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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】ハロイサイト粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/40 20060101AFI20230810BHJP
   B01J 21/16 20060101ALI20230810BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230810BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20230810BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C01B33/40
B01J21/16 M
B01J35/02 J
B01J35/10 301Z
B01J37/04 102
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022503763
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007474
(87)【国際公開番号】W WO2021172547
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020033245
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】近内 秀文
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107837802(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/40
B01J 21/16
B01J 35/02
B01J 35/10
B01J 37/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトと、酸化チタンとが集合してなる顆粒を含む粉末であって、
前記顆粒が、前記ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、前記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有し、
窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布が、10~100nmの範囲内に、2つ以上の細孔径ピークを示す、ハロイサイト粉末。
【請求項2】
全細孔容積が0.20cm /g以上である、請求項1に記載のハロイサイト粉末。
【請求項3】
平均粒径が200μm以下である、請求項1または2に記載のハロイサイト粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロイサイト粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、悪臭の除去;空気中の有害物質または汚れの分解除去;殺菌;などを行なうために、酸化チタンを含む光触媒が使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-267519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光触媒活性により優れる材料の開発が望まれている。
ところで、チューブ状のハロイサイトであるハロイサイトナノチューブは、その形状を生かして、種々の用途に利用されている。本発明者は、ハロイサイトの粉末(ハロイサイト粉末)、とりわけ、ハロイサイトナノチューブを用いた新たな微細構造に着目した。
【0005】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、光触媒活性に優れるハロイサイト粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供する。
[1]ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトと、酸化チタンとが集合してなる顆粒を含む粉末である、ハロイサイト粉末。
[2]上記顆粒が、上記ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、上記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有する、上記[1]に記載のハロイサイト粉末。
[3]窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布が、2つ以上の細孔径ピークを示す、上記[1]または[2]に記載のハロイサイト粉末。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光触媒活性に優れるハロイサイト粉末を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ハロイサイト粉末1の顆粒を示すSEM写真である。
図2】ハロイサイト粉末1の微分細孔分布を示すグラフである。
図3】ハロイサイト粉末1のXRDパターンである。
図4】ハロイサイト粉末2の顆粒を示すSEM写真である。
図5】ハロイサイト粉末2の微分細孔分布を示すグラフである。
図6】ハロイサイト粉末2のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[ハロイサイト粉末]
