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特許7329600ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両
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  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図1
  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図2
  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図3
  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図4A
  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図4B
  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図5A
  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図5B
  • 特許-ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】ヘッドライト装置及び当該ヘッドライト装置を備える傾斜車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 6/023 20200101AFI20230810BHJP
【FI】
B62J6/023
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021530658
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026028
(87)【国際公開番号】W WO2021006176
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/026901
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】木村 有美
(72)【発明者】
【氏名】井上 武宏
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039051(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168249(WO,A1)
【文献】特開2016-064723(JP,A)
【文献】特開2018-020772(JP,A)
【文献】特開2017-123348(JP,A)
【文献】台湾実用新案登録第M489809(TW,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 6/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左方向に旋回するときには前記左方向に傾斜しかつ右方向に旋回するときには前記右方向に傾斜する車体を備える傾斜車両に用いられるヘッドライト装置であって、
前記車体に支持され、前記傾斜車両の前方に光を照射することにより、下照射エリア、前記下照射エリアの上に形成される上中央照射エリア、前記上中央照射エリアの左に形成される上左照射エリア、及び、前記上中央照射エリアの右に形成される上右照射エリアを形成できるように構成され、前記下照射エリア、前記上中央照射エリア、前記上左照射エリア及び前記上右照射エリアは、前記車体が傾斜する際、前記車体の傾斜とともに移動する、ヘッドライトと、
前記ヘッドライトによる光の照射が前記傾斜車両の乗員による操作なしで変化するように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記傾斜車両が直進しているときに、前記上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、前記上左照射エリアを形成し、前記上左照射エリア内に前記対向車及び/又は前記先行車が存在する場合には、前記上左照射エリア内に前記対向車及び前記先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも前記上左照射エリアの明るさを低下させるように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御し、
前記傾斜車両が前記左方向に旋回しているときに、前記上左照射エリア内に前記対向車及び前記先行車が存在しない場合には、前記上左照射エリアを形成し、前記上左照射エリア内に前記対向車及び/又は前記先行車が存在する場合には、少なくとも前記上左照射エリアの明るさを前記上左照射エリア内に前記対向車及び前記先行車が存在しない場合の明るさ維持するように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御し、
前記傾斜車両が直進しているときに、前記上右照射エリア内に前記対向車及び前記先行車が存在しない場合には、前記上右照射エリアを形成し、前記上右照射エリア内に前記対向車及び/又は前記先行車が存在する場合には、前記上右照射エリア内に前記対向車及び前記先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも前記上右照射エリアの明るさを低下させるように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御し、
前記傾斜車両が前記右方向に旋回しているときに、前記上右照射エリア内に前記対向車及び前記先行車が存在しない場合には、前記上右照射エリアを形成し、前記上右照射エリア内に前記対向車及び/又は前記先行車が存在する場合には、少なくとも前記上右照射エリアの明るさを前記上右照射エリア内に前記対向車及び前記先行車が存在しない場合の明るさ維持するように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御する、ヘッドライト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドライト装置であって、
前記制御装置は、
