタックに供給し、反応性金属層と反応させて(170)、電気化学スタックにおいてその場で固体電解質膜120を形成する。
【0080】
いくつかの実施形態では、固体電解質膜は、窒化物、酸化物、ヨウ化物、またはフッ化物イオン伝導体を含む。
【0081】
固体電解質膜は、反応体金属を反応体ガスと反応させることによって形成される。反応体金属としては、以下の元素、すなわちリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、及びガドリニウム(Gd)のうちの1つ以上を挙げることができる。
【0082】
いくつかの実施形態では、反応体ガスは、窒素(N2)、アンモニア(NH3)、酸素(O2)、オゾン(O3)、水素(H2)、またはフッ素(F2)を含む。
【0083】
膜が窒化物を含むとき、反応体金属はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、及び/またはストロンチウム(Sr)を含むことができ、反応体ガスは窒素(N2)、アンモニア(NH3)、またはヒドラジン(N2H4)であることができる。
【0084】
膜が酸化物を含むとき、反応体金属はジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、及び/またはガドリニウム(Gd)を含有することができ、反応体ガスは酸素(O2)またはオゾン(O3)であることができる。
【0085】
膜がフッ化物を含むとき、反応体ガスはフッ素(F2)であることができ、反応体金属はランタン(La)または鉛(Pb)であることができる。
【0086】
膜がヨウ化物を含むとき、反応体ガスはヨウ素(I2)であることができ、反応体金属は銀(Ag)であることができる。
【0087】
膜が硫化物を含むとき、反応体ガスは硫化水素(H2S)であることができ、反応体金属は銀(Ag)であることができる。
【0088】
図3は、本開示のいくつかの実施形態に従う電気化学スタック100非限定的な実施形態を図示している。スタック100は、固体電解質膜120(例えば、窒化リチウム膜などの固体金属窒化物電解質膜)を含む。電解質膜120の両側に触媒電極層130,135が設けられている。第1の触媒電極層130は、電解質膜120と第1の微孔質層140との間に配置される。第2の触媒電極層135は、電解質膜120と第2の微孔質層145との間に配置される。第1の微孔質層140は、第1の触媒電極層130と第1の集電装置150との間に配置される。第2の微孔質層145は、第2の触媒電極層135と第2の集電装置155との間に配置される。集電装置150,155は、ガスを導入するための入口及び出口152,157を含む。
【0089】
電解質120は、約50μm~約2,000μm、例えば約50μm~約250μm及び約50μm~約100μmの範囲の厚さを有することができる。
【0090】
金属窒化物電解質120の反応体金属としては、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、スカンジウム、ガドリニウム、カルシウム、セリウム、及びバリウムから選択される少なくとも1つの金属を挙げることができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、窒化物は混合金属窒化物(すなわち、2つ以上の金属を含有する)である。混合窒化物は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、スカンジウム、ガドリニウム、カルシウム、セリウム、及びバリウムから選択される1つ以上の金属と組み合わせてリチウムを含有することができる。
【0092】
特定の実施形態では、窒化物はリチウム-窒化アルミニウム(Li3AlN2)であることができる。
【0093】
電気化学セルの性能は、窒化物イオンに対する高いイオン伝導率(例えば1mS/cm超)、低い面積比抵抗(例えば100ohm-cm2未満)、及び不良な電気伝導率を有する電解質膜に依存する。さらに、膜は、供給ガスの混合を防止するために、ガスに対する透過性が非常に低い。
【0094】
触媒層130,135は伝導性金属触媒を含有する。
【0095】
触媒層は、同じ組成または異なる組成を有することができる。例えば、膜の一方の側のみが水素に曝される用途では、非曝露側の触媒層はルテニウムを含有することができ、曝露側の触媒層はルテニウムを含有しない。
