(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】自己消火性樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20230810BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20230810BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20230810BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230810BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20230810BHJP
C08K 3/18 20060101ALI20230810BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C08J5/00 CES
C08K3/32
C08K5/49
C08K7/14
C08L23/00
C08K3/18
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2020550496
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038897
(87)【国際公開番号】W WO2020071420
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018190123
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】片山 弘
(72)【発明者】
【氏名】内海 文偉
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 拓大
(72)【発明者】
【氏名】藤原 滉太
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-088970(JP,A)
【文献】特開2000-001597(JP,A)
【文献】特開2016-120662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
C08K 3/32
C08K 5/49
C08K 7/14
C08L 23/00
C08K 3/18
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)リン系難燃剤、および(C)ガラス繊維を含む樹脂組成物から得られる自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品であって、
前記自己消火性樹脂成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、および(C)ガラス繊維を5~50質量%含有し、下記(I)~(III)を満たす、自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。
(II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること。
(III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと。
燃焼試験E法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。200mm長さの炎を使用し、前記平板の上方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は150mm。
【請求項2】
(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)リン系難燃剤、(C)ガラス繊維、および(D)重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含む樹脂組成物から得られる自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品であって、
前記成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、(C)ガラス繊維を5~50質量%、および(D)炭化促進剤を0.3~5質量%含有しており、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合が2~13質量%である、下記(I)~(III)を満たす、自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。
(II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること。
(III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと。
燃焼試験E法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。200mm長さの炎を使用し、前記平板の上方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は150mm。
【請求項3】
さらに下記(IV)、(V)を満たす、請求項1または2記載の自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
(IV)下記方法のコーンカロリーメータ発熱性試験により測定される総発熱量が、加熱開始から130sec経過後において10MJ/m
2以下であること。
(V)下記方法のコーンカロリーメータ発熱性試験による総発熱量測定の際、加熱開始から5min経過後において前記自己消火性樹脂成形体を被覆するアルミニウム箔に開孔がないこと。
コーンカロリーメータ発熱性試験:ISO5660-1に準拠し、大きさ100mm×100mm、厚み2.0mmの平板状成形品の加熱面を除いた面をアルミニウム箔(厚さ12μm)で覆ったものを試料とし、輻射熱強度は50kW/m
2にて、5分間加熱を行う。
【請求項4】
さらにカーボンブラックを含有する、請求項1~3のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
【請求項5】
(C)成分のガラス繊維が、ガラス繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたガラス長繊維束に(A)成分のポリオレフィン系樹脂が溶融状態で付着されて一体化されたものが5~50mmの長さに切断された樹脂付着長繊維束の形態のものである、請求項1~4のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
【請求項6】
(C)成分が、長さ1~4mmの範囲にあるガラス短繊維である、請求項1~4のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
【請求項7】
成形体中の(A)成分と(B)成分の合計含有量に対する次式(B)/[(A)+(B)]×100から求められる(B)成分の含有割合が18~45質量%である、請求項1~6のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