前記傾斜車両が前記左方向に旋回しているときには、前記下照射エリア、前記上中央照射エリア及び前記上右照射エリアの少なくとも1つの明るさを低下させるように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御し、
前記傾斜車両が前記右方向に旋回しているときには、前記下照射エリア、前記上中央照射エリア及び前記上左照射エリアの少なくとも1つの明るさを低下させるように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御する、ヘッドライト装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヘッドライト装置であって、
前記下照射エリアは、
前記上中央照射エリアの下に形成される下中央照射エリアと、
前記上左照射エリアの下であってかつ前記下中央照射エリアの左に形成される下左照射エリアと、
前記上右照射エリアの下であってかつ前記下中央照射エリアの右に形成される下右照射エリアとを含む、ヘッドライト装置。
【請求項4】
請求項3に記載のヘッドライト装置であって、
前記下左照射エリア、前記下右照射エリア、前記上左照射エリア及び前記上右照射エリアは、それぞれ、前記車体の上下方向に並ぶ複数のサブ照射エリアを含み、
前記制御装置は、
前記下中央照射エリアを形成し、かつ、前記上中央照射エリアを形成しないように、前記ヘッドライトによる光の照射を制御する場合には、
前記車体が直立している状態で前記下中央照射エリアの上端に形成されて前記傾斜車両の左右方向に延びる境界線を前記傾斜車両の左方向及び右方向の各々に延長した直線である水平基準線の下に位置しかつ前記水平基準線に最も近い左ロービーム照射エリアを、前記下左照射エリア及び前記上左照射エリアのそれぞれに含まれる前記複数のサブ照射エリアのなかから前記車体の傾斜角に応じて形成し、
前記水平基準線の下に位置しかつ前記水平基準線に最も近い右ロービーム照射エリアを、前記下右照射エリア及び前記上右照射エリアのそれぞれに含まれる前記複数のサブ照射エリアのなかから前記車体の傾斜角に応じて形成する、ヘッドライト装置。
【請求項5】
傾斜車両であって、
左方向に旋回するときには前記左方向に傾斜しかつ右方向に旋回するときには前記右方向に傾斜する車体と、
請求項1~4の何れか1項に記載のヘッドライト装置とを備える、傾斜車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜車両に用いられるヘッドライト装置に関し、詳しくは、照射エリアを傾斜車両の乗員による操作なしで変化させるヘッドライト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車等の傾斜車両が知られている。傾斜車両は、車体を備える。車体は、傾斜車両が左方向に旋回するときには左方向に傾斜し、傾斜車両が右方向に旋回するときには右方向に傾斜する。
【0003】
近年、傾斜車両に用いられ、照射エリアを傾斜車両の乗員による操作なしで変化させるヘッドライト装置が知られている。このようなヘッドライト装置は、国際公開第2018/168249号に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/168249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報に記載のヘッドライト装置の利便性を高めることが求められている。
【0006】
本発明の目的は、傾斜車両に用いられ、照射エリアを傾斜車両の乗員による操作なしで変化させるヘッドライト装置の利便性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者等は、照射エリアを傾斜車両の乗員による操作なしで変化させるヘッドライト装置を備える傾斜車両を走行させてみた。その結果、以下の知見を得るに至った。
【0008】
本願の発明者等は、光を照射することにより、下照射エリア、下照射エリアの上に形成される上中央照射エリア、上中央照射エリアの左に形成される上左照射エリア、及び、上中央照射エリアの右に形成される上右照射エリアの少なくとも1つを含む照射エリアを形成するヘッドライト装置を備える傾斜車両を走行させてみた。
【0009】
上記ヘッドライト装置は、傾斜車両が旋回しているときに、照射エリアを変化させる。具体的には、上記ヘッドライト装置は、傾斜車両が左方向に旋回しているときには、上左照射エリアを形成するけれど、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上左照射エリアを形成しない。なお、傾斜車両が右方向に旋回しているときは、傾斜車両が左方向に旋回しているときと比べて、左右を逆にしただけであるから、その説明は省略する。
【0010】
ここで、傾斜車両が左方向に旋回しているとき、上左照射エリアは傾斜車両の乗員が傾斜車両の旋回中に見る領域に形成される。そのため、傾斜車両が左方向に旋回しているときに、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在して、上左照射エリアが形成されなくなると、上左照射エリアが形成されることで見えやすくなるというメリットを失う。これは、傾斜車両が右方向に旋回しているときにおいても、左右が逆になるだけで同様である。
【0011】
そこで、本願の発明者等は、傾斜車両が左方向に旋回しているときに上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合に、上左照射エリアが対向車や先行車の乗員にとってどれくらい眩しいかを検討してみた。その結果、上左照射エリアが形成されていても、対向車や先行車の乗員はそれほど眩しくないということが判った。なお、傾斜車両が右方向に旋回しているときについても検討した結果、同様であることが判った。
【0012】
このような知見は、本発明者等の検討によって初めて得られたものである。そして、本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置は、左方向に旋回するときには左方向に傾斜しかつ右方向に旋回するときには右方向に傾斜する車体を備える傾斜車両に用いられる。ヘッドライト装置は、ヘッドライトと、制御装置とを備える。ヘッドライトは、傾斜車両の前方に光を照射することにより、下照射エリア、下照射エリアの上に形成される上中央照射エリア、上中央照射エリアの左に形成される上左照射エリア、及び、上中央照射エリアの右に形成される上右照射エリアを形成できるように構成されている。制御装置は、ヘッドライトによる光の照射が傾斜車両の乗員による操作なしで変化するように、ヘッドライトによる光の照射を制御する。
