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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20230814BHJP
【FI】
H02P21/22
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020556716
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040558
(87)【国際公開番号】W WO2020100497
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018215748
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆太
(72)【発明者】
【氏名】田澤 徹
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/084461(WO,A1)
【文献】特開2008-048593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのトルクの目標値であるトルク指令に基づいて、モータの電流を直交したd軸電流とq軸電流とに分離して制御するモータ制御装置であって、
d軸電流指令とq軸電流指令とが入力され、前記d軸電流の値と前記d軸電流指令の値との差分がゼロとなるようにd軸電圧指令を生成し、前記q軸電流の値と前記q軸電流指令の値との差分がゼロとなるようにq軸電圧指令を生成する電流ベクトル制御部と、
前記トルク指令に基づき、前記q軸電流指令を生成するq軸電流指令生成部と、
前記電流ベクトル制御部から出力される前記d軸電圧指令をd軸成分とし、前記q軸電圧指令をq軸成分とするベクトルである電圧指令の振幅が基準電圧を超えないように、前記電圧指令と前記基準電圧との差分に基づき、前記d軸電流指令を生成する弱め磁束制御部と、d軸成分を前記d軸電流指令とし、q軸成分をq軸電流指令とする前記モータの電流指令ベクトルの大きさが電流制限値を超えないように、前記q軸電流指令の大きさに応じて前記d軸電流指令の大きさを制限する電流リミッタと、
前記d軸電流指令の制限前の値と前記d軸電流指令の制限後の値との差分に基づいて、前記基準電圧を修正する基準電圧修正部と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記基準電圧を所定の上限値で制限する基準電圧リミッタと、
前記電圧指令の振幅が前記所定の上限値より大きくなると、前記q軸電流指令または前記トルク指令を減少させるように修正する指令修正部と、
をさらに備える請求項1記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流ベクトル制御を用いたモータ制御装置に関する。本発明は、特に、弱め磁束制御または過変調制御を行い、電圧飽和領域付近でモータを駆動させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、永久磁石同期モータの巻線電流を制御する方法として、モータの巻線電流を回転子磁束方向のd軸成分とそれに直交するq軸成分とに分離して制御するベクトル制御が用いられる。ベクトル制御を行う電流制御部は、外部からの指令を受けて、モータに電力を供給するモータ駆動部への電圧指令の値を計算する。
【0003】
外部からの指令の値が大きくなった場合など、この電圧指令の値がモータ駆動部の供給可能電圧を上回ることがある。この現象は、電圧飽和と呼ばれる。電圧飽和は、モータの駆動速度が大きいほど生じやすくなる。モータ駆動中に生じる誘起電圧が、駆動速度に比例して上昇し、これを供給電圧で補うためにモータの端子間電圧も同様に上昇するためである。モータの負荷が大きい場合または電源電圧が低い場合も、供給電圧余裕が小さくなるため、電圧飽和が生じやすくなる。
【0004】
力行(りっこう)動作時のモータに電圧飽和が生じると、トルクを発生できず、速度を増やせなくなる。また、その二次的影響として、電流制御部または速度制御部の積分項がワインドアップして応答が劣化する場合がある。
【0005】
