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特許7329383難燃性防振ゴム組成物および難燃性防振ゴム部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】難燃性防振ゴム組成物および難燃性防振ゴム部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20230810BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230810BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20230810BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20230810BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230810BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20230810BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K5/00
C08K3/24
C08K3/22
C08K5/098
F16F15/08 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019140725
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024872
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】村谷 圭市
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108659285(CN,A)
【文献】特表2008-501849(JP,A)
【文献】特開2003-147050(JP,A)
【文献】特開2008-007730(JP,A)
【文献】特開平07-166047(JP,A)
【文献】特開2005-146256(JP,A)
【文献】特開2009-227695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
C08K 3/00-13/08
F16F 15/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分をゴム成分として含有するとともに、下記の(B)~(D)成分を含有し、下記の(C)が、下記の(X)の表面にモリブデン酸金属化合物が担持された化合物であることを特徴とする難燃性防振ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム。
(B)ハロゲン系難燃剤。
(C)モリブデン酸金属化合物類。
(D)金属水酸化物。
(X)水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、クレー、セリサイトおよび、モンモリロナイトからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる粒子。
【請求項2】
さらに、下記の(E)成分を含有する、請求項1記載の難燃性防振ゴム組成物。
(E)12ヒドロキシステアリン酸化合物。
【請求項3】
上記ハロゲン系難燃剤(B)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し5~40重量部の範囲である、請求項1または2記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項4】
上記金属水酸化物(D)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し40~120重量部の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項5】
上記難燃性防振ゴム組成物におけるモリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合が金属水酸化物(D)よりも少ない、請求項1~4のいずれか一項に記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項6】
上記モリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し1~30重量部の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項7】
上記モリブデン酸金属化合物が、モリブデン酸亜鉛である、請求項1~6のいずれか一項に記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項8】
上記12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)が、12ヒドロキシステアリン酸亜鉛である、請求項2記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項9】
上記12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し0.5~10重量部の範囲である、請求項2または8記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項10】
上記金属水酸化物(D)が、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも一方である、請求項1~のいずれか一項に記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項11】
上記ハロゲン系難燃剤(B)が、融点150℃以下のハロゲン系難燃剤である、請求項1~1のいずれか一項に記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項12】
請求項1~1のいずれか一項に記載の難燃性防振ゴム組成物の加硫体からなることを特徴とする難燃性防振ゴム部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電車,自動車等の車両等に用いられる難燃性防振ゴム組成物および難燃性防振ゴム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電車や自動車には、振動や騒音の低減を目的として、防振ゴム部材が用いられている。上記防振ゴム部材には、低動倍率化(動倍率〔動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks)〕の値を小さくすること)等の防振特性以外に、例えば、難燃性も重要な特性として要求されている。ゴムの難燃化については、そのゴム組成物中に、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物、アンチモン化合物等の難燃剤を添加する手法が一般的である(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-166047号公報