【0014】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、制御装置は、傾斜車両が直進しているときに、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上左照射エリアを形成し、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上左照射エリアの明るさを低下させるように、ヘッドライトによる光の照射を制御する。制御装置は、傾斜車両が左方向に旋回しているときに、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上左照射エリアを形成し、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上左照射エリアの明るさを維持するように、ヘッドライトによる光の照射を制御する。制御装置は、傾斜車両が直進しているときに、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上右照射エリアを形成し、上右照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上右照射エリアの明るさを低下させるように、ヘッドライトによる光の照射を制御する。制御装置は、傾斜車両が右方向に旋回しているときに、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上右照射エリアを形成し、上右照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上右照射エリアの明るさを維持するように、ヘッドライトによる光の照射を制御する。
【0015】
上記ヘッドライト装置においては、利便性を高めることができる。具体的には、以下のとおりである。
【0016】
上記ヘッドライト装置は、傾斜車両が左方向に旋回しているときには、対向車及び/又は先行車が存在するか否かにかかわらず、上左照射エリアを形成しかつ上左照射エリアの明るさを維持する。ここで、上左照射エリアは、傾斜車両が左方向に旋回しているときに、傾斜車両の乗員が見る領域に形成される。別の表現をすれば、ヘッドライトは、傾斜車両が左方向に旋回しているときの傾斜車両の乗員の視線と同じ方向を照らす。そのため、上記ヘッドライト装置は、傾斜車両が左方向に旋回しているときの傾斜車両の乗員の視界を広げることができる。なお、傾斜車両が右方向に旋回しているときは、傾斜車両が左方向に旋回しているときと比べて、左右が逆になるだけで同様であるから、その説明は省略する。
【0017】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、照射エリアは、例えば、ヘッドライトに設けられた光源が傾斜車両の前方に光を照射することで形成される。光源は、例えば、発光ダイオード、半導体レーザ、HID(High-Intensity Discharge)バルブ、ハロゲン電球、白熱電球等である。光源は、傾斜車両の前方に直接光を照射してもよいし、光を反射する反射部材を介して傾斜車両の前方に光を照射してもよい。
【0018】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、制御装置は、例えば、ECU(Electric Control Unit)である。ECUは、例えば、IC(Integrated Circuit)、電子部品、回路基板等の組み合わせによって実現される。制御装置が実行する制御は、例えば、CPU(Central Processing Unit)が不揮発性のメモリに記憶されたプログラムを読み出し、当該プログラムに従って所定の処理を実行すること等によって実現される。
【0019】
本発明において、対向車は、本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置を備える傾斜車両が進む方向とは反対の方向に進む車両であれば、特に限定されない。
【0020】
本発明において、先行車は、本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置を備える傾斜車両が進む方向と同じ方向に進む車両であれば、特に限定されない。先行車は、本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置を備える傾斜車両と同じ走行レーンを走行していなくてもよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、「傾斜車両の乗員による操作なしで」とは、例えば、車両の走行状況に応じて照射エリアを変化させる制御モードを傾斜車両の乗員が選択する操作を含まない。
【0022】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、上中央照射エリアが下照射エリアの上に形成される態様は、上中央照射エリアの中心が下照射エリアの中心よりも上に形成されていれば、特に限定されない。上中央照射エリアの下端は、下照射エリアの上端と重なっていてもよいし、下照射エリアの上端よりも上に位置していてもよいし、下照射エリアの上端よりも下に位置していてもよい。上中央照射エリアの下端が下照射エリアの上端に重なる態様は、上中央照射エリアの下端の少なくとも一部が下照射エリアの上端の少なくとも一部に重なる態様を含む。
【0023】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、上左照射エリアが上中央照射エリアの左に形成される態様は、上左照射エリアの中心が上中央照射エリアの中心よりも左に形成されていれば、特に限定されない。上左照射エリアの右端は、上中央照射エリアの左端と重なっていてもよいし、上中央照射エリアの左端よりも左に位置していてもよいし、上中央照射エリアの左端よりも右に位置していてもよい。上左照射エリアの右端が上中央照射エリアの左端に重なる態様は、上左照射エリアの右端の少なくとも一部が上中央照射エリアの左端の少なくとも一部に重なる態様を含む。
