(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】貯湯給湯装置
(51)【国際特許分類】
F24H 15/223 20220101AFI20230814BHJP
F24H 15/14 20220101ALI20230814BHJP
F24H 1/18 20220101ALI20230814BHJP
【FI】
F24H15/223
F24H15/14
F24H1/18 G
(21)【出願番号】P 2019136660
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 由典
(72)【発明者】
【氏名】水川 洸一
(72)【発明者】
【氏名】弘中 睦己
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-322650(JP,A)
【文献】特開2009-133608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 15/223
F24H 15/14
F24H 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯水を貯湯する貯湯タンクと、前記貯湯タンク内の湯水を加熱するための加熱手段と、前記貯湯タンク内の湯水の滞留時間が予め設定された滞留期間を超えた場合に前記貯湯タンク内の雑菌の増殖を防ぐ増殖防止動作を行う制御手段を備えた貯湯給湯装置において、
前記貯湯タンクは、前記貯湯タンク内の湯水の温度を検知する温度検知手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検知手段による検知温度
が、雑菌の増殖が生じない高温域、雑菌が増殖する中温域、雑菌の増殖が抑制される低温域のいずれであるか判定し、前記判定した温度域に応じた補正係数α(但し、0≦α≦1)を、前記滞留時間を補正する補正係数として設定することを特徴とする貯湯給湯装置。
【請求項2】
前記温度検知手段は前記貯湯タンク
の複数の高さ位置の温水温度を検知する複数の温度検知手段からなり、前記制御手段は、複数の温度検知手段で検知した温度に適用する複数の前記補正係数αを前記温度検知手段の数で夫々除算した複数の数値を合計した値を、前記滞留時間を補正する補正係数として設定することを特徴とする請求項1に記載の貯湯給湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯湯タンクに貯湯した湯水を給湯に使用する貯湯給湯装置に関し、特に貯湯タンクにおける雑菌の増殖を抑制する貯湯給湯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、貯湯運転によって貯湯タンクに貯湯した湯水を給湯に使用する貯湯給湯装置は、貯湯タンクに殺菌用の塩素系薬剤等が添加された上水を給水するので、貯湯タンク内で雑菌が増殖することは殆ど無い。しかし、貯湯タンク内の湯水が使用されずに滞留し続けると、例えばレジオネラ属菌等の雑菌が増殖する可能性はゼロではない。このような湯水がシャワー等から供給されるのは衛生的に好ましくなく、雑菌が体内に取り込まれると健康を損なう虞もある。
【0003】
そのため、貯湯給湯装置では、貯湯タンクの湯水の滞留時間をカウントすると共に滞留を許容する滞留期間を設定し、滞留期間内に貯湯タンクの湯水が全量入れ替わった場合には、滞留時間をリセットするように構成されている。そして、滞留時間が設定された滞留期間を超えた場合に、雑菌の増殖防止動作を行う。増殖防止動作は、貯湯タンクの湯水の全量を加熱殺菌する動作、又は貯湯タンクの湯水の全量を排水する動作である。
【0004】
一方、給湯用の貯湯タンクにおける雑菌の増殖防止動作ではないが、特許文献1のように、燃料電池の水処理装置における細菌繁殖リスクを温度と時間の関数として計算して、細菌繁殖リスクが所定のしきい値を超えたら水温を上昇させる燃料電池発電システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
