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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】高周波加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/72 20060101AFI20230814BHJP
   H05B 6/76 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
H05B6/72 C
H05B6/76 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020572183
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2020003934
(87)【国際公開番号】W WO2020166410
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2019023095
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】前田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】大森 義治
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-046809(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0245424(US,A1)
【文献】国際公開第2017/022712(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0249416(US,A1)
【文献】特開2013-201096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0063676(US,A1)
【文献】特開2009-187856(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104373971(CN,A)
【文献】特開2005-124061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/46-6/80
F24C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の壁面を有し、被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
高周波電力を発生させる発生部と、
分岐した複数のループ部を含むループアンテナを有し、前記発生部から発生された前記高周波電力を前記加熱室に放射する放射部と、
前記発生部から発生される高周波電力の周波数を制御する制御部と、を備え、
前記発生部により発生された高周波電力は、分岐した前記複数のループ部に供給されるように構成され、
前記複数のループ部が互いに異なる長さを有し、前記複数のループ部の各々の長さが、前記高周波電力の波長の半分の整数倍であり、
前記制御部は、前記複数のループ部の一つのループ部に共振を発生させるための周波数を有する前記高周波電力を前記発生部に出力させることで、前記複数のループ部の主に前記一つのループ部に前記高周波電力を放射させるように構成され、
前記制御部は、前記複数のループ部の他のループ部に共振を発生させるための周波数を有する前記高周波電力を前記発生部に出力させることで、前記複数のループ部の主に前記他のループ部に前記高周波電力を放射させるように構成された、高周波加熱装置。
【請求項2】
前記発生部が、2.4~2.5GHzの帯域のいずれかの周波数の高周波電力を発生させる、請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
前記ループアンテナが、前記高周波電力が供給される分岐点から前記複数のループ部まで延在する複数の伝送路を有し、前記複数の伝送路が前記加熱室の壁面と平行である、請求項1または2に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
前記複数の伝送路の各々の長さが、前記高周波電力の波長の1/4以上かつ半分以下である、請求項3に記載の高周波加熱装置。
【請求項5】
金属製の壁面を有し、被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