【0024】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、上右照射エリアが上中央照射エリアの右に形成される態様は、上右照射エリアの中心が上中央照射エリアの中心よりも右に形成されていれば、特に限定されない。上右照射エリアの左端は、上中央照射エリアの右端と重なっていてもよいし、上中央照射エリアの右端よりも右に位置していてもよいし、上中央照射エリアの右端よりも左に位置していてもよい。上右照射エリアの左端が上中央照射エリアの右端に重なる態様は、上右照射エリアの左端の少なくとも一部が上中央照射エリアの右端の少なくとも一部に重なる態様を含む。
【0025】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、「照射エリアの明るさを維持する」というのは、照射エリアにおける、ヘッドライトが照射する光による明るさを、一定又は実質的に一定に保つことをいう。照射エリアの明るさが一定に保たれるように光源を制御し、その結果、ライダーにとって照射エリアの明るさが一定に保たれているように見える状態は、ヘッドライトが照射する光による照射エリアの明るさが一定に保たれている状態の一例である。例えば、照射エリアの明るさを維持するように、光源に印加する電圧を制御しているけれど、外乱に起因して照射エリアの明るさが変化する場合が生じ得る。これは、ヘッドライトが照射する光による照射エリアの明るさが実質的に一定に保たれている状態の一例である。外乱は、例えば、傾斜車両に設けられて、光源に供給する電力を蓄えるバッテリの電圧変動である。なお、照射エリアの明るさが一定に保たれるように光源を制御する態様には、例えば、複数の光源から光が照射されることで照射エリアが形成される場合において、複数の光源の間で印加する電圧を調整する態様が含まれる。複数の光源の間で印加する電圧を調整する態様には、例えば、ある光源に印加する電圧を低くし、他の光源に印加する電圧を高くする態様が含まれる。要するに、ライダーにとって照射エリアの明るさが一定に保たれているように見えるのであれば、複数の光源から光が照射されることで照射エリアが形成される場合において、複数の光源の間で印加する電圧を調整することは許容される。ライダーにとって照射エリアの明るさが一定に見える状態は、例えば、ライダーにとって照射エリアのうち最も明るく見える部分の明るさが一定に保たれているように見える状態であればよい。したがって、例えば、複数の光源の間で印加する電圧を調整することで、照射エリアのうち最も明るく見える部分の位置が移動したとしても、当該最も明るく見える部分の明るさが一定に保たれているように見えるのであれば、そのような状態は、照射エリアの明るさが一定に保たれている状態に含まれる。また、ライダーにとって照射エリアの明るさが一定に保たれているように見える範囲内で明るさを変更する制御が行われたとしても、その状態は、ヘッドライトが照射する光による照射エリアの明るさが実質的に一定に保たれている状態の一例である。
【0026】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、照射エリアの明るさを低下させる態様には、例えば、照射エリアの明るさを部分的に低下させる態様を含む。
【0027】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、照射エリアの明るさを低下させる態様には、照射エリアを消失させる態様を含む。つまり、照射エリアの明るさを低下させる態様には、照射エリアを形成するように光を照射する光源を、減光した状態で点灯させる態様だけでなく、消灯させる態様も含む。
【0028】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、制御装置は、傾斜車両が左方向に旋回しているときには、下照射エリア、上中央照射エリア及び上右照射エリアの少なくとも1つの明るさを低下させるように、ヘッドライトによる光の照射を制御してもよい。制御装置は、傾斜車両が右方向に旋回しているときには、下照射エリア、上中央照射エリア及び上左照射エリアの少なくとも1つの明るさを低下させるように、ヘッドライトによる光の照射を制御してもよい。
【0029】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、下照射エリアは、上中央照射エリアの下に形成される下中央照射エリアと、上左照射エリアの下であってかつ下中央照射エリアの左に形成される下左照射エリアと、上右照射エリアの下であってかつ下中央照射エリアの右に形成される下右照射エリアとを含んでいてもよい。
【0030】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、下左照射エリア、下右照射エリア、上左照射エリア及び上右照射エリアは、それぞれ、車体の上下方向に並ぶ複数のサブ照射エリアを含んでいてもよい。制御装置は、下中央照射エリアを形成し、かつ、上中央照射エリアを形成しないように、ヘッドライトによる光の照射を制御してもよい。この場合、水平基準線の下に位置しかつ水平基準線に最も近い左ロービーム照射エリアを、下左照射エリア及び上左照射エリアのそれぞれに含まれる複数のサブ照射エリアのなかから車体の傾斜角に応じて形成してもよい。また、水平基準線の下に位置しかつ水平基準線に最も近い右ロービーム照射エリアを、下右照射エリア及び上右照射エリアのそれぞれに含まれる複数のサブ照射エリアのなかから車体の傾斜角に応じて形成してもよい。なお、水平基準線は、車体が直立している状態で下中央照射エリアの上端に形成されて傾斜車両の左右方向に延びる境界線を傾斜車両の左方向及び右方向の各々に延長した直線である。
【0031】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、「水平基準線の下に位置しかつ水平基準線に最も近い左ロービーム照射エリア」とは、例えば、下中央照射エリアの左に形成され、各々の中心が水平基準線よりも下に位置する複数のサブ照射エリアのうち、中心が最も水平基準線に近いサブ照射エリアのことをいう。左ロービーム照射エリアとして形成されているサブ照射エリアであっても、車体の傾斜角が変化することにより、その中心が水平基準線に重なる又は水平基準線よりも上に移動すると、左ロービーム照射エリアとして形成されなくなる。
【0032】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、「水平基準線の下に位置しかつ水平基準線に最も近い右ロービーム照射エリア」とは、例えば、下中央照射エリアの右に形成され、各々の中心が水平基準線よりも下に位置する複数のサブ照射エリアのうち、中心が最も水平基準線に近いサブ照射エリアのことをいう。右ロービーム照射エリアとして形成されているサブ照射エリアであっても、車体の傾斜角が変化することにより、その中心が水平基準線に重なる又は水平基準線よりも上に移動すると、右ロービーム照射エリアとして形成されなくなる。
