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  • 特許-壁版及び建物 図1
  • 特許-壁版及び建物 図2
  • 特許-壁版及び建物 図3
  • 特許-壁版及び建物 図4A
  • 特許-壁版及び建物 図4B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】壁版及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/94 20060101AFI20230810BHJP
   E04C 2/30 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
E04B2/94
E04C2/30 Y
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019048292
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020148063
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】前川 敏晴
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031712(JP,A)
【文献】特開2012-026210(JP,A)
【文献】特開2006-348609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 2/00 - 2/54
E04B 2/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物本体に取り付ける壁版であって、
該壁版の外形を形成する板状の基体部と、
該基体部に埋め込まれ、該基体部を補強する金属補強部と、
前記基体部に固定され、該基体部を建物本体へ取り付けるための取り付け部と
を備え、
前記取り付け部は、
前記基体部の厚み方向の内側面に露出し、前記壁版を建物本体に取り付けるために他の部材と係合する係合部と、
前記厚み方向における前記係合部の移動を規制する移動規制部と、を備え、
該移動規制部は、前記金属補強部の少なくとも一部よりも前記厚み方向の外側に配置され前記基体部と当接する当接部を備え、該当接部は、該当接部の前記厚み方向の内側面で前記基体部と当接し、
前記取り付け部は、前記移動規制部を有し前記基体部の外側面の外側から該基体部に挿入されている第1部材と、前記係合部を有し前記基体部の内側面の内側から該基体部に挿入されている第2部材と、を含み、前記第1部材及び前記第2部材は互いに接合されていることを特徴とする壁版。
【請求項2】
前記取り付け部は、前記基体部の内側面よりも内側に突出していない、請求項1に記載の壁版。
【請求項3】
前記当接部は、前記基体部の前記厚み方向の外側に面する荷重受け面と当接する、請求項1又は2に記載の壁版。
【請求項4】
前記基体部の外側面は塗装されている、請求項3に記載の壁版。
【請求項5】
前記移動規制部は、前記厚み方向に延在し、前記係合部と連続する延在部を備え、
前記当接部は、前記延在部よりも前記基体部の面内方向に向かって突出する突出部である、請求項1から4のいずれか一項に記載の壁版。
【請求項6】
前記第1部材は、前記厚み方向に延在する雄ねじ部を備え、
前記第2部材は、前記厚み方向に延在する雌ねじ部を備え、
前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、ねじ接合されている、請求項に記載の壁版。
【請求項7】
前記第2部材は、前記雌ねじ部から前記基体部の面内方向に突出するフランジ部を有し、前記基体部は、前記第1部材の前記突出部と、前記第2部材の前記フランジ部と、により前記厚み方向で挟み込まれている、請求項6に記載の壁版。
【請求項8】
前記フランジ部には、前記基体部に向けて突出する回り止め部が形成されている、請求項7に記載の壁版。
【請求項9】