本発明のハロイサイト粉末は、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトと、酸化チタンとが集合してなる顆粒を含む粉末である。上記顆粒は、上記ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する第1の細孔と、上記第1の細孔とは異なる第2の細孔とを有することが好ましい。
本明細書においては、複数個の「顆粒」の集合体を「粉末」と呼ぶ。
【0012】
本発明のハロイサイト粉末は、吸着能に優れるほか、光触媒活性にも優れる。その理由は、以下のように推測される。
まず、本発明のハロイサイト粉末を構成する顆粒は、良好な吸着能を発揮する。顆粒が第1の細孔および第2の細孔を有することにより、吸着能はより優れる。そのうえで、この顆粒に含まれる酸化チタンが光触媒能を発揮する。これにより、良好な光触媒活性を示すと推測される。
【0013】
〈酸化チタン〉
本発明に用いる酸化チタンとしては、紫外光応答型の酸化チタン、可視光応答型の酸化チタンなど、目的の性能を発現させる酸化チタンが適宜選択される。
酸化チタンには、例えば、光触媒活性を向上させるための処理(表面処理、熱処理など)が施されていてもよい。
酸化チタンは、Ti系化合物であってもよく、Ti以外の金属(例えば、白金)を、単体または種々の化合物の態様で含有していてもよい。
【0014】
酸化チタンとしては、市販品を使用してもよく、その具体例としては、AERO OXIDE P25(EVONIC社製)、AERO OXIDE P90(同)、ST-01(石原産業社製)、ST-21(同)、MPT-623(同)などが挙げられるが、これらに限定されない。
なお、ここに例示した市販品のうち、AERO OXIDE P25、AERO OXIDE P90、ST-01およびST-21は、紫外光応答型の酸化チタンであり、MPT-623は、可視光応答型の酸化チタンである。
MPT-623は、白金化合物を用いた表面処理が施された酸化チタンである。
【0015】
これらの酸化チタンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
《酸化チタンの含有量》
本発明のハロイサイト粉末における酸化チタン(TiO)の含有量は、光触媒活性がより優れるという理由から、2.00質量%以上が好ましく、5.00質量%以上がより好ましく、8.00質量%以上が更に好ましい。
上限は特に限定されないが、顆粒構造を維持する観点からは、例えば25.00質量%以下であり、25.00質量%以下が好ましく、15.00質量%以下がより好ましい。
【0017】
TiOの含有量は、蛍光X線(XRF)分析により求める。TiOの含有量は、強熱減量を含めない100%規格化での値である。
XRF分析における具体的な条件は、以下のとおりである。
・使用装置:ZSX Primus IV(リガク社製)
・前処理方法:Li融剤を用いたガラスビード法
・定量方法:耐火物技術協会の蛍光X線分析用標準試料(粘土質れんが標準試料系列)を用いた検量線法
【0018】
〈ハロイサイトの概要〉
ハロイサイトとは、AlSi(OH)・2HO、または、AlSi(OH)で表される粘土鉱物である。
ハロイサイトは、チューブ状(中空管状)、球状、角ばった団塊状、板状、シート状など多様な形状を示す。
チューブ状(中空管状)のハロイサイトであるハロイサイトナノチューブの内径(チューブ孔の径)は、例えば、10~20nm程度である。ハロイサイトナノチューブは、外表面は主にケイ酸塩SiOからなり、内表面は主にアルミナAlからなる。
【0019】
本明細書において、「ハロイサイト」は、「メタハロイサイト」を含むものとする。
「メタハロイサイト」は、AlSi(OH)で表されるハロイサイトのOHが脱水し、低結晶質の状態になったものであり、ハロイサイトの変種を表す用語として、従来、一般的または慣用的に用いられている。
本明細書において、「メタハロイサイト」は、「ハロイサイトを特定の焼成温度で焼成して得られるもの」とする。「特定の焼成温度」は、例えば500℃以上であり、600℃以上が好ましい。
「特定の焼成温度」の上限は特に限定されず、例えば1000℃以下が好ましい。この温度範囲内であれば、ハロイサイトナノチューブの形状(チューブ状)に変化は無い。
【0020】
〈XRD〉
本発明のハロイサイト粉末は、例えば、X線回折(XRD)測定の結果から、ハロイサイトの結晶構造を有することが確認できる(図3を参照)。
図3は、本発明のハロイサイト粉末(後述するハロイサイト粉末1)のXRDパターンである。
図3に示すように、ハロイサイト粉末1のXRDパターンにおいては、2θ=10°付近、20°付近および35°付近に、AlSi(OH)で表されるハロイサイトのピークが認められる。
更に、図3に示すように、ハロイサイト粉末1のXRDパターンにおいては、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)のピークが認められる。
【0021】
XRD測定における具体的な条件は、以下のとおりである。
・使用装置:X線回折分析装置D8ADVANCE(BRUKER社製)
・X線管球:CuKα
・光学系:集中法
・管電圧:35kV
・管電流:40mA
・検出器:一次元半導体検出器
・スキャン範囲:2~70deg
・スキャンステップ:0.021deg
・スキャンスピード:4deg/min
【0022】
〈SEM〉