【0033】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置は、検出装置をさらに備えていてもよい。検出装置は、対向車及び/又は先行車を検出する。検出装置は、対向車及び/又は先行車が発する光を検出するものであってもよい。
【0034】
本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置において、ヘッドライトは、傾斜車両の前方に光を照射する少なくとも1つの光源と、少なくとも1つの光源を収容する筐体を含んでいてもよい。筐体は、検出装置を収容する。筐体は、筐体本体と、アウタレンズとを含んでいてもよい。アウタレンズは、筐体本体に取り付けられて、少なくとも1つの光源の前に配置される。傾斜車両の後方向に見て、アウタレンズは、例えば、円形である。筐体は、制御装置を収容してもよい。
【0035】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両は、左方向に旋回するときには左方向に傾斜しかつ右方向に旋回するときには右方向に傾斜する車体と、本発明の一実施形態に係るヘッドライト装置とを備える。
【0036】
この発明の上述の目的及びその他の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面に関連して行われる以下のこの発明の実施形態の詳細な説明から一層明らかとなろう。本明細書にて使用される場合、用語「及び/又は(and/or)」は1つの、又は複数の関連した列挙されたアイテム(items)のあらゆる又は全ての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」、「含む、備える(comprising)」又は「有する(having)」及びその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/又はそれらのグループのうちの1つ又は複数を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術及び工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、又は、場合によっては全てと共に使用することもできる。従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせの全てを繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明及び特許請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面又は説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、傾斜車両に用いられ、照射エリアを傾斜車両の乗員による操作なしで変化させるヘッドライト装置の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施の形態による傾斜車両の左側面図と当該傾斜車両が備えるヘッドライト装置の概略構成を示すブロック図とを併せて示す図面である。
図2】制御装置が実行する照射モード切替制御を示すフローチャートである。
図3】傾斜車両が直進しているときに、対向車及び/又は先行車が出現した場合に、照射エリアがどのように変化するのかを示す説明図である。
図4A】対向車及び先行車が存在しない状態で直進している傾斜車両が左方向に旋回し、さらに、傾斜車両が左方向に旋回している状態で対向車及び/又は先行車が出現した場合に、照射エリアがどのように変化するのかを示す説明図である。
図4B】対向車及び先行車が存在しない状態で直進している傾斜車両が左方向に旋回し、さらに、傾斜車両が左方向に旋回している状態で対向車及び/又は先行車が出現した場合に、照射エリアがどのように変化するのかを示す説明図である。
図5A】対向車及び先行車が存在しない状態で直進している傾斜車両が右方向に旋回し、さらに、傾斜車両が右方向に旋回している状態で対向車及び/又は先行車が出現した場合に、照射エリアがどのように変化するのかを示す説明図である。
図5B】対向車及び先行車が存在しない状態で直進している傾斜車両が右方向に旋回し、さらに、傾斜車両が右方向に旋回している状態で対向車及び/又は先行車が出現した場合に、照射エリアがどのように変化するのかを示す説明図である。
図6】ヘッドライトが光を照射することで形成される照射エリアの他の一例を示す説明図であって、車体が直立している状態から左方向に傾斜している状態になったときに、照射エリアがどのように変化するのかを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態による傾斜車両の詳細について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、あくまでも一例である。本発明は、以下に説明する実施の形態によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0040】
図1を参照しながら、本発明の実施の形態による傾斜車両10について説明する。図1は、傾斜車両10の左側面図と傾斜車両10が備えるヘッドライト装置100のブロック図とを併せて示す図面である。
【0041】
図1を参照して、傾斜車両10は、車体20と、複数の車輪30と、パワーユニット40と、ハンドル50とを備える。以下、これらについて説明する。
【0042】
車体20は、傾斜車両10が左方向Lに旋回するときに左方向Lに傾斜し、傾斜車両10が右方向Rに旋回するときに右方向Rに傾斜する。車体20は、車体フレーム201と、シート202とを含む。車体フレーム201は、パワーユニット40を支持する。パワーユニット40は、例えば、駆動源としてのエンジンと、変速機等を含む。シート202には、傾斜車両10の乗員が着座する。
【0043】
車体20は、複数の車輪30を支持する。複数の車輪30は、傾斜車両10が左方向Lに旋回するときには車体20とともに左方向Lに傾斜し、傾斜車両10が右方向Rに旋回するときには車体20とともに右方向Rに傾斜する。複数の車輪30は、乗員がハンドル50を操作することで操舵される前輪30Fと、パワーユニット40の動力が伝達されることで回転する後輪30Rとを含む。
