(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】シリンダライナ及びシリンダボア
(51)【国際特許分類】
F02F 1/20 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
F02F1/20
(21)【出願番号】P 2022530463
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2020023058
(87)【国際公開番号】W WO2021250859
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591206120
【氏名又は名称】TPR工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田牧 清治
(72)【発明者】
【氏名】大泉 貴志
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062490(JP,A)
【文献】国際公開第2004/090318(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0153392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00- 1/42
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に用いられるシリンダライナであって、
前記シリンダライナの内周面には、複数の溝部が形成されており、
前記シリンダライナの内周面は、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域と、第2の摺動領域と、第3の摺動領域と、を有し、
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域と第3の摺動領域とは連続した領域であって、且つ、前記第1の摺動領域は第2の摺動領域に対してより燃焼室側に位置しており、
前記第1の摺動領域の表面粗さRvkは0.05μm以上0.3μm以下であり、前記第2の摺動領域の表面粗さRvkは0.4μm以上1.5μm以下であり、前記第3の摺動領域の表面粗さRvkは0.15μm以上0.7μm以下であ
り、
前記第1の摺動領域の表面粗さRvkが前記第3の摺動領域の表面粗さRvkよりも小さい、シリンダライナ。
【請求項2】
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域との境界は、クランク角40°以上60°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在する、請求項1に記載のシリンダライナ。
【請求項3】
前記第2の摺動領域と第3の摺動領域との境界は、クランク角130°以上150°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在する、請求項1に記載のシリンダライナ。
【請求項4】
前記内燃機関がディーゼル用内燃機関である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリンダライナ。
【請求項5】
内燃機関のシリンダボアであって、
前記シリンダボアの内周面には、複数の溝部が形成されており、
前記シリンダボアの内周面は、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域と、第2の摺動領域と、第3の摺動領域と、を有し、
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域と第3の摺動領域とは連続した領域であって、且つ、前記第1の摺動領域は第2の摺動領域に対してより燃焼室側に位置しており、
前記第1の摺動領域の表面粗さRvkは0.05μm以上0.3μm以下であり、前記第2の摺動領域の表面粗さRvkは0.4μm以上1.5μm以下であり、前記第3の摺
動領域の表面粗さRvkは0.15μm以上0.7μm以下であ
り、
前記第1の摺動領域の表面粗さRvkが前記第3の摺動領域の表面粗さRvkよりも小さい、シリンダボア。
【請求項6】
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域との境界は、クランク角40°以上60°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在する、請求項5に記載のシリンダボア。
【請求項7】
前記第2の摺動領域と第3の摺動領域との境界は、クランク角130°以上150°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在する、請求項1に記載のシリンダボア。