雑菌の増殖には適切な温度が必要であり、例えばレジオネラ属菌は、温度が10℃未満の水中では増殖が起こり難く、60℃以上の湯水では略死滅する。また、貯湯タンクの湯水が出湯されると存在する可能性がある雑菌も一緒に出湯され、その分新鮮な上水が供給されるので、貯湯タンク内の雑菌の増殖が抑えられる。上記の滞留期間の設定において、このような増殖し難い温度や出湯については考慮されていないので、設定された滞留期間が必要以上に短い場合がある。
【0007】
そして、増殖し難い温度や出湯に関係なく、滞留時間が設定された滞留期間を超えると増殖防止動作を行い、加熱殺菌のためにエネルギー消費が増加する、又は排水した湯水の分だけ上水の使用量が増加するので、資源節約の観点から好ましくない。また、給湯使用していないにも関わらず、貯湯給湯装置が増殖防止動作を行うので、貯湯給湯装置の使用者が貯湯給湯装置の誤作動や不具合と認識してしまい、その使用者に不信感を与える虞もある。
【0008】
本発明の目的は、増殖防止動作を適切に行うことができる貯湯給湯装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明の貯湯給湯装置は、湯水を貯湯する貯湯タンクと、前記貯湯タンク内の湯水を加熱するための加熱手段と、前記貯湯タンク内の湯水の滞留時間が予め設定された滞留期間を超えた場合に前記貯湯タンク内の雑菌の増殖を防ぐ増殖防止動作を行う制御手段を備えた貯湯給湯装置において、前記貯湯タンクは、前記貯湯タンク内の湯水の温度を検知する温度検知手段を備え、前記制御手段は、前記温度検知手段による検知温度が、雑菌の増殖が生じない高温域、雑菌が増殖する中温域、雑菌の増殖が抑制される低温域のいずれであるか判定し、前記判定した温度域に応じた補正係数α(但し、0≦α≦1)を、前記滞留時間を補正する補正係数として設定することを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、貯湯タンク内の湯水の温度が、雑菌の増殖が生じない高温域、雑菌が増殖する中温域、雑菌の増殖が抑制される低温域のいずれであるかに応じて設定した補正係数でもって滞留時間を補正し、補正した滞留時間が予め設定された滞留期間を超えたら増殖防止動作を行う。従って、貯湯タンク内の湯水の温度に応じて増殖防止動作を適切に実行することができる。そして、適切な増殖防止動作によって、貯湯タンク内の衛生的な状態を維持することができると共に、資源を節約することができる。
【0011】
請求項2の発明の貯湯給湯装置は、請求項1の発明において、前記温度検知手段は前記貯湯タンクの複数の高さ位置の温水温度を検知する複数の温度検知手段からなり、前記制御手段は、複数の温度検知手段で検知した温度に適用する複数の前記補正係数αを前記温度検知手段の数で夫々除算した複数の数値を合計した値を、前記滞留時間を補正する補正係数として設定することを特徴としている。
上記構成によれば、複数の温度検知手段が貯湯タンクの複数の高さ位置の温水温度を検知するように設けられ、制御手段がそれらの検知温度に適用する複数の前記補正係数αを前記温度検知手段の数で夫々除算した複数の数値を合計した値を、前記滞留時間を補正する補正係数として設定し、滞留時間を補正する。従って、貯湯タンク内の湯水の高さ方向の温度分布を反映させることができるので、一層適切に増殖防止動作を実行することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の貯湯給湯装置によれば、増殖防止動作を適切に行うことができる。それ故、貯湯タンク内の衛生的な状態を維持すると共に、資源を節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1~3に係る貯湯給湯装置の構成図である。
【
図2】実施例1,2に係る貯湯給湯装置の増殖防止動作の実行制御フローチャートである。
【
図3】実施例1に係る温度補正係数αの設定フローチャートである。
【
図4】実施例2に係る温度補正係数αの設定フローチャートである。
