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特許7329326高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20230810BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20230810BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
G02B6/02 411
G02B6/42
G02B6/44 301A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018554731
(86)(22)【出願日】2017-04-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 PL2017050023
(87)【国際公開番号】W WO2017184004
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-13
(31)【優先権主張番号】P.416921
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】516167886
【氏名又は名称】ポルスキ セントラム フォトニキ イ シフィアトヴァドフ
【氏名又は名称原語表記】POLSKIE CENTRUM FOTONIKI I SWIATLOWODOW
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ショスタキエヴィチシュ,ウーカシュ
(72)【発明者】
【氏名】カックリンスカ,マウゴジャータ
(72)【発明者】
【氏名】ナピエララ,マレック
(72)【発明者】
【氏名】ナシロフスキ,トマシュ
(72)【発明者】
【氏名】オストロフスキ,ウーカシュ
(72)【発明者】
【氏名】パイテル,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】シマンスキ,ミハウ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィソキンスキー,カロル
(72)【発明者】
【氏名】マコフスカ,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ムラフスキ,ミハウ
(72)【発明者】
【氏名】テンダーレンダ,タデウシュ
(72)【発明者】
【氏名】ビアンコウスカ,ビータ
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2005-0092286(KR,A)
【文献】特開昭50-123352(JP,A)
【文献】特開昭59-058404(JP,A)
【文献】特表2014-510901(JP,A)
【文献】特開平11-119038(JP,A)
【文献】国際公開第2015/017909(WO,A1)
【文献】特表2009-509199(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0080835(US,A1)
【文献】特表2014-500975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0236153(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0361452(US,A1)
【文献】DONLAGIC Denis,In-line higher order mode filters based on long highly uniform fiber tapers,Journal of Lightwave Technology,米国,IEEE,2006年09月,Vo.24, No.9,PP.3532-3539,https://ieeexplore.ieee.org/document/1688145,DOI: 10.1109/JLT.2006.878497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00- 6/036
G02B 6/245-6/25
G02B 6/26- 6/27
G02B 6/30- 6/34
G02B 6/42- 6/54
H01S 3/00- 4/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が850nmのVCSEL光源に基づく伝送システムのスループットおよび距離を増加させるために該伝送システムにおいて高次モードの損失を選択的に増加させるデバイス(3)であって、
ルチモードファイバ上で実施される少なくとも1つの光ファイバテーパの形態であり、
前記光ファイバテーパ(7)は、分離された領域であって全長が(al)および(a2)であり、ファイバの直径が(d1)に等しい非テーパ状ファイバ領域と、分離された領域であって全長が(b1)および(b2)であり、ファイバの直径がそれぞれ減少または増加する遷移領域と、全長が(c)であり、ファイバの直径が(d2)に等しいテーパウェスト領域と、を有し、