【0096】
いくつかの実施形態では、触媒層130,135は独立して、金、イリジウム、パラジウム、白金、及びルテニウムから選択される少なくとも1つの金属を含有する。
【0097】
一方または両方の触媒層130,135はルテニウムからなることができる。他の実施形態では、一方または両方の触媒層は、金、イリジウム、パラジウム、及び白金から選択される少なくとも1つの金属と組み合わせてルテニウムを含有する。
【0098】
いくつかの実施形態では、触媒はアルカリ促進触媒である。
【0099】
触媒層130,135の厚さは同じであっても異なっていてもよい。触媒層は、触媒被覆ガス拡散電極(例えば250μmのカーボン紙または400μmのカーボン布)を含むことができる。厚さは、使用される電極の選択によって決まる。
【0100】
触媒層は、高い比表面積(例えば約10~約60m2/g)を確保することができる。
【0101】
触媒被覆ガス拡散電極は、反応に利用可能な三相(気体、触媒、及び電解質)接触面積を増加させることによって反応速度を向上させると同時に、反応中に生成される電子を容易に捕集するための経路を提供する。このため、ガス拡散電極は、大きな表面積を確保するためにカーボンフェルトの層で被覆された炭素などの良好な電気伝導体から作製される。機械的安定性を確実にするために、電極表面は、時には、結合剤(例えばPTFE)で後処理することができる。
【0102】
微孔質層140,145(ガス輸送層またはガス拡散層としても知られている)は、組成及び厚さに関して同じであっても異なっていてもよい。これらの層は、ガスの輸送を可能にするために多孔質である。
【0103】
いくつかの実施形態では、各微孔質層は独立して、カーボン布、カーボンフェルト、カーボン紙、金属メッシュ、及び金属発泡体(例えばニッケル)から選択される多孔質材料を含む。
【0104】
ガス輸送層は、高いガス透過性(例えば10秒未満)、低い電気面積比抵抗(electrical area-specific resistance)(0.013ohm-cm2未満)、及び高い引張強度(5N/cm超)を確保するのに十分な多孔性を有する。
【0105】
いくつかの実施形態では、ガス輸送層は、カーボンブラックから作製された微孔質層(例えば50μm未満の厚さ)で被覆される。この層の目的は、ガス輸送層間の良好な面接触を確保し、PEM燃料電池において、生成水の除去を促進することにある。この実施形態では、微孔質層は、固体電解質の近傍における電極の多孔性を低下させ、高い毛管圧を作り出して、窒化リチウムが完全に触媒を浸漬しないようにする。
【0106】
いくつかの実施形態では、触媒電極層及び/またはガス輸送層は任意である。
【0107】
いくつかの実施形態では、集電装置は電解質膜と物理的に接触している。
【0108】
一般に、集電装置150,155は、良好な伝導率、高い熱伝導率、高い耐薬品性、高い耐腐食性、圧縮力に対する機械的安定性、及び特定の用途で使用されるガス(例えば水素)に対する低い透過性を示す。
【0109】
集電装置は、グラファイト、金属、及び金属合金から選択される1つ以上の伝導材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、金属は、ステンレス鋼(例えばタイプ304及び/またはタイプ316)、銅、またはチタンである。
【0110】
集電装置は、一般に、ガス分配を高めるための1つ以上の流れの場を含む。いくつかの実施形態では、流れの場(複数可)は蛇行している。
【0111】
集電装置は、一般に、高い伝導率(例えば、104S/m超)、供給及び生成ガスに対する低いガス透過性及び化学安定性、中圧(例えば5バール超)での運転を可能にする高い引張強度、流れの場の機械加工を可能にする良好な機械加工性を有する。
【0112】
いくつかの実施形態では、各集電装置は約1~約5mmの範囲内の厚さを有する。
【0113】
図3の電気化学スタック100は単一のセルを含む。しかしながら、本開示の電気化学スタックはまた、複数のセルを含むこともできることを理解すべきである。
図4は、2つのセルを有する電気化学スタック200を図示している分解図である。各膜電極アセンブリ210は、固体電解質膜及び触媒電極を含み、2つの集電装置250の間に挟まれている。いくつかの実施形態では、スタックモジュールは約50~約100のセルを含む。例えば、250mA/cm
