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特許7329472スケールおよび/またはカーボン除去方法、および金属材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】スケールおよび/またはカーボン除去方法、および金属材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/02 20060101AFI20230810BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20230810BHJP
   C23C 22/12 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C23G1/02
C23C22/78
C23C22/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020048436
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147660
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 剣斗
(72)【発明者】
【氏名】上野 峻之
(72)【発明者】
【氏名】石谷 正道
(72)【発明者】
【氏名】浅田 照朗
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-143530(JP,A)
【文献】特開2012-046817(JP,A)
【文献】特開平11-036089(JP,A)
【文献】特開昭60-243290(JP,A)
【文献】特開2010-090426(JP,A)
【文献】特開2004-204269(JP,A)
【文献】国際公開第2011/067955(WO,A1)
【文献】特開2007-224325(JP,A)
【文献】特開2015-190046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C23G 1/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材に対して接触させる、除去剤接触工程、
を包含し、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、キレート剤、有機酸還元剤、フッ素化合物および界面活性剤を含み、
前記界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤から選択される少なくとも1種であり、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるキレート剤の総含有量は、3000~60000質量ppmの範囲内であり、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHは5~7の範囲内であり、
前記キレート剤は、ホスホン酸系キレート剤およびアミノカルボン酸型キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機酸還元剤は、カルボン酸系有機酸還元剤、多価フェノール有機酸還元剤または硫黄系有機酸還元剤であり、
前記キレート剤および前記有機酸還元剤の合計含有量は、53,000~100,000質量ppmであり、
前記除去剤接触工程において、スケールおよび/またはカーボン除去剤は、噴霧圧力0.08~2MPaの範囲内で金属材表面に対して噴霧されることによって、金属材の表面に接触する、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
【請求項2】
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材に対して接触させる、除去剤接触工程、を包含し、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、キレート剤、有機酸還元剤、フッ素化合物および界面活性剤を含み、
前記界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤から選択される少なくとも1種であり、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるキレート剤の総含有量は、3000~60000質量ppmの範囲内であり、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHは5~7の範囲内であり、
前記キレート剤は、ホスホン酸系キレート剤およびアミノカルボン酸型キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機酸還元剤は、カルボン酸系有機酸還元剤、多価フェノール有機酸還元剤または硫黄系有機酸還元剤であり、
前記キレート剤および前記有機酸還元剤の合計含有量は、53,000~100,000質量ppmであり、
前記除去剤接触工程は、スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面流速10~40cm/秒の範囲内で金属材表面に対して接触させることによって、金属材の表面に接触する、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
【請求項3】
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
スケールおよび/またはカーボン除去剤に対して、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材を浸漬して、スケールおよび/またはカーボン除去剤を接触させる、浸漬工程、
前記金属材が浸漬された状態で、金属材表面に対して超音波を付与する、超音波付与工程、
を包含し、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、キレート剤、有機酸還元剤、フッ素化合物および界面活性剤を含み、
前記界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤から選択される少なくとも1種であり、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるキレート剤の総含有量は、3000~60000質量ppmの範囲内であり、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHは5~7の範囲内であり、
