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特許7329545マンガン含有潤滑剤を用いて直噴火花点火式エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】マンガン含有潤滑剤を用いて直噴火花点火式エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減する方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/40 20060101AFI20230810BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20230810BHJP
   C10N 10/14 20060101ALN20230810BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230810BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230810BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230810BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230810BHJP
【FI】
C10M129/40
C10M129/54
C10N10:14
C10N40:25
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:00 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020565861
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 IB2019053891
(87)【国際公開番号】W WO2019224647
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】62/676,607
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリオット、イアン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】マリア、アミール ガマル
(72)【発明者】
【氏名】チャーペック、リチャード ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】ガナワン、テレサ リャン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、アンドリュー エム.
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163673(JP,A)
【文献】特開2015-209847(JP,A)
【文献】特表平04-500234(JP,A)
【文献】特開2006-257406(JP,A)
【文献】特公昭46-012306(JP,B1)
【文献】特表2018-520246(JP,A)
【文献】特表平01-501396(JP,A)
【文献】特開昭61-064792(JP,A)
【文献】特開平06-220478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減する方法であって、潤滑油組成物の総重量に基づいて、少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属5~000ppmを含む潤滑油組成物を用いて前記エンジンのクランク室を潤滑するステップを含む、上記方法。
【請求項2】
前記エンジンが2~0バールの正味平均有効圧(BMEP)の負荷下で稼働される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エンジンが500~3000rpmの速度で稼働される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マンガン含有化合物が、マンガンアルコキシド化合物、マンガン塩のコロイド分散体、マンガンアミド化合物、マンガンアセチルアセトナート化合物、マンガンカルボキシラート化合物、マンガンサリチラート化合物、ジチオカルバマトマンガン錯体、ジチオホスファトマンガン錯体、サレンマンガン錯体、ホスファートエステル、ホスフィナート、若しくはホスフィナイトマンガン錯体、ピリジル、ポリピリジル、若しくはキノリナト若しくはイソキノリナトマンガン錯体、グリオキシマトマンガン錯体、アルキルジアミノマンガン錯体、アザ大環状マンガン錯体、マンガンアリールスルホナート化合物、マンガン硫化若しくは非硫化フェナート化合物、マンガンアルキルスルホナート化合物、マンガン塩基性窒素スクシンイミド錯体、マンガンスルファニルアルカノアート、又はマンガンコロイド懸濁液である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油が、カルシウム洗剤、マグネシウム洗剤、ナトリウム洗剤、リチウム洗剤、及びカリウム洗剤から選択される洗剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記洗剤が、カルボキシラート、サリチラート、フェナート、又はスルホナート洗剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記潤滑油がモリブデン含有化合物を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑油組成物が、無灰分散剤、無灰抗酸化剤、リン含有抗摩耗添加剤、摩擦調整剤、及び高分子粘度調整剤から選択される少なくとも1種の他の添加剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記エンジンが、液体炭化水素燃料、液体非炭化水素燃料、又はこれらの混合物で燃料供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エンジンが、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)、又はこれらの混合物によって燃料供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減するための潤滑エンジン油組成物中の少なくとも1種のマンガン含有化合物の使用。
【請求項12】
前記少なくとも1種のマンガン含有化合物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて、前記少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属5~000ppmで存在する、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
ブースト小型エンジン内で使用する潤滑エンジン油組成物であって、主成分としての潤滑油基材と、微量成分としての少なくとも1種のマンガン含有化合物とを含み、前記小型エンジンが0.5リットル~3.6リットルの範囲である、上記潤滑油組成物。
【請求項14】
前記マンガン含有化合物が、マンガンアルコキシド化合物、マンガン塩のコロイド分散体、マンガンアミド化合物、マンガンアセチルアセトナート化合物、マンガンカルボキシラート化合物、マンガンサリチラート化合物、ジチオカルバマトマンガン錯体、ジチオホスファトマンガン錯体、サレンマンガン錯体、ホスファートエステル、ホスフィナート、若しくはホスフィナイトマンガン錯体、ピリジル、ポリピリジル、若しくはキノリナト若しくはイソキノリナトマンガン錯体、グリオキシマトマンガン錯体、アルキルジアミノマンガン錯体、アザ大環状マンガン錯体、マンガンアリールスルホナート化合物、マンガン硫化若しくは非硫化フェナート化合物、マンガンアルキルスルホナート化合物、マンガン塩基性窒素スクシンイミド錯体、マンガンスルファニルアルカノアート、又はマンガンコロイド懸濁液である、請求項13に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも1種のマンガン化合物を含有するブースト直噴火花点火式内燃エンジン用の潤滑剤組成物に関する。本開示はまた、配合油で潤滑したエンジン内の低速早期点火を防止又は低減する方法にも関する。配合油は、少なくとも1種の油溶性又は油分散性マンガン化合物を含む組成物を有する。
【背景技術】
【0002】
低速早期点火(LSPI)の原因にまつわる有力な説の一つは、エンジンが低速度で稼働し、圧縮工程時間が最長である期間中、高圧下でピストンクレビスからエンジン燃焼室に入るエンジン油滴の自動点火に少なくとも部分的に起因する(Amannら、SAE2012-01-1140)。
【0003】
幾つかのエンジンノッキング及び早期点火の問題は、電子制御及びノックセンサ等の新規のエンジン技術の使用、並びにエンジン稼働条件の最適化によって解決でき、また解決されているが、問題を低減又は防止できる潤滑油組成物に役割がある。
【0004】
本発明者らは、マンガン含有添加剤の使用によってLSPIの問題に対処するための解決策を発見した。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、本開示は、ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減する方法であって、潤滑油の総重量に基づいて、少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属約25~約3000ppmを含む潤滑油組成物でエンジンのクランク室を潤滑するステップを含む前記方法を提供する。
【0006】
一態様において、マンガン含有化合物は、マンガンアルコキシド化合物、マンガン塩のコロイド分散体、マンガンアミド化合物、マンガンアセチルアセトナート化合物、マンガンカルボキシラート化合物、マンガンサリチラート化合物、ジチオカルバマトマンガン錯体、ジチオホスファトマンガン錯体、サレンマンガン錯体、ホスファートエステル、ホスフィナート、又はホスフィナイトマンガン錯体、ピリジル、ポリプリジル、又はキノリナト若しくはイソキノラトマンガンマンガン錯体、グリオキシマトマンガン錯体、アルキルジアミノマンガン錯体、アザ大環状マンガン錯体、マンガンアリールスルホナート化合物、マンガン硫化又は非硫化フェナート化合物、マンガンアルキルスルホナート化合物、マンガン塩基性窒素スクシンイミド錯体、マンガンスルファニルアルカノアート、又はマンガンコロイド懸濁液である。
【0007】
別の態様において、本開示は、潤滑油の総重量に基づいて、少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属約25~約3000ppmを含む、ブースト直噴火花点火式内燃エンジン用の潤滑エンジン油組成物を提供する。
【0008】