2の電流で運転する50セルのスタック(20cm×20cm)は、1時間あたり1kgのアンモニアを製造することができる。
【0114】
いくつかの実施形態では、電気化学スタックを使用してアンモニアを製造する。例示的なアンモニア製造方法の非限定的な例を
図5に概略的に示す。このシステムは、固体の金属窒化物電解質320と、第1及び第2の触媒電極層330,335と、第1及び第2の集電装置350,355とを含む。記載の実施形態では、電解質320は窒化リチウム電解質であり、第1の触媒電極層330はルテニウム触媒層であり、第2の触媒電極層335は白金触媒層である。窒素ガスは入口374を介して第1の集電装置350を介して供給され、水素ガスは入口372を介して第2の集電装置355を介して供給される。未反応の窒素は、出口376を介して除去することができ、任意選択的にリサイクルされる。窒化物イオン(N
3-)は第1触媒層330で生成される。電解質320は、窒化物イオンに対して選択的に透過性であり、窒化物イオンはそれを通過する。第2の触媒層335に到達した窒化物イオンは、水素と反応してアンモニアを形成する。電気化学スタックで生成されたアンモニアは、出口378を介してシステムから除去することができる。固体電解質320は水素に対して透過性ではない。したがって、入口372を介して供給される水素は、ルテニウム触媒330に到達しない。したがって、固体電解質320は触媒330の有害な被毒を防止する。
【0115】
本開示のシステム及び方法により、十分に利用されていないエネルギー源(例えば、天然ガスフレア、縮小または取り残された可能な再生可能エネルギー、例えば風力発電所及び太陽光発電所)からのアンモニアの分散生成を可能にする。運転中、スタックは中間温度に維持し、反応体ガス(N
2及びH
2)は中圧でスタックに入る。いくつかの実施形態では中間温度は約250℃未満である。温度は約150℃~約250℃の範囲であることができる。いくつかの実施形態では中圧は約10バール未満である。圧力は約1バール~約10バールの範囲であり得る。窒素は、典型的には、極低温蒸留、膜分離、または圧力スイング吸着によって空気から分離する。水素は、典型的には、フレアガスサイトでの天然ガスの水蒸気改質、または再生可能エネルギーファームでの水電解によって得られる。活性電圧が印加されると、触媒表面のカソード(すなわち、
図5の第1の触媒層330)でN
2が還元されて窒化物イオン(N
3-)が形成される。
N
2+6e
-→2N
3-
【0116】
得られたN
3-はアノード(すなわち、
図5の第2の触媒層335)に移動し、H
2と反応してアンモニアを生成する。
3H
2+2N
3-→2NH
3+6e
-
【0117】
図6は、モジュール式電気化学アンモニア生成器スタックMEGAを含む例示的なシステムを示すフローチャートである。水蒸気改質装置SRは、
図1の水蒸気改質装置と同じであっても異なっていてもよく、水素をMEGA段階に供給する。空気分離ユニットASUは、
図1の空気分離ユニットと同じであっても異なっていてもよく、窒素をMEGA段階に供給する。タービン段階はMEGA段階にエネルギーを供給する。タービンに加えてまたはタービンの代替として、エネルギーは風力または太陽エネルギーによって供給することができる。MEGA段階は、
図1のHBステージと比較して、かなり低い温度及び圧力でアンモニアを生成する。
【0118】
他の実施形態では、電気化学スタックを使用して、窒素を不活性ガス及び/または圧縮窒素から分離する。例示的な窒素圧縮方法の非限定的な例を
図7に概略的に示す。このシステムは、固体の金属窒化物電解質420と、第1及び第2の触媒電極層430,435と、第1及び第2の集電装置450,455とを含む。記載の実施形態では、電解質420は窒化リチウム電解質であり、第1及び第2の触媒電極層430,435はルテニウム触媒層である。この場合、両方の供給472,474が電気化学スタックに窒素を供給することから、水素からの触媒被毒は問題ではないため、両方の触媒層430,435においてルテニウムを使用することができる。第1の入口472は低圧窒素を提供し、第2の入口474は高圧窒素を提供する。低圧窒素もまた、リサイクルライン476を介して再循環される。高圧窒素は、出口478を介してシステムを出る。窒素は、第1の触媒層430(すなわちカソード)で反応して、窒化物イオン(N
