(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】タングステンを含む粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230810BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20230810BHJP
B22F 9/20 20060101ALN20230810BHJP
B22F 9/22 20060101ALN20230810BHJP
【FI】
B22F1/00 P
B22F1/05
B22F9/20 H
B22F9/22 H
(21)【出願番号】P 2022522049
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2021045062
(87)【国際公開番号】W WO2022138156
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2020211334
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 雅玄
(72)【発明者】
【氏名】河野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】蒲生 文隆
(72)【発明者】
【氏名】不動 貴之
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-154323(JP,A)
【文献】特開昭54-079152(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070466(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0164063(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/22
C22C 27/04
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを
90質量%以上含む粉末の、FSSS法により得られるFSSS平均粒子径をa(μm)とし、前記タングステンを含む粉末のタップボリュームの逆数である密度TDをp(g/cm
3)とした場合、前記FSSS平均粒子径aの範囲が0.5μm≦a≦5.0μmにおいて、p≧0.37a+7.04の関係式を満たす、タングステンを含む粉末。
【請求項2】
タングステンを
90質量%以上含む粉末の、FSSS法により得られるFSSS平均粒子径をa(μm)とし、前記タングステンを含む粉末のタップボリュームの逆数である密度TDをp(g/cm
3)とした場合、前記FSSS平均粒子径aの範囲が5.0μm<a≦30μmにおいて、p≧0.09a+8.44の関係式を満たす、タングステンを含む粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タングステンを含む粉末に関する。本出願は、2020年12月21日に出願した日本特許出願である特願2020-211334号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、タングステンを含む粉末は、たとえば特開昭54-79152号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示のタングステンを含む粉末の、FSSS法により得られるFSSS平均粒子径をa(μm)とし、前記タングステンを含む粉末のタップボリュームの逆数である密度TDをp(g/cm3)とした場合、前記FSSS平均粒子径aの範囲が0.5μm≦a≦5.0μmにおいて、p≧0.37a+7.04の関係式を満たす。
【発明を実施するための形態】
【0005】
[本開示が解決しようとする課題]
従来のタングステンを含む粉末においては、その粉末を用いて焼結体を製造した場合に焼結体の密度のバラツキが大きくなるという問題があった。
【0006】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0007】
従来法では、WO3、WO2.9、WO2等のタングステン酸化物を原料とし、これら原料を金属製ボートに充填し、所定の温度に加熱された炉内を金属製ボートが移動することで、水素ガスによる還元反応が起こり、タングステンを含む粉末が製造される。
【0008】
特許文献1においては、還元工程以前のタングステン酸アンモン、アンモニウムパラタングステートおよびタングステン酸化物の何れかにモリブデンを0.03~1.0重量.%t添加する工程と、950℃以上で還元する工程を具備することを特徴とする焼結性の優れたタングステンを含む粉末の製造方法が開示されている。
【0009】
融点が高く熔解法での生産が難しいタングステン金属製品は通常粉末冶金法で生産されるが粉末冶金法での金属タングステンの焼結は用いる粉末の特性の影響を受け安定して同じ形状の物を作ることが難しい。
【0010】
焼結性を上げるため、添加剤を入れる手法が用いられていることがある。しかしながら添加剤を入れると焼結性は良くなるが、金属の物理特性が悪化することが考えられる。
【0011】
従来は、ボールミルまたはビーズミルなど粉砕装置を用いて粉末のかさ密度を高くできるが、粉砕時に発生するコンタミは避けることが困難であり、粉末特性に影響を及ぼす可能性がある。焼結での密度ばらつきを低減させることでタングステン焼結体の形状を安定化することができる。
【0012】
本開示に従った1つの方法においては、還元の各段階で分級しながら微粒粉、粗大粒、凝集粒子を取り除く。これにより、かさ密度の高いタングステンを含む粉末が得られる。粉砕機を使用しないためコンタミの発生が抑えられる。
