(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】粘着剤及び該粘着剤を用いた粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C09J 109/08 20060101AFI20230810BHJP
C09J 107/02 20060101ALI20230810BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20230810BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230810BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230810BHJP
【FI】
C09J109/08
C09J107/02
C09J11/08
C09J11/06
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2020534131
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026679
(87)【国際公開番号】W WO2020026697
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018146789
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄士
(72)【発明者】
【氏名】尾形 文
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】澤村 翔太
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-002102(JP,A)
【文献】特表2000-509089(JP,A)
【文献】特開昭63-275685(JP,A)
【文献】特開2016-194042(JP,A)
【文献】特開2006-2102(JP,A)
【文献】特開平9-302238(JP,A)
【文献】特開2013-60543(JP,A)
【文献】特開2019-173013(JP,A)
【文献】特開平5-263064(JP,A)
【文献】特開平9-328533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-ブタジエンゴムと、天然ゴムと、粘着付与剤とを含むエマルジョン型粘着剤であって、
前記スチレン-ブタジエンゴムのゲル分率が20~60質量%であり、
前記スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、前記天然ゴムを10~35質量部、前記粘着付与剤を100~150質量部含み、
前記粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率が5~15質量%であ
り、
前記ゲル分率は、前記スチレン-ブタジエンゴムをトルエンに20℃で72時間浸漬した後、300メッシュ金網で濾過することによりトルエン不溶分を分離して105℃で1時間乾燥し、トルエン浸漬前の前記スチレン-ブタジエンゴムの質量をM0とし、乾燥した前記トルエン不溶分の質量をM1とした場合に、下記式(1)により算出される割合である
、
ゲル分率(質量%)=(M1/M0)×100 (1)
粘着剤。
【請求項2】
前記スチレン-ブタジエンゴムのゲル分率が25~55質量%である、請求項1に記載の粘着剤。
【請求項3】
前記粘着剤が前記スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、前記天然ゴムを15~25質量部含む、請求項1又は請求項2に記載の粘着剤。
【請求項4】
前記粘着剤が前記スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、前記粘着付与剤を110~140質量部含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項5】
前記粘着付与剤が石油樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項6】
前記粘着剤が可塑剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の粘着剤。
【請求項7】
基材の少なくとも一方の面に、請求項1~6のいずれか1項に記載の粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤及び該粘着剤を用いた粘着テープに関し、より詳しくは、スチレン-ブタジエンゴム等を粘着成分として用いた粘着剤組成物、および該粘着剤組成物を用いた粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、基材がポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなっているポリ塩化ビニル系粘着テープまたはシート(以下、単に粘着テープとも言う。)では、粘着成分としてスチレン-ブタジエンゴム(以下、「SBR」と称することがある。)を含有する粘着剤が用いられおり、SBRは低吸水性や耐老化性に優れているが、粘着性や凝集性がやや低いという一面を有しているため、SBRと天然ゴムとの混合物を粘着成分とする粘着剤が広く用いられている。