前記金属補強部はメタルラスで形成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の壁版。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の壁版を取り付けた建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁版及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の基礎構造の上に、軸組架構の周囲を例えば軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」と記載する。「ALC」とは「autoclaved light weight concrete」の略である。)のパネルで覆った上部構造体を配置した工業化住宅の開発が進められている。例えば、特許文献1には、中空無筋の外壁パネルを基礎または下階の鉄骨梁に支持させ、壁軸組などの補強部材を用いることなく各階の外壁を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002- 81159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された構成では、外壁パネルが金属部材等の補強部材を含んでいないため、強い外力がかかるとナット金具周辺部を起点として外壁パネルが破壊する可能性があり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐破壊性に優れた壁版(外壁部材)、及びそれを用いた建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の壁版は、
建物本体に取り付ける壁版であって、
該壁版の外形を形成する板状の基体部と、
該基体部に埋め込まれ、該基体部を補強する金属補強部と、
前記基体部に固定され、該基体部を建物本体へ取り付けるための取り付け部と
を備え、
前記取り付け部は、
前記基体部の厚み方向の内側面に露出し、前記壁版を建物本体に取り付けるために他の部材と係合する係合部と、
前記厚み方向における前記係合部の移動を規制する移動規制部と、を備え、
該移動規制部は、前記金属補強部の少なくとも一部よりも前記厚み方向の外側に配置され前記厚み方向の内側面で前記基体部と当接する当接部を備えることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記取り付け部は、前記基体部の内側面よりも内側に突出していないことが好ましい。
【0008】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記当接部は、前記基体部の前記厚み方向の外側に面する荷重受け面と当接することが好ましい。
【0009】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記基体部の外側面は塗装されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記移動規制部は、前記厚み方向に延在し、前記係合部と連続する延在部を備え、前記当接部は、前記延在部よりも前記基体部の面内方向に向かって突出する突出部であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記取り付け部は、前記移動規制部を有し前記基体部の外側面の外側から該基体部に挿入されている第1部材と、前記係合部を有し前記基体部の内側面の内側から該基体部に挿入されている第2部材と、を含み、前記第1部材及び前記第2部材は互いに接合されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記第1部材は、前記厚み方向に延在する雄ねじ部を備え、前記第2部材は、前記厚み方向に延在する雌ねじ部を備え、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、ねじ接合されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記第2部材は、前記雌ねじ部から前記基体部の面内方向に突出するフランジ部を有し、前記基体部は、前記第1部材の前記突出部と、前記第2部材の前記フランジ部と、により前記厚み方向で挟み込まれていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記フランジ部には、前記基体部に向けて突出する回り止め部が形成されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の壁版は、上記構成において、前記金属補強部はメタルラスで形成されていることが好ましい。
【0016】
また、本発明の建物は、上記のいずれかに記載の壁版を取り付けた建物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐破壊性に優れた壁版、及びそれを用いた建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る壁版の概略構成を示す側面断面図である。
