(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】抗菌性原反並びに抗菌性食品用容器及び抗菌性食品用シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230810BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230810BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20230810BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/18 F
B32B27/10
B65D81/34 U
(21)【出願番号】P 2019179698
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】荒内 隆志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 美香
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-26945(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116980(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047568(WO,A1)
【文献】特開2008-143024(JP,A)
【文献】特開2000-93296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B65D 81/34
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の少なくとも一方表面に形成された抗菌性樹脂層とを有する抗菌性原反であって、
前記抗菌性樹脂層は、粒径が300nm以下の抗菌性金属微粒子を分散させて含ませたポリブチレンテレフタレートから成り、
前記抗菌性金属微粒子の溶出量が10μg/m
2以上である、抗菌性原反。
【請求項2】
前記抗菌性樹脂層は、前記抗菌性金属微粒子を0.0075~0.02重量%の範囲で含む、請求項1記載の抗菌性原反。
【請求項3】
前記抗菌性金属微粒子は銀微粒子である、請求項1又は請求項2記載の抗菌性原反。
【請求項4】
前記基材層は紙から成る、請求項1~請求項3のいずれかに記載の抗菌性原反。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の抗菌性原反により形成された抗菌性食品用容器。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の抗菌性原反により形成された抗菌性食品用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙等の基材層の上に銀等の抗菌性金属微粒子を分散させて含む抗菌性樹脂層を形成して成る抗菌性原反、並びに、これを用いて製作される抗菌性食品用容器及び抗菌性食品用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電子レンジやオーブン等での加熱調理が可能な耐熱性紙容器が記載されている。この従来の耐熱性紙容器は、耐熱紙に特定の特性を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)を積層して製作した原反を用いて製造したものである。このような紙容器は、電子レンジやオーブン等で高温調理しても容器形状の崩れや変形、外観の変化をもたらさない耐熱性を示すとの利点を有する。
【0003】
