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特許7329692溶接構造物の製造方法、及びこれにより製造された溶接構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】溶接構造物の製造方法、及びこれにより製造された溶接構造物
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/16 20060101AFI20230810BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20230810BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230810BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B23K11/16 311
B23K11/11 541
C22C38/00 302A
C22C38/00 302Z
C22C38/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022533090
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 KR2020016844
(87)【国際公開番号】W WO2021112480
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】10-2019-0162009
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヤン-ハ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン-シク
(72)【発明者】
【氏名】パク、 キ-ヒュン
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0001428(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078436(KR,A)
【文献】特許第6443596(JP,B1)
【文献】特表2017-510702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
C22C 38/00
C22C 38/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板及び前記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板である被溶接材を2枚以上準備する段階と、
前記被溶接材を重ねて積層する段階と、
前記被溶接材の溶接する部位に溶接棒電極を位置させる段階と、
前記被溶接材と前記溶接棒電極との間にフィラー金属を介在させてスポット溶接する段階と、を含み、
前記スポット溶接時に、前記亜鉛めっき層とフィラー金属間で合金化が進行して亜鉛めっき層と素地鋼板の界面にAl-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相が形成され、
前記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相内のFeとMnの含量合計が40~60重量%である、溶接構造物の製造方法。
【請求項2】
前記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相が0.5~2.0μmの厚さを有し、前記亜鉛めっき鋼板に水平な方向に0.3μm以下の間隔で形成される、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項3】
前記亜鉛めっき層の厚さをTp、前記フィラー金属の厚さをTfとするとき、
前記亜鉛めっき層とフィラー金属の厚さ比(Tf/Tp)が下記関係式を満たす、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
[関係式]
5≦Tf/Tp≦22
【請求項4】
前記亜鉛めっき層が4~20μmの厚さを有する、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項5】
前記フィラー金属が純粋Al金属である、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項6】
前記フィラー金属が40~180μmの厚さを有する、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項7】
前記フィラー金属が、ホイル、プレート及びワイヤのうちいずれか一つの形態である、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項8】
前記素地鋼板が、MnとAlを含量合計で16.5~21重量%含むTWIP鋼である、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項9】
前記亜鉛めっき層が、電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層のうちいずれか一つである、請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項10】
2枚以上の被溶接材が積層されてスポット溶接された溶接構造物であって、
前記被溶接材は、素地鋼板及び前記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板であり、