【0003】
前記粘着テープとしては、従来、いわゆる有機溶剤系粘着剤を用いて得られる粘着テープが、優れた接着性や保持力を有するものとして知られている。
【0004】
しかしながら、揮発性有機化合物が世界的に問題となっており、揮発性有機化合物を含有しない粘着剤が望まれている。エマルジョン型粘着剤は、揮発性有機化合物を含まない上、塗布に特別の装置を必要とせず、かつ、保存も容易であることから、溶剤型粘着剤の代替品として注目されている。また、天然ゴムや合成ゴムをエマルジョン化した、いわゆるゴムエマルジョン型粘着剤を各種フィルム上に塗布乾燥して得られる粘着テープも検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エマルジョン型粘着剤は、粘着剤構成分子内のゲルネットワーク形成能が低く、エマルジョン型粘着剤を用いて得られる粘着テープは、凝集力、凹凸面に対する接着性が低いため、溶剤系粘着剤を用いて得られる粘着テープと比較して、十分な接着力を発現することが困難な場合があった。
また、これを解決する手段として、低分子量の合成イソプレンゴムラテックスやSBR等を用い、粘着力を向上させる手段があったが、剥離時に糊残りが生じる場合や、保持力やタックが良好でない場合があるなど、実用性に長けていないという点で適していなかった。また、加熱により接着力が低下する場合もあった。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、粘着力、粘着力耐熱性、保持力に優れ、糊残りが少なく、タックの良好なエマルジョン型粘着剤及び該エマルジョン型粘着剤を用いたテープを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、スチレン-ブタジエンゴムと、天然ゴムと、粘着付与剤とを含むエマルジョン型粘着剤であって、前記スチレン-ブタジエンゴムのゲル分率は20~60質量%であり、前記粘着剤は、前記スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、前記天然ゴムを10~35質量部、前記粘着付与剤を100~150質量部含み、前記粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率が5~15質量%である粘着剤粘着剤が提供される。
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、所定の範囲のゲル分率を有するスチレン-ブタジエンゴムと、天然ゴムと、粘着付与剤とを所定の割合で含む場合に、粘着力、粘着力耐熱性、保持力に優れ、糊残りが少なく、タックの良好であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
(1)スチレン-ブタジエンゴムと、天然ゴムと、粘着付与剤とを含むエマルジョン型粘着剤であって、スチレン-ブタジエンゴムのゲル分率が20~60質量%であり、スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、天然ゴムを10~35質量部、粘着付与剤を100~150質量部含み、前記粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率が5~15質量%である粘着剤。
(2)前記スチレン-ブタジエンゴムのゲル分率が25~55質量%である、(1)に記載の粘着剤。
(3)前記粘着剤が前記スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、前記天然ゴムを15~25質量部含む、(1)又は(2)に記載の粘着剤。
(4)前記粘着剤が前記スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、前記粘着付与剤を110~140質量部含む、(1)~(3)のいずれかに記載の粘着剤。
(5)前記粘着付与剤が石油樹脂である、(1)~(4)のいずれかに記載の粘着剤。
(6)前記粘着剤が可塑剤を含む、(1)~(5)のいずれかに記載の粘着剤。
(7)基材の少なくとも一方の面に、(1)~(6)のいずれかに記載の粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0012】
1.粘着剤
本発明の一実施形態の(エマルジョン型)粘着剤は、スチレン-ブタジエンゴムと、天然ゴムと、粘着付与剤とを含む粘着剤であって、スチレン-ブタジエンゴムのゲル分率は20~60質量%であり、粘着剤は、スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、天然ゴムを10~35質量部含み、スチレン-ブタジエンゴム100質量部に対し、粘着付与剤を100~150質量部含み、粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率は、5~15質量%であることを特徴とする組成物である。