高周波電力を発生させる発生部と、
複数のループ部を含むループアンテナを有し、前記発生部から発生された前記高周波電
力を前記加熱室に放射する放射部と、を備え、
前記加熱室から突出するように、前記ループアンテナの上方の前記加熱室の外側に配置されたチョーク構造体をさらに備え、前記チョーク構造体が、前記加熱室の前記壁面と接する表面に設けられたスリットと、前記スリットから延在する空洞とを有する、高周波加熱装置。
【請求項6】
前記空洞の深さが、前記高周波電力の波長の1/4である、請求項5に記載の高周波加熱装置。
【請求項7】
前記スリットの幅が1mm以上5mm以下である、請求項5または6に記載の高周波加熱装置。
【請求項8】
前記スリットの長さが前記高周波電力の波長の半分より長い、請求項5~7のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項9】
前記チョーク構造体が、前記壁面を挟んで、前記ループアンテナと交差するように配置される、請求項5~8のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波発生部を備えた高周波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波加熱装置では、加熱室の壁面に設けられた給電口から供給された高周波電力により被加熱物が加熱される。特許文献1に記載された高周波加熱装置は、複数の給電口を有し、複数の給電口のそれぞれから放射される電力量を変化させることができる。これにより、従来の高周波加熱装置は、加熱室内の電磁界分布を時間的に変化させて、被加熱物を均一に加熱しようとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-29397号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、従来の高周波加熱装置は、高周波電力を加熱室の壁面に設けられた給電口に導く導波管を必要とする。このため、装置が大型化したり、高周波電力が導波管を伝送する際にエネルギーロスが発生したりする。
【0005】
本開示の一態様の高周波加熱装置は、加熱室と発生部と放射部とを備える。加熱室は、金属製の壁面を有し、被加熱物を収容するように構成される。発生部は、高周波電力を発生させる。放射部は、複数のループ部を含むループアンテナを有し、発生部から発生された高周波電力を加熱室に放射する。
【0006】
本態様によれば、高周波電力を伝送する導波管を設けることなく、被加熱物を均一に加熱したり、部分的に加熱したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の実施の形態1に係る高周波加熱装置の構成を模式的に示す図である。
図2図2は、実施の形態1におけるループアンテナの構成を模式的に示す図である。
図3図3は、本開示の実施の形態2に係る高周波加熱装置の構成を模式的に示す図である。
図4図4は、本開示の実施の形態3における加熱室の壁面近傍の構成を模式的に示す図である。
図5図5は、本開示の実施の形態4に係る高周波加熱装置の構成を模式的に示す図である。
図6図6は、実施の形態4におけるループアンテナとチョーク構造体との構成を模式的に示す図である。
図7図7は、実施の形態4におけるチョーク構造体の斜視図である。
図8図8は、実施の形態4におけるループアンテナとチョーク構造体との位置関係を示す構成図である。
図9図9は、実施の形態4における加熱室の壁面近傍の構成を模式的に示す図である。
図10A図10Aは、ループアンテナが2.4GHzの周波数の高周波電力を放射する様子を模式的に示す図である。
図10B図10Bは、ループアンテナが2.5GHzの周波数の高周波電力を放射する様子を模式的に示す図である。
図10C図10Cは、ループアンテナが2.45GHzの周波数の高周波電力を放射する様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の第1の態様の高周波加熱装置は、加熱室と発生部と放射部とを備える。加熱室は、金属製の壁面を有し、被加熱物を収容するように構成される。発生部は、高周波電力を発生させる。放射部は、複数のループ部を含むループアンテナを有し、発生部から発生された高周波電力を加熱室に放射する。
【0009】
本開示の第2の態様において、第1の態様に基づきながら、発生部から発生される高周波電力の周波数を制御するように構成された制御部をさらに備える。
【0010】