【
図5】実施例3に係る貯湯給湯装置の増殖防止動作の実行制御フローチャートである。
【
図6】
図5の出湯補正係数βの設定フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について実施例1~3に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
最初に、貯湯給湯装置1について説明する。
図1に示すように貯湯給湯装置1は、湯水を貯湯するための貯湯タンク2と、この貯湯タンク2の湯水を循環させて加熱するための熱源機3と、給湯する湯水の温度を調整するための混合弁4を備えている。貯湯タンク2は、円筒状の容器の両端部(上部及び底部)に皿形又は半楕円形の鏡板を備えて外気に触れないように密閉状に構成されている。
【0018】
貯湯タンク2の底部には、熱源機3に湯水を供給する熱源機往き通路5が接続され、貯湯タンク2の上部には、熱源機3で加熱した湯水を貯湯タンク2に戻す熱源機戻り通路6が接続されている。熱源機往き通路5には、熱源機3に供給する湯水の温度を検知する熱源機往き温度センサ5aが配設されている。熱源機戻り通路6には、熱源機3で加熱された湯水の温度を検知する熱源機戻り温度センサ6aが配設されている。
【0019】
熱源機3は、例えばヒートポンプ式熱源機であり、貯湯タンク2の湯水を加熱して貯湯する貯湯運転を行う。熱源機往き通路5は、貯湯運転時に貯湯タンク2の湯水を熱源機3に送るための貯湯ポンプ5bを備えている。尚、熱源機3が貯湯ポンプ5bに相当するものを備えていてもよく、熱源機3が例えば燃料電池の発電時の排熱を利用して湯水を加熱するもの等であってもよい。
【0020】
また、貯湯タンク2の底部には、貯湯タンク2に上水を供給するための給水通路7が接続されている。給水通路7には上水の温度を検知する給水温度センサ7aが配設され、給水通路7の貯湯タンク2との接続部の近傍には、排水弁8aを備えた排水通路8が接続されている。貯湯タンク2の上部(頂部)には、貯湯タンク2の湯水を出湯するための出湯通路9が接続されている。
【0021】
貯湯タンク2には、その内部の湯水の温度を検知するために、貯湯タンク2の高さ方向に所定の間隔を空けて並ぶように、複数の貯湯温度センサ2a~2e(温度検知手段)が配設されている。出湯通路9の貯湯タンク2との接続部の近傍には、貯湯タンク2から出湯通路9に出湯(タンク出湯)される湯水の温度を検知するためのタンク出湯温度センサ2fが配設されている。貯湯タンク2は、貯湯温度センサ2a~2eとタンク出湯温度センサ2fを含めて図示外の断熱部材に覆われており、貯湯運転により貯湯した湯水の放熱を防いで温度低下を緩やかにしている。
【0022】
混合弁4には、給水通路7から分岐された第1分岐通路10と、出湯通路9と給湯通路11が接続されている。混合弁4は、出湯通路9から供給される高温の湯水と第1分岐通路10から供給される低温の上水の混合比を調整可能に構成されている。混合弁4で混合された湯水は、給湯通路11に供給されて給湯栓12等から給湯される。
【0023】
混合弁4の高温水入口近傍の出湯通路9には、混合弁4に供給される湯水の温度を検知する混合弁入口温度センサ9aが配設されている。給湯通路11には、給湯流量を検知する給湯流量センサ11aと、給湯温度を検知する給湯温度センサ11bと、給湯流量を調整する給湯流量調整弁11cが配設されている。
【0024】
給水通路7からさらに第2分岐通路13が分岐され、この第2分岐通路13が追焚用循環通路14に接続されて、給水通路7から追焚用循環通路14に上水を供給可能に構成されている。追焚用循環通路14は、補助熱源機15と追焚用熱交換器16を備え、補助熱源機15の湯水の入口側に循環ポンプ17を有し、追焚用熱交換器16の出口側に追焚用循環通路14を開閉するための電磁弁18を有する。第2分岐通路13は、循環ポンプ17と電磁弁18の間に接続されている。
【0025】