【0044】
傾斜車両10は、ヘッドライト装置100をさらに備える。ヘッドライト装置100は、ヘッドライト60と、制御装置70とを含む。
【0045】
ヘッドライト60は、傾斜車両10の前方に光を照射する。ヘッドライト60は、複数の光源62を含む。複数の光源62の各々は、傾斜車両10の前方に光を照射する。なお、ヘッドライト60は、車体20に支持される。
【0046】
複数の光源62は、少なくとも1つの下光源62Dと、少なくとも1つの上中央光源62UCと、少なくとも1つの上左光源62ULと、少なくとも1つの上右光源62URとを含む。なお、図1では、便宜上、下光源62D、上中央光源62UC、上左光源62UL及び上右光源URの各々を1つだけ示している。
【0047】
下光源62Dは、下照射エリアを形成するように光を照射する。上中央光源62UCは、下照射エリアの上に上中央照射エリアを形成するように光を照射する。上左光源62ULは、上中央照射エリアの左に上左照射エリアを形成するように光を照射する。上右光源62URは、上中央照射エリアの右に上右照射エリアを形成するように光を照射する。
【0048】
ここで、照射エリアは、ヘッドライト60が傾斜車両10の前方に光を照射することで形成される。なお、照射エリアは、傾斜車両10の前方に配置されたスクリーンに向かってヘッドライト60の光を照射することで確認することができる。
【0049】
制御装置70は、傾斜車両10の走行状況に応じて複数の光源62のうち少なくとも1つの光源62を傾斜車両10の乗員による操作なしで消灯又は減光した状態で点灯することにより、ヘッドライト60による光の照射を制御する。つまり、制御装置70は、傾斜車両10の走行状況に応じてヘッドライト60の照射エリアを変化させるように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。別の表現をすれば、制御装置70は、傾斜車両10の走行状況に応じてヘッドライト60による光の照射が変化するように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。なお、傾斜車両10の走行状況には、例えば、車体20の傾斜や、対向車及び/又は先行車の存在が含まれる。車体20の傾斜は、例えば、車体20の傾斜角を検出する傾斜角検出装置からの信号に基づいて判断される。対向車及び/又は先行車の存在は、例えば、対向車及び/又は先行車を検出する車両検出装置からの信号に基づいて判断される。
【0050】
制御装置70は、傾斜車両10が直進しているときに、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上左照射エリアを形成し、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上左照射エリアの明るさを低下させるように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。制御装置70は、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているときに、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上左照射エリアを形成し、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上左照射エリアの明るさを維持するように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。なお、制御装置70は、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているときに、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上左照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、上左照射エリアの明るさを維持するとともに、上中央照射エリア、上右照射エリア及び下照射エリアの少なくとも1つの明るさを低下させてもよいし、上左照射エリア、上中央照射エリア、上右照射エリア及び下照射エリアの各々の明るさを維持してもよい。
【0051】
制御装置70は、傾斜車両10が直進しているときに、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上右照射エリアを形成し、上右照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上右照射エリアの明るさを低下させるように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。制御装置70は、傾斜車両10が右方向Rに旋回しているときに、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合には、上右照射エリアを形成し、上右照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、少なくとも上右照射エリアの明るさを維持するように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。なお、制御装置70は、傾斜車両10が右方向Rに旋回しているときに、上右照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合には、上右照射エリア内に対向車及び先行車が存在しない場合と比べて、上右照射エリアの明るさを維持するとともに、上中央照射エリア、上左照射エリア及び下照射エリアの少なくとも1つの明るさを低下させてもよいし、上左照射エリア、上中央照射エリア、上右照射エリア及び下照射エリアの各々の明るさを維持してもよい。
【0052】
図2を参照しながら、制御装置70が実行する照射モード切替制御について説明する。図2は、制御装置70が実行する照射モード切替制御を示すフローチャートである。
【0053】
先ず、制御装置70は、ステップS11において、傾斜車両10が直進しているか否かを判定する。傾斜車両10が直進している場合(ステップS11:YES)、制御装置70は、ステップS12において、対向車が存在するか否かを判定する。対向車が存在しない場合(ステップS12:NO)、制御装置70は、ステップS13において、先行車が存在するか否かを判定する。
【0054】
