IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人埼玉大学の特許一覧 ▶ 株式会社Epsilon Molecular Engineeringの特許一覧

特許7329750リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム
<>
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図1
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図2
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図3
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図4
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図5
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図6
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図7
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図8
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図9
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図10
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図11
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図12
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図13
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図14
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図15
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図16
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図17
  • 特許-リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】リポソーム結合ペプチド、リポソーム結合ペプチドの作製用コンストラクト及びリポソーム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230814BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20230814BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K14/00
C07K19/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020555607
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2019043771
(87)【国際公開番号】W WO2020096020
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2018210873
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 直人
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 康人
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067578(JP,A)
【文献】KOBAYASHI S. et al.,In vitro selection of random peptides against artificial lipid bilayers: a potential tool to immobil,ChemComm,2017年,Vol. 53,pp.3458-3461
【文献】大川僚也ほか,リポソームへの簡易なタンパク質固定化のためのリポソーム結合ペプチド配列,日本分子生物学会 第39回日本分子生物学会年会,2016年,[2P-0821]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00- 19/00
C12N 15/00- 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号8に示すアミノ酸配列を有するペプチド。
【請求項2】
DOPCを30%以上含む脂質二重層を透過する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
DOPCからなる脂質二重層を透過する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドと、前記ペプチドのN末端側に、目的とするタンパク質とを含む融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドと、目的とするタンパク質とが連結領域GGGSGGGSを介して連結している、請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の融合タンパク質をコードする核酸配列を有するコンストラクト。
【請求項7】
目的とするタンパク質を内包したリポソームを調製する方法であって、
請求項4又は5に記載の融合タンパク質と、リポソームとを混合することを含み、