追焚用熱交換器16には、図示外の浴槽の湯水を流通させるために浴槽ポンプ19を備えた追焚通路20が接続されている。この追焚用熱交換器16は、補助熱源機15が加熱した湯水との熱交換によって、追焚通路20を流通する浴槽の湯水を加熱する。追焚通路20には、給湯流量調整弁11cにおいて給湯通路11から分岐された注湯通路21が接続され、追焚通路20を介して浴槽に注湯(湯張り)可能なように構成されている。
【0026】
追焚用循環通路14の循環ポンプ17の出口と補助熱源機15の入口の間には、補助熱源機15に供給される湯水の温度を検知する補助熱源機入口温度センサ14aと、その流量を検知する循環流量センサ14bが配設されている。また、補助熱源機15で加熱された湯水温度を検知する補助熱源機出口温度センサ14cが、補助熱源機15の湯水の出口側の追焚用循環通路14に配設されている。
【0027】
補助熱源機出口温度センサ14cと追焚用熱交換器16の間の追焚用循環通路14から、補助出湯通路22が分岐されて出湯通路9に接続されている。補助出湯通路22は、出湯通路9に供給する湯水量を調整するための流量調整弁22aを備えている。補助熱源機15で加熱された湯水は、補助出湯通路22を介して出湯通路9に供給可能である。
【0028】
貯湯給湯装置1は、給湯運転、貯湯運転等を制御するための制御部23(制御手段)を備えている。制御部23は、貯湯温度センサ2a等の各部に配設された温度センサの検知温度や、給湯流量センサ11a等の検知流量に基づいて、各部に配設された弁やポンプ等の機器類を作動させて各種運転制御等を行う。また、制御部23は、計時機能や給湯使用履歴等を学習記憶する機能を備えている。そして、貯湯給湯装置1の運転操作や給湯設定温度等の各種設定を行うために、操作部や表示部を有する操作端末24が制御部23に接続されている。操作端末24の表示部には、貯湯給湯装置1の給湯設定温度や運転動作状況等の情報が表示される。
【0029】
次に、貯湯運転について説明する。
制御部23は、例えば学習記憶した給湯使用履歴に基づいて給湯使用時刻や給湯使用量を予測し、予測した給湯使用の直前に貯湯運転が完了するように貯湯運転を制御する。制御部23は、貯湯ポンプ5bと熱源機3を作動させて貯湯運転を開始し、予測した給湯使用量に相当する熱量を貯湯すると貯湯運転を終了する。
【0030】
次に、給湯運転について説明する。
給湯設定温度の給湯を行う給湯運転は、制御部23が、混合弁入口温度センサ9aと給水温度センサ7aと給湯温度センサ11bの夫々の検知温度に基づいて、混合弁4の混合比を調整することによって給湯設定温度に調整した湯水を給湯する。このとき制御部23は、貯湯運転によって貯湯タンク2に貯湯された湯水を使用して給湯運転を行う。また制御部23は、給湯運転において、例えば給湯使用時刻(給湯使用時間)や給湯流量センサ11aが検知した給湯流量、給湯使用時間と給湯流量と混合弁4の混合比から求められる貯湯タンク2の出湯量等を含む給湯使用履歴を学習記憶する。
【0031】
給湯運転中に貯湯された湯水を使い切ってしまった場合等、貯湯タンク2に給湯に使用できる温度の湯水がない場合には、制御部23は、循環ポンプ17を駆動し、給水通路7から供給される上水を補助熱源機15で加熱した湯水を使用して給湯運転を行う。また、例えば給湯設定温度の変更により、貯湯された湯水よりも高温の給湯を行う場合にも、制御部23は、給水通路7から供給される上水を補助熱源機15で加熱した湯水を使用して給湯運転を行う。
【0032】
次に、貯湯タンク2における雑菌の増殖について説明する。
貯湯タンク2には、給水通路7から供給される上水が満たされており、貯湯運転によって加熱された湯水が貯湯される。貯湯タンク2における雑菌の増殖には、増殖に適した温度が必要である。例えばレジオネラ属菌は、増殖に適した20℃~45℃程度の温度範囲で4~6時間毎に倍増し、10℃未満の低温では増殖が抑制され、60℃よりも高温では短時間で略死滅することが知られている。
【0033】