本発明のハロイサイト粉末に含まれる顆粒が、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒であること、および、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する孔(第1の細孔)を有することは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)写真により確認できる(図1を参照)。
【0023】
図1は、本発明のハロイサイト粉末(後述するハロイサイト粉末1)の顆粒を示すSEM写真である。
図1においては、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトと酸化チタンとが集合してなる球体状の顆粒を確認できる。
より詳細には、酸化チタンは、粒子状であり、単独でまたは複数個ずつ凝集した状態で、顆粒の表面に付着したり、ハロイサイトナノチューブどうしの隙間に入り込んだりしている。
【0024】
更に、図1においては、顆粒表面に、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔(に由来する第1の細孔)の存在も確認できる。
このような第1の細孔を有する顆粒構造が得られる理由は、ハロイサイトナノチューブを含むスラリーがスプレードライ等されることにより、ハロイサイトナノチューブが、そのチューブ形状を維持したまま凝集するためと考えられる。
【0025】
また、図1においては、顆粒表面(とりわけ、ハロイサイトナノチューブどうしの隙間)に、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔(通常、内径は、10~20nm程度)よりも大径の孔(第2の細孔)の存在を確認できる。
このような第2の細孔が得られる理由は、スプレードライ等によってスラリーが顆粒となる際に、スラリーの分散媒が顆粒(の内部)から蒸発して抜けるためと考えられる。
【0026】
〈細孔分布測定〉
本発明のハロイサイト粉末が含む顆粒が上記特有の構造を有することは、本発明のハロイサイト粉末を細孔分布測定した結果(図2を参照)からも、確認できる。
本発明のハロイサイト粉末は、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布(Log微分細孔容積分布)が、2つ以上の細孔径ピークを示すことがより好ましい。以下、より詳細に説明する。
【0027】
図2は、本発明のハロイサイト粉末(後述するハロイサイト粉末1)について、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布(Log微分細孔容積分布)を示すグラフであり、横軸は細孔径[nm]を表し、縦軸は微分細孔容積(dVp/dlogDp)[cm/g]を表す(以下、同様)。
【0028】
図2のグラフにおいては、2つ以上の細孔径ピークが明確に現れている。
より詳細には、10nm以上(より具体的には、例えば、10~100nm)の範囲内に、2つ以上の細孔径ピークが明確に現れている。
更に詳細には、10nm以上20nm以下の範囲内に1つの細孔径ピークが現れ、20nm超(より具体的には、例えば、20nm超100nm以下)の範囲内にも別の細孔径ピークが現れている。
細孔径が小さい方のピーク(10nm以上20nm以下の細孔径ピーク)が、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔(内径:10~20nm程度)に由来する第1の細孔を表しており、細孔径が大きい方のピーク(20nm超の細孔径ピーク)が、チューブ孔とは異なる第2の細孔を表していると言える。
【0029】
本発明のハロイサイト粉末は、第2の細孔を有する場合、後述する全細孔面積および全細孔容積が大きい。
【0030】
具体的には、本発明のハロイサイト粉末の全細孔面積は、59.0m/g以上が好ましく、65.0m/g以上がより好ましく、75.0m/g以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、200.0m/g以下であり、150.0m/g以下が好ましい。
本発明のハロイサイト粉末の全細孔容積は、0.20cm/g以上が好ましく、0.23cm/g以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、0.80cm/g以下であり、0.60cm/g以下が好ましい。
そのほか、本発明のハロイサイト粉末の平均細孔径は、例えば、5.0nm以上であり、11.0nm以上が好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、45.0nm以下であり、35.0nm以下が好ましい。
【0031】
本発明のハロイサイト粉末のBET比表面積(BET法により求める比表面積)は、例えば、30~200m/gであり、50~150m/gが好ましい。
【0032】
次に、細孔分布などの測定方法を説明する。
まず、前処理(120℃で、8時間の真空脱気)を施した後に、定容法を用いて、下記条件で、窒素による吸脱着等温線を測定する。平衡待ち時間は、吸着平衡状態に達してからの待ち時間である。
BET比表面積[m/g]は、窒素吸着等温線からBET法を適用することにより求める。
平均細孔径[nm]は、BET比表面積および全細孔容積[cm/g]の値から算出する。平均細孔径の算出に用いる全細孔容積(便宜的に「算出用全細孔容積」ともいう)は、吸着等温線の相対圧0.99までに存在する細孔で毛管凝縮が成立していると仮定し、吸着等温線の相対圧0.99の吸着量から求める。
更に、窒素吸着等温線からFHH基準曲線を用いてBJH法を適用することにより、Log微分細孔容積分布、全細孔容積[cm/g]および全細孔面積[m/g]を求める。約2.6nmから約200nmの細孔のプロット間隔は、解析ソフトウェアの標準条件を使用する。BJH法により求める全細孔容積および全細孔面積を、それぞれ、「BJH全細孔容積」および「BJH全細孔面積」ともいう。