ここで、前記リポソームの脂質二重層は、DOPCを30%以上含む、方法。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の融合タンパク質を内包するリポソームであって、DOPCを30%以上含む、リポソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム結合ペプチド、その作製用のコンストラクト及びリポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
脂質二重膜からなるリポソームは,1960年代に発見されて以来、広く注目を集めてきたが、このような従来から知られているリポソームは、リン脂質二重膜からなる両親媒性の膜を有するベシクルと定義されている。こうしたリポソームは、生体成分の1つであるリン脂質を主成分としており、生体適合性に優れること、毒性や抗原性が低いこと、調製が容易であること、脂溶性又は水溶性の種々の薬物を内包させられること、といった特質を有している。
【0003】
リン脂質のみで構成される単純な組成のリポソームを静脈内投与すると、異物を貪食することにより生体防御に関与する細網内皮系(RES)に捕捉され、破壊されて速やかに排除される。すなわち、内包された薬物等が血中に漏れ出す等、血中での安定性や滞留性に乏しいというリポソームの問題点を、リポソーム表面をポリエチレングリコール(PEG)、ペプチド、抗体、又はProtein A等の特定のタンパクで修飾して、長期血中に滞留させて薬物輸送のキャリアとして使用することが試みられている(非特許文献1参照、以下、従来技術1という。)。
【0004】
また、特殊なリン脂質を使用しないリポソームを修飾する技術として、例えば、リポソームに対してN末端側で結合する30残基のペプチド(リポソーム結合ぺプチド; LBP)を用いることが知られている(非特許文献1参照、以下、従来技術2という)。
【0005】
ところで、近年、抗生物質に対する耐性菌の出現が問題となっているが、抗生物質の代替品として抗菌ペプチド(AMP)が注目されている。抗菌ペプチドとは、細胞膜に対して作用して膜にポア(孔)を形成し、それによって抗菌性を示すペプチドの総称である。具体的には、Magainin 2又はBuforin 2等を挙げることができる(非特許文献2参照、以下従来技術3という)。
【0006】
また、生体膜透過性ペプチド(CPPs)と呼ばれるペプチドも知られている。CPPは抗体その他のタンパク質、又は核酸等の膜不透過性の物質を、細胞内に取り込むことができるようにするぺプチドをいう。具体的には、TAT-ペプチド又はオクタアルギニン(以下、「R8ペプチド」、「オクタアルギニン」、又は「R8」と略すことがある。)ぺプチドなどが知られている(非特許文献3参照)。
【0007】
一般的に、薬物は生体内に投与された後に代謝されて活性を発揮する。しかし、標的とする組織や器官(以下、「標的組織等」という。)以外に送達されてしまうと、薬効を発揮することなく未変化体のまま排泄されたり、活性化によって重篤な副作用を起こしたりする場合があることが知られている。このため、薬物を標的組織等に送達すべく、薬物の体内動態を時間的、空間的に制御する薬物送達技術が開発されており、こうした技術はDrug Delivery System (DDS)と呼ばれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kobayashi, S et al., (2017) Chem. Commun., 2017, 53, 3458-3461
【文献】https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcimb.2019.00128/full
【文献】https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/40/1/40_b16-00624/_article/-char/ja
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術1は、リポソームの血中での安定性又は滞留性を向上させるという点では優れた発明である。しかし、周知のようにリポソームには標的性がないため、内包した薬物を標的組織等へ送達することができないといった問題点があった。
【0010】
また、従来技術2は、特殊なリン脂質を用いることなくリポソームを修飾できるという点では優れた発明である。しかし、LBPは、ペプチドのN末端側でリポソームに結合するため、修飾しにくいぺプチドのC末端がリポソームの表面に存在する形となるという問題点があった。また、従来技術3は、上記抗菌ぺプチドが細胞膜にポアを形成するため、リポソームの内容物が漏れ出すという問題点があった。
【0011】
すなわち、血中での安定性又は滞留性が高く、標的指向性の高いリポソームであって、そのリポソームが内包する内容物が漏れ出すことなくその表面が修飾されたものについての強い社会的要請があった。
また、特殊なリン脂質を使用することなく、用途に応じた様々なリポソームを簡便な手法で作製する技術に対する強い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記のような状況の下で鋭意研究を進め、上記の要請に応えるべく、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、脂質二重層で形成される膜と相互作用をするペプチドを提供することを目的とする。また、本発明は脂質二重層と相互作用をするペプチド作製用のコンストラクトを提供することを目的とする。さらに、本発明はペプチドと結合されたリポソームを提供することを目的とする。
【0013】
本発明のある態様は、上記の脂質二重層と相互作用をするペプチドであり、C末端側に脂質二重層と結合する結合領域を有し、N末端側に少なくとも6つの塩基性アミノ酸で構成される塩基性領域を有し、10~100アミノ酸から構成される、脂質二重層と相互作用するペプチドである。ここで、前記結合領域は、その領域を構成するアミノ酸数の半数以上が疎水性アミノ酸であることが好ましい。また、前記結合領域は下記の配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を有することが好ましい(下記表1参照)。