3-)を形成し、それに対して電解質420は透過性である。窒化物イオンは、第2の触媒層435(すなわちアノード)において可逆反応してより多くの窒素を生成するため、セルの第2の面における窒素の圧力が増加する。第2の触媒層における可逆反応を以下に示す。
【0119】
【0120】
その結果として、N2入口から下流のガス圧力が増加する。複数の段階を積み重ねる場合、生成物N2ガスの圧力は実質的に(例えば250℃で約100バール超)増加することがある。これらの条件は、窒素が超臨界流体として存在するのに十分であり、得られる生成物は、超臨界乾燥または多孔質材料の精製などの用途のためのN2供給であることができる。
【0121】
本開示のシステム及び方法を使用してN2|不活性ガス混合物を分離することができる。固体電解質膜は、小規模ガス処理用途のためのより良いコストスケーリングを有するモジュール構造をもたらす。一例は希ガス(Ar、Kr、Ne、Xe)の精製である。これは現在、吸着カラムまたは極低温蒸留を使用して達成され、その両方とも高い設置及び運転コストを要する。N2|Heを分離するためのポリマー膜は低いHe選択性または低いフラックスに悩まされている。これらのガスに関するクヌーセンの選択性は低く、N2|He混合物を分離するためのポリマー膜は、多段階及び実質的な膜面積を必要とする。イオン選択性膜は、はるかに高い選択性を提供し、不活性ガスの分離におけるフラックスを改善するために望ましい。
【0122】
圧縮されたN2はまた、アンモニアの生成に使用することもできる。
【0123】
本開示の分離/圧縮システム及び方法は、小規模用途のための従来技術の欠点を克服する。それらは、現場での化学製品の製造のために、小規模で安価な試薬の入手可能性に基づく遠隔化学製造のために、大規模なプラントメンテナンス中の継続生産を可能にするために、既存のプラントをモジュール式に拡張するために、または試薬のリアルタイムコストに基づいて生産を縮小することができる低資本支出プラントのために、利用することができる。
【0124】
ポータブルな電気化学窒素分離器/圧縮機は、自動車内のタイヤを充填するためにポータブルな圧縮窒素を送達するために使用することができる。酸化物イオン輸送膜は、この作業を達成するために高い運転温度を要する。
【0125】
ポータブルな電気化学窒素分離器/圧縮機を使用して、(例えば、石油などの可燃性または反応性生成物を貯蔵するために)不活性雰囲気を維持するための高純度N2を送達することもできる。
【0126】
そのシステムは、産業用空気を必要とせずに不活性状態を維持するためのオーブン及びグローブボックスに対するポータブルな付加装置として機能することもできる。
【0127】
他の実施形態では、本開示の電気化学スタックを使用してアンモニアを検出することができる。
【0128】
図8Aは、既存の文献と、Li
3Nイオン伝導率に関する予備的電気化学インピーダンス分光法測定との比較を示しているグラフである。
図8Bはα-Li
3Nの結晶構造を示す。
【0129】
本開示のシステム及び方法の1つの特徴は、中温での固体電解質における迅速な窒化物イオン(N
3-)輸送であり、それにより、寄生的なH
2の発生またはNH
3の熱分解を回避しつつ効率的にNH
3を生成することができる。これは、α-Li
3Nのユニークな結晶構造に起因し(
図8B)、それは(Li
2N)
-のシート及び移動Li
+チャネルを構成する。結果として、その材料は以前は単一イオン伝導体と考えられていた。窒化リチウムは有効なLi
+伝導体であることが知られており、固体状態のN
3-輸送は本出願の実施例の節で考察される概念実証実験で実証された。その破壊的な製造手法は、Li金属及び他の層を完全な膜電極アセンブリ(MEA)へとロールツーロールアセンブリし、次いでLi窒化によるその場での膜形成を含むことができる。
3Li+1/2N
2→Li
3N
【0130】
これにより、テープキャスティング及び蒸着などのより高価な膜製作方法を回避することによって製作コストが劇的に低減され、固体セラミックイオン伝導体を、イオン伝導性及びガス透過性を有する完全に緻密な膜として製作することできる。
【0131】
