(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】再生無機繊維の製造方法及び無機繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 25/70 20060101AFI20230810BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20230810BHJP
D06M 11/05 20060101ALI20230810BHJP
D06M 101/00 20060101ALN20230810BHJP
【FI】
C03C25/70
C04B38/00 303A
D06M11/05
D06M101:00
(21)【出願番号】P 2019178304
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】石井 慧
(72)【発明者】
【氏名】今荘 龍之介
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0302136(US,A1)
【文献】特開平07-035713(JP,A)
【文献】特表昭59-500468(JP,A)
【文献】特開昭53-114860(JP,A)
【文献】特開2005-076162(JP,A)
【文献】特開2011-001550(JP,A)
【文献】特開平11-228164(JP,A)
【文献】特開2010-000458(JP,A)
【文献】特表2008-508174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/70
C04B 38/00
D06M 11/05
D06M 101/00
C03C 1/02
C03C 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維が有機物のバインダーで結合された無機繊維材料を
、400℃以上、かつ前記無機繊維の溶融温度未満の温度で過熱水蒸気に晒し、前記バインダーを除去する再生無機繊維の製造方法。
【請求項2】
前記無機繊維材料が、グラスウール又はロックウールである、請求項1に記載の再生無機繊維の製造方法。
【請求項3】
有酸素条件下で、前記無機繊維材料を過熱水蒸気に晒す、請求項1
又は2に記載の再生無機繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の再生無機繊維の製造方法で再生無機繊維を製造し、得られた再生無機繊維を原料の一部として使用することを特徴とする無機繊維製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスウール、ロックウール、セラミック繊維等の無機繊維材料から、バインダーを除去する再生無機繊維の製造方法及び、得られた再生無機繊維を用いる無機繊維製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウール、ロックウール、セラミック繊維等の、無機繊維がバインダーで結合した無機繊維製品が、断熱材、吸音材、又はその他の各種成型品(自動車の屋根、ボンネットのライナー等)に用いられている。
無機繊維製品は、一般的に、無機繊維にバインダーを付着させ、集積して目的の無機繊維製品の形状の集積体とした後、加熱、成形し、バインダーを硬化することにより製造されている。バインダーとしては、一般にフェノール樹脂等の有機物のバインダーが使用されている。
【0003】
無機繊維製品の製造に際しては、その製造工程において多量の端材が発生し、又、場合によっては不良品も発生する。また、建物、工場、車両等に使用された無機繊維製品は、これらの解体時に回収される。
これらの端材、不良品、回収物等の無機繊維材料(以下「回収無機繊維材料」という場合がある。)は、産業廃棄物として処理される物もあるが、環境保護等の観点から、再利用することが好ましい。
【0004】
回収無機繊維材料の再利用方法としては、適当な大きさに粉砕して各種の建材や合成樹脂複合材の充填剤や補強材として使用する方法、及びグラスウール等の無機繊維製品の原料の一部として使用する方法がある。
しかし、粉砕しただけの回収無機繊維材料を、多量に使用した無機繊維製品等は製品特性が低下しやすい。
【0005】
回収無機繊維材料の再利用方法としては、溶融炉に投入して溶融し、無機繊維の原料の一部とすることも試みられている。
しかし、回収無機繊維材料には、バインダーとして有機物が付着しているため、溶融過程で発泡、色調変化或は溶解エネルギーの変動等の好ましくない影響を及ぼす。このような問題を回避するためには、回収無機繊維材料から予めバインダーを除去することが必要である。
【0006】
特許文献1では、無機繊維材料を1,100~2,500℃の火炎中に投入し、被覆された有機物を焼却除去することが提案されている。
しかし、火炎中に投入するためには、安全対策を厳重に行った燃焼炉を用意する必要があり、無機繊維材料を簡便に処理することができなかった。
【0007】
そこで、本願発明者は、無機繊維材料を加熱炉で加熱することにより、バインダーを除去することを試みた。しかし、550℃程度で加熱した場合は、処理に長時間を要した。