【請求項8】
(A)成分が、ポリプロピレン樹脂である、請求項1~7のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体
からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その1つの実施態様によれば、電気自動車や電動二輪などのバッテリー式電動輸送機器のバッテリーモジュール筐体部品または周辺部品に使用できる自己消火性樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)などのバッテリー式電動輸送機器に搭載される、バッテリーなどの充電式エネルギー貯蔵システム(REESS)には、それを構成する各部品に、従来の車載用樹脂部品よりも高度な難燃性や自己消火性が求められる。例えば、欧州ECE-R100などの電気安全に関する法規を満たす必要がある。
【0003】
特表2018-503720号公報には、難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物のペレットを用いて成形して得られる物品が記載されており、成形厚み1.6mm/2.0mm/2.5mm/3.2mmの各物品において、UL94標準規格の20mm炎垂直燃焼試験(V-0)および125mm炎垂直燃焼試験(5V)を満たすものが記載されている。
【0004】
特開2017-186576号公報には、電気自動車用充電器コネクタ、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体に適用できる、高度な難燃性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が記載されており、臭素系難燃剤を使用している。
【0005】
特許第5048936号公報には、(A)ポリオレフィン系樹脂を70~99.5質量%、及び極性基を有する樹脂を0.5~30質量%含む樹脂混合物:47~89.9質量%、(B)ピロリン酸ピペラジン及び/又はポリリン酸ピペラジン:5~25質量%、(C)ピロリン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン及びポリリン酸メラミンからなる群より選択される少なくとも1種のメラミン化合物:5~25質量%、(D)酸化亜鉛:0.1~3質量%を含む難燃性樹脂組成物の発明が記載されている(特許請求の範囲)。さらに数多くの任意成分の一つとしてガラス繊維を配合できることが記載されているが(段落番号0025)、ガラス繊維の配合量とそれによる具体的な効果についての記載はない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、1つの側面において、高度な難燃性を有し、機械的強度が良い、自己消火性樹脂成形体を提供することを課題とする。
【0007】
本発明は、1つの実施態様において、(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)リン系難燃剤、および(C)ガラス繊維を含む樹脂組成物から得られる自己消火性樹脂成形体であって、
前記自己消火性樹脂成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、および(C)ガラス繊維を5~50質量%含有し、下記(I)~(III)を満たす、自己消火性樹脂成形体を提供する。
(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。
(II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること。
(III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと。
燃焼試験E法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。200mm長さの炎を使用し、前記平板の上方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は150mm。
【0008】
また本発明は、別の実施態様において、(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)リン系難燃剤、(C)ガラス繊維、および(D)重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含む樹脂組成物から得られる自己消火性樹脂成形体であって、
前記成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、(C)ガラス繊維を5~50質量%、および(D)炭化促進剤を0.7~5質量%含有しており、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合が2~13質量%である、下記(I)~(III)を満たす、自己消火性樹脂成形体を提供する。
(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。
(II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること。
(III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと。
燃焼試験E法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。200mm長さの炎を使用し、前記平板の上方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は150mm。
【0009】
本発明の例による樹脂成形体は、火災事故時の火災収束性能を示す自己消火性に加え、バッテリー式電動輸送機器への搭載可能基準(ECE-R100など)を満たす難燃性を有しており、さらに機械的強度が良い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施態様による自己消火性樹脂成形体で使用する樹脂組成物の幾つかの例を説明する。前記樹脂組成物は、(A)~(C)成分を含む樹脂組成物((D)成分は含まない)であってよく、また(A)~(D)成分を含む樹脂組成物であってよい。
【0011】
<樹脂組成物>
[(A)ポリオレフィン系樹脂]
樹脂組成物に含まれる(A)成分のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE,ULDPE)など)、ポリプロピレン系樹脂、メチルペンテン系樹脂などのα-C2~20鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などが使用できる。これらのポリオレフィン樹脂は、単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて使用してもよい。本発明の1つの実施態様では、特に、ポリプロピレン系樹脂が好適に使用される。
【0012】