【文献】特開2005-146256号公報
【文献】特開2009-227695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ハロゲン系難燃剤は、難燃効果は高いが、その一方で、不完全燃焼による黒煙の発生が生じやすい等といった問題がある。そして、このような黒煙の発生は、特に鉄道分野で求められる厳しい発煙抑制の妨げとなる。
これに対し、リン系難燃剤や金属水酸化物は、上記のような発煙の問題はないが、難燃効果が低いことから、ゴム中に大量に加えて難燃効果を発現させる必要があり、このことがゴムの耐久性低下の要因となりやすい。しかも、リン系難燃剤や金属水酸化物は、ゴムとの相互作用が低く、さらにその粒径が一般的に大きいことに起因し、ゴム破壊の起点となりやすく、引張強度等のゴム物性を低下させる要因となることが懸念される。
また、アンチモン化合物は、防振ゴム部材の防振特性である低動倍率化に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0005】
このように、発煙の問題や、防振ゴムとしての物性低下の問題を生じることなく、難燃効果を高めることは、実際には非常に難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、防振特性やゴム物性を損なうことなく、難燃性および発煙抑制性に優れる、難燃性防振ゴム組成物および難燃性防振ゴム部材の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ジエン系ゴム(A)に対し、ハロゲン系難燃剤(B)および金属水酸化物(D)とともに、モリブデン酸金属化合物類(C)を含有させたところ、発煙の問題や、防振ゴムとしての物性低下の問題を生じることなく、難燃効果を高めることができることを突き止めた。
すなわち、上記のような組み合わせで各材料を含有させると、ゴム燃焼時にゴム表面に強固な炭化物が形成され、効果的に熱や酸素が遮断されることから、延焼や煙の発生が抑制される。そのため、先に述べたような、ハロゲン系難燃剤(B)や金属水酸化物(D)のみを使用したときにみられたような問題を解消することができる。また、モリブデン酸金属化合物類(C)は、引張強度等のゴム物性を低下させることなく、ゴムの架橋に影響を与えて低動倍率化に寄与するといった作用効果も認められる。
【0008】
すなわち、本発明は、上記の目的を達成するために、以下の[1]~[13]を、その要旨とする。
[1] 下記の(A)成分をゴム成分として含有するとともに、下記の(B)~(D)成分を含有することを特徴とする難燃性防振ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム。
(B)ハロゲン系難燃剤。
(C)モリブデン酸金属化合物類。
(D)金属水酸化物。
[2] さらに、下記の(E)成分を含有する、[1]に記載の難燃性防振ゴム組成物。
(E)12ヒドロキシステアリン酸化合物。
[3] 上記ハロゲン系難燃剤(B)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し5~40重量部の範囲である、[1]または[2]に記載の難燃性防振ゴム組成物。
[4] 上記金属水酸化物(D)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し40~120重量部の範囲である、[1]~[3]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
[5] 上記難燃性防振ゴム組成物におけるモリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合が金属水酸化物(D)よりも少ない、[1]~[4]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
[6] 上記モリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し1~30重量部の範囲である、[1]~[5]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
[7] 上記モリブデン酸金属化合物類(C)が、下記(X)の表面にモリブデン酸金属化合物が担持された化合物である、[1]~[6]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
(X)水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、クレー、セリサイトおよび、モンモリロナイトからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる粒子。
[8] 上記モリブデン酸金属化合物が、モリブデン酸亜鉛である、[7]に記載の難燃性防振ゴム組成物。
[9] 上記12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)が、12ヒドロキシステアリン酸亜鉛である、[2]~[8]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
[10] 上記12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)の含有割合が、ジエン系ゴム(A)100重量部に対し0.5~10重量部の範囲である、[2]~[9]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
[11] 上記金属水酸化物(D)が、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも一方である、[1]~[10]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
[12] 上記ハロゲン系難燃剤(B)が、融点150℃以下のハロゲン系難燃剤である、[1]~[11]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物の加硫体からなることを特徴とする難燃性防振ゴム部材。
【発明の効果】
【0009】
以上のことから、本発明の難燃性防振ゴム組成物は、防振特性やゴム物性といった防振ゴムに要求される特性を満足しつつ、難燃性および発煙抑制性に優れた特性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0011】
