(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】ダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置、および、レーザ発振装置の故障診断方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/062 20060101AFI20230814BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230814BHJP
【FI】
H01S5/062
B23K26/00 Q
(21)【出願番号】P 2020519520
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016096
(87)【国際公開番号】W WO2019220832
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018096572
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】三溝 真史
(72)【発明者】
【氏名】井原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】濱野 善行
(72)【発明者】
【氏名】本宮 紀典
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203232(JP,A)
【文献】特開2016-078050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0150139(US,A1)
【文献】特開2009-026889(JP,A)
【文献】特開2005-294449(JP,A)
【文献】特開2011-199079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置であって、
直列または並列接続された複数のレーザダイオードが組み込まれたレーザモジュールと、
前記レーザモジュールを定電流駆動する電源回路と、
前記電源回路を制御するように構成された電源制御部と、
を備え、
前記電源制御部は、前記レーザモジュールに印加される電流および電圧の値に対応する複数の領域に予め分割された診断マップを含み、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に過電流であり、第1の所定の電流よりも大きい領域(R1)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源制御部または前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電流値に無関係に過電圧であり、第3の所定の電圧よりも大きい領域(R2)に属するとき、前記電源制御部は、初期状態から異常検出される場合には結線の誤りの可能性が高いと判断でき、正常に動作した後に異常検出される場合には前記レーザモジュールの開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に異常な低電流であり、前記第1の所定の電流よりも小さい第2の所定の電流よりも小さい領域(R3)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、
電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が低く、前記第3の所定の電圧より小さく第1の所定の電圧より小さい領域(R4)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部のレーザダイオードの一部が短絡モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が高く、前記第1の所定の電圧より大きく第2の所定の電圧より大きく前記第3の所定の電圧より小さい領域(R5)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部の前記レーザダイオードの一部が開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
故障発生の診断を行う、
ダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置。
【請求項2】
前記診断マップは、故障予測原因と関連付けて領域区分されている、請求項1に記載のダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置。
【請求項3】
前記診断マップは、前記レーザモジュールに印加される電流が、前記第1の所定の電流よりも小さく前記第2の所定の電流よりも大きく、前記レーザモジュールに印加される電圧が、前記第1の所定の電圧よりも大きく前記第2の所定の電圧よりも小さいところを、正常な領域とし、
前記レーザモジュールに印加される電圧および前記レーザモジュールに印加される電流は、前記正常な領域以外に属するところの、他の領域とに、領域区分されている、
請求項1または2に記載のダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置。