以下、各構成について、詳細に説明する。
【0013】
1-1.SBR
本発明の一実施形態の粘着剤は、スチレンとブタジエンとの共重合体であるSBR(スチレンブタジエンゴム)を含む。
【0014】
SBRのゲル分率は、20~60%であり、好ましくは25~55%であり、より好ましくは30~50%である。SBRのゲル分率が高すぎると粘着力が低下し、タックが低くなる場合がある。また、SBRのゲル分率が低すぎると糊残りが増加したり、40℃での保持力が低下したりする場合がある。
【0015】
ここで、「SBRのゲル分率」とは、所定の浸漬条件において溶解せずに残った固形分、すなわち不溶分の比率を表すものであり、具体的には、SBR試料をトルエンに常温(例えば、20℃)で72時間浸漬した場合の後の不溶分率を表す。トルエン浸漬前のSBR試料の質量をM0とした。また、常温で72時間トルエンに浸漬後の試料のトルエン不溶分をM1とした。なお、トルエン不溶分は、300メッシュ金網で濾過することにより分離し、105℃で1時間乾燥した後の残留分である。これらM0及びM1に基づき、下記式(1)に従ってゲル分率を求めることができる。
ゲル分率(質量%)=(M1/M0)×100 (1)
【0016】
なお、SBRとして複数種類のSBRを用いた場合には、上記のSBRのゲル分率は、各SBRのゲル分率と含有量をもとに算出され得る。
【0017】
また、複数種類のSBRを用いる場合としては、例えば、ゲル分率0~30%のSBR(SBR-1)、ゲル分率50~100%のSBR(SBR-2)の2種類を用いることが挙げられる。
【0018】
1-2.天然ゴム
本発明の一実施形態の粘着剤は、天然ゴムを含む。
【0019】
粘着剤は、SBR100質量部に対し、天然ゴムを10~35質量部含み、好ましくは15~25質量部含む。天然ゴムの含有量が多すぎると粘着力が低下する場合がある。また、天然ゴムの含有量が少なすぎるとタックが低下したり、40℃での保持力が低下したりする場合がある。なお、本明細書において「タック」とは、粘着剤の主要性質の一つで、軽い力で短時間に被着体に粘着する力であり、評価方法として、JIS Z0237の傾斜式ボールタックが採用できる。また、ASTM D 2979およびJIS Z0237の規定に関連する事項を補足するものとして、ローリングボールタック試験とプローブタック試験がある。
【0020】
ここで、上記「天然ゴム」には、天然ゴム及び一部を官能基で修飾した天然ゴムが含まれる。天然ゴムの例としては、天然ゴムラテックス、天然ゴム-メチルメタアクリレート共重合体ラテックス、エポキシ化天然ゴムラテックスなどが挙げられる。天然ゴムは、好ましくは天然ゴムラテックス、天然ゴム-メチルメタアクリレート共重合体ラテックスである。これらは単独で又は2種以上を混合して選択して使用してもよい。
【0021】
1-3.粘着付与剤
本発明の一実施形態の粘着剤は、粘着付与剤として、粘着性を付与可能な樹脂を含む。
【0022】
粘着剤は、SBR100質量部に対し、粘着付与剤を100~150質量部含み、好ましくは110~140質量部含む。粘着付与剤の含有量が多すぎると糊残り増加したり、保持力が低下したりする場合がある。また、粘着付与剤の含有量が少なすぎると粘着力が低下する場合がある。
【0023】
粘着付与剤としては、軟化点、各成分との相溶性等を考慮して選択することができる。例えば、テルペン樹脂、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂等の石油樹脂、テルペン-フェノール樹脂、キシレン系樹脂、その他脂肪族炭化水素樹脂又は芳香族炭化水素樹脂等のエマルジョンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。特に、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂等の石油樹脂、及びテルペン-フェノール樹脂から1種類以上用いるのが好ましく、石油樹脂がより好ましく、脂肪族系石油樹脂がさらに好ましい。
【0024】
1-4.スチレンモノマー単位の比率
本発明の一実施形態の粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率は、5~15質量%であり、好ましくは5~11質量%である。スチレンモノマー単位の比率が過剰および不十分な場合には、粘着テープの粘着力が不十分となる場合がある。
【0025】
本明細書において、「粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率」とは、エラストマーであるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムに含まれるスチレン構造の含有率の平均値であり、1H-NMR(400MHz)法によりスチレン構造、ブタジエン構造、イソプレン構造に帰属する水素の共鳴信号の強度を測定し、各構造の比率を求めることにより決定することができる。詳細は後述する。
【0026】
1-5.その他の添加剤