本発明の難燃性防振ゴム組成物は、先に述べたように、下記の(A)成分をゴム成分として含有するとともに、下記の(B)~(D)成分を含有する。本発明の難燃性防振ゴム組成物に含まれるゴム成分は、下記の(A)成分のみであることが望ましい。以下、本発明の難燃性防振ゴム組成物に含まれる各成分等について詳細に説明する。
(A)ジエン系ゴム。
(B)ハロゲン系難燃剤。
(C)モリブデン酸金属化合物類。
(D)金属水酸化物。
【0012】
〔ジエン系ゴム(A)〕
上記ジエン系ゴム(A)としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム(EPDM)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、強度や低動倍率化の点で、天然ゴムが好適に用いられる。
【0013】
〔ハロゲン系難燃剤(B)〕
上記ハロゲン系難燃剤(B)としては、特に限定はないが、ゴム物性を低下させる懸念がないことから、その融点が150℃以下のものが好ましく、その融点が120℃以下のものがより好ましい。上記ハロゲン系難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤や塩素系難燃剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、その融点が上記のように低い臭素系難燃剤が、特に好ましい。
【0014】
上記臭素系難燃剤としては、例えば、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールA(DBP-TBBA)、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールS(DBP-TBBS)、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート(TDBPIC)、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート(TTBNPP)等の脂肪族系のものや、臭素化エポキシ樹脂(TBBAエポキシ)等の芳香族系のものが、好ましく用いられる。
【0015】
また、上記塩素系難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン等が、低融点であることから好ましく用いられる。
【0016】
上記ハロゲン系難燃剤(B)の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、5~40重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは10~30重量部の範囲である。すなわち、上記ハロゲン系難燃剤(B)の含有割合が少な過ぎると、所望の難燃効果等が得られず、上記ハロゲン系難燃剤(B)の含有割合が多すぎると、燃焼により黒い煙が発生したり、ゴム物性の低下が引き起こされたりするからである。
【0017】
〔モリブデン酸金属化合物類(C)〕
本発明において、「モリブデン酸金属化合物類」とは、モリブデン酸金属化合物そのものや、その他、無機粒子表面にモリブデン酸金属化合物が担持されたものをも含む趣旨である。特に、上記のような、無機粒子表面にモリブデン酸金属化合物が担持されたものであると、その粒子表面積の大きさにより、モリブデン酸金属化合物による難燃性および発煙抑制の効果を効率よく高めることができることから、好ましい。
上記モリブデン酸金属化合物としては、例えば、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、三酸化モリブデン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、難燃性および発煙抑制の効果をより効率よく高めることができることから、モリブデン酸亜鉛が好ましい。
また、上記無機粒子としては、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、クレー、セリサイト、モンモリロナイト、ケイ酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛等からなる無機粒子があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、上記無機粒子表面にモリブデン酸金属化合物を担持させたときに、難燃性および発煙抑制の効果をより効率よく高めることができることから、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、クレー、セリサイト、およびモンモリロナイトからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる無機粒子が好ましく用いられる。より好ましくは、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、および水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる無機粒子である。
なお、上記無機粒子表面に担持させるモリブデン酸金属化合物としては、上記と同様のものが用いられる。そして、難燃性および発煙抑制の効果をより効率よく高めることができることから、上記無機粒子表面にモリブデン酸亜鉛を担持させたものが特に好ましく用いられる。
また、上記のようにモリブデン酸金属化合物が担持された無機粒子の平均粒径は、0.1~10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1~5μmの範囲である。すなわち、このような平均粒径であると、ゴム物性を阻害することなく難燃性および発煙抑制の効果をより効率よく高めることができるからである。なお、上記平均粒径は、体積平均粒径であり、例えば、母集団から任意に抽出される試料を用い、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することにより導き出すことができる。また、後記の実施例で使用のモリブデン酸金属化合物類の平均粒径も、このようにして測定されたものである。
【0018】
上記モリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、1~30重量部の範囲であることが好ましい。そして、上記モリブデン酸金属化合物類(C)が、モリブデン酸金属化合物そのものの場合、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、1~20重量部の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは2~10重量部の範囲である。また、上記モリブデン酸金属化合物類(C)が、モリブデン酸金属化合物が担持された無機粒子の場合、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、3~30重量部の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは5~10重量部の範囲である。