【請求項4】
前記電源制御部は、故障発生と診断すると、前記電源回路を停止するとともに、レーザ加工ヘッドを備えたレーザロボットを制御するシステム制御装置に故障診断情報を送信する、請求項1から3のいずれか1項に記載のダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置。
【請求項5】
前記故障診断情報は、前記診断マップの領域情報を含む、請求項4に記載のダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置。
【請求項6】
直列または並列接続された複数のレーザダイオードが組み込まれたレーザモジュールと、前記レーザモジュールを定電流駆動する電源回路と、
前記電源回路を制御する電源制御部と、を備え
、
前記電源制御部により実行され、前記レーザモジュールへの印加電流及び印加電圧が予め複数の領域に区分された診断マップの何れの領域に属するかに基づいて故障診断する、ダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置の故障診断方法であって、
前記電源制御部は、前記レーザモジュールに印加される電流および電圧の値に対応する複数の領域に予め分割された診断マップを含み、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に過電流であり、第1の所定の電流よりも大きい領域(R1)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源制御部または前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電流値に無関係に過電圧であり、第3の所定の電圧よりも大きい領域(R2)に属するとき、前記電源制御部は、初期状態から異常検出される場合には結線の誤りの可能性が高いと判断でき、正常に動作した後に異常検出される場合には前記レーザモジュールの開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に異常な低電流であり、前記第1の所定の電流よりも小さい第2の所定の電流よりも小さい領域(R3)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、
電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が低く、前記第3の所定の電圧より小さく第1の所定の電圧より小さい領域(R4)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部のレーザダイオードの一部が短絡モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が高く、前記第1の所定の電圧より大きく第2の所定の電圧より大きく前記第3の所定の電圧より小さい領域(R5)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部の前記レーザダイオードの一部が開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
故障発生の診断を行う、
ダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置の故障診断方法。
【請求項7】
前記診断マップは、故障予測原因と関連付けて領域区分され、故障発生と診断すると、前記診断マップの領域情報を含む故障診断情報を出力する、請求項6に記載のダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として切断や溶接などの加工用途に用いられるダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置、および、レーザ発振装置の故障診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバーレーザ加工装置及び励起用レーザダイオード電源装置において、個別のレーザダイオードへの印加電流値に基づいて異常か否かを判断するような異常検出装置が、特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-79966号公報
【文献】特開2012-84630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6には、レーザ加工システム100が例示されている。レーザ加工システム100は、レーザ発振装置1と、レーザ発振装置1によって発振されたレーザビームを案内する光ファイバ2と、光ファイバ2で案内されたレーザビームを集光して被加工物に向けて出射するレーザ加工ヘッド3と、先端に固定したレーザ加工ヘッド3を被加工物に向けて案内するレーザロボット4と、レーザ発振装置1及びレーザロボット4を制御するシステム制御装置5と、システム制御装置5に接続されたティーチペンダント6などを備えている。
図6中、符号L1,L2は通信線である。
【0005】
レーザ発振装置1は、ダイレクトダイオードレーザ方式が採用され、直列または並列接続された複数のレーザダイオードLDが組み込まれたレーザモジュール10と、レーザモジュール10を定電流駆動する電源回路20と、システム制御部5の指令に基づいて電源回路20を制御する電源制御部30を備えている。
