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特許7329675ブレーキシステムを動作させる方法および装置、コンピュータプログラム、ならびにコンピュータプログラム製品、ブレーキシステム
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  • 特許-ブレーキシステムを動作させる方法および装置、コンピュータプログラム、ならびにコンピュータプログラム製品、ブレーキシステム 図1A
  • 特許-ブレーキシステムを動作させる方法および装置、コンピュータプログラム、ならびにコンピュータプログラム製品、ブレーキシステム 図1B
  • 特許-ブレーキシステムを動作させる方法および装置、コンピュータプログラム、ならびにコンピュータプログラム製品、ブレーキシステム 図1C
  • 特許-ブレーキシステムを動作させる方法および装置、コンピュータプログラム、ならびにコンピュータプログラム製品、ブレーキシステム 図2
  • 特許-ブレーキシステムを動作させる方法および装置、コンピュータプログラム、ならびにコンピュータプログラム製品、ブレーキシステム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】ブレーキシステムを動作させる方法および装置、コンピュータプログラム、ならびにコンピュータプログラム製品、ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20230810BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20230810BHJP
   B60G 17/015 20060101ALN20230810BHJP
【FI】
B60T8/1755 C
B60T8/172 Z
B60G17/015
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022502612
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2020062709
(87)【国際公開番号】W WO2021008751
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】102019210670.6
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】クルーク,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ツェーベレ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】イーゼレ,アヒム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインガルト,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】クラニッヒ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ジャン
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102004053236(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015002603(DE,A1)
【文献】米国特許第05772289(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102013217109(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00 - 8/96
B60G 17/00 - 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車(1)のブレーキシステム(2)を動作させる方法であって、前記自動車(1)が車体(5)と、前記車体(5)に相対してホイールサスペンション(4)によって前記車体(5)に支承された複数のホイールと、を有し、前記車体(5)は、前記ホイールサスペンション(4)によってピッチング運動を実行し、前記ブレーキシステム(2)は、前記ホイールの少なくともいくつかにホイール個別のホイールブレーキ(3)を有し、前記車体(5)のピッチング角(Φ)計算され、前記ホイールに作用する法線力(FN)が前記ピッチング角(Φ)に依存して計算され、
前記法線力に依存して、ホイールと路面との間で作用する可能な最大ブレーキトルクもしくは可能な最大ブレーキ力(Bremskraft)が決定可能であることを特徴とする、方法。(段落0005)