当該テーパレベルは、R=((d1-d2)/d1)・100%として定義され、20%以上であり、
前記遷移領域の長さは、(b1)が0.5mm以上であり、(b2)が0mm以上であり、
前記テーパウェスト領域の長さは、0.5mm以上であり、
前記非テーパ状ファイバ領域の長さは、(a2)が0mm以上であり、
前記光ファイバテーパ(7)は、コアおよびクラッドで構成され、かつ、850nmの波長でマルチモードであり、前記クラッドは、前記遷移領域の位置において、減衰特性を有し、かつ、前記クラッドの材料よりも高い屈折率を有するフィルタリング物質で被覆されており、
前記フィルタリング物質はグラファイト二硫化炭素または当該物質の少なくとも1つまたはそれらの誘導体を含む混合物ら選択され
前記高次モードの損失を選択的に増加させるデバイス(3)は、少なくとも1つの送信機(1)と少なくとも1つの検出器(受信機)(4)との間のマルチモードファイバの構造内に直列に挿入される、
ことを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記テーパレベルは、97%以下であり、
前記遷移領域の長さ(b1)および(b2)は、75mm以下であり、
前記テーパウェスト領域の長さは、75mm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記フィルタリング物質は、前記光ファイバテーパ(7)の前記テーパウェスト領域の少なくとも一部にも適用される、ことを特徴とする請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記高次モードの損失を選択的に増加させるデバイス(3)は、ファイバレーザの空洞共振器の光路の一部である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイスであり、特に、傾斜マルチモードファイバ(MMF)である。本発明のデバイスは、特に、多モード分散のマイナスの影響を最小化することでマルチモード伝送システムのスループットを向上させるため、光ファイバレーザにおけるシングルモード動作を確実にするため、または、マルチモード光ファイバにおけるシングルモードまたは数モード動作を保証することでマルチモード光ファイバにおけるビーム品質を改善するために使用することができる。デバイスを適用した後、1つまたは少数の第1モード群がマルチモード光ファイバ内に残される。
【背景技術】
【0002】
スループットを増加させることは、光ファイバに基づく新世代の通信システムの主要な課題の1つである。これは、データ量の増大について、継続的な需要の高まりだけでなく、増加した通信ネットワークトラフィックに関連している。この現象は、パブリックネットワークと情報処理およびストレージセンタとの両方におけるトラフィックに関係する。比較的短い距離のために、データセンタは、通常、マルチモードファイバを適用し、そのスループットは、主に多モード分散によって制限される。このタイプのネットワークは、多くの場合、VCSELレーザおよびMMFファイバに基づいており、主な制限は、多モード分散の影響、即ち、群速度の差、したがって、様々なモードに対する伝搬時間の差である。多モード分散のマイナスの影響は、時間領域内でのインパルス拡大で表され、その結果、信号スループットまたは伝送距離を制限することになる。
【0003】
シングルモード動作を保証することも、光ファイバレーザ構造の分野における課題である。シングルモードレーザは、改善されたビーム品質を提供し、用途によってはレーザのシングルモード動作を保証することが必要である。この問題に対する可能な解決策の一つは、レーザ共振器内に高次モードを除去するためのデバイスを挿入して、大きなコア径のマルチモードファイバをアクティブ媒体として使用できるようにすることであり、これにより、1つのモードのみが効果的に伝搬される。マルチモードファイバにおける単一モードまたは少数モード動作を保証にすることは、ビーム回折と出口(outlet)との不一致を低減し、ビームをより小さな領域に集束させてレーザ精度を向上させるので、ビーム品質にプラスの影響をもたらす。
【0004】
マルチモードファイバを適用することに関連する悪影響を取り除く方法の一つは、マルチモードファイバの代わりにシングルモードファイバ(SMF)を適用することである。しかし、シングルモードファイバに基づいたネットワークは、製造および設置がはるかに高価であり、したがって、データセンタでの鋭意な適用はあまりない。レーザのアクティブ媒体としてのシングルモードファイバの使用には、小さなモードフィールドで生じる非線形効果の結果として、その限界がある。本発明による高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイスは、完全な共振器よりもはるかに短く、したがって、モードフィールドを制限することから生じる非線形効果は、非常に短い距離でのみ生じる。
