(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】歯科用根管治療器具
(51)【国際特許分類】
A61C 5/42 20170101AFI20230810BHJP
【FI】
A61C5/42
(21)【出願番号】P 2020014511
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】村井 秀行
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5762497(US,A)
【文献】米国特許第6702579(US,B1)
【文献】中国実用新案第209611357(CN,U)
【文献】特開2019-180864(JP,A)
【文献】特開2001-187068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0216668(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/42
A61C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト部と、シャフト部と連続した作業部を有する歯科用根管治療器具であって、
作業部はシャフト部から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されており、
前記作業部のシャフト部近傍の横断面は、対向した一対の長辺と、対向した一対の短辺と、長い対角線上に形成された鋭角のエッジと、短い対角線上に形成された鈍角のエッジと、を有する平行四辺形であり、
前記作業部の先端部近傍の横断面は、前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れかと連続した一つの辺又は二つの辺と円弧とからなる形状に形成されており、
前記先端部近傍からシャフト部近傍にかけての横断面は、
前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れかと連続し且つ前記先端部近傍の横断面
を構成する一つの辺又は二つの辺と連続した辺を除く辺
が該先端部近傍から順に形成されていることを特徴とする歯科用根管治療器具。
【請求項2】
シャフト部と、シャフト部と連続した作業部を有する歯科用根管治療器具であって、
作業部はシャフト部から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されており、
前記作業部のシャフト部近傍の横断面は、対向した一対の長辺と、対向した一対の短辺と、長い対角線上に形成された鋭角のエッジと、短い対角線上に形成された鈍角のエッジと、を有する平行四辺形であり、
前記作業部の先端部近傍の横断面は、前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は前記長辺及び短辺と連続し且つ互いに接続した二つの辺と円弧とからなる形状に形成されており、
前記先端部近傍からシャフト部近傍に向けて所定寸法離隔した位置毎の横断面は、
前記作業部の、シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は前記長辺及び短辺と連続し且つ互いに接続した二つの辺及び、
前記シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方、と連続し且つ前記先端部近傍の横断面
を構成する一つの辺又は互いに接続した二つの辺と連続した辺を除く辺
が接続されると共に円弧部分が減少した形状に形成されていることを特徴とする歯科用根管治療器具。
【請求項3】
シャフト部と、シャフト部と連続した作業部を有する歯科用根管治療器具であって、
作業部はシャフト部から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されており、
前記作業部のシャフト部近傍の横断面は、対向した一対の長辺と、対向した一対の短辺と、一方の長い対角線上に形成された鋭角のエッジと、他方の短い対角線上に形成された鈍角のエッジと、を有する平行四辺形であり、
前記作業部の先端部近傍の横断面は、前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は対向した一対の辺と円弧とからなる形状に形成されており、
前記先端部近傍からシャフト部近傍に向けて所定寸法離隔した位置毎の横断面は、