溶接部領域に位置した亜鉛めっき層と素地鋼板の界面にAl-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相を含み、前記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相内のFeとMnの含量合計が40~60重量%である、溶接構造物。
【請求項11】
前記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相が0.5~2.0μmの厚さを有し、前記亜鉛めっき鋼板に水平な方向に0.3μm以下の間隔で形成される、請求項10に記載の溶接構造物。
【請求項12】
前記素地鋼板が、MnとAlを含量合計で16.5~21重量%含むTWIP鋼である、請求項10に記載の溶接構造物。
【請求項13】
前記亜鉛めっき層が、電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層のうちいずれか一つである、請求項10に記載の溶接構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物に関するものであって、スポット溶接クラック抵抗性に優れた溶接構造物の製造方法、及びこれにより製造される溶接構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
双晶誘起塑性鋼(Twinning Induced Plasticity steel、以下「TWIP鋼」ともいう)は、900MPa級の高強度でありながらも40%以上の延性を有するため、高強度及び高延性の次世代自動車用鋼板として注目されている。
【0003】
ところで、マンガン(Mn)とアルミニウム(Al)を多量に含有する高マンガン高アルミニウムTWIP鋼を素地鋼板として使用する亜鉛めっき鋼板の場合、スポット溶接過程でめっき層の亜鉛(Zn)が溶解して液相の溶融亜鉛となり、この溶融亜鉛が母材の結晶粒界に浸透するようになる。これにより、母材で割れが生じて脆性破壊が発生する、いわゆる溶接液相金属脆化(Liquid Metal Embrottlement、以下「LME」という)を引き起こすようになる。
【0004】
上記のような溶接LMEの発生を防止するための方案として、従来は、Ti、Nb、Mo及びZr系析出物又は複合析出物が分散されるように、粒度の細粒化によって応力を分散させる方法等が提案されているが、このような方法によってLMEクラックの発生を抑制するには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本公開特許特開2006-265671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様は、超高強度を有する亜鉛めっき鋼板のスポット溶接時に発生する溶接LMEクラックを効果的に抑制することができる溶接構造物の製造方法、及びこれにより製造された溶接構造物を提供しようとすることである。
【0007】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全般的な事項から本発明の更なる課題を理解する上で何らの困難もない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、素地鋼板及び上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板である被溶接材を2(枚)以上準備する段階と、上記被溶接材を重ねて積層する段階と、上記被溶接材の溶接する部位に溶接棒電極を位置させる段階と、上記被溶接材と上記溶接棒電極との間にフィラー金属を介在させてスポット溶接する段階と、を含み、上記スポット溶接時に上記亜鉛めっき層とフィラー金属間で合金化が進行して亜鉛めっき層と素地鋼板の界面にAl-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相が形成され、上記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相内のFeとMnの含量合計が40~60重量%であることを特徴とする溶接構造物の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の他の一態様は、2(枚)以上の被溶接材が積層されてスポット溶接された溶接構造物であって、上記被溶接材は、素地鋼板及び上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板であり、溶接部領域に位置する亜鉛めっき層と素地鋼板の界面にAl-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相を含み、上記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相内のFeとMnの含量合計が40~60重量%であることを特徴とする溶接構造物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、スポット溶接時に優れたクラック抵抗性を示す溶接構造物を製造する方法、及びこれによりスポット溶接クラック抵抗性に優れた溶接構造物を提供することができる。
【0011】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による溶接構造物の製造方法に適用できるスポット溶接方法を図式化して示したものである。
図2】本発明の一実施形態によって製造された溶接構造物の断面を観察した写真を示したものである。
図3】発明例1のスポット溶接ショルダー部を光学顕微鏡で観察した写真を示したものである。