別の態様において、本開示は、潤滑油の総重量に基づいて、少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属約25~約3000ppmを含む、ブーストポート燃料噴射火花点火式内燃エンジン用の潤滑エンジン油組成物を提供する。
本発明の一態様を以下に示すが、本発明はそれに限定されない。
[発明1]
ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減する方法であって、潤滑油組成物の総重量に基づいて、少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属約25~約3000ppmを含む潤滑油組成物を用いて前記エンジンのクランク室を潤滑するステップを含む、上記方法。
[発明2]
前記エンジンが約12~約30バールの正味平均有効圧(BMEP)の負荷下で稼働される、発明1に記載の方法。
[発明3]
前記エンジンが500~3000rpmの速度で稼働される、発明1に記載の方法。
[発明4]
前記マンガン含有化合物が、マンガンアルコキシド化合物、マンガン塩のコロイド分散体、マンガンアミド化合物、マンガンアセチルアセトナート化合物、マンガンカルボキシラート化合物、マンガンサリチラート化合物、ジチオカルバマトマンガン錯体、ジチオホスファトマンガン錯体、サレンマンガン錯体、ホスファートエステル、ホスフィナート、若しくはホスフィナイトマンガン錯体、ピリジル、ポリピリジル、若しくはキノリナト若しくはイソキノリナトマンガン錯体、グリオキシマトマンガン錯体、アルキルジアミノマンガン錯体、アザ大環状マンガン錯体、マンガンアリールスルホナート化合物、マンガン硫化若しくは非硫化フェナート化合物、マンガンアルキルスルホナート化合物、マンガン塩基性窒素スクシンイミド錯体、マンガンスルファニルアルカノアート、又はマンガンコロイド懸濁液である、発明1に記載の方法。
[発明5]
前記潤滑油が、カルシウム洗剤、マグネシウム洗剤、ナトリウム洗剤、リチウム洗剤、及びカリウム洗剤から選択される洗剤を更に含む、発明1に記載の方法。
[発明6]
前記洗剤が、カルボキシラート、サリチラート、フェナート、又はスルホナート洗剤である、発明5に記載の方法。
[発明7]
前記潤滑油がモリブデン含有化合物を更に含む、発明1に記載の方法。
[発明8]
前記潤滑油組成物が、無灰分散剤、無灰抗酸化剤、リン含有抗摩耗添加剤、摩擦調整剤、及び高分子粘度調整剤から選択される少なくとも1種の他の添加剤を更に含む、発明1に記載の方法。
[発明9]
前記エンジンが、液体炭化水素燃料、液体非炭化水素燃料、又はこれらの混合物で燃料供給される、発明1に記載の方法。
[発明10]
前記エンジンが、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)、又はこれらの混合物によって燃料供給される、発明1に記載の方法。
[発明11]
ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減するための潤滑エンジン油組成物中の少なくとも1種のマンガン含有化合物の使用。
[発明12]
前記少なくとも1種のマンガン含有化合物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づいて、前記少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属約25~約3000ppmで存在する、発明11に記載の使用。
[発明13]
ブースト小型エンジン内で使用する潤滑エンジン油組成物であって、主成分としての潤滑油基材と、微量成分としての少なくとも1種のマンガン含有化合物とを含み、前記小型エンジンが0.5リットル~3.6リットルの範囲である、上記潤滑油組成物。
[発明14]
前記マンガン含有化合物が、マンガンアルコキシド化合物、マンガン塩のコロイド分散体、マンガンアミド化合物、マンガンアセチルアセトナート化合物、マンガンカルボキシラート化合物、マンガンサリチラート化合物、ジチオカルバマトマンガン錯体、ジチオホスファトマンガン錯体、サレンマンガン錯体、ホスファートエステル、ホスフィナート、若しくはホスフィナイトマンガン錯体、ピリジル、ポリピリジル、若しくはキノリナト若しくはイソキノリナトマンガン錯体、グリオキシマトマンガン錯体、アルキルジアミノマンガン錯体、アザ大環状マンガン錯体、マンガンアリールスルホナート化合物、マンガン硫化若しくは非硫化フェナート化合物、マンガンアルキルスルホナート化合物、マンガン塩基性窒素スクシンイミド錯体、マンガンスルファニルアルカノアート、又はマンガンコロイド懸濁液である、発明13に記載の潤滑油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
用語「ブースト」は、本明細書の全体にわたって使用される。ブーストとは、自然吸気式エンジンより高い吸気圧でエンジンを稼働させることを指す。ブースト条件には、ターボチャージャー(排気ガス駆動)又はスーパーチャージャー(エンジン駆動)を使用することによって達することができる。より高い出力密度を実現するより小型のエンジンの使用により、エンジンメーカーは、摩擦及びポンプ損失を低減しながら優れた性能を実現することが可能になった。これは、ターボチャージャー又は機械式スーパーチャージャーを使用して給気圧を上げ、より低いエンジン速度でのより高いトルクの発生によって可能になるより高い変速比を用いてエンジン速度を低速化させることによって実現する。しかしながら、より低いエンジン速度におけるより高いトルクは、低速のエンジン内で偶発的な早期点火を引き起こすことが判明し、この現象は低速早期点火又はLSPIとして知られ、極度に高いシリンダーピーク圧力をもたらし、破局的なエンジン故障につながり得る。LSPIの可能性は、エンジンメーカーによる、このようなより小型の高出力エンジンにおけるより低いエンジン速度でのエンジントルクの完全な最適化を妨げる。
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって、油溶性又は油分散性という表現が用いられる。油溶性又は油分散性は、潤滑粘性油(oil of lubricating viscosity)に溶解、分散又は懸濁させることによって、所望レベルの活性又は性能を実現するために必要な量を取り入れることができることを意味する。通常、これは少なくとも約0.001重量%の材料を潤滑油組成物に取り入れることができることを意味する。油溶性及び油分散性の用語、特に「安定分散性」を更に考察するために、これに関する関連の教示のために参照により本明細書に明示的に組み込まれる米国特許第4,320,019号を参照されたい。
【0011】
本明細書で用いられる用語「硫酸塩灰分」は、洗剤及び潤滑油中の金属添加物から生じる不燃性残渣を指す。硫酸塩灰分は、ASTM試験D874を用いて決定することができる。
【0012】
本明細書で用いられる用語「全塩基価」又は「TBN」は、1グラムの試料中のKOHのミリグラム数に相当する塩基の量を指す。そのため、より大きなTBNの数はより多くのアルカリ生成物を反映し、したがってアルカリ度がより高くなる。TBNは、ASTM D2896試験を用いて決定した。別段の指定がない限り、全てのパーセンテージは重量%で表す。
【0013】
一般的に、本発明の潤滑油組成物中の硫黄レベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.7重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.70重量%、0.01~0.6重量%、0.01~0.5重量%、0.01~0.4重量%、0.01~0.3重量%、0.01~0.2重量%、0.01~0.10重量%の硫黄レベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中の硫黄レベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.60重量%以下、約0.50重量%以下、約0.40重量%以下、約0.30重量%以下、約0.20重量%以下、約0.10重量%以下である。
【0014】
一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.12重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.12重量%のリンのレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.11重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.11重量%のリンのレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.10重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.10重量%のリンのレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.09重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.09重量%のリンのレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.08重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.08重量%のリンのレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.07重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.07重量%のリンのレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.05重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.05重量%のリンのレベルである。
【0015】
一実施形態において、本発明の潤滑油組成物によって生成された硫酸塩灰分のレベルは、ASTM D874によって決定した場合、約1.60重量%以下、例えば、ASTM D874によって決定した場合、約0.10~約1.60重量%の硫酸塩灰分のレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物によって生成された硫酸塩灰分のレベルは、ASTM D874によって決定した場合、約1.00重量%以下、例えば、ASTM D874によって決定した場合、約0.10~約1.00重量%の硫酸塩灰分のレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物によって生成された硫酸塩灰分のレベルは、ASTM D874によって決定した場合、約0.80重量%以下、例えば、ASTM D874によって決定した場合、約0.10~約0.80重量%の硫酸塩灰分のレベルである。一実施形態において、本発明の潤滑油組成物によって生成された硫酸塩灰分のレベルは、ASTM D874によって決定した場合、約0.60重量%以下、例えば、ASTM D874によって決定した場合、約0.10~約0.60重量%の硫酸塩灰分のレベルである。
