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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】防錆方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 15/00 20060101AFI20230810BHJP
   E04H 12/08 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C23F15/00
E04H12/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019134836
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021017631
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519266694
【氏名又は名称】株式会社川北電工
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 勝敏
(72)【発明者】
【氏名】神薗 哲也
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107913(WO,A1)
【文献】特開平03-000168(JP,A)
【文献】特開2011-246775(JP,A)
【文献】特開2014-005688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 15/00
C23F 11/00
E04H 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方向に伸長する既設の鋼管の内側面の錆びを防止する防錆方法であって、
前記鋼管の側面に当該防錆方法を実施する前から予め備えられている既設孔から前記鋼管の内部に硬質ポリウレタン原料を注入する注入工程と、
前記注入工程により注入された前記硬質ポリウレタン原料を発泡させる発泡工程と、
を備え、
前記既設孔が、前記鋼管の高さ方向において複数設けられ、繰り返し着脱可能なステップボルトにより閉じられた孔であり、
任意に選択されたステップボルトを取り外して露出させた前記既設孔から前記硬質ポリウレタン原料を注入して前記注入工程を実施し、前記ステップボルトを取り付けるとともに前記発泡工程を実施する充填パターンを、前記鋼管の上方に向かって複数回実施することにより、前記鋼管の前記内部に硬質ポリウレタンフォームを充填することを特徴とする防錆方法。
【請求項2】
前記充填パターンを3回以上繰り返す請求項1に記載の防錆方法。
【請求項3】
前記鋼管の上方に向かって複数回実施する充填パターンにおいて、
第一の充填パターンにおいて使用される第一既設孔と、前記第一の充填パターンに続いて実施される第二の充填パターンにおいて使用される第二既設孔との距離が、30cm以上200cm以下である請求項2に記載の防錆方法。
【請求項4】
前記注入工程の完了時において、前記既設孔から注入された前記硬質ポリウレタン原料の上面が当該既設孔よりも下方に位置し、かつ
前記発泡工程において発泡した前記硬質ポリウレタンフォームの発泡完了時の上面が当該既設孔よりも上方に位置するように調整する請求項1から3のいずれか一項に記載の防錆方法。
【請求項5】
前記既設孔として、前記鋼管の下方に設けられた水抜き孔を使用する請求項1から4のいずれか一項に記載の防錆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の鋼管の内側面に錆が生じることを防止するための防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管は、たとえば送電用もしくは通信用などの鉄塔または橋梁などの構造体を構成するための部材として用いられることが知られる。
ところで近年、鋼管を用いた既設構造体の老朽化が問題になっており、各種の補修工事が実施されている。老朽化を促進する要因としては鋼管に発生する錆が挙げられる。発生した錆を放置すると、鋼管の腐食が進行し老朽化する。そのため補修工事として、鋼管の外側面に定期的に防錆塗料が塗装される。
【0003】
しかしながら、鋼管は内部が空洞になっているため、当該内部に雨水などの水が浸入し易い。したがって鋼管における錆の発生は外側面だけでなく、鋼管内部(鋼管の内側面)からも腐食が進行するので、鋼管の外側面から防錆処理を行うだけでは不充分である。また内部の錆は認知がし難く、気づかずに放置することで既設構造体の強度低下を招く虞がある。そこで、鋼管内部の防錆処理が求められる。
【0004】
これに対し、例えば、下記特許文献1には、送電鉄塔などを構成するパイプ構造物の上部開口部よりパイプ下方に向けて、防錆剤が添加されたポリウレタン原料を注入し、発泡させることでパイプ構造物内部を封止するパイプ構造物内部封止方法(以下、従来技術1ともいう)が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、円形鋼管の内部に、硬質ポリウレタンフォーム用組成物を注入し発泡させることにより、当該円形鋼管の内部に存在する空気を鋼管の外に排出し、円形鋼管内部を硬質ポリウレタンフォームで充填する防錆処理方法(以下、従来技術2ともいう)が開示されている。特許文献2では、具体的には、透明アクリル管を用いて、一端を塞ぐとともに他端から硬質ポリウレタンフォーム原料を注入し発泡させる態様が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献3には、中空鋼材の側面に比較的大きめの穴を形成し、当該穴から防錆剤を含有させたウレタン原料を中空鋼材内に注入し、上記ウレタン原料を発泡させることで中空鋼材内にウレタンフォームを充填させる方法(以下、従来技術3ともいう)が開示されている。
【0007】
従来技術1から3に例示される従来の防錆方法は、コンクリート等よりも軽い部材で鋼管内部を充填することができるため、当該鋼管または当該鋼管で構成された構造物に対する負荷が小さい。また、上記従来の防錆方法は、鋼管内部に既成のポリスチレンフォームを充填する場合と異なり、鋼管内部でポリウレタン原料を発泡させてポリウレタンフォームを形成する。そのため、当該ポリウレタンフォームと鋼管内面との接着性が良好であり、ポリスチレンフォームを充填する場合に比べ充填性が良好である。