また、処理時間を短くしようとして、700℃程度に温度を上げて加熱すると収縮し、収縮した無機繊維材料内部にバインダーが包含されたまま残ってしまう恐れがあることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便に、かつ短時間で、無機繊維材料から、バインダーを充分に除去して良質な再生無機繊維を製造することができる再生無機繊維の製造方法を提供することを課題とする。また、得られた再生無機繊維を利用する無機繊維製品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]無機繊維が有機物のバインダーで結合された無機繊維材料を過熱水蒸気に晒し、前記バインダーを除去する再生無機繊維の製造方法。
[2]前記無機繊維材料が、グラスウール又はロックウールである、[1]に記載の再生無機繊維の製造方法。
[3]300℃以上、かつ前記無機繊維の溶融温度未満の温度で、前記無機繊維材料を過熱水蒸気に晒す、[1]又は[2]に記載の再生無機繊維の製造方法。
[4]有酸素条件下で、前記無機繊維材料を過熱水蒸気に晒す、[1]~[3]のいずれか一項に記載の再生無機繊維の製造方法。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載の再生無機繊維の製造方法で再生無機繊維を製造し、得られた再生無機繊維を原料の一部として使用することを特徴とする無機繊維製品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の再生無機繊維の製造方法によれば、簡便に、かつ短時間で、無機繊維製品等の無機繊維材料から、バインダーを充分に除去して、良質な再生無機繊維を製造することができる。
また、無機繊維製品の製造方法によれば、製品の品質を損なうことなく、再生無機繊維を利用して無機繊維製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の再生無機繊維の製造方法に用いる過熱水蒸気処理装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】電気炉を用い、550℃で20分間、次いで550℃で30分間焼成した後のグラスウーマットの写真である。
【
図3】電気炉を用い、700℃で所定時間焼成した後のグラスウーマットの写真である。
【
図4】過熱水蒸気処理前のグラスウーマットの写真である。
【
図5】過熱水蒸気処理後のグラスウーマットの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[再生無機繊維の製造方法]
本発明の再生無機繊維の製造方法において、原料となる無機繊維材料は、無機繊維が有機物のバインダーで結合された無機繊維材料である。なお、本発明における無機繊維に炭素繊維は含まれない。
無機繊維材料としては、グラスウール、ロックウール、セラミック繊維等の無機繊維製品の製造工程において発生する端材や不良品、及び建物、工場、車両等に使用され、これらの解体時に回収される回収無機繊維材料が挙げられる。
【0014】
グラスウールは廃ガラスなどのガラスを、ロックウールは玄武岩、鉄炉スラグなどを、各々原料とする綿状の素材である。
いずれも溶融した原料を遠心力で吹き飛ばして空気中で固化させることにより製造される。また、綿状の無機繊維とした後、バインダーが添加されて、マット状などの適宜の形状に成形されて、断熱材、吸音材、その他各種成型品等の製品とされている。
【0015】
グラスウールを構成する無機繊維は、二酸化ケイ素を主成分とし、酸化カルシウム、酸化アルミニウム等を含有する。ロックウールを構成する無機繊維は、二酸化ケイ素及び酸化カルシウム主成分とし、酸化アルミニウム等を含有する。
グラスウール、ロックウール等の無機繊維材料において、バインダーは、無機繊維に対して0.5~20質量%程度付着している。樹脂中に無機繊維が分散している繊維強化プラスチックとは異なる。
【0016】
バインダーとしては、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、糖由来の原料を主成分としたバインダー等の有機物のバインダーが使用される。でんぷん等の炭水化物のように、樹脂ではない有機物のバインダーを使用してもよい。中でもフェノール樹脂は、最も汎用されているバインダーであり、かつ本発明の方法により除去されやすいので好ましい。特にレゾール型フェノール樹脂が安価であるため、好ましい。
【0017】
図1は、本発明に使用される過熱水蒸気処理装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
図1の装置は、装置本体1に配管2が通されている。また、配管2には複数のノズル3が接続されている。
配管2には、過熱水蒸気入口2aから過熱水蒸気が導入され、ノズル3から過熱水蒸気が吐出され無機繊維材料4に吹き付けられるようになっている。また、余剰の過熱水蒸気は、過熱水蒸気出口2bから排出されるようになっている。
また、装置本体1には、空気入口1a、空気出口1bが設けられている。
【0018】
