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特許7329599耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材およびその製造方法
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  • 特許-耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20230810BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230810BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230810BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/08
C09D7/61
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021529931
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021999
(87)【国際公開番号】W WO2021002139
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019124248
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】引地 康人
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩章
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-279488(JP,A)
【文献】特開2013-018899(JP,A)
【文献】特開2019-006982(JP,A)
【文献】国際公開第2005/080515(WO,A1)
【文献】特開昭56-109260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/00
B05D 5/00,7/24
B32B 27/00,27/18,27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱塗料組成物であって、
前記耐熱塗料組成物が、シロキサン系バインダー(A)、アルミニウム粉(B)、および、リン酸マグネシウム系化合物を含有する防錆顔料(C)を含
前記シロキサン系バインダー(A)が、シリコーンレジン(A1)、シリコーンオリゴマー(A2)およびエチルシリケート(A3)を含有し、
前記シリコーンレジン(A1)が、前記エチルシリケート(A3)以外の化合物であり、かつ、重量平均分子量が15,000以上の化合物であり、
前記シリコーンオリゴマー(A2)が、前記エチルシリケート(A3)以外の化合物であり、かつ、重量平均分子量が15,000未満の化合物であり、
前記アルミニウム粉(B)の含有量が、前記耐熱塗料組成物の固形分100質量%に対し、10質量%以上であり、
前記防錆顔料(C)が、さらにリン酸亜鉛系化合物を含有する、
耐熱塗料組成物。
【請求項2】
さらに硬化促進剤(D)を含む、請求項1に記載の耐熱塗料組成物。
【請求項3】
顔料容積濃度が25~55%である、請求項1または2に記載の耐熱塗料組成物。
【請求項4】
請求項1~の何れか1項に記載の耐熱塗料組成物から形成された耐熱塗膜。
【請求項5】
基材と請求項に記載の耐熱塗膜とを含む耐熱塗膜付き基材。
【請求項6】
下記工程[1]および[2]を含む、耐熱塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、請求項1~の何れか1項に記載の耐熱塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された耐熱塗料組成物を乾燥させて耐熱塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材またはその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント構造物等の配管には、外気への放熱や外気からの吸熱を防ぎ、エネルギーロスを抑制するため、配管(鋼管)の周りに保温材を設置することが多い。しかし、前記保温材と鋼(例:炭素鋼、低合金鋼)管との隙間に侵入した雨水や、当該箇所で凝集した水分が、鋼管表面に水膜を形成し、保温材下腐食(CUI:Corrosion Under Insulation)を生じることがある。該CUIは、前記水膜に起因して、鋼管表面に腐食電池を形成することで、局所的な腐食浸食が発生することをいう。その腐食速度は、屋外大気中で発生する全面腐食より速いため、プラント構造物の保守管理において大きな問題となっている。
【0003】
さらに、前記CUIは、腐食浸食箇所が保温材下である(保温材で囲まれている)ため、一度侵入した水分が留まり易く、湿潤状態が長期にわたって維持されること、プラントの運転条件によっては、配管が高温に曝されることがあるため、酸化反応である腐食の進行が促進されること、また、プラント構造物は腐食因子となりうる海塩粒子が豊富な海浜地域に設けられることが多いため、該海塩粒子が腐食の進行を促進すること等に起因して、前記腐食浸食が深刻化し易いことも問題となっている。
【0004】
そこで、前記腐食等を防ぐことを目的として、プラント構造物等に用いられる配管には、その外面に防食塗膜(耐熱塗膜)が設けられている。この防食塗膜は、保温材下のみならず、前記と同様の腐食等を防ぐことを目的として、配管外面の保温材が施されていない部分にも設けられている。このような配管外面、特に保温材が施されていない部分に設けられる防食塗膜は、その意匠性等の点から、シルバー色の防食塗膜(メタリック塗膜)が好まれて使用されている。
【0005】
また、プラント構造物等に用いられる配管は、そのプラント等の運転条件によって、様々な温度環境に曝されるため、該配管に用いられる防食塗膜(耐熱塗膜)に求められる耐熱温度や耐加熱冷却サイクル条件も広範囲にわたっており、例えば、-198℃から500℃以上にわたる広い温度範囲での耐性が要求されることもある。
【0006】
耐熱性と防食性を有するメタリック塗膜を形成可能な組成物として、特許文献1には、ポリシロキサン、チタン酸アルキル、タルク、アルミニウム片を含むコーティング組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-522388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