また、これにより、伝導率が単結晶伝導率に近づくように、結晶粒の代表長さがフィルムの厚さと同じかまたはそれを超えることを可能にする厚さ及び処理条件において膜を製作することもできる。
【0132】
この脆弱な材料がさらなる取り扱いを必要とせず、セルによって機械的に保護されるように、電気化学セルの内部に膜を製作する能力によって、別の方法で可能であるものよりもはるかに薄い膜の使用が可能になり、次にセルの抵抗は減少し、電流密度及び効率は増加し、スタックが生成する化学物質の資本コスト及び電気コストの両方が低減される。
【0133】
本出願のシステム及び方法は、従来技術を超える多くの利点を有する。1つの利点は、モジュール式電気化学スタックは、可動部分を有さず(メンテナンスコストが低い)、サイズに合った規模を有する(任意のサイズで高効率)点である。これは、小規模のアンモニア生成(例えばフレアガスサイト及び風力発電所)のために特に適する。
【0134】
別の利点は、窒化物イオン輸送がN2還元と共に寄生H2の発生を防止する点である。
【0135】
追加の利点は、(より薄い膜、低減した多結晶性を用いる)膜の最適化及びN2-還元触媒の改良によって、電流密度がハーバーボッシュ法に匹敵し得る点である。
【0136】
さらなる利点は、金属窒化物が、H2クロスオーバー及びN2-選択性Ru触媒の被毒を防止する固体バリヤを提供する点である。
【0137】
さらに別の利点は、プロセスは中間温度で作動し、潜在的にアンモニアの熱力学的分解を回避できる点である。
【0138】
さらに別の利点は、単純な製造方法により、高価なテープキャスティングまたは化学蒸着製作プロセスの必要性が回避される点である。
【0139】
以下に実施例を提供して本開示のデバイス及び方法を例示する。実施例は単なる例示であり、本明細書に記載された材料、条件、またはプロセスパラメータに開示を限定することを意図していない。
【実施例】
【0140】
窒化リチウム層の形成
220℃で窒素(N
2)雰囲気(1バール)においてリチウム(Li)金属を反応させることにより、膜製作の実行可能性を実証するために実験を行った。その温度で、リチウムは急速に窒素と反応して暗色の生成物を生成した(Li+3/2N
2→Li
3N)。結果は、
図9に示しており、窒素環境に曝露する前(0分、左の写真)、10分間の曝露後、窒化リチウム層が完全に形成される前(真ん中の写真)、窒化リチウム層の形成後(90分、右の写真)のリチウム金属層を示している。窒化リチウム膜は約1.5mmの厚さを有していた。
【0141】
プロトタイプの電気化学スタックの作製
プロトタイプの電気化学スタックを、カソード触媒(4mg/cm2 Pt/Ru)、アノード触媒(4mg/cm2 Pt)、及びリチウム金属を使用して製作した。リチウム金属を窒素の流路下で反応させてその場で窒化リチウム膜を形成した。膜をその場で形成することは、リチウム金属層は、より柔軟であり、組み立てを単純化するために、有利であり、一方、窒化リチウム層は、柔軟性が低く、曲がりにくく、膜が形成された後に組み立てを行う場合、損傷しやすい。
【0142】
電気化学スタックを用いたアンモニア生成及び窒素発生
アンモニア生成のための提案した電気化学スタックの実行可能性を評価するために実験を行った。イオン伝導率の温度依存性を、
図8Aの既存の文献データと比較する。単結晶Li
3Nは高い異方性伝導率を有することが知られている。予備膜は、平行(断面)イオン伝導率と垂直(面内)イオン伝導率との中間値を有する全伝導率を有する。また、材料の電子伝導率は少なくとも10
4倍高く、これは純粋なイオン伝導体であることを示している。
【0143】
アンモニア生成及び窒素発生を実証するための概念実証実験を、3cm
2の電気化学スタックを使用して実施した。アンモニアは、180℃でH
2(Ar中5.07%、80mL分
-1)及びN
2(100mL 分
-1)の供給を使用して生成させた。生成したアンモニアは、電気化学アンモニアセンサ(検出限界100ppm)を使用して検出した。実験結果は、アンモニアセンサを飽和させるのに十分な速度でアンモニアの合成を決定的に実証している。得られた最大電流は1.5Vで8.64mA/cm
2であり、30nmol cm
-2 s
-1(90%ファラデー効率)のアンモニア合成フラックスに相当する。窒素生成実験(異なるセルを使用して実施した)の結果は、2.1Vの電位で、2mA/cm