本開示の第3の態様において、第1の態様に基づきながら、発生部は、2.4~2.5GHzの帯域のいずれかの周波数の高周波電力を発生させる。
【0011】
本開示の第4の態様において、第3の態様に基づきながら、複数のループ部は互いに異なる長さを有する。
【0012】
本開示の第5の態様において、第1の態様に基づきながら、複数のループ部の各々の長さは、高周波電力の波長の半分の整数倍である。
【0013】
本開示の第6の態様において、第1の態様に基づきながら、ループアンテナは、高周波電力が供給される分岐点から複数のループ部まで延在する複数の伝送路を有する。複数の伝送路は加熱室の壁面と平行である。
【0014】
本開示の第7の態様において、第6の態様に基づきながら、複数の伝送路の各々の長さは、高周波電力の波長λの1/4以上かつ半分以下である。
【0015】
本開示の第8の態様において、第1の態様に基づきながら、加熱室から突出するように、ループアンテナの上方の加熱室の外側に配置されたチョーク構造体をさらに備える。チョーク構造体は、加熱室の壁面と接する表面に設けられたスリットと、スリットから延在する空洞とを有する。
【0016】
本開示の第9の態様において、第8の態様に基づきながら、空洞の深さは、高周波電力の波長λの約1/4である。
【0017】
本開示の第10の態様において、第8の態様に基づきながら、スリットの幅が1mm以上5mm以下である。
【0018】
本開示の第11の態様において、第8の態様に基づきながら、スリットの長さは高周波電力の波長λの半分より長い。
【0019】
本開示の第12の態様において、第8の態様に基づきながら、チョーク構造体は、壁面を挟んで、ループアンテナと交差するように配置される。
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下のすべての図面において、同一または相当部分には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1に係る高周波加熱装置の構成を模式的に示す。図1は、本実施の形態の高周波加熱装置を正面から見た図である。図1に示すように、本実施の形態1の高周波加熱装置は、加熱室1と、発生部2と、ループアンテナ3とを備える。
【0022】
加熱室1の壁面5は、ホーロー、鉄などの電導性材料で構成される。発生部2は半導体増幅器を含み、マイクロ波などの高周波電力を発生させる。発生部2により発生された高周波電力は、同軸線20と接続部21とを介して分岐点7からループアンテナ3に供給される。
【0023】
ループアンテナ3は、高周波電力を加熱室1に放射する放射部である。ループアンテナ3により放射された高周波電力は、加熱室1内に載置された被加熱物4を加熱する。ループアンテナ3は一般的に銅製である。しかし、ループアンテナ3は、高周波を伝導可能であれば必ずしも銅製でなくてもよい。
【0024】
図2は、ループアンテナ3の構成を示すため、下方から加熱室1の上側の壁面5を見た図である。図1図2に示すように、ループアンテナ3は、二つの伝送路(伝送路6A、6B)と二つのループ部(ループ部3A、3B)とを有する。
【0025】
伝送路6Aは、分岐点7で接続部21に接続された一端を有し、加熱室1の壁面5に平行に延在する。伝送路6Aの他端は、接続点P1でループ部3Aに接続される。
【0026】
伝送路6Bは、分岐点7で接続部21に接続された一端を有し、加熱室1の壁面5に平行に、かつ、伝送路6Aとは異なる方向に延在する。伝送路6A、6Bのなす角度はTである。伝送路6Bの他端は、接続点Q1でループ部3Bに接続される。
【0027】
ループ部3Aは、接続点P1で伝送路6Aと接続された一端と、接続点P2で壁面5に接続された他端とを有する。ループ部3Aは、接続点P1から壁面5に垂直に延在する伝送路と、壁面5に平行かつ伝送路6Aに平行な伝送路と、接続点P2から壁面5に垂直に延在する伝送路とを有する。
【0028】
ループ部3Bは、接続点Q1で伝送路6Bと接続された一端と、接続点Q2で壁面5に接続された他端とを有する。ループ部3Bは、接続点Q1から壁面5に垂直に延在する伝送路と、壁面5に平行かつ伝送路6Bに平行な伝送路と、接続点P2から壁面5に垂直に延在する伝送路とを有する。
【0029】
発生部2により発生された高周波電力により、ループアンテナ3に高周波電流が流れる。この高周波電流により電磁界が励振される。ループ部3Aにより励振される電磁界は、ループ部3Aが形成する平面に垂直に(図2のY軸に沿って)伝播する。ループ部3Bにより励振される電磁界は、ループ部3Bが形成する平面に垂直に(図2のZ軸に沿って)伝播する。