幾つかの具体的な例によれば、ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体であってもよい。他の共重合性単量体としては、例えば、オレフィン系単量体(例えば、エチレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-C2~20鎖状オレフィン、環状オレフィンなど)、ビニルエステル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーなど]、ジエン系単量体(例えば、ブタジエンなど)、不飽和多価カルボン酸またはその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸またはその酸無水物など)、イミド系単量体[例えば、マレイミド、N-アルキルマレイミド(例えば、N-C1~4アルキルマレイミドなど)などのN-置換マレイミド]などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0013】
より詳細な幾つかの例においては、ポリプロピレン系樹脂としては、単独重合体であるホモポリプロピレンの他、共重合体として、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体などのプロピレン含有量が80質量%以上のプロピレン-α2~20鎖状オレフィン共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体など)などが挙げられる。本発明の好ましい一態様では、ポリプロピレン系樹脂はホモポリプロピレン、またはプロピレン-α2~6鎖状オレフィン共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体など)であり、本発明の別の好ましい一態様ではポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン、またはプロピレン-エチレン共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体)である。これらのポリプロピレン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0014】
[(B)リン系難燃剤]
樹脂組成物に含まれる(B)成分のリン系難燃剤は、1つの例によれば、(B1)有機リン酸化合物または(B2)有機リン酸塩化合物であってよく、それらの混合物であってもよく、ハロゲン原子は含まない。
【0015】
(B1)有機リン酸化合物としては、例えばリン酸、オルトリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸メラミンなどが挙げられ、これらの中で本発明の好ましい一態様ではポリリン酸メラミンであり、本発明の別の好ましい一態様ではピロリン酸メラミンである。
【0016】
(B2)有機リン酸塩化合物としては、例えばオルトリン酸ピペラジン、ピロリン酸ピペラジン、ポリリン酸ピペラジンなどが挙げられ、これらの中で本発明の好ましい一態様ではポリリン酸ピペラジンであり、本発明の別の好ましい一態様ではピロリン酸ピペラジンである。
【0017】
(B)成分が(B1)成分と(B2)成分との混合物である場合、(B1)成分と(B2)成分の質量比は、本発明の好ましい一態様では1:99~99:1であり、本発明の別の好ましい一態様では10:90~90:10であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では30:70~70:30である。前記質量比が1:99~99:1の範囲内であると、難燃化効果が良い。
【0018】
(B)成分は、市販品として、株式会社ADEKAのアデカスタブFP-2100JC、FP-2200S、およびFP-2500Sが例示できる。
【0019】
(B)成分は、1つの実施形態では平均粒径40μm以下のものであってよく、別の実施形態では難燃性の点から10μm以下のものであってよい。平均粒径が40μm以下の場合には、(A)成分のポリオレフィン樹脂に対する分散性がよく、高度な難燃性を得ることができ、さらに樹脂成形体の機械的強度もよい。
【0020】
(B)成分のリン系難燃剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の難燃助剤、発泡剤、他の非ハロゲン系難燃剤などを含んでいてもよい。また場合によっては、(B)成分のリン系難燃剤は、後述する(D)成分に該当する炭化促進剤を含んでいてもよい。
【0021】
難燃助剤は本発明の好ましい一態様ではペンタエリスリトールの2量体以上の縮合体およびそのエステルから選ばれるものであってよく、本発明の別の好ましい一態様ではペンタエリスリトールとそのエステル、ジペンタエリスリトールとそのエステル、トリペンタエリスリトールとそのエステルから選ばれる1または2以上であることができる。難燃助剤は、前記のペンタエリスリトールの縮合体などを主成分として含有し(好ましくは80質量%以上)、残部として他の難燃助剤を配合することができる。
【0022】
他の難燃助剤としては、例えばペンタエリスリトール、セルロース、マルトース、グルコース、アラビノース、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのポリオール;或いはこれらのポリオール成分とカルボン酸とが反応して生成するエステル化合物;メラミン、その他のメラミン誘導体、グアナミンまたはその他のグアナミン誘導体、メラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)、イソシアヌル酸、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸、トリス(3-ヒドロキシプロピル)イソシアヌレート、トリス(4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレートなどのトリアジン系誘導体などを挙げることができる。
【0023】
本発明の幾つかの実施形態において、発泡剤としては、メラミン、メラミンホルムアルデヒド樹脂、炭素数4~9のメチロールメラミン、シアヌル酸メラミンなどのメラミン誘導体、尿素、チオ尿素、(チオ)尿素-ホルムアルデヒド樹脂、炭素数2~5のメチロール(チオ)尿素などの尿素誘導体、ベンゾグアナミン、フェニルグアナミン、アセトグアナミン、サクシニルグアナミンなどのグアナミン類、グアナミン類とホルムアルデヒドとの反応生成物、ジシアンジアミド、グアニジンおよびスルファミン酸グアニジンなどの窒素含有化合物から選ばれるものを挙げることができる。
【0024】
本発明の幾つかの実施形態において、他の非ハロゲン系難燃剤としては、リン酸エステル系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、赤燐、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、および膨張黒鉛などが挙げられる。例えばリン酸エステル系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(o-またはp-フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、o-フェニルフェニルジクレジルホスフェート、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスフェート、テトラフェニル-m-フェニレンジホスフェート、テトラフェニル-p-フェニレンジホスフェート、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールA・ポリフェニルホスフェート、ジピロカテコールハイポジホスフェートなどを挙げることができる。その他にも、脂肪酸・芳香族リン酸エステルとして、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、フェニルネオペンチルホスフェート、ペンタエリスリトールジフェニルジホスフェート、エチルピロカテコールホスフェートなどの正リン酸エステルおよびこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