ノズル3は、無機繊維材料4に満遍なく過熱水蒸気を吹き付けられるよう、二次元方向に複数配置することが好ましい。さらに満遍なく無機繊維材料4に吹き付けるためには、無機繊維材料4の上下にノズル3を配置する等、三次元方向に複数配置することが好ましい。
また、無機繊維材料4は、全体が過熱水蒸気に晒されるよう、ブロック状ではなく、薄いマット状として装置本体1に収容して処理することが好ましい。マット状の場合、密度は10~16kg/m3であることが好ましく、厚さは50~100mmであることが好ましい。密度が低いほど、また厚さが薄い程、バインダーを除去しやすい。
また、ある程度細かくほぐしたブロー状とすることがより好ましい。
【0019】
過熱水蒸気とは、飽和水蒸気に、さらに熱を加えた高温の水蒸気であり、常圧の場合、100℃を超えて加熱された水蒸気である。
無機繊維材料を過熱水蒸気に晒すと、短時間でバインダーを除去できる。また、内部にバインダーが包含されたまま残ってしまう様な収縮も生じにくい。
【0020】
本発明に使用する過熱水蒸気の温度(無機繊維材料が晒される際の温度)は、300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましく、500℃以上であることがさらに好ましく、600℃以上であることが特に好ましい。
過熱水蒸気の温度が好ましい下限値以上であれば、短時間でバインダーを除去できる。
【0021】
また、過熱水蒸気の温度は、無機繊維の溶融温度未満であることが好ましく、1000℃以下であることがより好ましく、900℃以下であることがさらに好ましく、800℃以下であることが特に好ましい。
過熱水蒸気の温度が好ましい上限値以下であれば、繊維状を保ったまま無機繊維を残すことができる。また、過剰なエネルギーを使用することなく、再生無機繊維を製造することができる。
【0022】
本発明では、有酸素条件下で無機繊維材料を過熱水蒸気に晒すことが好ましい。有酸素条件下とすることにより、さらに、効率よくバインダーを除去することができる。
酸素は、無機繊維材料を過熱水蒸気に晒している間、連続的又は間欠的に補充されることが好ましい。
酸素が不足するとバインダーが炭化することにより、高い除去効率を得にくい。
無機繊維材料を構成する無機繊維は、酸素濃度が高くても劣化しにくい。
【0023】
無機繊維材料を過熱水蒸気に晒す時間は、過熱水蒸気の温度や、酸素供給の状況にもよるが、0.1~10分間が好ましく、0.3~5分間がより好ましく、0.5~3分間がさらに好ましい。
特に、バインダーとしてフェノール樹脂を用いた無機繊維材料を、酸素が連続的に供給される条件下で600℃にて過熱水蒸気に晒した場合は、1分間程度で、ほぼ全量のバインダーを除去できる。
【0024】
[無機繊維製品の製造方法]
本発明の無機繊維製品の製造方法は、本発明の再生無機繊維の製造方法で再生無機繊維を製造し、得られた再生無機繊維を原料の一部として使用する他は、公知の無機繊維製品の製造方法と同じである。
すなわち、本発明の再生無機繊維の製造方法で得られた再生無機繊維を含む原料を溶融し、遠心力で繊維化する。そして、バインダーとなる樹脂溶液を吹きつけ、乾燥炉で乾燥した後、用途に応じた形状に成形する。
本発明の無機繊維製品の製造方法によれば、簡便に、バインダーを充分に除去した再生無機繊維を使用できるので、低コストで、品質の安定した無機繊維製品を製造することができる。
【実施例】
【0025】
[実験例1]
磁性るつぼに、バインダーとしてフェノール樹脂が種々の付着量で使用されたグラスウールマット製品(密度16kg/m3、厚み100mm)のx(g)を、電気炉を用いて、550℃で所定時間(1分間、5分間、10分間、又は20分間)焼成する1回目の焼成を行った。
所定時間焼成後に室温まで冷却してからの質量y(g)を求めた。
その後、再度電気炉を用いて、さらに550℃で30分間焼成する2回目の焼成を行い、室温まで冷却してからの質量z(g)を求めた。
【0026】
表1に、x(g)、y(g)及びz(g)と、これらから求めた1回目の焼成による質量減少量A(g)、1回目の焼成前からの2度の焼成による質量減少量B(g)、Bに対するAの比率(質量%)、及び焼成前のグラスウールマット製品に含まれる樹脂量(質量%)を示す。
また、
図2に、1回目に20分間焼成し、2回目に30分間焼成した後のグラスウールマット製品の写真を示す。
【0027】
【0028】
表1のNo.1-4で、2回目の焼成による質量減少が生じなかったことから、550℃の焼成では、20分間でほぼ完全にバインダーの除去が完了することがわかった。
また、
図2に示すように、No.1-4では、2回目に30分間の焼成を行った後も、実質的な収縮は生じておらず、550℃の焼成では、無機繊維材料内部にバインダーが包含されたまま残ってしまう懸念は低いことが確認できた。
したがって、2回目の焼成(550℃で30分間)を行えば、1回目の焼成時に残っていた樹脂も総て除去できることがわかった。
【0029】
また、1回目の焼成前からの2度の焼成による質量減少量B(g)は、1回目の焼成前のサンプルに含まれていた樹脂量(g)にあたり、1回目の焼成前のサンプル量であるx(g)に対するこのB(g)の比率を求めれば、焼成前の樹脂量(質量%)を求められることがわかった。
