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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】振動発電素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20230810BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20230810BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
H02N1/00
B81B3/00
B81C1/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020209684
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096530
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 典子
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 久幸
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-88780(JP,A)
【文献】特開2020-82223(JP,A)
【文献】特開2020-137337(JP,A)
【文献】特開2008-55516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
B81B 3/00
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部に固定されている固定電極と、
前記固定電極に対して移動可能な可動電極と、
一端が前記ベース部に固定されるとともに他端が前記可動電極に固定され、前記可動電極を弾性的に支持する弾性支持部と、を備える振動発電素子であって、
前記弾性支持部は、
連結部、一端が前記連結部に固定されるとともに他端が前記可動電極に固定され、前記可動電極が振動する第1方向と直交する第2方向に延在する第1弾性部、および、一端が前記連結部に固定されるとともに他端が前記ベース部に固定され、前記第2方向に延在する第2弾性部、をそれぞれ有し、前記可動電極の前記第1方向の両側にそれぞれ配置された複数の弾性構造体と、
前記複数の弾性構造体に含まれる前記連結部を互いに接続する接続部材と、
を含む、振動発電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の振動発電素子において、
前記接続部材と前記固定電極とは、前記第1方向および前記第2方向と直交する第3方向から見て交差し、かつ、前記第3方向に離間している、振動発電素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動発電素子において、
前記接続部材は、前記ベース部と同じ材質によって構成される、振動発電素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の振動発電素子において、
前記固定電極、前記可動電極、および前記接続部材を除く弾性支持部は、第1層、第2層および第3層が設けられた基板の前記第1層に形成され、
前記ベース部および前記接続部材は、前記基板の前記第3層に形成されている、振動発電素子。
【請求項5】
請求項4に記載の振動発電素子において、
前記接続部材は、前記第2層を介して前記複数の弾性構造体に含まれる前記連結部に固定されている、振動発電素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の振動発電素子を製造するための製造方法であって、
第1層、第2層および第3層が設けられた基板を用意する第1工程と、
前記基板の前記第1層の側から前記第1層の一部をエッチングして、前記固定電極、前記可動電極、および前記接続部材を除く前記弾性支持部を形成する第2工程と、
前記基板の前記第3層の側から前記第3層の一部をエッチングして、前記ベース部および前記接続部材を形成する第3工程と、
前記第2工程および前記第3工程の終了後に、前記第2層の一部をエッチングして、少なくとも前記固定電極と前記接続部材との分離を行う第4工程と、
を備える、振動発電素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の振動発電素子の製造方法において、