【請求項8】
前記内燃機関がディーゼル用内燃機関である、請求項5~7のいずれか1項に記載のシリンダボア。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載のシリンダライナ又は請求項5~8のいずれか1項に記載のシリンダボアと、コンプレッションリング及びオイルリングを備えたピストンと、を有する内燃機関用ピストンとシリンダライナ又はシリンダボアとの組み合わせであって、
前記シリンダライナ又はシリンダボアの内周径D(mm)に対する、前記ピストンに備えられたコンプレッションリング及びオイルリングの合計張力P(N)の比(P/D)は、0.45N/mm以下である、組み合わせ。
【請求項10】
前記シリンダライナ又はシリンダボアの内周径D(mm)に対する、前記ピストンに備えられたコンプレッションリング及びオイルリングの合計張力P(N)の比(P/D)は、0.18N/mm以上である、請求項9に記載の組み合わせ。
【請求項11】
前記オイルリングは2ピースタイプのオイルリングであって、前記オイルリングの外周面と前記シリンダライナ又はシリンダボアとの接触面における、シリンダライナ又はシリンダボア軸方向の前記オイルリング片側一方の接触幅が0.07mm以上0.3mm以下である、請求項9又は10に記載の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるシリンダライナ及びシリンダボア、並びに該シリンダライナ又はシリンダボアとピストンリングを備えたピストンとの組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダライナの内周面(シリンダボア)には、ピストンと摺動する際の摩擦を低減させるため、溝などの微細加工を施すことが行われている。そして、更なる摩擦の低減や、耐スカッフ性を高めるため、シリンダライナの内周面の溝の微細加工を、シリンダライナの軸方向で変化させることが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ボア内周面に沿って摺動するピストンリングのトップリングが上死点となる位置のクランク角を0度としたとき、当該クランク角が20度近辺までのボア内周面頭部領域を、当該頭部領域から基端の基部領域より面粗度を大きくすることが開示されている。その結果、エンジンが最も摩擦損失や耐スカッフ性を高める必要がある領域に多量のオイルを保持できることから、オイル消費を低減することができ、HC量等の発生を抑制できることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、シリンダライナの軸方向に沿って内面が3つの部分(Z1、Z2、Z3)、すなわち、ピストン上死点近傍の第1部分(Z1)と、中央の第2部分(Z2)と、ピストンの下死点近傍の第3部分(Z3)とに、分割され、3つの部分(Z1、Z2、Z3)の各々は、特定の粗さ値および所定の長さを有するシリンダライナが開示されている。そして、第1部分(Z1)の粗さRvkが1.10~2.80μmであり、第2部分(Z2)の粗さRvkが0.30~1.00μmであり、第3部分(Z3)の粗さRvkが0.30~2.80μmであることが開示されている。
【0005】
更に特許文献3には、内燃機関のシリンダであって、その内壁面は上方領域と下方領域と、行程中央部領域に画成されており、行程中央部領域の表面粗さは、上方領域及び下方領域の表面粗さよりも大きいこと、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-364455号公報
【文献】特開2017-110804号公報
【文献】特開2019-78267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記開示された方法では、燃費の向上やオイル消費の低減に関して、大きな方向性は開示されている。しかしながら開示の範囲が非常に広く、また具体的な数値の開示も乏しいことから、実効性が不十分であった。そこで本発明は、上記技術とは異なる方法により、オイル消費を従来水準よりも増加させることなく、摺動面のフリクションを従来水準よりも低減させて燃費を改善することができる、新たな方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を進め、ピストンとシリンダライナの内周面とのフリクションが、ピストンの位置によりどのように変化するかを確認した。そしてフリクションの変化データに基づいて更に検討を進め、単にフリクションが大きい箇所におけるフリクションを制御するのではなく、フリクションによるトルクが高い箇所におけるフリクションを制御することが、フリクションを低減させて燃費を改善するためには重要であることを見出した。そして当該知見に基づき、シリンダライナの内周面の特定の位置における粗さを制御することで、オイル消費を従来水準よりも増加させることなく、摺動面のフリクションを従来水準よりも低減させて燃費を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち本発明の一形態は、内燃機関に用いられるシリンダライナ及びシリンダボアであって、