【0014】
前記塩基性領域は下記の配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列(下記表1参照)を有することが好ましい。上記配列番号3中の2つのXはいずれもアルギニン又はリジンであるが、これら2つのアミノ酸が同時にアルギニン又はリジンとなることはない。ここで、前記ペプチドを構成するアミノ酸数は25~40であることが好ましい。
【0015】
本発明の脂質二重層と相互作用をするペプチドは、(a)前記結合領域と前記塩基性領域との間に、下記の配列表の配列番号4又は5に記載のアミノ酸配列(下記表1参照)を有し;(b)N末端を構成する、LT、TL、及び下記の配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列(下記表1参照)からなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列を有し:(c)C末端を構成する、TL、下記の配列表の配列番号7及び配列番号8で表されるアミノ酸配列(下記表1参照)からなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0016】
【表1】
*1:ブロック名については後述する。
*2:表中、“r”は、各ブロックのアミノ酸配列が逆順になっていることを示す。
【0017】
本発明の別の態様は、前記配列番号8に記載のアミノ酸配列を有し、リポソームの脂質二重層又は細胞膜を透過するペプチドである。または、前記配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列を有し、リポソームの脂質二重層又は細胞膜にC末端で結合するペプチドである。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、5’側から3’側に向かって、タグ領域と、蛍光タンパク遺伝子配列を組み込むための領域と、ランダム領域と、ストップコドンと、を含む融合タンパク発現用コンストラクトである。ここで、ランダム領域は、本発明の上記ペプチドをコードする遺伝子を組み込むための領域である。そして、蛍光タンパク遺伝子領域とランダム領域とは、連結領域(例えば、上記の配列番号4又は5で表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子)で結合されていることが好ましい。
【0019】
そして、蛍光タンパク遺伝子領域は5’側でこの遺伝子を組み込むための領域と連結されている。また、ランダム領域は3’側でストップコドンと直接連結されている。蛍光タンパク遺伝子配列の双方を組み込むための領域2と、前記ランダム領域は、C末端側に脂質二重層と結合する結合領域を有し、N末端側に少なくとも6つの疎水性アミノ酸で構成される疎水性領域を有し、10~100アミノ酸から構成される、脂質二重層と相互作用するペプチド含む融合タンパクを発現する遺伝子を有する、融合タンパク発現用コンストラクトである。
【0020】
ここで、前記ランダム領域に含まれる前記結合領域は、その領域を構成するアミノ酸数の半数以上が塩基性アミノ酸であることが好ましい。また、前記配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0021】
前記ランダム領域に含まれる前記疎水性領域は、前記配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し、ここで、Xはアルギニン又はリジンであることが好ましい。また、前記ランダム領域は、前記疎水性領域と前記結合領域との間に、前記配列番号4又は5に記載のアミノ酸配列を有し;N末端を構成する、LT、TL、及び前記配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列を有し;C末端を構成する、TL、前記配列番号7及び8で表されるアミノ酸配列からなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列を有するものであることが好ましい。また、前記ランダム領域は、前記配列番号9~11からなる群から選ばれるいずれかで表されるアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0022】
本発明のさらに別の態様は、上述した脂質二重層と相互作用するペプチドを内包するリポソーム、又は、上記脂質二重層と相互作用するペプチドが表面に結合しているリポソームである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、リポソーム又は細胞膜の脂質二重層と相互作用するペプチド(以下、「膜相互作用ペプチド」ということがある。)を提供することができる。また、本発明によれば、上記の膜相互作用ペプチドとして、上記脂質二重層にC末端で結合するペプチド又はこれを透過するペプチドを提供することができる。さらに、本発明によれば、上記の膜相互作用ペプチドを含む融合タンパク質の発現用コンストラクトを提供することができる。さらに、本発明によれば、上記の膜相互作用ペプチドを包含するリポソーム又はこれらが表面に結合したリポソームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の発明者らが発明したN末端で脂質二重層に結合するペプチドを示す図である。図1(A)は、本発明の発明者らが発明したN末端で脂質二重層に結合するペプチドのアミノ酸配列と、その配列をブロック分けした図である。図1(B)は、上記ペプチドをランダム領域に組み込んだ、LBP1とmCherry(蛍光タンパク質)との融合タンパク発現用のコンストラクトを示す模式図である。図1(C)は、上記融合タンパクをリポソームとインキュベートしたときの蛍光観察像(上段)とそれを線図で表した図(下段)、図1(D)は、上記融合タンパクをリポソームとインキュベートしたときの共焦点レーザー顕微鏡観察像(上段)とそれを線図で表した図(下段)である。