【0006】
即ち、レーザ発振装置1は、複数のレーザモジュールとビーム合波器を備えている。レーザモジュールは内部に備えた複数のレーザダイオードから得られるレーザビームを合波した1本のレーザビームを出射するように構成され、各レーザモジュールから出射されたレーザビームは、反射ミラーとビームスプリッターを備えたビーム合波器へ入射されて1本の光ビームとなる。
【0007】
レーザ加工システム100を用いて被加工物をレーザ加工する場合、システム制御装置5は、被加工物の所望の位置にレーザビームを照射するようにレーザロボット4に走査軌跡を含む走査指令を出力するとともに、所望のレーザビームの照射位置でレーザが照射されるように電源制御部30にレーザ駆動指令を出力するように構成されている。
【0008】
そして、電源制御部30は、システム制御装置5からの指令に基づく所望の光強度を得るために、電源回路20を制御してレーザモジュール10に当該光強度に対応した値の駆動電流を印加するように制御している。
【0009】
その際に、電源回路20からレーザモジュール10に印加される駆動電流及び駆動電圧を検出する電流センサ及び電圧センサの出力が信号線Sを経由してシステム制御装置5に入力され、電流センサ及び電圧センサの値が所定の許容閾値を超えるか否かに基づいてレーザ発振装置1が正常に作動しているか否かをシステム制御装置5が診断するように構成されている。具体的には予め設定されている所定の許容閾値を超える場合に故障と診断して、レーザ発振装置1に停止指令を発している。
【0010】
しかし、システム制御装置5がレーザモジュール10に印加される電流値に基づいてレーザ発振装置1が正常に作動しているか否かを診断し、故障の発生を検知するとレーザ発振装置1に停止指令を発する場合、故障検出からレーザ発振装置1を停止するまでの通信に要する時間遅れが生じ、その時間遅れにより波及故障を招く虞がある。
【0011】
また、故障の修復のために、例えばシステム制御装置5の表示部、またはティーチペンダント6にレーザ発振装置1の故障を知らせる故障コードが表示されるように構成しても、どのような原因で故障したのかが特定できないために、予め想定される全ての故障原因を確認する必要があり、復旧に多大の時間を要する。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題に鑑み、波及故障を招くことがないように迅速に故障の発生を検出するとともに、故障原因の絞り込みが容易なダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置、および、レーザ発振装置の故障診断方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、ダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置であって、直列または並列接続された複数のレーザダイオードが組み込まれたレーザモジュールと、前記レーザモジュールを定電流駆動する電源回路と、前記電源回路を制御するように構成された電源制御部と、を備え、
前記電源制御部は、前記レーザモジュールに印加される電流および電圧の値に対応する複数の領域に予め分割された診断マップを含み、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に過電流であり、第1の所定の電流よりも大きい領域(R1)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源制御部または前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電流値に無関係に過電圧であり、第3の所定の電圧よりも大きい領域(R2)に属するとき、前記電源制御部は、初期状態から異常検出される場合には結線の誤りの可能性が高いと判断でき、正常に動作した後に異常検出される場合には前記レーザモジュールの開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に異常な低電流であり、前記第1の所定の電流よりも小さい第2の所定の電流よりも小さい領域(R3)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が低く、前記第3の所定の電圧より小さく第1の所定の電圧より小さい領域(R4)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部のレーザダイオードの一部が短絡モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が高く、前記第1の所定の電圧より大きく第2の所定の電圧より大きく前記第3の所定の電圧より小さい領域(R5)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部の前記レーザダイオードの一部が開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
故障発生の診断を行う、レーザ発振装置に関する。
【0014】