前記シリンダライナ又はシリンダボアの内周面には、複数の溝部が形成されており、
前記シリンダライナ又はシリンダボアの内周面は、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域と、第2の摺動領域と、第3の摺動領域と、を有し、
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域と第3の摺動領域とは連続した領域であって、且つ、前記第1の摺動領域は第2の摺動領域に対してより燃焼室側に位置しており、
前記第1の摺動領域の表面粗さRvkは0.05μm以上0.3μm以下であり、前記第2の摺動領域の表面粗さRvkは0.4μm以上1.5μm以下であり、前記第3の摺動領域の表面粗さRvkは0.15μm以上0.7μm以下である、シリンダライナ、である。
【0010】
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域との境界は、クランク角40°以上60°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在することが好ましく、前記第2の摺動領域と第3の摺動領域との境界は、クランク角130°以上150°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在することが好ましい。また、前記内燃機関がディーゼル用内燃機関であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の別の形態は、上記シリンダライナ又はシリンダボアと、コンプレッションリング及びオイルリングを備えたピストンと、を有する内燃機関用ピストンとシリンダライナ又はシリンダボアとの組み合わせであって、
前記シリンダライナ又はシリンダボアの内周径D(mm)に対する、前記ピストンに備えられたコンプレッションリング及びオイルリングの合計張力P(N)の比(P/D)は、0.45N/mm以下である、組み合わせである。
【0012】
前記シリンダライナ又はシリンダボアの内周径D(mm)に対する、前記ピストンに備えられたコンプレッションリング及びオイルリングの合計張力P(N)の比(P/D)は0.18N/mm以上であることが好ましく、前記オイルリングは2ピースタイプのオイルリングであって、前記オイルリングの外周面と前記シリンダボアとの接触面における、シリンダライナ軸方向の前記オイルリング片側一方の接触幅が0.07mm以上0.3mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、前記オイルリングは、オイルリングとシリンダボアとの接触部形状の少なくともいずれか一方がクランクケース側に外径が増加するテーパ形状、またはクランクケース側にバレルの頂点があるバレル形状、であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、オイル消費を従来水準よりも増加させることなく、摺動面のフリクションを従来水準よりも低減させて燃費を改善できるシリンダライナ又はシリンダボアを提供できる。そして、組み合わせて使用するピストンリングの張力を特定の範囲のものとし、好ましくはオイルリングとシリンダボアとの接触幅を特定の範囲のものとすることで、燃費改善効果がより顕著なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係るシリンダライナの断面模式図である。
【
図2】シリンダライナと、ピストンリングを備えたピストンと、の組み合わせを示す断面模式図である。
【
図3】実施例で行ったフリクション試験の、試験機の断面模式図である。
【
図4】実施例で行ったフリクション試験の、結果を表すグラフである。
【
図5】実施例で行ったフリクション試験の、結果を表すグラフである。
【
図6】実施例で行った残留油量評価試験の、試験機の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態は、ディーゼル用内燃機関に好適に用いられるシリンダライナ及びシリンダボアであって、前記シリンダライナ又はシリンダボアのシリンダの内周面には、複数の溝部が形成されている。そして、シリンダの内周面は、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域、第2の摺動領域、及び第3の摺動領域を有している。本実施形態について、