本発明の一実施形態の粘着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、フィラー、滑剤等その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
特に、粘着力、保持力、糊残り、タック等の観点から、粘着剤は、好ましくは可塑剤を含み、より好ましくは粘着剤中に、可塑剤を5~45質量%含む。
【0028】
2.粘着テープ
本発明の一実施形態に係る粘着テープは、基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有し、当該粘着剤層は上記粘着剤の乾燥塗布膜である。
【0029】
2-1.基材
基材としては、塩化ビニル樹脂組成物が好適に用いられる。塩化ビニル樹脂組成物は、ポリ塩化ビニルを含有していれば特に制限されない。塩化ビニル樹脂組成物の樹脂成分全量に対するポリ塩化ビニルの割合は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90~100質量%である。なお、塩化ビニル樹脂組成物は、樹脂成分以外に、必要に応じて、公知の添加物(例えば、安定剤、可塑剤、難燃剤など)を含有していてもよい。
【0030】
基材の厚さは特に制限されず、例えば、10~500μm、好ましくは70~200μm、さらに好ましくは80~160μmである。なお、基材は単層の形態を有していてもよく、また、複層の形態を有していてもよい。なお、基材には、必要に応じて、背面処理、帯電防止処理、プライマー処理などの各種処理が施すこともできる。
<基材の製造方法>
本発明の基材はポリ塩化ビニル樹脂、可塑剤、無機充填剤、熱安定剤、光吸収剤、顔料、その他添加剤などを混合した樹脂組成物を溶融混練して得ることができる。溶融混練方法は特に限定されるものではないが、二軸押出機、連続式及びバッチ式のニーダー、ロール、バンバリーミキサー等の加熱装置を備えた各種混合機、混練機が使用でき、前記樹脂組成物が均一分散するように混合し、得られる混合物を慣用の成形方法であるカレンダー法、Tダイ法、インフレーション法等により基材に成形する。成形機は生産性、色変え、形状の均一性などの面からカレンダー成形機が好ましい。カレンダー成形におけるロール配列方式は、例えば、L型、逆L型、Z型などの公知の方式を採用でき、また、ロール温度は通常150~200℃、好ましくは155~190℃に設定される。
【0031】
2-2.粘着剤層
基材の少なくとも一方の面に設けられた粘着剤層の厚さは、例えば、5~100μm、好ましくは10~50μm、更に好ましくは15~40μmである。これより薄いと粘着力が低下して、得られる粘着テープの巻付け作業性が低下することがある。一方これより厚くなると、塗工性が悪くなることがある。
【0032】
粘着剤層は、例えば、上記エマルジョン型粘着剤組成物を塗布し乾燥させて得ることができる。
本発明の一実施形態に係る粘着テープは、例えば、基材の片面に粘着剤を塗布し乾燥炉により溶媒を十分に除去させるなどして得られる。なお、粘着剤の塗工方式としては、コンマ方式、リップダイ方式、グラビア方式、ロール方式、スロットダイ方式等が挙げられる。
【0033】
2-3.下塗剤層
本発明の一実施形態に係る粘着テープは、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で、基材と粘着剤層の密着性を向上させる目的で、基材と粘着剤層の間に下塗剤層を設けてもよい。
【0034】
下塗剤層を形成する下塗剤としては、天然ゴムにメチルメタアクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体100質量部に対し、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体25~300質量部からなるものが好ましい。
【0035】
下塗剤に用いられる天然ゴムにメチルメタアクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体は、天然ゴム70~50質量%にメチルメタアクリレート30~50質量%グラフト重合させたものが好ましい。グラフト重合体中のメチルメタアクリレートの比率が30質量%未満だと、メチルメタアクリレートと基材との密着性が悪くなって、粘着テープの層間剥離が起こる場合がある。また、メチルメタアクリレートの比率が50質量%より多いと、下塗剤自体が硬化して基材の変形に追従できなくなり、粘着テープの層間剥離が起こる場合がある。
【0036】
下塗剤に用いられるアクリロニトリル-ブタジエン共重合体としては、中ニトリルタイプ(アクリロニトリル25~30質量%、ブタジエン75~70質量%)、中高ニトリルタイプ(アクリロニトリル31~35質量%、ブタジエン69~65質量%)高ニトリルタイプ(アクリロニトリル36~43質量%、ブタジエン64~57質量%)等がある。これらは、単独で使用するか、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0037】