また、本発明の別の側面は、直列または並列接続された複数のレーザダイオードが組み込まれたレーザモジュールと、前記レーザモジュールを定電流駆動する電源回路と、前記電源回路を制御する電源制御部と、を備え、前記電源制御部により実行され、前記レーザモジュールへの印加電流及び印加電圧が予め複数の領域に区分された診断マップの何れの領域に属するかに基づいて故障診断する、ダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置の故障診断方法であって、
前記電源制御部は、前記レーザモジュールに印加される電流および電圧の値に対応する複数の領域に予め分割された診断マップを含み、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に過電流であり、第1の所定の電流よりも大きい領域(R1)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源制御部または前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電流値に無関係に過電圧であり、第3の所定の電圧よりも大きい領域(R2)に属するとき、前記電源制御部は、初期状態から異常検出される場合には結線の誤りの可能性が高いと判断でき、正常に動作した後に異常検出される場合には前記レーザモジュールの開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電流の値が、前記診断マップにおいて、電圧値に無関係に異常な低電流であり、前記第1の所定の電流よりも小さい第2の所定の電流よりも小さい領域(R3)に属するとき、前記電源制御部は、前記電源回路が故障している可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が低く、前記第3の所定の電圧より小さく第1の所定の電圧より小さい領域(R4)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部のレーザダイオードの一部が短絡モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
前記レーザモジュールに印加される電圧の値が、診断マップにおいて、電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が高く、前記第1の所定の電圧より大きく第2の所定の電圧より大きく前記第3の所定の電圧より小さい領域(R5)に属するとき、前記電源制御部は、前記レーザモジュール内部の前記レーザダイオードの一部が開放モードでの故障をしている可能性が高いと判断し、
故障発生の診断を行う、故障診断方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、波及故障を招くことがないように迅速に故障の発生を検出するとともに、故障原因の絞り込みが容易なダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置、および、レーザ発振装置の故障診断方法を提供することができるようになる。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態を示すレーザ発振装置が組み込まれたレーザ加工システムの説明図である。
【
図4】レーザ発振装置に組み込まれた電源回路及び電源制御部の機能ブロック構成図である。
【
図5A】レーザモジュールの電圧電流特性図である。
【
図6】別のレーザ発振装置が組み込まれたレーザ加工システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用したダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置、および、レーザ発振装置の故障診断方法の実施の形態を、図面を参照して説明する。
[基本的態様]
本発明に係るダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置は、レーザ加工ヘッドを備えたレーザロボットを制御するシステム制御装置からの駆動指令に基づいてレーザ加工ヘッドにレーザ光を出力するように構成されている。このレーザ発振装置は、直列または並列接続された複数のレーザダイオードが組み込まれたレーザモジュールと、レーザモジュールを定電流駆動する電源回路と、システム制御装置からの駆動指令に基づいて電源回路を制御するとともに、レーザモジュールへの印加電流及び印加電圧が予め複数の領域に区分された診断マップの何れの領域に属するかに基づいて故障診断する電源制御部と、を備えている。
【0018】
システム制御装置からの駆動指令に基づいて電源制御部が電源回路を制御してレーザモジュールに所定の値の電流を印加することによりレーザモジュールからレーザ加工ヘッドに所定の強度のレーザ光が出力される。電源制御部は、所定の定電流値がレーザモジュールに印加されるように、フィードバック信号として検出したレーザモジュールへの印加電流及び印加電圧に基づいて電源回路を制御する。その際に、当該印加電流及び印加電圧が、予め電流値と電圧値を組み合わせた診断マップの何れの領域に属するかに基づいて、正常か異常かが診断される。
【0019】