メタリック塗膜を形成する塗料組成物には、通常、アルミニウム顔料が用いられるが、本発明者が鋭意検討したところ、アルミニウム顔料を含む従来の塗料組成物から形成した防食塗膜は、防食性が十分でない場合があることが分かった。配管上に塗膜(メタリック塗膜)を形成する際に、配管の種類や用途によっては、十分に加熱硬化させることができない場合があるが、このような場合に、特に、防食性が十分でないことが分かった。
【0009】
なお、鋼管等の各部材に対して耐熱塗膜を形成する場合、加熱乾燥(焼付)することは可能である場合もあるが、工程数の増加、および、加熱のためのエネルギー等により製造コストが増加する。したがって、常温(5~40℃)乾燥により塗膜を形成しても、要求される十分な防食性等の塗膜性能を有する耐熱塗膜を形成可能な塗料組成物が求められている。
【0010】
また、500℃以上の超高温に曝され得るプラント構造物等の配管の外面に形成される耐熱塗膜が膜厚100μm以上の厚膜である場合、該耐熱塗膜は、高温の温度環境、温度変化の繰り返しによって、膨れやクラックが発生しやすい。より具体的には、耐熱塗膜が高温に曝されることで、該塗膜中の残留溶剤の揮発、および、該塗膜を構成するシリコーンレジン成分の反応・分解等で生じるガスによる膨れ、また、該シリコーンレジン成分の反応・分解等による塗膜の内部応力が増大することに起因したクラックが生じることがある。これらの塗膜欠陥は、特に、厚膜に塗装された場合に生じやすいため、従来のシリコーンレジン系耐熱塗料から得られる耐熱塗膜の膜厚は、80μm未満であることが通常であり、100μm以上の厚膜の塗装仕様とすることは困難であった。
しかしながら、プラント構造物等の配管において、CUIが保守管理上の大きな問題となっており、その厳しい腐食環境に対して、前述のような80μm未満の薄膜では、長期の防食性を維持できないことが分かった。
【0011】
本発明の一実施形態は、塗膜を形成する際に加熱しなくても優れた防食性を示し、高温下を含む幅広い温度下でも、十分な耐熱性、防食性および基材への密着性を維持できる耐熱塗膜(メタリック塗膜)を形成可能な耐熱塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下の構成例によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0013】
<1> シロキサン系バインダー(A)、アルミニウム粉(B)、および、リン酸マグネシウム系化合物を含有する防錆顔料(C)を含む、耐熱塗料組成物。
<2> 前記防錆顔料(C)が、さらにリン酸亜鉛系化合物を含有する、<1>に記載の耐熱塗料組成物。
【0014】
<3> さらに硬化促進剤(D)を含む、<1>または<2>に記載の耐熱塗料組成物。
【0015】
<4> 顔料容積濃度(PVC)が25~55%である、<1>~<3>の何れかに記載の耐熱塗料組成物。
【0016】
<5> <1>~<4>の何れかに記載の耐熱塗料組成物から形成された耐熱塗膜。
<6> 基材と<5>に記載の耐熱塗膜とを含む耐熱塗膜付き基材。
<7> 下記工程[1]および[2]を含む、耐熱塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、<1>~<4>の何れかに記載の耐熱塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された耐熱塗料組成物を乾燥させて耐熱塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、塗膜を形成する際に加熱しなくても優れた防食性を示し、高温(例:500℃以上)下を含む幅広い温度下でも、十分な耐熱性、防食性および基材への密着性を維持できる耐熱塗膜(メタリック塗膜)を形成可能な耐熱塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例における防食性評価に用いた、スクライブを入れた試験片の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪耐熱塗料組成物≫
本発明の一実施形態に係る耐熱塗料組成物(以下単に「本組成物」ともいう。)は、シロキサン系バインダー(A)、アルミニウム粉(B)、および、リン酸マグネシウム系化合物を含有する防錆顔料(C)を含む。
本組成物は、前記(B)とともに前記(A)および(C)を含有するため、アルミニウム粉を含むメタリック塗料組成物でありながら、常温乾燥により塗膜を形成しても十分な防食性を有する耐熱塗膜を得ることができ、また、本組成物によれば、乾燥膜厚が100μm以上の厚膜であり、かつ、500℃を超える高温環境に晒された後でも、防食性および基材に対する密着性を維持できる耐熱塗膜を得ることができる。
【0020】
また、本組成物によれば、特に、炭素鋼と比較して線膨張係数の大きい、400℃以上の高温環境に曝されることが想定される場合に適用されるステンレス鋼(例:SUS304、SUS316L等)等との密着性が良好な耐熱塗膜を形成することができる。
このため、本組成物は、種々の温度条件での運転が想定される、また保温材の設置がなされる、プラント構造物用等の配管外面に好適に用いられ、CUIの抑制に適した耐熱/防食塗膜を形成可能な塗料として好適に用いられる。
【0021】
本組成物は、前記(A)~(C)を含有すれば特に制限されず、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、前記(A)~(C)以外のその他の添加剤、例えば、硬化促進剤(D)、前記(B)および(C)以外の顔料、分散剤、消泡剤、タレ止め・沈降防止剤、脱水剤、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0022】
本組成物は、1成分型の組成物であっても、2成分型以上の組成物であってもよい。
本組成物は、常温乾燥でも防食性に優れる耐熱塗膜を容易に得ることができる等の点から、硬化促進剤(D)を含むことが好ましく、この場合、前記(A)~(C)を含有する主剤成分と、硬化促進剤(D)を含有する成分とからなる2成分型の組成物とすることが好ましい。
本組成物が2成分型以上の組成物である場合、該組成物に用いる各成分は、通常、それぞれ別個の容器にて保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に混合して用いられる。
【0023】
<シロキサン系バインダー(A)>
前記シロキサン系バインダー(A)としては、シロキサン結合を有する化合物であれば特に制限されない。該シロキサン系バインダー(A)は、シロキサン系結合剤でもある。
本組成物では、バインダーとしてシロキサン系バインダー(A)を用いるため、特に耐熱性に優れる耐熱塗膜を得ることができる。
本組成物中に含まれるシロキサン系バインダー(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0024】