ところで一般に弁当箱におかずを収容するための容器として薄い紙基材と合成樹脂とを積層した積層体をプレス成形することで得られる襞付きのおかずケースが知られており、このようなおかずケースに抗菌性を付与したいという要望がある。この場合、食品が接する面である合成樹脂層に抗菌性を付与することが考えられるが、合成樹脂製品に抗菌性を付与する技術として、特許文献2に、銀化合物を含有する抗菌性マスターバッチについて記載されている。この抗菌性マスターバッチは、ベースとなるオレフィン樹脂と、抗菌性を示す脂肪酸銀と、脂肪酸銀を分散させるため分散剤から成るものであって、詳しくは、オレフィン樹脂の塩素含有量を1ppm以下、分散剤の酸解離定数(pKa)を4.0以下、脂肪酸銀の含有量を0.1~2重量%、及び、脂肪酸銀と分散剤との重量比を1:0.5~1:10に設定したところを特徴としている。具体的には、オレフィン樹脂としてメタロセン系触媒ポリプロピレンが用いられ、分散剤としてサッカリンが用いられる。そして、この抗菌性マスターバッチを用いることにより、抗菌性を有する樹脂成形体を製造することができるとされている。すなわち、抗菌性マスターバッチを熱可塑性樹脂に配合し、従来公知の溶融成形法を用いて、最終成形品の用途に応じた形状、例えば、粒状、ペレット状、繊維状、フィルム、シート、容器等とすることにより、目的の抗菌性樹脂製品を得ることができる。ここで、抗菌性マスターバッチの熱可塑性樹脂への配合量は、抗菌性マスターバッチを合成樹脂にて10倍~40倍に希釈して混合するのが望ましいとされている。又、抗菌性マスターバッチを配合する熱可塑性樹脂としては、抗菌性マスターバッチに用いたのと同種のオレフィン樹脂、特にポリプロピレンを使用するのが好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-93296号公報
【文献】特開2014-37361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のおかずケースは、喫食時に電子レンジで食品を加熱したり、揚げたてや焼き立ての高温状態の食品を載せたりして用いられるので、食品と接する合成樹脂に耐熱性が要求され、前述したようなPBTが合成樹脂として用いられている。そして、おかずケースの表面に耐熱性樹脂をラミネートした耐熱性容器に抗菌性を付与しようとする場合、特許文献2に記載の抗菌性マスターバッチの技術を利用することが考えられる。しかし特許文献2では、抗菌性マスターバッチを配合する合成樹脂が融点の低いポリプロピレンであるため、耐熱性を有する容器を得ることができない。
【0006】
そこで、特許文献1に記載の耐熱性紙容器のPBT層に、特許文献2の抗菌性マスターバッチを配合することが考えられる。しかし当業者の技術常識では、特許文献1に記載の耐熱性紙容器に特許文献2に記載の抗菌技術を組み合わせても、十分な抗菌性能を得るのは難しいであろうと考えられる。何故ならば、特許文献1で使用されるPBTはポリエステル樹脂であるのに対し、特許文献2の抗菌性マスターバッチが配合されるポリプロピレンはガラス転移温度が低い(約0℃)オレフィン樹脂であり、両者は構造や物性の点で大きく異なる性質を有している。そのため、特許文献1のPBTに特許文献2の抗菌性マスターバッチを配合したときに、合成樹脂の種類が異なるので相溶性が悪く抗菌性金属微粒子を均一に分散できず所望の抗菌性を得ることができない。また、特許文献2に記載されるように、抗菌性マスターバッチのベースとなる樹脂としてのポリプロピレンとしては、塩素成分の含有量が低いポリプロピレンを用いなければならない。何故ならば、塩素成分と抗菌性銀粒子から溶出した銀イオンとが反応して塩化銀を生成し、その塩化銀が光により変色することで、このマスターバッチを配合して得られた容器等の変色が生じてしまうからである。又、変色を抑えるために特許文献2のような塩素成分が低いポリプロピレンをマスターバッチとして用いることは、使用できる樹脂の種類を狭め、コストアップにもつながるため難しい。
【0007】
そこで本発明は、容器等を製造するための原反として使用される、PBTを紙基材などの基材表面にラミネートしたものに抗菌性を付与した抗菌性原反、並びに、これを用いて製作される抗菌性食品用容器及び抗菌性食品用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、基材層と、基材層の少なくとも一方表面に形成された抗菌性樹脂層とを有する抗菌性原反であって、抗菌性樹脂層は、粒径が300nm以下の抗菌性金属微粒子を分散させて含ませたポリブチレンテレフタレートから成り、抗菌性金属微粒子の溶出量が10μg/m2以上である、抗菌性原反である。
【0009】