診断マップは、故障予測原因と関連付けて領域区分されていてもよい。診断マップは、例えば、少なくとも印加電流及び印加電圧が正常な範囲を境にして印加電流及び印加電圧の上側及び下側に領域区分されていることが好ましい。すなわち、少なくとも印加電流及び印加電圧のそれぞれの上下もしくは高低に基づいて診断マップが複数領域に区分されていることが好ましい。例えば、診断マップは、印加電流及び印加電圧が正常な範囲(領域)、電圧値に無関係に過電流となる領域、電圧値に無関係に異常な低電流となる領域、電流値に無関係に過電圧となる領域、電流値は正常範囲だが電圧値が過度に高い領域、電流値は正常範囲だが電圧値が過度に低い領域などに区分される。
【0020】
検出された印加電流及び印加電圧が診断マップのどの領域にあるかが判明すれば、その領域に関連付けられた故障原因が予測でき、迅速且つ円滑な復旧が可能になる。
【0021】
電源制御部は、故障発生と診断すると、電源回路を停止するとともにシステム制御装置に故障診断情報を送信するように構成され、故障診断情報は、診断マップの領域情報を含むことが好ましい。
【0022】
故障発生と診断した電源制御部が制御対象である電源回路を直ちに停止することができ、故障発生から停止までの遅延時間による波及故障を招くことがない。そして、故障診断情報がシステム制御装置に送信されることにより、レーザ加工システム全体が支障なく停止されるようになる。故障診断情報に診断マップの領域情報が含まれていると、保守担当者がシステム制御装置、またはティーチペンダントを介して当該故障診断情報を取得することができ、速やかに復旧作業を行なえるようになる。
【0023】
次に、本発明に係る故障診断方法は、直列または並列接続された複数のレーザダイオードが組み込まれたレーザモジュールと、レーザモジュールを定電流駆動する電源回路と、電源回路を制御する電源制御部と、を備えたダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置の電源制御部により実行される故障診断方法であり、レーザモジュールへの印加電流及び印加電圧が予め複数の領域に区分された診断マップの何れの領域に属するかに基づいて故障診断する工程が実行される。
【0024】
そして、診断マップは、故障予測原因と関連付けて領域区分されており、故障発生と診断されると、診断マップの領域情報を含む故障診断情報が出力される。
【0025】
[具体的態様]
図1に示すように、レーザ加工システム100は、レーザ発振装置1と、レーザ発振装置1によって発振されたレーザビームを案内する光ファイバ2と、光ファイバ2で案内されたレーザビームを集光して被加工物に向けて出射するレーザ加工ヘッド3と、先端に固定したレーザ加工ヘッド3を被加工物に向けて案内するレーザロボット4と、レーザ発振装置1及びレーザロボット4を制御するシステム制御装置5と、システム制御装置5に接続されたティーチペンダント6などを備えている。
【0026】
レーザロボット4は、複数のリンク4Lがそれぞれジョイント4Jを介して回動可能に結合された多関節型アームでなるマニピュレータと、マニピュレータを制御する制御部4Aを備え、マニピュレータの先端部にレーザ加工ヘッド3が取り付けられている。
【0027】
システム制御装置5は、CPU、CPUで実行される制御プログラムなどが格納されたメモリ及び入出力回路などで構成された電子制御回路を備え、当該電子制御回路によりレーザロボット4を制御するロボット制御部5Aやレーザ発振装置1を制御するレーザ発振装置制御部5Bなどの機能ブロックが構成されている。そのため、システム制御装置5とレーザ発振装置1とが通信線L1で接続され、システム制御装置5とレーザロボット4とが通信線L2で接続されている。
【0028】
レーザ加工ヘッド3は、ブラケットを介してマニピュレータの先端に取り付けられたケーシング3Aと、ケーシング3Aに収容された集光光学系3B及び保護ガラス3Cなどを備えている。
【0029】
レーザ発振装置1から光ファイバ2を介してレーザ加工ヘッド3に案内されたレーザビームは、集光光学系3Bで集光されて、ワークテーブルWTに設置された溶接対象物となる被加工物Wの溶接部位に照射される。
【0030】
当該ケーシング3Aには、溶接個所に向けて溶接ワイヤを供給するとともに溶接ワイヤの周囲からシールドガスを供給するシールドガスノズルを備えたワイヤ供給機構3Dが設けられている。ワイヤ供給機構3Dから供給される溶接ワイヤがレーザビームにより溶融して被加工物Wが溶接される。そして、溶接時に溶融した金属が周囲の空気による酸化で劣化しないように、アルゴンガスなどのシールドガスGが溶接部位に供給される。
【0031】
なお、
図1には、ワイヤ供給機構3Dのシールドガスノズルしか示されていないが、実際にはワイヤ供給機構3Dは、シールドガスノズルの先端が溶接部位に延びるようにワイヤ供給機構3Dの本体が、例えばケーシング3Aの側壁に取付けられている。
【0032】
レーザ加工ヘッド3には、さらに保護ガラス3Cと被加工物Wとの間に、レーザビームの光軸Lと交差する方向から防汚ガスを噴射して保護ガラス3Cを防汚する防汚ガス供給装置3Eが設けられている。
【0033】
ティーチペンダント6は、システム制御装置5との通信インタフェース回路、各種の情報を表示するための表示部6A、溶接条件の設定等を行うためのデータ設定部6Bなどを備えて構成されている。
【0034】
