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  • 特許-組織再生基材 図1
  • 特許-組織再生基材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】組織再生基材
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/58 20060101AFI20230810BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230810BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
A61L27/58
A61L27/18
A61L33/06 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019146600
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021023728
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】井出 啓太
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-526779(JP,A)
【文献】特表2007-515210(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088821(WO,A1)
【文献】特開2016-146855(JP,A)
【文献】特開2013-169334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
A61F2/00-2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料からなる基材と、前記基材上にブラシ状に植毛された生体吸収性材料からなるフィラメントを有し、前記基材は編地又は織地であることを特徴とする組織再生基材。
【請求項2】
生体吸収性材料からなるフィラメントの密度が10000本/cm以上200000本/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の組織再生基材。
【請求項3】
生体吸収性材料は、ポリグリコリドであることを特徴とする請求項1又は2記載の組織再生基材。
【請求項4】
ポリグリコリドの重量平均分子量が30000~400000であることを特徴とする請求項3記載の組織再生基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元的に組織の再生を行うことができる組織再生基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞工学技術の進展によって、ヒト細胞を含む数々の動物細胞の培養が可能となり、また、それらの細胞を用いてヒトの組織や器官を再構築しようとする、いわゆる再生医療の研究が急速に進んでいる。再生医療においては、細胞が増殖分化して3次元的な生体組織様の構造物を構築できるかがポイントであり、例えば、基材を患者の体内に移植し、周りの組織又は器官から細胞を基材中に侵入させ増殖分化させて組織又は器官を再生する方法が行われている。
【0003】
また、生体組織に生じた病巣を内視鏡下で切除する方法として、自動縫合器等を用いた切除術が行われている。肺、気管支、肝臓、消化管等の脆弱な組織や、病変によって脆弱化した組織に対して切除術を行う場合、縫合を行ったのみでは組織の断裂のおそれがあり、また、例えば肺の手術においては空気漏れが発生するおそれがある。そこで、縫合補強材を生体組織の切除部位に縫い合わせるということが行われている。
【0004】
このような再生医療用の基材や縫合補強材として、例えば、特許文献1に開示されるような生体吸収性材料からなる不織布を用いることが提案されている。生体吸収性材料からなる不織布は、再生医療の基材として用いた場合には、その空隙部分に細胞が侵入して増殖し、早期に組織が再生されることが期待される。また、脆弱な組織の補強材として用いた場合には、組織の断裂を防止し、空気漏れの発生を防止することができる。更に、一定期間経過後には分解して生体に吸収されることから、再手術により取り出す必要もないという優れた性能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-076586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような生体吸収性材料からなる不織布を組織再生基材として用いた場合、不織布の面方向に対しては組織の再生が促進されるものの、不織布の厚み方向への再生はまだ満足いくものではなかった。そのため、3次元的に組織の再生を促進できるような組織再生基材が求められている。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、3次元的に組織の再生を行うことができる組織再生基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生体吸収性材料からなる基材と、前記基材上にブラシ状に配置された生体吸収性材料からなるフィラメントを有する組織再生基材である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、生体吸収性材料からなる基材に生体吸収性材料からなるフィラメントをブラシ状となるように配置することで、3次元の全ての方向に対して組織の再生を促進できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の組織再生基材は、生体吸収性材料からなる基材(以下、単に基材という)を有する。
上記基材は後述するフィラメントの土台となるものである。
上記基材を構成する生体吸収性材料としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコリド共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも適度な生体吸収速度を有することからポリグリコリドが好ましい。
【0011】
上記基材の形態は特に限定されず、例えば、編地、織地、不織布、フィルム等いかなる形態であってもよい。なかでも後述するフィラメントをより確実に固定できることから編地又は織地が好ましい。
【0012】
上記基材の目付は特に限定されないが、好ましい下限は3g/m、好ましい上限は3000g/mである。上記基材の目付が10g/m以上であると、組織を補強するのにより適した強度とすることができるとともに後述するフィラメントをより確実に固定することができる。また、上記不織布の目付が500g/m以下であると、より取り扱い性を高めることができる。上記基材の目付のより好ましい下限は15g/m、より好ましい上限は200g/mである。
【0013】
上記基材の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は40μm、好ましい上限は5mmである。上記基材の厚みが100μm以上であると、より強度が高まるとともに後述フィラメントをより確実に固定することができる。上記基材の厚みが1mm以下であると、より取り扱い性が向上する。上記基材の厚みのより好ましい下限は150μm、より好ましい上限は800μmである。
【0014】
上記基材の製造方法は特に限定されず、上記基材が編地や織地である場合は、生体急性材料からなる糸を溶融紡糸法等の従来公知の紡糸方法で形成し、従来衣料品で用いられる方法で編地又は織地とすることで製造することができる。上記基材が不織布である場合は、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0015】
本発明の組織再生基材は、上記基材上にブラシ状に配置された生体吸収性材料からなるフィラメント(以下、単にフィラメントともいう)を有する。