前記キレート剤は、ホスホン酸系キレート剤およびアミノカルボン酸型キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機酸還元剤は、カルボン酸系有機酸還元剤、多価フェノール有機酸還元剤または硫黄系有機酸還元剤であり、
前記キレート剤および前記有機酸還元剤の合計含有量は、53,000~100,000質量ppmであり、
前記超音波は周波数25~100kHzの範囲内で照射される、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
【請求項4】
前記陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれる界面活性剤の総含有量は、300~3000質量ppmの範囲内である、
請求項1~いずれかに記載のスケールおよび/またはカーボン除去方法。
【請求項5】
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるフッ素原子量は、300~7000質量ppmの範囲内である、
請求項1~いずれかに記載のスケールおよび/またはカーボン除去方法。
【請求項6】
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれる有機酸還元剤の含有量は、5000~60000質量ppmの範囲内である、
請求項1~いずれかに記載のスケールおよび/またはカーボン除去方法。
【請求項7】
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤は防錆剤をさらに含み、
前記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれる防錆剤の含有量は、50~300質量ppmの範囲内である、
請求項1~いずれかに記載のスケールおよび/またはカーボン除去方法。
【請求項8】
化成処理された金属材の製造方法であって、下記工程
請求項1~いずれかに記載されたスケールおよび/またはカーボン除去方法によってスケールおよび/またはカーボンが除去された金属材を提供する工程、
前記スケールおよび/またはカーボンが除去された金属材を化成処理する、化成処理工程、
を包含し、
前記化成処理工程は、リン酸亜鉛化成処理およびジルコニウム化成処理からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
金属材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材などの金属材の溶接は一般に、高温で行われる。そのため溶接部の周辺は、高温条件下に曝されたことに伴い、表面が酸化して変色する。この変色はスケールと言われる。金属材の表面に形成されたスケール部分は、その後の化成処理において化成皮膜が形成され難く、これにより部材の耐食性が劣ることとなるおそれがある。
【0003】
例えば特許文献1には、鋼製溶接構造物を洗浄するための洗浄液であって、EDTA又はその塩を含有する酸性溶液である洗浄液が記載される(請求項1)。特許文献1には、この洗浄液を用いることによって、鋼製溶接構造物上の酸化皮膜やヒュームを良好に除去することができると記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-021227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される洗浄液は、上記の通り酸性溶液である。一方で酸性溶液は、溶液保管時、溶液使用時そして使用後の廃液の処理などに際して、安全面に十分に配慮する必要があるという課題がある。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、pHが5~7の範囲内であるスケールおよび/またはカーボン除去剤を用いて、特定の条件においてスケールおよび/またはカーボン除去剤を金属材に接触させることを特徴としたスケールおよび/またはカーボン除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材に対して接触させる、除去剤接触工程、
を包含し、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、キレート剤、有機酸還元剤、フッ素化合物および界面活性剤を含み、
上記界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤から選択される少なくとも1種であり、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるキレート剤の総含有量は、3000~60000質量ppmの範囲内であり、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHは5~7の範囲内であり、
上記除去剤接触工程において、スケールおよび/またはカーボン除去剤は、噴霧圧力0.08~2MPaの範囲内で金属材表面に対して噴霧されることによって、金属材の表面に接触する、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
[2]
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材に対して接触させる、除去剤接触工程、を包含し、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、キレート剤、有機酸還元剤、フッ素化合物および界面活性剤を含み、
上記界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤から選択される少なくとも1種であり、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるキレート剤の総含有量は、3000~60000質量ppmの範囲内であり、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHは5~7の範囲内であり、