図2】(a)~(d)は、図1の壁版を形成し、施工する手順を示す側面断面図である。
図3】(a),(b)は、図1の第2部材の構成を示す斜視図である。
図4A】本発明の一実施形態に係る壁版の変形例を示す側面断面図である。
図4B図4AにおけるA部拡大詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る壁版100(外壁部材)を、L字部材50を介して建物本体の梁部材60に取り付けた状態を示す側面断面図である。壁版100が取り付けられる建物は、例えば鉄骨造の軸組みを有する2階建ての工業化住宅等である。
【0021】
なお、本明細書、特許請求の範囲、又は図面において、単に「内側」と記載した場合には、建物の中心側(図1の右側)を意味するものとし、「外側」はその逆側を意味するものとする。また、基体部1の面内方向とは、板状部材である基体部1の厚み方向(図1の左右方向)に直交する方向(図1における上下方向、紙面に垂直方向及びこれらの合成ベクトルの方向)を意味するものとする。また、「建物本体」とは、建物における壁版100(外壁部材)を除いた部分を指すものとする。
【0022】
建物は、地盤に固定された鉄筋コンクリート造の基礎構造と、柱部材や梁部材60などの軸組部材で構成された軸組架構等を有し基礎構造に固定された上部構造体と、で構成されている。なお、軸組架構を構成する軸組部材は、規格化(標準化)されたものであり、予め工場にて製造された後に施工現場に搬入されて組み立てられる。
【0023】
基礎構造は、軸組架構の下方に位置し、軸組架構を支持している。具体的に、基礎構造は、鉄筋コンクリート造の外周基礎梁及びフーチングを備えている。基礎構造は、地盤に埋設されており、フーチングの底面に当接して配置される杭体をさらに備えていてもよい。また、外周基礎梁の上端部には、露出型固定柱脚工法により軸組架構の柱部材の柱脚を固定するための柱脚固定部が設けられ、アンカーボルトが外周基礎梁の上面から突出している。基礎構造は、上部構造体の軸組架構からの鉛直荷重を地盤に分散して伝達する機能に加えて、上部構造体における外装部材や床部材を支持する機能を有している。
【0024】
外周基礎梁は、鉄筋コンクリート造であり、上部構造体の下方に位置し、上部構造体を支持している。また、外周基礎梁の下方には、外周基礎梁と一体で形成された、建物の荷重を地盤に伝える鉄筋コンクリート造のフーチングが設けられている。
【0025】
上部構造体は、複数の柱部材及び柱部材間に架設された複数の梁部材60から構成される軸組架構と、この軸組架構の外周部に配置される外周壁と、階間に位置し階層間を上階屋内空間と下階屋内空間とに隔てる天井材と、室内空間と隣接する他の室内空間とを区画する間仕切壁と、を備えている。
【0026】
外周壁は、壁版100(外壁部材)と、断熱部材と、内装部材と、を含んでいる。壁版100は、例えば、軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」と記載する。「ALC」とは「autoclaved light weight concrete」の略である。)のパネルにより構成することができ、軸組架構の周囲にALCパネルを複数連接させることにより、外周壁の外層を形成することができる。断熱部材は、例えば、フェノールフォーム、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム等の発泡樹脂系の材料で形成することができる。内装部材は、例えば仕切り部材であり、石膏ボード等の部材で形成することができる。
【0027】
次に、壁版100の構成について以下に詳細に説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係る壁版100は、壁版100の外形を形成するALC製の基体部1と、基体部1に埋め込まれ基体部1の面内方向(基体部1の厚み方向(図1の左右方向)に直交する方向)に延在し基体部1を補強する金属補強部3と、基体部1に固定され、基体部1を建物本体へ取り付けるための取り付け部10とを備えている。壁版100は、図1に示すように、取り付けねじ40によりL字部材50に対して固定されており、L字部材50を介して建物本体の梁部材60に取り付けられている。図1の左側が建物の外側、右側が建物の内側(中心に向かう方向)である。
【0029】
基体部1は、壁版100の外形をなす部分であり、本実施形態ではALCにより形成されている。基体部1は、図1の上下方向、紙面に垂直方向、及びそれらの合成ベクトルの方向に延びる板状部分であり、取り付け部10が基体部1を厚み方向に貫通しつつ固定されている。
【0030】