このように構成すると、抗菌性樹脂層に分散させて含ませた抗菌性金属微粒子が溶出して抗菌性を示す。従来の当業者の技術常識では、ポリブチレンテレフタレートから抗菌性金属微粒子は溶出しにくいと考えられていたが、この予測に反し、抗菌性金属微粒子であれば、ポリブチレンテレフタレートからでも所要の溶出量が得られるという新たな知見が得られた。この発明の抗菌性原反を用いて容器を製造すると、抗菌性樹脂層は防水層として機能し、基材層に水分が浸み込むのを阻止する。抗菌性樹脂層の主成分をポリブチレンテレフタレートとしたので、耐熱性、成形性に優れたものとすることができる。抗菌性樹脂層に含ませる抗菌性金属微粒子の粒径が300nm以下なので、少量で大きい溶出量を得られるから、製造コストを抑えることができる。抗菌性金属微粒子の溶出量が10μg/m2以上なので、食品用として必要な抗菌性能を発揮する。又、抗菌性金属微粒子は耐熱性に優れるので、抗菌性能を保持するのが容易である。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、抗菌性樹脂層は、抗菌性金属微粒子を0.0075~0.02重量%の範囲で含むものである。
【0011】
このように構成すると、抗菌性を発揮するのに必要な抗菌性金属微粒子の溶出量を得られる。又、抗菌性樹脂層の透明性を損なわない。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、抗菌性金属微粒子は銀微粒子であるものである。
【0013】
このように構成すると、銀微粒子は安定性、安全性に優れるから、人体に毒性を与えるおそれがない。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1~請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、基材層は紙から成るものである。
【0015】
このように構成すると、抗菌性原反をプレス成形して製品を製造するのが容易であり、製品に保形性を容易に与えることができ、且つ安価である。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1~請求項4のいずれかに記載の抗菌性原反を用いて製作した抗菌性食品用容器である。
【0017】
このように構成すると、耐熱性に優れる抗菌性食品用容器の製造コストを抑えられる。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1~請求項4のいずれかに記載の抗菌性原反を用いて製作した抗菌性食品用シートである。
【0019】
このように構成すると、耐熱性に優れる抗菌性食品用シートの製造コストを抑えられる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の発明は、食品の加熱調理等、酸や油等の存在下での高温環境での使用が可能であり、且つ抗菌性能を備える製品を低コストで提供できる。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、抗菌性金属微粒子の含有量を0.0075~0.02重量%の範囲とすることで、確実に抗菌性能を発揮する製品を低コストで提供することができる。抗菌性金属微粒子の含有量が0.0075重量%未満では、必要な抗菌性能を得るのが困難である。含有量が0.02重量%を超えても抗菌性能は増大しない。又、抗菌性樹脂層の透明性が維持されるので、基材層に図柄等を印刷したときに、その意匠性が損なわれない。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、食品収容用として安全な製品を提供することができる。
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、成形性、保形性が良好な製品を、安価に提供できる。
【0023】
請求項5記載の発明は、高温環境でも使用可能な抗菌性食品用容器を安価に提供できる。
【0024】
請求項6記載の発明は、高温環境でも使用可能な抗菌性食品用シートを安価に提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1の実施の形態による抗菌性原反は、基材層と、基材層の少なくとも一方表面に形成された抗菌性樹脂層とを有する。基材層としては例えば紙が用いられる。紙を用いる場合、その種類や坪量は問わないが、おかずケースのような容器を製造する場合には、坪量としては20g/m2~100g/m2が好ましく、20g/m2~80g/m2がより好ましい。抗菌性樹脂層はポリブチレンテレフタレート(以下、PBT)から成り、これに粒径が300nm以下の抗菌性金属微粒子を分散させて含む。