上記除去剤接触工程は、スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面流速10~40cm/秒の範囲内で金属材表面に対して接触させることによって、金属材の表面に接触する、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
[3]
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
スケールおよび/またはカーボン除去剤に対して、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材を浸漬して、スケールおよび/またはカーボン除去剤を接触させる、浸漬工程、
上記金属材が浸漬された状態で、金属材表面に対して超音波を付与する、超音波付与工程、
を包含し、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、キレート剤、有機酸還元剤、フッ素化合物および界面活性剤を含み、
上記界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤から選択される少なくとも1種であり、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるキレート剤の総含有量は、3000~60000質量ppmの範囲内であり、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHは5~7の範囲内であり、
上記超音波は周波数25~100kHzの範囲内で照射される、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
[4]
上記キレート剤は、ホスホン酸系キレート剤およびアミノカルボン酸型キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
[1]~[3]いずれかのスケールおよび/またはカーボン除去方法。
[5]
上記陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
上記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれる界面活性剤の総含有量は、300~3000質量ppmの範囲内である、
[1]~[4]いずれかのスケールおよび/またはカーボン除去方法。
[6]
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるフッ素原子量は、300~7000質量ppmの範囲内である、
[1]~[5]いずれかのスケールおよび/またはカーボン除去方法。
[7]
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれる有機酸還元剤の含有量は、5000~60000質量ppmの範囲内である、
[1]~[6]いずれかのスケールおよび/またはカーボン除去方法。
[8]
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は防錆剤をさらに含み、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれる防錆剤の含有量は、50~300質量ppmの範囲内である、
[1]~[7]いずれかのスケールおよび/またはカーボン除去方法。
[9]
化成処理された金属材の製造方法であって、下記工程
[1]~[8]いずれかのスケールおよび/またはカーボン除去方法によってスケールおよび/またはカーボンが除去された金属材を提供する工程、
上記スケールおよび/またはカーボンが除去された金属材を化成処理する、化成処理工程、
を包含し、
上記化成処理工程は、リン酸亜鉛化成処理およびジルコニウム化成処理からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
金属材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
上記スケールおよび/またはカーボン除去方法は、特定の条件においてスケールおよび/またはカーボン除去剤を金属材に接触させることによって、スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHが5~7の範囲内であっても、金属材の表面上に形成されたスケールおよび/またはカーボンを良好に除去することができる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、金属材の表面から、スケールおよび/またはカーボンを除去する方法に関する。本明細書においてスケールとは、溶接焼けとも言われ、鋼板などの金属材を溶接加工する際において、溶接時の高温加熱条件下において、金属成分が空気中の酸素と結合し、金属材の表面に金属酸化物が金属材の表面に焼け(スケール)の状態で形成される状態を意味する。また本明細書においてカーボンとは、鋼板などの金属材を溶接加工する際において、溶接時の高温加熱条件下において金属材の表面上に生じる黒い部分であり、炭素を主成分とする部分(炭素含有成分)である。これらのスケールおよび/またはカーボンは、金属材の外観変化をもたらすと共に、金属材を化成処理する際にも、これらスケール部および/またはカーボン部において化成皮膜の形成が困難となるおそれがある。
【0010】
ところで、金属材のスケール除去などにおいては一般に、pH4以下である強めの酸が用いられる場合が多い。しかしながら、pH4以下である強めの酸は、作業安全面などにおいて課題がある。本発明においては、特定の条件においてスケールおよび/またはカーボン除去剤を金属材に接触させること、そして、スケールおよび/またはカーボン除去剤が、キレート剤、有機酸還元剤、フッ素化合物および界面活性剤を含むことによって、スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHが5~7の範囲内であっても、金属材の表面上に形成されたスケールおよび/またはカーボンを良好に除去することができる。以下、スケールおよび/またはカーボン除去剤に含まれる各成分について詳述する。
【0011】
キレート剤
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、キレート剤を含む。上記キレート剤は、特に限定されるものではなく、公知のキレート剤を適用することができる。上記表面処理剤がキレート剤を含むことにより、金属材の表面から、スケールおよび/またはカーボンを効率よく除去することができる利点がある。