前記作業部の、シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は対向した一対の辺及び、
前記シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか、と連続し且つ前記先端部近傍の横断面を
構成する一つの辺又は対向した一対の辺と連続した辺を除く辺が接続されると共に円弧部分が減少した形状に形成されていることを特徴とする歯科用根管治療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療に際し根管を成形する際に用いる螺旋状の切刃を有する根管治療器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯の根管は先端部分が極めて細く、且つ全体が微妙に屈曲した形状を有している。そして、この形状は個人差が大きい。根管を治療する際には屈曲した根管壁を切削、或いは研削してテーパ状に成形することが行われる。このような根管の成形はファイル、リーマと呼ばれる螺旋状の切刃を有する根管治療器具を使用して行われる。
【0003】
即ち、医師が選択したファイル或いはリーマを指先でつまんで回転操作し、或いは押し引き操作することで、根管の成形を行っている。最近では、選択された根管治療器具をハンドピースと呼ばれる回転駆動器具のチャックによって保持し、この状態で回転させながら根管の治療を行うことも多くなっている。
【0004】
根管治療器具は、ハンドルと、該ハンドルに固定された切削部材とを有して構成されている。ハンドルは医師が把持して操作するか、或いはハンドピースに保持して操作するか、に対応させて最適な形状を有している。また、切削部材はハンドルに固定されるシャフト部と、該シャフト部と連続した作業部とを有しており、作業部はテーパ状に形成されている。
【0005】
根管治療器具には、根管壁に対する良好な切削性能、切削屑の良好な排除性能、根管に対する柔軟な追従性能、などが要求される。また、根管を治療する際に、根管治療器具の先端部分が根管の先端部分に食い込んで操作が困難になるようなことや、破断するようなことがないという性能も要求される。このような要求に対応するために、特許文献1、2に記載された根管治療器具が提案されている。
【0006】
特許文献1に記載された発明はファイル又はリーマなどの根管治療器具に関するものであり、押し操作の際には切削性を発揮することなく、引き操作の際にのみ切削性を発揮し得るようにしたものである。この根管治療器具は、作業部の横断面の形状が、長辺が短辺の1.5倍以上の長さを有する平行四辺形で、作業部の長手方向に近接した2つのエッジのうち鋭角のエッジをシャフト部側に配置して構成されている。
【0007】
特許文献1に記載された根管治療器具では、作業部の横断面が平行四辺形として形成されているため、柔軟性を有しており屈曲した根管に対する良好な追従性を発揮することができる。また、医師が引き操作したときに切削性を発揮するため、切削屑の根管からの排出を容易に行うことが可能である。
【0008】
また、特許文献2に記載された発明はファイル又はリーマなどの根管治療器具に関するものであり、作業部に於ける元部の柔軟性を向上させたものである。この根管治療器具は、作業部の横断面の形状が平行四辺形で、且つシャフト部側の元部の横断面に於ける長辺の長さ/短辺の長さが先端部の横断面に於ける長辺の長さ/短辺の長さより大きく、元部側の捩じれ角が先端部の捩じれ角よりも大きく形成されている。
【0009】
特許文献2に記載された根管治療器具では、平行四辺形の横断面に於ける長辺/短辺の長さを作業部の元部と先端部とで変化させたことによって、元部側の柔軟性を高めることができる。このため、操作性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4214285号公報(特開平11-358917号)
【文献】特許第4214286号公報(特開2000-000481号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1、特許文献2に記載された根管治療器具では、夫々鋭利な角度を有するエッジが円周上に存在するため、切削性能に優れるという特徴を有する。しかし、切削性能に優れるため、根管の先端部分では根管壁に対する切削性能が優先して発揮されてしまい意図した治療経路から逸脱してしまうという虞や、根管壁に食い込んで操作が困難になるという虞がある。
【0012】