【0005】
文献は、モードの数を選択して制限するためのアクティブなシステムに関する多くの研究を含む。例えば、論文:G. Stepniak, L. Maksymiukand J. Siuzdak, titled "Binary phase spatial light filters for mode selective excitation of multimode fibers", published in the Journal of Lightwave Technology 29/13 (2011) (非特許文献1)には、伝搬モードの数を制限し、複雑で高価な外部システム(光学フィルタリングマトリックス)を適用する解決策が掲載されている。モードの数を減らすための他の公知の方法は、選択モードのみを励振するために使用される精密な光学システムを必要とする。これらは、とりわけ、論文:L. Jeunhomme and J.P. Pocholle, titled "Selective mode excitation of graded index optical fibers", published in Applied Optics 17/3 (1978) (非特許文献2)に掲載されている。それらの複雑な構造および高いコストのため、開示されたシステムは実験室の状態でのみ実行することができる。
【0006】
光ファイバの構造が変更されている他のモードフィルトレーション方法もよく知られている。例えば、コアを残して高次モードを分散させるために導波路の側面の周期的な変化が使用される平面構造を提案した、特開2001-133647号公報(特許文献1)に記載の解決策がある。このような変更された導波路部分は、従来の光ファイバネットワークの構造に含めることができる。さらに、このような素子は電源を必要としない。
【0007】
次に、米国特許出願公開第2003/169965号明細書(特許文献2)は、高次モードの損失を選択的に増加させるために、小さい半径の曲率を有する曲げられたファイバを光ファイバシステムに含めることによって、高次モードをフィルタで除去する方法を提案している。小さい半径の曲率の使用は、高次モードを排除し、当該発明において述べられるように、伝搬はより効果的かつ高速である。
【0008】
導波路構造を変更する別の方法は、光ファイバ内の光伝搬状態を変化させるために、その化学組成に干渉することである。そのような説明は米国特許出願公開第2014/286606号明細書(特許文献3)に含まれており、ドープ領域と非ドープ領域とが交互に配置されることが説明されている。その結果、高次モードは散乱されて減衰される。
【0009】
米国特許第7194156号明細書(特許文献4)による解決策は、高次モードをフィルタリングするために使用される光通信システムの対応物を提示する。当該発明は、マルチモード光ファイバに基づいた通信システムのスループットを増加させるために使用することができる。高次モードをフィルタリングするために使用される要素は、2つの方法で実施することができる。方法の1つでは、マルチモードファイバの先端がテーパ状であり、信号がレンズを介して検出器に導かれる。このように構成された素子は、モードの特定の群のみが残るように高次モードをフィルタ除去することができ、検出器に到達するすべてのモードは別個の信号として扱うことができる。この実施態様では、信号は、バルク光学系の使用と結合され、その結果、デバイスのサイズおよび付加的な損失が増加する。さらに、当該発明は、フィルタリング物質によるテーパコーティングを想定していない。
【0010】
次に、国際公開第2015/138492号パンフレット(特許文献5)は、マルチモードファイバ上で疑似マルチモード通信を行うための構造を提示している。この解決策では、少なくとも2つのレーザからの光信号がオプトエレクトロニクスTOSAシステムによって処理され、疑似マルチモード信号の形態でシングルモードファイバに結合され、伝送路を伝搬した後、アナログのROSAデバイスによって受信される。ROSA受信機は、少なくとも1つの高次モード信号をブロックする。
【0011】
米国特許出願公開第2007/0081768号明細書(特許文献6)は、マルチモードファイバに基づく光通信システム、および、このシステムのスループットを向上させる方法を記載している。このシステムの一部は、テーパリングに基づいて高次モードをフィルタリングするために使用される要素である。マルチモード光ファイバは、基本モードのみが最も狭い部分で伝搬するようにテーパ状にされている。シングルモード光ファイバに対するパワー入出力ための構成も提示されている。この特許は、平面法(planar method)でテーパを実行する方法を記載している。同時に、この特許はフィルタリング物質によってテーパを覆うことを想定していない。
【0012】