【0012】
上記キレート剤として、例えば、ホスホン酸系キレート剤、アミノカルボン酸型キレート剤などが挙げられる。これらのキレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0013】
上記ホスホン酸系キレート剤としては、例えば、HEDP、NTMP、PBTC、EDTMP等が挙げられる。アミノカルボン酸型キレート剤としては、例えば、EDTA、NTA、DTPA、HEDTA、TTHA、PDTA、DPTA-oh、HIDA、DHEG、GEDTA、CMGA、EDDS等が挙げられる。
【0014】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれるキレート剤の総含有量は、3000~60000質量ppmの範囲内であるのが好ましく、3000~22000質量ppmの範囲内であるのがより好ましく、5000~13000質量ppmの範囲内であるのがさらに好ましい。キレート剤の総含有量が上記範囲内であることによって、金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを良好に除去することができる利点がある。
【0015】
有機酸還元剤
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、有機酸還元剤を含む。上記有機酸還元剤は、特に限定されるものではなく、公知の有機酸還元剤を適用することができる。上記スケールおよび/またはカーボン除去剤が有機酸還元剤を含むことによって、金属材の表面に存在するスケールの溶解性を高めることができ、これにより、金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを効率よく除去することが可能となる。
【0016】
上記有機酸還元剤としては、例えば、
クエン酸、クエン酸の構造異性体、アジピン酸、アスコルビン酸、エリスロアスコルビン酸、イソアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、エルソルビン酸、没食子酸などのカルボン酸系有機酸還元剤;
ピロガロール、カテコール、ヒドロキノンなどの多価フェノール有機酸還元剤;
アミノヘキサン酸、ヒドラジンなどのアミン有機酸還元剤;
システイン、チオ尿素などの硫黄系有機酸還元剤;
などが挙げられる。上記有機酸還元剤として、カルボン酸系有機酸還元剤が特に好ましく用いられる。
【0017】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中に含まれる有機酸還元剤の含有量は、5000~60000質量ppmの範囲内であるのが好ましい。また上記有機酸還元剤が有機酸還元剤である場合における有機酸還元剤の含有量は、5000~60000質量ppmの範囲内であるのが好ましい。有機酸還元剤の含有量が上記範囲内であることによって、金属材の表面に存在するスケールの溶解性を良好に高めることができ、スケールおよび/またはカーボンの除去が容易となる利点がある。
【0018】
フッ素化合物
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、フッ素化合物を含む。上記フッ素含有化合物は、フッ素イオンを遊離するものであれば特に限定されるものではなく、公知の化合物を適用することができる。上記スケールおよび/またはカーボン除去剤が、フッ素イオンを遊離するフッ素含有化合物を含むことによって、スケール中の金属イオンを水溶液中で安定化させることができ、これにより、金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを効率よく除去することが可能となる。
【0019】
フッ素イオンの供給源となるフッ素含有化合物としては、例えば、フッ化水素酸、酸性フッ化ナトリウム、酸性フッ化アンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロジルコニウム酸、フルオロ珪酸、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、二フッ化水素カリウム等が挙げられる。
【0020】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤に含まれるフッ素イオンの含有量は、フッ素原子量として、300~7000質量ppmの範囲内であるのが好ましく、500~6000質量ppmの範囲内であるのがより好ましく、1000~6000質量ppmの範囲内であるのがさらに好ましい。本明細書において、上記フッ素イオンの含有量の調整は、上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中におけるフッ素含有化合物の含有量を調整することによって行われる。上記スケールおよび/またはカーボン除去剤に含まれるフッ素イオンの含有量が上記範囲内であることによって、スケール中に含まれる金属イオンを水溶液中で良好に安定化させることができる利点がある。
【0021】
界面活性剤
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、界面活性剤を含む。上記界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤から選択される少なくとも1種である。
【0022】
陰イオン系界面活性剤は、特に限定されるものではなく、公知の陰イオン系界面活性剤を用いることができる。上記陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤(スルホコハク酸系界面活性剤を含む)、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。上記スケールおよび/またはカーボン除去剤が陰イオン系界面活性剤を含むことによって、金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを効率よく除去することができる利点がある。
【0023】
上記陰イオン系界面活性剤として、市販品を用いることもできる。市販品として例えば、DOW TRITON H66(ダウケミカル日本社製、リン酸カリウム型界面活性剤)、ネオゲンAS-20(第一工業製薬社製、スルホン酸型界面活性剤)、サンモリンOT-70(三洋化成社製、スルホコハク酸系界面活性剤)、ノイゲンES-99(第一工業製薬社製)、サンスパールPDN-173(三洋化成工業社製、カルボン酸型界面活性剤)等が挙げられる。