【請求項2】
前記ピッチング角(Φ)は、プログラムされたモデルを用いて算出されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モデルは、前記車体(5)の垂直方向の並進運動と回転運動を考慮に入れることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ホイールサスペンション(4)に依存する少なくとも1つのブレーキトルク支持ファクタ(kMbr)が前記法線力が計算される際に考慮に入れられることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記垂直方向の並進運動を決定するために、前記車体(5)の重心(S)における垂直方向ダイナミクスが算出されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記算出された垂直方向ダイナミクスに依存して、角運動量計算を用いて、前記車体(5)の前記重心(S)におけるピッチングダイナミクスが前記ホイールに走行方向に作用するブレーキ力(FX)に依存して算出されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記算出されたピッチングダイナミクスに依存して、前記垂直方向ダイナミクスが前記ホイールサスペンション(4)のホイール個別の圧縮ストロークに変換されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記圧縮ストローク、ホイール個別の弾撥力、および減衰力に依存して、前記それぞれのホイールと前記車体(5)との間のホイール個別の垂直方向の力が計算されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記垂直方向の力に依存して、前記ホイールの個別の質量を考慮に入れてホイール個別の法線力が計算されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法のすべてのステップを実行するように設定されているコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載の前記コンピュータプログラムが記憶されている機械可読記憶媒体を特徴とする、コンピュータプログラム製品。
【請求項12】
ホイールサスペンション(4)によってピッチング運動を実行し得る車体(5)と前記車体(5)に相対して前記ホイールサスペンション(4)によって前記車体(5)に支承された複数のホイールとを有する自動車(1)を動作させるための装置であって、、前記ホイールの少なくともいくつかにホイール個別のホイールブレーキ(3)請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法を実行する制御装置を備える、装置。
【請求項13】
ホイールサスペンション(4)によってピッチング運動を実行し得る車体(5)と、前記車体(5)に相対してホイールサスペンション(4)によって前記車体(5)に支承された複数のホイールとを有する自動車(1)のためのブレーキシステム(2)において、、前記ブレーキシステム(2)は、前記ホイールの少なくともいくつかにホイール個別のホイールブレーキ(3)と、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法を実行する制御装置を備える、ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキシステムを動作させる方法であって、自動車が車体と、車体に相対してホイールサスペンションによって車体に支承された複数のホイールと、を有し、車体は、ホイールサスペンションによってピッチング運動を実行し得、ブレーキシステムは、ホイールの少なくともいくつか、もしくは少なくとも2つにホイール個別のホイールブレーキを有し、車体のピッチング角が監視され、検出されたピッチング角に依存してホイールブレーキが制御される。
【0002】
さらに、本発明は、このようなブレーキシステムを動作させるための装置、および対応するブレーキシステムに関する。さらに、本発明は、コンピュータプログラムおよびコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0003】