電圧飽和を抑制する手段として、負のd軸電流を流すことによって、永久磁石による磁束を弱め、誘起電圧の増加を抑制する弱め磁束制御が用いられる。
【0006】
しかし、負のd軸電流を増やしていくと、反作用磁界によって永久磁石の不可逆減磁が生じたり、モータの効率が悪化したりするため、d軸電流の大きさには制限が課されることがある。
【0007】
さらに、モータおよびモータを駆動するインバータには通電可能な電流の上限が存在するため、d軸電流とq軸電流を合わせた合成電流の大きさにも制限が課されることがある。
【0008】
このようなd軸電流の制限下および合成電流の制限下における弱め磁束制御が、例えば特許文献1に記されている。特許文献1に開示の手法では、電圧指令の値と所定の基準値の差分に基づいてd軸電流指令を生成する。このd軸電流指令が負方向の制限値を超えた量に基づいて、外部からの目標指令値またはq軸電流指令値を制限している。さらに、特許文献1には、d軸電流指令とq軸電流指令を合わせたモータの電流指令ベクトルの大きさが所定の値を超えないように、d軸電流指令の大きさに応じてq軸電流指令の大きさを制限する電流リミッタを備えた技術が示されている。
【0009】
特許文献1の技術は、d軸電流指令の値とq軸電流指令の値を合わせた合成電流の大きさが所定の値に到達すると、q軸電流指令の値を低減させる処理を行う。このため、当初のq軸電流指令の値が大きいほど、d軸電流指令の値を増やす余地が小さくなり、弱め磁束制御の効果を得にくい。したがって、大トルクを必要とする運転領域ほど、トルクを維持したままで速度を増やすことが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特許第5948613号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明は、上記従来の問題を解決するために成されたものである。本発明は、電流制限によってd軸電流を十分に流せない運転領域でも速度を増やすことを可能にし、モータの出力をより引き出せるようにしたモータ制御装置を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のモータ制御装置は、モータのトルクの目標値であるトルク指令に基づいて、モータの電流を直交したd軸電流とq軸電流とに分離して制御する。本モータ制御装置は、電流ベクトル制御部と、q軸電流指令生成部と、弱め磁束制御部と、電流リミッタと、基準電圧修正部とを備える。電流ベクトル制御部は、d軸電流指令とq軸電流指令とが入力され、d軸電流の値とd軸電流指令の値との差分がゼロとなるようにd軸電圧指令を生成し、q軸電流の値とq軸電流指令の値との差分がゼロとなるようにq軸電圧指令を生成する。q軸電流指令生成部は、トルク指令に基づき、q軸電流指令を生成する。弱め磁束制御部は、電流ベクトル制御部から出力されるd軸電圧指令をd軸成分とし、q軸電圧指令をq軸成分とするベクトルである電圧指令の振幅が基準電圧を超えないように、電圧指令と基準電圧との差分に基づき、d軸電流指令を生成する。電流リミッタは、d軸成分をd軸電流指令とし、q軸成分をq軸電流指令とするモータの電流指令ベクトルの大きさが電流制限値を超えないように、q軸電流指令の大きさに応じてd軸電流指令の大きさを制限する。そして、基準電圧修正部は、d軸電流指令の制限前の値とd軸電流指令の制限後の値との差分に基づいて、基準電圧を修正する構成である。
【0013】
この構成によれば、d軸電流指令の値とq軸電流指令の値を合わせた合成電流値が電流制限値に到達した場合に、基準電圧修正部によって、弱め磁束制御時の基準電圧が修正される。このため、電流制限によってd軸電流が十分に流せない運転領域においても、出力電圧の増大によって速度を増やすことができる。
【0014】
さらに、この構成では、モータの速度が上昇する状況において、出力電圧の修正は弱め磁束制御に対して劣後的に行われ、弱め磁束制御が優先的に行われる。このため、出力電圧を過変調させてモータの速度拡大を図る場合、弱め磁束制御を実施する運転領域に比して過変調を実施する運転領域を小さくすることができ、過変調に付随する高調波成分の発生領域を小さく抑えることができる。
【0015】
また、本発明のモータ制御装置は、基準電圧を所定の上限値で制限する基準電圧リミッタと、電圧指令の振幅が所定の上限値より大きくなると、q軸電流指令またはトルク指令を減少させるように修正する指令修正部とをさらに備えると好ましい。