1つの実施形態では、難燃助剤は、(B)成分のリン系難燃剤において単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。難燃助剤の添加により難燃剤の配合量を低減できたり、難燃剤単独では得られない難燃性が得られたりするので、難燃剤を配合する樹脂の種類や用途に応じて適宜併用することができる。難燃助剤の粒径、融点、粘度などは難燃化効果や粉体特性で優れたものになるように選択することができる。
【0026】
難燃助剤の配合量は、本発明の好ましい一態様では前記(B1)および(B2)の合計含有量100質量部に対して10~60質量部であり、本発明の別の好ましい一態様では15~50質量部であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では15~45質量部である。前記範囲内であると、成形品の機械強度がよく、表面のべたつきも生じることなく、さらに、難燃性向上に作用する強固な炭化層が形成されて難燃性が良好となる。
【0027】
本発明の幾つかの実施形態において、樹脂組成物は、(B)成分のリン系難燃剤を含む樹脂混合物を含有してもよく、前記樹脂混合物中の(B)成分のリン系難燃剤である前記(B1)および(B2)の合計含有量の含有割合は、本発明の好ましい一態様では50~80質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では55~75質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では60~70質量%である。
【0028】
樹脂混合物は前記含有割合の残部として、(A)成分のポリオレフィン樹脂を含有することができる。さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、樹脂混合物は必要に応じて従来公知の酸化防止剤、および滑剤を含んでいてもよい。(A)成分のポリオレフィン樹脂としては、本発明の好ましい一態様では具体的にはポリプロピレン樹脂であり、本発明の別の好ましい一態様ではホモポリプロピレン、またはプロピレン-エチレン共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体)である。
【0029】
酸化防止剤としては、樹脂用の酸化防止剤として公知のリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤(例えば、ホスファイト系酸化防止剤やチオエーテル系酸化防止剤などの特開平7-76640号公報の段落番号0015~0025に記載されているものやトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスイソデシルホスファイト等のアリルホスファイトやアルキルホスファイト)、アミン系酸化防止剤から選ばれるものを挙げることができる。市販品として、BASFジャパン株式会社製「Irganox1010」、(株)ADEKA製「アデカスタブPEP36」が例示できる。
【0030】
滑剤としては、従来公知の滑剤、例えば、脂質類、ワックス類(高度分岐ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックスを除く)、シリコーン樹脂類などを挙げることができ、例えば、特開2009ー167270号公報の段落番号0068~0073に記載のものから選ばれるものを挙げることができる。市販品として、日油株式会社製「アルフローH-50S」が例示できる。
【0031】
[(C)ガラス繊維]
本発明の幾つかの実施形態において、樹脂組成物に含まれる(C)成分は、ガラス繊維そのものの形態であってよく、またガラス繊維を含む樹脂混合物の形態であってもよい。樹脂混合物の形態である場合、前記樹脂混合物100質量%中、ガラス繊維の含有割合は本発明の好ましい一態様では10~70質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では20~65質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では30~60質量%である。
【0032】
(C)成分がガラス繊維を含む樹脂混合物の形態であるとき、残部は(A)成分のポリオレフィン樹脂を含む樹脂成分であってよい。(A)成分のポリオレフィン樹脂としては、本発明の好ましい一態様ではポリプロピレン樹脂であり、本発明の別の好ましい一態様ではホモポリプロピレン、またはプロピレン-エチレン共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体)である。(C)成分がガラス繊維を含む樹脂混合物の形態であるとき、前記樹脂混合物中のガラス繊維が(C)成分であり、樹脂成分は(A)成分に含まれる。
【0033】
(C)成分のガラス繊維の繊維径は、本発明の好ましい一態様では9~20μmであり、本発明の別の好ましい一態様では10~17μmであり、本発明のさらに別の好ましい一態様では13~17μmであり、また長繊維でも短繊維でもよい。
【0034】
(C)成分のガラス繊維が長繊維であるときは、ガラス繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたガラス長繊維束に(A)成分のポリオレフィン樹脂を含む樹脂成分を溶融させた状態で付着させて、一体化した後に、所定の長さに切断して得られる樹脂付着ガラス長繊繊束の形態であるものを使用してもよい。
【0035】
本発明の実施形態によれば、(C)成分が樹脂付着ガラス長繊繊束であるとき、(A)成分のポリオレフィン樹脂を含む樹脂成分は、安定剤といった樹脂添加剤を含んでもよいが、(B)成分をはじめとする難燃剤や、特許文献1の段落0051~0056で定義される分散剤は含まない。前記分散剤の例としては、高度分岐ポリ(アルファーオレフィン)やマイクロクリスタリンワックスが挙げられる。
【0036】
本発明の実施形態によれば、(C)成分のガラス繊維が樹脂付着ガラス長繊繊束の形態であるとき、樹脂付着ガラス長繊繊束中のガラス繊維が(C)成分であり、樹脂成分は(A)成分に含まれる。
【0037】
本発明の実施形態によれば、ここでいう樹脂付着ガラス長繊維束は、付着状態によって、ガラス長繊維束の中心部まで樹脂が浸透され(含浸され)、繊維束を構成する中心部の繊維間にまで樹脂が入り込んだ状態のもの(以下「樹脂含浸ガラス長繊維束」という);強化用長繊維束の表面のみが樹脂で覆われた状態のもの(「樹脂表面被覆ガラス長繊維束」);それらの中間のもの(繊維束の表面が樹脂で覆われ、表面近傍のみに樹脂が含浸され、中心部にまで樹脂が入り込んでいないもの)(「樹脂一部含浸ガラス長繊維束」)を含むものであって、「樹脂含浸ガラス長繊維束」が好ましい。
【0038】