シロキサン系バインダー(A)としては、例えば、分子中にシロキサン結合を介して反応性基を有し、該反応性基が互いに反応することで、高分子量化または三次元架橋構造を形成し、硬化する化合物が挙げられる。
なお、前記反応としては、例えば、縮合反応および付加反応が挙げられ、縮合反応としては、脱水反応、脱アルコール反応等が挙げられる。
【0025】
シロキサン系バインダー(A)は、例えば、下記式(I)で示される化合物であることが好ましく、下記シリコーンレジン(A1)、シリコーンオリゴマー(A2)および/またはエチルシリケート(A3)を含有することが好ましい。
特に、本組成物は、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、シロキサンバインダー(A)として、シリコーンレジン(A1)を含有することが好ましく、塗料性状や塗膜性能の調整を目的として、より重量平均分子量が低いシリコーンオリゴマー(A2)およびエチルシリケート(A3)と組み合わせて用いることがより好ましい。
シロキサン系バインダー(A)は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【0026】
【化1】
(式(I)中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~8のアリール基または-OR(Rは炭素数1~8の炭化水素基)を示し、R2はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~8のアリール基または水素原子を示す。また、nは繰り返し数を示し、シロキサン系バインダーの重量平均分子量が200~300,000の範囲となるように選択される。)
【0027】
前記R1およびR2における炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられる。
前記R1およびR2における炭素数6~8のアリール基は、芳香環上にアルキル基等の置換基を有する基であってもよく、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基が挙げられる。
前記R1における-ORとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基が挙げられる。
【0028】
シロキサン系バインダー(A)の、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(以下単に「Mw」ともいう。)は、好ましくは200以上、より好ましくは400以上であり、好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下である。
該Mwは、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0029】
シロキサン系バインダー(A)の含有量は、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、特に好ましくは35質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、特に好ましくは50質量%以下である。
【0030】
〈シリコーンレジン(A1)〉
前記シリコーンレジン(A1)は、後述するエチルシリケート(A3)以外の化合物であれば特に制限されないが、前記式(I)で表される化合物であることが好ましく、式(I)におけるR1がメチル基、エチル基、プロピル基またはフェニル基である化合物がより好ましく、また、式(I)におけるR2がメチル基、エチル基、フェニル基または水素原子である化合物がより好ましい。
本組成物がシリコーンレジン(A1)を含有する場合、該シリコーンレジン(A1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0031】
シリコーンレジン(A1)は、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等の耐熱性を有する樹脂であることが好ましく、下記、ジメチルシロキサン単位(a1)、ジフェニルシロキサン単位(a2)、モノメチルシロキサン単位(a3)、モノプロピルシロキサン単位(a4)およびモノフェニルシロキサン単位(a5)からなる群より選択される1種以上の構成単位を含有することがより好ましい。
【0032】
【化2】
(式(a1)~(a5)中、Si-O-における、Oに結合し、Siに結合していない「-」は、結合手を示し、Si-O-は、必ずしもSi-O-CH3を示すわけではない。)
【0033】
シリコーンレジン(A1)のMwは、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、15,000以上であり、好ましくは18,000以上であり、300,000以下であり、好ましくは200,000以下である。
Mwが前記範囲より大きいシリコーンレジン(A1)は、粘度が高いため、取り扱い性を考慮した場合、このようなシリコーンレジン(A1)を含む本組成物の粘度を下げるために、有機溶剤等による希釈が必要となる場合が多い。この結果、本組成物中の溶剤分が増加することとなり、本組成物中のVOC(Volatile Organic Compounds/揮発性有機化合物)を低減できない場合がある。
【0034】
シリコーンレジン(A1)は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、「SILRES REN60」、「SILRES REN80」(いずれも旭化成ワッカーシリコーン(株)製)、「SILIKOPHEN P80/X」(Evonik社製)が挙げられる。
【0035】
本組成物がシリコーンレジン(A1)を含有する場合、該シリコーンレジン(A1)の含有量は、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、特に好ましくは25質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、特に好ましくは42質量%以下である。
【0036】
〈シリコーンオリゴマー(A2)〉
前記シリコーンオリゴマー(A2)は、後述するエチルシリケート(A3)以外の化合物であれば特に制限されないが、前記シリコーンレジン(A1)の欄で挙げた構造と同様の構造を有する化合物であることが好ましい。
シリコーンオリゴマー(A2)のMwは、15,000未満であり、好ましくは400以上であり、好ましくは12,000以下である。
本組成物がシリコーンオリゴマー(A2)を含有する場合、該シリコーンオリゴマー(A2)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0037】
シリコーンオリゴマー(A2)は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、「SILRES MSE100」(旭化成ワッカーシリコーン(株)製)、「KR-401N」(信越化学工業(株)製)が挙げられる。
