(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】通水性向上剤
(51)【国際特許分類】
D21F 1/32 20060101AFI20230810BHJP
C08F 226/10 20060101ALI20230810BHJP
C08F 218/04 20060101ALI20230810BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
D21F1/32
C08F226/10
C08F218/04
B08B3/08 Z
(21)【出願番号】P 2019181095
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】393004085
【氏名又は名称】油化産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】三好 有香
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-272608(JP,A)
【文献】特開2008-208187(JP,A)
【文献】特開2014-098217(JP,A)
【文献】特開2008-240227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
C08F6/00-246/00
B08B3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルピロリドンと炭素数が4~6のカルボン酸ビニルとを重合して得られる共重合体からなり、前記ビニルピロリドン:前記カルボン酸ビニルのモル比が40:60~99.5:0.5であ
り、紙の製造工程において水分を除去するための製紙用具・製紙装置の通水性を向上させる通水性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通水性向上剤に関し、詳しくは、紙の製造工程においてワイヤーやフェルトなどの水分を除去するための製紙用設備の通水性を向上させる通水性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造は、木材などの繊維を水に懸濁させたパルプをワイヤーの上にのせて脱水し、更にフェルトで水を吸い取り搾水し、その後に乾燥させて行なわれている。ワイヤーやフェルトなどの製紙用設備は、ナイロンやポリエステルなどの疎水性の樹脂から一般にできており、必要に応じて界面活性剤などで親水化されている。しかし、パルプの原料中に含まれる樹脂などに由来する疎水性の汚れがこれら製紙用設備に堆積し、目詰まりを起こすと、表面が疎水性となり、水を通す能力(通水性)が低下する。
【0003】
そのため、紙の通水性向上を目的として、(1)シャワー水などによる連続的な洗浄、(2)ピッチコントロール剤を添加したシャワー水による洗浄などが行われている。
上記(1)の例としては、例えば非特許文献1に示す洗浄方法が挙げられ、この方法ではフェルトに付着した汚れを高圧の水(シャワー)で洗浄を行う。上記(2)の例としては、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの重合体および界面活性剤を外添し、ワイヤーやフェルトへの汚れの付着を防止することを特徴とする方法(例えば、特許文献1参照)などが挙げられる。これら(1)および(2)の方法でも、ある程度は通水性が向上していた。
【0004】
しかしながら、白水のクローズド化、古紙利用率の増加、ワイヤーやフェルトの織り構造の多重化などに起因して、通水性に由来するトラブルも増加傾向にある。特に、古紙および損紙由来で混入する接着剤やラテックスなどの粘着性物質、または紙を製造する際に使用されるサイズ剤や紙の表面コートに使用されるワックスなど疎水性の汚れが増加することにより、ワイヤーやフェルトは表面が通常よりも疎水性となり、通水性が極端に低下する。このような状況下では、ワイヤー上での脱水、更にフェルトによる搾水が不十分となり、紙(湿紙)の水分量が増え、断紙などのトラブルが発生するおそれがある。また、従来技術によって通水性がある程度向上しても、薬剤の剥離や汚れの付着により使用中に再度、通水性(再通水性)が低下するおそれもある。