本発明において、単に「全細孔容積」および「全細孔面積」という場合は、特に断りのない限り、それぞれ、「BJH全細孔容積」および「BJH全細孔面積」を意味するものとする。
・吸着温度:77K
・窒素の断面積:0.162nm
・飽和蒸気圧:実測
・平衡待ち時間:500sec
・前処理装置:BELPREP-vacII(マイクロトラック・ベル社製)
・測定装置:BELSORP-mini(マイクロトラック・ベル社製)
・解析ソフトフェア:BELMaster Version 6.4.0.0(マイクロトラック・ベル社製)
【0033】
〈平均粒径〉
本発明のハロイサイト粉末の平均粒径は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択されるが、例えば、0.5~200μmである。本発明のハロイサイト粉末がスプレードライによって調製される場合、平均粒径は1~100μmが好ましい。
このような粒径の顆粒は、上述したように造粒してサイズを大きくしてもよい。ただし、その場合、平均粒径は5mm以下が好ましい。
有害性への懸念から呼吸器に侵入するサイズを考慮すると、顆粒の最小サイズは1μm以上であることが好ましい。
平均粒径は、マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)を用いて乾式で測定する。
【0034】
[ハロイサイト粉末の製造方法]
次に、本発明のハロイサイト粉末を製造する方法(以下、便宜的に、「本発明の製造方法」ともいう)を説明する。
本発明の製造方法は、少なくとも、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトと酸化チタンとを含有するスラリーを準備する工程(スラリー準備工程)と、上記スラリーから粉末を調製する工程(粉末調製工程)と、を備えることが好ましい。これにより、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトと酸化チタンとが集合してなる顆粒が得られる。
以下、本発明の製造方法の好適態様について、説明する。
【0035】
〈スラリー準備工程〉
スラリー準備工程は、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトと酸化チタンとが水などの分散媒に分散したスラリーを準備できる工程であれば、特に限定されない。
以下に、スラリー準備工程の好適態様を説明する。以下に説明する態様においては、遠心分離後に回収され、酸化チタンが添加された分散相が、スラリー準備工程で調製されるスラリーに相当する。
【0036】
《原料ハロイサイト》
本発明の製造方法に用いる原料であるハロイサイト(以下、「原料ハロイサイト」ともいう)としては、市販品のハロイサイト(ハロイサイトナノチューブ)を使用でき、具体的には、例えば、APPLIED MINERALS社製のハロイサイト(製品名:DRAGONITE-HP)が好適に挙げられる。
【0037】
《スラリー化》
次に、原料ハロイサイトが水に分散したスラリーを得る。原料ハロイサイトを水に分散させる方法は、特に限定されず、例えば、高速ミキサー、ディスパー、ビーズミルおよびホモミキサーなどの従来公知の装置を使用できる。
スラリーの固形分濃度は、特に限定されず、例えば、30~50質量%である。
【0038】
後述する遠心分離の精度に大きく関わることから、スラリーには、分散剤を添加することが好ましい。分散剤を添加することにより、より高濃度のスラリーが得られるため、後述するスプレードライヤなどを用いた乾燥における生産性を向上させる効果もある。
【0039】
分散剤としては、少ない使用量で安定なスラリーが得られることが好ましく、例えば、高分子型のアニオン性界面活性剤(アニオン性高分子界面活性剤)が挙げられる。
アニオン性高分子界面活性剤の具体例としては、特殊ポリカルボン酸型のポイズ520、ポイズ521、ポイズ530(いずれも花王社製)などが挙げられる。
目的用途によってはナトリウムおよびカリウムなどの金属イオンを含んでいない、ポイズ532A、カオーセラ2000、カオーセラ2020、カオーセラ2110(同)なども使用できる。
ポリカルボン酸型に限定されず、アクリル酸型、スルホン酸型なども使用できる。
【0040】
分散剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、スラリー中の全固形分に対して、0.5~3.0質量%が好適に挙げられる。
分散剤の含有量が少なすぎると、スラリー中でのハロイサイトと不純物の粒子の分散が不十分になる場合がある。一方、分散剤の含有量が多すぎると、凝集状態を起こしたり、コストが増加したりする場合がある。更に、後工程における不具合(遠心分離での分散相の回収率の低下、スプレードライでの乾燥不十分、または、焼成における固結もしくは焼失不十分など)が発生しやすくなる場合がある。
【0041】
《粗粒除去》
後述する遠心分離の精度を上げるために、スラリー中の粗粒を除去してもよい。粗粒の除去には、例えば、25~100μmの目開きの篩、湿式サイクロンなどが用いられる。そのほか、スラリーを自然沈降分離させることにより、粗粒を除去してもよい。
【0042】
《遠心分離》
得られたスラリーについて、遠心分離を行ない、下層の沈降相と、上層の分散相とに分離する。沈降相には微砂などの不純物が多く含まれ、分散相にはハロイサイトナノチューブが多く含まれる。分散相(スラリー)の固形分濃度は、例えば、10~30質量%である。