尚、以下の説明では、鋼製のパイプ構造物、鋼管、および中空鋼材を包括して単に鋼管という場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-107708号公報
【文献】特開2014-5688号公報
【文献】特開2011-246775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、鋼管内部にポリウレタン原料を注入し発泡させてポリウレタンフォームで充填する方法において、防錆効果を維持するために重要なことは、鋼管内面とポリウレタンフォームとの間に隙間を生じさせないことである。鋼管内側面とポリウレタンフォームとの間に隙間があると、雨水、空気中の酸素や湿気が入り込み、発錆の原因となる。或いは、隙間によって断熱性能が低下すると鋼管内外の温湿度差が激しくなり結露を起こしてしまい、これに起因して錆の発生が促進される。
【0010】
これに対し、従来技術1、2は、いずれも鋼管の一方の端部(上端)からポリウレタン原料を注入する方法であるところ、かかる方法では鋼管内側面とポリウレタンフォームとの間に隙間は形成されやすいという問題があった。
たとえば鉄塔を例にすると、鋼管の上端開口部の高さは地上から7~14m程度であることが一般的である。本発明者らの検討によれば、そのような高所から鋼管内にポリウレタン原料を注入して数メートルの高さまで隙間なく充填状態の均一なポリウレタンフォームを形成しようとした場合、ポリウレタン原料の発泡および硬化の反応速度を調整する必要があると考えられた。当該反応速度と注入時間とのタイミングが不適切であると、ポリウレタン原料が目的部位に到達する前に、下方から発泡や硬化が始まり、結果として均一なウレタンフォームの形成がなされず、均一な充填状態が実現されない虞があるからである。尚、本明細書においてポリウレタン原料に関し均一な充填状体とは、未充填部分(隙間)の発生が目視において実質的にない、あるいは少ないことを意味する。
【0011】
しかしながら、数mもの長さの鋼管内に上端から一気に注入されるポリウレタン原料の発泡や硬化のタイミングを調整することは以下の理由から実質的に困難である。
即ち、ウレタン反応は、温度や湿度などの環境条件に大きく影響される。同一のポリウレタン原料でも、高温条件下では、反応速度は速くなり、低温条件下では相対的に反応速度が遅くなる。
これに対し、7~14m程度の高さの鋼管内へ上端から一気にウレタン原料注入した場合、前半に注入されたポリウレタン原料は、後半に注入されたポリウレタン原料の熱および鋼管自体が帯びた熱などの影響で、注入時の温度より高くなる虞がある。これにより、前半に注入されたポリウレタン原料と後半に注入されたポリウレタン原料とにおいて、有意な温度差が生じ、その結果、鋼管下部と鋼管上部とではポリウレタン原料の反応速度が異なり、均一な充填状体が実現されない虞がある。
【0012】
またさらに、数mの高さから下方に向けてポリウレタン原料を注入した場合、鋼管内部底面にポリウレタン原料が落下する前に、一部が鋼管内側面に付着してしまう虞がある。鋼管内側面に付着したポリウレタン原料は、内側面伝いに下垂するが、底面までの距離が長い場合には、下垂の途中で発泡および硬化反応が開始する虞がある。かかる場合、内側面に付着した少量のポリウレタン原料が当該内側面において発泡し硬化してなるポリウレタンフォームと、内部底面に到達したポリウレタン原料が発泡し硬化してなるポリウレタンフォームとが当接する部分で隙間が形成される可能性がある。
【0013】
一方、従来技術3は、鋼管の側面に穴を形成し、当該穴から防錆剤を含有させたウレタン原料を注入する。そのため、従来技術3は、形成する穴の位置を調整することによって、上述する従来技術1、2の有する問題を緩和し得る。しかしながら、従来技術3は、鋼管に穴を形成する工程および当該穴を塞ぐ工程を要し、作業が煩雑である。また、地上から数mの高所で穴を空ける場合、作業者の安全性を充分に配慮しなければならないという課題もある。
【0014】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、上下方向に伸長する鋼管内に隙間なく硬質ポリウレタンフォームを充填し、当該鋼管内側面の錆びを良好に防止することができ、作業が容易で作業者の安全性にも優れた防錆方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の防錆方法は、上方向に伸長する既設の鋼管の内側面の錆びを防止する防錆方法であって、上記鋼管の側面に当該防錆方法を実施する前から予め備えられている既設孔から上記鋼管の内部に硬質ポリウレタン原料を注入する注入工程と、上記注入工程により注入された上記硬質ポリウレタン原料を発泡させる発泡工程と、を備え、上記既設孔が、上記鋼管の高さ方向において複数設けられ、繰り返し着脱可能なステップボルトにより閉じられた孔であり、任意に選択されたステップボルトを取り外して露出させた上記既設孔から上記硬質ポリウレタン原料を注入して上記注入工程を実施し、上記ステップボルトを取り付けるとともに上記発泡工程を実施する充填パターンを、上記鋼管の上方に向かって複数回実施することにより、上記鋼管の上記内部に硬質ポリウレタンフォームを充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の防錆方法は、上述のとおり鋼管の側面に設けられ既設孔から当該鋼管の内部に硬質ポリウレタン原料を注入するため、上端開口から硬質ポリウレタン原料を注入する場合に比べ、鋼管内全体において、当該硬質ポリウレタン原料の予定された反応速度を維持し易い。したがって本発明によれば、鋼管の内部に隙間なくポリウレタンフォームを充填することが可能であり、これにより当該鋼管の内側面の錆びを良好に防止することができる。即ち、本発明の防錆方法によれば、鋼管内への雨水や空気の浸入を確実に防止でき、結露の発生を抑制するので、長期にわたり防錆効果を発揮できる。