【0024】
ノニオン系界面活性剤は、特に限定されるものではなく、公知のノニオン系界面活性剤を適用することができる。
【0025】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。市販品を適用することもでき、例えば、アデカノールUAシリーズ(ADEKA社製)、Genapol EP 2564(クラリアントジャパン社製)、ノイゲンXL100(第一工業製薬社製)、Genagen C 100(クラリアントジャパン社製)等が挙げられる。
【0026】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤中における界面活性剤の含有量は、300~3000質量ppmの範囲内であるのが好ましく、400~2000質量ppmの範囲内であるのがより好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることによって、スケールおよび/またはカーボン除去作業における良好な作業性を維持しつつ、スケールおよび/またはカーボンを容易に除去することができる利点がある。
【0027】
他の成分など
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、上記成分を必須成分として含む一方で、本発明における技術的効果を損なわない範囲で、他の成分を任意に含んでいてもよい。このような他の成分として、例えば防錆剤などを含んでもよい。スケールおよび/またはカーボン除去剤に防錆剤が含まれることによって、スケールおよび/またはカーボン除去後、化成処理が行われるまでの金属材の防錆性を高めることができる利点がある。
【0028】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤において好適に用いることができる防錆剤として、例えば、いわゆるP系、N系、S系、およびアセチレン系の防錆剤等が挙げられる。P系の防錆剤としては、リン酸塩等が挙げられる。N系の有機酸還元剤としては、アルキルアミン、イミダゾール、トリアゾール等が挙げられる。S系の防錆剤としては、サンチオール、チオ尿素等が挙げられる。アセチレン系の防錆剤としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオールおよび3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール等が挙げられる。防錆剤として市販品を用いることもできる。市販品として例えば、KORANTIN PM(BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0029】
スケールおよび/またはカーボン除去剤に防錆剤が含まれる場合における、防錆剤の含有量は、50~300質量ppmであることが好ましい。防錆剤の含有量が上記範囲内であることによって、スケールおよび/またはカーボン除去後における金属材の防錆性を高めることができる利点がある。
【0030】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、通常用いられる添加剤を必要に応じて含んでもよい。添加剤として、例えば、pH調整剤、保存安定剤、消泡剤、凍結防止剤、防腐剤、防カビ剤などが挙げられる。
【0031】
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、水性溶媒に上記各成分を加え、通常用いる方法により混合することによって調製することができる。水性溶媒としては、純水、イオン交換水、水道水、工業水などの水が挙げられる。上記水性溶媒は、必要に応じて、少量の水混和性有機溶媒(例えばアルコール類など)を含んでもよい。
【0032】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHは5~7の範囲内である。上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、上記成分を含むことによって、pH5~7という弱酸性~中性の範囲内であっても、金属材表面のスケールおよび/またはカーボンを良好に除去することができる利点がある。例えばスケールおよび/またはカーボン除去剤のpHが4未満である場合は、金属材の種類によっては、金属材の表面の色が黒色などに変色するおそれがある。また、剤の酸性が強い場合は、反応性が高いため安全面における十分な配慮が必要となり、また環境に対する負荷も大きい。これに対して上記スケールおよび/またはカーボン除去剤は、pHが5~7の範囲内であり、弱酸性~中性の領域であるため、スケールおよび/またはカーボン除去において上述のような技術的課題を克服することができる利点がある。
【0033】
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤はさらに、上記成分を含むことによって、金属材表面上における、炭素含有成分を含むスケールの除去に好適に用いることができる利点がある。ここで炭素含有成分として、例えばカーボンなどが挙げられる。
【0034】
スケールおよび/またはカーボン除去方法
上記スケールおよび/またはカーボン除去方法において、スケールおよび/またはカーボンが除去される金属材としては、特に限定されるものではない。例えば、鉄材、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、アルミ合金材等が挙げられる。なお、溶接部を有する金属材であれば、金属材表面から、スケールおよび/またはカーボンを効率よく除去する必要があることから、本発明の効果を特に享受することができる。
【0035】
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンが除去されるスケールおよび/またはカーボン除去方法の具体的な態様は、下記の通りである。
【0036】
態様1
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材に対して接触させる、除去剤接触工程、
を包含し、
上記除去剤接触工程において、スケールおよび/またはカーボン除去剤は、噴霧圧力0.08~2MPaの範囲内で金属材表面に対して噴霧されることによって、金属材の表面に接触する、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
