(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】溶融塩ベースの触媒系を用いた高温熱分解
(51)【国際特許分類】
C01B 3/26 20060101AFI20230810BHJP
B01J 27/128 20060101ALI20230810BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230810BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20230810BHJP
【FI】
C01B3/26
B01J27/128 M
B01J37/04 102
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2020555204
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2019058453
(87)【国際公開番号】W WO2019197256
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-28
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】スパヌ,レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】メステルス,カロルス・マティアス・アナ・マリア
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/099795(WO,A1)
【文献】特開昭51-105003(JP,A)
【文献】米国特許第05767165(US,A)
【文献】米国特許第02760847(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/26
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含むガス流および固体炭素生成物を生成するプロセスであって、反応条件下で触媒系を含む反応ゾーンにメタンを通過させて、水素を含むガス流および固体炭素生成物を生成することを含
み、
反応が600~1300℃の範囲の温度で実施され、
触媒系が、アルカリ金属のハロゲン化物;アルカリ土類金属のハロゲン化物;亜鉛、銅、マンガン、カドミウム、スズおよび鉄のハロゲン化物;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、1000℃未満で溶融する溶融塩を含み、前記溶融塩が、その中に元素金属、金属酸化物、金属炭化物、またはそれらの混合物として微細分散された粒子の形で、鉄、モリブデン、マンガン、ニッケル、コバルト、チタンおよび銅のうちの1つ以上の触媒活性形態を分散させており、前記微細分散された粒子の平均サイズが0.5mm以下である、プロセス。
【請求項2】
前記反応条件が700~1300℃の範囲の温度を含む、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記溶融塩が600℃~800℃で溶融する、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶融塩中に分散された触媒活性金属の濃度が、全触媒系の0.1~20重量%の範囲である、請求項1~3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
溶融塩が塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウムまたはそれらの混合物を含む、請求項1~4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
溶融塩に分散させた1つ以上の触媒活性形態が、鉄、コバルト、ニッケル及び銅のうちの1つ以上の触媒活性形態である、請求項1~5のいずれかに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月9日出願の米国仮特許出願第62/654,587号の優先権を主張するものであり、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、メタン熱分解用の触媒系に関する。
【背景技術】
【0003】
メタン熱分解反応では、メタンが気体水素と固体炭素とに分解するため、生成物流のためのCOおよびCO2分離ユニットが不要になる。固体炭素は、炭素の形態および物理的/化学的特性に応じて、選択された用途の市販製品として販売することができる。形態および機能性が制御された気体水素および固体炭素生成物の両方を生成するように最適化されたプロセスを開発することが望ましいであろう。商業的に実現可能であるためには、プロセスは、未変換メタンと水素との間のコストのかかる分離を回避するために、高いメタン変換率を有するべきであり、特定の用途に対する炭素形態の制御を提供するべきである。炭素形態の制御は、化学蒸着(CVD)法によって達成することができる。CVD法では、金属であり得る触媒が気体炭化水素に曝されて、触媒表面上に高品質の炭素材料が生成される。担持金属触媒は、大規模運転に好適な反応器の概念である、流動床(FB-CVD)反応器で採用することができる。FB-CVD反応器でのメタン変換率は、通常40%より低いが、高い変換率は、触媒の安定性と寿命を代償に達成される(Hazzim F.Abbas & W.M.A.Wan Daud,“Hydrogen Production by Methane Decomposition: A Review”,Int.J.Hydrogen Energy 35(8),2010,pages 1160-1190)。FB-CVD法は、炭素生成物からの触媒分離および再生を必要とし、これらの方法は、反応器の壁への不要な炭素堆積の影響を受ける。FB-CVDのより高い変換レベルは、短い寿命の触媒で達成することができるが、これには、より多くの触媒-炭素分離が必要になるであろう。