上水には殺菌用の塩素系薬剤が添加されているので、貯湯タンク2に新鮮な上水を満たした状態では貯湯タンク2内に雑菌は略存在せず、滞留による雑菌の増殖の虞も殆ど無い。しかし、雑菌が存在する可能性はゼロではなく、滞留する上水の残留塩素濃度は次第に低下するため、滞留時間が長くなるほど雑菌の増殖の虞が高まる。特に、貯湯運転によって60℃未満の温度に加熱された場合には、増殖に適した温度になるので雑菌の増殖の虞が一層高まることになる。
【0034】
ここで、一般に増殖する菌の総数を数えることは困難なので、菌を培養したときのコロニー形成数を数えるコロニー形成単位(CFU:Colony forming unit)を用いて増殖する菌の数が表される。貯湯タンク2内にレジオネラ属菌が存在する可能性はゼロではないので、貯湯タンク2内にレジオネラ属菌が最少の1[CFU]存在すると想定し、温度や貯湯タンク2の容量等が考慮され、滞留を許容する滞留期間が予め例えば100時間に設定されている。制御部23は、貯湯タンク2における湯水の滞留時間を計時(カウント)し、この滞留時間が予め設定された滞留期間を超えた場合に貯湯タンク2内の雑菌の増殖を防ぐために増殖防止動作を行う。予め設定された滞留期間内に貯湯タンク2内の湯水の全量が入れ替わった場合には、増殖防止動作を行わずに、次の滞留時間の計時に移行する。
【0035】
次に、増殖防止動作について説明する。
増殖防止動作は、貯湯タンク2の湯水の全量を加熱殺菌する動作(全量加熱殺菌動作)、又は貯湯タンク2の湯水の全量を排水する動作(全量排水動作)である。増殖防止動作として全量加熱殺菌動作を行う場合は、貯湯タンク2の湯水の全量が60℃よりも高い温度(例えば65℃)になるように加熱して殺菌する。
【0036】
加熱手段として補助熱源機15を使用して加熱する場合は、循環ポンプ17を駆動して貯湯タンク2の底部から滞留した湯水を補助熱源機15に供給し、60℃よりも高温に加熱された湯水を補助出湯通路22と出湯通路9を介して貯湯タンク2の上部に戻す。補助熱源機入口温度センサ14aの検知温度が60℃よりも高温になって貯湯タンク2の湯水が全量加熱殺菌されたら、全量加熱殺菌動作を終了する。加熱手段として熱源機3を使用して加熱する場合は、60℃よりも高温で貯湯する貯湯運転と同様であり、熱源機往き温度センサ5aの検知温度が60℃よりも高温になって貯湯タンク2の湯水が全量加熱殺菌されたら、全量加熱殺菌動作を終了する。
【0037】
増殖防止動作として全量排水動作を行うように構成されている場合には、例えば給水通路7を開閉する図示外の給水弁を閉じ、排水通路8の排水弁8aを開けて、貯湯タンク2の排水が行われる。貯湯タンク2の全量排水後には排水弁8aを閉じ、給水弁を開けて貯湯タンク2及び排水された通路に上水を満たし、全量排水動作を終了する。
【0038】
制御部23による滞留時間のカウントは、貯湯タンク2においてタンク出湯が無く且つ貯湯運転をしていない状態(滞留状態)になったときに開始される。以下では、制御部23による滞留時間のカウントに基づく増殖防止動作の実行制御について、
図2,
図3のフローチャートに基づいて説明する。図中のSi(i=1,2,・・・)はステップを表す。
【0039】
ここでは、一定のサイクルタイムとして、雑菌が倍増する1サイクルの時間t=4時間で滞留時間をカウントする例を説明する。滞留時間のカウント開始時には、貯湯タンク2には雑菌が1[CFU]存在することを想定している。
【0040】
貯湯タンク2においてタンク出湯が無く且つ貯湯運転をしていない滞留状態には、貯湯タンク2に給湯運転のために出湯できる温度の湯水が無く貯湯運転に備えて待機している状態、貯湯運転が完了して給湯運転に備えて待機している状態、前回の増殖防止動作が完了して待機している状態が含まれる。この滞留状態が長時間続くと、貯湯タンク2内で雑菌が増殖する虞があるので、貯湯タンク2内の湯水の滞留時間をカウントし、滞留時間が予め設定された滞留期間を超過した場合に増殖防止動作を実行する。
【0041】
最初にS1において、貯湯給湯装置1が滞留状態か否か判定する。判定がYesの場合は、滞留時間のカウントを開始するためにS2に進む。判定がNoの場合は、S1の判定を繰り返す。尚、S1の判定は、適当な時間を空けて周期的に行うが、貯湯給湯装置1の運転状態の変化(例えば貯湯運転や給湯運転の停止等)の都度行うようにしてもよい。