【0016】
この構成によれば、電流ベクトル制御部から出力される電圧指令の値の振幅が出力電圧の上限値を超えて大きくならないように、q軸電流指令またはトルク指令が修正される。このため、モータの出力可能限界を超えるトルク指令が入力された場合に、電流ベクトル制御部への電流指令が自動的にモータの出力可能限界に応じたベクトルに修正され、安定な電流制御を維持することができる。
【0017】
以上のように、本発明のモータ制御装置によれば、電流制限によってd軸電流を十分に流せない運転領域でも速度を増やすことができ、モータの出力もさらに引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態におけるモータ制御装置が適用されたモータ駆動系の機能ブロック図
図2】本発明の実施の形態におけるモータ制御装置の基準電圧修正部の回路図
図3】本発明の実施の形態におけるモータ制御装置の電流リミッタおよび基準電圧修正部の動作を説明するための図
図4】本発明の変形例のモータ制御装置を示す機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態におけるモータ制御装置について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であって、本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0020】
各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺等は必ずしも一致していない。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0021】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態におけるモータ制御装置が適用されたモータ駆動系の機能ブロック図である。図1に示すように、本実施の形態のモータ駆動系は、モータ1、インバータ2、電流検出部3、位置検出部4およびモータ制御装置5を含む。モータ制御装置5は、モータ1のトルクが、上位の制御部(図示しない)から入力されるトルク指令τ に一致するように、インバータ2を制御する。
【0022】
本実施の形態では、モータ1の一例として、永久磁石を保持したロータと巻線を巻回したステータとを備えた永久磁石同期モータを挙げて説明する。
【0023】
インバータ2は、モータ制御装置5で生成される電圧指令に従って、半導体スイッチングを行い、電源(図示しない)からの直流電圧を交流に変換し、その交流をモータ1に駆動電圧として供給する。このようにして、インバータ2は、モータ1に電力を供給する。インバータ2内部におけるスイッチ構成およびスイッチング方式は、モータ1を駆動する目的に適合していれば、特に限定されるものではない。
【0024】
電流検出部3は、モータ1の3相巻線に流れる相電流i、i、iを直接検出し、相電流i、i、iに応じた信号を出力する。相電流i、i、iを推定できる限り、いかなる部分にて電流を検出してもよい。例えば2相のみ相電流を直接検出し、残り1相を演算で求めてもよい。あるいは、インバータ2の直流母線(図示しない)に電流検出部3を挿入して母線電流を検出し、検出した母線電流から相電流i、i、iを推定してもよい。
【0025】
位置検出部4は、モータ1に取り付けられている。位置検出部4は、モータ1の回転子(図示せず)の位置θに応じた信号を出力する。このようにして、位置検出部4は、モータ1の回転子の位置θを検出する。なお、回転子の位置または速度を推定によって検出できる場合には、位置検出部4は不要である。
【0026】
そして、モータ制御装置5は、モータ1の回転を制御するため、モータ1の巻線電流に関して、ロータ磁束方向のd軸成分とそれに直交するq軸成分とに分離して制御するベクトル制御を利用している。すなわち、モータ制御装置5は、モータ1の電流を直交したd軸電流とq軸電流とに分離し、モータ1の巻線を通電するための電流を、電流ベクトル制御に基づき制御している。
【0027】
次に、モータ制御装置5の構成要素を説明する。
【0028】