このように強い疎水性の汚れが多く付着し易い状況で、通水性向上効果が高く、その効果を維持することができる通水性向上剤は開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】紙パルプ製造技術シリーズ,紙パルプ技術協会編,第6巻「紙の抄造」,p.238-239,480,484-486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、紙の製造工程においてワイヤーやフェルトなどの水分を除去するための製紙用設備に強い疎水性の汚れが多く付着し易い状況であっても、通水性向上効果が高く、その効果を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ビニルピロリドン(以下「VP」と表記することがある。)と炭素数が4~6のカルボン酸ビニル(以下「VSc」と表記することがある。)とのモル比を所定範囲に調整して得られた共重合体(以下「PVP/VSc」と表記することがある。)を使用することにより、疎水性のワイヤーやフェルトの表面を親水化し、通水性の向上およびその効果の維持(再通水性の向上)に有効であることを見出した。
【0009】
すなわち本発明の通水性向上剤は、VPとVScとを重合して得られるPVP/VScからなり、VP:VScのモル比が40:60~99.5:0.5であり、紙の製造工程において水分を除去するための製紙用具・製紙装置の通水性を向上させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の通水性向上剤は、ワイヤーやフェルト、ロールなどの製造設備に接触させる外添型の薬剤である。内添型の薬剤がパルプスラリー全量を処理するのに対して、外添型の薬剤は任意の製造設備および製造設備表面近傍を選択的に処理することから、薬剤使用量が少量で済み、パルプスラリーおよび紙製品へ及ぼす悪影響が少なく、高い通水性向上性が得られるなど、多数のメリットが得られる。また、疎水性の汚れが多い状況であっても、その効果(再通水性) を維持することができる。
【0011】
本発明の通水性向上剤は、紙の製造工程において、疎水性かつ構造が複雑な製紙用具・製紙装置への付着と親水化効果が充分であるので、ワイヤーやフェルトなどの通水性が要求される製紙用設備の通水性を向上することができる。
【0012】
本発明の通水性向上剤は、ワイヤーやフェルト、ロールなどの製造設備に接触させる外添型の薬剤である。内添型の薬剤がパルプスラリー全量を処理するのに対して、外添型の薬剤は任意の製造設備および製造設備表面近傍を選択的に処理することから、薬剤使用量が少量で済み、パルプスラリーおよび紙製品へ及ぼす悪影響が少ないとうメリットがある。したがって、本発明の通水性向上剤を含有する水溶液の所定量を製紙用具や製紙装置に外添することによって、製紙用具や製紙装置が汚れていた場合でも高い通水性が得られるうえ、薬剤使用量の低減によるコスト削減、パルプスラリーおよび紙製品へ及ぼす悪影響が少ないという効果も得られる。更に、シャワーによる濯ぎや抄紙工程を経ても、その通水性の維持(再通水性の向上)に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1はフェルトを固定する通水性評価器を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、これにより本発明が制限されるものではない。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は2以上5以下を表す。
【0015】
〔通水性向上剤〕
本発明の通水性向上剤は、VPとVScとを重合して得られるPVP/VScからなる。
VScとしては飽和カルボン酸ビニルが好ましい。炭素数が4~6の飽和脂肪族カルボン酸ビニルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルが挙げられ、入手の容易性の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
VP:VScのモル比は、40:60~99.5:0.5であり、好ましくは50:50~95:5、より好ましくは60:40~90:10である。VP:VScのモル比がこれらの範囲から外れると、通水性の向上やその効果の維持(再通水性の向上)が期待できなくなることがある。
【0017】
なお、PVP/VScには、本発明の効果を減じない範囲で、他の単量体由来の構造体を含んでいても良い。言い換えれば、VPとVScを含む単量体混合物は、本発明の効果を減じない範囲で、他の単量体を含んでいてもよい。
他の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体;(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどの4級アンモニウム塩を含むビニル系単量体;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの脂環アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボキシ基含有単量体、およびこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有ビニル系単量体、およびこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどのリン酸基含有ビニル系単量体、およびこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩などが使用できる。
【0018】
単量体混合物中、他の単量体の含有割合は、発明の効果を減じない範囲で任意に選ぶことができるが、モル比で10%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
PVP/VScの構造としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれの構造であってもよい。
共重合体を得るための重合方法としては、例えば、ラジカル重合法、リビングラジカル重合法などの公知の各種重合方法が採用される。また、熱の除去や取り扱い上の理由から、重合には溶剤として水や有機溶剤を用いることができる。
【0020】
PVP/VScの分子量は、特に限定されないが、分子量に関連する物理量の動粘度で示される範囲が10質量%の水溶液において、好ましくは1.0~5000mm2/sであり、より好ましくは1.1~500mm2/sであり、さらに好ましくは1.2~100mm2/sである。PVP/VScの動粘度が低すぎると通水性の向上効果が劣ることがあり、PVP/VScの動粘度が高すぎると薬液を調製した際の取扱いが難しくなることがある。
なお、PVP/VSc水溶液の動粘度は、JIS Z8803.6(2011)に基づき測定することができる。
【0021】
本発明の通水性向上剤は、少なくとも上記PVP/VScを含有する。
本発明の通水性向上剤中、PVP/VScの含有割合は、1~40質量%であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることがさら好ましい。
PVP/VScの含有割合が少なすぎると使用時の希釈倍率を高く設定することが難しくなることがあり、PVP/VScの含有割合が多すぎると通水性向上剤の取扱いが困難となることがある。
なお、通水性向上剤に含有されるPVP/VScとして、共重合体の構造や分子量の異なる2種以上のPVP/VScを用いることもできる。
【0022】
本発明の通水性向上剤は、取扱いなどの観点から、典型的には水溶液などの液状の形態をとる液剤である。例えば、PVP/VScを水中に混合し、溶解することによって本発明の通水性向上剤を調製することができる。使用する水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、RO水、水道水、工業用水が挙げられる。溶解に使用する水とともに、または水に代えて、本発明の効果を損なわない範囲で、エチルアルコールなどの有機溶剤を用いることもできる。
【0023】
本発明の通水性向上剤は、必要に応じて、界面活性剤、キレート剤、PVP/VSc以外の重合体、有機酸、ビルダー、pH調整剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料、香料などを含有してもよい。
【0024】
界面活性剤としては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン系界面活性剤などがあり、いずれの界面活性剤も好適に使用することかでき、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これら界面活性剤のうち、通水性を向上させる点から陽イオン系界面活性剤が好ましい。
また、陽イオン系界面活性剤の中でも特に、下記式1に示す陽イオン系界面活性剤から選ばれる1種または2種以上の界面活性剤を用いることがより好ましい。
【0025】
【0026】
式1中、R1はアルキル基またはアルケニル基であり、R1の炭素数は8~22が好ましく、10~18がより好ましい。R1の炭素数が小さすぎると充分な親水化効果が得られ難いことがあり、R1の炭素数が大きすぎると通水性向上剤の外観を透明に維持し難くなったり、取り扱いが困難になったりすることがある。
R2~R4は、それぞれ独立して、炭素数1~22、好ましくは炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~22、好ましくは炭素数1~10のアルキレン基、分岐があっても良い炭素数2~4のヒドロキシアルキレン基、またはベンジル基である。 炭素数1~22のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、オクチル基、デシル基が挙げられる。
R1~R4の炭素数の合計は26以下であることが好ましく、これによって通水性向上剤の外観を透明に維持することや、取り扱いがより容易になる。