先行車が存在しない場合(ステップS13:NO)、制御装置70は、ステップS14において、第1直進照射モードでの照射を行うように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。第1直進照射モードでは、例えば、下光源62D、上中央光源62UC、上左光源62UL及び上右光源62URが点灯される。その後、制御装置70は、照射モード切替制御を終了する。
【0055】
対向車が存在する場合(ステップS12:YES)、制御装置70は、ステップS15において、第2直進照射モードでの照射を行うように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。第2直進照射モードでは、例えば、下光源62Dが点灯される。その後、制御装置70は、照射モード切替制御を終了する。
【0056】
先行車が存在する場合(ステップS13:YES)、制御装置70は、ステップS15以降の処理を実行する。
【0057】
傾斜車両10が直進していない場合(ステップS11:NO)、制御装置70は、ステップS16において、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているか否かを判定する。傾斜車両10が左方向Lに旋回している場合(ステップS16:YES)、制御装置70は、ステップS17において、上左照射エリア内に対向車が存在するか否かを判定する。対向車が存在しない場合(ステップS17:NO)、制御装置70は、ステップS18において、上左照射エリア内に先行車が存在するか否かを判定する。
【0058】
上左照射エリア内に先行車が存在しない場合(ステップS18:NO)、制御装置70は、ステップS19において、第1左旋回照射モードでの照射を行うように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。第1左旋回照射モードでは、例えば、下光源62D、上中央光源62UC及び上左光源62ULが点灯される。その後、制御装置70は、照射モード切替制御を終了する。
【0059】
上左照射エリア内に対向車が存在する場合(ステップS17:YES)、制御装置70は、ステップS20において、第2左旋回照射モードでの照射を行うように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。第2左旋回照射モードでは、例えば、下光源62D及び上左光源62ULが点灯される。その後、制御装置70は、照射モード切替制御を終了する。
【0060】
上左照射エリア内に先行車が存在する場合(ステップS18:YES)、制御装置70は、ステップS20以降の処理を実行する。
【0061】
傾斜車両10が右方向Rに旋回している場合(ステップS16:NO)、制御装置70は、ステップS21において、上右照射エリア内に対向車が存在するか否かを判定する。上右照射エリア内に対向車が存在しない場合(ステップS21:NO)、制御装置70は、ステップS22において、上右照射エリア内に先行車が存在するか否かを判定する。
【0062】
上右照射エリア内に先行車が存在しない場合(ステップS22:NO)、制御装置70は、ステップS23において、第1右旋回照射モードでの照射を行うように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。第1右旋回照射モードでは、例えば、下光源62D、上中央光源62UC及び上右光源62URが点灯される。その後、制御装置70は、照射モード切替制御を終了する。
【0063】
上右照射エリア内に対向車が存在する場合(ステップS21:YES)、制御装置70は、ステップS24において、第2右旋回照射モードでの照射を行うように、ヘッドライト60による光の照射を制御する。第2右旋回照射モードでは、例えば、下光源62D及び上右光源62URが点灯される。その後、制御装置70は、照射モード切替制御を終了する。
【0064】
上右照射エリア内に先行車が存在する場合(ステップS22:YES)、制御装置70は、ステップS24以降の処理を実行する。
【0065】
傾斜車両10が備えるヘッドライト装置100においては、利便性を高めることができる。具体的には、以下のとおりである。
【0066】
ヘッドライト装置100は、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているときには、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在するか否かにかかわらず、上左照射エリアを形成しかつ上左照射エリアの明るさを維持する。ここで、上左照射エリアは、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているときに、傾斜車両10の乗員が見る領域に形成される。別の表現をすれば、ヘッドライト60は、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているときの傾斜車両10の乗員の視線と同じ方向を照らす。そのため、ヘッドライト装置100は、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているときの傾斜車両10の乗員の視界を広げることができる。なお、傾斜車両10が右方向Rに旋回しているときは、傾斜車両10が左方向Lに旋回しているときと比べて、左右が逆になるだけで同様であるから、その説明は省略する。
【0067】
(ヘッドライト装置の変形例)
図3-5Bを参照しながら、ヘッドライト装置の変形例について説明する。図3には、傾斜車両が直進しているときの照射エリアの変化について、複数のバリエーション(A1)-(B3)が示されている。バリエーション(A1)-(A3)において、左の照射エリアは、傾斜車両が直進しているときに対向車及び先行車が存在しない場合の照射エリアを示し、右の照射エリアは、傾斜車両が直進しているときに上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合の照射エリアを示す。バリエーション(B1)-(B3)において、左の照射エリアは、傾斜車両が直進しているときに対向車及び先行車が存在しない場合の照射エリアを示し、右の照射エリアは、傾斜車両が直進しているときに上右照射エリア内に対向車及び/又は先行車が存在する場合の照射エリアを示す。図4A-5Bには、傾斜車両が旋回しているときの照射エリアの変化について、複数のバリエーション(A1)-(F6)が示されている。各バリエーションにおいて、左端の照射エリアは、傾斜車両が直進しているときに対向車及び先行車が存在しない場合の照射エリアを示し、真ん中の照射エリアは、傾斜車両が左方向L(図5A及び5Bでは、右方向R)に旋回しているときに上左照射エリア内(図5A及び5Bでは、上右照射エリア内)に対向車及び先行車が存在しない場合の照射エリアを示し、右端の照射エリアは、傾斜車両が左方向L(図5A及び5Bでは、右方向R)に旋回しているときに上左照射エリア内(図5A及び5Bでは、上右照射エリア内)に対向車及び/又は先行車が存在する場合の照射エリアを示す。図3-5Bにおいて、点灯している光源に対応する照射エリアは、その外形を実線で示すとともに、ハッチングを付している。また、消灯又は減光した状態で点灯している光源に対応する照射エリアは、その外形を破線で示すとともに、ハッチングを付していない。