【0042】
次にS2において、滞留時間カウントNと、滞留時間のカウント開始後のタンク出湯積算量Qをゼロに初期化し、滞留時間のカウントを開始してS3に進む。そしてS3において、1サイクルの時間tが経過するまで計時してS4に進む。尚、滞留時間のカウント開始後のタンク出湯積算量Qは、制御部23が学習記憶した給湯使用履歴に基づいて算出される。
【0043】
S4において、滞留時間のカウントを開始してから現在までのタンク出湯積算量Qが、貯湯タンク2の容量(タンク容量V)よりも小さいか否か、即ち滞留時間のカウント開始後に貯湯タンク2の湯水の全量が入れ替わっていないかどうか判定する。S4の判定がYesの場合、即ち入れ替わっていない場合は、S5に進む。S4の判定がNoの場合は、貯湯タンク2内の湯水の全量が入れ替わったので増殖防止動作を行わず、S9に進んで滞留時間のカウントを終了し、リターンする。
【0044】
次にS5において、滞留時間のカウントに貯湯タンク2内の湯水の温度を反映させるために、貯湯温度センサ2a~2eの検知温度に基づいて、温度補正係数αを設定する。ここで
図3に示すように、温度補正係数αの設定が開始されると、S11において貯湯タンク2内の湯水の最低温度(タンク最低温度)が60℃よりも高いか否か判定する。タンク最低温度が60℃よりも高温の場合とは、60℃よりも高温の貯湯運転の完了後又は前回の増殖防止動作の完了後に滞留時間のカウントが開始された場合や、滞留時間のカウント開始後に開始された60℃よりも高温の貯湯運転が完了した場合がある。S11の判定がYesの場合は、雑菌が死滅するような高温なので、S12に進んでα=0に設定した後、
図2のS6に進む。
【0045】
一方、S11の判定がNoの場合は、S13に進んで貯湯タンク2の湯水の最高温度(タンク最高温度)が10℃よりも低いか否か判定する。タンク最高温度が10℃未満の場合とは、貯湯タンク2が10℃よりも低温の上水で略満たされて貯湯運転をしていない場合や、貯湯されていた湯水が滞留時間のカウント開始後に出湯されて10℃よりも低温の上水が満たされた場合等である。S13の判定がYesの場合は、雑菌の増殖がある程度抑えられる低い温度なので、S14に進んで例えばα=0.5に設定した後、
図2のS6に進む。S13の判定がNoの場合は、雑菌の増殖の虞があるので、S15に進んでα=1に設定した後、
図2のS6に進む。
【0046】
次に
図2のS6において、滞留時間をカウントしてS7に進む。滞留時間カウントNは、カウントする毎に温度補正係数αによって補正された値(最大1、最小0)が加算される。
【0047】
次にS7において、1サイクルの時間tと滞留時間カウントNの積、即ち貯湯タンク2内の湯水の温度に応じて補正された滞留時間が、予め設定された滞留期間を超過したか否か判定する。判定がYesの場合は、増殖防止動作のためにS8に進む。判定がNoの場合は、滞留時間のカウントを続けるためにS3に戻る。
【0048】
このとき、雑菌の増殖が抑えられる温度では倍増するまでの時間が長くなる。これを反映させて滞留時間カウントNの増加を緩やかにして滞留時間を短縮するので、増殖防止動作の開始時期が延期され、実質的に予め設定された滞留期間が延長される。このように貯湯タンク2内の湯水の温度に応じて、1サイクルの時間tにおける増殖の虞を反映させて滞留時間を補正するので、適切に増殖防止動作の実行を判定することができる。
【0049】
次にS8において、増殖防止動作を実行する。増殖防止動作が完了したら、S9に進んで滞留時間のカウントを終了し、リターンする。増殖防止動作実行の際に、貯湯運転を行っている場合には、貯湯運転を停止して増殖防止動作を行う。
【0050】
また、増殖防止動作実行の際に、貯湯タンク2の湯水を出湯して給湯運転を行っている場合には、給湯運転が終わってから増殖防止動作を行う。このとき、補助熱源機15によって上水を加熱して給湯する給湯運転に切り替えて、給湯運転が終わるまで給湯を続ける。尚、貯湯タンク2の湯水の出湯をそのまま継続して給湯してもよいが、この場合には給湯運転終了後に貯湯タンク2の湯水の全量が入れ替わったか否か判定することによって増殖防止動作を実行するか否か判定することが好ましい。