また、Bに対するAの比率(質量%)は、1回目の焼成による樹脂の除去率にあたる。このことから、550℃の焼成で90質量%以上の樹脂を除去するためには、10分間以上の処理時間が必要であることがわかった。
【0030】
[実験例2]
磁性るつぼに、バインダーとしてフェノール樹脂が種々の付着量で使用されたグラスウールマット製品(密度16kg/m3、厚み100mm)のx(g)を、電気炉を用いて、700℃で所定時間(1分間、5分間、10分間、又は20分間)焼成する1回目の焼成を行った。
所定時間焼成後に室温まで冷却してからの質量y(g)を求めた。
その後、再度電気炉を用いて、さらに550℃で30分間焼成する2回目の焼成を行い、室温まで冷却してからの質量z(g)を求めた。
【0031】
表2に、x(g)、y(g)及びz(g)と、これらから求めた1回目の焼成による質量減少量A(g)、1回目の焼成前からの2度の焼成による質量減少量B(g)、Bに対するAの比率(質量%)、及び焼成前のグラスウールマット製品に含まれる樹脂量(質量%)を示す。
また、
図3に、1回目の焼成を行った後のグラスウールマット製品の写真を示す。
【0032】
【0033】
表2のNo.2-1に示すように、700℃、1分の焼成では、30質量%程度の樹脂しか除去できないことがわかった。
また、
図3に示すように、No.2-2~No.2-4では収縮が生じ、700℃の焼成では、時間をかけても無機繊維材料内部にバインダーが包含されたまま残ってしまう懸念は高いことがわかった。
【0034】
[サンプル]
実施例で使用したサンプルについては以下の略称で示す。
PF1:バインダーとしてフェノール樹脂(Mw300程度のレゾール樹脂)を使用したマット状のグラスウール。密度16kg/m3、厚み100mm。
PF2:バインダーにフェノール樹脂を使用したブロー状(マット製品を細かく裁断した状態)のグラスウール。
G:バインダーとして糖由来の原料を主成分としたバインダーを使用したマット状のグラスウール。密度24kg/m3、厚み100mm。
アクリル:バインダーとしてアクリル樹脂を使用したマット状のグラスウール。密度24kg/m3、厚み100mm。
PVA:バインダーとしてポリビニルアルコールを使用したマット状のグラスウール。密度16kg/m3、厚み100mm。
【0035】
[樹脂量と除去率]
実験例1に基づき、電気炉を用いて550℃で30分間焼成した際の質量減少量を用いて、樹脂量と除去率を求めた。
すなわち、過熱水蒸気による処理前のサンプル中の樹脂量(質量%)は、未処理のサンプルを、550℃で30分間焼成した際の質量減少量を、未処理のサンプルの質量で除し、100倍することにより求めた。
また、過熱水蒸気による処理後のサンプル中の樹脂量(質量%)は、過熱水蒸気による処理後のサンプルを、さらに550℃で30分間焼成した際の質量減少量を、過熱水蒸気による処理前のサンプルの質量で除し、100倍することにより求めた。
また、過熱水蒸気処理による樹脂除去率(質量%)は、過熱水蒸気による処理前後におけるサンプル中の樹脂量(質量%)の差を、過熱水蒸気による処理前のサンプル中の樹脂量(質量%)で除し、100倍することにより求めた。
【0036】
[実施例]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例では、過熱水蒸気による処理を、(株)トクデン製の過熱蒸気UPSS-W20(以下単に「処理装置」という。)を用いて行った。
また、扉の開閉により、処理装置内への酸素供給の影響を調べた。また、扉の開閉とノズルの加温の有無により、処理装置内の温度を変化させ、サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度の影響を調べた。
【0037】
(実施例1)
サンプルとしてPF1の約15gを、処理装置に入れ、700℃の蒸気を、700℃に加温したノズルから噴き出して30秒間処理した。処理中、処理装置の扉を半開(薄く開けた状態)とし、内部に空気が供給される様にした。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約600℃であった。
【0038】
(実施例2)
処理時間を1分間とした他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約600℃であった。
【0039】
(実施例3)
処理時間を2分間とした他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約600℃であった。
【0040】
(実施例4)
扉を閉じて、処理中新たな空気が供給されない様にすると共に、処理時間を5分間とした他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約600℃であった。
【0041】
(実施例5)
扉を全開とし、処理時間を1分間とした他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約500℃であった。
【0042】
(実施例6)