【0026】
尚、本発明における抗菌性金属微粒子とは、金属単体で構成される微粒子のみならず金属と他の化合物とが結合した微粒子であって抗菌性を備えたもの、例えば脂肪酸金属塩のような金属を含む抗菌性を備えた無機微粒子も含むものであり、本明細書では便宜上、総称して抗菌性微粒子と呼ぶ。また、抗菌性金属微粒子の粒径は、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)による観察にて得られた拡大画像において、抗菌性金属微粒子の各々の粒径を計測することで確認でき、個々の微粒子が300nm以下であればよい。抗菌性金属微粒子は同じ含有量であっても粒径が小さくなれば抗菌性金属微粒子の比表面積が増大し、より少ない含有量で抗菌性を発揮しやすくなる。従って、抗菌性微粒子の粒径は100nm以下であることが好ましく、さらには50nm以下であることがより好ましい。尚、抗菌性微粒子の粒径の下限値は特に限定されないが、1nm以上であればよく、5nm以上であることが好ましい。1nm未満となるとマスターバッチ作製時においてもPBT中での分散性が極めて悪くなる。抗菌性金属微粒子は銀微粒子であり、抗菌性樹脂層中における抗菌性金属微粒子の配合量は0.0075~0.02重量%の範囲に調整される。尚、抗菌性金属微粒子の溶出量は10μg/m2以上となるように設定される。
【0027】
本例の抗菌性原反を製造するには、抗菌性樹脂層を構成するPBTに直接銀粒子を添加して分散させてもよいが、抗菌性樹脂層中に銀粒子を効率よく分散させるためには銀粒子を高濃度で配合したPBTベースのマスターバッチを予め準備した上で、このマスターバッチを別途PBTに配合することが好ましい。マスターバッチを準備する場合、始めに銀微粒子を分散させて含ませたPBTを準備する。例えば、PBTに対し、銀粒子として脂肪酸金属塩であるステアリン酸銀及び分散剤としてサッカリンを配合したものを加熱混合し、押出成形機を用いて押出成形した後、冷却処理、ペレタイズ処理等を経た粒状のマスターバッチを用いることができる。但し、抗菌性金属微粒子を含むPBTをベースとしたマスターバッチであればその製造方法は特に問わない。本発明の第1の実施の形態による抗菌性原反を得るにあたっては、マスターバッチ中の銀成分を0.5重量%に調整したものを用いた。尚、必要に応じマスターバッチには、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の補助成分を添加することができる。
【0028】
このようにして得られたマスターバッチをPBTに対し1.5~4.0重量%の範囲で配合し、これを溶融混合して、抗菌性樹脂を得る。この抗菌性樹脂は、銀微粒子が均一に分散した状態で含まれ、抗菌性樹脂中の銀微粒子の含有量は0.0075~0.02重量%の範囲である。そして、この抗菌性樹脂を、紙の少なくとも一方の表面にTダイによる押出ラミネーションにより積層して抗菌性樹脂層を形成することにより、目的の抗菌性原反が製造される。抗菌性樹脂層を積層する手段は、前述の押出ラミネーション法以外にも、ドライラミネーション法など公知の方法を使用できる。
【0029】
製造された抗菌性原反は、これを用いておかずケースのような食品収容用途の容器を製造した場合に、抗菌性樹脂層側を食品と接する面としたとき、抗菌性樹脂層が食品から生じる水分の防水層として機能し、基材層に水分が浸み込むのを阻止する。基材層に紙を用いるので、比較的安価に製造できると共に、抗菌性原反をプレス成形して製品を製造すること、及び、製品に保形性を与えることが容易にできる。抗菌性樹脂層の主成分をPBTとするから、耐熱性、成形性に優れる容器を提供できる。抗菌性金属微粒子を銀微粒子としたので、安定性、安全性に優れる。銀微粒子の粒径を300nm以下としたので、0.0075~0.02重量%という少ない配合量で、抗菌性能を発揮させるのに必要な10μg/m2以上の銀溶出量を得ることが可能である。これにより、抗菌性樹脂層の透明性を損なわずに抗菌性を発揮させることができると共に、抗菌性食品用製品の製造コストを抑えることができる。PBT及び銀微粒子はいずれも耐熱性に優れるので、加熱時等の高温下での使用が可能であり、且つ抗菌性を失わないという利点を有する。