また本発明の防錆方法は、鋼管の側面に設けられた既設孔を利用するため、穴を空ける作業を実施する必要がない。したがって、本発明は、作業性に優れる。加えて、本発明の注入工程が高所において実施される場合であっても、当該高所に設けられた既設孔を利用するため、高所での穴開け作業を割愛することができ、作業者の安全性が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の防錆方法が実施された鉄塔の概略図である。
図2】(a)は、本発明の第一実施形態の注入工程を説明する説明図であり、(b)は、本発明の第一実施形態の発泡工程を説明するための説明図である。
図3】(a)は、本発明の第二実施形態の注入工程を説明する説明図であり、(b)は、本発明の第二実施形態の発泡工程を説明するための説明図である。
図4】(a)は、本発明の第三実施形態の第一注入工程を説明する説明図であり、(b)は、本発明の第三実施形態の第一発泡工程を説明するための説明図である。
図5】(a)は、本発明の第三実施形態の第二注入工程を説明する説明図であり、(b)は、本発明の第三実施形態の第二発泡工程を説明するための説明図である。
図6】本発明の実施例を説明するための鋼管の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、図1から図6を用いて説明する。すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。図示する本発明の実施態様は、理解容易のために、特定の部材を全体において比較的大きく図示する場合、または小さく図示する場合などがあるが、いずれも本発明の各構成の寸法比率を何ら限定するものではない。
本発明に関し、上下方向とは、特段の断りがない場合には、任意の地点における天地方向を意味し、また「上方向に伸長する鋼管」とは、水平方向に配置された鋼管を除き、垂直上方に伸長する鋼管のみならず、上方向に上り傾斜する鋼管を含む。また本明細書において上端とは、任意の部材の上部端部を意味し、上端部とは上端を含む任意の長さ領域を意味し、下端とは、任意の部材の下方端部を意味し、下端部とは下端を含む任意の長さ領域を意味する。
尚、本明細書では、本発明の防錆方法の対象物として、主として鋼管を例に説明するが、本発明の対象物は、鋼製の管状部材のみならず、降雨などの影響により内部に錆が発生する他の部材よりなる管状部材を広く包含する。
【0019】
本発明の防錆方法は、注入工程および発泡工程を備え、上方向に伸長する既設の鋼管の内側面の錆びを防止する方法である。上記注入工程は、鋼管の側面に備えられている既設孔から上記鋼管の内部に硬質ポリウレタン原料を注入する工程である。上記発泡工程は、注入工程により注入された硬質ポリウレタン原料を発泡させる工程である。本発明の防錆方法は、上記注入工程および発泡工程により、鋼管の内部に硬質ポリウレタンフォームを充填する。
【0020】
本発明において、注入工程と発泡工程とは、時間的に分離した工程であってもよいし、重なっていてもよい。注入工程後の発泡工程の開始のタイミングは、注入された硬質ポリウレタン原料の組成等に起因する発泡開始時間および硬化反応開始時間、施工時の天候、並びに注入速度などに影響される。
【0021】
本発明における既設孔は、鋼管側面の肉圧方向に貫通する孔であって本発明の防錆方法を実施する前から予め設けられた任意の孔である。上記既設孔は、注入工程において硬質ポリウレタン原料を注入可能な程度の孔径であればよく、形状や本来の用途は問わない。既設孔の具体例は、後述する実施形態において詳細に説明する。
【0022】
本発明における鋼管は、筒状の鉄鋼製品であり、たとえば鋼を圧延し管形に成形することで製造される。しかし本発明における鋼管の製造方法は上述に限定されるものではない。既設の鋼管とは、既に立設された鋼管単体のみならず、既設の構造物(例えば鉄塔など)に用いられている鋼管を含む。
【0023】
以下に図1を用いて本発明をより具体的に説明する。図1は、本発明の防錆方法が実施された鉄塔100の概略図である。
鉄塔100は、中空筒状の鋼管10、12、14、16およびこれらを連結し補強するための複数の補強部材18を備える。鋼管10、12は、鉄塔100の軸中心に向かって上り傾斜しており、これらの上端には、鋼管14、16が連結されている。一方、鋼管10、12の下端は基礎20に埋設され支持されている。鋼管14、16は、略垂直に伸長している。鋼管10、12、14、16の上端には、メンテナンスのための上端開口部22、24が設けられている。
【0024】
図1では、鋼管10に対し本発明の防錆方法が実施された状態を示している。即ち、鋼管10の下端部に設けられた既設孔26に注入ホース32を挿入し、注入ホース32に連続するポンプ30からポリウレタン原料を鋼管10の内部に注入して注入工程を実施する。ポリウレタン原料は、ポンプ30によって注入時の圧力を調整することにより注入速度を調整することができる。
【0025】
注入工程により鋼管10の内部に注入された硬質ポリウレタン原料は、発泡して数倍から数十倍に膨張し、これによって発泡工程が実施される。注入された硬質ポリウレタン原料は、発泡するとともに硬化し、または発泡完了後に硬化し、これによって鋼管10の内部に硬質ポリウレタンフォーム48が隙間なく充填される。図1では、鋼管10の内部全体に硬質ポリウレタンフォーム48が充填された状態を示すために鋼管10を黒塗りで図示している。
本発明は図1に示す態様に限定されず、鋼管10の下端から上下方向の中間部まで硬質ポリウレタンフォーム48が充填され当該中間部より上端側は空洞を残す態様を包含する。鋼管10内部の中間部より下方は、特に水が溜まりやすく、また地盤の湿度の影響を受けやすいため発錆が顕著だからである。
【0026】
鉄塔100において、さらに鋼管12、14、16のいずれかまたは全てにおいて、本発明の防錆方法を実施してもよい。この場合にも、鋼管12、14、16に設けられた図示省略する既設孔が利用される。
【0027】
上述する本発明の防錆方法によれば、鋼管10の内部に硬質ポリウレタンフォームを充填することで内側面が雨水などと接触することを防止し、これによって防錆することができる。しかも、鋼管上端よりポリウレタン原料を注入する従来技術1、2とは異なり、注入箇所が鋼管10の上端および下端を除く中間部であるため、スムーズに鋼管10内に硬質ポリウレタン原料を注入し易く均一な充填を得られやすい。その結果、本発明によれば、鋼管10の内部に隙間なく硬質ポリウレタンフォームが形成され易く、良好に防錆が図られる。
【0028】