【0016】
適宜、本発明の潤滑油組成物は、4~15mg KOH/g(例えば、5~12mg KOH/g、6~12mg KOH/g、又は8~12mg KOH/g)の全塩基価(TBN)を有することができる。
【0017】
低速早期点火は、稼働中、約1500~約2500回転/分(rpm)のエンジン速度(例えば、約1500~約2000rpmのエンジン速度)で、約15バール超(例えば、少なくとも約18バール、特に、少なくとも約20バール)の正味平均有効圧レベル(ピークトルク)を発生するブースト(ターボチャージ式又はスーパーチャージ式)直噴火花点火式(ガソリン)内燃エンジン内で起こる可能性が最も高い。本明細書で用いられる場合、正味平均有効圧(BMEP)は、1エンジンサイクル中に達成される仕事量をエンジンの行程容積で割ったもの、エンジントルクをエンジン排気量で正規化したものとして定義される。「ブレーキ」という言葉は、動力計で測定した場合にエンジンフライホイールで得られる実トルク/馬力を示す。そのため、BMEPはエンジンの有用な出力を測る基準である。
【0018】
本発明の一実施形態において、エンジンは500rpm~3000rpm、又は800rpm~2800rpm、又は更には1000rpm~2600rpmの速度で稼働する。更に、エンジンは、10バール~30バール、又は12バール~24バールの正味平均有効圧で稼働してもよい。
【0019】
比較的珍しいが、LSPI事象は本質的に破局的であり得る。したがって、直接燃料噴射エンジンの通常又は持続稼働中の、LSPI事象の大幅な削減又は更には排除が望ましい。一実施形態において、本発明の方法は、100,000燃焼事象当たり15未満のLSPI事象、又は100,000燃焼事象当たり10未満のLSPI事象となる方法である。一実施形態において、100,000燃焼事象当たり5未満のLSPI事象、100,000燃焼事象当たり4未満のLSPI事象、100,000燃焼事象当たり3未満のLSPI事象、100,000燃焼事象当たり2未満のLSPI事象、100,000燃焼事象当たり1未満のLSPI事象であってもよく、又は100,000燃焼事象当たり0のLSPI事象であってもよい。
【0020】
したがって、一態様において、本開示は、ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減する方法であって、少なくとも1種のマンガン含有化合物を含む潤滑油組成物でエンジンのクランク室を潤滑するステップを含む前記方法を提供する。一実施形態において、少なくとも1種のマンガン含有化合物由来の金属の量は、潤滑油組成物中、約25~約3000ppm、約50~約3000ppm、約100~約3000ppm、約200~約3000ppm、約250~約2500ppm、約300~約2500ppm、約350~約2500ppm、約400ppm~約2500ppm、約500~約2500ppm、約600~約2500ppm、約700~約2500ppm、約700~約2000ppm、約700~約1500ppmである。一実施形態において、マンガン含有化合物由来の金属の量は、潤滑油組成物中、約2000ppm以下又は1500ppm以下である。
【0021】
一実施形態において、本発明の方法は、少なくとも1種のマンガン含有化合物を含まない油と比較して、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%のLSPI事象の数を減少させる。
【0022】
別の態様において、本開示は、ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火事象の重度を低減する方法であって、少なくとも1種のマンガン含有化合物を含む潤滑油組成物でエンジンのクランク室を潤滑するステップを含む方法を提供する。LSPI事象は、ピーク筒内圧(PP)及び筒内に充填された燃料の質量燃焼割合(MFB)を監視することによって決定する。いずれかの又は両方の基準が満たされたら、LSPI事象が生じたと見なすことができる。ピーク筒内圧の閾値は試験によって変動するが、典型的には平均筒内圧より大きい4~5の標準偏差である。同様に、MFB閾値は、典型的には平均MFB(クランク角度で表す)より早い4~5の標準偏差である。LSPI事象は、1試験当たりの平均事象数、100,000燃焼サイクル当たりの事象数、1サイクル当たりの事象数、及び/又は1事象当たりの燃焼サイクル数として報告され得る。一実施形態において、LSPI事象の数は、MFB02(2%の質量燃焼割合のクランク角の位置)及びピーク圧(PP)の両方の必要条件が90バール超の圧力だった場合、5未満の事象、4未満の事象、3未満の事象、2未満の事象、又は1未満の事象である。一実施形態において、90バール超だったLSPI事象の数はゼロだった、又は言い換えると、90バール超のLSPI事象は完全に抑制された。一実施形態において、MFB02及びピーク圧(PP)両方の必要条件が100バール超の圧力だったときのLSPI事象の数は、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、又は1事象未満である。一実施形態において、100バール超だったLSPI事象の数はゼロだった、又は言い換えると、100バール超のLSPI事象は完全に抑制された。一実施形態において、MFB02及びピーク圧(PP)両方の必要条件が110バール超の圧力だったときのLSPI事象の数は、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、又は1事象未満である。一実施形態において、110バール超だったLSPI事象の数はゼロ事象だった、又は言い換えると、110バール超のLSPI事象は完全に抑制された。例えば、MFB02及びピーク圧(PP)両方の必要条件が120バール超の圧力だったときのLSPI事象の数は、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、又は1事象未満である。一実施形態において、120バール超だったLSPI事象の数はゼロ事象だった、又は言い換えると、非常に過酷なLSPI事象(すなわち、120バール超の事象)は完全に抑制された。
【0023】
現在、LSPIが発生しやすいエンジン内のLSPIの発生を、マンガン含有化合物を含む潤滑油組成物で該エンジンを潤滑することによって減少できることが発見された。
【0024】
本開示は、エンジンが、液体炭化水素燃料、液体非炭化水素燃料、又はこれらの混合物で燃料供給される、本明細書に記載する方法を更に提供する。
【0025】
本開示は、エンジンが、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)、又はこれらの混合物で燃料供給される、本明細書に記載する方法を更に提供する。
【0026】
乗用車モーター油としての使用に適した潤滑油組成物は、従来、多量の潤滑粘性油と、少量の性能向上添加剤(灰分含有化合物等)とを含む。好都合には、1種又は複数のマンガン含有化合物によって、本開示の実践に使用される潤滑油組成物にマンガンを導入する。
【0027】
潤滑粘性油/基油成分
本開示の潤滑油組成物中に使用する潤滑粘性油は、基油とも呼ばれ、典型的には多量で、例えば、組成物の総重量に基づいて50重量%超、好ましくは約70重量%超、より好ましくは約80~約99.5重量%、最も好ましくは約85~約98重量%の量で存在する。「基油」という表現は、本明細書で用いられる場合、1つのメーカーによって同じ仕様に製造され(原料又はメーカーの所在地は関係しない)、同じメーカーの仕様を満たし、独自の処方、製品識別番号、又はこれら両方によって識別される、潤滑剤成分である基材又は基材のブレンドを意味すると理解するものとする。本明細書で使用される基油は、任意の及び全ての用途、例えば、エンジン油、海洋シリンダー油、機能液(油圧作動油、ギアオイル、トランスミッション液等)用の潤滑油組成物を配合する上で使用される既知の又は後に発見された任意の潤滑粘性油であってもよい。更に、本明細書で使用される基油は、任意選択により、粘度指数向上剤、例えば、高分子アルキルメタクリレート、オレフィン共重合体、例えば、エチレン-プロピレン共重合体又はスチレン-ジエン共重合体等、及びこれらの混合物を含有することができる。
【0028】
当業者が容易に理解すると思われるように、基油の粘度は用途によって決まる。これに応じて、本明細書で使用される基油の粘度は、通常、摂氏100度で約2~約2000センチストーク(cSt)の範囲である。一般的に、個別にエンジン油として使用される基油は、100℃で約2cSt~約30cSt、好ましくは約3cSt~約16cSt、最も好ましくは約4cSt~約12cStの範囲の動粘性率を有し、所望の最終用途に応じて選択又はブレンドされ、所望の品質のエンジン油を得るための完成油中の添加剤、例えば潤滑油組成物は、0W、0W-4、0W-8、0W-12、0W-16、0W-20、0W-26、0W-30、0W-40、0W-50、0W-60、5W、5W-20、5W-30、5W-40、5W-50、5W-60、10W、10W-20、10W-30、10W-40、10W-50、15W、15W-20、15W-30、15W-40、30、40等のSAE粘度等級を有する。
【0029】
グループIの基油は、一般的に、飽和分が90重量%未満(ASTM D2007によって決定)及び/又は全硫黄分が300ppm超(ASTM D2622、ASTM D4294、ASTM D4297又はASTM D3120によって決定)並びに粘度指数(VI)が80以上120未満(ASTM D2270によって決定)の原油由来の潤滑基油を指す。
【0030】
グループIIの基油は、一般的に、全硫黄分が300ppm(100万分の一:parts per million)以下(ASTM D2622、ASTM D4294、ASTM D4927又はASTM D3120によって決定)、飽和分が90重量%以上(ASTM D2007によって決定)、及び粘度指数(VI)が80~120の間(ASTM D2270によって決定)の原油由来の潤滑基油を指す。
【0031】
グループIIIの基油は、一般的に、硫黄分が300ppm未満、飽和分が90重量%超、及びVIが120以上の原油由来の潤滑基油を指す。
【0032】
グループIVの基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。
【0033】
グループVの基油は、グループI、II、III又はIVに含まれない他の全ての基油を含む。
【0034】
潤滑油組成物は、少量の他の基油成分を含有することができる。例えば、潤滑油組成物は、天然潤滑油、合成潤滑油又はこれらの混合物に由来する基油を少量含有することができる。好適な基油としては、合成ワックス及びスラックワックスの異性化によって得られる基材並びに原油の芳香族及び極性成分の水素化分解(溶媒抽出でなく)によって製造される水素化分解基材が挙げられる。