【0004】
液体金属気泡塔でのメタン熱分解(M.Steinberg,“Fossil Fuel Decarbonization Technology for Mitigating Global Warming”,Int.J.Hydrogen Energy 24(8),1999,pages 771-777)は、高いメタン変換率を達成すると報告されているが、これまでのところ、溶融浴でのメタン熱分解中に最終的な炭素形態を制御する触媒系またはプロセスの例はない。溶融媒体でのメタン熱分解は、優れた熱管理および温度制御を提供する。さらに、溶融媒体でのメタン分解は、反応器の目詰まりの主な原因である、反応器の壁への固体炭素層の堆積を防ぐ。したがって、炭素生成物の形態を制御しながら、高変換率でメタンの水素への反応を促進するであろう溶融媒体ベースの触媒を特定することは有益であろう。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、700℃を超える反応温度でメタンを熱分解することにおいて活性である触媒系であって、アルカリ金属のハロゲン化物;アルカリ土類金属のハロゲン化物;亜鉛、銅、マンガン、カドミウム、スズ、および鉄のハロゲン化物;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される溶融塩を含み、溶融塩は、その中に、微粉化された元素金属、金属酸化物、金属炭化物、またはそれらの混合物の形で、鉄、モリブデン、マンガン、ニッケル、コバルト、亜鉛、チタン、および銅のうちの1つ以上の触媒活性形態を分散させている、触媒系を提供する。
【0006】
本発明はさらに、反応条件下で前述の触媒系を含む反応ゾーンにメタンを通過させて、水素を含むガス流および固体炭素生成物を生成することを含むプロセスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明による高温メタン熱分解触媒系は、不均一系であり、それは、1000℃未満で溶融するが、700℃を超える、好ましくは約700℃~約1050℃の温度でのメタン熱分解反応条件下で安定であり、メタン熱分解に対して触媒活性を示し、かつ選択された炭素構造の核生成および成長を制御することができる特定の金属種の微粉化された金属、金属酸化物、および/または金属炭化物の均一な分散液を含有する溶融塩を含む。
【0008】
溶融塩は、その融点より高い温度で反応ゾーンに存在する。不均一触媒系において有効な担体として機能するためには、溶融塩が熱分解反応条件下で熱的および化学的に安定していることが不可欠である。すなわち、溶融塩は、反応ゾーンで優勢な条件下では、反応供給物の混合物によって還元されることができない。塩は、優れた熱伝達媒体であり、定義された炭素形態制御の合成に必要な温度の正確な制御を可能にする。さらに、塩の選択は、炭素形態に影響を与える可能性がある。
【0009】
好適な溶融塩または塩混合物は、ハロゲン化アルカリまたはハロゲン化アルカリ土類であってもよい。溶融塩は、好ましくは、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、またはそれらの混合物を含む。好ましい溶融塩は、炭素と比較して高い熱伝導率および高い密度を有する。
【0010】
溶融塩は、その中に、金属、金属酸化物、および/または炭化物として微細分散された粒子の形で、鉄、モリブデン、ニッケル、コバルト、亜鉛、または銅を含む1つ以上の触媒活性金属を分散させている。金属粒子の平均サイズは、1nm~0.5mmで変動することができ、サイズは、メタン変換を改善し、最終的な炭素形態を制御するように選択される。平均粒子サイズと粒子サイズ分布は、炭素生成物の形状を制御するために重要である。鉄、コバルト、およびニッケルなどの金属を選択して、チューブ状の構造、例えば、カーボンファイバーやカーボンナノチューブの形成を促進することができる。鉄、コバルト、およびニッケルの場合、好ましい平均粒子サイズは、1nm~15nmである。銅は、主な平面炭素構造を有する炭素形態の形成を促進する。
【0011】
溶融塩中の活性金属触媒の重量濃度は、約0.1重量%~20重量%で変動することができる。活性触媒は、比較的純粋な元素金属、金属炭化物、または金属酸化物の形での金属触媒を所望の粒子サイズに単に物理的に粉砕、例えば、ハンマーミル粉砕し、その後、粉砕金属、金属炭化物、または金属酸化物の粉末を、その融点まで、またはそれ以上に加熱する前または後に塩担体に添加することによって調製され得る。当業者にとって、金属触媒は、共沈または水熱合成などの異なる手段を介して調製することができる。あるいは、活性金属触媒は、金属を含有する化学化合物または錯体の分解を介して調製することができ、気体種および/または固体として反応器に導入することができる。化学化合物の所望の触媒への分解は、350~1000℃の温度で、反応器内で起こり得る。一実施形態では、均一な金属分散を可能にするために、塩が溶融し、溶融塩混合物が撹拌された後、熱的および/または化学的に分解可能な金属化合物が塩に添加される。別の実施形態では、メタロセンなどの気体金属前駆体が、熱分解反応中に溶融塩混合物に連続的に供給され、メタン熱分解反応中に活性金属の連続的な放出を可能にする。