すなわち、上記モリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合が少な過ぎると、所望の難燃効果が得られず、上記モリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合が多すぎると、ゴム物性の低下が引き起こされるおそれがあるからである。
なお、本発明の難燃性防振ゴム組成物における上記モリブデン酸金属化合物類(C)の含有割合が、下記の金属水酸化物(D)よりも少ないことが、耐久性の観点から望ましい。
【0019】
〔金属水酸化物(D)〕
上記金属水酸化物(D)としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化スズ等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、難燃性および発煙抑制性に優れることから、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく用いられる。
上記金属水酸化物(D)の平均粒径は、通常、0.5~2μmの範囲である。また、上記金属水酸化物(D)の平均粒径が小さい(平均粒径0.75μm以下)と、その粒径に起因したゴム物性の低下が引き起こされるおそれがないといった利点も有する。なお、上記平均粒径も、体積平均粒径であり、例えば、母集団から任意に抽出される試料を用い、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することにより導き出すことができる。また、後記の実施例で使用の金属水酸化物の平均粒径も、このようにして測定されたものである。
【0020】
上記金属水酸化物(D)の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、40~120重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは40~90重量部の範囲であり、さらに好ましくは60~90重量部の範囲である。すなわち、上記金属水酸化物(D)の含有割合が少な過ぎると、所望の難燃効果が得られず、上記金属水酸化物(D)の含有割合が多すぎると、ゴム物性の低下が引き起こされるおそれがあるからである。
【0021】
なお、本発明の難燃性防振ゴム組成物においては、上記(A)~(D)成分とともに、必要に応じて、12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)、補強剤、シランカップリング剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセスオイル等を適宜に配合することも可能である。なお、三酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤を配合することは、難燃効果を高める点においては好ましいことから、本発明においてその配合を排除するものではないものの、防振特性やゴム物性に対する悪影響も懸念されるため、本発明の難燃性防振ゴム組成物に配合しないことが望ましい。
【0022】
12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)は、ゴム組成物の高温溶融時に金属水酸化物(D)やモリブデン酸金属化合物類(C)の分散を促進して難燃性を向上させる効果がある。
上記の、12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)としては、12ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12ヒドロキシステアリン酸リチウム、12ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、12ヒドロキシステアリン酸マグネシウム等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、12ヒドロキシステアリン酸亜鉛は、亜鉛部分がジエン系ゴム(A)の活性ラジカルを捕捉し、安定して燃焼ガスの発生を抑制するため、発煙抑制効果をより高めることができることから、好ましい。
【0023】
上記12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~10重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5~3重量部の範囲であり、さらに好ましくは1~3重量部の範囲である。すなわち、このような割合で12ヒドロキシステアリン酸化合物(E)を含有させると、ゴム物性を阻害することなくハロゲン系難燃剤(B)の分散性を良好にし、発煙抑制効果をより高めることができるからである。
【0024】
上記補強剤としては、カーボンブラック、シリカ、タルク等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0025】
上記補強剤の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、10~100重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは、20~70重量部の範囲である。すなわち、上記含有割合が少なすぎると、一定水準の補強性を満足できなくなるからであり、逆に上記含有割合が多すぎると、動倍率が高くなったり、粘度が上昇して加工性が悪化したりするといった問題が生じるからである。
【0026】
なお、前記金属水酸化物(D)が、上記シランカップリング剤で処理されたものであることが、練り時の加工性がよくなることと、ゴム物性向上の観点から好ましい。
【0027】
上記加硫剤としては、例えば、硫黄(粉末硫黄,沈降硫黄,不溶性硫黄)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0028】
上記加硫剤の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.3~7重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1~5重量部の範囲である。すなわち、上記加硫剤の含有割合が少なすぎると、充分な架橋構造が得られず、動倍率、耐へたり性が悪化する傾向がみられ、逆に加硫剤の含有割合が多すぎると、耐熱性が低下する傾向がみられるからである。
【0029】
上記加硫促進剤としては、例えば、チアゾール系,スルフェンアミド系,チウラム系,アルデヒドアンモニア系,アルデヒドアミン系,グアニジン系,チオウレア系等の加硫促進剤があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、架橋反応性に優れる点で、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0030】