また、作業部の横断面が全長にわたって、一つの平面と円弧面とからなる略D字状の根管治療器具も提供されているが、この根管治療器具では非柔軟性を有しており、根管を穿通するような治療には適しているものの、切削性能に劣るという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、特許文献1、2の特徴を備えた上で、根管の先端部分に対して確実に追従することができ、且つ根管壁に対する食い込みを防ぐことができる歯科用根管治療器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る第1の歯科用根管治療器具は、シャフト部と、シャフト部と連続した作業部を有する歯科用根管治療器具であって、作業部はシャフト部から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されており、前記作業部のシャフト部近傍の横断面は、対向した一対の長辺と、対向した一対の短辺と、長い対角線上に形成された鋭角のエッジと、短い対角線上に形成された鈍角のエッジと、を有する平行四辺形であり、前記作業部の先端部近傍の横断面は、前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れかと連続した一つの辺又は二つの辺と円弧とからなる形状に形成されており、前記先端部近傍からシャフト部近傍にかけての横断面は、前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れかと連続し且つ前記先端部近傍の横断面を構成する一つの辺又は二つの辺と連続した辺を除く辺が該先端部近傍から順に形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
また本発明に係る第2の歯科用根管治療器具は、シャフト部と、シャフト部と連続した作業部を有する歯科用根管治療器具であって、作業部はシャフト部から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されており、前記作業部のシャフト部近傍の横断面は、対向した一対の長辺と、対向した一対の短辺と、長い対角線上に形成された鋭角のエッジと、短い対角線上に形成された鈍角のエッジと、を有する平行四辺形であり、前記作業部の先端部近傍の横断面は、前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は前記長辺及び短辺と連続し且つ互いに接続した二つの辺と円弧とからなる形状に形成されており、前記先端部近傍からシャフト部近傍に向けて所定寸法離隔した位置毎の横断面は、前記作業部の、シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は前記長辺及び短辺と連続し且つ互いに接続した二つの辺及び、前記シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方、と連続し且つ前記先端部近傍の横断面を構成する一つの辺又は互いに接続した二つの辺と連続した辺を除く辺が接続されると共に円弧部分が減少した形状に形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
また本発明に係る第3の歯科用根管治療器具は、シャフト部と、シャフト部と連続した作業部を有する歯科用根管治療器具であって、作業部はシャフト部から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されており、前記作業部のシャフト部近傍の横断面は、対向した一対の長辺と、対向した一対の短辺と、一方の長い対角線上に形成された鋭角のエッジと、他方の短い対角線上に形成された鈍角のエッジと、を有する平行四辺形であり、前記作業部の先端部近傍の横断面は前記作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は対向した一対の辺と円弧とからなる形状に形成されており、前記先端部近傍からシャフト部近傍に向けて所定寸法離隔した位置毎の横断面は前記作業部の、シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は対向した一対の辺及び、前記シャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れか、と連続し且つ前記先端部近傍の横断面を構成する一つの辺又は対向した一対の辺と連続した辺を除く辺が接続されると共に円弧部分が減少した形状に形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る歯科用根管治療器具(以下単に「根管治療器具」という)では、先端部分に曲がりのある根管であっても確実に追従することができ、且つ根管壁に対する食い込みを防ぐことができる。