【実施例2】
【0051】
上記実施例1の温度補正係数αの設定について部分的に変更した例を
図2,
図4のフローチャートに基づいて説明する。
図2のS5において、温度補正係数αの設定が開始されると、
図4のS21において複数(ここでは5つ)の貯湯温度センサ2a~2eに対応する温度補正係数を設定してS22に進む。温度補正係数は、検知温度に応じた値に設定する。そしてS22において、複数の貯湯温度センサ2a~2e毎に設定した温度補正係数を合計した値を温度補正係数αに設定した後、
図2のS6に進む。
【0052】
このとき、5つの貯湯温度センサ2a~2eの検知温度に応じて設定する温度補正係数をα1~α5として、α1~α5の合計値(温度補正係数α)が最大で1、最小で0になるようにしている。例えば、検知温度が10℃未満なら0.1、10℃以上且つ60℃以下なら0.2、60℃よりも高温ならゼロ、のようにα1~α5を設定する。
【0053】
α1~α5の設定によって、60℃よりも高温の貯湯された湯水の一部が出湯されずに滞留している場合や、給水温度が10℃未満のときに貯湯運転によって滞留している湯水の一部が加熱された場合等の貯湯タンク2内の湯水の温度分布を温度補正係数αに反映させることができる。そして、雑菌の増殖が抑えられる温度では倍増するまでの時間が長くなることを反映させて、滞留時間カウントNの増加を緩やかにして滞留時間を実際よりも短くする。このように、貯湯温度センサ2a~2eの検知温度に応じて滞留時間を補正するので、一層適切に増殖防止動作の実行を判定できる。
【実施例3】
【0054】
上記実施例1,2の温度に基づく滞留時間の補正に加えて、タンク出湯量に基づく滞留時間の補正を行う例について、
図5,
図6のフローチャートに基づいて説明する。
図5のS1~S5は
図2と同様なので説明を省略する。S5で温度補正係数αを設定した後、S30に進んでタンク出湯量に基づいて出湯補正係数βを設定する。
【0055】
ここで、
図6に示すように、出湯補正係数βの設定が開始されると、S31において貯湯タンク2の湯水の残留率rを設定してS32に進む。この残留率rは、1サイクルの時間tの間にタンク容量Vの貯湯タンク2から出湯されずに残っている湯水の割合であり、1サイクルの時間tの間のタンク出湯量qを用いて、r=1-q/Vになる。尚、タンク出湯量qは、制御部23が学習記憶している給湯使用履歴から算出される。
【0056】
次にS32において、残留率rに基づいて出湯補正係数βを設定した後、
図5のS40に進む。出湯補正係数βは、例えば雑菌が倍増可能な1サイクルの時間tの間に、存在している可能性がある雑菌がタンク出湯量qに応じて排出されて減少することを表すことができるように設定される。ここでは、β=-log
2(r)であり、残留率r、即ちタンク出湯量qに基づいて算出する。尚、予め制御部23に保持させたタンク出湯量qと出湯補正係数βの対応テーブル等に基づいて出湯補正係数βを設定してもよい。
【0057】
出湯補正係数βの設定後、S40において滞留時間をカウントしてS41に進む。滞留時間カウントNは、温度補正係数αによって補正された値が加算され、出湯補正係数βが減算される。例えば雑菌が倍増可能な1サイクルの時間tの間にタンク容量Vの半分(q=V/2)が出湯されて、貯湯タンク2内に存在している可能性がある雑菌の半分が排出された場合には、出湯補正係数β=1になって滞留時間カウントNが1減算される。これにより、1サイクル相当の増殖が抑えられたことが反映される。
【0058】
次にS41において、滞留時間カウントNが負(マイナス)の値か否か判定する。判定がYes(N<0)の場合はS42に進み、S42において滞留時間カウントNをゼロにしてS43に進む。判定がNoの場合はS43に進む。滞留時間のカウント開始時(N=0のとき)に貯湯タンク2に存在する雑菌を最少の1[CFU]と想定しているためである。
【0059】