前記複数の弾性構造体の各連結部および前記接続部材は、前記第4工程で残される前記第2層を介して一体に形成される、振動発電素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の振動発電素子の製造方法において、
前記第4工程は、前記第2工程により前記第1層が除去された領域と、前記第3工程により前記第3層が除去された領域と、前記固定電極および前記接続部材が対向する対向領域と、においてそれぞれ前記第2層を除去する、振動発電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発電素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境振動からエネルギーを収穫するエナジーハーベスティング技術の一つとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動素子である振動発電素子を用いて環境振動から発電を行う手法が知られている。
振動発電素子では、可動電極をカンチレバーのような弾性支持部で支持し、可動電極が固定電極に対して振動することで発電を行っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-114150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の振動発電素子においては、発電量を大きくすることを目的にエレクトレットの帯電電圧を高めると、可動電極および固定電極間にはたらく静電力の影響が強まることによって、可動電極を支持する弾性支持部に歪みが生じやすくなるという課題があった。弾性支持部の歪みが大きくなると、可動電極が固定電極に吸着して発電できなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様による振動発電素子は、ベース部に固定されている固定電極と、前記固定電極に対して移動可能な可動電極と、一端が前記ベース部に固定されるとともに他端が前記可動電極に固定され、前記可動電極を弾性的に支持する弾性支持部と、を備える振動発電素子であって、前記弾性支持部は、連結部、一端が前記連結部に固定されるとともに他端が前記可動電極に固定され、前記可動電極が振動する第1方向と直交する第2方向に延在する第1弾性部、および、一端が前記連結部に固定されるとともに他端が前記ベース部に固定され、前記第2方向に延在する第2弾性部、をそれぞれ有し、前記可動電極の前記第1方向の両側にそれぞれ配置された複数の弾性構造体と、前記複数の弾性構造体に含まれる前記連結部を互いに接続する接続部材と、を含む。
本発明の第2の態様による振動発電素子の製造方法は、第1の態様による振動発電素子を製造するための製造方法であって、第1層、第2層および第3層が設けられた基板を用意する第1工程と、前記基板の前記第1層の側から前記第1層の一部をエッチングして、前記固定電極、前記可動電極、および前記接続部材を除く前記弾性支持部を形成する第2工程と、前記基板の前記第3層の側から前記第3層の一部をエッチングして、前記ベース部および前記接続部材を形成する第3工程と、前記第1工程および前記第2工程の終了後に、前記第2層の一部をエッチングして、少なくとも前記固定電極と前記接続部材との分離を行う第4工程と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、MEMS振動発電素子の弾性支持部に関し、電極間の静電力に起因する歪みを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】振動発電素子の一例を説明する平面図である。
図2図2(a)は図1のうち破線Qで囲まれる付近を拡大した図、図2(b)は図2(a)のA-A断面をマイナスY方向からプラス方向に見た模式図である。
図3】振動発電素子の製造手順を例示するフローチャートである。
図4図4(a)~図4(d)は製造段階の生成物を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、振動発電素子1の一例を説明する平面図である。図1および以降のいくつかの図では、デカルト座標系と呼ばれる右手系の直交座標系で、X方向、Y方向およびZ方向の向きを表すものとする。X方向、Y方向およびZ方向は、相互に直交する方向であり、X方向およびY方向は、後に詳述する可動電極が発電時に振動する平面と平行な方向であり、Z方向は、上記振動する平面と直交する方向である。