金属補強部3は、板状の基体部1内に埋め込まれ、図1の例では、基体部1の厚み方向略中央位置において面内方向(基体部1の厚み方向(図1の左右方向)に垂直な方向)に延在している。しかし、この態様には限定されず、金属補強部3は、必ずしも基体部1の厚み方向中央位置に設けなくてもよく、基体部1の厚み方向中央位置から外側又は内側にずれた位置に設けてもよい。また、金属補強部3は、基体部1の厚み方向の複数箇所に設けられていてもよい。金属補強部3は、例えば、メタルラス(ALCパネル等の補強材となる金網状部材(JIS5505:2014等参照))で形成されることが好ましいが、鉄筋など他の補強材を用いてもよい。
【0031】
壁版100は、例えば金属補強部3をインサート材としてALC製の基体部1をインサート成形することにより形成することができる。
【0032】
取り付け部10は、ボルト部材である第1部材20と、ナット部材である第2部材30と、を備えている。
【0033】
第1部材20は、後述する第2部材30の雌ねじ部31とねじ接合可能な雄ねじ部25と、雄ねじ部25の外端部(図1の左端部)に一体形成されボルトの頭部をなすヘッド部21と、ヘッド部21の内端に座金として別体配置され、雄ねじ部25から基体部1の面内方向に突出する突出部23とを有している。本実施形態では、第1部材20は、高い引張強度を備える高力ボルト及び平座金により形成されている。雄ねじ部25は、基体部1の厚み方向に延在する延在部を構成している。突出部23は、後述する基体部1の厚み方向外側に面する荷重受け面6cに当接する当接部を構成している。また、突出部23(当接部)及び雄ねじ部25(延在部)は、後述する係合部が基体部1の厚み方向に移動するのを規制する移動規制部を構成している。
【0034】
第2部材30は、円柱形状の内部に雌ねじを形成した雌ねじ部31と、内端部(図1における右端部)に設けられ雌ねじ部31から基体部1の面内方向にフランジ状に突出するフランジ部35とを有する長ナット部材である。雌ねじ部31は、壁版100を建物本体のL字部材50に取り付けるために後述する取り付けねじ40とねじ係合する係合部をなすと共に、第1部材20の雄ねじ部25ともねじ接合可能に構成されている。
【0035】
第1部材20は、基体部1に形成されている貫通穴6b及び第1座繰り部6a(図1及び図2(a)(b)参照)内に外側から(図1の左側から)挿入されている。同様に、第2部材30は、基体部1に形成されている拡径部8a及び第2座繰り部8b(図1及び図2(b)参照)内に内側から(図1の右側から)挿入されている。そして、第2部材30の雌ねじ部31に対して第1部材20の雄ねじ部25を軸線周りに回動させながらねじ接合させていくことで、突出部23とフランジ部35との間で基体部1を強固に挟み込んで固定することができる。なお、第1座繰り部6a内には、図1に示すように補修材5aが充填されている。
【0036】
なお、本実施形態では、第1部材20と第2部材30とがねじ接合により固定されるように構成したが、この態様には限定されない。第1部材20と第2部材30は、例えばアンダーカット係合により固定するようにしてもよい。
【0037】
本実施形態では、第1部材20の突出部23(当接部)は、平座金として構成され、金属補強部3よりも外側(図1の左側)に配置されると共に基体部1の外側に露出する荷重受け面6cに当接している。このような構成によって、例えば壁版100に建物本体から引き離す方向(図1の左方向)の外力が作用し、第1部材20がこれに抗して基体部1を内側(図1の右側)に押圧する場合であっても、第1部材20から基体部1に加わる荷重は、ヘッド部21よりも断面積が大きい突出部23を通じて荷重受け面6cへと分散荷重として作用するので、集中荷重が生じにくい。従って、基体部1がコーン破壊等を起こす可能性を低減することができる。特に、本実施形態では、図1に示すように、突出部23が金属補強部3よりも外側(図1の左側)に配置されているので、突出部23から荷重受け面6cへ伝達された荷重は、高い剛性を有する金属補強部3により受けることができるため、基体部1が突出部23から荷重を受けたときの変形量を抑制することができる。従って、基体部1がコーン破壊等を起こす可能性を更に低減することができる。
【0038】
なお、金属補強部3を基体部1の厚み方向の複数位置に配置する場合は、突出部23は、複数位置の金属補強部3のうちの少なくとも1箇所の金属補強部3よりも外側に配置されていればよい。これによって、突出部23から荷重受け面6cへ伝達された荷重は、当該少なくとも1箇所の金属補強部3によって受けることができるため、基体部1がコーン破壊等を起こす可能性を低減することができるからである。