また、米国特許第7184623号明細書(特許文献7)は、マルチモード光ファイバに基づく通信システムのスループットを増加させるために使用することができる発明を提示している。この場合、高次モードをフィルタ除去するために、断熱カプラ、あるいはテーパ状光ファイバを適用した。この解決策によれば、テーパ領域において、高次モードがコアから漏れてクラッドによって吸収されるか、またはクラッドから放出される。この解決策は、テーパ領域上にフィルタリング物質を配置することを想定していない。
【0013】
論文:Y. Jung, G. Brambilla and D.J. Richardson, titled "Broadband single-mode operation of standard optical fibers by using a sub-wavelength optical wire filter", published in the Optics Express 16/19 (2008) (非特許文献3)に掲載された研究は、ファイバテーパを適用することによって、高次モードをフィルタで除去する方法を提示している。キーは、テーパ形状を特に遷移領域に適応させることである。提案された解決策において、遷移領域は、1次モードでは断熱的であると同時に高次モードでは非断熱的である。このようなテーパ形状は、高次モードに対して大きな損失をもたらす。提示された解決策では、伝搬が基本モードのみに許容されることを保証するために、コアの直径よりも100倍小さい直径でテーパを実行しなければならなかった。さらに、テーパは物質でコーティングされていないため、高次モードをフィルタリングする有効性が大幅に低下する。テーパ領域内にフィルタリング物質が存在しないため、フィルタリングされたモードがガラス-空気の閾に導かれる。高次モードに対して大きな損失をもたらすためには、大きなテーパレベルが必要である。同時に、フィルタリング物質の適用は、フィルタリングされたモードの損失を著しく増大させ、これにより、テーパを短くし、テーパレベルをより小さくすることができる。結果として、フィルタリング物質を含まない実施態様と比較して、改善された有効性が得られる。
【0014】
光ファイバテーパ領域のコーティングは、エバネッセント場センサで使用される。米国特許第6103535号明細書(特許文献8)には、蛍光体反応材料で被覆された光ファイバテーパに基づくセンサの構造を記載している例示的なエバネッセント場センサが提示されている。蛍光は、テーパ状光ファイバ中のエバネッセント場の存在下で、テーパを被覆する材料が蛍光体と反応するときに発生する。この発明の重要な要素は、テーパを被覆するために使用される材料である。特定の物質と接触すると、この物質は蛍光を引き起こす化学反応を起こす。このタイプのセンサは、より高いセンサ感度を保証するマルチモード光ファイバを適用する。
【0015】
光ファイバテーパ領域を被覆することは、インパルスモードロックされたファイバレーザの構造においても使用することができる。刊行物:P. Yan, R. Lin, Sh. Ruan, A. Liu, H. Chen, Y. Zheng, S. Chen, C. Guo and J. Hu, titled "A practical topological insulator saturable absorber for mode-locked fiber laser" and published in Nature 5/8690 (2015) (非特許文献4)には、信号強度が十分に高い間に特定の波長での透明性を特徴とする、可飽和吸収体を有するテーパ状シングルモード光ファイバSMF-28が提示されている。
【0016】
米国特許第8384991号明細書(特許文献9)は、特にインパルスファイバレーザの構造に適用可能な可飽和吸収体からなる発明を提示している。当該発明の主題は、特別な物質、カーボンナノチューブとポリマー複合体との混合物である。この物質で被覆されたテーパ状光ファイバの断片が、インパルスファイバレーザの構造に用いられる。
【0017】
米国特許第6301408号明細書(特許文献10)は、テーパ領域が特殊なポリマーで被覆されている光ファイバテーパ領域に内接するファイバブラッググレーティングからなる発明を提示している。テーパのポリマーコーティングに適切な屈折率を適合させることによって、ブラッグ波長を制御することが可能である。提案された構造による発明は、アド/ドロップマルチプレクサを構築するために使用することができる。提示された解決策では、基本モードの特性が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2001-133647号公報
【文献】米国特許出願公開第2003/169965号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/286606号明細書
【文献】米国特許第7194156号明細書
【文献】国際公開第2015/138492号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2007/0081768号明細書
【文献】米国特許第7184623号明細書
【文献】米国特許第6103535号明細書
【文献】米国特許第8384991号明細書