【0009】
振動発電素子1の材質はSiであり、例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いて一般的なMEMS加工技術により形成される。本実施形態の振動発電素子1は、一辺が10~数10mm程度の微小な発電素子である。このような発電素子は、例えば、工場内で稼働するコンプレッサー等の機械振動(環境振動)で発電し、モニタリング用のセンサや無線端末等に電力を供給するという用途で使用される。
【0010】
本実施形態で用いるSOI基板は、図4(a)を参照して後述するように、下層であるSiの支持層と、中層であるSiOの犠牲層と、上層であるSiの活性層とがZ方向に積層された3層構造の基板である。
なお、振動発電素子1は、SOI基板に限らずSi基板等を用いて形成してもよい。
【0011】
図1において、振動発電素子1は、ベース部2と、ベース部2およびベース部2と同じ支持層に形成されている領域26の上に固定された4個の固定電極3と、固定電極3に対応して設けられる可動電極4と、可動電極4を弾性的に支持する4個の弾性構造体5と、ベース部2の上に固定されて4個の弾性構造体5を支持する2個の固定部6aと、を備えている。図1では、SOI基板の支持層が下層に設けられており、ベース部2は支持層に形成されている。4個の固定電極3、可動電極4、4個の弾性構造体5および、2個の固定部6aは、いずれも上層の活性層に形成されている。
可動電極4は、図示左右両端の2個の固定部6aに、4個の弾性構造体5を介して接続されている。各固定電極3には電極パッド35が設けられ、図示右端側の固定部6aにも電極パッド65が設けられている。
【0012】
(固定電極および可動電極)
4個の固定電極3の各々は、X方向に延びる固定櫛歯30がY方向に複数並ぶ櫛歯列を有している。可動電極4は、4個の固定電極3に対応する4個の可動櫛歯群4aを有している。4個の可動櫛歯群4aの各々は、X方向に延びる可動櫛歯40がY方向に複数並ぶ櫛歯列を成している。固定電極3に形成された複数の固定櫛歯30と、その固定電極3に対応する可動櫛歯群4aの複数の可動櫛歯40とは、静止状態(中立状態)においてX方向に所定の噛合長をもって、Y方向に所定の隙間を介して互いに噛合するように配置されている。
【0013】
(弾性支持部)
弾性支持部50は、4個の弾性構造体5によって構成されている。可動電極4の図示右端部は、4個の弾性構造体5のうちの右側2個の弾性構造体5により支持され、可動電極4の図示左端部は、4個の弾性構造体5のうちの左側2個の弾性構造体5により支持されている。
各弾性構造体5は、第1弾性部としてのMEMS弾性構造51bおよび51cと、第2弾性部としてのMEMS弾性構造51aおよび51dとからなる4個のMEMS弾性構造を備えている。弾性構造体5に備わる4個のMEMS弾性構造51a~51dは、弾性構造体5を構成する結合部52にそれぞれ接続(固定)されている。
【0014】
例えば、図示左上の弾性構造体5に備わる4個のMEMS弾性構造51a~51dの場合、内側に配置された2個のMEMS弾性構造51bおよび51cの図示下端側が可動電極4に固定されるとともに、図示上端側が結合部52に固定されている。
また、4個のMEMS弾性構造51のうちの左端に配置されたMEMS弾性構造51aの図示下端側がベース部2上に固定された図示左端側の固定部6aに固定されると共に、図示上端側が結合部52に固定されている。
さらにまた、4個のMEMS弾性構造51のうちの右端に配置されたMEMS弾性構造51dの図示下端側がベース部2と同じ支持層に形成されている領域26上に固定された図示左上の固定部6bに固定されると共に、図示上端側が結合部52に固定されている。
【0015】
このように固定された4個のMEMS弾性構造51a~51dを備えた弾性構造体5は、バネとして機能する。すなわち、弾性構造体5を介して支持された可動電極4は、4個のMEMS弾性構造51a~51dのうちの内側に配置された2個のMEMS弾性構造51bおよび51cにより固定されている結合部52に対してX方向に変位する一方、結合部52は、4個のMEMS弾性構造51a~51dのうちの図示左右両端の2個のMEMS弾性構造51aおよび51dにより固定されているベース部2(領域26)に対してX方向に変位する。
図示右上、左下、右下の各弾性構造体5に備わる各4個のMEMS弾性構造51a~51dについても、上記図示左上の弾性構造体5に備わる4個のMEMS弾性構造51a~51dと同様の構造となっている。