【0039】
本実施形態に係る壁版100は、図1の例では、取り付けねじ40を雌ねじ部31にねじ係合させることにより基体部1の内側面7がL字部材50に固定されている。また、L字部材50は、取り付けねじ70及び取り付けナット72により建物本体の梁部材60に取り付けられている。なお、壁版100は、L字以外の形状を有する取り付け部材によって梁部材60に取り付けられていてもよい。また、壁版100は、梁部材60以外の軸組架構を構成する部材等に取り付けられていてもよい。
【0040】
次に、第1部材20及び第2部材30を基体部1に挿入して壁版100を形成し、施工現場において壁版100を施工するまでの手順について図2を用いて説明する。
【0041】
本実施形態では、まず図2(a)に示すように、基体部1に第1部材20を挿入するための第1座繰り部6a及び貫通穴6bを形成する。なお、図2(a)~図2(d)では、金属補強部3の図示は省略している。第1座繰り部6aは突出部23の直径よりも大きな直径を有しており、第1座繰り部6aの底面は、突出部23から荷重を受ける荷重受け面6cを構成している。第1座繰り部6a及び貫通穴6bの形成は、基体部1を成形した後に後加工する方法の他、基体部1を成形する際に第1座繰り部6a及び貫通穴6bを同時に設けるようにしてもよい。
【0042】
次に、図2(b)に示すように、基体部1に第2部材30を挿入するための第2座繰り部8b及び拡径部8aを形成する。なお、本実施形態では、図2(a)の工程と、図2(b)の工程を別工程としているが、この態様には限定されず、基体部1を成形する際に第1座繰り部6a及び貫通穴6bに加えて、第2座繰り部8b及び拡径部8aを同時に設けるようにしてもよい。
【0043】
次に、図2(c)に示すように、基体部1の外側から第1部材20を挿入すると共に、基体部1の内側から第2部材30を挿入する。そして、第2部材30の雌ねじ部31に第1部材20の雄ねじ部25がねじ接合するように、第2部材30に対して第1部材20を軸線周りに回動させる。本実施形態では、第2部材30のフランジ部35には、図3に示すように、第2部材30の軸線方向(基体部1の厚み方向)に突出する回り止め部37が形成されている。このように、第2部材30は、回り止め部37が第2座繰り部8bの底面に食い込むことで周方向に固定されるため、作業者は、第2部材30に対して第1部材20を軸線周りに容易に回動させて第1部材20と第2部材30とをねじ接合させることができる。なお、回り止め部37は、例えばフランジ部35の一部を切断し、曲げ加工によって90度折り曲げることによって形成している。また、回り止め部37は、フランジ部35を貫通するビスとすることもできる。
【0044】
図2(c)において、第1部材20と第2部材30とをねじ接合させた後、作業者は、第1座繰り部6aの空間を補修材5aで埋めることによって、基体部1の外側面5と面一に仕上げる。補修材5aの材料としては、例えば基体部1と同一の材料を用いることができる。そして、補修材5aで仕上げた後の基体部1の外側面5に塗装を行う。第1部材20と第2部材30を基体部1に取り付けた後は、基体部1、第1部材20及び第2部材30を一体の壁版100として取り扱うことができ、再度作業者が第1部材20のヘッド部21にアクセスして作業を行う必要が無い。従って、図2(c)に示すように第1部材20と第2部材30を基体部1に取り付け、基体部1の外側面5を補修材5aで仕上げた段階で外側面5に塗装を施し、壁版100として施工現場に出荷することによって、施工現場において壁版100を建物本体に取り付けた後に壁版100の外側を塗装する作業を省略することができる。従って、特に、壁版100を高層階に取り付ける際に、塗料が施工現場の周囲に飛散するのを防止することができる。なお、必ずしも第1座繰り部6a内を補修材で埋める必要はない。
【0045】
作業者は、図2(d)に示すように、施工現場において塗装又は補修後の壁版100を取り付けねじ40によってL字部材50に取り付ける。前述のようにこの取り付け作業の後における塗装工程又は補修工程が不要となるので、塗料等が施工現場の周囲に飛散するのを防止したり、高所における補修作業を省略することができる。
【0046】