また本発明は、鋼管10の側面に設けられた既設孔26を利用するので、既設の鉄塔などに設けられている鋼管でも、高所の作業が平易になり安全性にも優れる。たとえば電波の送受信を行う鉄塔であれば、防錆施工を行っている間も電波の送受信が行われており、高所での作業はかなりの危険を伴う。そのため、鋼管10の上端からポリウレタン原料を注入し、あるいは、鋼管10の側面中間部に穴を開ける作業を行うことは、作業者の安全性の観点から回避することが好ましい。本願発明の防錆方法によれば、そのような作業を要せず、安全に防錆施工を実施することができる。
【0029】
また鋼管10の内部に既に錆が発生していた場合でも、本発明の防錆方法の実施により、当該錆の侵食を抑えるといった防錆効果が期待される。発生した錆に対し水分が接触し難いので錆が広がり難くなるからである。
加えて本発明によれば、鋼管10の内部に硬質ポリウレタンフォームを充填することで鋼管10の補強も図られる。補強の観点から、鋼管10の高さ方向2分の1程度、または高さ方向2分の1以上の高さまで硬質ポリウレタンフォーム48が形成されることが好ましい。例えば、鋼管10の高さが14mであれば、7m以上の高さまで硬質ポリウレタンフォーム48が形成されると、充分に鋼管10の補強効果が発揮され得る。
【0030】
尚、図1では、鋼管10の内部に硬質ポリウレタンフォーム48が形成された時点で、注入ホース32が繋がれた状態にあるが、注入ホース32は、原料注入後、ポリウレタンが半硬化した段階で、先に取り外してもよい。
【0031】
本発明に用いられる硬質ポリウレタン原料は、鋼管10内に注入された後、発泡および硬化し硬質ポリウレタンフォームを形成可能な材料である。一般的に、上記硬質ポリウレタン原料には、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、触媒および発泡剤が含有され、適宜、減粘剤や難燃剤等の任意の成分がさらに配合されてよい。また上記硬質ポリウレタン原料には、さらに防錆剤が含有されてもよい。上記防錆剤は特に限定されない。
【0032】
上記ポリオール成分およびポリイソシアネート成分は、ポリウレタンフォームを成形するために用いられるものから適宜選択して用いることができる。
一般的なポリオール成分としては、エステル型とエーテル型とが挙げられるが、耐久性、特に耐加水分解性の点から本発明ではポリエーテルポリオールが好適に用いられる。
ポリイソシアネート成分としては特に制限されないが、一般にはポリメチレンポリフェニルイソシアネート(ポリメリックMDI)等の有機ジイソシアネートが好ましく用いられる。
発泡剤としては、特に制限されないが、水、炭酸ガス、炭化水素などのノンフロン系発泡剤が環境対策上好ましい。
【0033】
本発明の実施により鋼管内に形成される硬質ポリウレタンフォームは、とくにその物性を数値で限定されるものではないが、例えばJIS A 9511に準拠して測定された見掛け密度が25kg/m以上であることが好ましい。以下に本発明の防錆方法の実施形態について、より具体的に説明する。
【0034】
(第一実施形態)
以下に本発明の防錆方法の第一実施形態について図2を用いて説明する。図2(a)は、本発明の第一実施形態の注入工程を説明する説明図であり、図2(b)は、本発明の第一実施形態の発泡工程を説明するための説明図である。
【0035】
第一実施形態に関し、基礎20に支持されて略垂直方向に伸長する鋼管40と当該鋼管40を支持する支持部材56を備える構造体を用いて説明する。鋼管40は、内部が空洞の円筒形であって、作業者が鋼管40を上るためのステップボルト28が複数設けられている。ステップボルト28は、鋼管40に予め設けられた既設孔26に対し繰り返し着脱可能に取り付けられている。鋼管40の上端には上端開口部22が設けられている。鋼管40の上下方向中間部には支持部材56の一端が固定されており、支持部材56の他端が地面に設けられた基礎58に固定されている。
【0036】
本実施形態における注入工程は、適宜選択されたステップボルト28を取り外して露出させた既設孔26に注入ホース32の先端に設けられたノズル(図示省略)を挿入し、鋼管内部に硬質ポリウレタン原料46を注入する。図2(a)には、鋼管40の下端部に設けられたステップボルト28を取り外して露出させた既設孔26から硬質ポリウレタン原料46を注入した状態を示している。
【0037】
本工程における硬質ポリウレタン原料46の注入量は、特に限定されず、鋼管40の内部に形成される硬質ポリウレタンフォームの体積を勘案し、適宜決定することができる。本実施形態では、既設孔26により注入された硬質ポリウレタン原料46は、全量が注入された際の原料の上面が注入に用いられた既設孔26の高さより低い。換言すると、一度の注入工程において硬質ポリウレタン原料46の全量が注入された直後の注入高さよりも当該注入工程で使用される既設孔26が高い位置となるよう、複数のステップボルト28から適当なステップボルト28を選択している。尚、本明細書において注入高さとは、注入工程完了直後であって発泡前の鋼管40内における硬質ポリウレタ原料の上面の高さを意味する。
【0038】
注入高さと、注入工程において使用された既設孔26の高さとの上下方向の位置関係は特に限定されないが、たとえば、注入工程の完了時において、既設孔26から注入された硬質ポリウレタン原料46の上面(注入高さ)が当該既設孔26よりも下方に位置し、かつ発泡工程において発泡した硬質ポリウレタンフォーム48の発泡完了時の上面が当該既設孔26よりも上方に位置するように調整する態様は以下の点で好ましい。
即ち、上記高さ関係では、注入工程が終了した後、速やかに先端に図示省略するノズルの設けられた注入ホース32を取り外しても既設孔26から硬質ポリウレタン原料46が漏れ出る恐れがない。注入ホース32を取り外した後、速やかにステップボルト28を取り付けることで既設孔26に蓋がされた状態となる。そのため、その後に、硬質ポリウレタン原料46が発泡し上方に膨張してきた際、硬質ポリウレタン原料46が漏れ出ることがなく、また既設孔26が設けられた領域は、発泡する硬質ポリウレタン原料46に隙間なく覆われ最終的に硬質ポリウレタンフォーム48が均一な状態で充填される。
【0039】
用いる硬質ポリウレタン原料46の組成にもよるが一般に硬質ポリウレタン原料は数倍から数十倍の体積に膨張し硬質ポリウレタンフォームをなす。そのため、図2(a)(b)に示すとおり、注入された硬質ポリウレタン原料46が少量でも上端部付近まで硬質ポリウレタンフォームを形成することが可能である。