冒頭で述べた種類の方法は従来技術から知られている。安全性と快適性の理由から、自動車のホイールは、通常、自動車の車体に相対して変位可能である。この変位は、例えば独立懸架式サスペンションとして形成されているホイールサスペンションによって保証され、各ホイールは自己の支持スプリングと、ホイールと車体との間で作用する自己の支持ダンパとを有している。ホイールサスペンションの形態に応じて、加速または減速時の自動車のピッチング挙動に影響が及ぼされる。その場合、ピッチング運動とは特に、車体が、特にその重心を通って延びる水平方向の、および走行方向に対して横向きに向けられた軸、特にピッチング軸を中心として旋回する車体の運動と解されるべきである。ブレーキ作用を改善するため、および/または走行安全性を保証するための自動化されたブレーキ介入によって影響が及ぼされる、または実施される制動過程では、自動車のピッチング挙動によって、ホイールごとに可能な出力可能な制動動力(Bremsleistung)が変化する。特にそのような制動の開始時には可能な出力可能な制動動力が大きく変化する可能性がある。
【0004】
このことを考慮するために、車体のピッチング挙動を特性曲線の形式で考慮に入れることが知られている。しかしこの特性曲線は、通常、特別な走行状況しか対象としておらず、そのため簡単には他の走行状況に転用できない。
【発明の概要】
【0005】
請求項1の特徴を有する本発明による方法には、車体のピッチング挙動に依存し、かつ自動車の現在走行状況とは無関係にホイールブレーキを最適に制御する可能性が提供されるという利点がある。それによって、ブレーキ作用もしくは制動動力が最適化される。本発明による方法によって、可能な出力可能な最大制動動力を最大にするために、状況とは無関係に車両に作用する力が算出および計算される。本発明によれば、このためにホイールに作用する法線力がピッチング角に依存して計算されることが企図されている。計算された法線力に依存して、ホイールと路面との間で作用する可能な最大ブレーキトルクもしくは可能な最大ブレーキ力(Bremskraft)が決定可能であり、それに対応してそれぞれのホイールブレーキによって調整可能である。
【0006】
特に、ピッチング角は、プログラムされたモデル、特にシングルトラックモデル(Einspurmodell)を用いて算出される。それによってピッチング角のオンボード計算が継続的に可能であり、それにより車体の挙動が有利に監視される。さらに、好ましくは、モデルが車体の垂直方向の並進運動と回転運動を考慮に入れることが企図されている。特に、モデルによって、重畳された並進運動と回転運動が検出され、法線力の計算時に考慮に入れられる。それによってホイール個別の法線力計算が有利にも保証される。
【0007】
特に、ホイールサスペンションに依存する少なくとも1つのブレーキトルク支持ファクタ(Bremsmomentabstuetzungsfaktor)が考慮に入れられる。ブレーキトルク支持ファクタは、ホイールサスペンション自体の構造設計から明らかになり、例えば車体の圧縮(Einfedern)時の、車体に相対するホイールの運動軌道を考慮に入れる。
【0008】
殊に、垂直方向の並進運動、すなわち重心における車体全体の垂直方向の圧縮を決定するために、車体の重心における垂直方向ダイナミクスが算出される。垂直方向ダイナミクスは、例えば1つまたは複数の慣性センサを用いて検出される。特に、車体は、少なくとも1つの慣性センサおよび/または加速度センサを有している。このために、特に車体の重心における加速度が車体とホイールとの間の垂直方向の力を用いて計算され、垂直方向の力は、特にまず、計算サイクルもしくは直前の計算サイクルからの既知の量と仮定される。積分によって、好ましくは車体の速度が算出され、さらなる積分によって重心における車体の圧縮ストローク(Einfederweg)が算出される。
【0009】
殊に、算出された垂直方向ダイナミクスに依存して、ホイールと路面との間で作用するブレーキ力に依存した車体の重心におけるピッチングダイナミクスが角運動量計算を用いて算出される。ピッチングダイナミクスを決定するために、好ましくは、車体の回転挙動に対するトルクバランスが確立される。この角運動量計算によって、角加速度が微分方程式を用いて算出される。そのために必要な、縦方向のブレーキ力などの量はすでに知られているか、または算出される。同様に必要とされる車体とホイールとの間の垂直方向の力が、まず、計算サイクル、特に直前の計算サイクルからの既知の量と仮定される。垂直方向の速度と同様に、角加速度の積分によって角速度が、およびさらなる積分によってピッチング角が含まれる(enthaelt)。
【0010】
殊に、算出されたピッチングダイナミクスに依存して、垂直方向ダイナミクスがホイールサスペンションのホイール個別の圧縮ストロークに変換される。すなわちピッチング角を知ることによって、重心における圧縮ストロークの変換(Transformation)が、ホイールまたは軸における圧縮ストロークに変換される。殊に、それぞれのホイール個別の圧縮速度(Einfedergeschwindigkeit)もこのように決定される。
【0011】