【0018】
即ち、第1の根管治療器具では、作業部のシャフト部近傍の横断面は平行四辺形であり、先端部近傍の横断面は、作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺又は一対の短辺の何れか一方と連続した一つの辺又は二つの辺と円弧とからなる形状に形成されている。そして、この先端部近傍からシャフト部近傍にかけての横断面は、作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺及び一対の短辺の何れかと連続した辺が該先端部近傍から順に形成されている。
【0019】
即ち、作業部の先端部近傍の横断面は一つの辺又は二つの辺と円弧によって形成されているため、根管治療に際し切削に寄与するエッジの数が少なくなる。このため、先端部近傍の切削性能は、シャフト部近傍の切削性能と比較して低下することとなり、根管壁に対する食い込みを防ぐことが可能となる。また、根管の治療に際しては、円弧面が根管壁に接触することとなり、この根管壁面を案内として根尖に向けて進行することができ、屈曲した根管であっても該屈曲に追従することができる。
【0020】
特に、先端部近傍からシャフト部近傍にかけての横断面が、一つの辺又は二つの辺と円弧から二つの辺又は三つの辺と円弧、三つの辺と円弧又は四つの辺、四つの辺からなる平行四辺形に移行してゆく。このため、前記した横断面の形状の変化に伴って、切削性能の増加をはかることができる。尚、二つの辺から四つの辺へ横断面の形状を変化させることも可能である。
【0021】
第2の根管治療器具では、作業部の先端部近傍からシャフト部近傍にかけての横断面が、作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺又は一対の短辺と連続した一つの辺又は長辺と短辺が接続された二つの辺と円弧、前記一つの辺又は二つの辺に対して連続した辺が接続した二つの辺又は三つの辺と円弧、前記二つの辺又は三つの辺に対し連続した辺が接続した三つの辺と円弧又は四つの辺、四つの辺からなる平行四辺形として構成されている。
【0022】
このため、先端部近傍の切削性能は、シャフト部近傍の切削性能と比較して低下することとなり、根管壁に対する食い込みを防ぐことが可能となる。また、根管の治療に際しては、円弧面が根管壁に接触することとなり、この根管壁面を案内として根尖に向けて進行することができ、屈曲した根管であっても該屈曲に追従することができる。
【0023】
第3の根管治療器具では、作業部の先端部近傍からシャフト部近傍にかけての横断面が、作業部のシャフト部近傍の横断面を構成する対向した一対の長辺又は一対の短辺と連続した一つの辺又は一対の辺と円弧、一対の長辺又は一対の短辺と連続した一つの辺又は一対の辺に対して連続した辺が接続した二つの辺又は三つの辺と円弧、前記一対の辺に対し短辺と連続した辺が接続した三つの辺と円弧又は四つの辺、四つの辺からなる平行四辺形として構成されている。尚、二つの辺から四つの辺へ横断面の形状を変化させることも可能である。
【0024】
このため、先端部近傍の切削性能は、シャフト部近傍の切削性能と比較して低下することとなり、根管壁に対する食い込みを防ぐことが可能となる。また、根管の治療に際しては、円弧面が根管壁に接触することとなり、この根管壁面を案内として根尖に向けて進行することができ、屈曲した根管であっても該屈曲に追従することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施例に係る根管治療器具の側面図である。
【
図2】第1実施例に係る作業部の横断面の形状を説明する拡大図である。
【
図3】第1実施例に係る作業部を説明するための拡大斜視図である・
【
図4】第2実施例に係る根管治療器具の側面図である。
【
図5】第2実施例に係る作業部の横断面の形状を説明する拡大図である。
【
図6】第3実施例に係る根管治療器具の側面図である。
【
図7】第3実施例に係る作業部の横断面の形状を説明する拡大図である。
【
図8】第3実施例に係る作業部を説明するための拡大斜視図である・
【
図9】第4実施例に係る根管治療器具の側面図である。
【