本発明の実施形態によれば、樹脂付着ガラス長繊維束は、例えば特許第5959183号公報の段落番号0043に挙げられる周知の製造方法により製造することができる。ガラス長繊維束中のガラス繊維の本数は、例えば100~30000本の範囲から調整されることができる。
【0039】
本発明の実施形態によれば、樹脂付着ガラス長繊維束の長さ(即ち、(C)成分のガラス繊維の長さ)は、例えば本発明の好ましい一態様では5~50mmであり、本発明の別の好ましい一態様では7~25mmであり、本発明のさらに別の好ましい一態様では9~15mmである。樹脂付着繊維束の直径は特に制限されるものではないが、例えば0.5~5mmの範囲にすることができる。
【0040】
本発明の実施形態によれば、(C)成分のガラス繊維が短繊維であるときは、本発明の好ましい一態様では長さ範囲1~4mmのガラス短繊維であり、本発明の別の好ましい一態様では2~3mmのガラス短繊維であってよい。ガラス短繊維は、例えば、チョップドストランドなどであってもよく、表面処理された繊維であってもよい。
【0041】
本発明の実施形態によれば、(C)成分のガラス繊維が短繊維であるときは、(A)成分のポリオレフィン樹脂を含む樹脂成分にガラス短繊維を分散させた樹脂混合物を使用してもよく、前記樹脂成分は、安定剤といった樹脂添加剤や(B)成分のリン系難燃剤を含んでいてもよい。
【0042】
本発明の実施形態によれば、(C)成分のガラス繊維が(A)成分と(B)成分を含む樹脂混合物の形態であるとき、前記樹脂混合物中のガラス繊維が(C)成分であり、樹脂成分は(A)成分に含まれ、リン系難燃性は(B)成分に含まれる。(C)成分のガラス繊維としては、例えば上記の長繊維(樹脂付着ガラス長繊繊束)とガラス短繊維を併用することもできる。
【0043】
[(D)炭化促進剤]
本発明の実施形態によれば、樹脂組成物は、さらに(D)成分として重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含有することができる。(D)成分の炭化促進剤は、(B)成分のリン系難燃剤と併用することで難燃性を高めることができる成分であるが、所定量範囲の(C)成分と併用することでも、自己消火性、バッテリー式電動輸送機器への搭載可能基準(ECE-R100など)を満たす難燃性、さらに機械的強度といった利点を得ることに寄与できる成分である。(C)成分のガラス繊維を含有せずに(D)成分の炭化促進剤のみ含有する場合には、こうした利点を所望の通りに得ることができない。
【0044】
炭化促進剤としては、例えばフェロセンなどの有機金属錯体化合物、水酸化コバルト、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、硼酸マグネシウム、硼酸カルシウムマグネシウムなどの硼酸アルカリ土類金属塩、硼酸マンガン、硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ三水和物、重炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化コバルト、酸化亜鉛などの金属酸化物類、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、シリカチタニアなどの珪酸塩型固体酸、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛などの金属リン酸塩、ハイドロタルサイト、カオリナイト、セリサイト、パイロフィライト、ベントナイト、タルクなどの粘土鉱物類を挙げることができる。
【0045】
幾つかの実施形態によれば、(D)成分の炭化促進剤は、重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1つであってよい。任意選択的に、さらに上記した他の炭化促進剤のいずれかを含有してもよい。
【0046】
本発明の実施形態によれば、樹脂組成物は、カーボンブラックを含有していてもよい。カーボンブラックとしては、公知のファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを挙げることができる。樹脂組成物に含まれるカーボンブラックは、カーボンブラックを含む樹脂混合物(マスターバッチ)であってもよく、前記樹脂混合物100質量%中、カーボンブラックの含有割合は例えば本発明の好ましい一態様では0.01~40質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では0.01~30質量%である。カーボンブラックを含む樹脂混合物であるとき、残部は(A)成分のポリオレフィン樹脂を含む樹脂成分であってよく、(A)成分のポリオレフィン樹脂としては例えばポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、それらの混合物が好ましく使用されてよい。
【0047】
[その他の成分]
幾つかの実施形態では、樹脂組成物には、本発明の課題を解決できる範囲内で、熱安定剤、滑剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、および離型剤などを含有することができる。
【0048】
本発明の幾つかの実施形態によれば、樹脂組成物は、例えば、(C)成分を除く各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて調製してもよい。さらに、前記混合機で予備混合した後、(C)成分と合わせて一軸または二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製する方法、加熱ロールやバンバリーミキサーなどの混練機で溶融混練して調製する方法を適用することができる。
【0049】
<自己消火性樹脂成形体>
本発明の幾つかの実施形態によれば、自己消化性樹脂成形体は、
上記の(A)~(C)成分を含み、(D)成分を含まない樹脂組成物から得られる自己消火性樹脂成形体であって、前記自己消火性樹脂成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、および(C)ガラス繊維を5~50質量%含有し、下記(I)~(III)を満たす、第1実施形態の自己消火性樹脂成形体と、
(A)~(D)成分を含む樹脂組成物から得られる自己消火性樹脂成形体であって、前記自己消火性樹脂成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、(C)ガラス繊維を5~50質量%、および(D)炭化促進剤を0.7~5質量%含有しており、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合が2~13質量%である、下記(I)~(III)を満たす、第2実施形態の自己消火性樹脂成形体を含んでいる。
【0050】
第1実施形態と第2実施形態の自己消火性樹脂成形体は、いずれも下記の要件(I)~(III)を有している。
(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。
(II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること。
(III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと。