【0068】
図3-5Bでは、ヘッドライトが光を照射することで形成される照射エリアは、上左照射エリアUL、上中央照射エリアUC、上右照射エリアUR、下左照射エリアDL、下中央照射エリアDC及び下右照射エリアDRを含む。つまり、少なくとも1つの下光源は、下左照射エリアDLを形成するように光を照射する少なくとも1つの下左光源と、下中央照射エリアDCを形成するように光を照射する少なくとも1つの下中央光源と、下右照射エリアDRを形成するように光を照射する少なくとも1つの下右光源とを含む。なお、上記照射エリアを形成可能なヘッドライトは、例えば、国際公開第2018/168249号に開示されているので、その詳細な説明は省略する。
【0069】
照射エリアの変化のバリエーションは、図3-5Bに示すものに限定されない。例えば、図4A及び4Bにおいて、傾斜車両が左方向Lに旋回しているときに、下左光源、下中央光源及び下右光源の各々が点灯している状態で、上左照射エリア内に対向車及び/又は先行車が出現した場合、下中央光源及び下右光源の何れかだけを消灯又は減光した状態で点灯してもよい。例えば、図5A及び5Bにおいて、傾斜車両が右方向Rに旋回しているときに、下左光源、下中央光源及び下右光源の各々が点灯している状態で、上右照射エリア内に対向車及び/又は先行車が出現した場合、下中央光源及び下左光源の何れかだけを消灯又は減光した状態で点灯してもよい。
【0070】
(ヘッドライト装置の他の変形例)
ヘッドライトは、複数の下左光源と、下中央光源と、複数の下右光源と、複数の上左光源と、上中央光源と、複数の上右光源を含んでいてもよい。このようなヘッドライトが光を照射することで形成される照射エリアの一例を、図6に示す。
【0071】
図6では、複数の下左光源により、下左照射エリアに含まれる複数の下左サブ照射エリアDL1、DL2、DL3が形成される。下中央光源により、下中央照射エリアDCが形成される。複数の下右光源により、下右照射エリアに含まれる複数の下右サブ照射エリアDR1、DR2、DR3が形成される。複数の上左光源により、上左照射エリアに含まれる複数の上左サブ照射エリアUL1、UL2、UL3が形成される。上中央光源により、上中央照射エリアUCが形成される。複数の上右光源により、上右照射エリアに含まれる複数の上右サブ照射エリアUR1、UR2、UR3が形成される。なお、このような照射エリアを形成可能なヘッドライトは、例えば、国際公開第2018/168249号に開示されているので、その詳細な説明は省略する。
【0072】
制御装置は、下中央照射エリアDCが形成され、かつ、上中央照射エリアUCが形成されないように、ヘッドライトによる光の照射を制御してもよい。この場合、水平基準線HLの下に位置しかつ水平基準線HLに最も近い左ロービーム照射エリアが車体の傾斜角に応じて形成されるように、複数の上左光源と複数の下左光源からなる複数の左光源のなかから選択した左光源が点灯される。つまり、左ロービーム照射エリアが、複数の下左サブ照射エリアDL1、DL2、DL3及び複数の上左サブ照射エリアUL1、UL2、UL3のなかから車体の傾斜角に応じて形成される。また、水平基準線HLの下に位置しかつ水平基準線HLに最も近い右ロービーム照射エリアが車体の傾斜角に応じて形成されるように、複数の上右光源と複数の下右光源からなる複数の右光源のなかから選択した右光源が点灯される。つまり、右ロービーム照射エリアが、複数の下右サブ照射エリアDR1、DR2、DR3及び複数の上右サブ照射エリアUR1、UR2、UR3のなかから車体の傾斜角に応じて形成される。図6では、左ロービーム照射エリア、下中央照射エリアDC及び右ロービーム照射エリアの各々にハッチングを付している。車体が左方向Lに傾斜した場合のパターン(B)は、車体が直立している場合のパターン(A)と比べて、左ロービーム照射エリア及び右ロービーム照射エリアが異なることを示している。なお、水平基準線HLとは、車体が直立している状態で下中央照射エリアDCの上端に形成されて傾斜車両の左右方向に延びる境界線BLを傾斜車両の左方向L及び右方向Rの各々に延長した直線である。
【0073】
このようなヘッドライト装置においては、ロービームの照射範囲を広げることができる。
【0074】
(その他の実施形態)
本明細書において記載と図示の少なくとも一方がなされた実施形態及び変形例は、本開示の理解を容易にするためのものであって、本開示の思想を限定するものではない。上記の実施形態及び変形例は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得る。
【0075】
当該趣旨は、本明細書に開示された実施形態に基づいて当業者によって認識されうる、均等な要素、修正、削除、組み合わせ(例えば、実施形態及び変形例に跨る特徴の組み合わせ)、改良、変更を包含する。特許請求の範囲における限定事項は当該特許請求の範囲で用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態及び変形例に限定されるべきではない。そのような実施形態及び変形例は非排他的であると解釈されるべきである。例えば、本明細書において、「好ましくは」、「よい」という用語は非排他的なものであって、「好ましいがこれに限定されるものではない」、「よいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。
【符号の説明】
【0076】
10 傾斜車両
20 車体
60 ヘッドライト
62 光源
62D 下光源
62UC 上中央光源
62UL 上左光源
62UR 上右光源
70 制御装置
100 ヘッドライト装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6