【0030】
本例の抗菌性原反は、以上のような利点を有することにより、成形性、保形性、耐熱性が良好である。そして、これを用いて製造した容器は、食品の加熱調理等、酸や油等の存在下での高温環境の使用が可能であり、加熱しても抗菌性能が失われないので食品収容用として安全であり、且つ安価である。又、銀微粒子の含有量を0.0075~0.02重量%の範囲とすることで、確実に抗菌性能を発揮する製品を低コストで提供することができる。銀微粒子が0.0075重量%未満では必要な抗菌性能を得るのが困難であり、0.02重量%を超えると抗菌性能は増大するが、0.02重量%で必要十分な抗菌性能が得られるため、これ以上の銀微粒子を配合したとしてもコストアップとなってしまう。さらに、配合量が過度に多くなると抗菌性樹脂中の抗菌性金属微粒子の分散性も悪くなるので好ましくない。又、この範囲内であれば、抗菌性樹脂層の透明性が維持されるので、基材層に図柄等を印刷したときに、その意匠性を損なうことがない。抗菌性樹脂層の厚みは、好ましくは1~100μmの範囲、より好ましくは5~30μmの範囲とすればよい。この範囲内であれば、基材層に水分が浸み込むのを阻止する防水層として確実に機能させることができる。抗菌性樹脂層の厚みが1μm未満では、防水層の機能を発揮できないおそれがある。厚みが100μmを超えると、コスト高を招くおそれがある。又、抗菌性原反の成形性が低下するおそれがある。
【0031】
尚、本発明に係る抗菌性原反を用いることにより、高温環境でも使用可能な抗菌性食品用容器を安価に提供することができる。ここで抗菌性食品用容器とは、弁当箱内におかずを区分けして収納するためのおかずケースのようなカップ状の容器、液体を収納する紙コップ、食品を収納する紙カップや紙トレー、紙皿等を含む。
【0032】
又、本発明に係る抗菌性原反を用いることにより、高温環境でも使用可能な抗菌性食品用シートを安価に提供することができる。ここで、抗菌性食品用シートとは、食品を載置するため或いは食品を覆うために使用されるシート状の製品である。
【0033】
尚、本発明の抗菌性食品容器及び抗菌性食品用シートは、抗菌性樹脂層を備えるが、抗菌性樹脂層を構成するPBTの結晶化度が9%以上であることが好ましい。9%以上とすることにより、前述のように抗菌性樹脂層中に抗菌性金属微粒子の含有量が少量であったとしても良好な抗菌性能を示すようになる。PBTの結晶化度が9%未満の場合は、抗菌性能が低下するおそれがある。尚、PBTの結晶化度の上限は特に限定されないが20%程度であればよい。
【0034】
尚、本発明に係る抗菌性原反において、抗菌性金属微粒子としては、銀以外に、金、銅等の抗菌性を有するものを使用することができる。
【0035】
又、基材層の素材は、紙の他に、合成樹脂、金属、セラミック、織布又は不織布、及び、これらの複合材を使用することができ、特に耐熱性を備えるものが好ましい。
【0036】
更に、抗菌性樹脂層は、基材層の一方表面に形成するだけでなく、表裏両面に形成することもできる。
【実施例】
【0037】
[第1の実施例]
ステアリン酸銀0.5重量%を配合したPBTを加熱混合した後、造粒処理等を経て、PBTベースのマスターバッチを得た。マスターバッチにおける銀微粒子の粒径は5~100nmの範囲内であった。
【0038】
次に、上記のマスターバッチを0.5、1.0、2.5、3.0及び4.0重量%の比率で配合したPBTを溶融混合して、5種類の抗菌性樹脂を得た。この抗菌性樹脂に含まれる銀微粒子の含有量は、それぞれ0.0025、0.005、0.0125、0.015及び0.02重量%であった。
【0039】
この抗菌性樹脂を、紙(坪量:35g/m2)の一方の表面に押出法により積層して抗菌性樹脂層(厚み:15μm)を形成し、5種類の抗菌性原反を製造した。
【0040】
得られた各抗菌性原反からJIS Z 2801に規定する抗菌性試験用の試験体を作成するために、5種類の抗菌性原反それぞれについて右端付近、中央、左端付近の各領域から試験体を切り出した。そして、切り出した下記試験体について、JIS Z 2801に規定する試験方法に従い、抗菌性を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