【0038】
本組成物がシリコーンオリゴマー(A2)を含有する場合、該シリコーンオリゴマー(A2)の含有量は、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0039】
〈エチルシリケート(A3)〉
前記エチルシリケート(A3)は、エトキシ基を有するシロキサンで構成される化合物であって、下記式(II)で表される。
本組成物がエチルシリケート(A3)を含有する場合、該エチルシリケート(A3)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0040】
【化3】
(式(II)中、nは1~10である。)
【0041】
エチルシリケート(A3)は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、五量体を中心とする分子量分布を持つオリゴマーである「エチルシリケート 40」(コルコート(株)製)、「Wacker Silicate TES 40WN」(旭化成ワッカーシリコーン(株)製)が挙げられる。
【0042】
本組成物がエチルシリケート(A3)を含有する場合、該エチルシリケート(A3)の含有量は、塗装作業性、低価格化および貯蔵中の脱水効果に優れる塗料組成物を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0043】
本組成物が、前記(A1)および/または(A2)、ならびに、(A3)を含む場合、本組成物における、シリコーンレジン(A1)およびシリコーンオリゴマー(A2)の合計含有量と、エチルシリケート(A3)の含有量との割合(A1+A2:A3)は、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは95:5~60:40である。
【0044】
また、本組成物が、前記(A1)、ならびに、(A2)および/または(A3)を含む場合、本組成物における、シリコーンレジン(A1)の含有量と、シリコーンオリゴマー(A2)およびエチルシリケート(A3)の合計含有量との割合(A1:A2+A3)は、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは90:10~30:70であり、より好ましくは90:10~40:60である。
【0045】
<アルミニウム粉(B)>
前記アルミニウム粉(B)としては特に制限されず、鱗片状アルミニウム粉であってもよく、鱗片状以外の非鱗片状アルミニウム粉であってもよいが、よりメタリック調の耐熱塗膜を容易に得ることができる等の点から、鱗片状アルミニウム粉が好ましい。また、鱗片状アルミニウム粉を用いることで、耐塩水性および耐湿性等により優れる防食塗膜を形成することもできる。
また、本組成物を調製する際の原料として、粉末状のみならず、ペースト状のアルミニウムを用いてもよい。
本組成物中に含まれるアルミニウム粉(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0046】
前記「鱗片状」とは、形状が鱗片の形を成しているものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、通常、そのアスペクト比は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上であり、好ましくは150以下、より好ましくは120以下である。
また、前記「非鱗片状」とは、形状が球形、涙滴形、紡錘形等の鱗片状以外の形状を有しているものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、通常、そのアスペクト比は、好ましくは5未満であり、より好ましくは1以上であり、より好ましくは3以下である。
【0047】
前記アスペクト比は電子顕微鏡を用いて測定することができる。走査電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL-30」(商品名;フィリップス社製)を用いてアルミニウム粉を観察し、数10~数100個の粉末粒子の厚みと主面における最大長さ(または、長軸の長さと短軸の長さ)とを測定し、これらの比(主面における最大長さ/厚み、または、長軸の長さ/短軸の長さ)の平均値を求めることで算出できる。
なお、前記アルミニウム粉の厚みは、該粉末の主面(最も面積の大きい面)に対して水平方向から観察することで測定することができ、また、前記アルミニウム粉の主面における最大長さは、例えば、主面が四角形状であれば対角線の長さ、主面が円状であれば直径、主面が楕円状であれば長軸の長さのことを意味する。前記アルミニウム粉の長軸の長さは、具体的には、該粉末の中心付近の断面図における最も長い長さであり、前記アルミニウム粉の短軸の長さは、前記断面図において、該断面図の中心で前記長軸と直交する線の長さである。
【0048】
より防食性に優れる塗膜を得ることができる等の点から、前記鱗片状アルミニウム粉のメジアン径(D50)は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは5μm以上であり、より好ましくは70μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
低VOC量で塗装作業性に優れる組成物を得ることができる等の点から、前記非鱗片状アルミニウム粉のメジアン径(D50)は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは5μm以上であり、より好ましくは30μm以下、特に好ましくは15μm以下である。
前記D50は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば、「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて3回測定した平均値である。
【0049】
前記鱗片状アルミニウム粉は、リーフィングタイプでもよく、ノンリーフィングタイプでもよいが、塗膜の変質や基材との密着性の低下を抑制できる等の点から、リーフィングタイプを用いることが好ましい。また、前記鱗片状アルミニウム粉を用いる場合、リーフィングタイプとノンリーフィングタイプとを併用してもよい。
【0050】
前記非鱗片状アルミニウム粉は、アトマイズ法(噴霧法)により製造されるアルミニウム粉末であることが好ましい。
【0051】
本組成物中のアルミニウム粉(B)の含有量は、防食性および基材との密着性により優れるメタリック調の塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0052】
<防錆顔料(C)>
前記防錆顔料(C)は、リン酸マグネシウム系化合物を含有すれば特に制限されない。