例えば、本発明の一実施形態に係る粘着テープは、基材の片面に下塗剤を塗工し、乾燥炉により溶媒を十分に除去させて下塗剤層を形成することができ、この上に粘着剤層を設けることができる。なお、下塗剤の塗工方式としては、グラビア方式、スプレー方式、キスロール方式、バー方式、ナイフ方式等が挙げられる。下塗剤層の厚みは通常0.1~1μm、より好ましくは0.3~0.5μmである。また、さらに下塗剤層上に上塗剤層を設けてもよく、上塗剤層の厚みは使用目的や用途等に応じて様々であるが、通常5~50μm、より好ましくは10~30μmである。
【0038】
2-4.粘着テープの物性
<粘着力>
本発明の一実施形態に係る粘着テープは、対SUS板粘着力は、好ましくは2.0N/10mm以上であり、より好ましくは2.5N/10mm以上であり、更に好ましくは3.0N/10mm以上である。
本発明の一実施形態に係る粘着テープは、対テープ背面粘着力は、好ましくは2.0N/10mm以上であり、より好ましくは2.5N/10mm以上であり、更に好ましくは3.0N/10mm以上である。
本発明の一実施形態に係る粘着テープは、60℃×120時間加熱後の対SUS板粘着力は、好ましくは2.0N/10mm以上であり、より好ましくは2.5N/10mm以上である。また、加熱後に常温時からの粘着力変化が少ない方が好ましく、加熱前後の対SUS板粘着力差は、好ましくは0~0.5N/10mmであり、より好ましくは0~0.2N/10mmであり、さらに好ましくは0~0.1N/10mmである。
【0039】
<保持力>
本発明の一実施形態に係る粘着テープは、40℃環境下、500gの重りを吊した際の保持時間は、好ましくは140分以上であり、より好ましくは150分以上であり、さらに好ましくは200分以上である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。また、これらはいずれも例示的なものであって、本発明の内容を限定するものではない。
【0041】
以下の実施例において、下記のSBRを組合せて用いている。
(S1)JSR社製T093A(ゲル分率0質量%、スチレン比率40質量%)
(S2)JSR社製2108(ゲル分率0質量%、スチレン比率25質量%)
(S3)JSR社製0545(ゲル分率80質量%、スチレン比率25質量%)
(S4)日本ゼオン社製NipolLX426(ゲル分率80質量%、スチレン比率30質量%)
(S5)日本ゼオン社製NipolLX111K(ゲル分率80質量%、スチレン比率0質量%)
(S6)日本ゼオン社製NipolLX432M(ゲル分率80質量%、スチレン比率15質量%)
(S7)日本ゼオン社製NipolLX421(ゲル分率80質量%、スチレン比率45質量%)
(S8)日本ゼオン社製NipolLX112(ゲル分率80質量%、スチレン比率0質量%)
(S9)日本ゼオン社製NipolLX416(ゲル分率60質量%、スチレン比率70質量%)
を密閉容器内120℃で14日加熱したSBR(ゲル分率0質量%、スチレン比率70質量%)
(S10)日本ゼオン社製NipolLX112A2(ゲル分率80質量%、スチレン比率70質量%、)を密閉容器内120℃で14日加熱したSBR(ゲル分率0質量%スチレン比率70質量%)
【0042】
[実施例1]
(1)ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ株式会社製TH-1000、平均重合度1000)、可塑剤としてフタル酸ジイソノニル(ジェイプラス社製DINP)、三酸化アンチモン(鈴裕化学社製、ファイヤーカットTOP-5)をバンバリーミキサーで均一に分散するように溶融混練したのち、カレンダー成形機により、ロール温度165℃にて110μm厚の基材を作製した。
【0043】
(2)本実施例における粘着剤は、固形分質量比で、ゲル分率40質量%のSBR100質量部、天然ゴムとして天然ゴムラテックス(レヂテックス社製HALATEX)10質量部及び天然ゴム-メタクリル酸メチルグラフト重合体ラテックス(レヂテックス社製MG-40S)10質量部、そして粘着付与剤として粘着付与樹脂エマルジョン(荒川化学社製AP1100)130質量部、これら粘着剤を100質量部としたとき、可塑剤(ジェイプラス社製フタル酸ジイソノニル)を30質量部含有(すなわち、粘着剤中に可塑剤を30質量%含有する)させたものである。なお、使用したSBRは、S1とS4を50:50の比で混合したものである。上記粘着付与樹脂エマルジョンとしては、脂肪族系石油樹脂(エクソンモービル社製エスコレッツ1102)75質量部をメチルシクロヘキサン25質量部に溶解し、これに界面活性剤(花王社製エマルゲン920)3.5質量部及び水46.5質量部を加えてホモミキサーにて撹拌乳化し、減圧蒸留にてメチルシクロヘキサンを除去したものである。
【0044】
(3)粘着テープは、上記基材に、上記粘着剤を塗布乾燥し粘着剤層の厚みが20μmであるテープを作成した。このテープを用いて対SUS板粘着力、対テープ背面粘着力、保持力、60℃×120h加熱後の対SUS板粘着力、及び60℃×120h加熱後の対テープ背面粘着力を評価した。
【0045】
<粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率(スチレン比率)>