【0040】
注入工程終了後、注入された硬質ポリウレタン原料46が発泡し硬化することで図2(b)に示すとおり鋼管40の内部に硬質ポリウレタンフォーム48が充填される。本実施形態では鋼管40の上端部には空間49を残している。尚、鋼管40に上端開口部22が設けられていない場合には、適宜、空間49に面する上端部のステップボルト28を取り外して既設孔26を露出させ、これを空気穴として利用してもよい。当該空気穴は、発泡工程後に再度、ステップボルト28を取り付けることで封じてもよいし、水抜き孔として開口させたままとしてもよい。
【0041】
ところでステップボルト28は、作業者が鋼管40を上り、また作業するための足場として予め鋼管40の高さ方向において複数設けられたものである。一般的に、単一の既設鋼管、または図1に示すような鉄塔に用いられる鋼管には、作業者の作業を容易とするためにこのようなステップボルト28が設けられる。複数のステップボルト28は、作業者が登り降りできる程度の間隔で設置され、一般的に所定の方向から見た場合に左右交互に設けられている。ステップボルト28の左右での高さの差は、400mm以下が好ましいとされており、250mm以上350mm以下の間隔で設置されていることが一般的である。
【0042】
ステップボルト28は、鋼管40の側面の所定の位置に設けられた厚み方向に貫通する既設孔26に取り付けられている。取り付け方は特に限定されないが、たとえばステップボルト28は、予め雄ねじが切られており、雌ねじが切られた既設孔26に対し、ねじ止めされる。ステップボルト28は、老朽化した場合には取り換え可能であることが好ましい。そのため、ステップボルト28は、既設孔26に対し繰り返し着脱可能に取り付けられている。換言するとステップボルト28は、既設孔26に対する繰り返し着脱可能な蓋部ともいえる。
【0043】
ステップボルト28を取り付けるための既設孔26の孔径は特に限定されないが、5mm以上100mm以下のものが多い。上述する注入工程において用いられる注入ホース32の先端に適宜、既設孔26の孔径以下のノズル外径を有する注入ノズルを取り付け、当該ノズルを既設孔26に挿入して注入することができるため、既設孔26の孔径は、5mm以上20mm未満であってもよい。使用するノズルのノズル外径が既設孔26の孔径よりも大きい場合には、ジョイントを用いて当該ノズルと既設孔26とを連結させてポリウレタン原料46を鋼管40の内部に注入することができる。
【0044】
注入工程において速やかに硬質ポリウレタン原料46を注入するため、一般には原料に適度な圧力をかけ注入ホース32の先端から硬質ポリウレタン原料46を噴出させる。既設孔26の口径が5mm以上20mm未満であれば、既設孔26と注入ホース32(またはこれに取り付けたノズル等)とを密着させ易く、噴出する硬質ポリウレタン原料46が既設孔26と注入ホース32との隙間から鋼管40の外側に漏れ出ることを良好に防止することができる。
【0045】
尚、支持部材56は、内部が中空の筒状体であって、かつ鋼管40の内部空間と連通されていない場合がある。かかる場合、支持部材56の上方、或いは下方に既設孔が設けられていれば、当該既設孔から硬質ポリウレタン原料46を注入し、支持部材56に対しても本発明を実施してもよい。
【0046】
(第二実施形態)
以下に本発明の防錆方法の第二実施形態について図3を用いて説明する。図3(a)は、本発明の第二実施形態の注入工程を説明する説明図であり、図3(b)は、本発明の第二実施形態の発泡工程を説明するための説明図である。本実施形態における鋼管42は、下端部に水抜き孔27が設けられていること、および支持部材56が設けられていないこと以外は、第一実施態様における鋼管40と同様に構成されている。
【0047】
本実施形態における注入工程は、既設孔26として鋼管42の下方に設けられた水抜き孔27を利用する。水抜き孔27は、鋼管42内に浸入した雨水などを排出するための孔である。内部が空洞である鋼管42には水抜き孔27が設けられている場合が多い。ステップボルト28が設けられていない場合であっても、水抜き孔27を既設孔26として利用することで、ポリウレタン原料を注入するための穴開け作業を割愛することができる。また、水抜き孔27は、通常、地盤近くに設けられるため、注入工程の作業を地上で行うことができるため、注入工程の作業が容易であり、また安全性も高い。
【0048】
図3(a)に示すとおり水抜き孔27に注入ホース32を直接または間接に連結し鋼管42の内部に硬質ポリウレタン原料46を注入することができる。水抜き孔27は鋼管42の下端近くに設けられることが多い。そのため、本実施例では、充分な量の硬質ポリウレタン原料46を注入するため、水抜き孔27の高さよりも注入高さが高くなっている。
【0049】
注入工程後、注入ホース32を取り外すタイミングは特に限定されないが、注入された硬質ポリウレタン原料46が硬化または半硬化した状態で注入ホース32を取り外すことが好ましい。このように既設孔26の高さより注入高さが高くなる場合には、ノズルを用いず、注入ホース32の先端と既設孔26とを接合させることが好ましい。既設孔26より鋼管42内部に突出させたノズル(あるいは注入ホース32の先端)を、硬質ポリウレタン原料46が硬化または半硬化してから取り外した場合、既設孔26付近に隙間が形成される場合があるからである。
【0050】
注入工程後、発泡工程において注入された硬質ポリウレタン原料46が発泡し硬化して、鋼管42の内部に硬質ポリウレタンフォーム48が形成される。発泡工程時、またはその後、水抜き孔27を、任意の封止部材34で封止してもよい。また、水抜き孔27を塞ぐ代わりに、鋼管42内に形成された硬質ポリウレタンフォーム48の上面よりも上方にあるステップボルト28を取り外して既設孔26を露出させ、これを新たな水抜き孔27’としてもよい。
【0051】
(第三実施形態)
以下に本発明の防錆方法の第三実施形態について図4図5を用いて説明する。図4(a)は、第三実施形態の第一注入工程を説明する説明図であり、図4(b)は、第三実施形態の第一発泡工程を説明するための説明図である。図5(a)は、第三実施形態の第二注入工程を説明する説明図であり、図5(b)は、第三実施形態の第二発泡工程を説明するための説明図である。
【0052】