【0013】
タングステンを含む粉末はタングステンの割合が90質量%以上であればよい。タングステンを含む粉末はタングステンの割合が90質量%以上であれば、ガス成分である酸素、および窒素並びに前記ガス成分以外の不可避不純物元素を含むことができる。また、不純分以外の成分としてアルミニウム、カルシウム、クロム、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、シリコン、錫、ナトリウム、カリウム、および第3族に属する元素の内、少なくとも一種の意図的に添加された添加元素を含むことができる。ナトリウム、カリウムは原子吸光分析法、それ以外はICP(Inductively Coupled Plasma)により検出することが可能である。第3族に属する元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタノイドおよびアクチノイドがある。
【0014】
本開示のタングステンを含む粉末は、微粉粒子、粗大粒子や凝集粒子を取り除くことでタングステンを含む粉末のかさ密度が高くなり、焼結を行った際に密度ばらつきの少ない焼結体が得られる。
【0015】
本発明者は、以下の特性値を所定の範囲とすることで効果が得られることを見出した。
タングステンを含む粉末粒度(FSSS法)とTD(タップボリュームの逆数)
タングステンを含む粉末の、FSSS法により得られるFSSS平均粒子径をa(μm)、タップボリュームの逆数である密度TDをp(g/cm3)とした場合、aの範囲が0.5μm≦a≦5.0μmのときにp≧0.37a+7.04となる。5.0μm<a≦30μmのときにp≧0.09a+8.44となる。より好ましい範囲としては、0.5μm≦a≦5.0μmのとき、p≧0.32a+7.76、5.0μm<a≦30μmのとき、p≧0.1a+8.86である。なお、pの上限は12.1g/cm3である。
【0016】
<タップ密度測定方法>
タップ容積測定装置(株式会社セイシン企業製)を用い、タップ法見掛け嵩密度TD(g/cm3)の測定はJIS Z 2512(2012)に準拠して行った。
【0017】
<焼結体密度ばらつき>
焼結体密度ばらつきをeとしたときeは0.05g/cm3以上0.20g/cm3以下となる。焼結体密度ばらつきは焼結体10個の密度を測定した時の最大値および最小値の差とした。
【0018】
また、より好ましい範囲は、eが0.05g/cm3以上0.15g/cm3以下となるときである。
【0019】
焼結体密度ばらつきを測定するには、FSSS法によるタングステンを含む粉末のFSSS平均粒子径aが0.5μmから30μmの範囲の均粒のタングステンを含む粉末のみを使用して圧粉体を作製する。圧粉体の測定方法としては、縦10mm、横30mmの金型に30gのタングステンを含む粉末を投入し、30tプレス機で98MPaの圧力がかかるようにプレス成型した。プレス成型された圧粉体を1300~1900℃で3h焼結し、焼結体の密度はアルキメデス法を用いて測定した。
【0020】
<製造方法>
タングステンを含む粉末を製造するに以下の工程1から7に従って、酸化タングステン粉末を還元する。工程1(原料準備)、工程2(原料篩分)、工程3(還元工程)、工程4(中間篩分1)工程5(還元工程)、工程6(中間篩分2)、工程7(還元工程)の各工程を詳細に説明する。
【0021】
工程1:原料準備
酸化物原料には主にWO3、WO2.9、WO2がある。この中から粒度毎に最適な原料を選択する。
【0022】
工程2:原料篩分
各原料を所定の目開きの篩網を設置し、原料を通して、粗粒および微粒粉を除き回収する。篩網の目開きは、原料および目標とするタングステンを含む粉末粒度により適宜変更する。
【0023】
工程3:還元工程(WO3の還元)
工程2でWO3を篩分した場合、目標とするタングステンを含む粉末の粒度により最適な還元条件(温度、水素流量、原料投入量、使用設備など)を適宜選択する。低温もしくは水蒸気分圧を下げることで凝集が低減されやすい。
【0024】
WO3をWO2.9に還元する場合には、還元雰囲気の温度は、たとえば450℃以上700℃以下である。篩分後のWO3を所定の金属ボートに対して50mm以下の層厚で充填することができる。1層の充填量をできるだけ少なくすることで還元されやすくなる。さらに、還元時の凝集による粒子の不揃いがなくなり、凝集の少ないW酸化物が得られやすい。WO3の場合、篩分した原料をボートに充填する。プッシャー炉にボートを挿入する。組成がWO2.9となるまで還元してプッシャー炉からボートを取り出す。
【0025】
工程4:中間篩分1
組成がWO2.9の粉末に対して、再度篩分を行う。篩網の目開きは、原料および目標とするタングステンを含む粉末粒度により適宜変更する。
【0026】
工程5:還元工程
中間篩分後の組成WO2.9の粉末をボートに充填する。プッシャー炉にボートを挿入する。組成がWO2となるまで還元してプッシャー炉からボートを取り出す。この還元雰囲気の温度は、たとえば600℃以上800℃以下である。
【0027】
所定の金属ボートに対して50mm以下の層厚で充填することができる。1層の充填量をできるだけ薄くすることで還元されやすく還元時の凝集による粒子の不揃いがなくなり、凝集の少ないW酸化物が得られやすい。WO2.9粉末の場合、篩分した原料をボートに充填する。プッシャー炉にボートを挿入する。組成がWO2となるまで還元してプッシャー炉からボートを取り出す。
【0028】
工程6:中間篩分2
組成がWO2の粉末に対して、再度篩分を行う。還元工程で発生した粗大凝集粒を除き、篩下の粉末を回収する。
【0029】
工程7:還元工程(WO2からWへの還元)