本発明者が鋭意検討したところ、防錆顔料の中でも、リン酸マグネシウム系化合物を用いた場合に初めて、常温乾燥で塗膜を形成する場合にも、アルミニウム粉含有のメタリック塗料から防食性に優れる耐熱塗膜を形成できることを見出した。
本組成物中に含まれる防錆顔料(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。つまり、本組成物は、2種以上のリン酸マグネシウム系化合物を含有していてもよい。
【0053】
前記リン酸マグネシウム系化合物としては、例えば、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム、リン酸マグネシウム・コバルト、リン酸マグネシウム・ニッケル、リン酸マグネシウム・亜鉛、リン酸マグネシウム・アルミニウム、シリカ変性リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム・アルミニウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、ポリリン酸マグネシウム、トリポリリン酸マグネシウム、メタリン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウムが挙げられる。
【0054】
基材との密着性により優れる耐熱塗膜を容易に得ることができる等の点から、防錆顔料(C)は、前記リン酸マグネシウム系化合物とともに、リン酸亜鉛系化合物(リン酸マグネシウム系化合物以外の化合物)を含有することが好ましい。
該リン酸亜鉛系化合物としては、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸亜鉛、メタリン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛が挙げられる。
【0055】
防錆顔料(C)としては、さらに、リン酸マグネシウム系化合物およびリン酸亜鉛系化合物以外のその他の防錆顔料を用いてもよく、該その他の防錆顔料としては、例えば、亜鉛粉末、亜鉛合金粉末、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、モリブデン酸亜鉛系化合物、モリブデン酸アルミニウム系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物、複合酸化物が挙げられる。
【0056】
防錆顔料(C)の、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SALD-2200)を用いて測定されるD50は、防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。
【0057】
防錆顔料(C)は、市販品でもよく、リン酸マグネシウム系化合物含有の市販品としては、例えば、Pigmentan E(Banner Chemicals Group UK社製)、LFボウセイ MPZ-500、LFボウセイ PMG(以上、キクチカラー(株)製)、NP-1802、NP-1902(以上、東邦顔料工業(株)製)が挙げられ、リン酸亜鉛系化合物含有の市販品としては、例えば、LFボウセイ ZP-N(キクチカラー(株)製)が挙げられる。
【0058】
本組成物中の防錆顔料(C)の含有量は、防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0059】
本組成物中のリン酸マグネシウム系化合物の含有量は、常温乾燥でも防食性に優れる耐熱塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0060】
本組成物がリン酸マグネシウム系化合物およびリン酸亜鉛系化合物を併有する場合、基材との密着性により優れる耐熱塗膜を容易に得ることができる等の点から、リン酸マグネシウム系化合物およびリン酸亜鉛系化合物の合計含有量は、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
また、基材との密着性により優れる耐熱塗膜を容易に得ることができる等の点から、リン酸亜鉛系化合物の含有量100質量部に対するリン酸マグネシウム系化合物の含有量は、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。
【0061】
本組成物中のアルミニウム粉(B)の含有量は、防食性、基材との密着性、塗膜強度等にバランスよく優れるメタリック調の塗膜を容易に得ることができる等の点から、アルミニウム粉(B)と防錆顔料(C)との合計含有量100質量%に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは80質量%以下である。
【0062】
本組成物中のリン酸マグネシウム系化合物の含有量は、常温乾燥でも防食性に優れるメタリック調の耐熱塗膜を容易に形成できる等の点から、アルミニウム粉(B)とリン酸マグネシウム系化合物との合計含有量100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
【0063】
本組成物がリン酸亜鉛系化合物を含有する場合、本組成物中のリン酸亜鉛系化合物の含有量は、基材との密着性により優れるメタリック調の耐熱塗膜を容易に得ることができる等の点から、アルミニウム粉(B)とリン酸亜鉛系化合物との合計含有量100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
【0064】
<硬化促進剤(D)>
前記硬化促進剤(D)としては特に制限されないが、前記シロキサンバインダー(A)の架橋反応を促進する効果を有する材料であることが好ましく、例えば、アミノシラン;チタンアルコキシド、チタンキレート等のチタン系硬化触媒;アルミニウムの金属石鹸等のアルミニウム系硬化触媒;亜鉛の金属石鹸等の亜鉛系硬化触媒;リン酸、リン酸エステル等のリン酸系硬化触媒;ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート等のスズ系硬化触媒;2-エチルヘキサン酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等のビスマス系硬化触媒;デカン酸リチウム等のリチウム系硬化触媒が挙げられる。これらの中でも、本組成物を常温乾燥した際に、より防食性に優れる耐熱塗膜を容易に得ることができる等の点から、アミノシランが好ましい。また、アミノシランとアルコールとの混合物であることも好ましい。
【0065】