遠心分離に際しての遠心力および処理時間は、一例として、それぞれ、2000~3000Gおよび3~30分間であるが、これに限定されず、分散状態、用途、コストなどを考慮して、適宜設定される。
量産には大型の遠心分離機を使用することもできる。
分散相を回収することにより、微砂などの不純物を含む原料ハロイサイトから、ハロイサイトナノチューブを精製分離することができる。
【0043】
《酸化チタンの添加》
回収した分散相(スラリー)に、酸化チタンを添加する。
添加する酸化チタンは、酸化チタンの分散性が増して、光触媒活性がより優れるという理由から、細かい粒子であることが好ましい。具体的には、添加する酸化チタンの一次粒子径は、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。一次粒子径は、X線法により求める一次粒子径である。
同様の理由から、添加する酸化チタンのBET比表面積は、20m/g以上が好ましく、30m/g以上がより好ましい。
添加量は、例えば、添加後のスラリー中における酸化チタンが5~15質量%となる量であるが、これに限定されない。
添加後、酸化チタンをスラリー中に分散させる。その方法は、特に限定されず、例えば、高速ミキサー、ディスパー、ビーズミルおよびホモミキサーなどの従来公知の装置を使用できる。
【0044】
スラリー準備工程で得られるスラリーには、必要に応じて、精製、分級、磁選、濃縮などの操作を加えることもできる。
【0045】
〈粉末調製工程〉
粉末調製工程は、スラリー準備工程において調製されたスラリーから粉末を調製する工程である。
粉末調製工程において得られた粉末は、更に、転動、撹拌、押出し等の処理を施すことによって、造粒してもよい。これにより、粉末を構成する顆粒のサイズを大きくできる。
【0046】
《スプレードライ》
粉末調製工程としては、例えば、スラリー準備工程において調製されたスラリーをスプレードライすることにより粉末を得る工程が挙げられる。
【0047】
準備されたスラリーをスプレードライするためには、微小液滴状に噴霧(微粒化)し、これを熱風に当てて乾燥することにより、瞬時に粉末を得る装置であるスプレードライヤが使用される。スプレードライヤは、従来公知の装置であり、例えば、大川原化工機社製、藤崎電機社製、日本化学機械製造社製などのスプレードライヤが挙げられる。
スプレードライヤにおいては、液体原料を噴霧(微粒化)して得られる液滴のサイズを変更することにより、乾燥して得られる粉末粒子(顆粒)の粒径も制御される。
スプレードライヤを用いて液体原料を微粒化する方式としては、特に限定されず、所望する液滴のサイズに応じて、例えば、二流体ノズル方式、圧力ノズル(加圧ノズル)方式、四流体ノズル方式(ツインジェットノズル方式)、または、回転ディスク方式などの従来公知の方式を、適宜選択できる。乾燥して得られる粉末粒子(顆粒)の粒径は、スラリーの濃度および/または処理量などによっても変化するので、目的の粒径を得るためには、微粒化方式に加え、スラリーの状態を適宜選択することになる。
熱風と噴霧液滴との接触方式についても、例えば、熱風と噴霧液滴とがともに下方向に向かう一般的な並流型;噴霧液滴が下方向に対して熱風が上方向の向流となる向流型;上方に噴霧液滴が向かい、下方に熱風が向かう並向流型;などが適宜選択される。
【0048】
スプレードライは、瞬間的に熱をかけるため、粉末そのものに高い温度がかかることがない。スプレードライは、スラリーを乾燥させて直接的に粉末を得るため、ろ過、乾燥および粉砕などの処理が不要であり、これらの一連の作業時に発生し得るコンタミを抑制できる。
【0049】
《媒体流動乾燥》
上記スラリーから粉末を調製する手段としては、本発明のハロイサイト粉末を得ることができれば、上述したスプレードライに限定されず、例えば、媒体流動乾燥(ボール入り流動層乾燥)であってもよい。
すなわち、粉末調製工程は、スラリー準備工程において調製されたスラリーを媒体流動乾燥することにより粉末を得る工程であってもよい。
媒体流動乾燥は、概略的には、例えば、まず、被乾燥物であるスラリーを、流動中の1~3mmφのセラミックボール層に連続的に供給することにより、ボール表面に付着させる。被乾燥物は、加熱されたボールからの熱伝導と流動化熱風からの対流伝熱とによって瞬時に乾燥され、ボールどうしの衝突によりボール表面から剥離する。こうして粉末が得られる。
【0050】
〈焼成工程〉
本発明のハロイサイト粉末の製造方法は、粉末調製工程において得られた粉末を焼成する工程(焼成工程)を更に備えていてもよい。
なお、上述したスラリー化において界面活性剤などの分散剤を使用する場合には、スプレードライ等によって得られる粉末にも分散剤が残存している場合があるが、焼成を施すことにより、分散剤が除去される効果もある。
【0051】
焼成温度は、焼成後のXRD測定においてハロイサイトまたはメタハロイサイトの結晶構造が維持できる温度が好ましい。具体的には、焼成温度は、200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、400℃以上が更に好ましい。一方、焼成温度は、1000℃以下が好ましく、900℃以下がより好ましく、800℃以下が更に好ましい。
焼成時間は、0.5時間以上が好ましく、0.75時間以上がより好ましい。一方、焼成時間は、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。
【0052】
本発明の製造方法が、焼成工程を備えない場合、粉末調製工程において得られた粉末が、本発明のハロイサイト粉末となる。
一方、本発明の製造方法が、焼成工程を備える場合、焼成工程において焼成された粉末が、本発明のハロイサイト粉末となる。