【0030】
高周波電力の周波数が、ループ部3A、3Bの伝送路の長さに対する共振周波数と一致する場合、ループアンテナ3からの加熱室1内への放射効率が高くなる。ループ部3Aの伝送路の長さとは、ループ部3Aを構成する伝送路の接続点P1から接続点P2までの長さである。ループ部3Bの伝送路の長さとは、ループ部3Bを構成する伝送路の接続点Q1から接続点Q2までの長さである。
【0031】
本実施の形態では、ループアンテナ3は、互いに異なる励振方向を有する少なくとも二つのループ部を有する。これにより、複数の方向に高周波電力を放射することができる。
【0032】
本実施の形態では、ループアンテナ3は二つのループ部を有する。しかし、本開示はこれに限定されない。ループアンテナ3が三つ以上のループ部を有する場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0033】
図2に示すように、角度Tが90°より小さい場合、または、角度Tが270°より大きい場合、ループ部3A、3Bの励振方向の差が小さい。このため、ループ部3A、3Bにより加熱室1内に生じる電磁界分布は互いに類似する。
【0034】
この場合、加熱室1内に、被加熱物4全体をカバーする電磁界分布が生じない。その結果、あまり均一加熱の効果は得られない。すなわち、ループ部3A、3Bの間の角度Tは90°以上かつ270°以下が好ましい。
【0035】
なお、本実施の形態では、ループアンテナ3は加熱室1の上側の壁面5に設けられる。しかし、ループアンテナ3は加熱室1の側方の壁面に設けてもよい。
【0036】
(実施の形態2)
図3は、本開示の実施の形態2に係る高周波加熱装置の構成を模式的に示す。図3は、本実施の形態の高周波加熱装置を正面から見た図である。
【0037】
本実施の形態の高周波加熱装置は、発生部2から発生される高周波電力の周波数を制御する制御部30を有する。本実施の形態では、発生部2は、ISMバンド(Industrial, Scientific and Medical Radio Band)である2.4~2.5GHzの帯域のいずれかの周波数の高周波電力を出力する。
【0038】
自由空間における2.4GHzの高周波電力の波長λ1は約12.50cmである。自由空間における2.5GHzの高周波電力の波長λ2は約12.00cmである。本実施の形態では、ループ部3Aの伝送路の長さは、波長λ1の約半分に設定される。ループ部3Bの伝送路の長さは、波長λ2の約半分に設定される。
【0039】
制御部30が、2.4GHzの高周波電力を出力するように発生部2を制御すると、ループ部3Aに共振が発生し、高周波電流は主にループ部3Aに流れる。その結果、主にループ部3Aから加熱室1に高周波電力が放射される(図3の矢印12A参照)。
【0040】
制御部30が、2.5GHzの高周波電力を出力するように発生部2を制御すると、ループ部3Bに共振が発生し、高周波電流は主にループ部3Bに流れる。その結果、主にループ部3Bから加熱室1に高周波電力が放射される(図3の矢印13A参照)。
【0041】
すなわち、発生部2が2.4GHzの高周波電力を出力すると、ループ部3Aの近くに載置された被加熱物4を集中的に加熱することができる。発生部2が2.5GHzの高周波電力を出力すると、ループ部3Bに近くに載置された被加熱物4を集中的に加熱することができる。
【0042】
発生部2が2.4GHzの高周波電力と2.5GHzの高周波電力とを所定の時間間隔で交互に出力すると、被加熱物4の全体を均一に加熱することができる。このようにして、被加熱物4を均一に加熱したり、部分的に加熱したりすることができる。
【0043】
上述のように、本実施の形態では、ループ部3Aの伝送路の長さが波長λ1の約半分に設定され、ループ部3Bの伝送路の長さが波長λ2の約半分に設定される。しかし、本開示はこれに限定されない。ループ部3Aの伝送路の長さが波長λ1の約半分の整数倍に設定され、ループ部3Bの伝送路の長さが波長λ2の約半分の整数倍に設定されれば、同様の効果が得られる。
【0044】
(実施の形態3)
図4は、本開示の実施の形態3に係る高周波加熱装置の加熱室1の壁面5近傍の構成を模式的に示す。
【0045】
図4に示すように、本実施の形態では、伝送路6A、6Bの長さが実施の形態1よりも長い。具体的には、伝送路6A、6Bの長さは約5cmに設定される。
【0046】
伝送路6A、6Bを長くすると、ループ部3Aとループ部3Bとの間の距離が増加する。このため、ループ部3A、3Bにより励振される二つの電磁界の干渉が小さくなり、加熱室1内の電磁界の分布が変化する。その結果、加熱効率が向上する。