表1に示すように、抗菌性樹脂における銀含有量が0.0125重量%(表1で示すPBTマスターバッチ2.5%)以上であれば、抗菌性原反の全体にわたり確実に抗菌性を発現させることができる。これに対し、抗菌性樹脂における銀微粒子の含有量が低い場合(0.005重量%以下)、抗菌性原反の部位による抗菌性のばらつきが生じ、抗菌性を示さない領域が生じる。
【0042】
[第2の実施例]
第1の実施例と同様にして、抗菌性樹脂中のマスターバッチの配合量をそれぞれ0.5、1.0、2.0、2.5、3.0、4.0重量%となるように調整して、抗菌性樹脂中の銀微粒子の含有量が0.0025、0.005、0.01、0.0125、0.015及び0.02重量%である6種類の抗菌性樹脂を調整し、それらを用いて作成した抗菌性原反の銀溶出量及び抗菌性を測定した。また、銀微粒子の含有量が0.0125、0.015、0.02重量%のものについては、それぞれの含有量の抗菌性原反を用いて抗菌性食品容器を成形した。尚、これらの抗菌性食品容器としては、当該抗菌性食品容器を構成する抗菌性樹脂層のPBT結晶化度が異なるものを準備した。
【0043】
銀微粒子の抗菌性能は水中に溶出する銀溶出量を測定することで抗菌性能の指標とすることができる。銀溶出量は、以下のようにして算出した。
【0044】
先ず、0.05%Tween80(登録商標)水溶液を常温下で3時間攪拌し、銀溶出用の溶出液を作製した。次に、抗菌性原反の試験体から5400cm2を切り出して溶出用試料として準備し、当該試料を上記溶出液450mlに含侵させて、50℃で16時間放置した。その後、銀が溶出した溶出液を孔径0.80μLのメンブレンフィルター(ADVANTEC社製)にてろ過し、イットリウム濃度が1ppmになるようにYttrium ICP standard[Y(NO3)3 in HNO3 2-3%、CertiPUR(登録商標)](MERCK社製)をろ過後の溶出水に加えて測定液とした。測定液中の銀イオン量を、ICP発光分光分析装置(iCAP6500:ThermoFisherSCIENTIFIC社製)にて測定した測定液の銀イオン濃度(ppm)から求め、溶出用試料1m2あたりの銀溶出量を算出した。
【0045】
結晶化度は、抗菌性原反を用いて成形された抗菌性食品容器を測定用試験体として、広角X線回折測定装置を用いて透過法により相対結晶化度を算出することにより求めた。
【0046】
抗菌性の測定方法は、JIS Z 2801に規定する試験方法に従った。
【0047】
結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
表2に示すように、銀含有量が0.01重量%以上の場合には、10μg/m
2以上の銀溶出量が得られるので、所要の抗菌性能を発揮できることが判る。これに対し、銀含有量が0.005重量%以下の場合は、銀溶出量が10μg/m
2未満の低い数値となり、所要の抗菌性能が得られない。
【0049】
[比較例]
粒径0.5μmの銀粒子10重量%を配合したPBTを加熱混合し、押出成形機を用いて押出成形した後、冷却処理、造粒処理等を経て、PBTベースのマスターバッチを得る。
【0050】
次に、上記のマスターバッチを抗菌性樹脂層中に2.5、3.0、4.0及び5.0重量%の比率となるように配合したPBTを溶融混合して、4種類の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物に含まれる銀粒子の含有量は、それぞれ0.25、0.3、0.4及び0.5重量%である。
【0051】
最後に、この樹脂組成物を、紙の一方の表面に押出成形法により積層して樹脂層を形成し、4種類の比較原反を製造する。
【0052】
得られた各比較原反について、第1の実施例と同様にして、右端付近、中央、左端付近の抗菌性を、JIS Z 2801に規定する試験方法に従って測定した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
表3の結果から判るように、銀粒子の平均粒径が大きい場合、銀含有量を多くしても、十分な抗菌性を得ることができない場合がある。又、領域における抗菌性のばらつきが大きいことから、銀粒子を樹脂層の全域にわたり均一に分散させるのが難しくなることが理解される。従って、粒径の大きい銀粒子を用いると、多量を要するのでコスト高をもたらす一方で、満足な抗菌性を得られないおそれがある。