本発明者らの検討によれば、一度の注入工程および発泡工程で、数mから数十mの鋼管に対し硬質ポリウレタンフォームを充填する場合、当該硬質ポリウレタンフォームの見掛け密度や圧縮強度などの物性が、当該硬質ポリウレタンフォームの上下方向において有意に相違する場合があることがわかった。かかる場合に、充填状態が不均一になり易く、その結果、鋼管内に隙間が発生する虞がある。
例えば、鋼管の上端開口から鋼管底部に向かって一気にポリウレタン原料を注入する従来技術によれば、ウレタン反応は発熱反応のため鋼管下端部付近に熱が籠り、上下方向において注入された原料の温度差が発生し易く、その結果、発泡および硬化の条件が相違して上述のとおり、上下方向における上記物性の相違が発生し易いと推察された。また、上下方向に温度差がない場合であっても、鋼管内の温度が上がりすぎると、形成された硬質ポリウレタンフォーム48が熱収縮を起こし、鋼管内側面から剥離した箇所が発生する虞がある。
上述に記載する鋼管内部に充填される硬質ポリウレタンフォームの物性が上下方向に有意に相違することを良好に防止可能であり、鋼管内部の熱が籠り難い防錆方法として以下に本発明の第三実施形態を説明する。
【0053】
本実施形態は、既設孔として、鋼管40の高さ方向において複数設けられ、繰り返し着脱可能な蓋部(ステップボルト28)により閉じられた孔(既設孔26)を用い、注入工程および発泡工程を複数回実施する態様である。本実施形態では一度の注入工程と、当該注入工程後に実際する一度の発泡工程とを併せて充填パターンと称す。本実施形態は、上記充填パターンを鋼管40の高さ方向に複数回繰り返す。
ここで、図4および図5に示す鋼管40は、両端開口であり中空の管部材40A、40B、40Cを上下方向に連続させて固定し長尺な円筒形をなしていること以外は、第一実施形態において説明した鋼管40と同様である。上方方向に隣り合う管部材同士は、内部空間が連通しているため、任意の位置から鋼管40内部に注入される硬質ポリウレタン原料の注入が上下方向に隣り合う管部材の境界において妨げられることがない。
【0054】
管部材40A、40B、40Cは、同じ長さであってもよいし異なる長さであってもよい。本実施形態は、複数の管部材からなる鋼管(鋼管40)に対し、複数回の注入工程を実施する態様について説明するものである。管部材40A、40B、40Cの端部には、例えば図示省略するフランジが設けられているとよい。上下方向に当接するフランジ同士を固定することによって、鋼管40の一体性が良好に図られる。
尚、本実施形態では上記孔として既設孔26を示し、上記蓋部として既設孔26に着脱可能に取り付けられることで既設孔26を実質的に封止するステップボルト28を示すが、本実施形態における蓋部および孔はこれに限定されるものではない。
【0055】
本実施形態では、まず、図4(a)に示すとおり、最下段に位置する管部材40Aに設けられた複数の既設孔26から任意に選択された既設孔26A(26)の蓋部(ステップボルト28)を取り外し、当該既設孔26A(26)から注入ホース32を介して硬質ポリウレタン原料46Aを注入して第一注入工程を実施する。より具体的には、本実施形態では複数のステップボルト28のうち、下方(図4では最下段)に設けられたステップボルト28を取り外して既設孔26A(26)を露出させ、ここから硬質ポリウレタン原料46A(46)を鋼管40の内部に注入する。第一注入工程後、図4(b)に示すとおり、蓋部であるステップボルト28を取り付けるとともに第一発泡工程が実施され硬質ポリウレタンフォーム48Aが形成され、第一の充填パターンが終了する。
【0056】
第一注入工程後に蓋部であるステップボルト28を既設孔26A(26)に対し再度取り付けるタイミングは、特に限定されず、注入された硬質ポリウレタン原料46A(46)が既設孔26A(26)に到達する前であってもよいし、注入された硬質ポリウレタン原料46A(46)が発泡して既設孔26A(26)を超える高さまで膨張した後であってもよい。
【0057】
上述する第一の充填パターン終了後、次いで、図5(a)に示すとおり、既設孔26A(26)よりも上方に位置するとともに、第一の充填パターンにおいて形成された硬質ウレタンフォーム48Aの上面よりも高い位置にあるステップボルト28を取り外す。これにより露出した既設孔26B(26)から注入ホース32を介して硬質ポリウレタン原料46B(46)を鋼管40内に注入して第二注入工程を実施する。図5(a)では、上下方向中間部に配置された管部材40Bに設けられたステップボルト28を取り外し、既設孔26B(26)を露出させ、当該既設孔26B(26)に注入ホース32が繋がれた態様を示している。
【0058】
第二注入工程後、図5(b)に示すとおり、第二発泡工程が実施され硬質ポリウレタンフォーム48Bが形成される。蓋部であるステップボルト28は適宜のタイミングで既設孔26B(26)に取り付けられる。これによって第二の充填パターンが終了する。
第一の充填パターンにおいて硬質ポリウレタンフォーム48Aが形成された後、注入される硬質ポリウレタン原料46B(46)は、硬質ポリウレタンフォーム48Aの上面を覆った状態から発泡を開始するため、硬質ポリウレタンフォーム48Aと硬質ポリウレタンフォーム48Bとは接合した状態となり、最終的に一体物である硬質ポリウレタンフォーム48が鋼管40の内部に充填される。
【0059】
このように本実施形態は、鋼管40の上方に向かって充填パターンを複数回実施することを特徴とする。具体的には、充填パターンを2回実施した例を用いて説明したが、一度の注入工程における注入量を調整し、また鋼管40の高さ、内部に硬質ポリウレタンフォーム48を充填する量などを適宜勘案して、充填パターンを3回以上繰り返してもよい。
【0060】
1回目の充填パターンで注入される硬質ポリウレタン原料46A(46)と、2回目の充填パターンで注入される硬質ポリウレタン原料46B(46)とは、同一組成の原料であってもよく、異なる組成の原料であってもよい。複数回実施される充填パターンに用いられる全ての硬質ポリウレタン原料(46A、46B)として同一組成のものを用いることにより、最終的に得られる硬質ポリウレタンフォーム48の物性の均一化が図り易い。
【0061】