燃焼試験E法:前記樹脂成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。200mm長さの炎を使用し、前記平板の上方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は150mm。
【0051】
樹脂成形体の大きさや形状は、要件(I)を満たす範囲内で用途に応じて適宜調整することができる。要件(I)は、本発明の一態様では厚み1.5~8.0mmであり、本発明の好ましい一態様では2.0~6.0mmであり、本発明の別の好ましい一態様では2.0~4.0mmである。
【0052】
要件(II)の「自己消火性」とは、炎と接触させたときに、炎の中では燃焼するが炎を遠ざけると一定時間内に自ら炎を消す性質をいう。本発明の幾つかの実施形態によれば、前記E法以外にも下記の燃焼試験A~D法のいずれか1以上による燃焼試験終了後の2分以内に自己消火性を有するものであってよい。
【0053】
なお、本発明における燃焼試験A~E法は、A法がもっとも緩やかな燃焼条件であって、次いでB法、C法の順に燃焼条件が比較的厳しい試験であって、D法およびE法は燃焼条件の厳しい試験である。
【0054】
要件(III)の「開孔」とは、着火した成形体表面から成形体の厚さ方向に貫いて開く孔のことで、孔の最大径が3mm以下のものや、貫通していない孔や凹みなどは含まない。1つの実施形態では、前記E法以外にも、前記燃焼試験A~D法のいずれか1以上による燃焼試験後の成形体において開孔がないことが好ましい。
【0055】
燃焼試験A法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。UL94における20mm炎を使用し、前記平板の下方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は10mm。
【0056】
燃焼試験B法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。UL94における38mm炎を使用し、前記平板の下方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は20mm。
【0057】
燃焼試験C法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。UL94における125mm炎を使用し、前記平板の下方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は100mm。
【0058】
燃焼試験D法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。UL94における125mm炎を使用し、前記平板の下方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は40mm。
【0059】
前記各種燃焼試験法は、欧州ECE-R100における自己燃焼性試験を想定したもので、前記各種燃焼試験法における自己消火性を有する本発明の樹脂成形体は欧州ECE-R100の規定を満たすことができる。
【0060】
さらに第1実施形態と第2実施形態の自己消火性樹脂成形体の例示的な別の態様では、上記の要件(I)~(III)に加えて、さらに下記の要件(IV)と要件(V)を満たしているものであってよい。
【0061】
(IV)下記方法のコーンカロリーメータ発熱性試験により測定される総発熱量が、加熱開始から130sec経過後において10MJ/m2以下であること。
【0062】
(V)下記方法のコーンカロリーメータ発熱性試験による総発熱量測定の際、加熱開始から5min経過後において前記自己消火性樹脂成形体を被覆するアルミニウム箔に開孔がないこと。
【0063】
コーンカロリーメータ発熱性試験:ISO5660-1に準拠し、大きさ100mm×100mm、厚み2.0mmの平板状成形品の加熱面を除いた面をアルミニウム箔(厚さ12μm)で覆ったものを試料とし、輻射熱強度は50kW/m2にて、5分間加熱を行う。試験装置としては例えば、コーンカロリーメータC4((株)東洋精機製作所製)が使用できる。
【0064】
要件(IV)は、本発明の好ましい一態様では、加熱開始から130sec経過後において10MJ/m2以下であることであり、本発明の別の好ましい一態様では、加熱開始から130sec経過後において9MJ/m2以下であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では、加熱開始から130sec経過後において8MJ/m2以下であることである。
【0065】
要件(V)の「開孔」とは、アルミニウム箔の厚さ方向に貫いて開く孔のことで、孔の最大径が3mm以下のものや、貫通していない孔や凹みなどは含まない。コーンカロリーメータ発熱性試験においては、試料の加熱面を除いた面をアルミニウム箔で被覆することから、主に加熱面の反対側の面の被覆部分まで熱が伝達し、アルミニウムの融点である約660℃を超えるような場合に、アルミニウム箔が溶融し開孔が生じる。
【0066】
本発明の幾つかの実施形態によれば、樹脂成形体は、(B)、(C)成分の樹脂成形体中の各含有割合について、下記の範囲内であれば、例えばマスターバッチ(MB)のような(A)成分のポリオレフィン樹脂を含む樹脂成分を含有する樹脂混合物を用いてなるものであってよい。すなわち例えば、以下(i)~(iii)の樹脂組成物を成形して得られるものであってもよく、また例えば以下(i)~(iii)の樹脂組成物と、さらに(A)成分のポリオレフィン樹脂とを混合した樹脂組成物を成形して得られるものであってもよい。
【0067】
(i)(B)成分のリン系難燃剤を含有する樹脂混合物と、(C)成分のガラス長繊維を含有する樹脂組成物(難燃剤MBと樹脂付着ガラス繊維束ペレット)。ここで、前記樹脂混合物中の樹脂成分は(A)成分に含まれる。
【0068】
(ii)(B)成分のリン系難燃剤を含有する樹脂混合物と、(C)成分のガラス短繊維と任意のリン系難燃剤を含有する樹脂混合物とを含有する樹脂組成物(難燃剤MBと、難燃剤を含むガラス短繊維MB)。ここで、前記樹脂混合物中の樹脂成分は(A)成分に含まれる。
【0069】
(iii)(B)成分のリン系難燃剤を含有する樹脂混合物と、(C)成分のガラス短繊維を含有する樹脂混合物とを含有する樹脂組成物(難燃剤MBとガラス短繊維MB)。ここで、前記二つの樹脂混合物中の樹脂成分は(A)成分に含まれる。
【0070】
本発明の幾つかの実施形態によれば、樹脂成形体中の(B)成分であるリン系難燃剤の含有割合は15~30質量%であり、本発明の好ましい一態様では17~28質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では19~26質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では21~25質量%であってよい。
【0071】
本発明の幾つかの実施形態によれば、樹脂成形体中の(C)成分であるガラス繊維の含有割合は5~50質量%であり、本発明の好ましい一態様では10~45質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では10~45質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では15~40質量%であり、本発明のさらに好ましい一態様では17~37質量%であってよい。(B)成分および(C)成分に残部の(A)成分を合わせて100質量%とする。