【0016】
固定櫛歯30および可動櫛歯40の少なくとも一方にはエレクトレットが形成されており、可動電極4の振動により固定櫛歯30と可動櫛歯40との噛合長が変化して発電が行われる。
なお、固定櫛歯30および可動櫛歯40のそれぞれにエレクトレットを形成してもよい。また、本明細書において、可動電極4は、弾性構造体5により保持され、弾性構造体5の変形により、可動櫛歯40と一体的に振動方向(X方向)に振動する部材をいう。
【0017】
可動電極4とベース部2とは、上述したようにバネとして機能する弾性構造体5によってバネ・マス共振系を構成する。外部からの振動が振動発電素子1に加わると、共振(正弦波振動の場合)や過渡応答(インパルス振動の場合)により各弾性構造体5のMEMS弾性構造51a~51dが変形して、可動電極4がX方向に振動する。固定櫛歯30に対して可動櫛歯40が振動すると誘導電流が発生し、これを電極パッド35および65から外部に取り出すことで発電素子として利用される。
【0018】
本実施形態の振動発電素子1は、例えば、固定電極3の固定櫛歯30の表面に、公知のエレクトレット形成処理によりエレクトレット膜が生成されている。エレクトレット膜は、固定櫛歯30の表面のSiO膜が、電気二重層を有する状態に変化した状態をいう。エレクトレット膜が形成された固定櫛歯30のSi基板にはプラス電荷が生じるとともに、SiO膜のSi基板との界面近傍にはマイナス電荷が構成される。
【0019】
(帯電電圧)
本実施形態では、エレクトレット形成処理の過程で可動電極4と固定電極3との間に外部から直流電圧V0が印加された場合に、上述した可動櫛歯40と固定櫛歯30との間のY方向の隙間の電場をゼロにするような電圧V0のことを、帯電電圧と定義する。つまり、電気二重層の電位差は帯電電圧と一致するとともに、エレクトレット形成処理において外部電源から印加する電圧V0とも等しい。
【0020】
(プルイン現象)
図示した振動発電素子1において、発電時に可動電極4が振動する方向はX方向である。振動発電素子1は、上記帯電電圧が高いほど発電量を大きくすることができる。一方で、上記帯電電圧が高いほど可動櫛歯40と固定櫛歯30との間に電極を引き付け合う静電引力が発生する。上述したように、互いに噛合している固定櫛歯30と、その固定櫛歯30に対応する可動櫛歯40とは、静止状態(中立状態)においてY方向に所定の隙間を有する。Y方向は、発電時に可動電極4が振動する平面において振動方向(X方向)と直交する方向である。
静電引力が大き過ぎると、可動櫛歯40が固定櫛歯30に吸着して可動電極4の振動を妨げ、発電できない状態になる。このような現象はプルイン現象と称され、プルイン現象を発生させる帯電電圧はプルイン電圧Vpと称される。
【0021】
上述した可動櫛歯40および固定櫛歯30間の静電引力に抗して固定櫛歯30および可動櫛歯40間の吸着を避けるためには、MEMS弾性構造51a~51dを有する弾性構造体5のY方向の反発力を高くする、換言すると、弾性構造体5のY方向におけるバネ定数を高くすることが望ましい。そのために本実施形態では、弾性構造体5において4個のMEMS弾性構造51a~51dが接続されている結合部52に生じる歪みを抑制することを目的として、弾性構造体5の結合部52に対し、補強部材として接続部材25を固定する。接続部材25は、図示上側に配置された左右2個の弾性構造体5の各結合部52を相互に接続(固定)する。さらに、図示下側に配置された左右2個の弾性構造体5にも接続部材25を固定することにより、図示下側の左右2個の結合部52を相互に接続(固定)する。
【0022】
(接続部材)
接続部材25の詳細について説明する。図2(a)は、図1のうち破線Qで囲まれる付近を拡大した図である。図2(b)は、図2(a)のA-A断面をマイナスY方向からプラス方向に見た模式図である。一点鎖線A-Aは、X軸と平行で接続部材25を通る直線である。
【0023】
図2(a)および図2(b)において、接続部材25、ベース部2および領域26は、支持層に形成されている。また、弾性構造体5、固定電極3および可動電極4は、活性層に形成されている。接続部材25は、図1において図示上側に配置された左右2個の弾性構造体5の各結合部52を機械的につなぐ。
弾性構造体5の結合部52のうちの上面視で(すなわちZ方向に見て)接続部材25と重なる領域は、マイナスZ方向から犠牲層38を介して接続部材25と機械的に固定されている。