【0035】
好適な天然油としては、例えば、液体石油、溶媒処理又は酸処理したパラフィン、ナフテン又は混合パラフィン-ナフテンタイプの鉱油系潤滑油、石炭又はシェール由来の油、動物油、植物油(例えば、菜種油、ヒマシ油及びラード油)等の鉱油系潤滑油が挙げられる。
【0036】
好適な合成潤滑油としては、これらに限定されないが、重合及び共重合オレフィン、例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)等、及びこれらの混合物等の炭化水素油及びハロ置換炭化水素油;ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン等のアルキルベンゼン;ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニル等のポリフェニル;アルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにこれらの誘導体、類似体及び同族体等が挙げられる。
【0037】
その他の合成潤滑油としては、これらに限定されないが、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、ペンテン、及びこれらの混合物等の5個未満の炭素原子のオレフィンを重合して作製される油が挙げられる。このような高分子油の調製方法は当業者に周知である。
【0038】
追加の合成炭化水素油としては、適当な粘度を有するαオレフィンの液体高分子が挙げられる。特に有用な合成炭化水素油は、例えば1-デセン三量体等のC~C12αオレフィンの水素化液体オリゴマーである。
【0039】
別の部類の合成潤滑油としては、これらに限定されないが、アルキレンオキシド高分子、すなわち、ホモポリマー、共重合体、及びこれらの誘導体(末端水酸基が、例えば、エステル化又はエーテル化によって修飾された)が挙げられる。これらの油は、エチレンオキシド又はプロピレンオキシド、これらのポリオキシアルキレン高分子のアルキル及びフェニルエーテル(例えば、平均分子量が1,000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量が500~1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量が1,000~1,500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、又はこれらのモノ及びポリカルボン酸エステル、例えば、酢酸エステル、混合C~C脂肪酸エステル、又はテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルの重合によって調製される油によって例示される。
【0040】
更に別の部類の合成潤滑油としては、これらに限定されないが、ジカルボン酸、例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等と、様々なアルコール、例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等とのエステルが挙げられる。これらのエステルの具体的な例としては、アジピン酸ジブチル、ジ(2-エチルヘキシル)セバシン酸エステル、ジ-n-ヘキシルフマル酸エステル、ジオクチルセバシン酸エステル、ジイソオクチルアゼライン酸エステル、ジイソデシルアゼライン酸エステル、ジオクチルフタル酸エステル、ジデシルフタル酸エステル、ジエイコシルセバシン酸エステル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸等とを反応させて形成される複合エステルが挙げられる。
【0041】
また、合成油として有用なエステルには、これらに限定されないが、約5~約12個の炭素原子を有するカルボン酸とアルコール(例えば、メタノール、エタノール等)とから作製されるもの、ポリオール及びポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0042】
例えば、ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-又はポリアリールオキシ-シロキサン油及びシリケート油等のケイ素系油は、別の有用な部類の合成潤滑油を含む。これらの具体例として、これらに限定されないが、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4-メチル-ヘキシル)シリケート、テトラ(p-tert-ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル-(4-メチル-2-ペンタオキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、ポリ(メチルフェニル)シロキサン等が挙げられる。更に他の有用な合成潤滑油としては、これらに限定されないが、リン含有酸の液体エステル、例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デカンホスホン酸等のジエチルエステル、高分子テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0043】
潤滑油は、天然若しくは合成のいずれかの未精製、精製及び再精製油、又は上に開示されるタイプの2種以上の該油の混合物に由来してもよい。未精製油は、更なる精製又は処理をせずに、天然又は合成源(例えば、石炭、シェール、又はタールサンドビチューメン)から直接得られるものである。未精製油の例としては、これらに限定されないが、レトルト採収法の操作から直接得られるシェール油、蒸留法から直接得られる石油又はエステル化工程から直接得られるエステル油が挙げられ、これらは各々、次いで更なる処理をせずに使用される。精製油は、1つ又は複数の性質を改善するために1つ又は複数の精製ステップで更に処理したこと以外は未精製油と同様である。これらの精製技術は当業者に公知であり、例えば、溶媒抽出法、二次蒸留法、酸又は塩基抽出法、濾過法、パーコレーション、水素処理法、脱蝋等が挙げられる。再精製油は、精製油を得るために使用したものと同様のプロセスで使用済み油を処理することによって得られる。このような再精製油は、回収された又は再処理された油としても知られ、多くの場合、使用済み添加剤及び油状分解産物の除去を目的とした技術によって追加の処理が行われる。
【0044】
ワックスの水素化異性化(hydroisomerization)から誘導される潤滑油基材も、単独で又は前記天然及び/若しくは合成基材と組み合わせて使用できる。このようなワックス異性化油は、天然若しくは合成ワックス又はこれらの混合物を水素化異性化触媒の存在下で水素化異性化させることによって製造される。
【0045】
天然ワックスは、典型的には、鉱油の溶剤脱蝋によって回収されるスラックワックスであり、合成ワックスは、典型的には、フィッシャー・トロプシュ法によって製造されるワックスである。
【0046】
その他の有用な潤滑粘性流体には、好ましくは触媒作用で処理又は合成して高性能の潤滑特性を実現した非従来的な又は異例の基材が含まれる。
【0047】
マンガン化合物
本明細書の潤滑油組成物は、1種又は複数のマンガン含有化合物を含有することができる。当業者であれば、好適な添加剤が、参照により本明細書に組み込まれるR.D.W.Kemmitt、「マンガンの化学(The Chemistry of Manganese)」、第1版、Pergamon Press、Elsevier(1973)に記載されていることを認識する。本開示に記載されるマンガン錯体は、典型的には、当業者に明らかな方法を用いてマンガン反応物質を好適な配位子と反応させることによって調製される。典型的には、これらのマンガン反応物質は、以下の化合物:MnO、MnCl、MnBr、MnO、MnS、Mn(OH)、Mn(CO)10、Mn(acac)、Mn、Mn、Mn、MnCO、Mn、Mn(OTf)、又は同様のマンガン化合物で表される。マンガン反応物質は、存在する様々なレベルの水和又は酸化状態(例えば、MnII、MnIII、MnIV)を有してよい。加えて、マンガン反応物質は、その原子価を完了するために配位子化学物質の混合物を有することができる。上記のこれらのマンガン化合物のいずれか1種を、本開示のマンガン化合物として使用することができる。好ましいマンガン化合物は、MnO、MnCl、Mn(OH)、Mn(acac)及びMn(acac)である。マンガン反応物質も、本開示のマンガン化合物とすることができる。本明細書に記載のマンガン錯体は油溶性又は油分散性である。
【0048】
一実施形態において、マンガン化合物は、マンガンアルコキシド化合物であってもよい。例えば、マンガンアルコキシドは、Mnα(ORの形態でよく、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガンアルコキシドは、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、置換基OR又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。例としては、これらに限定されないが、マンガン(II)2-エチルヘキサノール、マンガン(II)n-ブトキシド、マンガン(II)トリデシルアルコール、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
一実施形態において、マンガン化合物は、マンガン塩のコロイド分散体であってもよい。例えば、マンガン塩は、[Mnα-X-Mnα反復単位を含むことができ、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、Xは水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、酸化物、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、グリセロール、エチレングリコール、オリゴマーグリコールエーテル、又はこれらの組み合わせ等を含めた溶媒を添加してもよい。一般的に、マンガン塩のコロイド分散体の量は約0.01重量%~約5重量%であってもよい。
【0050】
一実施形態において、マンガン化合物は、マンガンアミド化合物であってもよい。例えば、マンガンアミド化合物は、Mnα(NRの形態でよく、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族又は芳香族炭化水素部分であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、カルボン酸誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガンアミド化合物は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、置換基NR又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0051】