図4】比較例3のスポット溶接ショルダー部を光学顕微鏡で観察した写真を示したものである。
図5】発明例1のめっき層及びめっき層/素地鋼板の界面の合金相を電子走査顕微鏡(SEM)で観察した写真を示したものである。
図6】発明例1のめっき層及びめっき層/素地鋼板の界面の合金相を電子走査顕微鏡(SEM)で観察した写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形は、語句がこれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
【0014】
明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/又は成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分及び/又は群の存在や付加を除外するものではない。
【0015】
他に定義されていないが、ここで使用される技術用語及び科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義されている用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に一致する意味を有するものとして追加解釈され、定義されない限り、理想的又は非常に公式的な意味として解釈されない。
【0016】
本発明者らは、亜鉛めっき鋼板のスポット溶接時にクラック抵抗性を向上させることができる方案について模索し、特に、スポット溶接時にクラック抵抗性に優れた溶接構造物を提供することができる方案について鋭意研究した。その結果、被溶接材として超高強度亜鉛めっき鋼板をスポット溶接し、このとき、被溶接材である亜鉛めっき鋼板と溶接棒電極との間にフィラー金属(filler metal)を介在させて行った場合、溶接過程でめっき層とフィラー金属間の合金化によって溶接部めっき層の融点を上昇させることができた。その結果、クラック抵抗性(溶接LME抵抗性)を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
以下では、本発明の一態様による溶接構造物の製造方法について詳細に説明する。本発明において、各元素の含量を示す際に特に断りのない限り、重量%を意味することに留意する必要がある。なお、結晶や組織の割合は、特に別途表現しない限り、面積を基準とする。
【0018】
本発明の一態様による溶接構造物の製造方法は、素地鋼板及び上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板である被溶接材を2(枚)以上準備し、上記被溶接材を重ねて積層する段階と、上記被溶接材の溶接する部位に溶接棒電極を位置させる段階と、上記被溶接材と上記溶接棒電極との間にフィラー金属を介在させてスポット溶接する段階と、を含むことができる。
【0019】
まず、被溶接材として2枚以上の亜鉛めっき鋼板を準備した後、これらを重ねて積層する。
【0020】
本発明において被溶接材である亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板であってよく、このような亜鉛めっき鋼板の積層時に最外表面(外部に露出する表面)にめっき層を有するように積層することができる。
【0021】
ここで、上記素地鋼板について特に限定するものではないが、一例として、上記素地鋼板は、溶接LMEクラックが発生しやすい素材、すなわち、鋼中にマンガン(Mn)とアルミニウム(Al)を含量合計で16.5~21重量%含むTWIP鋼であってもよく、上記TWIP鋼は超高強度の物性を有してもよい。ただし、これに限定するものではない。
【0022】
上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層は、亜鉛(Zn)を用いためっき方法によるものであれば、如何なるめっき層でも可能である。一例として、上記亜鉛めっき層は、電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層のうちいずれか一つであってもよいが、これに限定するものではない。さらに、上記亜鉛めっき層は、Zn系めっき層として、Zn-Al系合金めっき層、Zn-Al-Si系合金めっき層、Zn-Al-REM系合金めっき層などを含むことができるが、これに限定するものではない。
【0023】
上記亜鉛めっき層は、外部衝撃に対する抵抗性を示すためには、一定以上の厚さを有する必要があり、その厚さは4~20μmであってよい。上記亜鉛めっき層の厚さが4μm未満であると、外部衝撃によってめっき層が損傷した場合、亜鉛の犠牲防食特性を十分に発揮できず、母材の腐食が深化するという問題がある。一方、その厚さが20μmを超えると、必要以上に亜鉛が消耗されるため、製造コストの上昇はもちろん、めっき層の厚さが厚くなることによって溶融亜鉛めっき鋼板又は電気亜鉛めっき鋼板の製造時にめっきの表面品質が低下するという問題がある。
【0024】
上述した亜鉛めっき層を有する亜鉛めっき鋼板は、その厚さに対して特に限定されず、一般的な自動車用鋼板のうち、衝撃構造部材用に使用される鋼板の厚さ範囲内、例えば、1.0~1.8mmであってよい。
【0025】
上述したように、被溶接材、すなわち、2枚以上の亜鉛めっき鋼板を積層した後、溶接する部位に溶接棒電極を位置させることができる。通常、上記溶接する部位と溶接棒電極とが直接当接した状態で溶接を行うが、本発明では、上記溶接する部位と溶接棒電極との間にフィラー金属(filler metal)を介在させた後に溶接を行うことを特徴とする。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態によるスポット溶接方法を図示的に示したものである。図1を参照して説明すると、被溶接材として亜鉛めっき鋼板3が多重積層されており、積層された亜鉛めっき鋼板3の上、及び下に露出した表面のうち溶接する部位に溶接棒電極1を位置させることができる。そして、上記溶接棒電極1と亜鉛めっき鋼板3との間にフィラー金属2を介在させることができ、上記フィラー金属2は所定の厚さを有するものを用いることができる。