接続部材25のうちの上面視で固定電極3と交差する領域(破線で囲むE部)は、Z方向に間隔gだけ離れている。固定電極3と接続部材25との間のZ方向の間隔gは1~5μm程度であり、犠牲層の厚さに相当する。
【0024】
このように構成したので、接続部材25によって接続されている左右2個の弾性構造体5は、いずれも接続部材25によって補強され、各結合部52で発生する歪が抑制される。
なお、固定電極3のE部には、固定電極3をZ方向に貫通する複数のエッチング用の孔Hが設けられている。孔Hはリリースホールとも称される。リリースホールの数および形状は、図示した数および丸形状でなくてもよく、形状は楕円形状でも矩形状であってもよい。
【0025】
上述した接続部材25と同様の接続部材は、振動発電素子1において可動電極4の重心Oを通るX軸と平行な直線P1に対して、接続部材25の位置と線対称の関係を有する位置にも設けられる。すなわち、図1において図示下側に配置された左右2個の弾性構造体5の結合部52にも、2個の結合部52を相互に接続する接続部材25が設けられる。
【0026】
(Y方向のバネ定数)
以上のように構成した振動発電素子1の弾性構造体5のY方向におけるバネ定数kyを例示すると、以下のとおりである。
ky=5N/10μm=500kN/m …(1)
比較のために、接続部材25を設けない場合の弾性構造体5のY方向におけるバネ定数ky(p)を例示すると、以下のとおりである。
ky(p)=5N/13μm=384kN/m …(2)
接続部材25を設けたことにより、設けない場合と比べて弾性構造体5のY方向におけるバネ定数kyを約30パーセント高くすることができている。
【0027】
(プルイン電圧)
一般に、振動発電素子1においてプルイン現象を発生させるプルイン電圧Vp、すなわちプルイン現象を発生させる帯電電圧は、次式(3)によって表される。
Vp=√(ky×α) …(3)
ただし、kyは弾性構造体5のY方向におけるバネ定数、αは櫛歯(固定櫛歯30および可動櫛歯40)の寸法で決まる定数である。
上式(3)から明らかなように、プルイン電圧Vpは√(ky)に比例して大きくなるので、弾性構造体5のY方向におけるバネ定数kyを高めることが、プルイン電圧Vpを高めることにつながる。上式(1)のバネ定数kyを式(3)へ代入した場合のプルイン電圧Vpを例示すると、約714Vである。また、比較のために、上式(2)のバネ定数ky(p)を式(3)へ代入した場合のプルイン電圧Vpを例示すると、約625Vである。
【0028】
一般に、振動発電素子1のプルイン現象の発生を防ぐために、上記帯電電圧が上記プルイン電圧Vpよりも低く設定される。そして、公知のエレクトレット形成処理(例えば、特開2014-50196号公報に記載の形成処理)により、固定電極3の固定櫛歯30の表面にエレクトレット膜が生成される。
具体的には、例えば安全率2倍を設定し、714÷2=357Vの帯電電圧が得られるようなエレクトレット膜を生成する。換言すると、エレクトレット形成処理の過程で可動電極4と固定電極3との間に外部から直流電圧V0=357Vを印加する。
【0029】
(振動発電素子の製造方法)
以下、振動発電素子1の製造方法の一例について、図3および図4を参照して説明する。図3は、振動発電素子1の製造手順を例示するフローチャートである。図4(a)~図4(d)は、製造段階の生成物を示す模式図である。図4(a)~図4(d)は、それぞれが図2(b)のA-A断面図で例示する範囲に対応しており、わかりやすくするために活性層および支持層の断面をハッチングで示す。
【0030】
(工程1)
図3のステップS10において、作業者または製造装置は、図4(a)に示すSOI基板を用意する。
(工程2)
図3のステップS20において、作業者または製造装置は、SOI基板の上層である活性層に対し、図4(b)に図示した範囲において弾性構造体5の結合部52および固定電極3等のパターンを形成するとともに、図4(b)に図示していない範囲において固定電極3、可動電極4、弾性構造体5および固定部6a等のパターンを形成するため、SF6またはCF4等のフッ素を含むガスを用いたRIE(Reactive Ion Etching)によりエッチングする。
【0031】
具体的には、活性層全面に不図示のレジストを形成した上で、部分的にレジストを除去して開口部を形成する。開口部には、エッチング用の孔H(リリースホール)の開口も含む。レジストの除去は、例えば、露光および現像等を含むフォトリソグラフィ工程により行う。