粘着剤中のエラストマー(スチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計)の割合をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出した。SBR試料1mgに対して溶媒(テトラヒドロフラン)が0.1~10mLとなるように適宜濃度を調整し、適切なフィルタ(例えば、平均孔径0.45μm程度のメンブレンフィルタ)で濾過してGPC測定装置に注入する。この分析により、クロマトグラムに現われたピークの分子量を、標準ポリスチレン換算の値として算出した。分子量30,000以上をエラストマーの分子量、分子量30,000未満を粘着付与剤およびその他成分の分子量とした。エラストマー種と粘着付与剤およびその他成分の面積ピークの割合から、エラストマー種の割合を算出した(下記式)。
粘着剤中のエラストマーの割合(質量%)=
粘着剤中のエラストマー/[粘着剤中のエラストマー+(粘着剤中の粘着付与剤及びその他の成分)]
スチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率は1H-NMR(400MHz)法によりスチレン構造(6.6~7.6ppm、A)とブタジエン構造(4.7~5.8ppm、B)、イソプレン構造(5.16~5.05ppm、C)に帰属する水素の共鳴信号の強度を測定し(A、B、Cはピーク強度を意味する)、スチレン構造とブタジエン構造、イソプレン構造の比率を求めることにより決定することができる。
これらの強度から、エラストマー中の各構造の質量組成比を以下の式にて算出した。
スチレン構造:ブタジエン構造:イソプレン構造=A/5×104:(B-C)/2×54:C×68
上記の粘着剤中のエラストマーの割合及びエラストマー中の各構造の質量組成比より、以下の式にて粘着剤に含まれるスチレン-ブタジエンゴム及び天然ゴムの合計量に対するスチレンモノマー単位の比率を算出した。
スチレンモノマー単位の比率(質量%)=
[スチレン構造/(スチレン構造+ブタジエン構造+イソプレン構造)]
×粘着剤中のエラストマーの割合×100
【0046】
<対SUS板粘着力>
IEC60454-3-1-5に従って測定した対SUS板粘着力である。温度23±2℃、湿度50±5%RHに設定された評価試験室内で測定した。
【0047】
<対テープ背面粘着力>
IEC60454-3-1-5に従って測定した対テープ背面粘着力である。温度23±2℃、湿度50±5%RHに設定された評価試験室内で測定した。
【0048】
<60℃×120h加熱後の対SUS板粘着力>
IEC60454-3-1-5に従って測定した対SUS板粘着力である。テープサンプルを、温度60±2℃に設定されたギアオーブンで120時間加熱後、常温で12時間冷却し、温度23±2℃、湿度50±5%RHに設定された評価試験室内で測定した。
【0049】
<60℃×120h加熱後の対テープ背面粘着力>
IEC60454-3-1-5に従って測定した対テープ背面粘着力である。テープサンプルを、温度60±2℃に設定されたギアオーブンで120時間加熱後、常温で12時間冷却し、温度23±2℃、湿度50±5%RHに設定された評価試験室内で測定した。
【0050】
<保持力>
表1および表2において、「保持力」とは、JIS Z 0237, 13 項「保持力」に従って40℃環境下、500gの重りを吊した際の保持時間である。
【0051】
<糊残り>
IEC60454-3-1-5に従って測定したサンプルの被着体面への糊の残り具合により下記のように評価した。
A:残っていない
B:僅かに残っている
C:残っている
【0052】
<タック>
各粘着剤層におけるタック(gf)を、ASTM D 2979に準じて測定した場合の結果について下記のように評価した。
A:250gf以上
B:100gf以上250gf未満
C:100gf未満
【0053】
[実施例2~15及び比較例1~11]
スチレン-ブタジエンゴム、天然ゴム、粘着付与剤、可塑剤等の種類及び配合量を表1及び表2のように変更し、また各種特性評価を行った結果を表1及び表2に示す。
なお、これらで使用したスチレン-ブタジエンゴムは次の固形分重量分率にて混合したものを用いた。
(実施例2及び5) S1:S4=70:30
(実施例3) S1:S4=30:70
(実施例4、6~15) S1:S4=50:50
(比較例1) S1:S4=20:80
(比較例2) S1:S4=80:20
(比較例3~8) S1:S4=50:50
(比較例9) S9:S4=50:50
(比較例10) S10:S4=50:50
(比較例11) S3:S4=50:50
【0054】
【0055】
【0056】
以上より、所定の範囲のゲル分率を有するスチレン-ブタジエンゴムと、天然ゴムと、粘着付与剤とを所定の割合で含む場合に、粘着力、粘着力耐熱性、保持力に優れ、糊残りが少なく、タックが良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のエマルジョン型粘着剤を用いることによって、揮発性有機化合物の原因となる有機溶剤を使用することなく、粘着力、粘着力耐熱性、保持力に優れ、糊残りが少なく、タックに優れた粘着テープを提供することができる。また、本発明の粘着テープは、電気工事用の高圧ケーブルや自動車用ワイヤーハーネスといった強固な結束力が求められ、かつ揮発性有機化合物を好まない用途に好適に用いることができる。