図10】第4実施例に係る作業部の横断面の形状を説明する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る根管治療器具について説明する。本発明に係る根管治療器具は、シャフト部と、このシャフト部に連続したテーパ状の作業部を有しており、歯科治療に際しては対象となる根管をテーパ状に成形するためのものである。特に、根管の屈曲した先端部分に対して確実に追従することを可能とし、且つ根管壁への食い込みを防ぐことを可能としたものである。
【0027】
また、本発明に係る根管治療器具は、作業部の先端部近傍からシャフト部側にかけて横断面が、一つの辺と円弧からなる略D形状から、二つの辺と円弧からなる形状、三つの辺と円弧からなる形状を経て、平行四辺形に至るように形成されている。このため、先端部近傍からシャフト部側にかけて柔軟性を向上させることを可能とし、同時に切削性能も向上させることも可能としている。
【0028】
更に、作業部の先端部近傍の横断面に於ける平行四辺形の内接円の径を大きくすることで捻じり強さを大きくし、ハンドピースによる大きな回転力を伝えることを可能としたものである。
【0029】
作業部は、シャフト部側から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されている。作業部のテーパはISOでは2/100と規格化されている。しかし、必ずしも前記テーパに限定するものではなく、治療部位に対応させて最適なテーパに適宜設定されることが好ましい。また、作業部の太さは該作業部の先端部位で0.06mm~1.40mmの範囲に設定されており、この範囲内に於ける異なる寸法を有するもの複数種類が規格化されている。また、作業部は螺旋状に形成されており、根管を治療する際には隣接するエッジとの間に隙間が形成されるため、この隙間を介して切削屑を排出することが可能である。
【0030】
本発明に係る根管治療器具は、治療に際し医師が把持して操作するか、ハンドピースに取り付けて操作するか、を限定するものではない。このため、根管治療器具は操作手法に対応させて、シャフト部が医師が把持し得るように合成樹脂製のハンドルに一体成形され、或いはハンドピースのチャックに把持し得るように金属製のシャンクに一体化されている。
【0031】
本発明に係る根管治療器具は、作業部に於けるシャフト部近傍の横断面は対向した一対の長辺と、対向した一対の短辺と、長い対角線上に形成された鋭いエッジと、短い対角線上に形成された鈍角のエッジとを有する平行四辺形として形成されている。
【0032】
また、作業部の先端部近傍の横断面は、シャフト部近傍の横断面を構成する一対の長辺又は一対の短辺の何れかと連続した一つの辺と円弧からなる略D形状に形成され、或いは二つの辺と円弧とからなる変形D形状か鼓形に形成されている。このため、先端部近傍では、一つの辺と円弧が交わることでエッジが形成されている。
【0033】
上記の如く、作業部の先端部近傍に形成されたエッジに於ける辺と円弧とのなす角は、シャフト部近傍の長い対角線上に形成されたエッジに於ける長辺と短辺とのなす角と比較して大きい。このため、根管を治療する際に、根管壁に対する切削性能が劣ることとなり、先端部近傍では根管壁に対する食い込みを防ぐことが可能となる。この結果、根管の曲がりなどに対して柔軟に追従することが可能となり、意図した経路での治療を施すことが可能となる。
【0034】
また、作業部の先端部近傍の断面積は、該先端部近傍の横断面の形状をシャフト部近傍の横断面を構成する平行四辺形の相似形とした場合と比較して大きくなる。このため、治療中に生じる虞のある破断を防ぐことも可能となり、且つ非柔軟性(所謂コシ)が強くなって治療の際に医師に対する良好な反力を伝えること、或いはハンドピースの回転力を確実に伝えることが可能となる。
【0035】
本発明に係る第2の根管治療器具は、先端部近傍から所定寸法離隔した位置までの長さ、即ち「所定長さ範囲」を順に設定しておき、この所定長さ範囲毎に、作業部の先端部近傍の略D字状の横断面を構成する一つの辺に対しシャフト部近傍の平行四辺形を構成する一方の一対の辺から連続した一つの辺を追加し互いに接続した二つの辺と円弧、前記二つの辺に対し他の一対の辺から連続した一つの辺を追加した三つの辺と円弧、前記三つの辺に対し一方の一対の辺から連続した辺を追加した四つの辺からなる平行四辺形、と、辺の数を順に増加させたものである。尚、辺の数の増加のさせ方としては、一つずつでなくても良く、例えば、二つの辺から四つの辺へ増加させることも可能である。
【0036】