一実施形態において、マンガン化合物は、マンガンアセチルアセトナート化合物であってもよい。例えば、マンガンアセチルアセトナートは、以下の式1:
【化1】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、Rは、1~約30個の炭素原子を有する対称性又は非対称性の直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分又は芳香族部分であってもよく、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガンアセチルアセトナート化合物は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、置換基Lは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0052】
一実施形態において、マンガン化合物は、マンガンカルボキシラート化合物であってもよい。例えば、マンガンカルボキシラートは、以下の式2:
【化2】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、Rは、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、又は1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分であってもよいアルキル基を有する芳香環及びアルキル芳香環であってもよく、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガンカルボキシラート化合物は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、置換基RCO-又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。例えば、マンガンカルボキシラートは、マンガン(II)2-エチルヘキサノアート又はマンガン(II)ステアラート等のマンガン脂肪酸であってもよい。潤滑剤分野で使用される追加のマンガンカルボキシラートは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,328,620号及び米国特許第4,505,718号に記載されている。
【0053】
一実施形態において、マンガン化合物は、マンガンサリチラート化合物であってもよい。例えば、マンガンカルボキシラートは、以下の式3:
【化3】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、RE1及びRE2は、独立して、水素原子、1~約40個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、pは1~4の整数であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガンサリチラート化合物は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、サリチラート置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。幾つかの実施形態において、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウム等のアルカリ土類金属を添加してもよい。アルカリ土類金属は、典型的には、これらに限定されないが、金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシド、金属炭酸塩、及び金属重炭酸塩を含むことができる塩基性塩である。
【0054】
一実施形態において、マンガン化合物は、ジチオカルバマトマンガン錯体であってもよい。例えば、マンガンジチオカルバマートは、式4:
【化4】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、独立して、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、ジチオカルバマトマンガン錯体は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、ジチオカルバマート置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0055】
一実施形態において、マンガン化合物は、ジチオホスファトマンガン錯体であってもよい。例えば、マンガンジチオホスファートは、式5:
【化5】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、独立して、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、ジチオホスファトマンガン錯体は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、ジチオホスファート置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0056】
一実施形態において、マンガン化合物は、サレンマンガン錯体であってもよい。例えば、マンガンサレンは、式6:
【化6】

を有し、式中、αは+2又は+3又は+4酸化状態であり、各Rは、独立して、水素原子、又は1~約40個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分であり、各Yは独立して-C(RH’’であり、式中、各RH’’は、水素原子、1~約20個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、又は芳香環であり、zは、各Nがそれぞれイミド又はアミノである場合に1又は2であり、各RH’は、独立して、水素原子、1~約20個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族鎖炭化水素部分であるか、又はこれらが結合している原子と一緒に5、6、若しくは7員環(芳香族であるか、完全に飽和されているか、又は様々なレベルの不飽和を含んでもよい)を形成し、nは1の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0057】
一実施形態において、マンガン化合物は、リン酸エステル、ホスフィナート、又はホスフィナイトマンガン錯体であってもよい。例えば、マンガンリン酸エステル、ホスファイト、ホスフィナート、又はホスフィナイトは、以下の式7:
【化7】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、Wは、リン原子がそれぞれ+5又は+3酸化状態である場合にオキソ基又は非結合電子対であり、各Rは、独立して、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、芳香環又はアルコキシド部分、式ORI’のエーテル(式中、RI’は、独立して、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、又は芳香環である)であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、リン酸エステル、ホスフィナート、又はホスフィナイトマンガン錯体は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、リン酸エステル、ホスフィナート、若しくはホスフィナイト置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0058】
一実施形態において、マンガン化合物は、ピリジル、ポリピリジル、キノリナト、及びイソキノリナトマンガン錯体であってもよい。例えば、マンガンのピリジル、ポリピリジル、キノリナト、イソキノリナト錯体は、以下の式8:
【化8】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、独立して、水素原子、又は1~約40個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、又は典型的には2位で置換された非官能化であってもよいピリジル環若しくは他の官能化ピリジル環に結合して、一般に8-ヒドロキシキノリン、キノリン、イソキノリン、若しくはフェナントロリンと称する縮合環系を作製していてもよいピリジル環であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、ピリジル、ポリピリジル、キノリナト、及びイソキノリナトマンガン錯体は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、ピリジル、ポリピリジル、キノリナト、イソキノリナト置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0059】
一実施形態において、マンガン化合物は、グリオキシマトマンガン錯体であってもよい。例えば、マンガンのグリオキシマト錯体は、以下の式9:
【化9】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、独立して、水素原子、又は1~約20個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分であり、各RK’は、独立して、水素原子、ヒドロキシル基、-ORp’’型のエーテル部分であり、式中、Rp’’は、1~約20個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、又は幾つかの実施形態では一緒に結合できる1~約20個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族鎖炭化水素部分であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミド、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0060】
一実施形態において、マンガン化合物は、アルキルジアミノマンガン錯体であってもよい。例えば、アルキルジアミノマンガン化合物は、以下の式10:
【化10】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、1~約10個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、芳香環であるか、又は-[(C(RL’X](C(RL’-反復単位(式中、RL’は、独立して、水素原子、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分であり、aは独立して0~2の整数であり、bは0~5の整数であり、XはO、S又はNRL’等のヘテロ原子であり、cは0~10の整数である)で構成されていてもよく、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、アルキルジアミノマンガン錯体は、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、アルキルジアミノ置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0061】
一実施形態において、マンガン化合物は、アザ大環状マンガン錯体であってもよい。例としては、マンガントリアザシクロノナン錯体等があり得る。例えば、アザ大環状マンガン化合物は、以下の式11:
【化11】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、独立して、水素原子、又は1~約10個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分であり、RM’は、独立して、水素原子、1~約30個の炭素原子を有する直鎖状、環状、若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素部分、又はp-トルエンスルホンアミドであり、nは3~6の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0062】
別の実施形態において、マンガン化合物は、マンガンアルキルスルホナート錯体であってもよい。例えば、マンガンアルキルスルホナートは、以下の式12:
【化12】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、1~約40個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、nは0~3の整数であり、Lはマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミド、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガンアルキルスルホナートは、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、アルキルスルホナート置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0063】
別の実施形態において、マンガン化合物は、マンガンアリールスルホナート化合物であってもよい。例えば、マンガンアリールスルホナートは、以下の式13:
【化13】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、各Rは、水素原子、1~約40個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、pは1~5の整数であり、nは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、カルボニル、イミノ、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガンアリールスルホナートは、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、アリールスルホナート置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。幾つかの実施形態において、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウム等のアルカリ土類金属を添加してもよい。アルカリ土類金属は、典型的には、これらに限定されないが、金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシド、金属炭酸塩、及び金属重炭酸塩を含むことができる塩基性塩である。
【0064】
一実施形態において、マンガン化合物は、マンガン硫化又は非硫化フェナート化合物であってもよい。例えば、マンガン硫化又は非硫化フェナートは、以下の式14:
【化14】

を有し、式中、αは+2又は+3酸化状態であり、Rは、水素原子、1~約40個の炭素原子を有する直鎖状、環状、又は分枝状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素部分であり、x’は0又は1~約8の整数であり、nは1~約15の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~3の整数であり、Lは不在か又はマンガンの配位圏を飽和させる配位子であり、xは0~6の整数である。特定の実施形態において、配位子Lは、水、水酸化物、アルコキシド、オキソ、ホスフィン、ホスファイト、ホスファート、アンモニア、アミノ、アミド、ピリジル、スルファート、チオエーテル、スルフィド、チオラート、ハロゲン化合物、カルボキシラート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態において、マンガン硫化又は非硫化フェナートは、二量体又はより高次の多核錯体であってもよく、硫化又は非硫化フェナート置換基又はLは架橋(μ)配位子であってもよい。
【0065】
一実施形態において、マンガン反応物質を塩基性窒素分散剤スクシンイミドと錯形成させることができる。マンガン錯体を調製するために使用される塩基性窒素スクシンイミドは、少なくとも1つの塩基性窒素を有し、好ましくは油溶性である。スクシンイミド組成物は、組成物が塩基性窒素を含有し続ける限り、例えば、当該技術分野で周知の手法を用いて、ホウ素で後処理してもよい。本明細書に記載のマンガン錯体を調製するために使用することができるモノ及びポリスクシンイミドは、多数の参考文献で開示されており、当該技術分野において周知である。ある種の基本タイプのスクシンイミド及び専門用語「スクシンイミド」に包含される関連材料は、開示内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,219,666号、同第3,172,892号、及び同第3,272,746号に教示されている。用語「スクシンイミド」は、当該技術分野において、同様に形成され得るアミド、イミド、及びアミジン種の多くを含むと理解される。しかしながら、主要生成物はスクシンイミドであり、この用語は、アルケニル置換コハク酸又は無水コハク酸と窒素含有化合物との反応生成物を意味するものとして一般的に認められている。好ましいスクシンイミドは、それらが市販されていることから、ヒドロカルビル無水コハク酸から調製されるスクシンイミドであり、ここで、ヒドロカルビル基は約24~約350個の炭素原子及びエチレンアミンを含有し、前記エチレンアミンは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、及びテトラエチレンペンタミンで特に特徴づけられる。特に好ましいのは、70~128個の炭素原子を有するポリイソブテニル無水コハク酸とテトラエチレンペンタミン又はトリエチレンテトラミン又はこれらの混合物とから調製されるスクシンイミドである。また、用語「スクシンイミド」には、ヒドロカルビルコハク酸又は無水コハク酸と、2つ以上の第2級アミノ基に加えて少なくとも1つの第3級アミノ窒素を含むポリ第2級アミンとのコオリゴマーも含まれる。通常、この組成物は1,500~50,000平均分子量を有する。典型的な化合物は、ポリイソブテニル無水コハク酸とエチレンジピペラジンを反応させることによって調製されるものであると考えられる。
【0066】
平均分子量が1000又は1300又は2300のスクシンイミド及びこれらの混合物が最も好ましい。
【0067】
別の実施形態において、マンガン化合物は、安定性のコロイド懸濁液であってもよい。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,884,058号は、様々な無機酸化物の安定性コロイド懸濁液を開示している。これらは、ポリアルキレン無水コハク酸;ポリアルキレンコハク酸、ポリアルキレンコハク酸のグループI及び/又はグループIIモノ又はジ塩、ポリアルキレン無水コハク酸又は酸塩化物とアルコール及びその混合物との反応によって形成されるポリアルキレンコハク酸エステル、並びにこれらの混合物からなる群から選択されるポリアルキレン無水コハク酸の非窒素含有誘導体、並びに希釈油を含む分散剤を有する油性相の存在下で調製することができ、安定性コロイド懸濁液は実質的に透明である。
【0068】
一般的に、マンガン含有化合物の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.001重量%~約25重量%、約0.05重量%~約20重量%、又は約0.1重量%~約15重量%、又は約0.5重量%~約5重量%、約1.0重量%~約4.0重量%であってもよい。
【0069】
一態様において、本開示は、少なくとも1種のマンガン含有化合物を含むブースト直噴火花点火式内燃エンジン用の潤滑エンジン油組成物を提供する。一実施形態において、少なくとも1種のマンガン化合物由来の金属の量は、約25~約3000、約50~約3000ppm、約100~約3000ppm、約200~約3000ppm、又は約250~約2500ppm、約300~約2500ppm、約350~約2500ppm、約400ppm~約2500ppm、約500~約2500ppm、約600~約2500ppm、約700~約2500ppm、約700~約2000ppm、約700~約1500ppmである。一実施形態において、マンガン含有化合物由来の金属の量は、約2000ppm以下又は約1500ppm以下である。
【0070】
一実施形態において、マンガン含有化合物を、マグネシウム及び/又はカルシウムを含有する従来の潤滑油洗剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、カルシウム洗剤(単数又は複数)を、潤滑油組成物中に0~約2400ppmのカルシウム金属、0~約2200ppmのカルシウム金属、100~約2000ppmのカルシウム金属、200~約1800ppmのカルシウム金属、又は約100~約1800ppm、又は約200~約1500ppm、又は約300~約1400ppm、又は約400~約1400ppmのカルシウム金属を潤滑油組成物に与えるのに十分な量で添加することができる。一実施形態において、マグネシウム洗剤(単数又は複数)を、潤滑油組成物中に約100~約1000ppmのマグネシウム金属、又は約100~約600ppm、又は約100~約500ppm、又は約200~約500ppmのマグネシウム金属を潤滑油組成物に与えるのに十分な量で添加することができる。
【0071】