【0047】
なお、高周波電力の波長をλとした場合、伝送路6A、6Bの各々の長さは、波長λの1/4以上かつ波長λの半分以下であることが望ましい。
【0048】
(実施の形態4)
図5は、本開示の実施の形態4に係る高周波加熱装置の構成を模式的に示す。図6は、本実施の形態におけるループアンテナ3およびチョーク構造体8A、8Bの構成を模式的に示す。図6は、ループアンテナ3とチョーク構造体8A、8Bとの位置関係を示すため、下方から加熱室1の上側の壁面5を見た図である。図7は、斜め下方から見たチョーク構造体8A、8Bの斜視図である。
【0049】
図5に示すように、加熱室1から突出するように、ループアンテナ3の上方の加熱室1の外側にチョーク構造体8A、8Bが配置される。図7に示すように、チョーク構造体8A、8Bは、平らな直方体形状の金属体である。
【0050】
図5図7に示すように、チョーク構造体8A、8Bの、加熱室1の壁面5と接する表面には、同じ形状および大きさのスリット9A、9Bがそれぞれ設けられる。スリット9A、9Bは、長さL(長手方向の大きさ)、幅W(短手方向の大きさ)を有する。チョーク構造体8A、8Bの内部には、それぞれスリット9A、9Bから延在する深さDの空洞が設けられる。
【0051】
加熱室1の壁面5には、スリット9A、9Bと同じ形状および大きさの二つの開口部が設けられる。チョーク構造体8Aは、スリット9Aが壁面5の二つの開口部の一方に対向するように配置される。チョーク構造体8Bは、スリット9Bが壁面5の二つの開口部の他方に対向するように配置される。この構成により、スリット9A、9Bと二つの開口部とを介して、加熱室1は、チョーク構造体8A、8Bの内部の空洞とそれぞれ連通する。
【0052】
図6に示すように、伝送路6A、6Bは、互いにほぼ直交するように延在する。ループ部3A、3Bは、それぞれ伝送路6A、6Bと同じ方向に延在する。その結果、ループ部3A、3Bは、互いにほぼ直交するように延在する。
【0053】
チョーク構造体8Aは、壁面5を挟んで、チョーク構造体8Aのほぼ中央でループアンテナ3と交差するように配置される。チョーク構造体8Bは、壁面5を挟んで、チョーク構造体8Bのほぼ中央でループアンテナ3と交差するように配置される。本実施の形態では、伝送路6A、6Bは、チョーク構造体8A、8Bとそれぞれ直交する。
【0054】
発生部2により発生された高周波電力は、伝送路6A、6Bを、それぞれチョーク構造体8A、8Bに垂直に流れる。チョーク構造体8A、8Bの空洞の深さDが高周波電力の波長λの1/4であるとき、スリット9A、9Bから見たチョーク構造体8A、8Bの空洞内のインピーダンスは無限大となる。
【0055】
本構成では、c/λ(cは光の速度)の周波数の高周波電力は、チョーク構造体8A、8Bにより全反射される。すなわち、チョーク構造体8A、8Bは、所定の周波数の高周波電力を遮断してループ部3A、3Bに供給しないようにすることができる。
【0056】
チョーク構造体8A、8Bの内部の空洞は、図7に示すように深さ方向にまっすぐな形状でも良く、途中で折り曲がった形状でも良い。
【0057】
チョーク構造体8A、8Bは、スリット9A、9Bの幅Wが狭いほど、より高い電力遮断性能を有する。しかしながら、幅Wを狭くし過ぎると、幅方向の電界が強くなり過ぎる可能性がある。逆に幅Wを広くし過ぎると、電力遮断性能が低下する。そのため、使用する電力量と必要な電力遮断性能との関係に鑑みて、幅Wを設定する必要がある。具体的には、幅Wは1mm以上5mm以下であることが望ましい。
【0058】
スリット9A、9Bの長さLは、高周波電力の波長λの半分よりも長く設定される。チョーク構造体8A、8Bを矩形の導波管と考えると、導波管内を通過可能な電磁波の最大波長(管内遮断波長)は、スリット9A、9Bの幅Wの2倍より小さい。
【0059】
すなわち、スリット9A、9Bの幅Wが波長λの半分よりも狭いと、電磁波はチョーク構造体8A、8B内を通過することができない。スリット9A、9Bの幅Wを広くすると、チョーク構造体8A、8B内の空洞の表面積が増大し、空洞の内壁に沿って流れる電流の経路が長くなる。このため、遮断周波数はより低周波の方に移行する。
【0060】
図8は、本実施の形態におけるループアンテナ3およびチョーク構造体8A、8Bの他の構成を模式的に示す。図8は、ループアンテナ3とチョーク構造体8A、8Bとの位置関係を示すため、下方から加熱室1の上側の壁面5を見た図である。
【0061】