前記アミノシランとしては、アミノ基含有シランカップリング剤が好ましい。該シランカップリング剤としては特に制限されず、従来公知の化合物を用いることができるが、同一分子内に少なくとも2つの官能基を有し、基材に対する密着性の向上に寄与できる化合物であることが好ましく、例えば、式:「X-SiMen3-n」[nは0または1、Xは有機質との反応が可能なアミノ基を含む基(例:アミノ基、炭化水素基の一部がアミノ基で置換された基、または炭化水素基の一部がエーテル結合等で置換された基の一部がアミノ基で置換された基。)を示し、Meはメチル基であり、Yは加水分解性基(例:メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基)を示す。]で表される化合物であることがより好ましい。
【0066】
硬化促進剤(D)は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、リン酸系硬化触媒である「D-220」、「X-40-2309A」、チタン系硬化触媒である「D-25」、「D-20」、「DX-175」、アルミニウム系硬化触媒である「DX-9740」、「CAT-AC」、アミノシランである「KP-390」(アミノ基含有アルコキシシランのn-ブタノール溶液)、亜鉛系硬化触媒である「D-15」、「D-31」(いずれも信越化学工業(株)製)が挙げられる。
【0067】
本組成物が硬化促進剤(D)を含有する場合、該硬化促進剤(D)の含有量は、常温乾燥でも防食性に優れる耐熱塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0068】
<その他の添加剤>
本組成物は、前記(A)~(C)を含有すれば特に制限されず、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、前記(B)および(C)以外のその他の顔料(例:体質顔料、着色顔料)、分散剤、消泡剤、タレ止め・沈降防止剤、脱水剤、有機溶剤等のその他の添加剤を含んでいてもよい。
これらその他の添加剤は、それぞれ、1種でもよく、または2種以上でもよい。
【0069】
〈その他の顔料〉
前記体質顔料としては特に制限されないが、耐熱性を有する体質顔料であることが好ましく、例えば、タルク、シリカ、カリ長石、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、酸化アルミニウムが挙げられる。
本組成物が体質顔料を含有する場合、該体質顔料の含有量は、より防食性に優れる耐熱塗膜を容易に形成できる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0070】
前記着色顔料としては特に制限されないが、耐熱性を有する着色顔料であることが好ましく、例えば、Pigment Black 28(Copper chromite black spinel)、ステンレスフレーク、チタン白、カーボンブラック、弁柄が挙げられる。
【0071】
前記その他の顔料は、本組成物中の顔料容積濃度(PVC:Pigment Volume Concentration)が、下記範囲となるような量で用いることが好ましい。
本組成物中のPVCは、防食性により優れ、基材に対する密着性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、好ましくは55%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは45%以下、さらにより好ましくは43%以下、特に好ましくは40%以下である。
PVCが前記範囲を下回ると、形成される耐熱塗膜の防食性が低下する傾向にあり、形成される塗膜の基材に対する密着性も低下する傾向にある。また、PVCが前記範囲を上回ると、形成される耐熱塗膜の防食性が低下する傾向にある。
【0072】
前記PVCとは、本組成物中の固形分(不揮発分)の容積に対する、前記(B)、(C)およびその他の顔料等を含む、すべての顔料の合計の体積濃度のことをいい、具体的には下記式より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の容積合計×100/本組成物中の固形分の容積
【0073】
なお、本明細書において、本組成物の固形分は、JIS K 5601-1-2(加熱温度:125℃、加熱時間:60分)に従って得られる加熱残分を意味する。また、本組成物の固形分は、用いる原料における溶媒および前記有機溶剤を除いた量として算出することもできる。
【0074】
前記本組成物中の固形分の容積は、本組成物の固形分の質量および真密度から算出することができる。前記固形分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
前記顔料の容積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、本組成物の固形分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0075】
〈分散剤〉
前記分散剤としては特に制限されないが、前記(B)や(C)、その他の顔料を均一に分散させ、安定な分散体を調製することができる分散剤であることが好ましい。
前記分散剤は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、「Disperbyk-180」、「Disperbyk-2022」(いずれもビックケミー・ジャパン(株)製)が挙げられる。
【0076】
〈消泡剤〉
前記消泡剤としては特に制限されないが、本組成物の製造時や塗装時に泡の発生を抑えることができる材料、または、本組成物中に発生した泡を破泡することができる材料であることが好ましい。
前記消泡剤は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、「BYK-320」、「BYK-066N」、「BYK-1790」(いずれもビックケミー・ジャパン(株)製)が挙げられる。
【0077】
〈タレ止め・沈降防止剤〉
前記タレ止め・沈降防止剤は特に制限されないが、前記(B)や(C)、その他の顔料の沈降を抑制し、その貯蔵安定性を向上させることができる材料、または、塗装時や塗装後の塗料組成物のタレ止め性を向上させることができる材料であることが好ましい。
【0078】
タレ止め・沈降防止剤としては、例えば、アマイド系揺変剤、水添ヒマシ油系揺変剤、酸化ポリエチレン系揺変剤等の有機系揺変剤、ベントナイト等の粘土鉱物、合成微粉シリカ等の無機系揺変剤が挙げられ、これらの中でも、アマイド系揺変剤、酸化ポリエチレン系揺変剤、合成微粉シリカ、および、ベントナイト等の粘土鉱物が好ましい。
【0079】
特に、アマイド系揺変剤を含有することで、揺変性に優れ、該アマイド系揺変剤を含有する組成物によれば、1回の塗装で乾燥膜厚100μm以上の厚膜を容易に形成できるとともに、塗装対象の基材がSUS304、SUS316L等のようなステンレス鋼であっても、基材に対する密着性に優れ、かつ、400℃以上の高温環境に曝された後であっても、優れた密着性を維持する耐熱塗膜を容易に得ることができる。