【0027】
上記フィラー金属(filler metal)の形態は、ホイル(foil)、プレート(plate)及びワイヤ(wire)のうちいずれか一つであってもよく、このようなフィラー金属は純粋Al金属であってもよい。
【0028】
上記フィラー金属は、その厚さが40~180μmであってよい。仮に、上記フィラー金属の厚さが40μm未満であると、被溶接材である亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層と合金化しても、めっき層中の亜鉛の割合が高く(Zn-rich)、一部の亜鉛が溶融して溶接LMEクラックが発生するおそれがある。一方、その厚さが180μmを超えると、溶接棒電極を介した電流の印加時に、亜鉛めっき層及びフィラー金属の溶融が不十分となり、十分なナゲット(nugget)が形成されず、溶接強度の確保が難しくなる可能性がある。すなわち、溶接の際に電流が溶接棒電極を介してフィラー金属→めっき層→母材(Fe)の順に流れるようになるが、このとき、フィラー金属の厚さが過度に厚いと、母材(Fe)の内部までの電流の伝達が容易ではなく、母材の内部でのナゲットの形成が難しくなる。その結果、ナゲットが過度に小さく形成されるか、又は形成されない可能性もある。
【0029】
上述した厚さのフィラー金属を、被溶接材である積層された亜鉛めっき鋼板と溶接棒電極との間に介在させるにあたり、上記亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の厚さ(Tp)と上記フィラー金属の厚さ(Tf)の割合を次の関係式により制限することができる。
【0030】
[関係式]
5≦Tf/Tp≦22
【0031】
具体的には、上記亜鉛めっき層の厚さに対するフィラー金属の厚さの比を5~22に制限するものであって、その厚さ比が5未満であると、相対的に薄い厚さのフィラー金属が介在することによって、亜鉛めっき層との合金化に必要な亜鉛の量よりも過剰の亜鉛が溶融状態で母材(素地鋼板)内に浸透し、LMEクラックを誘発するおそれがある。一方、その厚さ比が22を超えると、フィラー金属と亜鉛めっき層を介して母材に流れる電流によって母材の内部に抵抗熱によるナゲットが形成なされるべきであるが、相対的に厚いフィラー金属によって母材の内部におけるナゲットの形成が不十分となり、溶接が十分に行われない可能性がある。
【0032】
被溶接材である積層された亜鉛めっき鋼板と溶接棒電極との間に、上述した厚さ比を有するようにフィラー金属を介在させ、その状態でスポット溶接を行うことができる。このときのスポット溶接条件は特に限定されず、亜鉛めっき層とフィラー金属の厚さ比を考慮して適切なレベルの電流を印加することができることを明らかにしておく。
【0033】
スポット溶接が行われると、溶接熱によって溶接過程において亜鉛めっき層とフィラー金属間で合金化が進行する。これにより、溶接部領域に位置した亜鉛めっき層、具体的には、亜鉛めっき層と素地鋼板の界面に、めっき層のZn、素地鋼板のFe、Mn、フィラー金属から供給されたAlによって、Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相の形成が可能となる。このように形成されたAl-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相の融点は、通常のスポット溶接ショルダー部の温度である約1170℃レベルと高いため、スポット溶接ショルダー部分が溶融されず、溶接LMEクラックを効果的に抑制することができる。
【0034】
上記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相内に含有されるFeとMnの含量は、総合計で40~60重量%であってもよい。上記合金相内のFeとMnの総含量が40重量%未満であると、緻密な金属間化合物合金相が形成されず、耐食性及びLMEクラック抵抗性に劣るおそれがある。一方、その総含量が60重量%を超えると、合金相の脆性が増加して合金相内に発生したクラックに沿って溶融した亜鉛が浸透し、母材の内部にLMEクラックを誘発する可能性がある。
【0035】
また、Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相は、その厚さが0.5~2.0μmであってよい。上記合金相の厚さが0.5μm未満であると、スポット溶接過程で溶融した亜鉛が母材へ浸透しやすくなり、LMEクラックを誘発する可能性がある。一方、その厚さが2.0μmを超えると、合金相の脆性が増加して合金相内に発生したクラックに沿って溶融した亜鉛が浸透し、母材の内部にLMEクラックを誘発する可能性がある。さらに、上記Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相は、被溶接材である亜鉛めっき鋼板に水平な方向に0.3μm以下の間隔で形成されてよい。
【0036】
次に、本発明の他の一態様として、上述した溶接構造物の製造方法により製造される溶接構造物について詳細に説明する。
【0037】