【実施例
【0053】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0054】
[試験1]
〈実施例1〉
《ハロイサイト粉末1の調製》
以下のようにして、ハロイサイト粉末1(上述した「本発明のハロイサイト粉末」に相当する)を製造した。
【0055】
(原料ハロイサイト)
原料ハロイサイトとして、APPLIED MINERALS社製のハロイサイト(製品名:DRAGONITE-HP)を準備した。
【0056】
(スラリー化)
高速ミキサー(日本精機製作所社製、ウルトラホモミキサーUHM-20(20リットル))に、原料ハロイサイト、水およびアニオン性高分子界面活性剤(花王社製、ポイズ520)を入れ、10分間、10,000rpmの処理を行なうことにより、原料ハロイサイトが水に分散したスラリー(固形分濃度:40質量%)を得た。スラリーの全固形分に対するアニオン性高分子界面活性剤の含有量は、1.5質量%添加とした。
【0057】
(遠心分離)
遠心分離機(コクサン社製、小型卓上遠心機H-19α)を用いて、2470Gの遠心力で、10分間の遠心操作を行ない、スラリーを沈降相と分散相とに分離し、分散相を回収した。
【0058】
(酸化チタンの添加)
回収した分散相(スラリー)の固形分90質量部に対して、BET比表面積が90m/gである紫外光応答型の酸化チタン(EVONIC社製、AERO OXIDE P90)を10質量部添加した。更に、水を加えて、全固形分を15質量%に調整し、高速ミキサー(日本精機製作所社製、ウルトラホモミキサーUHM-20)を用いて、10分間、7000rpmの処理を行なうことにより、酸化チタンをスラリー中に分散させた。
【0059】
(スプレードライ)
酸化チタンを添加した分散相(スラリー)を、スプレードライヤを用いてスプレードライすることにより、粉末(ハロイサイト粉末)を得た。
スプレードライヤとしては、大川原化工機社製のスプレードライヤL-8iを用い、スラリーをポンプで定量供給して、スラリーの微粒化(噴霧)を行なった。熱風と噴霧液滴との接触方式については、熱風と噴霧液滴とがともに下方向に向かう並流型で行なった。スプレードライ条件を以下に示す。
・微粒化方式:四流体ノズル方式
・噴霧エア圧力:0.20MPa
・水分蒸発量:2.1kg/h
・入口温度:190℃
・出口温度:80℃
【0060】
《ハロイサイト粉末1の評価》
ハロイサイト粉末1を、次のように評価した。
【0061】
(TiOの含有量)
ハロイサイト粉末1について、TiOの含有量を測定した。結果を以下に示す。測定条件は、上述したとおりである。
・TiOの含有量:11.7質量%
【0062】
(XRD)
ハロイサイト粉末1について、XRD測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図3は、ハロイサイト粉末1のXRDパターンである。図3に示すように、ハロイサイト粉末1のXRDパターンにおいては、2θ=10°付近、20°付近および35°付近に、ハロイサイトのピークが認められる。更に、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)のピークも認められる。
【0063】
(SEM)
ハロイサイト粉末1のSEM写真を撮影した。
図1は、ハロイサイト粉末1の顆粒を示すSEM写真である。
図1のSEM写真から、ハロイサイト粉末1については、ハロイサイトナノチューブを含むハロイサイトが集合してなる顆粒を含むこと、および、その顆粒表面にハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する孔(第1の細孔)が存在することが確認できた。更に、その顆粒断面(図示せず)には、ハロイサイトナノチューブのチューブ孔よりも大径の孔(第2の細孔)が存在することが確認できた。
また、図1のSEM写真においては、粒子状の酸化チタン粒子が、単独でまたは複数個ずつ凝集した状態で、顆粒の表面に付着していたり、顆粒を構成するハロイサイトナノチューブどうしの隙間に入り込んでいたりしていることが確認できた。
【0064】
(細孔分布測定)
ハロイサイト粉末1について、窒素吸脱着等温線を測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図2は、窒素吸着等温線からBJH法により求めたハロイサイト粉末1の微分細孔分布を示すグラフである。横軸は細孔径[nm]を表し、縦軸は微分細孔容積(dVp/dlogDp)[cm/g]を表す。図2のグラフにおいては、10nm以上(10~100nm)の範囲内に2つ以上の細孔径ピークが確認された。
【0065】
細孔分布測定に伴い、ハロイサイト粉末1について、BJH全細孔容積、BET比表面積および平均細孔径を求めた。結果を以下に示す。
・BJH全細孔容積:0.48cm/g
・BET比表面積:63.32m/g
・平均細孔径:30.3nm
【0066】
(平均粒径)
ハロイサイト粉末1について、平均粒径を測定した。結果を以下に示す。
・平均粒径:6.2μm
【0067】
《メチレンブルー吸着試験》
0.20gのハロイサイト粉末1を50mLの遠沈管に加え、更に、質量/体積パーセント濃度が0.02%であるメチレンブルー溶液(100mL中のメチレンブルーの質量:0.02g)を20mL添加した。このメチレンブルー溶液は、シグマアルドリッチ社製の質量/体積パーセント濃度が0.5%である細菌染色用メチレンブルー溶液(100mL中のメチレンブルーの質量:0.5g)を純水で希釈することにより調製した。
ハロイサイト粉末1とメチレンブルー溶液とを入れた遠沈管を、チューブローテータ(アズワン社製、MX-RL-Pro)にセットして、室温で、24時間攪拌した。