教示者は、ティーチペンダント6のデータ設定部6Bを操作して、レーザロボット4のマニピュレータに対する動作パラメータや、レーザ加工ヘッド3及びレーザ発振装置1に対する溶接パラメータ(例えばレーザ光の強度やレーザ光の繰返し周波数が含まれる)などの教示データの入力作業を行なう。入力された教示データの集合体つまりティーチング情報は通信インタフェース回路を介してティーチペンダント6からシステム制御装置5に送信され、システム制御装置5のメモリに記憶される。
【0035】
システム制御装置5は、溶接作業の開始に際してメモリから読み出したティーチング情報に基づいて演算部で必要な演算処理を実行し、レーザロボット4に必要な動作指令を出力するとともに、レーザ発振装置1にレーザビームの発振を促す駆動指令などを出力する。システム制御装置5が溶接作業の進捗に伴ってレーザロボット4、レーザ発振装置1及びレーザ加工ヘッド3に必要な指令を更新出力することにより、教示データ通りにレーザロボット4とレーザ発振装置1及びレーザ加工ヘッド3が制御される。なお、レーザ加工ヘッド3はレーザロボット4に備えた制御部4Aを介して制御される。レーザ加工ヘッド3に出力される指令には防汚ガスの噴射指令などが含まれる。
【0036】
図2には、レーザ発振装置1の一例が示されている。レーザ発振装置1は、ダイレクトダイオードレーザ方式が採用され、直列または並列接続された複数のレーザダイオードLDが組み込まれた複数のレーザモジュール10(10A,10B)と、レーザモジュール10(10A,10B)から出力されたレーザビームを1本のレーザビームに合波するビーム合波器12と、各レーザモジュール10(10A,10B)を定電流駆動する電源回路20と、システム制御部5の駆動指令に基づいて電源回路20を制御する電源制御部30を備えている。
【0037】
ビーム合波器12には反射ミラー12Aとビームスプリッター12Bが設けられている。レーザモジュール10A,10Bから出射されたレーザビームはそれぞれ偏光面が直交し、一方がP偏光、他方がS偏光といった態様で各反射ミラー12Aに入射して空間合成され、ビームスプリッター12Bにより偏波合成される。なお、各反射ミラー12Aはレーザビームが互いに干渉しないように配置される。
【0038】
レーザモジュール10(10A,10B)は、内部に備えた複数のレーザダイオードから出射されるレーザビームを1本に合波したレーザビームを出射するように構成され、レーザビームの光強度は各レーザモジュール10(10A,10B)に接続された電源回路20から供給される電流の値により調整される。各レーザモジュール10(10A,10B)の最大強度は例えば1kW程度に設定されている。
【0039】
各レーザモジュール10(10A,10B)は電源回路20に備えた定電流回路と直列に接続され、各レーザモジュール10(10A,10B)へ所定の電流を印加することで同レベルの出力のレーザビームが出射される。本実施形態では1kWのレーザモジュールを8個接続した構成となり、レーザビームの光強度は最大8kWとなる。なお、レーザモジュールの数は8個に限定されるものではなく、レーザ発振装置1に要求される最大出力に応じてその数を増減することができる。
【0040】
図3には、レーザモジュール10の構成が示されている。レーザモジュール10は、冷却板14に設置された複数のレーザダイオードLDと多波長のレーザ光に対してスペクトルビーム結合を行う光学素子で形成される。
【0041】
各レーザモジュール10は、多波長λ1,λ2,λ3,…λnのレーザ光11を、全反射ミラー15、集光レンズ16および回折格子17を用いて重畳して1本のレーザビーム18として出力するように構成されている。各レーザモジュール10は小型化のため、全反射ミラー15を用いて、小さな空間内で光共振及びレーザ光の重畳を行える構成となっている。なお、複数のレーザダイオードLDは互いに直列に接続される態様に限らず、一部が並列接続される態様であってもよい。
【0042】
回折格子17により重畳されたレーザビーム18はレーザモジュール10から出射され、上述したように、他のレーザモジュール10から出射されたレーザ光と偏波合成及び空間合成され、合成されたレーザビームが光ファイバ2(
図1参照)を介してレーザ加工ヘッド3に導かれる。
【0043】
図4には、レーザ発振装置1に組み込まれた電源回路20及び電源制御部30の回路ブロック構成が示されている。電源回路20は、三相商用電源から供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DCコンバータ21と、AC/DCコンバータ21の直流出力電圧を所定の直流電圧値に調整するDC/DCコンバータ22と、DC/DCコンバータの直流電圧が入力され、所望の定電流値の直流電流を出力する定電流回路23を備え、何れも半導体スイッチング素子のスイッチング周期の調整により所望の直流電圧または直流電流を出力するように構成されている。
【0044】
電源制御部30にはマイクロコンピュータ及び制御プログラムが格納されたメモリ回路を備え、マイクロコンピュータに備えたCPUにより制御プログラムが実行されることにより、AC/DCコンバータ21、DC/DCコンバータ22、定電流回路23のそれぞれの出力が制御される。
【0045】
電源制御部30はシステム制御部5から指示された駆動指令に基づいて、直列接続された各レーザモジュール10に直流電流またはパルス電流を印加すべく、レーザモジュール10の両端電圧を検出する電圧センサV、レーザモジュール10に供給される電流を検出する電流センサAの値に基づいて定電流回路23をフィードバック制御する。