2の最大電流密度が達成されることを実証している。
図10は、結果を実証するサイクリックボルタモグラム(10mV/s)である。
図11は、窒素生成に関する概念実証の結果のいくつかを示しているグラフである。
【0144】
その場反応及び膜電極アセンブリ
Swagelokセルは、3/4インチのID圧縮金具、ガス入口と出口とを有するステンレス鋼製集電装置を使用して製作した。
図12は、適切な触媒(4mg/cm
2 Pt-Ru触媒)とガスケット(380μmテフロン(登録商標))との間にLi金属シート(厚さ250μm)を挟むことによって形成された、分解された層状電気化学セルの一部分の写真である。適切な温度(ホットプレートで240℃)で加熱すると、窒化反応は急速にLi金属を窒化リチウムへと変換し、厚さ270μmの赤紫色のディスクとして得られた。触媒及びガスケットを有する窒化リチウムは、多層電気化学スタックにおいて反復単位を示す。
【0145】
窒素圧縮実験
Swagelokセルは、対流セル(N
2|Li
3N|N
2)として準備し、125~150℃の温度において、下流側に0.77psiの周囲圧力を印加して運転した。電界が印加されたとき、下流ガスチャンバにおける窒素ガスの圧力は上昇し、これは、N
2が還元され、窒化リチウム膜を横断して輸送され、そして再酸化されてN
2になったことを示している。その結果を
図13に示す。電界が逆転すると、窒素は対象のチャンバから除去され圧力は減少した。その結果を
図14に示す。これは、システムを使用して、窒素ガスを輸送し、圧縮できることを十分に示している。
【0146】
膜形成に及ぼす熱及び化学プロファイルの影響
膜形成中に、熱及び化学(ガス)プロファイルを調整/最適化して適当な形成を確保することができる。形成プロセス中にスタックに供給される温度及び/またはガスを変化させることは有益であり得る。
【0147】
例えば、
図15の温度プロファイルは、金属層の融点よりやや高い温度(<10℃)までの短い傾斜を含む。これは、金属表面の部分的な溶融または変形を確保しし、バルク膜構造を変形させることなく触媒と膜との間の改善された接触を確保する。次いで、膜を、金属融点の直前の温度まで急冷する。同時に、膜の完全な変換を確実にするために反応体ガスの圧力を増加させる。任意選択的に、
図16に示すように、膜が激しく窒化を受けていない場合には、アルゴンなどの不活性ガスを使用することができる。
【0148】
その場で製造された窒化リチウム膜の微細構造
その場で窒化された窒化リチウム膜の特定の例が
図17及び
図18に図示してある。
図17は、より大きい膜(倍率37倍)のSEM顕微鏡写真と、その断面に関するより接近した図(倍率1000倍)(挿入)を含む。膜中の窒素含量に関するエネルギー分散型X線(EDX)分析(
図18)は、膜厚にわたって一貫した窒化が達成されたことを示している。この特定の膜は、固定反応温度185℃及びゲージ圧50mmN
2で合成した。反応温度は、Li金属の融点(180.5℃)よりもわずかに高く維持し、N
2の存在は、膜の形状が変形しないように確実に役立つ窒化リチウム固体フィルムの形成をもたらした。
【0149】
ファラデー効率及びアンモニアフラックス
アンモニア合成に関するファラデー効率は、87℃で運転されたH
2|Li
3N|N
2電気化学セルにおいて測定した。電位は+0.25Vのステップで増加させ、電流密度は1ステップあたり少なくとも10分間記録した。実験終了後、H
2流をN
2で置換し、同じ電圧ステップ実験を対称なN
2|Li
3N|N
2電気化学セルで繰り返した。「対称セル」のベースライン電流を、H
2を用いて運転したときの電流から差し引き、アンモニア製造のためのファラデー効率を推定するために用いた。その結果を
図19に示す。ファラデー効率は、約0.5Vで運転したときにはほぼ100%であり、2Vではレベルが低下して83%の値であり、それらの値はアンモニア合成を実証している。
【0150】
上で開示した変形及び他の特徴及び機能の変形、またはそれらの代替は、多くの他の異なるシステムまたは用途において組み合わせることができる、ことが理解されよう。それらにおける現在では思いがけないかまたは予期されない様々な代替、改変、変形、または改良は、以下の請求の範囲によって包含されることも意図される。