【文献】米国特許第6301408号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】G. Stepniak, L. Maksymiukand J. Siuzdak, titled "Binary phase spatial light filters for mode selective excitation of multimode fibers", published in the Journal of Lightwave Technology 29/13 (2011)
【文献】L. Jeunhomme and J.P. Pocholle, titled "Selective mode excitation of graded index optical fibers", published in Applied Optics 17/3 (1978)
【文献】Y. Jung, G. Brambilla and D.J. Richardson, titled "Broadband single-mode operation of standard optical fibers by using a sub-wavelength optical wire filter", published in the Optics Express 16/19 (2008)
【文献】P. Yan, R. Lin, Sh. Ruan, A. Liu, H. Chen, Y. Zheng, S. Chen, C. Guo and J. Hu, titled "A practical topological insulator saturable absorber for mode-locked fiber laser" and published in Nature 5/8690 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、マルチモード伝送システムのスループットの増加に寄与する、またはファイバレーザにおけるシングルモード動作を可能にするために、光ファイバ要素を用いて高次モードの損失を選択的に増加させるデバイスを開発することであった。その主な機能は、高次モードの損失の選択的な増加の保証、受動性、小さな時間遅延、選択されたモードに対する低い挿入損失および低い反射損失、標準のマルチモード伝送システムとの互換性を含む。
【0021】
さらに、デバイスはすべてファイバであるため、受動的であり、したがって、電源を必要としない。このデバイスは、限られたスループットを有するマルチモード伝送システム、または、複雑な多入力多出力(MIMO)アルゴリズムを必要とするマルチモード伝送システムにおける多モード分散の悪影響を低減するために使用される。さらに、その長さが短い(数十~数センチメートル)ため、デバイスは信号に追加の時間遅延を導入しない。データ転送速度が主要な利点である光ファイバ伝送では、これは重要な機能である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイスは、(特定の波長において)マルチモードファイバ上で実施される少なくとも1つの光ファイバテーパを含む。前記光ファイバテーパは、分離された領域、即ち、全長が(alおよびa2)であり、ファイバの直径が(d1)に等しい(これらの領域の長さはデバイスの動作に直接影響を与えない)非テーパ状ファイバ領域と、全長が(b1)および(b2)であり、直径の減少したエリアおよび直径の増加したエリアである遷移領域と、全長が(c)であり、ファイバの直径が(d2)に等しいテーパウェスト領域と、を有する。当該テーパレベルは、R=((d1-d2)/d1)・100%として定義され、好ましくは20~97%の範囲に含まれる。遷移領域の長さ(b1)は、0.5mm~75mmが好ましく、遷移領域の長さ(b2)は、0mm~75mmが好ましく、テーパウェスト領域の長さ(c)は0.5mm~75mmが好ましい。テーパ領域は、減衰特性を有するフィルタリング物質で被覆されている。一方、本発明の有益な実施態様では、フィルタリング物質は、光ファイバテーパの少なくとも1つの断片(fragment)に適用される。
【0023】
本発明の有益な実施態様では、フィルタリング物質は、(所定の使用波長で)吸収性および/または散乱性である減衰特性を有し、および/または、光ファイバクラッド材料よりも高い屈折率を有する。