図1を用いて説明する。
【0016】
図1は、シリンダライナの断面図である。シリンダライナ10は、典型的には鋳鉄製のシリンダライナであるが、アルミニウム合金や銅合金により形成されてもよい。
シリンダライナ10は、内燃機関のシリンダブロックに設置されて、その内部をピストンが
図1に記載の上下方向(シリンダライナ軸方向)に摺動する。なお、
図1において、燃焼室側が「上」であり、クランク室側が「下」である。
図1に記載の鎖線6はオイルリングの上死点(TDC)を、鎖線7はオイルリングの下死点(BDC)を示し、シリンダライナの内周面は、上死点6を含む第1の摺動領域1と、下死点7を含む第3の摺動領域3と、その中間に位置する第2の摺動領域2と、を含む。第1の摺動領域1と第2の摺動領域2と第3の摺動領域3とは、境界4及び5を介して連続した領域であり得る。
【0017】
本実施形態では、第1の摺動領域の表面粗さRvkが0.05μm以上0.3μm以下であり、第2の摺動領域の表面粗さRvkが0.4μm以上1.5μm以下であり、第3の摺動領域の表面粗さRvkが0.15μm以上0.7μm以下である。
本発明者らが検討したところ、ピストンとシリンダライナの内周面とのフリクションを総合的に低減するためには、単にフリクションが大きい領域におけるフリクションを低減させるのではなく、フリクションによるトルクが大きい位置におけるフリクションを低減させることが、燃費を改善するためには重要であることを見出した。すなわち本実施形態でいうところの第2の摺動領域において、その表面粗さ曲線を他の領域よりも山部高さを小さく谷部深さを深くなる粗さ形状にすることで、当該領域における油膜のせん断抵抗を低減し、当該領域のフリクションを低減させることができ、全体としての燃費の改善に貢献することを見出した。なお、ここでいう「領域」の境界は、ピストンに備えられたピストンリングのうちオイルリングの上死点を基準(0°)とした、クランクの回転角度により表される。
【0018】
図1に記載のシリンダライナ10の内周面は、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域、第2の摺動領域、及び第3の摺動領域が連続して存在する。
第1の摺動領域と第2の摺動領域との境界は、クランク角40°以上60°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在することが好ましく、第2の摺動領域と第3の摺動領域との境界は、クランク角130°以上150°以下の範囲においてピストンに備えられるオイルリングの摺動範囲に存在することが好ましい。境界が上記クランク角の範囲にあることで、シリンダボアの壁温が高く、オイルの蒸発によるオイル消費が多くなる第1の摺動領域にて表面粗さRvkを小さくすることになり、オイル消費低減の効果がより顕著となるとともに、フリクション変化のトルクが大きい第2の摺動領域において表面粗さRvkを、第3の摺動領域の表面粗さRvkよりも大きくすることになり、ピストンとシリンダボアとのフリクションを総合的に低減して、燃費を改善することができる。オイル消費を低減するには第3の摺動領域の表面粗さRvkよりも第1の摺動領域の表面粗さRvkを小さくしたほうが好ましい。
【0019】
本実施形態に係るシリンダライナ又はシリンダボアの内周面は、第1の摺動領域と第2の摺動領域と第3の摺動領域とでホーニング加工を変更し、ホーニング加工の回数や、ホーニング加工で用いる砥石の形状、種類、粒度等を適宜調整することで、製造することができる。
ホーニング加工によりシリンダライナ又はシリンダボアの内周面にクロスハッチが形成されてもよい。クロスハッチを形成する場合、その角度(鋭角)は2°以上が好ましく、5°以上であってよく、10°以上であってよい。また通常60°以下であり、45°以下であってよく、30°以下であってよく、15°以下であってよい。
【0020】
本実施形態におけるシリンダライナの内周面の加工工程の一例を示す。
シリンダライナを鋳造後、ラフ(粗:Rough)ボーリング、ファイン(Fine)ボーリング、Iホーニング、IIホーニングの順に内周面寸法を完成寸法近傍まで加工する。その後、IIIホーニング・IVホーニングおよびVホーニングのホーニング加工工程により、所定の表面粗さを形成する。
Iホーニングでは粗の砥粒の砥石を用いる。第1の摺動領域はIIホーニングで加工し、超仕の砥粒の砥石を用いる。第2の摺動領域はIIIホーニングで加工し、粗の砥粒の砥石を用いる。第3の摺動領域はIVホーニングで加工し、中の砥粒の砥石を用いる。Vホーニングは、仕の砥石を用いて、第1の摺動領域と第2の摺動領域と第3の摺動領域が連続した領域となるよう加工する。