前記アマイド系揺変剤としては、例えば、植物油脂肪酸およびアミンから合成される揺変剤が挙げられる。
【0080】
前記タレ止め・沈降防止剤は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、アマイド系揺変剤である、「ディスパロンA630-20X」、「ディスパロン6650」(いずれも楠本化成(株)製)、「A-S-A T-250F」(伊藤製油(株)製)、「フローノン RCM-300TL」(共栄社化学(株)製)、有機変性ベントナイト系粘性調整剤(ヘクトライト/第4級アミン)である「Bentone 38」(Elementis Specialties Inc.製)、二酸化ケイ素系揺変剤である「Aerosil R972」(日本アエロジル(株)製)、酸化ポリエチレン系揺変剤である「A-S-A D-120」(伊藤製油(株)製)が挙げられる。
【0081】
本組成物がタレ止め・沈降防止剤を含有する場合、該タレ止め・沈降防止剤の含有量は、本組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1~10質量%である。
【0082】
〈有機溶剤〉
本組成物を、プラント運転中の高温状態にあるプラント構造物、特に配管外面等の基材などに施工する場合、基材表面の熱で有機溶剤分が揮発しやすく、良好な塗膜の形成が困難となりやすい。このため、前記有機溶剤としては、比較的高沸点の有機溶剤を含むことが好ましい。このような高沸点有機溶剤としては、例えば、ミネラルスピリット(ターペン)、イソプロピルアルコールが挙げられる。その他として、通常塗料に使用される溶剤類も適用できる。このような有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、n-ブタノールが挙げられる。
【0083】
≪耐熱塗膜および耐熱塗膜付き基材≫
本発明の一実施形態に係る耐熱塗膜(以下「本耐熱塗膜」ともいう。)は、前述した本組成物より形成され、本発明の一実施形態に係る耐熱塗膜付き基材は、本耐熱塗膜と基材とを含む積層体である。
【0084】
前記基材としては特に制限されず、例えば、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、合金鋼等)、非鉄金属(アルミニウム等)、ステンレスからなる金属基材、および表面がショッププライマー等で被覆された金属基材が挙げられる。また、前記基材としては、プラント構造物、陸上構造物、海洋構造物、船舶等が挙げられるが、本発明の効果がより発揮される等の点から、好ましくはプラント構造物であり、プラント構造物の中でもプラント配管がより好ましい。前記基材としては、特に、プラント配管や船舶、海洋構造物に使用される炭素鋼、または、耐冷・耐熱性を要する部位に好適に用いられるSUS304、SUS316L等のステンレス鋼がより好ましい。
【0085】
本耐熱塗膜の膜厚は、基材を防食できる程度の厚みがあれば、特に制限されないが、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上、特に好ましくは150μm以上であり、好ましくは400μm以下、より好ましくは280μm以下である。
本組成物を用いるため、このような膜厚の塗膜を基材上に形成しても、該塗膜に膨れやクラックが発生し難く、特に、500℃以上の高温や急激な温度変化に曝された場合でも、膨れやクラックが発生し難いため、長期にわたって基材を防食することができる。
なお、防食性を考慮すれば、より厚膜が望ましいが、過剰な厚膜の場合、加熱により該塗膜に含まれる残留溶剤等が揮発することで塗膜に膨れが発生したり、シロキサン系バインダー(A)や該バインダー由来の成分の反応や分解による構造変化で生じる塗膜内部応力の増大と、それに伴うクラックや剥離が発生しやすくなる傾向にある。
【0086】
本耐熱塗膜は、前述した本組成物より形成され、具体的には、下記工程[1]および[2]を含む工程を経ることで製造することができる。
[1]基材に、本組成物を塗装する工程
[2]基材上に塗装された耐熱塗料組成物を乾燥させて耐熱塗膜を形成する工程
【0087】
さらに、本方法は、下記工程[3]を含むことで、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を形成することができる。
[3]前記工程[2]で得られた耐熱塗膜を加熱する工程
【0088】
<工程[1]>
本組成物を基材上に塗装する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用可能であり、通常用いられるエアレススプレー塗装、エアースプレー塗装、刷毛塗り、ローラー塗装等が好ましい。作業性や生産性等に優れ、大面積の基材に対して容易に塗装でき、本発明の効果をより発揮できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
なお、本組成物が硬化促進剤を含む2成分型の組成物である場合、塗装直前に主剤成分と硬化促進剤を含む成分とを混合し、スプレー塗装などを行うことが好ましい。
【0089】
前記スプレー塗装の条件は、形成したい耐熱塗膜の厚さに応じて適宜調整すればよいが、例えばエアレススプレーの場合、1次(空気)圧:0.4~0.8MPa程度、2次(塗料)圧:10~26MPa程度、ガン移動速度:50~120cm/秒程度に塗装条件を設定すればよい。
この際に使用される本組成物の粘度はシンナー等で調整してもよく、その際の粘度はB型粘度計(「TVB-10M、東機産業(株)製)で測定した場合、23℃で1.8~2.5Pa・s程度が好ましい。前記シンナーとしては、本組成物中の成分を溶解または分散可能な有機溶剤であることが好ましく、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、n-ブタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤が挙げられる。用いるシンナーは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0090】
本組成物をプラント配管等に塗装する場合、プラントの運転を停止しない状態で、比較的高温の配管等に塗装することも可能であるが、この場合、スプレー塗装した塗料が基材表面で均一で平滑な塗膜になる前に固化し、ダスト状に塗装されやすくなる。これを抑制すること等を目的として、前記シンナーとして、高沸点有機溶剤を使用することができる。
【0091】
本組成物を基材上に塗装するに際し、基材上の錆、油脂、水分、塵埃、塩分等を除去するため、また、得られる耐熱塗膜の基材との密着性を向上させるために、必要により前記基材表面を処理(例えば、ブラスト処理(ISO8501-1 Sa2 1/2)、脱脂による油分、粉塵を除去する処理)等を行うことが好ましい。また、前記基材には、1次防錆を目的として、ショッププライマー等を塗装してもよい。
【0092】