デバイスの不可欠な部分を構成するフィルタリング物質は、好ましくは、パラフィン、ワセリンまたは類似の炭化水素;脂肪酸、それらの塩またはエステル;グラファイト、グラフェン、すす、他の形態の炭素およびその誘導体;ポリスチレン、エチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、ポリビニルアセテート、メチルメタクリレートおよびそれらの誘導体のような有機溶媒に溶解したポリマー;ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル、アクリル(acrylic)、オクタン-セルロース、ブチル-セルロースポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、パーフルード(perfluored)ポリマー、R-Si-Oオルガノゾル、ポリジメチルシロキサン、ポリブタジエンゴム、紫外線硬化ポリマー、エポキシ樹脂、エポキシアクリル樹脂、ウレタン-アクリル樹脂、シリコーン-エポキシ樹脂、シリコーン-アクリル樹脂、エポキシ-アクリル樹脂のような低い軟化温度を有するポリマー;グリセリン、トルエン、スチレン、四塩化炭素、二硫化炭素、シリコーン油、濃縮炭水化物溶液、浸漬油、金属層、金属酸化物または前記物質の少なくとも1つまたはそれらの誘導体を含む混合物のような有機流体(organic fluids);の中から選択される。
【0024】
本発明の有益な実施態様では、光ファイバラインへのデバイスの直列接続は、スプライスまたはコネクタを介して実施されることが好ましい。デバイスの別の有益な実施態様では、テーパは、光ファイバラインを形成する光ファイバ上で直接実施され得る。デバイスの別の有益な実施態様では、検出器(受信機)にも含まれ得る。
【0025】
一方、本発明の有益な実施態様では、OM2またはOM3規格に従った光ファイバ上で実施されるテーパは、b1=b2=10mm,c=10mm,d1=125μm,d2=25μm(R=80%)の寸法を有すると共に、光ファイバラインとの接続は、ファイバと光ファイバテーパとの間でスプライス接続され、使用されるマルチモード光ファイバはOM2またはOM3規格に従って実施される。本発明の有益な実施態様では、テーパ領域は、吸収体であるフィルタリング物質で被覆されており、該吸収体は、この有益な実施態様では、コロイド状黒鉛である。
【0026】
本発明の他の有益な実施態様では、OM4規格に従った光ファイバ上で実施されるテーパは、b1=5mm,b2=0mm,c=10mm,d1=125μm,d2=20μm(R=84%)の寸法を有すると共に、光ファイバラインとの接続は、ファイバと光ファイバテーパとの間のファイバコネクタの形態で実施され、使用されるマルチモード光ファイバはOM4規格に従って実施される。本発明の有益な実施態様では、テーパ領域は、吸収体からなるフィルタリング物質で被覆されており、該吸収体は、この有益な実施態様では、パラフィンである。
【0027】
本発明の別の有益な実施態様では、開口数0.37(コアの屈折率の2乗とケーシングの屈折率の2乗との差の平方根として定義される)、コア直径100μmおよびケーシング直径300μmのマルチモードステップインデックス光ファイバ上で実施されるテーパは、b1=30mm,b2=20mm,c=20mm,d1=300μm,d2=9μm(R=97%)の寸法を有し、テーパ領域を覆うフィルタリング物質で被覆されている。本発明の有益な実施態様では、フィルタリング物質は、光ファイバクラッド材料よりも高い屈折率を有し、ここでは二硫化炭素からなる。
【0028】
一方、高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイスは、少なくとも1つの送信機と少なくとも1つの検出器(受信機)との間、好ましくは検出器に近接して、マルチモードファイバの構造に直列に接続される。または、別の実施態様では、デバイスは、ファイバレーザの空洞共振器の一部としての光路の要素である。
【0029】
有益な実施態様では、特定のデバイス構成は、少なくとも850nmでOM3またはOM4ファイバのVCSEL光源に配置される。
【0030】
本発明は、実施例および図面に詳細に提示されたが、それらは、その動作原理から生じる本発明の可能な構成を尽くしているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、送信機(1)によって信号が入力される、OM2またはOM3ファイバ(2)を利用する伝送システムの図を示し、高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイス(3)は、受信機(4)の前のファイバライン(2)に組み込まれている。
図2図2は、ファイバラインにデバイスを接続するために使用される可視スプライス(5)を有するデバイス(3)、および光ファイバテーパ(7)が実施されているOM2またはOM3ファイバ(2)の拡大図を示す。
図3図3は、全長が(al)および(a2)で全直径が(d1)の非テーパ状ファイバ領域と、全長が(b1)および(b2)の遷移領域と、全長が(c)で全直径が(d2)のテーパウェスト領域と、からなるマークされた領域を有し、テーパ領域が吸収体(8)で被覆されている光ファイバテーパ(7)の図を示す。ただし、寸法は縮尺通りではない。
図4図4は、信号が送信機(1)から結合され、高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイス(3)が受信機(4)の前のOM4ファイバ(6)に組み込まれている、OM4ファイバ(6)を用いた伝送システムの図を示す。