そして、残したレジストをエッチングマスクとして活性層をエッチングすることにより、図4(b)に示すように活性層をZ方向に貫通するパターンを形成する。その後、SPM(Sulfuric acid Peroxide Mixture)洗浄により残っているレジスト等を除去する。
なお、本実施形態では工程2にドライエッチを採用する例を説明するが、工程2にウェットエッチを採用してもよい。
【0032】
(工程3)
ステップS30において、作業者または製造装置は、SOI基板の下層である支持層に対し、図4(c)に図示した範囲においてベース部2の領域20および接続部材25等のパターンを形成するとともに、図4(c)に図示していない範囲においてベース部2の領域20および領域26等のパターンを形成するため、ステップS20の場合と同様にRIEによりエッチングする。
具体的には、支持層全面に不図示のレジストを形成した上で、部分的にレジストを除去し、開口部を形成する。レジストの除去は、活性層の場合と同様に、フォトリソグラフィ工程により行う。
そして、残したレジストをエッチングマスクとして支持層をエッチングすることにより、図4(c)に示すように支持層をZ方向に貫通するパターンを形成する。その後、SPM洗浄により残っているレジスト等を除去する。
なお、本実施形態では工程3にドライエッチを採用する例を説明するが、工程3にウェットエッチを採用してもよい。
【0033】
(工程4)
ステップS40において、作業者または製造装置は、SOI基板の中層である犠牲層を、BHF(バッファードフッ酸)を用いたウェットエッチングにより除去する。BHFにより、上述した工程2および工程3によって犠牲層の上側(活性層側)および下側(支持層側)の少なくとも一方が露出している領域の犠牲層がエッチングされ、図4(d)に示すように活性層のみまたは支持層のみが残される。上述した工程2および工程3の後に、上側(活性層側)および下側(支持層側)のいずれも露出しない領域の犠牲層は、ウェットエッチング後も残って活性層と支持層を機械的に固定する状態を維持する(犠牲層38)。
【0034】
ここで、工程2および工程3の後に犠牲層の上側(活性層側)および下側(支持層側)の双方が露出していなくても、上層である活性層にエッチング用の孔H(リリースホール)が設けられている領域に対応する犠牲層は、リリースホールを介してエッチングされる。本実施形態では、E部に対応する犠牲層等が、リリースホールを介してエッチングされる。このようなエッチング手法により、固定電極3のうちE部に対応する領域が接続部材25と分離されるとともに、図示していない範囲においても固定電極3が接続部材25と分離される。
なお、本実施形態では工程4にウェットエッチを採用する例を説明するが、工程4にドライエッチを採用してもよい。
【0035】
(工程5)
上記工程1から工程4に例示した手順により、エレクトレット未形成の振動発電素子1のMEMS加工体が形成される。工程5としてのステップS50において、作業者または製造装置は、公知のエレクトレット形成処理により、固定電極3および/または可動電極4にエレクトレットを形成する。
以上説明した工程1から工程5により、振動発電素子1が製造される。
【0036】
以上説明した実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
(1)振動発電素子1は、ベース部2に固定されている固定電極3と、固定電極3に対して移動可能な可動電極4と、一端がベース部2に固定されるとともに他端が可動電極4に固定され、可動電極4を弾性的に支持する弾性支持部50と、を備える。そして、弾性支持部50は、結合部52、一端が結合部52に固定されるとともに他端が可動電極4に固定され、可動電極4が振動するX方向と直交するY方向に延在する第1弾性部としてのMEMS弾性構造51bと51c、および、一端が結合部52に固定されるとともに他端がベース部2(領域26)に固定され、Y方向に延在する第2弾性部としてのMEMS弾性構造51aおよび51d、をそれぞれ有し、可動電極4のX方向の両側にそれぞれ配置された複数の弾性構造体5と、複数の弾性構造体5に含まれる結合部52を互いに接続する接続部材25とを含む。
このように構成したので、可動櫛歯40および固定櫛歯30間の静電引力に抗して固定櫛歯30および可動櫛歯40間の吸着を避ける状況で、弾性構造体5の複数のMEMS弾性構造51a~51dが固定されている結合部52に生じる歪みが、接続部材25を設けない場合と比べて抑制される。この結果、弾性構造体5のY方向におけるバネ定数kyが高まってより大きな静電引力に耐えられる。換言すると、振動発電素子1のプルイン電圧Vpを高めることができる。そのため、振動発電素子1の発電量を大きくすることができる。