【0072】
また、幾つかの実施形態による樹脂成形体において、(B)成分、(C)成分に加えてカーボンブラックを含む樹脂組成物を用いる場合、樹脂成形体中のカーボンブラックの含有量は、本発明の好ましい一態様では0.03~3質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では0.1~1質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では0.2~0.7質量%であってよい。この場合にも残部の(A)成分を合わせて100質量%とする。
【0073】
さらに、幾つかの実施形態によれば、樹脂成形体において、(A)成分と(B)成分の合計含有量に対する次式(B)/[(A)+(B)]×100から求められる(B)成分の含有割合(質量%)は、本発明の好ましい一態様では18~45質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では20~40質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では22~40質量%であってよい。
【0074】
上記含有割合の(A)~(C)成分に加えて、さらに(D)成分として炭化促進剤、例えば重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含有するときの樹脂成形体中の(D)成分の含有割合は0.3~5質量%であってよい。例えば樹脂成形体中の(D)成分の含有量は、本発明の好ましい一態様では0.5~4.5質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では0.7~4.0質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では0.7~3.5質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では0.8~3.0質量%であってよい。この場合にも残部の(A)成分を合わせて100質量%とする。
【0075】
本発明の別の実施形態によれば、炭化促進剤の配合量は、前記(B1)および(B2)の合計含有量100質量部に対して1~30質量部であってよく、本発明の別の好ましい一態様では0.5~10質量部であってよくり、本発明のさらに別の好ましい一態様では0.5~6質量部であってよく、本発明のさらに別の好ましい一態様では2~5質量部であってよい。前記範囲内であると、難燃効果がよく、成形時の押出が安定し、さらに成形体の機械物性が良く、難燃性が良好となる。
【0076】
上述のように(B)成分のリン系難燃剤が(D)成分に該当する炭化促進剤を含む場合、(B)成分中の炭化促進剤は(D)成分に含まれる。
【0077】
本発明の幾つかの実施形態によれば、(C)成分のガラス繊維と(D)成分の炭化促進剤は、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合[(D)/((C)+(D))×100]が、本発明の好ましい一態様では2~13質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では2.5~13質量%であってよい。
【0078】
(A)成分のポリオレフィン系樹脂、(B)成分のリン系難燃剤、および(D)成分の炭化促進剤は、(A)、(B)、および(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合[(D)/((A)+(B)+(D))]が、本発明の好ましい一態様では1~8質量%であり、本発明の別の好ましい一態様では1~6質量%であり、本発明のさらに別の好ましい一態様では3.1~6質量%であってよい。
【0079】
本発明の幾つかの実施形態によれば、第1実施形態と第2実施形態の樹脂成形体は、前記の樹脂組成物を用いて、公知の技術、例えば、射出成形、押出成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形などによって各種成形品に成形することができる。例えば上述したような本発明の利点をより享受し得る観点から、射出成形によって各種成形品に成形することができる。
【0080】
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲で、適宜構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0081】
(A)成分として(A-1)~(A-6)を、以下に示すポリオレフィン系樹脂(A1)~(A6)を表1に示す割合で含むように調製した。
・(A1)ホモポリプロピレン、MFR(メルトフローレート)7、製品名「PM600A」、サンアロマー株式会社製
・(A2)ホモポリプロピレン、MFR30、製品名「PM900A」、サンアロマー株式会社製
・(A3)高流動性ホモポリプロピレン、MFR70、製品名「PMB02A」、サンアロマー株式会社製
・(A4)プロピレン-エチレンブロック共重合体、MFR3、製品名「PM472W」、サンアロマー株式会社製
・(A5)高流動性プロピレン-エチレンブロック共重合体、MFR60、製品名「PMB60A」、サンアロマー株式会社製
・(A6)無水マレイン酸変性ポリプロピレン、MFR10(190℃×0.325kg)、製品名「OREVAC CA100」、アルケマ株式会社製
・(A7)プロピレン-エチレンランダム共重合体、MFR25、製品名「PM921V」、サンアロマー株式会社製
【0082】
(B)成分としては以下のものを使用した。
・(B-1)リン系難燃剤、製品名「FP-2500S」、株式会社ADEKA製
・(B-2)リン系難燃剤、製品名「FP-2200S」、株式会社ADEKA製
・(B-3)リン系難燃剤、製品名「FP-2100JC」、株式会社ADEKA製
・製造例1にしたがって調製したリン系難燃剤(B-1)を含む樹脂混合物
・比較(B)成分:(B’)臭素系難燃剤、製品名「SAYTEX8010」、アルベマール日本株式会社製
・比較(B)成分:臭素系難燃剤(B’)を含む樹脂混合物、製品名「ヒロマスターC-510」、株式会社鈴裕化学製(エチレンビスペンタブロモベンゼン/三酸化アンチモン:LDPE=80:20(質量部)の混合物)
【0083】
(C)成分としては、以下のものを使用した。
・チョップドガラス繊維(ECS03T-480、日本電気硝子株式会社製)、繊維の平均径13μm、平均長さ3mm
・製造例2にしたがって調製したポリプロピレン樹脂含浸ガラス長繊維束
【0084】
(D)成分:酸化亜鉛、酸化亜鉛II種、堺化学工業株式会社製
【0085】
その他の成分として以下のものを使用した。
・カーボンブラックマスターバッチ(以下、CBMB)、製品名「EPP-K-22771」、ポリコール工業株式会社製(カーボンブラック30質量%含有、残部はポリプロピレンとポリエチレンの混合物)
・安定剤1、製品名「Irganox1010」、BASFジャパン株式会社製
・安定剤2、製品名「アデカスタブPEP36」、(株)ADEKA製
・滑剤、製品名「アルフローH-50S」、日油株式会社製(エチレンビスステアリン酸アミド)
・難燃助剤、製品名「FIRE CUT AT-3CN」、株式会社鈴裕化学製(酸化アンチモン)
・ドリッピング防止剤、製品名「フルオンPTFE CD145E」、AGC株式会社製(ポリテトラフルオロエチレンPTFE)