速度検出部6は、回転子の位置θに基づいてモータの駆動速度ωを検出する。ただし、回転子の位置θおよび駆動速度ωを推定によって検出するセンサレス制御を用いてもよい。センサレス制御を用いてモータ1を駆動する場合には、位置検出部4の出力信号を用いる代わりに、モータ1の相電流i、i、iおよび電圧指令v 、v を用いて駆動速度ωを計算する。
【0029】
dq変換部7は、電流検出部3により検出した各相電流i、i、iと、位置検出部4より検出した回転子の位置θとから、d軸およびq軸の検出電流であるd軸電流iおよびq軸電流iを算出し、電流ベクトル制御部11に出力する。
【0030】
逆dq変換部8は、電流ベクトル制御部11より入力したd軸およびq軸の電圧指令v およびv と、位置検出部4より検出した回転子の位置θとから、モータ1の各相に与える駆動電圧に対応した電圧指令v 、v 、v を算出し、インバータ2に出力する。
【0031】
本実施の形態では、dq変換部7および逆dq変換部8は、変換の前後で3相の電力が変わらない絶対変換を行うものとする。
【0032】
また、上述のように、モータ制御装置5には、例えば上位の制御部(図示しない)から、モータのトルクの目標値であるトルク指令τ が通知される。トルク指令τ は、モータ制御装置5において、指令修正部9に通知される。指令修正部9は、基準電圧リミッタ16から入力した電圧リミット差分erfに基づいて、トルク指令τ を減少させるように修正し、修正後トルク指令τとして出力する。
【0033】
q軸電流指令生成部10は、指令修正部9から入力した修正後トルク指令τに基づいて、q軸電流の目標値であるq軸電流指令i を生成し、電流ベクトル制御部11および電流リミッタ14へと出力する。生成方法は特に限定されるものではないが、例えば、式(1)に示すように、通常時電流指令位相βと通常時電流指令振幅Iとを用いて演算してもよい。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、通常時電流指令位相βと通常時電流指令振幅Iは、電圧飽和が生じない通常運転領域における電流指令の位相と振幅である。関数fは、通常時電流指令振幅Iを求めるための修正後トルク指令τの関数である。いずれも事前にモータ1の実トルクと実電流ベクトルの関係に基づいて求めておく必要がある。通常時電流指令位相βは、固定の値でもよいし、モータ1の銅損および鉄損を抑制するために、駆動速度ωおよび修正後トルク指令τまたはトルク指令τ に応じて変化させるようにしてもよい。なお、関数fは、数式ないしは同式に基づく数値テーブルでもよい。
【0036】
電流ベクトル制御部11は、d軸電流の目標値であるd軸電流指令i の値とd軸電流iの値との差分である誤差がゼロになるように、d軸電圧指令v を生成する。また、q軸電流の目標値であるq軸電流指令i の値とq軸電流iの値との差分である誤差がゼロになるように、q軸電圧指令v を生成する。d軸電圧指令v およびq軸電圧指令v を生成する生成手段として、例えばPI(Proportional Integral、比例積分)制御がある。すなわち、d軸電流に関しては、まず、d軸電流指令i の値とd軸電流iの値との差分を求める。そして、その差分に対して比例積分処理を行い、その比例積分の結果をd軸電圧指令v とすればよい。同様に、q軸電流に関しては、q軸電流指令i の値とq軸電流iの値との差分に対して比例積分処理を行い、その比例積分の結果をq軸電圧指令v とすればよい。
【0037】
電圧指令振幅演算部12は、電流ベクトル制御部11から逆dq変換部8へと出力される電圧指令v およびv を取り込む。電圧指令振幅演算部12は、取り込んだ電圧指令v およびv を用いて、次の式(2)に基づく演算を行い、d軸成分をv とし、q軸成分をv とするベクトルである電圧指令振幅vfbを算出する。
【0038】
【数2】
【0039】
なお、電圧指令振幅vfbを、インバータ2の直流母線電圧の検出値(図示しない)を用いて補正し、電源電圧の変動を反映した電圧値となるようにしてもよい。
【0040】
弱め磁束制御部13は、電圧指令振幅演算部12から入力した電圧指令振幅vfbと、基準電圧リミッタから入力した基準電圧vrfとを用いて、ゼロを含む負の制限前d軸電流指令id0 を生成する。具体的には、電圧指令振幅vfbの値が基準電圧vrfの値を超えた場合に、制限前d軸電流指令id0 をさらに負方向に増大させるように演算する。例えば、電圧指令振幅vfbの値と基準電圧vrfの値との差分を積分演算し、この積分演算結果に比例した制限前d軸電流指令id0 を出力する。なお、本実施の形態では、「負である指令を負方向に増大させる」とは、負の指令の絶対値が増大するように負方向に変化、すなわち、負の指令をゼロから遠ざかる方向に変化させる意味である。