X-は陰イオンを示し、例えば塩素イオン、臭素イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンおよびリン酸イオンなどが挙げられ、好ましくは塩素イオンである。
【0027】
本発明の通水性向上剤が界面活性剤を含有する場合、その含有量は特に制限されないが、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1 ~10質量%である。通水性向上剤における界面活性剤の含有量が少なすぎると界面活性剤の添加による通水性向上効果のさらなる増大が期待できないことがあり、界面活性剤の含有量が多すぎると製品の取扱いが困難になることがある。
必要に応じ、非イオン界面活性剤などの他の界面活性剤を用いて2種以上の界面活性剤を用いる場合は、2種以上の界面活性剤の合計の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0028】
キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤、グルコン酸などが好ましい。キレート剤は、使用する水由来の無機物がフェルトや装置に付着し難くすることや、付着した無機物の除去を行なう目的で使用することができる。キレート剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
〔製紙方法〕
本発明の通水性向上剤は、製紙用具・製紙装置に接触させることによりワイヤーやフェルトに付着し、その表面を親水化することにより製紙用具・製紙装置に汚れが付着または堆積するのを抑制ないし防止し、その結果、ワイヤーやフェルトの通水性を向上させることができる。例えば、シャワー水などに通水性向上剤を添加して、製紙用具・製紙装置への散布、噴霧、浸漬などにより直接接触させることができる。
【0030】
本発明の通水性向上剤を外添する対象の製紙用具・製紙装置は、紙やパルプが直接または間接的に接触する用具や装置であり、典型的には、抄紙工程におけるワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートで用いられる用具や装置である。例えば、ワイヤー、フェルト、トランスファーベルト、シュープレス、テーブルロール、ブレストロール、ダンディロール、ワイヤーリターンロール、クーチロール、プレスロール、フェルトロール、ピックアップロール、サクションロール、ペーパーロール、バッキングロール、リップ、フォーミングボード、フォイル、ドクター、サクションボックス、ユールボックス、カンバスなどが挙げられ、中でも、ポリエステル樹脂やナイロン樹脂などの疎水性樹脂を主成分とするワイヤーやフェルトに特に有効である。本発明の通水性向上剤を外添する抄紙機に制限はなく、例えば円網、長網、短網、コンビネーション、オントップ、ツインワイヤーなどが挙げられる。
【0031】
本発明の通水性向上剤を製紙用具・製紙装置に外添する方法としては、例えば抄紙機の稼動前または稼動中に、連続的にまたは間欠的に接触させる方法が挙げられるが、抄紙機の稼動中に連続的に接触させるのが好ましい。また、前記のように、本発明の通水性向上剤をシャワー水に添加して散布、噴霧、浸漬、接触させる方法が好ましいが、対象となる製紙用具・製紙装置以外のものに通水性向上剤を接触させることで、対象となる製紙用具・製紙装置に間接的に接触させても良い。
【0032】
本発明の通水性向上剤を添加するシャワー水などの水としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、井戸水など地下水、河川水または湖沼水などの表面水、工業用水などの新水、白水のいずれかまたはこれらを混合したものを使用することができる。ただし、水中の不純物と本発明の通水性向上剤との相互作用により充分な通水性が得られない場合がある点から、新水を使用するのが好ましい。
【0033】
本発明の通水性向上剤をシャワー水などに添加する場合の通水性向上剤の濃度は、例えば、通水性向上剤の固形分として好ましくは0.1~200ppmであり、より好ましくは0.3~100ppm、さらに好ましくは0.5~50ppmである。通水性向上剤の濃度が低すぎると濡れ性の低下や汚れ付着を起こして通水性が不充分となることがあり、濃度が高すぎると泡立ちが生じ易くなり、得られる紙の品質や操業性が低下することがある。
【0034】
本発明の通水性向上剤において、対象となるパルプの種類に制限はなく、クラフトパルプ、サルファイトパルプなどの晒または未晒化学パルプ;砕木パルプやサーモメカニカルパルプなどの晒または未晒機械パルプ;新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙、雑古紙、脱墨古紙などの古紙パルプ;マシン損紙、コート損紙などのブロークパルプが挙げられる。