図5図5は、光ファイバラインにデバイスを接続するための可視コネクタ(9)と、光ファイバテーパ(7)が実施されたOM4ファイバ(6)とを有するデバイス(3)の拡大図を示す。
図6図6は、全長が(al)で全直径が(d1)の非テーパ状ファイバ領域と、直径(d1)が減少する遷移領域と、全長が(c)で全直径が(d2)のテーパウェスト領域と、からなるマークされた領域を有し、テーパ領域が吸収体(8)で被覆されている光ファイバテーパの図を示す。ただし、寸法は縮尺通りではない。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0032】
高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイス(3)は、マルチモードファイバ(OM2またはOM3規格)上で実施され、送信機(1)と受信機(4)との間に直列に挿入される光ファイバテーパを含む。光ファイバテーパ(7)は、分離された領域、即ち、全長が(al)および(a2)であり、ファイバの直径が(d1)に等しく、これらの領域の長さはデバイスの動作に直接影響を与えない非テーパ状ファイバ領域と、全長が(b1)および(b2)であり、ファイバの直径がそれぞれ減少/増加する遷移領域と、全長が(c)であり、ファイバの直径が(d2)に等しい厳密なテーパ領域と、を有する。デバイスは、ファイバスプライス(2)として実施される接続(5)によって、光ファイバラインに接続されている。
【0033】
テーパレベルは、R=((d1-d2)/d1)・100%として定義される。
このデバイスの例では、b1=b2=10mm,c=10mm,d1=125μm,d2=25μm(R=80%)である。
テーパは、フィルタリング物質(8)で被覆されており、吸収体は、この有益な実施形態ではコロイド状グラファイトである。
【0034】
上記高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイスは、伝送システムにおいて、850nmの波長およびOM2またはOM3ファイバのVCSEL光源に基づく伝送システムのスループットおよび距離を増加させるために使用される。
【実施例2】
【0035】
高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイス(3)は、マルチモードファイバ(OM4規格)上で実施され、送信機(1)と受信機(4)との間に直列に挿入される光ファイバテーパを含む。光ファイバテーパ(7)は、分離された領域、即ち、全長が(al)であり、ファイバの直径が(d1)に等しく、この領域の長さはデバイスの動作に直接影響を与えない非テーパ状ファイバ領域と、全長が(b1)であり、ファイバの直径が減少する遷移領域と、全長が(c)であり、ファイバの直径が(d2)に等しいテーパウェスト領域と、を有する。このデバイスは、接続(5)によって光ファイバラインに組み込まれ、受信機(検出器)に直接接続されている。
【0036】
テーパレベルは、R=((d1-d2)/d1)・100%として定義される。
このデバイスの例では、b1=5mm,b2=0mm,c=10mm,d1=125μm,d2=20μm(R=84%)である。
テーパは、フィルタリング物質(8)で被覆されており、吸収体は、この有益な実施形態ではパラフィンである。
【0037】
上記高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイスは、伝送システムにおいて、850nmの波長およびOM4ファイバのVCSEL光源に基づく伝送システムのスループットおよび距離を増加させるために使用される。
【実施例3】
【0038】
高次モードの損失を選択的に増加させるためのデバイス(3)は、1100nm未満の波長、開口数0.37(コアの屈折率の2乗とクラッドの屈折率の2乗との差の平方根として定義される)、コア直径100μmおよびケーシング直径300μmのマルチモードステップインデックスファイバ上で実施される光ファイバテーパを含む。光ファイバテーパは、ファイバレーザの共振器内に直列に挿入される。光ファイバテーパ(7)は、分離された領域、即ち、全長が(al)および(a2)であり、ファイバの直径が(d1)に等しく、これらの領域の長さはデバイスの動作に直接影響を与えない非テーパ状ファイバ領域と、全長が(b1)および(b2)であり、ファイバの直径がそれぞれ減少/増加する遷移領域と、全長が(c)であり、ファイバの直径が(d2)に等しいテーパウェスト領域と、を有する。デバイスは、スプライスされた接続によって光ファイバラインに組み込まれる。
【0039】
テーパレベルは、R=((d1-d2)/d1)・100%として定義される
このデバイスの例では、b1=30mm,b2=20mm,c=20mm,d1=300μm,d2=9μm(R=97%)である。
テーパは、光ファイバのクラッド材料よりも高い屈折率を有するフィルタリング物質(8)で被覆されており、この有益な実施形態では二硫化炭素である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6