【0041】
また、正のd軸電流は弱め磁束制御に必要ないため、弱め磁束制御部13において、制限前d軸電流指令id0 を正方向への制限値に制限してもよい。ここで、本実施の形態では、制限前d軸電流指令id0 を負としているため、正方向への制限値とは、ゼロに近づく方向への変化に対する制限値である。正方向への制限値は、ゼロでもよいし、式(3)に示すように、通常時電流指令位相βと通常時電流指令振幅Iを用いて演算される負の値IDMAXとしてもよい。例えば、制限値をゼロとした場合、制限前d軸電流指令id0 は、正方向に変化した結果がゼロを超えるときには、ゼロを超えないように制限される。
【0042】
【数3】
【0043】
ここで、通常時電流指令位相βと通常時電流指令振幅Iは、電圧飽和が生じない通常運転領域における電流指令の位相と振幅である。関数fは通常時電流指令振幅Iを求めるための修正後トルク指令τの関数である。いずれも事前にモータ1の実トルクと実電流ベクトルの関係に基づいて求めておく必要がある。通常時電流指令位相βは、固定の値でもよいし、モータ1の銅損および鉄損を抑制するために、駆動速度ωおよび修正後トルク指令τまたはトルク指令τ に応じて変化させるようにしてもよい。なお、関数fは、数式ないしは同式に基づく数値テーブルでもよい。
【0044】
上記のように構成された弱め磁束制御部13について、以下にその作用を説明する。
【0045】
駆動速度の上昇などにより、電圧指令振幅vfbが基準電圧vrfより大きくなると、ゼロを含む負の制限前d軸電流指令id0 が負方向に増加、すなわちゼロから遠ざかるように変化する。一方、電圧指令振幅vfbが基準電圧vrfより小さくなると、この制限前d軸電流指令id0 がゼロに近づくように変化する。これにより、電圧指令振幅vfbが基準電圧vrfを超えないように弱め磁束制御が行われる。
【0046】
電流リミッタ14は、q軸電流指令i を用いて、式(4)に基づく演算を行い、d軸電流指令i の負方向の制限値id_lmtを算出する。具体的には、電流リミッタ14は、弱め磁束制御部13から入力した制限前d軸電流指令id0 に対して、制限値id_lmt以内に制限する。すなわち、ゼロを含む負の制限前d軸電流指令id0 が、制限値id_lmtよりもゼロに近い場合には、電流リミッタ14は、制限前d軸電流指令id0 をそのまま出力する。一方、負の制限前d軸電流指令id0 が、制限値id_lmtをゼロから遠ざかる方向に超える場合には、電流リミッタ14は、制限前d軸電流指令id0 に代えて、制限値id_lmtを出力する。式(4)において、IMAXはd軸成分をd軸電流指令i とし、q軸成分をq軸電流指令i とするモータの電流指令ベクトルの大きさの最大値(以下、「電流制限値」と呼称する)である。このようにして、電流リミッタ14からは、d軸電流の目標値であるd軸電流指令i が出力され、電流ベクトル制御部11に供給される。
【0047】
【数4】
【0048】
上記のように構成された電流リミッタ14によって、d軸電流指令i とq軸電流指令i を合わせたモータの電流指令ベクトルの大きさ(以下、「合成電流値」と呼称する)が電流制限値IMAXを超えないように制限することができる。
【0049】
基準電圧修正部15は、d軸電流指令i から制限前d軸電流指令id0 を引いた差分eid(以下、d軸電流指令リミット差分eidと呼ぶ)の大きさに応じて、制限前基準電圧vrf1を増加させる。図2は、本発明の実施の形態におけるモータ制御装置5の基準電圧修正部15の回路図である。基準電圧修正部15は、図2に示すように、d軸電流指令リミット差分eidに対し、まず、乗算器20により、基準電圧修正係数Kcrを乗じる。そして、基準電圧修正部15は、その乗算結果を、基準電圧初期値vrf0に加算し、制限前基準電圧vrf1として出力する。
【0050】