上記充填パターンを複数回繰り返す本実施形態によれば、鋼管40において、原料の注入およびウレタン発泡を多段階に分けることができる。つまり1回の注入工程において注入される硬質ポリウレタン原料(46A、46B)の注入量を調整することができる。そのため、鋼管40の内部に充填された硬質ポリウレタン原料(46A、46B)の熱が籠って内部温度が上がりすぎることを良好に抑制することができる。
その結果、注入された硬質ポリウレタン原料(46A、46B)の発泡および硬化の条件が鋼管40内部において部分的に有意に相違することを回避し、隙間発生の原因となるような物性の不均一が硬質ポリウレタンフォーム(48A、48B)に生じることを回避することができる。また、形成された硬質ポリウレタンフォーム48が熱収縮を起こし、鋼管40内側面から剥離して隙間が発生することも良好に防止される。
【0062】
鋼管40の上方に向かって充填パターンを複数回実施する場合、第一の充填パターン(図4(a)(b)参照)において使用される既設孔26Aと、第一の充填パターンに続いて実施される第二の充填パターン(図5(a)(b)参照)において使用される既設孔26Bとの距離は、30cm以上200cm以下であることが好ましく、35cm以上145cm以下であることがより好ましい。
上記距離がかかる範囲であれば、形成される硬質ポリウレタンフォーム48A、48Bそれぞれの物性の均一化が良好に図られるとともに熱収縮も抑制し易い。上記距離が30cm未満である場合、鋼管40の高さにもよるが、充填パターンを多数回繰り返す必要があり、作業性が悪い。また上記距離が200cmを超えると、一度の注入工程における硬質ポリウレタン原料(46A、46B)の注入量が多くなり、形成される硬質ポリウレタンフォーム48A、48Bそれぞれにおける物性の不均一化および有意な熱収縮が起こる可能性がある。
尚、上記距離は、既設孔26Aの中心から既設孔26Bの中心までの距離を指す。
【0063】
本実施形態では、第一の充填パターンおよび第二の充填パターンそれぞれにおける、硬質ポリウレタン原料46A、46Bの注入量は略同量である。ただし、これは一例であって、複数回繰り返される充填パターンにおいて注入される硬質ポリウレタン原料の注入量は、各充填パターンにおいて異なってもよい。
また、本実施形態では、選択される既設孔26A、26Bの位置が、任意の方向から見た鋼管40の側面において、左右方向に異なる例を示したが、これは一例であって、選択される複数の既設孔26の左右方向の位置は特に限定されない。
【0064】
上述に本発明の第一実施形態から第三実施形態について説明したが、かかる説明は本発明を何ら制限するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜、態様の一部を変更することができる。たとえば、第二実施形態では水抜き孔を既設孔として利用する態様を説明したが、続けて、当該水抜き孔よりも上方にあるステップボルトを取り外して既設孔を露出させ、当該既設孔を利用してさらに注入工程及び発泡工程を実施することもできる。
【実施例
【0065】
(実施例1)
以下に本発明の実施例1を示す。本実施例は、本発明の防錆方法であって充填パターンを3回繰り返す態様の実施により、鋼管の上下方向中間部まで硬質ポリウレタンフォームを形成した実施例である。本実施例の説明には、適宜、図6を用いる。図6は、本発明の実施例を説明するための鋼管44の縦断面図であり、第一の充填パターンおよび第二の充填パターンを終了し、第三の充填パターンにおける注入工程を実施している状態を示している。
【0066】
まず、長さ3500mm、内径190.7mmであって上端開口50を備える鋼製の中空状筒体を準備した。上記中空状筒体の側面において、350mmの間隔で、ステップボルト28の端部を挿入して工程するための挿入孔(φ20mm)を複数形成し、これを既設孔26とした。尚、既設孔26は、所定方向から上記中空状筒体を側面視した際に左右交互になるよう形成した。そして各既設孔26にステップボルト28を挿入して固定し、これを鉄塔モデルである鋼管44とした。
【0067】
本実施例に用いる硬質ポリウレタン原料46は、以下のとおり調整した。そして図示省略するウレタン発泡機の原料保持部に注ぎいれた。
ポリオール:ポリオキシアルキレンポリオール
触媒:第三級アミン
整泡剤:シリコーン系整泡剤
発泡剤:水
難燃剤:リン酸エステル
ポリイソシアネート:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート
【0068】
第一の充填パターンにおける第一注入工程を実施するために、鋼管44の下端から500mmの距離t1(最下段)に設けられたステップボルト28を取り外し、既設孔26A(26)を露出させ、上記ウレタン発泡基に連結された注入ホース32の先端を既設孔26A(26)に繋いだ。そして、注入ホース32を介して鋼管44の内部に硬質ポリウレタン原料を注入して第一注入工程を実施した。注入量は、設定見掛け密度を30kg/mとし、かつ硬質ポリウレタン原料の注入高さが、既設孔26A(26)の高さよりも低く、かつ形成される硬質ポリウレタンフォーム48Aの上面の高さが既設孔26Aより高くなるよう調整し、0.7kgとした。
第一注入工程後、速やかに注入ホース32を取り外し、既設孔26A(26)にステップボルト28を取り付けて封止した。注入された硬質ポリウレタン原料が発泡することで第一発泡工程が行われ、これによって第一の充填パターンを終了した。
【0069】
上記第一の充填パターン終了後、第二の充填パターンを以下のとおり実施した。まず第二の充填パターンにおける第二注入工程を実施するため、第一注入工程にて使用した既設孔26A(26)から700mmの距離t2に設けられたステップボルト28を取り外し、既設孔26B(26)を露出させ、注入ホース32の先端を既設孔26B(26)に繋いだ。そして、注入ホース32を介して鋼管44の内部に硬質ポリウレタン原料を注入して第二注入工程を実施した。注入量は、設定見掛け密度を30kg/mとし、かつ硬質ポリウレタン原料の注入高さが、既設孔26B(26)の高さよりも低く、かつ形成される硬質ポリウレタンフォーム48Bの上面の高さが既設孔26B(26)より高くなるよう調整し、0.9kgとした。
第二注入工程後、速やかに注入ホース32を取り外し、既設孔26B(26)にステップボルト28を取り付けて封止した。注入された硬質ポリウレタン原料が発泡することで第二発泡工程が行われ、これによって第二の充填パターンを終了した。
尚、第二注入工程は、第一注入工程終了時から30分経過後に開始した。