図4A及び図4Bは、第1部材20と第2部材30をアンダーカット係合により固定した、本実施形態の変形例に係る壁版200を示している。この変形例では、第1部材20として、ヘッド部21と雄ねじ部25とを備えたボルトの代わりに、内側端に係合突部25Bを備えた雄ねじ部25Aと、雄ねじ部25Aの外側端にねじ係合するナット21Aとを備えている。他方、第2部材30は、雄ねじ部25Aよりもねじ径が大きい雌ねじ部31と、外側端に形成された爪部31B(図4B参照)とを有する構成を備えている。そして、第2部材30の内側端から第1部材20を挿入し、第1部材20を外側に引っ張ることで、図4Bに示すように係合突部25Bを爪部31Bにアンダーカット係合させることができる。最後に、図4Aに示すように、ナット21Aを平座金として構成された突出部23と共に雄ねじ部25Aの外側端に固定することで、第1部材20及び第2部材30を基体部1に固定することができる。
【0047】
以上述べたように、本実施形態は、建物本体に取り付ける壁版100であって、壁版100の外形を形成する板状の基体部1と、基体部1に埋め込まれ、基体部1を補強する金属補強部3と、基体部1に固定され、基体部1を建物本体へ取り付けるための取り付け部10とを備え、取り付け部10は、基体部1の厚み方向の内側面7に露出し、壁版100を建物本体に取り付けるために他の部材と係合する係合部と、厚み方向における係合部の移動を規制する移動規制部と、を備え、移動規制部は、金属補強部3の少なくとも一部よりも厚み方向の外側に配置され厚み方向の内側面で基体部1と当接する当接部を備えるように構成した。このような構成の採用によって、壁版100に建物本体から引き離す方向の外力が作用した場合であっても、取り付け部10から基体部1に加わる荷重は、当接部から荷重受け面6cへ伝達されて高い剛性を有する金属補強部3によって受けることができるため、荷重がかかったときの基体部1における変形量を抑制することができる。従って、基体部1がコーン破壊等を起こす可能性を低減することができ、壁版100の耐破壊性を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態では、取り付け部10は、基体部1の内側面7よりも内側に突出しないように構成した。このような構成の採用によって、壁版100を施工現場等に搬送する際に厚み方向に積層して搬送することができるので、壁版100の搬送効率を高めることができる。
【0049】
また、本実施形態では、当接部は、基体部1の厚み方向の外側に面する荷重受け面6cと当接するように構成した。このような構成の採用によって、当接部を有する部材を外側から基体部1に挿入することで容易に荷重受け面6cに当接させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、基体部1の外側面5が塗装されるように構成した。施工現場においては、内側の係合部を用いて壁版100を建物本体に固定することができるため、施工時に壁版100の外側からの作業等が不要となる。従って、基体部1の外側面5に形成された第1座繰り部6aに補修材5aを充填して外側面5と面一に仕上げ、外側面5に塗装を施してから壁版100を出荷することができる。これによって、施工現場での塗装作業を省略して塗料の飛散を防止することができる。
【0051】
また、本実施形態では、移動規制部は、厚み方向に延在し、係合部と連続する延在部を備え、当接部は、延在部よりも基体部1の面内方向に向かって突出する突出部23であるように構成した。このような構成の採用によって、取り付け部10から基体部1に加わる荷重は、突出部23を通じて荷重受け面6cへと分散荷重として伝達されるので集中荷重が生じにくい。従って、基体部1がコーン破壊等を起こす可能性をより低減することができる。
【0052】
また、本実施形態では、取り付け部10は、移動規制部を有し基体部1の外側面5の外側から基体部1に挿入されている第1部材20と、係合部を有し基体部1の内側面7の内側から基体部1に挿入されている第2部材30と、を含み、第1部材20及び第2部材30は互いに接合されているように構成した。このような構成の採用によって、取り付け部10の基体部1への取り付けが容易になるので、既存の製造設備を用いて、取り付け部10を埋め込み固定した壁版100を製造し易くすることができる。また、移動規制部を有する第1部材20を、係合部が露出する内側面7とは反対側の外側面5から挿入するようにしたので、移動規制部の突出部23(当接部)が当接する荷重受け面6cを基体部1の厚み方向と直交し広面積を有するように設けることで、より大きな荷重を受けることができる。
【0053】
また、本実施形態では、第1部材20は、厚み方向に延在する雄ねじ部25を備え、第2部材30は、厚み方向に延在する雌ねじ部31を備え、雄ねじ部25と雌ねじ部31とは、ねじ接合されるように構成した。このような構成の採用によって、第1部材20及び第2部材30の一方に対して他方を回動することによって容易に両者を連結し基体部1に対して固定することができる。また、雌ねじ部31が雄ねじ部25と接合可能であると共に建物本体側と係合する係合部の機能を兼ねることができるので、取り付け部10の構成を簡素化することができる。