本発明の好ましい一発展形態では、圧縮ストローク、ホイール個別の弾撥力、および減衰力に依存して、ホイールと車体との間のホイール個別の垂直方向の力が計算される。その場合、特にホイールサスペンションの減衰定数および減衰力、ならびにばね定数および弾撥力がそれぞれのホイールで考慮に入れられる。
【0012】
その場合、殊に、垂直方向の力に依存して、それぞれのホイール質量を考慮してホイール個別の法線力が計算される。その場合、この法線力は、すでに説明したように、ブレーキ力を決定する基礎とされる。
【0013】
請求項10の特徴を有する本発明によるコンピュータプログラムは、コンピュータで実行される場合に、本発明による方法のすべてのステップを実行することを特徴とする。それによって上記の利点が得られる。
【0014】
請求項11の特徴を有する本発明によるコンピュータプログラム製品は、機械可読記憶媒体に記憶または保存される本発明によるコンピュータプログラムを特徴とする。
【0015】
請求項12の特徴を有する本発明による装置は、特に本発明による方法を実行するように整えられている制御装置を特徴とする。特に、制御装置は、本発明によるコンピュータプログラムを実行するように形成され、コンピュータプログラムは、好ましくは制御装置の不揮発性記憶装置に保存されている。これに代えて、制御装置は、好ましくは本発明によるコンピュータプログラム製品の可読能力を有する。
【0016】
請求項13の特徴を有する本発明によるブレーキシステムは、本発明による装置を特徴とする。上記の利点が得られる。
【発明の効果】
【0017】
他の利点および好ましい特徴、ならびに特徴の組合せは特に上記より明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】自動車の車両ダイナミクスの簡略化した図である。
図1B】自動車の車両ダイナミクスの簡略化した図である。
図1C】自動車の車両ダイナミクスの簡略化した図である。
図2】自動車の簡略化した物理モデルの図である。
図3】自動車のブレーキシステムを動作させるための有利な方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面をもとにして本発明を詳しく説明する。
【0020】
図1A図1Cは、それぞれ、自動車の各ホイールに対してそれぞれ1つの個別に制御可能なホイールブレーキ3を有するブレーキシステム2を有する自動車1の簡略化した図を示す。ホイールは、ホイールサスペンション4によって自動車の車体5に個別に支承され、それによりホイールは、互いに独立して車体に相対して運動可能である。その場合、各ホイールには、ホイールサスペンション4によって支持ばね(Stuetzfeder)6とダンパ7とが割り当てられ、これらは一緒に、それぞれのホイールのホイールサスペンション4のスプリングダンパシステムを形成する。その場合、自動車の重心がSで示され、自動車1の質量はmFzgで示される。重心Sは、自動車1の静止状態において、図1Aに示されるように、ホイール3の回転軸線の上方の高さhに、走行方向で後方に位置するホイールに対して垂直方向の距離Iをおいて、および走行方向で前方に位置するホイールに対して距離Iをおいて位置する。
【0021】
図1Bは、車体5が路面もしくはホイールの方向に圧縮され、それにより距離hが小さくなっている第2状態の自動車1を示す。これは純粋な垂直方向運動であるので、ホイールサスペンション4は両方のホイール3で同じ程度に圧縮される。その場合、ホイールばね(Radfeder)6およびダンパ7には、前輪と後輪あるいはすべてのホイールにおいて等しく荷重がかかっている。
【0022】
図1Cは、車体5が、矢印9で示されるようにピッチング運動を実行する状態の自動車1を示す。ピッチング運動の際に、車体5は、重心Sを通って延びる、走行方向に対して横向きに向けられた水平軸を中心として旋回する。図1Cに示される実施例では、自動車1を減速させるブレーキ介入にもとづいてピッチング運動が行われる。減速によって、車体5はその前端が下へ、かつ後端が上へ旋回する。
【0023】
図2は、シングルトラックモデルとして形成されている自動車1の簡略化した物理モデルを示す。以下に、モデルと図3に示されるフローチャートとをもとにして、ホイールブレーキ3によって常にできるだけよい制動動力が提供されることを保証する有利な方法について説明する。方法は、特に自動車の制御装置によって実行され、制御装置は、方法がコンピュータプログラムとして保存されている不揮発性記憶装置を有する。方法は自動車の運転開始とともにステップS1で始まる。
【0024】