次にS43において、滞留期間超過判定を行う。1サイクルの時間tと滞留時間カウントNの積、即ち補正された滞留時間が予め設定された滞留期間を超過したか否か判定する。貯湯タンク2内の湯水の温度に応じた補正と、タンク出湯量qに応じた補正によって、滞留時間を補正するので、一層適切に増殖防止動作の実行を判定できる。判定がYesの場合は、S44に進んで増殖防止動作を実行する。そして、増殖防止動作の終了後にS45に進み、S45において滞留時間のカウントを終了してリターンする。判定がNoの場合は、滞留時間のカウントを続けるためにS3に戻る。
【0060】
上記実施例1~3の貯湯給湯装置1の作用、効果について説明する。
貯湯給湯装置1は、湯水を貯湯する貯湯タンク2と、貯湯タンク2内の湯水を加熱するための加熱手段(熱源機3、補助熱源機15)と、貯湯タンク2内の湯水の滞留時間が予め設定された滞留期間を超えた場合に貯湯タンク2内の雑菌の増殖を防ぐ増殖防止動作を行う制御部23を備えている。貯湯タンク2は、貯湯タンク2内の湯水の温度を検知する貯湯温度センサ2a~2eを備え、制御部23は、貯湯温度センサ2a~2eの検知温度に応じて貯湯タンク2内の湯水の滞留時間を補正する。
【0061】
従って、貯湯タンク2内の雑菌が死滅するような高温の場合や、雑菌の増殖が抑えられる低温の場合には滞留時間を補正して、補正した滞留時間が滞留期間を超えたら増殖防止動作を行うことができるので、貯湯タンク2内の湯水温度に応じて増殖防止動作を適切に実行することができる。それ故、貯湯タンク2内の衛生的な状態を維持しながら上水やエネルギーの消費を抑えることができる。
【0062】
貯湯温度センサ2a~2eは貯湯タンク2の高さ方向に並ぶように複数設けられ、制御部23がこれら複数の貯湯温度センサ2a~2eの検知温度に応じて滞留時間を補正する。従って、60℃よりも高温で貯湯された湯水の一部が出湯されずに滞留している場合や、給水温度が10℃未満のときに貯湯運転によって滞留している湯水の一部が加熱された場合等の貯湯タンク2内の温度分布状況を反映させることができ、一層適切に増殖防止動作を実行できる。
【0063】
制御部23は、貯湯タンク2に貯湯された湯水の出湯量(タンク出湯量q)に応じて滞留時間を補正する。従って、貯湯タンク2内に存在すると想定された雑菌が、貯湯タンク2から出湯された分だけ減少したことを反映させることができ、一層適切に増殖防止動作を実行できる。
【0064】
増殖防止動作は、貯湯タンク2に貯湯された湯水の全量加熱殺菌動作又は貯湯タンク2の全量排水動作なので、貯湯タンク2の湯水を全量加熱殺菌することによって又は全量入れ替えることによって、貯湯タンク2内の衛生的な状態を維持して給湯することができる。
【0065】
制御部23は、滞留時間を補正する代わりに滞留期間を補正することによって、適切に増殖防止動作を実行することもできる。例えば、滞留期間を温度補正係数αで割り算する補正や、滞留期間に出湯補正係数βと時間tの積を加算する補正によって、湯水の温度や貯湯タンク2からの出湯量に応じて予め設定された滞留期間を延長するように補正する。この場合も上記と同様に、貯湯タンク2の湯水の温度や出湯量に応じて増殖防止動作を適切に実行することができる。
【0066】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態をも包含するものである。
【符号の説明】
【0067】
1 :貯湯給湯装置
2 :貯湯タンク
2a~2e :貯湯温度センサ(温度検知手段)
2f :タンク出湯温度センサ
3 :熱源機(加熱手段)
4 :混合弁
5 :熱源機往き通路
5a :熱源機往き温度センサ
5b :貯湯ポンプ
6 :熱源機戻り通路
7 :給水通路
7a :給水温度センサ
8 :排水通路
8a :排水弁
9 :出湯通路
10 :第1分岐通路
11 :給湯通路
11a :給湯流量センサ
13 :第2分岐通路
14 :追焚用循環通路
15 :補助熱源機(加熱手段)
17 :循環ポンプ
20 :追焚通路
21 :注湯通路
22 :補助出湯通路
23 :制御部(制御手段)