また、上記加硫促進剤の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~7重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5~5重量部の範囲である。
【0031】
上記チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩(NaMBT)、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩(ZnMBT)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、特に架橋反応性に優れる点で、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)が好適に用いられる。
【0032】
上記スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NOBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾイルスルフェンアミド(BBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾイルスルフェンアミド等があげられる。
【0033】
上記チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等があげられる。
【0034】
上記加硫助剤としては、例えば、亜鉛華(ZnO)、ステアリン酸、酸化マグネシウム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0035】
また、上記加硫助剤の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、1~25重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは3~10重量部の範囲である。
【0036】
上記老化防止剤としては、例えば、アミン系老化防止剤、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0037】
また、上記老化防止剤の含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、1~10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは2~5重量部の範囲である。
【0038】
上記プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0039】
また、上記プロセスオイルの含有割合は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、1~50重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは3~30重量部の範囲である。
【0040】
本発明の難燃性防振ゴム組成物は、例えば、つぎのようにして調製することができる。すなわち、前記(A)~(D)成分を配合し、さらに、必要に応じて、前記(E)成分や、補強剤,シランカップリング剤,老化防止剤,プロセスオイル等も配合し、これらを、バンバリーミキサー等を用いて、約50℃の温度から混練を開始し、100~160℃で、3~5分間程度混練を行う。つぎに、これに、加硫剤,加硫促進剤等を適宜に配合し、オープンロールを用いて、所定条件(例えば、60℃×5分間)で混練することにより、難燃性防振ゴム組成物を調製することができる。その後、得られた難燃性防振ゴム組成物を、高温(150~170℃)で5~60分間加硫することにより、難燃性防振ゴム部材(加硫体)を得ることができる。
【0041】
本発明の難燃性防振ゴム組成物は、防振特性やゴム物性を損なうことなく、難燃性および発煙抑制性に優れた効果を得ることができる。このことから、本発明の難燃性防振ゴム組成物は、難燃性が要求される防振ゴム部材、例えば、電車,自動車等の車両に用いられる防振部材(ゴムブッシュ、ゴム緩衝器、コニカル、シェブロン、円筒積層ゴム、エンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ等)や、建築・住宅分野における防振ゴム部材の材料として、好適に用いることができる。とりわけ、燃焼時の発煙(黒煙の発生)が問題視される電車等の鉄道分野での使用において有効に用いることができる。
【実施例
【0042】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0043】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0044】
〔NR(A成分)〕
天然ゴム
【0045】
〔ハロゲン系難燃剤(B成分)〕
融点105~115℃の臭素系難燃剤(FCP680G、鈴裕化学社製)
【0046】
〔モリブデン酸金属化合物類(i)(C成分)〕
炭酸カルシウムおよび酸化亜鉛からなる粒子の表面にモリブデン酸亜鉛が担持された化合物(Kemgard 911A(平均粒径:2.7μm、比重:3.0)、Huber社製)
【0047】
〔モリブデン酸金属化合物類(ii)(C成分)〕
酸化亜鉛粒子表面にモリブデン酸亜鉛が担持された化合物(Kemgard 911B(平均粒径:2.3μm、比重:5.1)、Huber社製)
【0048】
〔モリブデン酸金属化合物類(iii)(C成分)〕
ケイ酸マグネシウム粒子表面にモリブデン酸亜鉛が担持された化合物(Kemgard 911C(平均粒径:3.3μm、比重:2.8)、Huber社製)
【0049】
〔モリブデン酸金属化合物類(iv)(C成分)〕
水酸化マグネシウム粒子表面にモリブデン酸亜鉛が担持された化合物(Kemgard HPSS(平均粒径:2.0μm、比重:3.5)、Huber社製)
【0050】
〔モリブデン酸金属化合物類(v)(C成分)〕
水酸化マグネシウム粒子表面にモリブデン酸亜鉛が担持された化合物(Kemgard MZM(平均粒径:2.0μm、比重:2.6)、Huber社製)
【0051】
〔モリブデン酸金属化合物類(vi)(C成分)〕
モリブデン酸アンモニウム(TF-2000、日本無機化学工業社製)
【0052】
〔金属水酸化物(D成分)〕
水酸化アルミニウム(KH-101(平均粒径:1.0μm)、KC社製)
【0053】
〔12ヒドロキシステアリン酸化合物(E成分)〕
12ヒドロキシステアリン酸亜鉛(SZ-120H、堺化学工業社製)
【0054】
〔三酸化アンチモン〕
PATOX-MF、日本精鉱社製
【0055】
〔ZnO〕
亜鉛華
【0056】
〔ステアリン酸〕
ビーズステアリン酸さくら、日油社製
【0057】