扉を全開とし、処理時間を2分間とした他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約500℃であった。
【0043】
(実施例7)
扉を全開とし、処理時間を2分間とし、処理開始1分後に裏返すことにより、過熱水蒸気に晒される面を代えた。その他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約500℃であった。
【0044】
(実施例8)
扉を全開とし、処理時間を5分間とした他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約500℃であった。
【0045】
(実施例9)
ノズルの加温を行なわず、扉を全開とし、処理時間を2分間とし、処理開始1分後に裏返すことにより、過熱水蒸気に晒される面を代えた。その他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約400℃であった。
【0046】
(実施例10)
ノズルの加温を行なわず、扉を全開とし、処理時間を10分間とし、処理開始5分後に裏返すことにより、過熱水蒸気に晒される面を代えた。その他は、実施例1と同様にしてPF1の約15gの処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約400℃であった。
【0047】
(実施例11)
サンプルとしてPF2の約15gを用いた他は、実施例10と同様にして処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約400℃であった。
【0048】
(実施例12)
サンプルとしてGの約15gを用いた他は、実施例3と同様にして処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約600℃であった。
【0049】
(実施例13)
サンプルとしてGの約15gを用いた他は、実施例10と同様にして処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約400℃であった。
【0050】
(実施例14)
サンプルとしてアクリルの約15gを用いた他は、実施例10と同様にして処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約400℃であった。
【0051】
(実施例15)
サンプルとしてPVAの約15gを用いた他は、実施例10と同様にして処理を行った。サンプルが過熱水蒸気に晒される雰囲気温度を熱電対で測定したところ、約400℃であった。
【0052】
各実施例のサンプルの種類及び過熱水蒸気による処理条件と、過熱水蒸気による処理前のサンプル中の樹脂量(質量%)、過熱水蒸気による処理後のサンプル中の樹脂量(質量%)及び過熱水蒸気処理による樹脂除去率(質量%)を表3に示す。
なお、表3における「ノズル加温」の欄の○は700℃にノズルを加温したことを示し、×はノズルの加温を行わなかったことを示す。
また、表3における「裏返し」の欄の○は処理の途中でサンプルを裏返したことを示し、×はサンプルの裏返しを行わなかったことを示す。
また、実施例2のサンプルの過熱水蒸気による処理前の写真を
図4に、過熱水蒸気による処理後の写真を
図5に、各々示す。
【0053】
【0054】
表3の実施例1~3に示す様に、過熱水蒸気で処理することにより、30秒程度で90質量%近くの樹脂を除去することが可能であり、1分でほぼ完全に除去できることがわかった。すなわち、実験例1、2で用いた電気炉による処理と比較して、極めて迅速に除去できることがわかった。
また、
図4、
図5に示す様に、処理前後で殆ど収縮は生じておらず、無機繊維材料内部にバインダーが包含されたまま残ってしまう懸念は低いことがわかった。
【0055】
また、空気の供給が遮断された実施例4では、実施例1~3と比較して処理時間が長いにもかかわらず、除去率が低かった。したがって、無機繊維に付着した樹脂を除去するにあたっては、有酸素条件下で処理することが好ましいことがわかった。
【0056】
また、実施例5~8に示す様に、雰囲気温度を約500℃に下げても、雰囲気温度が約600℃である実施例1~3と比較して、遜色ない除去率が得られた。
一方、実施例9~10に示す様に、雰囲気温度を約400℃に下げた場合は、雰囲気温度が約600℃である実施例1~3と比較して、多少除去率が低下した。
【0057】
また、実施例6と実施例7との対比から、途中で裏返すことで、除去率が向上することがわかった。また、ブロー品を処理した実施例11では、マット品を処理した実施例10よりも除去率が高かった。
これらの結果から、サンプル全体を満遍なく過熱水蒸気に晒すことの重要性が確認できた。
【0058】
また、実施例12、13に示す様に、バインダーが糖由来の原料を主成分としたバインダーである場合も、バインダーがフェノール樹脂である場合と比較して同等の除去率が得られることがわかった。
また、実施例14、15に示す様に、バインダーがアクリル樹脂やポリビニルアルコールである場合も、過熱水蒸気による処理が有効であることがわかった。
【符号の説明】
【0059】
1…装置本体、2…配管、3…ノズル、4…無機繊維材料