【0012】
本発明は、700~1200℃の温度で、微細分散された金属含有触媒粒子を有する溶融塩を含む反応ゾーンにメタンを通過させることにより、選択された形態の水素および炭素材料をメタンから生成するためのプロセスを提供する。反応ゾーンに供給されるガス流は、メタン、水素、および10体積%以下の量の他の炭化水素を含む。さらに、供給物は、1つ以上の不活性ガス、例えば、窒素を含み得る。供給物は、床の底部に加えてもよく、供給物が溶融塩床を通過するときに反応が実施されてもよい。従来技術のプロセスでは、反応器の壁に固体炭素層が堆積するため、重大な問題が見られた。固体炭素が床で形成される溶融塩床の使用は、壁へのこの炭素の堆積を防ぐ。反応は、任意の好適な反応容器で実施され得る。供給物は、反応ゾーンに注入され、溶融塩床を通して泡立つ。メタンは、気泡が反応器内で上昇するにつれて、気泡の内部で分解される。気泡が表面に到達すると、水素、炭素、およびいかなる未反応のメタンも放出される。水素および未反応のメタンは、ガス流として除去され、固体炭素生成物は、表面に残る。
【0013】
いくつかの実施形態では、固体炭素生成物を溶融塩/金属床から分離するために、追加の分離ステップが必要になる場合がある。反応器の別の重要な特徴は、高温の塩または金属によって引き起こされる腐食に対して耐性を示す必要があることである。一実施形態では、反応器は、充填カラムであってもよい。
【0014】
反応は、600~1300℃、好ましくは700~1200℃の範囲の温度で実施される。当業者にとって、メタン変換は、温度、圧力、および供給組成物に応じて熱力学的制約に制限されることは明らかである。触媒およびプロセス条件は、好ましくは、50重量%から熱力学的限界まで、好ましくは75重量%から熱力学的限界までの範囲のメタンの変換を提供するように選択される。メタン変換は、50重量%~100重量%、好ましくは75重量%~100重量%であってもよい。
【0015】
反応ゾーンは、固体炭素生成物、および水素を含むガス流を生成する。ガス流は、少なくとも50体積%の水素、好ましくは少なくとも75体積%の水素、より好ましくは少なくとも90体積%の水素を含み得る。この反応ゾーンでは、二酸化炭素が形成されないため、他の反応で使用される前に二酸化炭素を水素から分離する必要はない。ガス流中の水素に加えて、いかなる未反応のメタンも、アンモニア合成を含むほとんどの下流プロセスに悪影響を与えないであろう。これは、他の水素生成プロセス、例えば、二酸化炭素を生成する蒸気メタン改質に優る利点を提供する。固体炭素生成物は、溶融塩より低い密度を有するため、固体炭素生成物は、溶融塩床の上部に留まり、分離をより容易にする。固体炭素生成物は、カラー顔料、繊維、ホイル、ケーブル、活性炭、またはタイヤを製造するための原料として使用することができる。さらに、固体炭素生成物を他の材料と混合して、それらの材料の機械的、熱的、および/または電気的特性を変更することができる。固体炭素生成物の最終的な炭素形態は、塩、分散された金属含有粒子、および反応条件の選択によって制御される。
【0016】
水素に加えて、ガス流は、未反応のメタンをさらに含み得る。このプロセスステップでの変換率が高いため、未反応のメタンの量が少なく、それが十分に少ない場合、メタンを水素から分離するガス分離ステップは不要である。より高い純度の水素が必要な場合、第2のガス流内のメタンのレベルが比較的低いために、圧力スイング吸着プロセス(PSA)を非常に効率的に使用することができる。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[項目1] アルカリ金属のハロゲン化物;アルカリ土類金属のハロゲン化物;亜鉛、銅、マンガン、カドミウム、スズおよび鉄のハロゲン化物;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される溶融塩を含み、前記溶融塩が、その中に、微粉化された元素金属、金属酸化物、金属炭化物、またはそれらの混合物の形で、鉄、モリブデン、マンガン、ニッケル、コバルト、亜鉛、チタンおよび銅のうちの1つ以上の触媒活性形態を分散させている、700℃を超える反応温度でメタンを熱分解することに活性がある触媒系。
[項目2] 前記溶融塩が1000℃未満で溶融する、項目1に記載の触媒系。
[項目3] 前記溶融塩が約600℃~約800℃で溶融する、項目1または2に記載の触媒系。
[項目4] 前記分散された触媒活性金属を含有する粒子の平均サイズが約0.5mm以下である、項目1~3のいずれかに記載の触媒系。
[項目5] 前記溶融塩中に分散された触媒活性金属の濃度が、全触媒系の0.1~約20重量%の範囲である、項目1~4のいずれかに記載の触媒系。
[項目6] 反応条件下で項目1~5のいずれかに記載の触媒系を含む反応ゾーンにメタンを通過させて、水素を含むガス流および固体炭素生成物を生成することを含む、プロセス。
[項目7] 前記反応条件が700~1300℃の範囲の温度を含む、項目6に記載のプロセス。