基準電圧修正係数Kcrの設定値は、特に限定されるものではないが、弱め磁束制御部13の伝達特性の逆特性となるように決定することが望ましい。例えば、弱め磁束制御部13において、制限前d軸電流指令id0 を積分演算によって生成している場合、基準電圧修正係数Kcrは、積分演算における積分ゲインの逆数とすることが望ましい。
【0051】
上記のように構成された電流リミッタ14および基準電圧修正部15について、図3を用いてその動作を説明する。図3は、本発明の実施の形態におけるモータ制御装置5の電流リミッタ14および基準電圧修正部15の動作を説明するための図である。図3において、図3の(a)では、d軸電流指令i と制限前d軸電流指令id0 との関係、図3の(b)では、d軸電流指令i とd軸電流指令リミット差分eidとの関係、図3の(c)では、d軸電流指令i と制限前基準電圧vrf1との関係を示している。
【0052】
モータの速度が上昇し、弱め磁束制御が行われる状況において、図3の(a)に示すように、制限前d軸電流指令id0 が負方向の制限値id_lmtで制限されるまでは、図3の(b)に示すように、d軸電流指令リミット差分eidはゼロになる。このため、制限が成されるまでは、図3の(c)に示すように、基準電圧修正部15から出力される制限前基準電圧vrf1は、基準電圧初期値vrf0と等しくなる。一方、図3の(a)のように、制限前d軸電流指令id0 が負方向の制限値id_lmtで制限された状態では、図3の(b)のように、d軸電流指令リミット差分eidはゼロより大きい値となる。このため、制限が成されると、図3の(c)のように、基準電圧修正部15から出力される制限前基準電圧vrf1は、基準電圧初期値vrf0よりも大きい値になる。
【0053】
本実施の形態では、上記のように構成された電流リミッタ14および基準電圧修正部15により、合成電流値が電流制限値IMAXに到達した場合に、弱め磁束制御時の基準電圧の修正が可能になる。このため、電流制限によってd軸電流が十分に流せない運転領域においても、出力電圧の増大によって速度を増やすことができる。
【0054】
例えば、基準電圧初期値vrf0として、正弦波PWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)制御の最大電圧値を設定した場合について説明する。この場合、合成電流値が電流制限値IMAX未満の運転領域では正弦波PWM制御を行い、合成電流値が電流制限値IMAXで制限される運転領域では過変調PWM制御を行う。このため、電流制限によってd軸電流が十分に流せない場合でも、過変調による出力電圧の増大によって速度を増やすことができる。
【0055】
ところで、過変調は、鉄道をはじめとする産業界で広く利用されているが、インバータ出力電圧が非正弦波状に歪む。この歪により、出力電圧と巻線電流に高調波成分が重畳し、この高調波成分に起因してモータが振動することが知られている。
【0056】
このような不都合に対し、本実施の形態では、モータの速度が上昇する状況において、過変調のような上記の出力電圧の修正よりも、弱め磁束制御が優先的に実行されるようにしている。電流リミッタ14および基準電圧修正部15により、合成電流値が電流制限値IMAXで制限される場合に限定して過変調を行っている。これにより、弱め磁束制御を実施する運転領域に比して過変調を実施する運転領域を小さくしている。このため、本実施の形態によれば、過変調に付随する高調波成分の発生領域を小さく抑えることができる。
【0057】
基準電圧リミッタ16は、基準電圧修正部15から入力した制限前基準電圧vrf1を、インバータ2が出力可能な最大電圧値(以下、「最大電圧値」と呼称する)に制限し、基準電圧vrfとして弱め磁束制御部13に出力する。
【0058】
また、基準電圧リミッタ16は、電圧リミット差分erfを指令修正部9に出力する。この電圧リミット差分erfは、電圧指令振幅vfbが最大電圧値より大きくなると正の値となり、電圧指令振幅vfbが最大電圧値以下になるとゼロになるように出力される。
【0059】
上記のように構成された基準電圧リミッタ16および指令修正部9によって、電圧指令振幅vfbが最大電圧値より大きくなると、修正後トルク指令τが減少するように修正される。そうでない場合は、修正後トルク指令τは修正されない。このため、モータの出力可能限界を超えるトルク指令τ が入力された場合に、モータの出力可能限界に応じた修正後トルク指令τに自動的に修正される。その結果、電流ベクトル制御部11の積分項のワインドアップ現象を防止でき、安定な電流制御を維持することができる。