また、本発明に係る第3の根管治療器具は、先端部近傍から順に所定長さ範囲を設定しておき、この所定長さ範囲毎に、作業部の先端部近傍の略D形状の横断面を構成する一つの辺に対しシャフト部近傍の平行四辺形を構成する一方の一対の辺から連続した一つの辺を追加して形成した平行な二つの辺と円弧、前記二つの辺に対し他の一対の辺から連続した一つの辺を追加した三つの辺と円弧、前記三つの辺に対し一方の一対の辺から連続した辺を追加した四つの辺からなる平行四辺形、と、辺の数を順に増加させたものである。尚、辺の数の増加のさせ方としては、一つずつでなくても良く、例えば、二つの辺から四つの辺へ増加させることも可能である。
【0037】
本発明に於いて、作業部の先端部近傍、該先端部近傍からシャフト部側に向けて所定長さ範囲、の寸法は特に限定するものではなく、目的の根管治療器具の使用目的や作業部の太さや長さに対応させて適宜設定することが好ましい。
【0038】
本件発明者の知見では、作業部の先端部近傍とは作業部の尖端から作業部全長の2.5%~3%程度の範囲であり、先端部近傍から所定長さ範囲とは尖端から作業部全長の5%~50%であり、前記所定長さ範囲から更にシャフト部側に離隔した所定長さ範囲とは尖端から作業部全長の15%~75%であり、前記した範囲内で、目的の根管治療器具の太さや作業部の全長(16mm、20mm)を考慮して適宜設定することが好ましかった。
【0039】
また、シャフト部近傍とは、良好な研削性能を発揮する作業部と、該作業部とシャフト部の間に形成され作業部からシャフト部に移行する移行部との境界部分の近傍である。しかし、必ずしもこの境界部分である必要はなく、実際の根管治療を行う際に必要な尖端からの長さを指定しても良い。
【0040】
本発明に於いて、根管治療器具の材質を限定するものではなく、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、形状記憶機能を有するチタン合金などを選択的に利用することが可能である。そして、選択した材質に対し最も適した加工方法によって加工することで、目的の根管治療器具を製造することが好ましい。
【0041】
尚、作業部は先端側からシャフト部側にかけて連続した切削加工或いは研削加工によって形成されている。このため、作業部の断面形状は、先端部近傍からシャフト部近傍にかけて連続的に変化している。従って、以下の説明に於いて、先端部近傍から所定長さ範囲の位置を順に設定して各位置に於ける断面形状を示しているが、各位置に於ける断面形状は変化しつつある作業部の形状の一部を取り出したものであり、必ずしも図に示す形状によって限定するものではない。
【0042】
次に、第1実施例に係る根管治療器具の構成について
図1~
図3により説明する。本実施例に係る根管治療器具は、ハンドピースに取り付けられて回転駆動されるように構成されている。このため、根管治療器具は、シャフト部Aと、該シャフト部Aに連続した作業部Bと、シャフト部Aが固定されハンドピースのチャックに把持されるシャンク部Cと、を有して構成されている。
【0043】
シャフト部Aと作業部Bは1本の材から連続して形成されている。シャフト部Aは軸状に形成されており、一方側に作業部Bが連続して形成され、他方側がシャンク部Cに接続されて一体化している。
【0044】
作業部Bは、シャフト部A側から先端部にかけて細くなるテーパ状に形成されており、先端部近傍からシャフト部近傍にかけて、前述した作業部Bの全長に応じて尖端から複数の位置が設定されている。即ち、作業部Bに、シャフト部近傍Ba(断面IIBa)、先端部近傍Bb(断面IIBb)、先端部近傍から所定長さ範囲となる所定位置Bc(断面IIBc)、所定位置Bcから所定長さ範囲となる所定位置Bd(断面IIBd)が夫々設定されている。
【0045】
シャフト部A近傍Baの断面IIBaと、先端部近傍Bbの断面IIBbは異なる形状を有している。即ち、シャフト部近傍Baに於ける断面IIBaは、
図2(a)に示すように、対向した一対の長辺1aと、対向した一対の短辺2aからなる平行四辺形で、長い対角線3a上に鋭角のエッジ5aが形成され、短い対角線4a上に鈍角のエッジ6aが形成されている。
【0046】
作業部Bの先端部近傍Bbに於ける断面IIBbは、
図2(b)に示すように、シャフト部近傍の断面IIBaを構成する一対の短辺2aの何れか一方と連続した一つの辺1bと、円弧7とからなる略D字状に形成されている。
【0047】
断面IIBbに於ける辺1bと円弧7との交点が、シャフト部近傍の断面IIBaに於ける鋭角のエッジ5aと連続したエッジ5bとして構成される。前記エッジ5bはエッジ5aの角度よりも大きいため、切削性能はシャフト部近傍と比較すると低下する。このため、根管の治療に際し、根管壁に対する食い込みを防ぐことが可能となる。
【0048】