攪拌後、遠心分離機(久保田商事社製、高速大容量冷却遠心機7000)を用いて、遠沈管の内容物を、固液分離させた。
固液分離した内容物を目視で観察したところ、沈降した固体側は青色を呈していたのに対して、液体側は、ほぼ無色透明であった。沈降した固体側のハロイサイト粉末1が、メチレンブルーの分子を吸着したため、青色を呈したと考えられる。すなわち、ハロイサイト粉末1には、メチレンブルーの吸着能が認められた。
【0068】
《光触媒試験A(紫外光)》
メチレンブルーを吸着した沈降物を、ろ紙上に塗布し、乾燥することで、ろ紙上に固形物を固定した。ろ紙上に固定された固形物に、365nmの波長の光を照射する試験を行ない、メチレンブルーの分解を観察した。
より詳細には、光源であるUVランプ(アズワン社製、ハンディUVランプLUV-6 365nm 9w)を、そのランプ用の暗箱(アズワン社製)に取り付けた。暗箱内において、固形物が付いたろ紙を、光源から15cmの距離に配置した。
時間の経過とともに、メチレンブルーの青色は消失し、185時間後には、そのほとんどが消失した。
このことから、ハロイサイト粉末1には、良好な光触媒活性が認められた。
【0069】
〈比較例1〉
分散相(スラリー)に酸化チタンを添加しなかった点以外は、実施例1(ハロイサイト粉末1)と同様にして、粉末を得た。これをハロイサイト粉末X1とした。
【0070】
ハロイサイト粉末X1について、実施例1と同様に、BJH全細孔容積、BET比表面積、平均細孔径および平均粒径を求めた。結果を以下に示す。
・BJH全細孔容積:0.39cm/g
・BET比表面積:62.13m/g
・平均細孔径:29.9nm
・平均粒径:5.8μm
【0071】
ハロイサイト粉末X1について、実施例1と同様に、メチレンブルー吸着試験を行なった。その結果、実施例1と同様に、沈降した固体側は青色を呈していたのに対して、液体側は、ほぼ無色透明であった。すなわち、ハロイサイト粉末X1にメチレンブルーの吸着能が認められた。
【0072】
次に、実施例1と同様に、光触媒試験Aを行なった。しかし、実施例1とは異なり、時間が経過しても、メチレンブルーの青色に変化は無かった。
【0073】
〈比較例2〉
酸化チタン(EVONIC社製、AERO OXIDE P90)を、そのまま用いた。これを、酸化チタンX2とした。
酸化チタンX2について、実施例1と同様に、メチレンブルー吸着試験を行なった。
しかし、実施例1および比較例1とは異なり、沈降した固体側は、もともとの酸化チタンの白色であり、液体側は、用いたメチレンブルー溶液とほぼ同じ青色であった。
【0074】
[試験2]
〈実施例2〉
《ハロイサイト粉末2の調製》
以下のようにして、ハロイサイト粉末2(上述した「本発明のハロイサイト粉末」に相当する)を製造した。
【0075】
(原料ハロイサイト)
実施例1と同じ原料ハロイサイトを用いた。
【0076】
(スラリー化)
アニオン性高分子界面活性剤を花王社製の「ポイズ532A」に変更した以外は、実施例1と同様にして、原料ハロイサイトをスラリー化した。
【0077】
(遠心分離)
実施例1と同様にして、遠心操作を行ない、分散相(スラリー)を回収した。
【0078】
(酸化チタンの添加)
回収した分散相(スラリー)の固形分90質量部に対して、一次粒子径が20nmである紫外光応答型の酸化チタン(石原産業社製、ST-21)を10質量部添加した。高速ミキサー(日本精機製作所社製、ウルトラホモミキサーUHM-20)を用いて、10分間、10000rpmの処理を行なうことにより、酸化チタンをスラリー中に分散させた。更に、水を加え、同じ高速ミキサーを用いて同様の処理を行ない、粘度を8.5cPとした。粘度は、Brookfield B型粘度計LVDVEを用い、スピンドルS61,100rpmの条件で測定した。
【0079】
(スプレードライ)
酸化チタンを添加した分散相(スラリー)を、実施例1と同様にして、スプレードライすることにより、粉末を得た。
【0080】
(焼成)
スプレードライにより得られた粉末を、エアーフロー中の電気炉内で、4℃/minで昇温した後、650℃で1時間保持することにより、焼成した。焼成後の粉末を、ハロイサイト粉末2とした。
【0081】
《ハロイサイト粉末2の評価》
ハロイサイト粉末2を、次のように評価した。
【0082】
(TiOの含有量)
ハロイサイト粉末2について、TiOの含有量を測定した。結果を以下に示す。測定条件は、上述したとおりである。
・TiOの含有量:10.5質量%
【0083】
(XRD)
ハロイサイト粉末2について、XRD測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図6は、ハロイサイト粉末2のXRDパターンである。図6に示すように、ハロイサイト粉末2のXRDパターンにおいては、結晶性の低いブロードなメタハロイサイトのピークと、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)のピークとが認められる。
【0084】
(SEM)
ハロイサイト粉末2のSEM写真を撮影した。
図4は、ハロイサイト粉末2の顆粒を示すSEM写真である。
図1のSEM写真(実施例1)と同様に、図4のSEM写真から、ハロイサイト粉末2については、メタハロイサイトナノチューブを含むメタハロイサイトが集合してなる顆粒を含むこと、および、その顆粒表面にメタハロイサイトナノチューブのチューブ孔に由来する孔(第1の細孔)が存在することが確認できた。更に、その顆粒断面(図示せず)には、メタハロイサイトナノチューブのチューブ孔よりも大径の孔(第2の細孔)が存在することが確認できた。