前記膜厚の耐熱塗膜を形成する方法としては、1回の塗装で所望膜厚の塗膜を形成してもよいし、2回以上の塗装(2回以上塗り)で所望の膜厚の塗膜を形成してもよい。膜厚管理の観点、および、塗膜中の残留溶剤を考慮すると、2回以上の塗装で所望膜厚の塗膜を形成することが好ましい。
なお、2回の塗装(2回塗り)とは、工程[1]および[2]、必要により工程[3]を行った後、得られた塗膜上に、工程[1]および[2]、必要により工程[3]を行う方法のことをいい、3回以上の塗装は、さらに、一連の工程を繰り返す方法のことをいう。
【0093】
2回以上の塗装による塗膜形成を行う場合、例えば1回目に塗装を行う塗料・塗膜の色相と、次に塗装を行う塗料・塗膜の色相は異なることが好ましい。これは、塗装作業において、塗り忘れや膜厚不足などの判断を容易にするための措置である。また最終的な外面の色相を指定の色相に仕上げるために上塗り塗装を行ってもよい。
【0094】
<工程[2]>
本組成物は、常温で乾燥・硬化可能であり、このように、常温で乾燥・硬化させても、耐熱性および防食性に優れる耐熱塗膜を得ることができる。また、所望により、乾燥時間の短縮のため、加熱下で乾燥させてもよい。
前記乾燥条件としては特に制限されず、本組成物、基材、塗装場所等に応じて、適宜設定すればよい。乾燥温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。乾燥時間は、好ましくは18時間以上、より好ましくは24時間以上であり、好ましくは14日以下、より好ましくは7日以下である。
【0095】
<工程[3]>
前記工程[3]を行うことで、物理的、化学的により耐性のある耐熱塗膜を形成することができる。即ち、より塗膜硬度の高い、または、より防食性に優れる耐熱塗膜の形成が可能となる。
前記工程[3]おける加熱条件としては特に制限されないが、加熱温度は、好ましくは150~250℃であり、加熱時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上であり、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下である。
【実施例
【0096】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって制限されない。
【0097】
[実施例1~9および比較例1~2]
容器に、表1の主剤の欄に記載の各原材料を、表1に記載の量(質量部)で加え、ハイスピードディスパーにて撹拌し、均一に分散させることで、主剤成分を調製した。
なお、表1に記載の各成分の詳細は表2に示すとおりである。なお、表2中の各成分の固形分(質量%)は、メーカーカタログ値である。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
<密着性評価>
100質量部の調製した主剤成分と、1.5質量部の硬化促進剤であるKP-390とを混合することで、塗料組成物を得、得られた塗料組成物を、SS400 サンドブラスト(ISO8501-1 Sa2 1/2相当)鋼板上に、隙間700μmのフィルムアプリケーターを用いて乾燥膜厚が250μmとなるように塗装した。
鋼板上に塗装した塗料組成物を23℃で7日間乾燥させることで、試験片(塗膜付き基材)を作成した。さらに、塗料組成物を塗装していない部分の影響をなくすため、試験片の裏面およびエッジ部をエポキシ系防食塗料で塗装した試験片を用い、JIS Z 2371に従って、各試験片に対し、中性塩水噴霧試験(35℃)を3週間行った後、水洗し、次いで、温度23℃、湿度55%の環境下で1日乾燥させた試験片に対し、碁盤目テープ剥離試験(5mm×5mm、9マス)を行った。
【0101】
碁盤目テープ剥離試験は具体的には以下の通り行った。
前記乾燥後の試験片の塗膜に、カッターガイドを使用しながら鋼板に達する深さの、縦4本×横4本の切り傷をつけて9マスの碁盤目を作成した。なお、切り傷の間隔は5mmとした。次に、前記塗膜の碁盤目の部分に、セロテープ(登録商標)を強く圧着させ、該セロテープの端を塗膜面に対して90°の角度で一気に引き剥がした。その後、前記9マスの面積に対する、鋼板上に残存している塗膜の面積である、残存面積率(%)を算出し、残存面積率(%)の値により密着性を評価した。
残存面積率(%)が50%未満の場合を不良(×)とし、残存面積率(%)が50%以上の場合を密着性が良好(○)とした。
【0102】
<防食性評価>
下記(1)~(3)の通り試験片を作成し、それぞれの試験片を用いて、下記(4)の塩水噴霧試験を行い評価した。
【0103】
(1)未加熱試験片
100質量部の調製した主剤成分と、1.5質量部の硬化促進剤であるKP-390とを混合することで、塗料組成物を得、さらに、得られた塗料組成物を、前記B型粘度計を用いて測定した23℃下での粘度が2Pa・sとなるように、キシレンを用いて調整した。
粘度調整後の塗料組成物を、SS400 サンドブラスト(ISO8501-1 Sa2 1/2相当)鋼板上に、隙間700μmのフィルムアプリケーターを用いて乾燥膜厚が250μmとなるように塗装した。
その後、鋼板上に塗装した塗料組成物を23℃で7日間乾燥させることで、未加熱試験片(塗膜付き基材)を作成した。
【0104】
(2)ヒートサイクル試験片(300℃加熱+急冷)
前記(1)未加熱試験片と同様にして得られた試験片を電気オーブンに入れ、300℃で1.5時間加熱した後、オーブンから取り出し、直ちに氷水に10秒間浸漬して急冷した。その後、試験片を氷水から取り出し、室温で30分間放置した。この加熱および急冷を1サイクルとし、3サイクル実施することで、ヒートサイクル試験片を作成した。
【0105】
(3)ヒートレジスタンス試験片(550℃加熱)
前記(1)未加熱試験と同様にして得られた試験片をマッフル炉に入れ、550℃で4時間加熱した後、放冷することで、ヒートレジスタンス試験片を作成した。
【0106】
(4)塩水噴霧試験
前記(1)~(3)で作成したそれぞれの試験片の、図1に示す箇所に、一部鋼板が露出する程度の深さの傷(スクライブ)を入れ、さらに、塗料組成物を塗装していない部分の影響をなくすため、試験片の裏面およびエッジ部をエポキシ系防食塗料で塗装した試験片を用い、JIS Z 2371に従って、各試験片に対し、中性塩水噴霧試験(35℃)を3週間行い、評価対象部のクリープ幅(塗膜と鋼板とが剥離している部分のうち、スクライブ部から最も遠い箇所とスクライブ部との間の長さ)を計測し、下記評価基準に従って評価した。なお、ここで「評価対象部」とは、エポキシ系防食塗料の影響を考慮して、試験片の端部から1cmの範囲を除いた部分を示す。
【0107】
・評価基準
◎:評価対象部におけるクリープ幅が、5mm未満
○:評価対象部におけるクリープ幅が、5mm以上10mm未満
△:評価対象部におけるクリープ幅が、10mm以上20mm未満
×:評価対象部におけるクリープ幅が、20mm以上
【0108】
【表3】
図1