上記基材上に生体吸収性材料からなるフィラメントをブラシ状に配置することで、フィラメント間に浮遊細胞が引っかかって固定され、増殖するため、不織布では難しかった3次元的な組織の再生を促進することができる。ここで、ブラシ状とは、フィラメントの繊維方向が基材の厚み方向となるように、多数のフィラメントが配置されている状態を指す。なお、上記フィラメントは、長さや太さの異なるものを組み合わせて用いていてもよい。
【0016】
上記フィラメントを構成する生体吸収性材料は上記基材と同様のものを用いることができ、上記基材と同じ生体吸収性材料からなっていてもよく、異なる生体吸収性材料からなっていてもよい。なかでも、ポリグリコリドが好適である。ポリグリコリドを用いた場合には、特に細胞の侵入性に優れ、正常な組織の再生を行うことができる。ポリグリコリドは、例えば繊維状にして37℃の生理食塩水中に浸漬した場合に、引張強度が浸漬前の1/2になるまでの期間が約14日である。このような分解性を有することにより、細胞が増殖して組織が再生する時期に組織再生基材が徐々に分解吸収されることとなり、組織再生基材内部まで再生した組織が構築され、その結果として良質な再生組織が構築されるものと考えられる。更に、生体内に埋入後数日間で炎症系の細胞が消失することから、組織の癒着を引き起こしにくいという優れた効果をも発揮できる。
【0017】
なお、本明細書においてポリグリコリドは、ポリグリコール酸等のグリコリドの重合体を意味するが、本発明の効果を阻害しない範囲で、ラクチド、ε-カプロラクトン、p-ジオキサノン等の他の生体吸収性の成分との共重合体としてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリラクチド等の他の生体吸収性材料との混合物としてもよい。
上記ポリグリコリドがラクチド、ε-カプロラクトン、p-ジオキサノン等の他の生体吸収性の成分との共重合体である場合、該共重合体におけるグリコリド成分の配合量の好ましい下限は60モル%である。グリコリド成分の配合量を60モル%以上とすることで、より細胞の侵入性に優れ、かつ、より正常な組織の再生を行うことができる。
上記ポリグリコリドとポリラクチド等の他の生体吸収性材料との混合物を用いる場合、該混合物におけるポリグリコリドの配合量の好ましい下限は50モル%である。ポリグリコリドの配合量を50モル%以上とすることで、より細胞の侵入性に優れ、かつ、より正常な組織の再生を行うことができる。
【0018】
上記生体吸収性材料がポリグリコリドである場合、該ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は400000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000以上であると、強度をより高めることができ、400000以下であると、異物反応をより抑えることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は300000である。
【0019】
上記フィラメントはモノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよく、両方を組み合わせて用いてもよい。上記フィラメントがマルチフィラメントである場合、マルチフィラメントを構成する単糸の数は50~150本であることが好ましい。
【0020】
上記フィラメントの平均繊維径は特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は100μmである。上記フィラメントの平均繊維径が上記範囲であることで、浮遊細胞をより固定しやすくすることができる。上記フィラメントの平均繊維径のより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は50μmである。
【0021】
上記フィラメントの長さは特に限定されず、用いる部位の状態に合わせて適宜調節することができるが、より正常かつ3次元的な組織の再生を促進する観点から、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
【0022】
上記フィラメントは、密度が10000本/cm以上200000本/cm以下であることが好ましい。
フィラメントの基材上の密度が上記範囲であることで、浮遊細胞をより固定しやすくすることができ、組織の再生をより促進することができる。上記フィラメントの密度は、50000本/cm以上であることがより好ましく、150000本/cm以下であることがより好ましい。
【0023】
上記フィラメントの製造方法は特に限定されず、溶融紡糸法等の従来公知の紡糸方法を用いることができる。
【0024】
本発明の組織再生基材の製造方法は特に限定されず、上記方法で製造した基材に上記方法で製造したフィラメントを植毛することで得ることができる。また、2枚の上記基材を上記フィラメントでダブルパイル織し、その後2枚の基材間でカットする方法、つまり、カットパイル織物と同様の方法でも製造することができる。なかでも簡便であることから、ダブルパイル織の後に基材間をカットする方法が好ましい。ここで、2枚の上記基材を上記フィラメントでダブルパイル織した状態を表した模式図を図2に示す。図2に示したように、ダブルパイル織を行うと、2枚の基材2の間をフィラメント3が接続するような状態となる。ここで、フィラメント3を基材2の面方向にカットすることで、図1に示すような本発明の組織再生基材が得られる。
【0025】
本発明の組織再生基材は、生体吸収性材料からなる基材上にブラシ状に配置された生体吸収性材料からなるフィラメントを有し、このフィラメントを細胞の足場とすることで、従来の組織再生基材では難しかった3次元的な組織の再生を促進することができる。本発明の組織再生基材の適用部位としては、例えば、軟骨、骨、皮膚、血管等の組織や器官が挙げられる。なかでも、上記のように本発明は3次元的な組織の再生が可能であることから軟骨の再生に特に好適である。
これらの組織や器官の再生方法としては、例えば、再生しようとする組織や器官の部位に、本発明の組織再生基材を移植する方法が挙げられる。この際、本発明の組織再生基材に予め細胞を播種しておいてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、3次元的に組織の再生を行うことができる組織再生基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の組織再生基材の模式図である。
図2】2枚の基材をフィラメントでダブルパイル織した状態を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図を用いて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら図の態様にのみ限定されるものではない。
【0029】
図1に本発明の組織再生基材の模式図を示した。本発明の組織再生基材1は、ベースとなる生体吸収性材料からなる基材2上に生体吸収性材料からなるフィラメント3がブラシ状に配置された構造となっている。フィラメント3は、フィラメント間の隙間に浮遊細胞を引っかけて固定することで組織の再生を促進する。フィラメント3はある程度の長さを有しているため、基材面の方向だけでなく3次元全ての方向に対して細胞が浸入、増殖できるため、3次元的に組織の再生を行うことができる。また、基材2とフィラメント3はいずれも生体吸収性材料よって構成されているため、組織の再生とともに徐々に体内へ吸収され、最終的には再生した組織と置き換わる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、3次元的に組織の再生を行うことができる組織再生基材を提供することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 組織再生基材
2 基材
3 フィラメント
図1
図2