以上は、シリンダライナの内周面が基材のままである場合を示し、リン酸塩被膜等の化成処理を施している場合、ホーニングの最終加工工程前に被膜を被覆する工程が追加され得る。
また、ホーニング機械の制御系の制約により、適宜、工程を追加してもよく、または、多様な制御が可能なホーニング機械を使用する場合は、加工工程を省略してもよい。
なお、シリンダライナを配置しないシリンダブロックであっても、シリンダライナの内周面と同様に、シリンダボアを加工することができる。
【0021】
本発明の別の実施形態は、上記説明したシリンダライナ又はシリンダボアと、コンプレッションリング及びオイルリングを備えたピストンと、を有する内燃機関用ピストンとシリンダライナ又はシリンダボアとの組み合わせである。本実施形態について、
図2を用いて説明する。
図2は、ピストンリングが装着されたピストンと、シリンダライナとの組み合わせの一例を示す断面図である。
ピストン12にはピストンリング溝が形成され、燃焼室側から第1の溝13、第2の溝14、及び第3の溝15が形成されている。第1の溝13には、コンプレッションリングであるトップリング13aが装着され、第2の溝14には、コンプレッションリングであるセカンドリング14aが装着され、第3の溝15には、組合せオイルリング15aが装着される。
トップリング13a、セカンドリング14a、組合せオイルリング15aの
図2記載の右端部は、シリンダライナ11の内壁と接触して摺動する摺動面であり、その外周面は硬質被膜により被覆されていてもよい。
【0022】
本実施形態では、シリンダライナ又はシリンダボアの内周径D(mm)に対する、前記ピストンに備えられたコンプレッションリング13a及び14a並びにオイルリング15aの合計張力P(N)の比(P/D)は、0.45N/mm以下であることが好ましい。また、0.18N/mm以上であることがより好ましい。上記範囲を満たすシリンダライナと、コンプレッションリング及びオイルリングを備えたピストンと、の組み合わせにより、更にシリンダライナとピストンリングとのフリクションを低減させることができる。
また、前記オイルリング15aは、2ピースタイプのオイルリングであることが好ましく、2ピースタイプのオイルリングである場合、オイルリング15aの外周面とシリンダライナ11との接触面における、シリンダライナ軸方向の前記オイルリング片側一方の接触幅が0.07mm以上0.3mm以下であることが好ましい。上記接触幅の範囲を満たすシリンダライナと、コンプレッションリング及びオイルリングを備えたピストンと、の組み合わせにより、更にシリンダライナとピストンリングとのフリクションを低減させることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について、実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
<フリクション試験>
フリクション試験は単気筒浮動ライナ試験機(1サイクル中のピストン、ピストンリングのフリクション変化をとらえる試験機)にて大気開放モータリング評価にて実施した。フリクション測定試験においては、ボア径83mmでストローク86mmのクランク式単気筒モータリング試験機(浮動ライナ方式)を使用した。
図3に、フリクション試験に用いたクランク式単気筒モータリング試験機の断面模式図を示す。シリンダライナ21はストッパ23により径方向の挙動が制限され、軸方向のみ可動できる構造である。シリンダライナ21に取り付けられたセンサ24によりシリンダライナ21に作用する軸方向の摺動摩擦力を検出する。この摺動摩擦力の1サイクル当たりの摩擦トルクを排気量で除した摩擦平均有効圧力(FMEP:Friction Mean Effective Pressure)により評価した。
試験条件は冷却水温が80℃、エンジンオイルの温度が80℃とし、エンジンオイルが10W-30(粘度分類:SAE J300)を用い、評価回転数は600rpmから2000rpmの間を測定した。
鋳鉄材を用いて、内径φ83mmのシリンダライナを準備した。このシリンダライナを用いて、ピストンの位置と摩擦トルクの大きさを測定した。
【0025】
シリンダライナ内径に対するピストンリング合計張力の比が0.46N/mmであり、シリンダライナの内周面粗さを全面Rvk1.9μmとしたシリンダライナとの組み合わせを従来仕様(比較例)とし、シリンダライナ内径に対するピストンリング合計張力の比が0.34N/mmであり、シリンダライナの内周面粗さを第1の摺動領域の表面粗さRvkが0.2μm、第3の摺動領域の表面粗さRvkが0.5μm、第2の摺動領域の表面粗さRvkを0.8μmとしたシリンダライナとの組み合わせを本発明(実施例)として、それぞれの試験機の回転速度が1500rpmにおけるオイルリングのクランク角と摩擦力の測定を行った。結果を
図4に示す。
また試験機の回転速度が2000rpmにおける従来仕様(比較例)を100としたときの本発明(実施例)のFMEP比を