【0070】
上記第二の充填パターン終了後、第三の充填パターンを以下のとおり実施した。まず第三の充填パターンにおける第三注入工程を実施するため、第二注入工程にて使用した既設孔26B(26)から1400mmの距離t3に設けられたステップボルト28を取り外し、既設孔26C(26)を露出させ、注入ホース32の先端を既設孔26C(26)に繋いだ。そして、注入ホース32を介して鋼管44の内部に硬質ポリウレタン原料46Cを注入して第三注入工程を実施した。注入量は、設定見掛け密度を30kg/mとし、かつ硬質ポリウレタン原料の注入高さが、既設孔26C(26)の高さよりも低く、かつ形成される硬質ポリウレタンフォーム48の上面の高さが既設孔26Cより高くなるよう調整し、1.5kgとした。
第三注入工程後、速やかに注入ホース32を取り外し、既設孔26C(26)にステップボルト28を取り付けて封止した。注入された硬質ポリウレタン原料が発泡することで第三発泡工程が行われ、これによって第三の充填パターンを終了した。
尚、第三注入工程は、第二注入工程終了時から30分経過後に開始した。
【0071】
最終的に図6において予定位置54付近に硬質ポリウレタンフォームの上面が到達し、これによって鋼管44の中間部まで当該硬質ポリウレタンフォームが充填された。
【0072】
第三の充填パターンにおける第三注入工程終了時から30分経過後、内部に硬質ポリウレタンフォームが充填された状態の鋼管44を高さh1~h9において横方向に切断した。ここで高さh1、h2、h3は、それぞれ、第一の充填パターンで充填された硬質ポリウレタンフォーム48Aの上下方向において下段、中段、上段に概略相当する位置、高さh4、H5、h6は、それぞれ、第二の充填パターンで充填された硬質ポリウレタンフォーム48Bの上下方向において下段、中段、上段に概略相当する位置、および高さh7、H8、h9は、それぞれ、第三の充填パターンで充填された硬質ポリウレタンフォームの上下方向において下段、中段、上段に概略相当する位置である。
【0073】
(断面観察)
上述する高さh1~h9で切断した横断面(対向する横断面のうち下側の断面)を目視で観察したところ、未充填部分(隙間)が少なく良好な充填状態が確認された。また断面に露出する硬質ポリウレタンフォームはいずれも目視において略均一な発泡状態が観察され、フォーム状態が良好であることも確認された。
【0074】
(見掛け密度)
見掛け密度は、JIS A 9511に準拠して測定した。具体的には、鋼管44を高さh1~h9において切断してなる横断面(対向する横断面のうち下側の横断面)から50mm×50mm×50mmの寸法の試験片を切り出し、当該試験片をJIS A 9511に供して見掛け密度(kg/m)を測定した。測定結果は表1に示す。
【0075】
実施例1を観察した結果、注入された硬質ポリウレタン原料は、各発泡工程において予定された高さまで膨張し、概ねの発泡工程が終了した後に硬化反応が開始されていた。これによって、鋼管44に注入する硬質ポリウレタン原料の注入回数を複数回に分け、最終的に目的の高さまで硬質ポリウレタンフォームを充填することができることが確認された。
【0076】
(評価)
上記断面観察および上記見掛け密度の測定の結果、充填状態およびフォーム状態はいずれの高さ(h1~h9)でも良好であり、充填性に優れ隙間なく硬質ポリウレタンフォームが充填されたことが確認された。またいずれの高さ(h1~h9)における見掛け密度も、設定見掛け密度を30kg/mに対し差異が10%未満であった。以上の結果から、実施例1の第一充填パターン、第二充填パターン、第三充填パターンの全てにおいて充填状態およびフォーム状態を良好と評価した。
【0077】
【表1】
【0078】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)上方向に伸長する既設の鋼管の内側面の錆びを防止する防錆方法であって、
前記鋼管の側面に備えられている既設孔から前記鋼管の内部に硬質ポリウレタン原料を注入する注入工程と、
前記注入工程により注入された前記硬質ポリウレタン原料を発泡させる発泡工程と、
を備えることにより、前記鋼管の前記内部に硬質ポリウレタンフォームを充填することを特徴とする防錆方法。
(2)前記既設孔が、前記鋼管の高さ方向において複数設けられ、繰り返し着脱可能な蓋部により閉じられた孔であり、
任意に選択された既設孔の前記蓋部を取り外し、当該既設孔から前記硬質ポリウレタン原料を注入して前記注入工程を実施し、前記蓋部を取り付けるとともに前記発泡工程を実施する充填パターンを、前記鋼管の上方に向かって複数回実施する上記(1)に記載の防錆方法。
(3)前記鋼管の上方に向かって複数回実施する充填パターンにおいて、
第一の充填パターンにおいて使用される第一既設孔と、前記第一の充填パターンに続いて実施される第二の充填パターンにおいて使用される第二既設孔との距離が、30cm以上200cm以下である上記(2)に記載の防錆方法。
(4)前記注入工程の完了時において、前記既設孔から注入された前記硬質ポリウレタン原料の上面が当該既設孔よりも下に位置し、かつ
前記発泡工程において発泡した前記硬質ポリウレタンフォームの発泡完了時の上面が当該既設孔よりも上方に位置するように調整する上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の防錆方法。
(5)前記既設孔として、前記鋼管の下方に設けられた水抜き孔を使用する上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の防錆方法。
【符号の説明】
【0079】
10、12、14、16、40、42、44・・・鋼管
18・・・補強部材
20、58・・・基礎
22、24・・・上端開口部
26・・・既設孔
27、27’ ・・・水抜き孔
28・・・ステップボルト
30・・・ポンプ
32・・・注入ホース
34・・・封止部材
46、46A、46B、46C・・・硬質ポリウレタン原料
48、48A、48B・・・硬質ポリウレタンフォーム
49・・・空間
50・・・上端開口
54・・・予定位置
56・・・支持部材
100・・・鉄塔
h1、h2、h3、h4、h5、h6、h7、h8、h9・・・高さ
t1、t2、t3・・・距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6