【0037】
上記スケールおよび/またはカーボン除去方法における噴霧圧力は、0.1~1.5MPaの範囲内であるのがより好ましい。
【0038】
態様2
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材に対して接触させる、除去剤接触工程、を包含し、
上記除去剤接触工程は、スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面流速10~40cm/秒の範囲内で金属材表面に対して接触させることによって、金属材の表面に接触する、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
【0039】
上記スケールおよび/またはカーボン除去方法における表面流速は、15~35cm/秒の範囲内であるのがより好ましい。表面流速は、市販の表面流速計(例えばJFEアドバンテック社製三軸電磁流速センサーACM3-RSなど)を用いて測定することができる。
【0040】
上記除去剤接触工程において、スケールおよび/またはカーボン除去剤を、表面流速10~40cm/秒の範囲内で金属材表面に対して接触させる手法として、例えば、上記金属材が浸漬された状態で、スケールおよび/またはカーボン除去剤を攪拌する手法が挙げられる。
【0041】
態様3
金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを除去する、スケールおよび/またはカーボン除去方法であって、下記工程、
上記スケールおよび/またはカーボン除去剤に対して、表面にスケールおよび/またはカーボンを有する金属材を浸漬して、スケールおよび/またはカーボン除去剤を接触させる、浸漬工程、
上記金属材が浸漬された状態で、金属材表面に対して超音波を付与する、超音波付与工程、
を包含し、
上記超音波は周波数25~100kHzの範囲内で照射される、
スケールおよび/またはカーボン除去方法。
【0042】
上記スケールおよび/またはカーボン除去方法における周波数は、30~50kHzの範囲内で照射されるのがより好ましい。
【0043】
上記態様1~3においてはいずれも、金属材表面のスケールに対して上記スケールおよび/またはカーボン除去剤を接触させる際において、それぞれ物理的作用を伴った状態で接触されることを特徴とする。そして、上記スケールおよび/またはカーボン除去剤を用いたスケール除去において、上記態様1~3いずれかに示される物理的作用が加わることによって、スケールおよび/またはカーボン除去が好適に行われることとなる。上記スケールおよび/またはカーボン除去方法はとりわけ、炭素含有成分(カーボン)を伴うスケールの除去に好適に用いることができる利点がある。
【0044】
上記方法において、スケールおよび/またはカーボン除去剤の液温度は、例えば35~60℃であるのが好ましい。上記温度が35~60℃の範囲内であることによって、スケールおよび/またはカーボン除去剤を良好に除去することができ、また、設備の負担を軽減することができる利点がある。上記温度は、40~60℃であるのが好ましく、45~55℃であるのがさらに好ましい。
【0045】
金属材の表面に対してスケールおよび/またはカーボン除去剤を接触させる時間は、各態様に応じて適宜選択することができる。接触させる時間は、上記態様1においては、30~600秒であってよく、60~300秒であってもよい。また、上記態様2においては、30~300秒であってよく、60~180秒であってもよく、上記態様3においては、30~300秒であってよく、60~180秒であってもよい。
【0046】
化成処理
上記スケールおよび/またはカーボン除去方法によって、スケールおよび/またはカーボンが除去された金属材は、化成処理を前処理として好適に用いることができる。上記金属材を化成処理する方法として、例えば、リン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理などが挙げられる。
【0047】
リン酸亜鉛化成処理
リン酸亜鉛化成処理は、リン酸亜鉛を含む化成処理剤を用いて行われる化成処理である。リン酸亜鉛を含む化成処理剤は、特に限定されず、例えば通常用いられる酸性リン酸亜鉛化成処理液などを使用することができる。好ましい化成処理剤は、亜鉛イオン0.5~2g/L、好ましくは0.7~1.2g/L、リン酸イオン5~30g/L、好ましくは10~20g/L、マンガンイオン0.2~2g/L、好ましくは0.3~1.2g/Lを含むものである。
【0048】
上記のリン酸亜鉛処理液は、必要に応じてさらに、ニッケルイオン0.3~2g/L、好ましくは0.5~1.5g/L、および/またはHF換算でフッ素化合物0.05~3g/L、好ましくは0.3~1.5g/Lを含んでもよい。なお、リン酸亜鉛処理剤中における、上記亜鉛イオン、マンガンイオン、ニッケルイオン及びフッ化イオンなどの含有量の測定は、ICP発光分析法で行う。
【0049】
亜鉛イオンの濃度が上記範囲内であることによって、良好な耐食性および塗装密着性が得られる利点がある。マンガンイオンの濃度が上記範囲内であることによって、塗装密着性、塗装後の耐食性などをより良好に確保することができる利点がある。また、ニッケルイオンをマンガンイオンと併用することによって化成皮膜性能が更に向上し、塗装の密着性および耐食性がマンガンイオン単独使用の場合に比べて更に向上する利点がある。
【0050】
上記リン酸亜鉛処理液は、硝酸イオンが3~30g/L含まれるものであってもよい。しかし硝酸イオンの含有量が30g/Lを超える場合は、リン酸塩皮膜にスケや黄錆が発生することがあり好ましくない。
【0051】
さらに、これらのリン酸亜鉛処理剤に亜硝酸亜鉛を含めてもよい。これを含めることによって、皮膜形成を促進することができる利点がある。亜硝酸亜鉛を含むリン酸亜鉛処理剤の調製およびこれによる処理方法は、例えば特開2001-323384号公報および特開2002-212751号公報に記載される公知の方法により行うことができる。
【0052】
上記リン酸亜鉛処理剤の遊離酸度は0.5~2.0ポイントであることが好ましい。処理液の遊離酸度は処理液を10ml採取し、ブロムフェノールブルーを指示薬として、0.1N苛性ソーダで滴定することにより求めることができる。
【0053】