【0046】
駆動指令には、レーザ発振装置1から出力されるレーザビームの光強度、連続光またはパルス光の選択、パルス光であればその周期がパラメータとして含まれ、電源制御部30はその値に応じて適切な電流値が各レーザモジュール10に印加されるように定電流回路23を制御する。
【0047】
図5Aには、レーザモジュール10の電圧電流特性が例示されている。当該電圧電流特性は、直列接続されるレーザモジュール10の数や、パルス駆動するのか連続駆動するのかによって異なるが、一般的な傾向は同じである。また、直列接続されたレーザダイオードLDの数により点灯開始電圧Vsが異なる。
【0048】
電源制御部30は、実際の制御中に検出された電圧センサV及び電流センサAの値に基づいてレーザ発振装置1の故障診断を行なうように構成されている。具体的には、レーザモジュール10への印加電流及び印加電圧が予め複数の領域に区分された診断マップがメモリ回路に格納され、当該診断マップの何れの領域に属するかに基づいて故障診断する。
【0049】
図5Bには、診断マップが例示されている。診断マップは、電圧電流空間内で、印加電流及び印加電圧が正常な範囲(
図5B中の白抜き領域)を境にして上側及び下側に、領域R1からR5の5領域に区分されている。すなわち、正常な範囲以外は、5領域に区分されている。そして、各領域は故障予測原因と関連付けて区分されている。
【0050】
領域R1は電圧値に無関係に過電流となる場合の異常判定領域であり、電源回路20に組み込まれた定電流回路23が適切に機能していない状態となった場合の故障領域である。電源制御部30と定電流回路23の故障の可能性が高いと判断できる。
【0051】
領域R2は電流値に無関係に過電圧となる場合の異常判定領域である。初期状態から異常検出される場合には結線の誤りの可能性が高いと判断でき、正常に動作した後に異常検出される場合にはレーザモジュール10の開放モード故障の可能性が高いと判断できる。
【0052】
領域R3は電圧値に無関係に異常な低電流となる場合の異常判定領域であり、電源の故障であると判断できる。
【0053】
領域R4は電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が低い場合の異常判定領域である。レーザモジュール10内部のレーザダイオードLDの一部が短絡モード故障している可能性が高いと判断できる。
【0054】
領域R5は電流値が正常範囲であるにもかかわらず電圧値が高い場合の異常判定領域である。レーザモジュール10内部のレーザダイオードLDの一部が開放モード故障している可能性が高いと判断できる。
【0055】
図5Bに示した診断マップは一例であり、直列接続されるレーザモジュール10の数や、連続点灯するかパルス状に間欠点灯するかによって電流電圧特性が異なるため、代表的な複数の電流電圧特性を基準に複数の診断マップが準備されていることが好ましく、駆動指令に含まれるパラメータや直列接続されるレーザモジュール10の数に対応した診断マップを用いて故障診断することが好ましい。
【0056】
電源制御部30は、故障発生と診断すると、電源回路20を停止するとともにシステム制御装置5に診断マップの領域情報を含む故障診断情報を送信するように構成され、システム制御装置5の表示部、またはティーチペンダント6に対応する異常コードが表示されるように構成されている。保守担当者がシステム制御装置5を介して当該故障診断情報を取得することができ、速やかに復旧作業を行なえるようになる。
【0057】
上述した実施形態では、レーザモジュール10に対する電流電圧の二次元空間を複数領域に区分した診断マップを説明したが、さらにレーザモジュール10の温度を指標に加えた三次元空間を複数領域に区分した診断マップを構成してもよい。レーザモジュール10が異常高温を示すと、レーザダイードLDに短絡モードの故障が生じている可能性が高いとの診断要素が付加でき、レーザモジュール10が異常低温を示すと、レーザダイードLDに開放モードの故障が生じている可能性が高いとの診断要素が付加でき、レーザモジュール10が正常な温度範囲であれば、レーザダイードLDに異常が生じていないとの診断要素が付加できるようになる。
【0058】
上述した実施形態は本発明の一例に過ぎず、各部の具体的な構成は上述した具体例に限定されるものではなく、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、波及故障を招くことがないように迅速に故障の発生を検出するとともに、故障原因の絞り込みが容易なダイレクトダイオードレーザ方式のレーザ発振装置を実現できる。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0060】
100:レーザ加工システム
1:レーザ発振装置
10,10A,10B:レーザモジュール
12A:反射ミラー
12B:ビームスプリッター
LD:レーザダイオード
15:全反射ミラー
16:集光レンズ
17:回折格子
20:電源回路
30:電源制御部
2:光ファイバ
3:レーザ加工ヘッド
4:レーザロボット
5:システム制御装置(システム制御部)
5A:ロボット制御部
5B:レーザ発振装置制御部
6:ティーチペンダント