【0035】
本発明の通水性向上剤を用いた製紙方法は、酸性、中性およびアルカリ性条件下で行われる紙の製造工程に適用することができる。得られる紙の種類に制限はなく、例えば、新聞用紙、上質紙やコート紙などの印刷用紙;PPC用紙や感熱紙原紙などの情報用紙;純白ロール紙や晒クラフト紙などの包装用紙;ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの衛生用紙;食品容器原紙や塗工印刷用原紙などの雑種紙;ライナーや中しん原紙などの段ボール原紙;白板紙や色板紙などの紙器用板紙;石こうボードや紙管原紙などの雑板紙などが挙げられる。
【0036】
本発明の通水性向上剤を用いた製紙方法において、通水性向上剤とともに他の添加剤を併用することもできる。他の添加剤として、例えば、歩留り向上剤、凝結剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、柔軟剤、サイズ剤、染料、硫酸バンド、填料、他の外添型通水性向上剤、潤滑剤、剥離剤、洗浄剤、スライムコントロール剤、スケールコントロール剤、酸、アルカリなどの添加剤を併用することもできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
表1および表2に示す原料を用いて、表3に示す実施例1~4および比較例1の薬液(通水性向上剤)を調製した。得られた各薬液について以下の試験方法にて評価を行い、その結果を表3に示す。なお、対照として薬剤未添加の評価を併せて行った。また表1中の「%」はモル比基準である。共重合体A1,A2および重合体Bの動粘度は10wt%水溶液を調製し、下記の方法にて測定を行った。
【0038】
[動粘度の測定]
共重合体及び重合体の水溶液について、JIS Z8803.6:2011(液体の粘度測定方法)に基づき40℃での動粘度の測定を行なった。細管粘度計にはキャノン-フェンスケ粘度計を用いた。
【0039】
原料1(A-1)の調製
機械かきまぜ機、還流冷却器、温度計および滴下漏斗を備えた2Lの4つ口フラスコにビニルピロリドン283g(2.55モル)、酢酸ビニル56g(0.65モル)、イソプロパノール60g、蒸留水480gを入れ、15分間窒素置換した。次にこの混合物を加熱して78℃に昇温した。温度を保持しながら0.3mlのt-ブチルペルオキシピバレートを添加し、15分経過後、ビニルピロリドン200g(1.80モル)を4時間かけて滴下した。滴下開始より1時間経過する度に0.3mlのt-ブチルペルオキシピバレートを添加し、ビニルピロリドンの滴下中3回投入した。滴下が終わった後、2時間温度を維持し、ついで蒸留水を100g添加し、還流冷却器を蒸留器に換え、窒素気流下で100℃まで温度を上げながらイソプロパノールを留去した。イソプロパノールの残存が無いことを確認後、冷却して生成物を取り出し、原料1(A-1)とした。高分子溶液の固形分を測定し、蒸留水で固形分濃度を30重量%とした後、以後の配合物の調製に使用した。
原料1(A-2)、原料1(B)は市販の試薬を用いた。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
[フェルトの通水性評価]
1)板紙工場で使用したフェルトを直径5cmの円形に切り取る。
2)中性ロジンサイズ剤(固形分50%) を2%(固形分1%)に希釈し、液にフェルトを1時間浸漬する。
3)浸漬後、105℃で3時間乾燥し、放冷する。
4)調製した薬剤の1000倍希釈液を300ml準備する。
5)フェルトを
図1に示す通水性評価器に固定する。
6)希釈した薬液を入れ、200mlの希釈液が排出されるまでの時間(通水時間)を計測する。
【0044】
[フェルトの再通水性評価]
1)上記の通水性評価の液が抜けたことを確認する。
2)水を500ml入れ、水が排出されるまで待ち、再度、水道水を500ml入れる。
3)水が抜けたことを確認する。
4)水を500ml入れ、300mlの目盛りから200mlの水が排出されるまでの時間(通水時間)を計測する。
【0045】
上記の通水時間の値に基づき、通水性および再通水性を各々以下の基準で評価した。
【0046】
[通水性の評価基準]
◎:通水時間が40秒未満である。
○:通水時間が40秒以上、65秒未満である。
△:通水時間が65秒以上、90秒未満である。
×:通水時間が90秒以上である。
【0047】
[再通水性の評価基準]
◎:通水時間が40秒未満である。
○:通水時間が40秒以上、50秒未満である。
△:通水時間が50秒以上、60秒未満である。
×:通水時間が60秒以上である。
【0048】
表3に示したように、本発明の通水性向上剤に係る実施例1~3の薬液を用いることにより、比較例1の薬液と比べ、通水性および再通水性が向上していることがわかる。