リン酸亜鉛化成処理は、リン酸亜鉛化成処理剤を、金属材に接触させることによって行われる。化成処理剤を被塗物に接触させる方法の具体例として、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、流しかけ処理法等を挙げることができる。リン酸亜鉛化成処理における処理温度は、一般的な処理温度を採用することができる。例えば20~70℃の範囲内で適宜選択することができる。処理時間としては、通常、10秒以上でよく、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1~3分である。化成処理を行った基材は、浸漬処理を行った後、必要に応じて、2秒間以上、好ましくは5~45秒スプレー処理することが好ましい。このようなスプレー処理を行うことによって、浸漬処理時に付着したスラッジを洗い落とすために、スプレー処理は長時間であることが好ましい。本明細書において化成処理は、浸漬処理のみならず、その後にスプレー処理を行うことも含むものである。
【0054】
また必要に応じて、上記のリン酸亜鉛処理剤を用いる化成処理を行う前に、表面調整剤などを用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面を前処理してもよい。この前処理を行うことによって、溶融亜鉛めっき層の上にリン酸亜鉛化成処理層を良好に形成することができる。
【0055】
ジルコニウム化成処理
ジルコニウム化成処理は、ジルコニウムイオンを含む化成処理剤を用いる化成処理である。なお本明細書においては、ジルコニウム化成処理で用いる化成処理剤を「ジルコニウム化成処理剤」と記載することもある。
【0056】
上記化成処理剤におけるジルコニウムイオンの濃度は好ましくは10~10000ppmである。より好ましい下限値および上限値は、それぞれ100ppmおよび500ppmである。
【0057】
なお、本明細書における化成処理剤としての化成処理剤での金属イオンの濃度についての表記は、錯体や酸化物を形成している場合において、その錯体や酸化物中の金属原子のみに着目した、金属元素換算濃度で表すものとする。従って、本明細書における化成処理剤としての化成処理剤での金属イオン濃度は、一部が非イオンとして存在しているか否かにかかわらず、100%解離して金属イオンとして存在する場合の金属イオン濃度をいう。
【0058】
また、ジルコニウムイオンおよび錫イオンを含み、ジルコニウムイオン濃度が10~10000ppmでありかつジルコニウムイオンに対する錫イオンの濃度比が質量換算で0.005~1であり、およびpHが1.5~6.5である化成処理剤を用いてもよく、チタンやハフニウムを含む化成処理剤を用いてもよい。
【0059】
ジルコニウム化成処理は、ジルコニウム化成処理剤を、金属材に接触させることによって行われる。化成処理剤を被塗物に接触させる方法の具体例として、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、流しかけ処理法等を挙げることができる。詳細な条件は、リン酸亜鉛化成処理と同様の条件で行うことができる。
【0060】
上記化成処理された金属材は、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体およびその部品の製造などに好適に用いることができる。
【実施例
【0061】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0062】
実施例および比較例で用いた成分を以下に示す。
(1)キレート剤
・HEDP:1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸
(2)有機酸還元剤
・クエン酸
(3)フッ素化合物
・酸性フッ化ナトリウム
(4)界面活性剤
ノニオン系界面活性剤
・アデカノールUA90N(ADEKA社製):ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類
陰イオン系界面活性剤
・スルホコハク酸型界面活性剤:サンモリン OT-70(三洋化成工業社製)
(5)防錆剤
・KORANTIN PM(BASFジャパン社製)
【0063】
実施例1
[金属材の準備]
処理対象となる金属材料として熱延鋼板を準備し、溶接を行った。熱延鋼板については、ビード部付近に、スケールおよびカーボンが付着した金属材となり、これを試験片として用いた。
【0064】
[スケールおよび/またはカーボン剤の調製]
キレート剤としてHEDP、界面活性剤としてアデカノールUA90N(ノニオン系界面活性剤)、クエン酸、防錆剤としてKORANTIN PM、フッ素化合物として酸性フッ化ナトリウムを、表1に示す含有量(単位:質量ppm)となるよう水に混合し、KOH水溶液(50%)を用いてpH6となるように調整し、スケールおよび/またはカーボン除去剤を得た。
【0065】
[スケールおよび/またはカーボン除去]
上記より得られたスケールおよび/またはカーボン除去剤を、10Lの処理浴に入れて、温度を50℃に調整した。処理浴中に、上記試験片を浸漬し、超音波装置であるフェニックスIII(カイジョー社製)を用いて、周波数50kHzの超音波を5分間付与した。その後、試験片を取り出して十分に洗浄した。洗浄後、40℃で10分程度の乾燥を行った。
【0066】
[アルカリ表面調整および化成処理]
上記手順によりスケールおよび/またはカーボン除去を行った試験板に対して、pHを10に調製したサーフファイン7(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を用いてアルカリ表面調整を行った。処理温度は室温、処理時間は30秒とした。
上記アルカリ表面調整を行った試験片に対して、リン酸亜鉛化成処理剤であるサーフダインSD5300(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を用いて、リン酸亜鉛化成処理を行った。処理温度は35℃、処理時間は120秒とした。
【0067】
[評価]
上記スケールおよび/またはカーボン除去後の金属材、および化成処理後の金属材について、以下の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0068】
(スケールおよび/またはカーボン除去性)
スケールおよび/またはカーボン除去後の試験片について、目視により、スケールおよび/またはカーボンの残存率を判断することにより、スケールおよび/またはカーボン除去性の評価を行った。
【0069】
(エネルギー分散型X線分析による炭素減少量の測定)