【0060】
(変形例)
実施の形態の変形例について説明する。
【0061】
図4は、本発明の変形例のモータ制御装置40を示す機能ブロック図である。
【0062】
図4において、図1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。実施の形態に示す図1において、指令修正部9は、基準電圧リミッタ16から入力した電圧リミット差分erfに基づいて、上位の制御部(図示しない)からのトルク指令τ を減少させるように修正し、修正後トルク指令τを出力する。この代わりに、本変形例におけるモータ制御装置40の指令修正部42は、基準電圧リミッタ16から入力した電圧リミット差分erfに基づいて、q軸電流指令生成部41から入力した修正前q軸電流指令iq0 を減少させるように修正し、q軸電流指令i を出力する。また、図1において、q軸電流指令生成部10は、指令修正部9から入力した修正後トルク指令τに基づいて、q軸電流の目標値であるq軸電流指令i を生成する。この代わりに、本変形例におけるモータ制御装置40のq軸電流指令生成部41は、上位の制御部(図示しない)からのトルク指令τに基づいて、q軸電流の目標値である修正前q軸電流指令iq0 を生成し、指令修正部42に出力する。
【0063】
このような構成であったとしても、上記実施の形態と同様の作用および効果が得られる。
【0064】
以上のように、本実施の形態のモータ制御装置5は、モータのトルクの目標値であるトルク指令に基づいて、モータの電流を直交したd軸電流とq軸電流とに分離して制御する。モータ制御装置5は、d軸電流指令i とq軸電流指令i とが入力され、d軸電流iの値とd軸電流指令i の値との差分がゼロとなるようにd軸電圧指令v を生成し、q軸電流iの値とq軸電流指令i の値との差分がゼロとなるようにq軸電圧指令v を生成する電流ベクトル制御部11と、トルク指令τに基づき、q軸電流指令i を生成するq軸電流指令生成部10と、電流ベクトル制御部11から出力されるd軸電圧指令v をd軸成分とし、q軸電圧指令v をq軸成分とするベクトルである電圧指令の振幅vfbが基準電圧vrfを超えないように、電圧指令と基準電圧vrfとに基づき、d軸電流指令id0 を生成する弱め磁束制御部13と、d軸成分をd軸電流指令i とし、q軸成分をq軸電流指令i とするモータの電流指令ベクトルの大きさが電流制限値IMAXを超えないように、q軸電流指令i の大きさに応じてd軸電流指令i の大きさを制限する電流リミッタ14と、d軸電流指令i の制限前の値とd軸電流指令i の制限後の値との差分に基づいて、基準電圧vrfを修正する基準電圧修正部15とを備える。
【0065】
このような構成とすることにより、電流指令ベクトルの大きさが電流制限値IMAXに到達したときに、弱め磁束制御時の基準電圧vrfが修正される。このため、電流制限によってd軸電流が十分に流せない運転領域においても、出力電圧の増大によって速度を増やすことができ、モータの出力もさらに引き出すことができる。
【0066】
また、好ましい一例として、基準電圧vrfを所定の上限値で制限する基準電圧リミッタ16と、電圧指令の振幅vfbが所定の上限値より大きくなると、q軸電流指令i またはトルク指令を減少させるように修正する指令修正部9と、をさらに備えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のモータ制御装置は、電圧飽和領域で駆動するモータ、例えば、瞬間的ないし断続的に高速・大トルクでの駆動が必要な産業機械、自動車、自動車部品、電車、家電製品、流体機械、建設機械などを駆動するモータに適用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 モータ
2 インバータ
3 電流検出部
4 位置検出部
5 モータ制御装置
6 速度検出部
7 dq変換部
8 逆dq変換部
9 指令修正部
10 q軸電流指令生成部
11 電流ベクトル制御部
12 電圧指令振幅演算部
13 弱め磁束制御部
14 電流リミッタ
15 基準電圧修正部
16 基準電圧リミッタ
20 乗算器
40 モータ制御装置
41 q軸電流指令生成部
42 指令修正部
図1
図2
図3
図4