本発明の製造方法により製造される溶接構造物は、2枚以上の被溶接材が積層されてスポット溶接された溶接構造物であって、上記2枚以上の被溶接材は、素地鋼板及び上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板であり、溶接部領域に位置する亜鉛めっき層内にAl-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相を含むことができる。
【0038】
ここで、上記素地鋼板は、上述したようにMnとAlを含量合計で16.5~21重量%含むTWIP鋼であってよい。上記亜鉛めっき層も、前述したように、電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層のうちいずれか一つであってよいが、これらに限定するものではないことを明らかにしておく。
【0039】
図2図6は、本発明の一実施形態による溶接構造物の断面写真を示すものである。図2を参照して説明すると、本発明の溶接構造物は、被溶接材である2枚以上の亜鉛めっき鋼板が積層されてスポット溶接された構造を含むことができる。また、図3図6を参照して説明すると、スポット溶接された領域、すなわち、溶接部領域に位置する亜鉛めっき層と素地鋼板の界面にAl-Fe-Zn-Mnからなる金属間化合物合金相を含むことができる。
【0040】
上記金属間化合物合金相は、スポット溶接時に被溶接材である亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層とフィラー金属との合金化によって形成可能であり、フィラー金属全体を亜鉛めっき層と合金化することができる。
【0041】
スポット溶接時に亜鉛めっき層とフィラー金属との合金化により形成された上記金属間化合物合金相は0.5~2.0μmの厚さを有し、被溶接材である亜鉛めっき鋼板に水平な方向に0.3μm以下の間隔で形成可能である。上記合金相の間隔が0.3μmを超える場合、スポット溶接過程で溶融した亜鉛が母材へ浸透しやすくなり、LMEクラックを誘発するおそれがある。
【0042】
上記合金相の融点は約1170℃であって、これは、通常のスポット溶接ショルダー部の温度である約800℃を上回るものであり、スポット溶接時にスポット溶接ショルダー部におけるめっき層の溶融を効果的に抑制することができる。その結果、優れたLMEクラック抵抗性を確保できるという効果がある。
【実施例
【0043】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示して具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0044】
(実施例)
被溶接材を得るために、鋼中にMnとAlを総含量で19.75重量%含有するスラブを準備し、上記スラブに対して熱間圧延及び冷間圧延を経て1.2mm厚さの冷延鋼板(TWIP鋼)を製造した。このとき、熱間圧延及び冷間圧延は、通常の自動車用鋼板の製造に適用される工程条件を適用しており、これは、通常の技術者であれば、誰でも分かる事項に該当することを明らかにしておく。以後、電気亜鉛めっき工程を通じて上記冷延鋼板に亜鉛をめっきするが、このとき、めっき付着量は60g/mのレベルを維持するようにした。
【0045】
スポット溶接性を評価するために、上記に従って製造された電気亜鉛めっき鋼板を2枚準備して積層した後、先端径6mmのCu-Cr電極を使用して溶接電流を流し、加圧力2.6kNで16サイクルの通電時間と15サイクルのホールディング(holding)時間の条件で、スポット溶接を行った。このとき、上記電気亜鉛めっき鋼板と電極との間に下記表1に示すような厚さを有するフィラー金属(純粋Al金属材)を介在させた後にスポット溶接を行い、比較例3の場合は、フィラー金属の介在なしにスポット溶接を行った。
【0046】
スポット溶接は、スパッタ現象が発生する時点の溶接電流を上限(Expulsion current)とし、上記溶接電流の上限から0.2kA低い電流値でスポット溶接を行った。スポット溶接を完了した後、溶接部の圧痕の中央を切開してから、断面組織写真上でスポット溶接ショルダー部の4箇所(左上、左下、右上、右下)におけるスポット溶接LMEクラックの発生の有無を光学顕微鏡(100倍の倍率)で観察した。その結果を下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
上記表1に示すように、一定厚さのフィラー金属を用い、亜鉛めっき層との厚さ比が本発明で提案する条件を満たしてスポット溶接を行った発明例1~5は、Al-Fe-Zn-Mn金属間化合物合金相が形成された。特に、形成された合金相内のFe+Mnの総含量、合金相の厚さが本発明で提案する条件を満たすことによって、スポット溶接LMEクラックが発生せず、ナゲットが形成され、優れたスポット溶接クラック抵抗性を示した。
【0049】
一方、フィラー金属を適用したにもかかわらず、亜鉛めっき層との厚さ比が本発明で提案する条件から外れてスポット溶接を行った比較例1及び2では、スポット溶接時に合金化によって合金相が形成されたにもかかわらず、Zn-rich合金相が形成されることによってスポット溶接ショルダー部の温度が約800℃まで昇温する過程で液相亜鉛が母材の粒界に浸透し、LMEクラックの長さが過度に長くなった。
【0050】
フィラー金属を介在させずにスポット溶接を行った比較例3についても、溶接過程で液相亜鉛が母材の粒界に浸透し、LMEクラック抵抗性が非常に劣っていた。一方、フィラー金属の厚さが過度に厚い比較例4の場合、溶接棒電極を介して電流を印加する際に入熱量が十分でなく、母材内でナゲットが形成されなかった。これは、溶接部の溶接強度が劣ることを意味する。
【符号の説明】
【0051】
1:溶接棒電極
2:フィラー金属
3:亜鉛めっき鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6