スケールおよび/またはカーボン除去前の試料片の表面に付着した炭素の量を、エネルギー分散型X線分析装置であるJSM6510A(日本電子社製)を用いて測定した。
スケールおよび/またはカーボン除去後の試験片の表面に付着した炭素の量を同様に測定した。
炭素減少量を、下記式により求めた。

炭素減少量(%)=(除去前の炭素量-除去後の炭素量)/(除去前の炭素量)
【0070】
(化成皮膜被覆率評価)
リン酸亜鉛化成処理後の試験片(溶接部)の表面を、走査型電子顕微鏡JSM6510A(日本電子製)を用いて観察し、試験片表面に形成された化成皮膜の被覆率(%)を評価した。
【0071】
(錆の発生評価)
スケールおよび/またはカーボン除去剤による処理後の試験片を洗浄した後、室温で濡れたまま静置し、5分後の錆の発生量について、以下の基準で評価した。

有:錆の発生が確認された
無:錆の発生は確認されなかった
【0072】
実施例2
スケールおよび/またはカーボン除去剤を、試験片に接触させる工程において、噴霧圧力1MPaの強さで、スケールおよび/またはカーボン除去剤を、試験片表面に対して噴霧したこと以外は、実施例1と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0073】
実施例3
スケールおよび/またはカーボン除去剤を、試験片に接触させる工程において、スケールおよび/またはカーボン除去剤に試験片を浸漬した後、5L容器にて250rpm程度の攪拌強度にて攪拌を実施し、試験片部分における表面流速を25cm/秒に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0074】
実施例4、7、10、13、比較例1~3
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製において、各成分の量を、下記表に記載した通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0075】
実施例5、8、11
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製において、各成分の量を、下記表に記載した通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0076】
実施例6、9、12
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製において、各成分の量を、下記表に記載した通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0077】
比較例4
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製において、各成分の量を、下記表に記載した通りに変更して、スケールおよび/またはカーボン除去剤を調製した。
スケールおよび/またはカーボン除去において、調製したスケールおよび/またはカーボン除去剤中に試験片を浸漬し、超音波を付与することなく5分間浸漬したこと以外は、実施例1と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0078】
比較例5
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製において、各成分の量を、下記表に記載した通りに変更して、スケールおよび/またはカーボン除去剤を調製した。
スケールおよび/またはカーボン除去において、調製したスケールおよび/またはカーボン除去剤中に試験片を浸漬し、超音波付与条件を下記表に記載した条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0079】
比較例6
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製において、各成分の量を、下記表に記載した通りに変更して、スケールおよび/またはカーボン除去剤を調製した。
スケールおよび/またはカーボン除去において、調製したスケールおよび/またはカーボン除去剤を、下記表に記載の噴霧圧力で噴霧したこと以外は、実施例2と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0080】
比較例7
スケールおよび/またはカーボン除去剤の調製において、各成分の量を、下記表に記載した通りに変更して、スケールおよび/またはカーボン除去剤を調製した。
スケールおよび/またはカーボン除去において、調製したスケールおよび/またはカーボン除去剤中に試験片を浸漬し、表面流速が5cm/秒となるよう調整したこと以外は、実施例3と同様にしてスケールおよび/またはカーボン除去処理および化成処理を行い、評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
上記実施例ではいずれも、スケールおよびカーボンが良好に除去できていることが確認された。
比較例1は、スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHが5未満である例である。この例においては、処理後に錆の発生が確認された。
比較例2は、スケールおよび/またはカーボン除去剤のpHが7を超える例である。この例においては、スケールおよびカーボンの残存量が多く、スケールおよび/またはカーボンの除去性能が劣ることが確認された。
比較例3は、キレート剤の含有量が3000質量ppm未満である例である。この例においては、スケールおよびカーボンの残存量が多く、スケールおよび/またはカーボンの除去性能が劣ることが確認された。
比較例4は、除去剤接触工程において、本願請求項に記載される条件を実施しない例である。この例においては、スケールおよびカーボンの残存量が多く、スケールおよび/またはカーボンの除去性能が劣ることが確認された。
比較例5~7は、除去剤接触工程(浸漬工程)において、本願請求項に記載される条件の範囲外の操作を行った例である。これらの例においてはいずれも、スケールおよびカーボンの残存量が多く、スケールおよび/またはカーボンの除去性能が劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上記方法により、pHが5~7の範囲内であるスケールおよび/またはカーボン除去剤を用いる場合であっても、金属材の表面からスケールおよび/またはカーボンを好適に除去することができる。