また、断面IIBbの内接円(コア)の直径は、例えばシャフト部近傍Baの断面IIBaの相似形を先端部近傍の断面としたときの内接円の直径と比較して大きくなる。即ち、先端部近傍Bbではコアの太さが大きくなり、コシの強さを増すと共に、捻り強さを大きくして充分な回転力を伝えることが可能となる。
【0049】
作業部の先端部近傍Bbから所定長さ範囲離隔した位置に設定された位置Bcの断面IIBcは、
図2(c)に示すように、シャフト部近傍Baの断面IIBaを構成する一対の短辺2aの一方から連続した辺1cと、該辺1cと接続する断面IIBaを構成する対向した一対の長辺1aの一方から連続した辺2cと、円弧7とによって形成されている。即ち、断面IIBcは、先端部近傍Bbの断面IIBbに於ける辺1bに辺2cを接続した形状を有している。そして、辺1cと辺2cとによってシャフト部近傍Baの断面IIBaに於ける鈍角のエッジ6aから連続した鈍角のエッジ6cが構成されている。
【0050】
上記位置Bcから所定長さ範囲離隔した位置に設定された位置Bdの断面IIBdは、
図2(d)に示すように、シャフト部近傍Baの断面IIBaを構成する一対の短辺2aから連続した一対の辺1dと、該辺1dと接続する断面IIBaを構成する対向した一対の長辺1aの一方から連続した辺2dと、円弧7とによって形成されている。即ち、断面IIBdは、前述の位置Bcの断面IIBcに於ける辺1c、辺2cに辺1dを接続した形状を有している。
【0051】
更に、上記位置Bdからシャフト部近傍Baにかけて、位置Bdの断面IIBdの一対の辺1dに、シャフト部近傍Baの断面IIBaを構成する一対の長辺1aと連続する辺を接続することで、円弧7が該辺に置き換わることでシャフト部近傍Baの断面IIBaを構成する平行四辺形に移行している。
【0052】
上記の如く形成された第1実施例に係る根管治療器具では、先端部近傍Bbから位置Bc、位置Bdにかけて、コシの強さを変化させることが可能であり、且つ高い回転力を伝えることが可能である。
【0053】
上記の如き断面IIBaから断面IIBb、IIBc、IIBdに至る形状の変化は、切削加工の際に切削材又は研削材の追い込み量を作業部Bの長手方向の位置に対応させて調整することで良い。
【0054】
次に第2実施例に係る根管治療器具の構成ついて
図4、
図5により説明する。尚、図に於いて、前述の第1実施例と同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号をつけて説明を省略する。
【0055】
図4、
図5には、シャフト部近傍Baと断面VBa、及び先端部近傍Bbと横断面VBbを示している。しかし、先端部近傍Bbからシャフト部近傍Baまでの間には前述の第1実施例と同様に、シャフト部近傍Baの断面VBaである平行四辺形を構成する一対の長辺、一対の短辺が順に形成されている。
【0056】
本実施例に於いて、シャフト部近傍Baの断面VBaは、
図5(a)に示すように、対向した一対の長辺1aと、対向した一対の短辺2aからなる平行四辺形で、長い対角線3a上に鋭角のエッジ5aが形成され、短い対角線4a上に鈍角のエッジ6aが形成されている。
【0057】
また、先端部近傍Bbの断面VBbは同図(b)に示すように、シャフト部近傍Baの断面VBaを構成する一対の長辺1aの何れか一方と連続した一つの辺1bと、該辺1bと接続し前記一対の短辺2aの何れか一方と連続した一つの辺2bと、円弧7とからなる形状に形成されている。
【0058】
上記の如く、本実施例では、先端部近傍Bbに於ける断面VBbは、シャフト部近傍Baの断面VBaを構成する長辺1aと該長辺1aと接続された短辺2aの夫々と連続した辺1b、2bとを有している。従って、この断面VBbの形状は、第1実施例に於ける位置Bcの断面IIBcの形状と類似したものとなっている。
【0059】
即ち、本実施例では、先端部近傍Bbの断面VBbは、互いに接続された二つの辺1b、2bと円弧7とによって構成され、該先端部近傍Bbから所定寸法離隔した位置で辺1a又は1bに連続した辺が接続される。更に、所定寸法離隔した位置で残りの辺が接続されてシャフト部近傍Baの断面VBaと相似形の平行四辺形が形成される。尚、辺の数の増加のさせ方としては、一つずつでなくても良く、例えば、二つの辺から四つの辺へ増加させることも可能である。
【0060】
上記の如く構成された第2実施例に係る根管治療器具であっても、先端部近傍Bbからシャフト部近傍Baにかけて、コシの強さを変化させることが可能であり、且つ高い回転力を伝えることが可能である。
【0061】
次に第3実施例に係る根管治療器具の構成ついて