一実施形態において、マンガン含有化合物を、リチウムを含有する従来の潤滑油洗剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、リチウム洗剤(単数又は複数)を、潤滑油組成物中に0~約2400ppmのリチウム金属、0~約2200ppmのリチウム金属、100~約2000ppmのリチウム金属、200~約1800ppmのリチウム金属、又は約100~約1800ppm、又は約200~約1500ppm、又は約300~約1400ppm、又は約400~約1400ppmのリチウム金属を潤滑油組成物に与えるのに十分な量で添加することができる。
【0072】
一実施形態において、マンガン含有化合物を、ナトリウムを含有する従来の潤滑油洗剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、ナトリウム洗剤(単数又は複数)を、潤滑油組成物中に0~約2400ppmのナトリウム金属、0~約2200ppmのナトリウム金属、100~約2000ppmのナトリウム金属、200~約1800ppmのナトリウム金属、又は約100~約1800ppm、又は約200~約1500ppm、又は約300~約1400ppm、又は約400~約1400ppmのナトリウム金属を潤滑油組成物に与えるのに十分な量で添加することができる。
【0073】
一実施形態において、マンガン含有化合物を、カリウムを含有する従来の潤滑油洗剤添加剤と組み合わせることができる。一実施形態において、カリウム洗剤(単数又は複数)を、潤滑油組成物中に0~約2400ppmのカリウム金属、0~約2200ppmのカリウム金属、100~約2000ppmのカリウム金属、200~約1800ppmのカリウム金属、又は約100~約1800ppm、又は約200~約1500ppm、又は約300~約1400ppm、又は約400~約1400ppmのカリウム金属を潤滑油組成物に与えるのに十分な量で添加することができる。
【0074】
一実施形態において、本開示は、主成分としての潤滑油基材と、微量成分としての少なくとも1種のマンガン含有化合物とを含む潤滑エンジン油組成物であって、エンジンが、正規化された低速早期点火(LSPI)計数/100,000エンジンサイクル、エンジン稼働500~3,000回転/分及び正味平均有効圧(BMEP)10~30バールに基づいて、少なくとも1種のマンガン含有化合物を含まない潤滑油を使用するエンジンで実現された低速早期点火の性能と比較したとき、50%超低減された低速早期点火を示す、潤滑エンジン油組成物を提供する。
【0075】
一態様において、本開示は、主成分としての潤滑油基材と、微量成分としての少なくとも1種のマンガン含有化合物とを含む、ブースト小型エンジン中で使用する潤滑エンジン油組成物であって、小型エンジンが約0.5~約3.6リットル、約0.5~約3.0リットル、約0.8~約3.0リットル、約0.5~約2.0リットル、又は約1.0~約2.0リットルの範囲である、潤滑エンジン油組成物を提供する。エンジンは、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのシリンダーを有していてよい。
【0076】
一態様において、本開示は、同時にブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減しながら、堆積制御性能を改善する方法であって、少なくとも1種のマンガン含有化合物を含む潤滑油組成物でエンジンのクランク室を潤滑するステップを含む上記方法を提供する。一実施形態において、マンガン化合物は、本明細書に記載のカルボン酸マンガンである。一実施形態において、堆積制御性能は、TEOST MHT4で改善される。MHT4を有意に改善するために有用な量は、約25~約3000、約50~約3000ppm、約100~約3000ppm、約200~約3000ppm、又は約250~約2500ppm、約300~約2500ppm、約350~約2500ppm、約400ppm~約2500ppm、約500~約2500ppm、約600~約2500ppm、約700~約2500ppm、約700~約2000ppm、約700~約1500ppmであってもよい。一実施形態において、マンガン含有化合物由来の金属の量は、約2000ppm以下又は約1500ppm以下である。
【0077】
一態様において、本開示は、ブースト直噴火花点火式内燃エンジンにおける低速早期点火を防止又は低減するための少なくとも1種のマンガン含有化合物の使用を提供する。
【0078】
潤滑油添加剤
本明細書に記載のマンガン化合物に加えて、潤滑油組成物は追加の潤滑油添加剤を含むことができる。
【0079】
本開示の潤滑油組成物は、これらの添加剤が分散又は溶解する潤滑油組成物の任意の所望の特性を付与又は改善することができる他の従来の添加剤も含有してもよい。当業者に公知の任意の添加剤を、本明細書に開示する潤滑油組成物中に使用してよい。幾つかの好適な添加剤が、Mortierら、「潤滑剤の化学及び技術(Chemistry and Technology of Lubricants)」、第2版、London,Springer、(1996);及びLeslie R.Rudnick、「潤滑添加剤:化学及び用途(Lubricant Additives:Chemistry and Applications)」、New York,Marcel Dekker(2003)に記載されており、これらは両方とも参照により本明細書に組み込まれる。例えば、潤滑油組成物を、抗酸化剤、抗摩耗剤、金属洗剤、防錆剤、ヘイズ除去剤(dehazing agents)、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、腐食防止剤、無灰分散剤、多機能因子、染料、極圧剤等、及びこれらの混合物とブレンドすることができる。様々な添加剤が公知であり、市販されている。これらの添加剤又はこれらの類似化合物を、通常のブレンド法によって本開示の潤滑油組成物の調製に使用することができる。
【0080】
本発明の潤滑油組成物は、1種又は複数の洗剤を含有することができる。金属含有又は灰形成性洗剤は、堆積物を減少又は除去するための洗剤としての機能と酸中和剤又は防錆剤としての機能の両方を持ち、それによって、摩耗及び腐食を低減し、エンジン寿命を延長する。洗剤は、一般的に、極性頭部と長い疎水性尾部を含む。極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は、実質的に化学量論量の金属を含有してよく、その場合、こうした塩は通常、正塩又は中性塩として説明される。過剰の金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることによって多量の金属塩基を混和してもよい。
【0081】
使用することができる洗剤としては、油溶性の中性及び過塩基性スルホナート、フェナート、硫化フェナート、チオホスホナート、サリチラート、及びナフテナート、並びに金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、バリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウムの他の油溶性カルボキシラートが挙げられる。最も一般的に使用される金属は、カルシウム及びマグネシウム(これらは両方とも、潤滑剤中に使用される洗剤中に存在し得る)、並びにカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムの混合物である。
【0082】
本発明の潤滑油組成物は、摩擦及び過剰摩耗を低減できる1種又は複数の抗摩耗剤を含有することができる。当業者に知られるいずれの抗摩耗剤も潤滑油組成物中に使用してよい。好適な抗摩耗剤の非限定例としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸の金属(例えば、Pb、Sb、Mo等)塩、ジチオカルバマートの金属(例えば、Zn、Pb、Sb、Mo等)塩、脂肪酸の金属(例えば、Zn、Pb、Sb等)塩、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩、ジシクロペンタジエンとチオリン酸との反応生成物、及びこれらの組み合わせが挙げられる。抗摩耗剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.01重量%~約5重量%、約0.05重量%~約3重量%、又は約0.1重量%~約1重量%で変動し得る。
【0083】
特定の実施形態において、抗摩耗剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物等のジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩である、又はこれを含む。ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩の金属は、アルカリ又はアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル又は銅であってもよい。幾つかの実施形態において、金属は亜鉛である。他の実施形態では、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩のアルキル基は、約3~約22個の炭素原子、約3~約18個の炭素原子、約3~約12個の炭素原子、又は約3~約8個の炭素原子を有する。更なる実施形態において、アルキル基は直鎖状又は分枝状である。
【0084】
本明細書で開示する潤滑油組成物中のジアルキルジチオリン酸亜鉛塩等のジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩の量は、そのリン含量によって測定される。幾つかの実施形態において、本明細書で開示する潤滑油組成物のリン含量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.01重量%~約0.14重量%である。
【0085】
本発明の潤滑油組成物は、可動部同士の間の摩擦を低減できる1種又は複数の摩擦調整剤を含有することができる。当業者に知られるいずれの摩擦調整剤も、潤滑油組成物中に使用してよい。好適な摩擦調整剤の非限定例としては、脂肪カルボン酸;脂肪カルボン酸の誘導体(例えば、アルコール、エステル、ボラートエステル、アミド、金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸;モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸の誘導体(例えば、エステル、アミド、金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換アミン;モノ又はジアルキル置換アミド及びこれらの組み合わせが挙げられる。幾つかの実施形態において、摩擦調整剤の例としては、これらに限定されないが、アルコキシル化脂肪アミン;ボラート脂肪エポキシド;脂肪ホスファイト(fatty phosphite)、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ボラートアルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ボラートグリセロールエステル;及び内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,372,696号に開示されている脂肪イミダゾリン;C~C75又はC~C24又はC~C20脂肪酸エステルとアンモニア及びアルカノールアミン等からなる群から選択される窒素含有化合物との反応生成物から得られる摩擦調整剤及びこれらの混合物が挙げられる。摩擦調整剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて約0.01重量%~約10重量%、約0.05重量%~約5重量%、又は約0.1重量%~約3重量%で変動し得る。