【0054】
また、本実施形態では、第2部材30は、雌ねじ部31から基体部1の面内方向に突出するフランジ部35を有し、基体部1は、第1部材20の突出部23と、第2部材30のフランジ部35と、により前記厚み方向で挟み込まれるように構成した。このような構成の採用によって、取り付け部10を基体部1の厚み方向により強固に固定することができるので、取り付け部10を介して壁版100を建物本体に安定的に固定することができる。
【0055】
また、本実施形態では、フランジ部35には、基体部1に向けて突出する回り止め部37が形成されるように構成した。このような構成の採用によって、回り止め部37が第2座繰り部8bの底面に食い込むことで第2部材30が基体部1に対して周方向に固定されるため、固定された第2部材30に対して第1部材20を容易に相対回転させて第1部材20を第2部材30にねじ接合させることができる。また、第2部材30にフランジ部35を設けたことにより、作業者が過大なトルクで取り付けねじ40を締結しても、フランジ部35が図1のL字部材50に当接することで、第2部材30が基体部1の厚み方向内側に過度に変位することが抑制される。従って、第1部材20が必要以上に強く第2部材30側に引っ張られることがないので、突出部23周辺において基体部1が破壊されることを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、金属補強部3はメタルラスで形成されるように構成した。このような構成の採用によって、比較的小さな壁版100に対しても耐破壊性を向上させることができる。
【0057】
特に、本実施形態では、当接部と金属補強部3との組み合わせにより壁版100の耐破壊性を確保しているため、金属補強部3として必ずしも鉄筋を設ける必要がなく、メタルラス等を用いることができる。従って、壁版100を小壁や腰壁等の品種が多い部材として採用し易くなる。また、従来のように金属補強部(鉄筋)に埋め込みボルト又は埋め込みナットを溶接等によって固定する必要がないので、その観点からもメタルラス等を採用し易い。また、あらかじめ基体部1に形成された貫通穴6b等に取り付け部10を精度良く取り付けることができるので、従来のように、埋め込みボルト又は埋め込みナットの位置決め精度が問題になることもない。
【0058】
本発明を諸図面および実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0059】
例えば、本実施形態では、取り付け部10が第1部材20と第2部材30とで構成されるようにしたが、この態様には限定されない。取り付け部10は、移動規制部と係合部(雌ねじ部31)とを備えた一体部材として構成してもよい。その場合、例えば基体部1の形成は、取り付け部10をインサート材とするインサート成形により形成するようにしてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、移動規制部の突出部23として、座金を用いるように構成したが、この態様には限定されない。移動規制部の突出部23として、例えばフィッシャープラグの拡開部を用いるように構成してもよい。
【0061】
また、本実施形態では、係合部として雌ねじ部31を備えるように構成したが、この態様には限定されない。取り付け部10は、係合部として雄ねじ部やアンダーカット係合部などの他、フィッシャープラグ形式やハトメ形式等の係合手段を有していてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、第2部材30の雌ねじ部31が、建物本体への取り付け手段としての係合部と、第1部材20との連結手段とを兼ねるように構成したが、この態様には限定されない。建物本体への取り付け手段と、第1部材20との連結手段とを個別に設けるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 基体部
3 金属補強部
5 外側面
5a 補修材
6a 第1座繰り部
6b 貫通穴
6c 荷重受け面
7 内側面
8a 拡径部
8b 第2座繰り部
10 取り付け部
20 第1部材
21 ヘッド部
21A ナット
23 突出部(当接部)
25,25A 雄ねじ部(延在部)
25B 係合突部
30 第2部材
31 雌ねじ部(係合部)
31B 爪部
35 フランジ部
37 回り止め部
40 取り付けねじ(他の部材)
50 L字部材
60 梁部材
70 取り付けねじ
72 取り付けナット
100,200 壁版
図1
図2
図3
図4A
図4B