図6~
図8により説明する。尚、図に於いて、前述の第1実施例と同一の部分には同一の符号をつけて説明を省略する。
【0062】
本実施例に於いて、先端部近傍Bbの断面VIIBbは、
図7(b)に示すように、前述の第1実施例の対応する断面IIBbと同一である。またシャフト部近傍Baの断面VIIBaは、
図7(a)に示すように、前述の第1実施例の対応する断面IIBaとは異なり、短辺と長辺の位置関係が入れ替わっている。
【0063】
作業部の先端部近傍Bbから所定長さ範囲に設定された位置Bcの断面VIIBcは、
図7(c)に示すように、シャフト部近傍Baの断面VIIBaを構成する対向した一対の長辺1aから連続した対向した一対の辺1cと、これら一対の辺1cを接続する対向した一対の円弧7とによって形成されている。即ち、断面VIIBcは、先端部近傍Bbの断面VIIBbに於ける辺1bに辺1cを対向させた形状を有している。
【0064】
上記位置Bcから所定長さ範囲離隔した位置に設定された位置Bdの断面VIIBdは、
図7(d)に示すように、シャフト部近傍Baの断面VIIBaを構成する一対の長辺1aから連続した一対の辺1dと、該辺1dと接続する断面VIIBaを構成する対向した一対の短辺2aの一方から連続した辺2dと、円弧7とによって形成されている。即ち、断面VIIBdは、前述の位置Bcの断面VIIBcに於ける一対の辺1cに辺2dを接続した形状を有している。
【0065】
更に、上記位置Bdからシャフト部近傍Baにかけて、位置Bdの断面VIIBdの一対の辺1dに、シャフト部近傍Baの断面VIIBaを構成する一対の短辺2aと連続する辺が接続することで円弧7が該辺に置き換わり、シャフト部近傍Baの断面VIIBaを構成する平行四辺形に移行している。
【0066】
本実施例であっても、前述の第1実施例と同様に、作業部Bの先端部近傍Bbでは強いコシを実現し、この先端部近傍Bbからシャフト部近傍Ba側にかけてコシの強さを連続的に減少させることが可能であり、ハンドピースの回転力を伝えることも同様である。
【0067】
次に第4実施例に係る根管治療器具の構成について
図9、
図10により説明する。尚、図に於いて、前述の第1実施例と同一の部分には同一の符号をつけて説明を省略する。
【0068】
図9、
図10には、シャフト部近傍Baと断面XBa、及び先端部近傍Bbと断面XBbを示している。しかし、先端部近傍Bbからシャフト部近傍Baまでの間には、前述の第1実施例と同様に、シャフト部近傍Baの断面XBaである平行四辺形を構成する一対の長辺、一対の短辺が順に形成されている。尚、辺の数の増加のさせ方としては、一つずつでなくても良く、例えば、二つの辺から四つの辺へ増加させることも可能である。
【0069】
本実施例に於いて、シャフト部近傍Baの断面XBaは、
図10(a)に示すように、対向した一対の長辺1aと、対向した一対の短辺2aからなる平行四辺形で、長い対角線3a上に鋭角のエッジ5aが形成され、短い対角線4a上に鈍角のエッジ6aが形成されている。
【0070】
また、先端部近傍Bbの断面XBbは同図(b)に示すように、シャフト部近傍Baの断面XBaを構成する一対の長辺1aの両方と連続した一対の辺1bと、円弧7とからなる形状に形成されている。従って、この断面XBbの形状は、第3実施例に於ける位置Bcの断面VIIBcの形状と類似したものとなっている。
【0071】
本実施例では、先端部近傍Bbの断面XBbは、対向する一対の辺1bと円弧7とによって構成され、該先端部近傍Bbから所定寸法離隔した位置で対向する一対の短辺2aの何れかの辺に連続した辺が接続される。更に、前記位置から所定寸法離隔した位置で残りの辺が接続されてシャフト部近傍Baの断面XBaと相似形の平行四辺形が形成される。
【0072】
上記の如く構成された第4実施例に係る根管治療器具であっても、先端部近傍Bbからシャフト部近傍Baにかけて、コシの強さを変化させることが可能であり、且つ高い回転力を伝えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る根管治療器具は、歯科治療に於ける根管治療の際に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
A シャフト部
B 作業部
C シャンク部
Ba シャフト部近傍
Bb 先端部近傍
Bc、Bd 位置
1a 長辺
1b~1d 長辺1aから連続した辺
2a 短辺
2b~2d 短辺2aから連続した辺
3a 長い対角線
4a 短い対角線
5a~5d 鋭角のエッジ
6a~6d 鈍角のエッジ
7 円弧