まず、ステップS2において、それぞれのホイールにおける、角運動量から求められるトルクバランスを用いて、各ホイールについて縦方向のブレーキ力Fが計算され、それによりシングルトラックモデルに従って、後輪については縦方向力Fxhが計算され、前輪については縦方向力Fxvが計算される。この例の角運動量から、左前方のホイールについて(添え字:FL=左前方、FR=右前方、RL=左後方、RR=右後方)例えば、
【数1】
が求められる。
【0025】
駆動トルクMMotor、ホイールブレーキ圧、ホイール慣性モーメントJRad、ホイール加速度、および駆動トルクなどの既知の量を用いて、式(1)を置き換えて縦方向のブレーキ力が計算される。その場合、計算のために必要なブレーキトルクMbrは、特にホイールブレーキ圧および線形換算係数cpから算出される。
【0026】
それに続くステップS3において、車両重心Sにおける車体5の垂直方向ダイナミクスについての微分方程式が得られる:
【数2】
【0027】
式(2)からわかるように、重心Sにおける車体5の加速度は、車体とホイールとの間の垂直方向の力を用いて計算される。その場合、それぞれのホイールに作用する垂直方向の力Fzh、Fzvは、まず、既知の量として、特に前の計算サイクルで算出された量と仮定される。ステップS4における積分によって、重心Sにおける車体5の垂直方向の速度z・が計算される:
【数3】
【0028】
S5において、速度のさらに別の積分によって、重心における車体5の当初位置に対する圧縮ストロークが導き出される:
【数4】
【0029】
重心Sにおける車体5のピッチングダイナミクスを計算するために、ステップS6において、殊に角運動量計算によって車体5の回転挙動に対するトルクバランスが求められる:
【数5】
【0030】
微分方程式から、車体5の角加速度φ・・が求められる。そのために必要な、縦方向のブレーキ力Fxh、Fxvなどの量は、すでに式(1)から求められている。同様に必要とされる車体5とホイールとの間の垂直方向の力Fzh、Fzvが式(2)でまず、特に前のサイクルからの既知の量と仮定される。
【0031】
ステップS7において、垂直方向の速度と同様に、角加速度の積分によって角速度φ・が得られる:
【数6】
【0032】
ステップS8において、角速度φ・のさらなる積分によって、ピッチング角φが得られる:
【数7】
【0033】
次にステップS9において、ピッチング角φを用いて、車体5の重心Sにおける圧縮ストロークの変換(Transformation)が自動車1のアクスルにおけるホイールサスペンション4のホイール個別の圧縮ストロークに変換される。圧縮速度についても同じことが当てはまる:
【数8】
【0034】
次に、ステップS10において、車体5とホイールとの間の弾撥力F、特にホイール個別の弾撥力Fch、Fcvが圧縮ストロークzとばね剛性cを用いて次のように計算される:
【数9】
計算は、自動車のすべてのホイールについて式(8)と同様に行われる。
【0035】
ステップS11において、車体とホイールとの間の減衰力Fが、特にホイール個別に減衰力FdvおよびFdhとして圧縮速度z・と減衰定数dを用いて計算される:
【数10】
計算は、この場合も自動車1のすべてのホイールについて式(9)と同様に行われる。
【0036】
減衰定数dの場合、引張段階と押圧段階との間で異なり得る。さらに、減衰定数は、圧縮速度に依存する非線形挙動を有することが可能である。しかしこのことは、自動車1のそれぞれのシャーシもしくはそれぞれのホイールサスペンション4に依存する。
【0037】
続いてステップS12において、車体5とそれぞれのホイールFzh、Fzvとの間の垂直方向の力が、弾撥力および減衰力、ならびにホイールサスペンションから生じるブレーキトルク支持の影響を用いて計算される(左前方(FL)のホイールを例に):
【数11】
この計算も自動車の各ホイールについて式(10)と同様に行われる。
【0038】
ブレーキトルク支持のファクタkMbrは、ホイールサスペンション4の構造に依存し、予め計算されることが好ましい。
【0039】
最後に、ステップS13において、ホイール個別の法線力Fが垂直方向の力Fおよびホイール質量mから計算される:
【数12】
式(11)は、自動車の各ホイールについて同様に適用される。
【0040】
このようにして、自動車1の各ホイールについて法線力、したがって路面上のホイールの接地力が計算され、ブレーキシステムに提供され、それによりブレーキシステムは、ブレーキ力をホイール個別に最適に、できる限りよい制動動力が達成されるように調整する。
【符号の説明】
【0041】
1 自動車
2 ブレーキシステム
3 ホイールブレーキ
4 ホイールサスペンション
5 車体
6 ホイールばね 支持ばね
7 ダンパ
9 矢印
弾撥力
ch、Fcv 弾撥力
xh、Fxv 縦方向力
dv、Fdh 減衰値
法線力
ブレーキ力
垂直方向の力
距離
距離
S 重心
図1A
図1B
図1C
図2
図3