図5に示す。
【0026】
図4から、第2の摺動領域(オイルリングのクランク角で約40°~約150°の範囲)の表面粗さRvkを0.8μmとした場合において、全領域に亘って表面粗さRvkを1.9μmとした場合よりも摩擦力が低減することが理解できる。
図5から、従来仕様に対し本発明が試験機の回転速度が2000rpmにおいて20%以上FMEPが低減することが理解できる。
これらの結果より、当該領域のフリクションを低減することで、燃費の改善効果が大きいことを着想した。
【0027】
<表面粗さRvkによるFMEP比評価>
次に、シリンダライナの内周面粗さを第1の摺動領域の表面粗さRvkは0.04μmから0.4μmまで、第2の摺動領域の表面粗さRvkは0.3μmから1.7μmまで、第3の摺動領域の表面粗さRvkは0.1μmから0.8μmまでの間で変更し、それぞれのFMEPを測定した。結果を表1に示す。
第1の摺動領域、第2の摺動領域及び第3の摺動領域をRvk0.2μmとRvk1.9μmとした結果も表1に示す。
シリンダライナ内径に対するピストンリングの合計張力の比が0.46N/mmであり、シリンダライナの内周面粗さを全面Rvk1.9μmとしたシリンダライナとの組み合わせを従来仕様とし、その時のFMEPを100%として、各種のピストンリング合計張力およびシリンダライナ内周面性状について試験し、FMEPが20%以上低減をS、10%以上20%未満低減をA、0%超10%未満の低減をB、同等以下をCとして評価した。
【0028】
<残留油量評価試験>
残留油量評価試験機には、ボア×ストロークが内径φ83×86mmのスコッチヨーク式摩擦試験機を使用した。潤滑油にはSAE粘度が0W-20のエンジンオイルを用い、油水温を80℃に設定した。本条件にて運転速度1000rpmで30s運転後、ピストン停止位置を下死点位置に固定して、シリンダライナ壁面に残された油を濾紙で拭き取り、電子天秤にて、拭き取り前後の濾紙の重さ変化を測定した。
図6に、残留油量評価試験に用いたスコッチヨーク式摩擦試験機の断面模式図を示す。スコッチヨーク式摩擦試験機30は、シリンダライナ31と、ピストン32と、コンロッド33と、保持部材34を有する。ピストン32には、トップリングと、セカンドリングと、オイルリングがそれぞれ装着されている。
シリンダライナの内周面粗さを第1の摺動領域の表面粗さRvkは0.04μmから0.4μmまで、第2の摺動領域の表面粗さRvkは0.3μmから1.7μmまで、第3の摺動領域の表面粗さRvkは0.1μmから0.8μmまでの間で変更し、それぞれの残留油量を測定した。結果を表1に示す。なお、表1における「合計張力/Cyl」は、シリンダライナ内径に対するピストンリング合計張力の比である。
シリンダライナ内径に対するピストンリング合計張力の比が0.45N/mmであり、シリンダライナの内周面粗さを全面Rvk1.9μmとしたシリンダライナとの組み合わせを従来仕様とし、その時の残留油量を100%として、各種のピストンリング合計張力およびシリンダライナ内周面性状について試験し、残留油量が20%以上低減をS、10%以上20%未満低減をA、0%超10%未満の低減をB、同等以下をCとして評価した。
【0029】
【0030】
<ピストンリングとの組み合わせ>
組み合わせに用いたピストンリングのうち、トップリングは、幅(シリンダ1の軸方向寸法)が1.2mm、外周面はバレル形状、基材は、JIS SUS440B相当材を用い、外周面にアークイオンプレーティング法によるCrN被膜を施したものを用いた。トップリング張力のシリンダライナ内径比は、0.07(N/mm)であった。
また、セカンドリングは、幅(シリンダ1の軸方向寸法)が1.2mm、外周面はテーパ形状、基材は、FC250相当材を用い、外周面に硬質Crめっきを施したものを用いた。セカンドリング張力のシリンダライナ内径比は、0.05(N/mm)であった。
組合せオイルリングは、組合せ幅hが2.0mmであり、基材は、JIS SUS420J2相当材を用い、外周面に窒化を施したものを用いた。オイルリング張力のシリンダライナ内径比は、0.17(N/mm)であった。オイルリング片側一方の接触幅は0.1mmであり、その反対側の接触幅も0.1mmであった。
【符号の説明】
【0031】
10 シリンダライナ
1 第1の摺動領域
2 第2の摺動領域
3 第3の摺動領域
4 境界
5 境界
6 上死点
7 下死点
11 シリンダライナ
12 ピストン
13 第1の溝
14 第2の溝
15 第3の溝
13a トップリング
14a セカンドリング
15a オイルリング
20 クランク式単気筒モータリング試験機
21 シリンダライナ
23 ストッパ
24 センサ
30 スコッチヨーク式摩擦試験機
31 シリンダライナ
32 ピストン
33 コンロッド
34 保持部材