【0086】
評価項目の測定方法は以下の通りであった。
(1)MFR(g/10min)
ISO1133に準拠して温度230℃および荷重2.16kgで測定した。
(2)引張強さ(MPa)
ISO527に準拠して測定した。
(3)曲げ強度(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(4)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(5)シャルピー衝撃強度(kJ/m2)
ISO179/1eAに準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
【0087】
(難燃性)
UL94の20mm炎垂直燃焼試験(V試験)によって、実施例および比較例の組成物から作製したバー型試験片(125mm×13mm×厚さ1.5mmにて試験した。
【0088】
(酸素指数)
JIS K7201-2に準拠し、厚さ0.5mmのV形試験片を使用し、酸素濃度を0.5%刻みで増減させて測定した。
【0089】
(総発熱量)
ISO5660-1に準拠し、大きさ100mm×100mm、厚み2.0mmの平板状成形品を試料とし、試験装置としてコーンカロリーメータC4((株)東洋精機製作所製)を使用して、総発熱量を測定した。輻射熱強度は50kW/m2にて、5分間加熱を行った。試料の加熱面を除いた面はアルミニウム箔(厚さ12μm)で被覆した。加熱開始から130sec経過後の総発熱量[MJ/m2]とアルミニウム箔の開孔の有無(目視観察)の結果を表6に示す。
【0090】
(平板燃焼試験による自己消火性および開孔評価)
成形体として大きさ150mm×150mm、厚み2.0mmの平板状成形品を試料に用い、上記の燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に、本発明の樹脂成形体が自己消火したものを「(自己消火性)有り」、2分以内には自己消火しなかったものを「(自己消火性)無し」と評価した。
【0091】
また、自己消火後または蓋をするなどして空気(酸素)から遮断して消火させた後の前記樹脂成形体において、最大径が3mmを超える貫通孔が空いているものを「(開孔)有り」、貫通した孔が空いていないものを「(開孔)無し」と評価した。
【0092】
製造例1(リン系難燃剤(B-1)を含む樹脂混合物の製造)
(A7)PP樹脂30質量部、安定剤1を0.20質量部、安定剤2を0.20質量部、および滑剤2.50質量部をドライブレンドした後、二軸押出機((株)日本製鋼所製「TEX30α」、230℃)のホッパーから供給し、さらに(B-1)成分70質量部をサイドフィーダーから供給して、溶融混練および賦形して、表4に示すリン系難燃剤(B-1)を含む樹脂混合物(直径3.0mm×長さ3.0mmのペレット)を得た。
【0093】
製造例2(ポリプロピレン樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)
(C)成分である平均繊維径17μmのガラス長繊維束(約4000本の繊維の束)をクロスヘッドダイに通して、(A3)PP樹脂:(A6)PP樹脂:安定剤1:安定剤2=48.0:1.50:0.25:0.25(質量部)のブレンド物を溶融させて供給し、ガラス繊維束に含浸させ、樹脂含浸ガラス長繊維束を得た。その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し(直径2.5mm)、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより長さ11mmに切断し、ガラス繊維(C)50質量%を含有する樹脂含浸ガラス繊維束(ペレット)を得た。このようにして得た樹脂含浸ガラス繊維束を切断して確認したところ、ガラス繊維が長さ方向にほぼ平行になっており、中心部まで樹脂が含浸されていた。
【0094】
実施例1~17、比較例1~6
表1~3に示す(C)成分を除く各成分(単位:質量部)をドライブレンドした後、二軸押出機((株)日本製鋼所製「TEX30α」、230℃)のホッパーから供給し、さらに(C)成分はサイドフィーダーから供給して、溶融混練および賦形して表2~3に示す各樹脂組成物のペレットを得た。これら混練ペレットを射出成形機(ファナック(株)製FANUC ROBOSHOTα-S150iA、金型50℃、成形温度220℃)に投入して、樹脂成形体を得た。評価結果を表2および表3に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
実施例18~20、比較例7、8
(A)成分のポリオレフィン樹脂、リン系難燃剤(B)を含む樹脂混合物、製造例2の樹脂含浸ガラス長繊維束などを、表4に示す配合でドライブレンドした後、射出成形機(ファナック(株)製FANUC ROBOSHOTα-S150iA、金型50℃、成形温度220℃)に投入して、樹脂成形体を得た。評価結果を表4に示す。
【0099】
【0100】
表2の実施例1~17は、自己消火性と高度な難燃性に加えて、高い機械的強度を有する樹脂成形体が得られたことを示している。一方、表3の成形体中の(B)難燃剤の少ない比較例1は難燃性が不十分で自己消火性を有していない。また表3の臭素系難燃剤を含有する比較例2~6は、燃焼試験E法による開孔評価においていずれも「開孔あり」で、ECE-R100などの耐火試験を満たす難燃性は得ることができなかった。表3の比較例1の酸素指数は20、比較例5の酸素指数は24.5であった。
【0101】
表4の(C)成分として樹脂含浸ガラス繊維束を用いた実施例18~20は、表2の(C)成分としてガラス短繊維を用いた実施例1~17と比べて、自己消火性と高度な難燃性を維持したまま、より高い機械的強度が得られた。
【0102】
実施例21~26、比較例9、10
(A)成分のポリオレフィン樹脂、リン系難燃剤(B)を含む樹脂混合物、製造例2の樹脂含浸ガラス長繊維束、(D)成分の酸化亜鉛などを、表5に示す配合でドライブレンドした後、射出成形機(ファナック(株)製FANUC ROBOSHOTα-S150iA、金型50℃、成形温度220℃)に投入して、樹脂成形体を得た。評価結果を表5に示す。
【0103】
【0104】
【0105】
表5に示す実施例21、22と比較例9、実施例23と比較例10の対比、実施例24~26から明らかなとおり、(C)成分のガラス繊維と(D)成分の酸化亜鉛を併用することによって、難燃性と機械的強度の良い成形体を得ることができた。なお、比較例9は、(A)成分、(B)成分、(D)成分の合計含有量中の(D)成分の含有割合が1.01質量%であるから、特許第5048936号公報記載の発明に相当するものである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の例による樹脂成形体は、ECE-R100などの耐火試験に関する基準を満たす難燃性と自己消火性を有するため、電気自動車、電気シャトルバス、電動トラック、電動二輪、電動車椅子、電動立ち乗り二輪車などのバッテリー式電動輸送機器、特にバッテリーを脱着することのできない固定式バッテリーを用いる電動輸送機器のバッテリーモジュールの筐体の全部または一部、周辺部品(締結用部品など)、さらに電気自動車用充電器コネクタ、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体にも使用することができる。