【0037】
(2)上記(1)の振動発電素子1において、接続部材25と固定電極3とは、X方向およびY方向と直交するZ方向から見て交差し、かつ、Z方向に離間している。
このように構成したので、発電時に振動する可動電極4と接触しないように接続部材25を設けることができる。
【0038】
(3)上記振動発電素子1において、接続部材25は、ベース部2と同じ支持層の材質によって構成される。
このように構成したので、支持層と同等の強度を有する接続部材25を得ることができる。
【0039】
(4)上記(1)から(3)の振動発電素子1において、固定電極3、可動電極4、および接続部材25を除く弾性支持部50は、活性層、犠牲層および支持層が設けられたSOI基板の活性層に形成され、ベース部2および接続部材25は、SOI基板の支持層に形成されている。
このように構成したので、各部材を適切に活性層または支持層に設けることができる。
【0040】
(5)上記(4)の振動発電素子1において、接続部材25は、犠牲層38を介して複数の弾性構造体5に含まれる結合部52に固定されている。
このように構成したので、複数の弾性構造体5の結合部52と適切に固定された接続部材25を得ることができる。
【0041】
(6)上述した振動発電素子1の製造方法において、第1層としての活性層、第2層としての犠牲層および第3層としての支持層が設けられたSOI基板を用意する第1工程と、SOI基板の活性層の側から活性層の一部をエッチングして、固定電極3、可動電極4、および接続部材25を除く弾性支持部50を形成する第2工程と、SOI基板の支持層の側から支持層の一部をエッチングして、ベース部2および接続部材25を形成する第3工程と、第2工程および第3工程の終了後に、犠牲層の一部をエッチングして、少なくとも固定電極3と接続部材25との分離を行う第4工程と、を備える。
このように構成したので、弾性支持部50の弾性構造体5において複数のMEMS弾性構造51a~51dが固定されている結合部52に生じる歪みを抑えるための接続部材25を、結合部52に適切に固定することができる。
【0042】
(7)上記(6)の振動発電素子1の製造方法において、複数の弾性構造体5の各結合部52および接続部材25は、第4工程で残される犠牲層38を介して一体に形成される。
このように構成したので、接続部材25を結合部52に適切に固定することができる。
【0043】
(8)上記(7)の振動発電素子1の製造方法において、第4工程は、第2工程により活性層が除去された領域と、第3工程により支持層が除去された領域と、固定電極3および接続部材25が対向する対向領域と、においてそれぞれ犠牲層を除去する。
このように構成したので、各部を適切に形成することができる。
【0044】
(変形例)
以上で説明した実施形態においては、基板として、Siの支持層と、SiOの犠牲層と、Siの活性層とを有する基板(SOI基板)を用いるとしたが、基板はSOI基板に限られるものではない。基板は、活性層としての第1層と、犠牲層としての第2層と、支持層としての第3層とが積層され、第2層の耐エッチング特性が、第1層および第3層の耐エッチング特性と異なる基板であれば良い。このうち、第2層または第3層は、絶縁性の材料からなる層であっても良い。
一例として、基板は、サファイヤの第3層の上に、SiOの第2層、およびSiの第1層が形成されたものであっても良い。他の例として、金属の第3層の上に、酸化金属の第2層、および金属の第1層が形成されたものであっても良い。
【0045】
また、上述したエッチングプロセスで使用するガス等は、一例であって、他のガスを使用しても良い。
【0046】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。実施形態における種々の部分の数および形状等は例示であって、他の任意の数および任意の形状でも良い。
また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。
本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1…振動発電素子、2…ベース部、3…固定電極、4…可動電極、5…弾性構造体、6a,6b…固定部、20,26,E…領域、25…接続部材、38…犠牲層、50…弾性支持部、51a~51d…MEMS弾性構造、52…結合部
図1
図2
図3
図4