〔アミン系老化防止剤〕
オゾノン6C、精工化学社製
【0058】
〔ワックス〕
マイクロクリスタリンワックス(サンノック、大内新興化学社製)
【0059】
〔カーボンブラック〕
GPF級カーボンブラック(シーストV、東海カーボン社製)
【0060】
〔シリカ〕
湿式シリカ(ニプシールVN3、東ソーシリカ社製)
【0061】
〔ナフテンオイル〕
サンセン410、日本サン石油社製
【0062】
〔加硫促進剤〕
スルフェンアミド系加硫促進剤(ノクセラーCZ-G、大内新興化学社製)
【0063】
〔硫黄〕
軽井沢精錬所社製
【0064】
[実施例1~12、比較例1~4]
上記各材料を、後記の表1および表2に示す割合で配合して混練することにより、防振ゴム組成物を調製した。なお、上記混練は、まず、硫黄と加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いて140℃で5分間混練し、ついで、硫黄と加硫促進剤を配合し、オープンロールを用いて60℃で5分間混練することにより行った。
【0065】
このようにして得られた実施例および比較例の防振ゴム組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0066】
<引張強度>
各防振ゴム組成物を、150℃×20分の条件でプレス成形(加硫)して、厚み2mmのゴムシートを作製した。そして、このゴムシートから、JIS5号ダンベルを打ち抜き、JIS K6251に準拠して、引張強度(引っ張り強さ)を測定した。
なお、後記の表1および表2には、比較例1における引張強度の測定値(MPa)を100としたときの、各実施例および比較例における引張強度の測定値(MPa)の指数換算値を、表記した。
そして、上記の値が、100以上であるものを「○」と評価し、100未満であるものを「×」と評価した。
【0067】
<動倍率(防振性能)>
各防振ゴム組成物を、150℃×30分の条件でプレス成形(加硫)して、円柱形状(直径50mm、高さ25mm)の試験片を作製し、その上面および下面に円形金具(直径60mm、厚み6mm)をそれぞれ取り付け、動ばね定数(Kd100)および静ばね定数(Ks)を、それぞれJIS K6394に準じて測定した。その値をもとに、動倍率(Kd100/Ks)を算出した。
なお、後記の表1および表2には、比較例1における動倍率(Kd100/Ks)の測定値を100としたときの、各実施例および比較例における動倍率の測定値の指数換算値を、表記した。
そして、上記の値が、95未満であるものを「○」と評価し、95以上100未満であるものを「△」と評価し、100以上であるものを「×」と評価した。
【0068】
<破断時回数>
各防振ゴム組成物を、150℃×20分の条件でプレス成形(加硫)して、厚み2mmのゴムシートを作製した。そして、このゴムシートから、JIS3号ダンベルを打ち抜き、このダンベルを用い、JIS K6260に準じてダンベル疲労試験(伸張試験)を行い、その破断時の伸張回数(破断時回数)を測定した。
なお、後記の表1および表2には、比較例1における破断時回数を100としたときの、各実施例および比較例における破断時回数の指数換算値を、表記した。
そして、上記の値が、120を上回るものを「○」と評価し、100を上回り120以下であるものを「△」と評価し、100以下であるものを「×」と評価した。
【0069】
<酸素指数>
各防振ゴム組成物を、150℃×20分の条件でプレス成形(加硫)して、厚み2mmのゴムシートを作製した。そして、このゴムシートの難燃性を評価するため、JIS K7201に準拠し、このゴムシートの燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度(容量%)を測定した。
なお、後記の表1および表2には、比較例1における上記最低酸素濃度(容量%)を100としたときの、各実施例および比較例における最低酸素濃度(容量%)の指数換算値を、表記した。
そして、上記の値が、100以上であるものを「○」と評価し、90を上回り100未満であるものを「△」と評価し、90以下であるものを「×」と評価した。
【0070】
<発煙抑制性>
各防振ゴム組成物を、150℃×60分の条件でプレス成形(加硫)して、76.2mm角、厚さ25.4mmのゴムブロックを作製した。そして、ASTM E662に準拠し、上記ゴムブロックの燃焼時に発生する煙の光透過度、すなわち、ノンフレミングもしくはフレミング試験における加熱開始4分後の煙のDs値(比光学密度)を測定した。
なお、後記の表1および表2には、比較例1における上記Ds値(比光学密度)を100としたときの、各実施例および比較例におけるDs値(比光学密度)の指数換算値を、表記した。
そして、上記の値が、100未満であるものを「○」、100以上130未満であるものを「△」、130以上であるものを「×」と評価した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
上記表1および表2の結果から、実施例の防振ゴム組成物は、低動倍率のため防振特性に優れるとともに、引張強度,破断時回数といったゴム物性の指標も高く、さらに、難燃性の指標である酸素指数が高く、発煙抑制性にも優れることがわかる。
【0074】
これに対し、比較例1のゴム組成物は、ハロゲン系難燃剤および金属水酸化物とともに、三酸化アンチモンを加えることにより難燃性を向上させているが、動倍率が高く、そのため防振特性に劣るとともに、破断時回数が少ないことから、ダンベル疲労試験による破断耐性にも劣ることがわかる。
比較例2のゴム組成物は、ハロゲン系難燃剤および金属水酸化物による難燃効果だけでは充分な難燃性が得られず、難燃性の指標である酸素指数が低い結果となった。
比較例3のゴム組成物は、金属水酸化物による難燃効果だけでは充分な難燃性が得られず、比較例2よりも酸素指数が低下する結果となったものの、ハロゲン系難燃剤を含まないため発煙抑制性については良好であった。
比較例4のゴム組成物は、三酸化アンチモンを加えることなく、比較例1のゴム組成物と同程度の酸素指数となるように金属水酸化物を含有させているが、動倍率が高く、引張強度,破断時回数といったゴム物性の指標の悪化もみられた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の難燃性防振ゴム組成物は、防振特性やゴム物性を損なうことなく、難燃性および発煙抑制性に優れた効果を得ることができる。このことから、本発明の難燃性防振ゴム組成物は、難燃性が要求される防振ゴム部材、例えば、電車,自動車等の車両に用いられる防振部材(ゴムブッシュ、ゴム緩衝器、コニカル、シェブロン、円筒積層ゴム、エンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ等)や、建築・住宅分野における防振ゴム部材の材料として、好適に用いることができる。とりわけ、燃焼時の発煙(黒煙の発生)が問題視される電車等の鉄道分野での使用において有効に用いることができる。