篩分したWO2粉末をボートに充填する。プッシャー炉にボートを挿入する。組成がWとなるまで還元してプッシャー炉からボートを取り出す。還元雰囲気の温度は、たとえば750℃以上1000℃以下である。所定の金属ボートに対して50mm以下の層厚で充填することができる。1層の充填量をできるだけ薄くすることで還元されやすく還元時の凝集による粒子の不揃いがなくなり、凝集の少ない均粒なタングステンを含む粉末が得られやすい。
【0030】
この例では、原料としてWO3粉末を用いたために工程1から7を採用したが、原料としてWO2.9と用いる場合には上記の工程1から3を省略することができる。この場合、原料のWO2.9を篩分する工程4から製造方法を開始する。
【0031】
原料をWO2とすると、工程1から5を省略することができる。この場合、原料のWO2を篩分する工程6から製造方法を開始する。
【0032】
[本開示の実施形態の詳細]
<実施例>
試料番号が1または2桁のものは実施例、3桁のものは比較例である。
【0033】
試料番号1~3では、原料にWO2.9粉末を利用した。目開き90~100μmの篩で篩分して粗粉部を除去した。目開き40~50μmの篩で篩分し微粉側を除去した(工程4)。
【0034】
所定の金属ボートに粉末を充填した。この時粉末の層厚は50mm以下にした。プッシャー式還元炉を用い、水素雰囲気、640~650℃の条件で還元処理を行い、WO2粉末を得た(工程5)。
【0035】
得られたWO2粉末を目開き20~30μmの篩で篩分し、粗粉および凝集粉を除去した。例えば、分級機(フロイント・ターボ社製ターボスクリーナー)を用いて分級することができる(工程6)。30μm以下で分級できれば、装置はこれに限ったものではない。
【0036】
篩下粉をさらにプッシャー式還元炉を用い、水素雰囲気、800~820℃、層厚10mm以下の条件で還元処理を行い、タングステンを含む粉末を得た(工程7)。
【0037】
試料番号4から23の製造に当たっては、原料としてWO3粉末を使用した。
WO3粉末を目開き90または100μmの篩で篩分し、粗粉および凝集粉を除去した。目開き40~50μmの篩で微粉を除去した(工程2)。
【0038】
篩上粉を使用し、この粉末を所定の容器に充填した。この時粉末の層厚は50mm以下にした。プッシャー式還元炉を用い、水素雰囲気、還元温度600℃の条件で還元処理を行い、WO2.9粉末を得た(工程3)。
【0039】
還元して得られたWO2.9粉末を目開き75または90μmの篩で篩分し、篩下粉を回収した。さらに目開き45μmの篩で篩分を行い、その篩上粉を得た(工程4)。
【0040】
篩下粉を層状に積層した。プッシャー式還元炉を用い、水素雰囲気、還元温度640℃~760℃、層厚は50mm以下の条件で還元処理を行った。これによりWO2粉末を得た(工程5)。
【0041】
還元して得られたWO2粉末を目開き20~70μmで篩分し、粗粉および凝集粉を除去した(工程6)。70μm以下で分級できれば、分級方法はこれに限ったものではない。
【0042】
得られた篩下WO2を層状に積層し、プッシャー式還元炉を用い、水素雰囲気、還元温度800℃~1000℃、層厚30mm以下の条件で還元処理を行い、タングステンを含む粉末を得た(工程7)。
【0043】
得られた試料番号1から23のタングステンを含む粉末について、FSSS法により粒径を測定したところ、FSSS平均粒子径は0.5~30μmであった。これらの粉末の製造条件を表1に示す。
【0044】
【0045】
比較例である試料番号101および102に関して、原料にWO2.9を使用した。所定の容器に前記の原料を層厚が10mm以下になるように充填した。プッシャー式還元炉を用いて、水素雰囲気、還元温度800℃~820℃での条件で還元処理を行い、タングステンを含む粉末を得た。
【0046】
比較例である試料番号103から110に関して、原料にWO3を使用した。所定の容器に前記の原料を層厚が30mm以下になるように充填した。プッシャー式還元炉を用いて、水素雰囲気、還元温度840℃~1000℃での条件で還元処理を行い、タングステンを含む粉末を得た。これらの粉末の製造条件を表2に示す。
【0047】
【0048】
上記のタングステンを含む粉末のFSSS平均粒子径、TD(p)、タングステンを含む粉末を焼結した焼結体の密度ばらつきを調べた。縦10mm、横30mmの金型に30gのタングステンを含む粉末を投入し、30tプレス機で98MPaの圧力がかかるようにプレス成型した。プレス成型された圧粉体を1300~1900℃で3時間焼結し、焼結体の密度はアルキメデス法を用いて測定した。その結果を表3および表4に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
表3および表4の「0.37a+7.04 or 0.09a+8.44」の欄において、FSSS平均粒子径aが5.0μm以下であれば「0.37a+7.04」の値を表示し、aが5.0μm以上であれば「0.09a+8.44」の値を表示している。
【0052】
表3および表4の「0.32a+7.76 or 0.1a+8.86」の欄において、FSSS平均粒子径aが5.0μm以下であれば「0.32a+7.76」の値を表示し、aが5.0μm以上であれば「0.1a+8.86」の値を表示している。
【0053】
表3および表4の結果から、FSSS平均粒子径aの範囲が0.5μm≦a≦5.0μmにおいて、p≧0.37a+7.04の関係式を満たす場合、または、FSSS平均粒子径aの範囲が5.0μm<a≦30μmにおいて、p≧0.09a+8.44の関係式を満たす場合、焼結体の密度のばらつきが小さくなることが確認された。
【0054】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。