また、図4のSEM写真においては、粒子状の酸化チタン粒子が、単独でまたは複数個ずつ凝集した状態で、顆粒の表面に付着していたり、顆粒を構成するハロイサイトナノチューブどうしの隙間に入り込んでいたりしていることが確認できた。
【0085】
(細孔分布測定)
ハロイサイト粉末2について、窒素吸脱着等温線を測定した。測定条件は、上述したとおりである。
図5は、窒素吸着等温線からBJH法により求めたハロイサイト粉末2の微分細孔分布を示すグラフである。横軸は細孔径[nm]を表し、縦軸は微分細孔容積(dVp/dlogDp)[cm/g]を表す。図1のグラフ(実施例1)と同様に、図5のグラフにおいては、10nm以上(10~100nm)の範囲内に2つ以上の細孔径ピークが確認された。
【0086】
細孔分布測定に伴い、ハロイサイト粉末2について、BJH全細孔容積、BET比表面積および平均細孔径を求めた。結果を以下に示す。
・BJH全細孔容積:0.41cm/g
・BET比表面積:67.32m/g
・平均細孔径:24.3nm
【0087】
《メチレンブルー吸着試験》
実施例1で用いた質量/体積パーセント濃度が0.02%であるメチレンブルー溶液を、質量/体積パーセント濃度が0.0028%であるメチレンブルー溶液(100mL中のメチレンブルーの質量:0.0028g)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、ハロイサイト粉末2について、メチレンブルー吸着試験を行なった。
その結果、実施例1と同様に、沈降した固体側は青色を呈していたのに対して、液体側は、ほぼ無色透明であった。
液体側のメチレンブルー濃度を測定し、メチレンブルーの吸着量を算出した。その結果、ハロイサイト粉末2の粉末1g当たり2.8mgのメチレンブルーを吸着したことが分かった。
【0088】
《光触媒試験A(紫外光)》
メチレンブルーを吸着した沈降物を回収および乾燥して得られた固形物を両面テープ上に固定し、実施例1と同様にして、UVランプを用いて、光触媒試験Aを行なった。
時間の経過とともに、メチレンブルーの青色は消失し、217時間後には、そのほとんどが消失した。
このことから、ハロイサイト粉末2には、良好な光触媒活性が認められた。
【0089】
《光触媒試験B(可視光)》
両面テープ上に固定された固形物に対して、紫外光を含まないLED光を照射する試験を行ない、メチレンブルーの分解を観察した。
より詳細には、光源であるLEDランプ(オーム電機社製、LEDデスクランプ DS-LS24DSM/K-W)から、30cmの距離に、両面テープ上に固定された固形物を配置した。217時間後には青色の変化が認められ、メチレンブルーの分解が進んでいることが確認された。
【0090】
実施例2においては、紫外光応答型の酸化チタン(石原産業社製、ST-21)を用いたにも拘らず、紫外光による光触媒活性だけでなく(光触媒試験Aの結果を参照)、可視光による光触媒活性も有意に認められた(光触媒試験Bの結果を参照)。これは、紫外光応答型の酸化チタンをハロイサイトに複合化したことによる効果であると推測される。
【0091】
〈比較例3〉
分散相(スラリー)に酸化チタンを添加しなかった点以外は、実施例2(ハロイサイト粉末2)と同様にして、粉末を得た。これをハロイサイト粉末X3とした。
ハロイサイト粉末X3について、実施例2と同様に、メチレンブルー吸着試験を行なった。その結果、実施例2と同様に、沈降した固体側は青色を呈していたのに対して、液体側は、ほぼ無色透明であった。液体側のメチレンブルー濃度を測定し、メチレンブルーの吸着量を算出した。その結果、ハロイサイト粉末2と同様に、ハロイサイト粉末X3の粉末1g当たり2.8mgのメチレンブルーを吸着したことが分かった。
次に、実施例2と同様に、光触媒試験A(紫外光)および光触媒試験B(可視光)を行なった。しかし、実施例2とは異なり、両試験ともに、時間が経過しても、メチレンブルーの青色に変化は無かった。
【0092】
〈比較例4〉
実施例2に使用した酸化チタン(石原産業社製、ST-21)を、そのまま用いた。これを、酸化チタンX4とした。
酸化チタンX4について、実施例2と同様に、メチレンブルー吸着試験を行なった。
しかし、実施例2および比較例3とは異なり、沈降した固体側は、もともとの酸化チタンの白色であり、液体側は、用いたメチレンブルー溶液とほぼ同じ青色であった。液体側のメチレンブルー濃度を測定しても、酸化チタンX4にメチレンブルーの吸着は認められなかった。
【0093】
〈比較例5〉
酸化チタンX4を、実施例2と同様にして、650℃で1時間焼成した。これを、酸化チタンX5とした。
酸化チタンX5について、実施例2と同様に、メチレンブルー吸着試験を行なった。
しかし、実施例2および比較例3とは異なり、沈降した固体側は、もともとの酸化チタンの白色であり、液体側は、用いたメチレンブルー溶液とほぼ同じ青色であった。液体側のメチレンブルー濃度を測定しても、酸化チタンX5にメチレンブルーの吸着は認められなかった。
【0094】
[試験3]
酸化チタンを「ST-21」以外の酸化チタンに変更したうえで、実施例2と同様に試験をした。
具体的には、実施例1で用いた「AERO OXIDE P90」のほか、「AERO OXIDE P25」(EVONIC社製)、「ST-01」(石原産業社製)および「MPT-623」(石原産業社製)を用いて、実施例2と同様にして、ハロイサイト粉末を調製し、試験をした。
このような試験をしたところ、メチレンブルー吸着試験、光触媒試験A(紫外光)および光触媒試験B(可視光)については、いずれも、実施例2と同様の結果が得られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6