【0086】
本開示の潤滑油組成物は、モリブデン含有摩擦調整剤を含有することができる。モリブデン含有摩擦調整剤は、公知のモリブデン含有摩擦調整剤又は公知のモリブデン含有摩擦調整剤組成物のいずれか1種であってもよい。
【0087】
好ましいモリブデン含有摩擦調整剤は、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバマート、硫化オキシモリブデンジチオホスファート、アミン-モリブデン錯体化合物、オキシモリブデンジエチラートアミド、及びオキシモリブデンモノグリセリドである。最も好ましいのは、モリブデンジチオカルバマート摩擦調整剤である。
【0088】
本発明の潤滑油組成物は、一般的に、モリブデン含量に関して0.01~0.15重量%の量のモリブデン含有摩擦調整剤を含有する。
【0089】
本発明の潤滑油組成物は、好ましくは、0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%の量の有機抗酸化剤を含有する。抗酸化剤は、ヒンダードフェノール系抗酸化剤又はジアリールアミン抗酸化剤であってもよい。ジアリールアミン抗酸化剤は、窒素原子が起源の基本数が得られる点で有利である。ヒンダードフェノール系抗酸化剤は、NOxガスを産生しない点で有利である。ヒンダードフェノール系抗酸化剤の例としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、オクチル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、及びオクチル3-(3,54-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオナート、並びに、これらに限定されないがIrganox L135(登録商標)(BASF)、Naugalube 531(登録商標)(Chemtura)、及びEthanox 376(登録商標)(SI Group)等の市販製品が挙げられる。
【0090】
ジアリールアミン系抗酸化剤の例としては、3~9個の炭素原子のアルキル基の混合物を有するアルキルジフェニルアミン、p,p-ジオクチルジフェニルアミン、フェニル-ナフチルアミン、フェニル-ナフチルアミン、アルキル化ナルチルアミン、及びアルキル化フェニル-ナフチルアミンが挙げられる。ジアリールアミン系抗酸化剤は、1~3つのアルキル基を有することができる。
【0091】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤及びジアリールアミン系抗酸化剤それぞれは、単独で又は組み合わせて用いることができる。所望に応じて、他の油溶性抗酸化剤を上記の抗酸化剤(単数又は複数)と組み合わせて用いてもよい。
【0092】
本発明の潤滑油組成物は、スクシンイミドのオキシモリブデン錯体、特にスクインイミドの硫黄含有オキシモリブデン錯体を更に含有することができる。スクシンイミドの硫黄含有オキシモリブデン錯体は、上記のフェノール系又はアミン系抗酸化剤と組み合わせて使用すると、酸化阻害率を高めることができる。
【0093】
潤滑油配合物の調製において、炭化水素油、例えば鉱油系潤滑油又はその他の好適な溶媒中に10~80重量%の活性成分が含まれる濃縮物の形態で添加剤を導入することが慣例である。
【0094】
通常、これらの濃縮物は、完成潤滑油、例えばクランク室モーター油の形成において、添加剤パッケージ1重量部当たり3~100重量部、例えば5~40重量部の潤滑油で希釈してもよい。当然ながら、濃縮物の目的は、様々な材料の取扱いの困難さ及び煩わしさを減らし、最終ブレンドの溶解又は分散を容易にすることである。
【0095】
潤滑油組成物の調製方法
本明細書で開示する潤滑油組成物は、潤滑油を製造する当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。幾つかの実施形態において、基油を本明細書に記載のマンガン含有化合物とブレンド又は混合してもよい。
【0096】
任意選択により、マンガン含有化合物に加えて1種又は複数の他の添加剤を添加してもよい。マンガン含有化合物及び任意選択の添加剤は、個別に又は同時に基油に添加することができる。幾つかの実施形態において、マンガン含有化合物及び任意選択の添加剤は、1回又は複数回の添加で個別に基油に添加し、添加は任意の順序でよい。他の実施形態において、マンガン含有化合物及び添加剤は、任意選択により添加剤濃縮物の形態で、同時に基油へ添加する。幾つかの実施形態において、マンガン含有化合物又は任意の固体添加剤の基油への可溶化は、混合物を約25℃~約200℃、約50℃~約150℃、又は約75℃~約125℃の温度まで加熱することによって助けることができる。
【0097】
当業者に公知の任意の混合又は分散装置を、成分のブレンド、混合又は可溶化に使用してよい。ブレンド、混合又は可溶化は、ブレンダー、撹拌機、分散機、ミキサー(例えばプラネタリー型ミキサー及びダブルプラネタリー型ミキサー)、ホモジナイザー(例えば、Gaulinホモジナイザー及びRannieホモジナイザー)、ミル(例えば、コロイドミル、ボールミル及びサンドミル)又は当該技術分野で公知の他の任意の混合又は分散装置を用いて実施することができる。
【0098】
潤滑油組成物の用途
本明細書で開示する潤滑油組成物は、火花点火式内燃エンジン、特に低速早期点火の影響を受けやすいブースト直噴エンジンにおけるモーター油(すなわち、エンジン油又はクランクケース油)としての使用に好適であり得る。
【0099】
以下の例は、本発明の実施形態を例証するために提示するものであり、記載する具体的な実施形態に本発明が限定されることを意図しない。そうでないと示されていない限り、全ての部及びパーセンテージは重量による。全ての数値は概算値である。数値範囲が挙げられる場合、指定の範囲外の実施形態も本発明の範囲内に含まれることが理解されるべきである。各例に記載される具体的な詳細は、本発明の必須の特徴として解釈すべきではない。
【実施例
【0100】
以下の例は、例示目的のみを意図したものであり、本発明の範囲を限定するものでは決してない。
【0101】
基準調合物
基準調合物は、グループ2の基油、814~887ppmのリンを潤滑油組成物に供給する量の一次及び二次ジアルキル亜鉛ジチオホスファートの混合物、ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤の混合物(ボラート処理し、炭酸エチレン後処理した)、179~187ppmのモリブデンを潤滑油組成物に供給する量のモリブデンスクシンイミド錯体、アルキル化ジフェニルアミン系抗酸化剤、ボラート摩擦調整剤、消泡剤、流動点降下剤、及びオレフィン共重合体粘度指数向上剤を含有していた。
【0102】
潤滑油組成物をブレンドして5W-30粘度等級の油を得た。
【0103】
マンガン化合物A
マンガン化合物Aは、化学式Mn(C15の2-エチルヘキサン酸マンガン(II)(6.01%Mn)である市販のマンガン化合物だった。
【0104】
マンガン化合物B
マンガン化合物Bは、以下の反応スキームで調製されたサリチル酸マンガンだった:
【化15】
【0105】
上記の置換サリチル酸(251.2g、0.56mol、2当量)を140mLのトルエンに溶解し、70℃に加熱した。透明なサリチラートのトルエン溶液が観察されたら、酢酸マンガン四水和物(68.4g、0.28mol、1当量)を反応混合物にゆっくり添加した。次いで反応混合物を4時間、加熱還流した。IRで反応を監視し、1659cm-1の置換サリチラートのカルボニル伸長が完全に消えたら、反応の完了と判断した。次いで反応混合物を周囲温度まで冷却し、減圧下で溶媒を除去した。結果として得られた生成物をICP-AESによって判定し、5.7重量%のMnを有すると決定した。
【0106】
(例1)
マンガン含有化合物A由来のマンガン987ppm及び過塩基性Caスルホナートとフェナート洗剤との組み合わせ由来のカルシウム2148ppmを基準調合物に添加することによって潤滑油組成物を調製した。
【0107】
(例2)
マンガン含有化合物A由来のマンガン1001ppm及び過塩基性Caスルホナートとフェナート洗剤との組み合わせ由来のカルシウム1892ppmを基準調合物に添加することによって潤滑油組成物を調製した。
【0108】
(例3)
マンガン含有化合物B由来のマンガン923ppm及び過塩基性Caスルホナートとフェナート洗剤との組み合わせ由来のカルシウム2141ppmを基準調合物に添加することによって潤滑油組成物を調製した。
【0109】
(比較例1)
過塩基性Caスルホナートとフェナート洗剤との組み合わせ由来のカルシウム(2255ppm)を基準調合物に添加することによって潤滑油組成物を調製した。
【0110】
LSPI試験
低速早期点火事象は、Ford2.0L Ecoboostエンジンで測定した。このエンジンは、ターボチャージャー付き直噴(GDI)ガソリンエンジンである。
【0111】
Ford Ecoboostエンジンは、およそ4時間の4回反復で稼働される。エンジンは、油だめ温度を95℃とし、1750rpm及び1.7MPaの正味平均有効圧(BMEP)で稼働される。エンジンを段階ごとに175,000燃焼サイクル実行し、LSPI事象を計数する。
【0112】
LSPI事象は、ピーク筒内圧(PP)及び筒内に充填された燃料の質量燃焼割合(MFB)を監視することによって決定する。いずれかの又は両方の基準が満たされた場合に、LSPI事象が生じたと見なすことができる。ピーク筒内圧の閾値は試験によって変動するが、典型的には平均筒内圧より高い4~5の標準偏差である。同様に、MFB閾値は、典型的には平均MFB(クランク角度で表す)より早い4~5の標準偏差である。LSPI事象は、試験1回当たりの平均事象数、100,000燃焼サイクル当たりの事象数、1サイクル当たりの事象数、及び/又は1事象当たりの燃焼サイクル数として報告され得る。この試験の結果を以下に示す。
【表1】
【0113】
データは、Fordエンジン内にマンガンを含まない比較例と比較して、マンガンを含む本出願者による本発明の例が、事象の数及び更には重度のLSPI事象の数の両方の面で有意により良好なLSPI性能をもたらしたことを示す。エンジンを損傷し得る高圧事象(すなわち、120バール超)の数を減らすことによって重度が低減される。