図8に示すように、本構成では、図6に示す構成から、チョーク構造体8Aを伝送路6Aに対して垂直に移動させ、チョーク構造体8Bを伝送路6Bに対して垂直に移動させる。しかし、本構成では、図6に示す構成と同様に、チョーク構造体8A、8Bは、ループアンテナ3の伝送路6A、6Bとそれぞれ重なり合う。
【0062】
言い換えると、本構成では、チョーク構造体8Aは、壁面5を挟んで、チョーク構造体8Aの中央以外でループアンテナ3と交差するように配置される。チョーク構造体8Bは、壁面5を挟んで、チョーク構造体8Bの中央以外でループアンテナ3と交差するように配置される。
【0063】
この構成により、遮断周波数が変化し、遮断精度が変化する。その結果、チョーク構造体8A、8Bの配置の自由度が向上し、遮断周波数の微妙なずれを調整することもできる。
【0064】
(実施の形態5)
図9は、本開示の実施の形態5に係る高周波加熱装置における、加熱室1の壁面5近傍の構成を模式的に示す。図9に示すように、本実施の形態では、ループ部3Aの伝送路の長さは、自由空間における2.4GHzの高周波電力の波長λ1の約半分に設定される。ループ部3Bの伝送路の長さは、自由空間における2.5GHzの高周波電力の波長λ2の約半分に設定される。
【0065】
本実施の形態の高周波加熱装置は、加熱室1から突出するように、ループアンテナ3の上方の加熱室1の外側に配置されたチョーク構造体8A、8Bを有する。チョーク構造体8A内の空洞の深さD1は、波長λ2の約1/4である。チョーク構造体8B内の空洞の深さD2は、波長λ1の約1/4である。
【0066】
発生部2が2.4GHzの周波数の高周波電力を出力する場合、上述のように、ループ部3Aに共振が発生する。このため、大部分の電流がループ部3Aに流れる(図9の矢印12B参照)。一部の電流はループ部3Bに向かうが、チョーク構造体8Aがこの電流のほとんどを遮断し反射する(図9の矢印13B参照)。その結果、ほぼすべての電流がループ部3Aに流れ、ループ部3Aから高周波電力が放射される(図9の矢印12C参照)。
【0067】
本実施の形態では、分岐点7とスリット9Bとの間の最短距離は、波長λ1の約1/4に設定される。このため、チョーク構造体8Bで反射された電流の位相は、発生部2からループ部3Aに直接向かう電流の位相と同じになる。これにより、ループ部3Aに流れる電流が強められる。
【0068】
分岐点7とスリット9Aとの間の最短距離は、波長λ2の約1/4に設定される。従って、発生部2が2.5GHzの周波数の高周波電力を出力する場合、上記とは逆に、ほぼすべての電流がループ部3Bに流れ、ループ部3Bから高周波電力が放射される。
【0069】
図10Aは、ループアンテナが2.4GHzの周波数の高周波電力を放射する様子を模式的に示す。図10Bは、ループアンテナが2.5GHzの周波数の高周波電力を放射する様子を模式的に示す。図10Cは、ループアンテナが2.45GHzの周波数の高周波電力を放射する様子を模式的に示す。
【0070】
図10Aに示すように、2.4GHzの周波数の高周波電力の場合、チョーク構造体8Bがこの高周波電力をほぼ遮断する。その結果、ループ部3Aから高周波電力が放射される。
【0071】
図10Bに示すように、2.5GHzの周波数の高周波電力の場合、チョーク構造体8Aがこの高周波電力をほぼ遮断する。その結果、ループ部3Bから高周波電力が放射される。
【0072】
図10Cに示すように、2.45GHzの周波数の高周波電力の場合、チョーク構造体8A、8Bともにこの高周波電力を遮断できない。その結果、ループ部3A、3Bの両方からほぼ均等に高周波電力が放射される。
【0073】
このように、高周波電力の周波数を変化させることによって、加熱室1内に異なるパターンで高周波電力を放射することができる。これにより、電磁界分布を変化させることができ、被加熱物を均一に加熱したり、部分的に加熱したりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示に係る高周波加熱装置は、誘電加熱を利用した加熱装置や生ゴミ処理機などに適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 加熱室
2 発生部
3 ループアンテナ
3A、3B ループ部
4 被加熱物
5 壁面
6A、6B 伝送路
7 分岐点
8A、8B チョーク構造体
9A、9B スリット
12A、12B、12C、13A、13B 矢印
20 同軸線
21 接続部
30 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C