【0025】
図2図2は、本発明の膜相互作用ペプチドを示す図である。図2(A)~(C)は、本発明の膜相互作用ペプチドのアミノ酸配列及び図1に示すブロックの並びを示す図である。図2(D)は、図2(A)~(C)に示上記ペプチドをランダム領域に組み込んだ、本発明の膜相互作用ペプチドとmCherry(蛍光タンパク質)との融合タンパク発現用のコンストラクトを示す模式図である。
【0026】
図3図3は、生体膜のモデルとなるリポソームの構造を示す模式図である。
図4図4は、本発明の膜相互作用ペプチドのスクリーニング方法を示す模式図である。
図5図5は、本発明の膜相互作用ペプチドのコンストラクト中のランダム領域を別のペプチドに代替するための方法の一例を示す模式図である。
【0027】
図6図6は、リポソーム外液とは異なるリポソーム内液を含む、リポソームの作製方法を示す模式図である。
図7図7は、mCherry-LBPr1、mCherry-LBPr2及びmCherry-LBPr3をリポソームとインキュベーションしたときの相互作用の結果を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。図中、A~Eのアルファベット表記は図1(C)に示したブロックを示し、図7(A)の上にバーがついたアルファベット(明細書中のEr、Dr、Cr、Br、及びArにそれぞれ対応する。)は、上記A~Eブロックのアミノ酸配列が逆順に並んでいることを示す。
【0028】
図8図8は、リポソームとGFP-LBPr1とをインキュベートしたときに、GFP-LBPr1がリポソーム内に取込まれるか否かを検討した結果を示す。
図9図9は、リポソーム溶液(DOPG)とmCherryペプチドとをインキュベートしたときの変化を共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス製)を用いて観察した結果を示す。
図10図10は、リポソーム(DOPG)とmCherry-LBPr1とをインキュベートしたときの変化を共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス製)を用いて観察した結果を示す。
【0029】
図11図11は、DOPGとDOPCの混合比率を変えて作製した混合リポソームとmCherry-LBPr1とをインキュベートしたときの組成比による変化を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した結果を示す(その1)。
図12図12は、DOPGとDOPCの混合比率を変えて作製した混合リポソームとmCherry-LBPr1とをインキュベートしたときの組成比による変化を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した結果を示す(その2)。
図13図13は、細胞をインキュベートする溶液によってmCherry-LBPr1又はmCherryの細胞内への取込みが変化するかどうかを検討した結果を示す共焦点レーザー顕微鏡像である。図中、矢印を付した細胞は、mCherry-LBPr1の取り込みが赤色蛍光で観察された細胞を示す。
図14図14は、DMEM(-)中又はPBS(-)中でHeLaを培養したときのHeLa細胞中へのmCherry-LBPr1のアップテイクをフローサイトメーターで測定した細胞アッセイの結果を示す図である。
【0030】
図15図15は、幾つかのオルガネラ(初期エンドソームと核)を蛍光標識し、細胞膜を透過したmCherry-LBPr1が、いずれのオルガネラに局在するのかを検討した結果を示す蛍光観察像である。
図16図16は、幾つかのオルガネラ(後期エンドソームと核)を蛍光標識し、細胞膜を透過したmCherry-LBPr1が、いずれのオルガネラに局在するのかを検討した結果を示す蛍光観察像である。
図17図17は、mCherry、mCherry-LBPr1及びmCherry-R8の膜透過性を比較した結果を示す図である。
図18図18は、mCherry-LBPr1とmCherry-R8との蛍光強度を比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態を例示して、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の実施態様は、(A1)C末端側に存在する、脂質二重層と結合する結合領域と、(A2)N末端側に存在する少なくとも6つの塩基性アミノ酸で構成される塩基性領域とを有し、(A3)10~100アミノ酸から構成されている。ここで、前記結合領域は疎水性アミノ酸を、前記結合領域を構成するアミノ酸数の半数以上含むことが、本発明のペプチドがC末端でリポソームと相互作用する上で好ましい。また、前記塩基性領域は、6個以上のアルギニンが連続する構成であることが、上記リポソームと安定した相互作用を行なうためには好ましい。
【0032】
本明細書中、「脂質二重層と相互作用をする」とは、ペプチドのC末端で上記脂質二重層に結合することの他、ペプチドのC末端で結合して上記脂質二重層の膜を貫通すること、脂質二重層で形成されているリポソームの膜を透過してリポソームという脂質二重層で形成される膜で囲まれた空間内に取り込まれること、及び細胞内に取り込まれることを意味する。
また、本発明のペプチドを構成するアミノ酸の数は、例えば、25~40であることが、リポソームとの相互作用の安定性、及び操作性の点から好ましい。以下に、30アミノ酸で構成されている場合を例に挙げて説明する。
【0033】
本発明の膜相互作用ペプチドは、上記表1及び図1(A)に示すように、N末端でリポソームに結合するペプチド(LBP1)のアミノ酸配列に基づいて設計された配列を有している。ここで、「アミノ酸配列に基づいて設計された配列」とは、LBP1のアミノ酸配列を機能に基づいてA~Eの5つのブロックに分け、各ブロックの並び順を変更した配列、又はそれらを構成するアミノ酸の配列順序を変更して作製したブロックを有する配列となっている(図2(A)~(C)参照)。
【0034】
図1(A)に示すように、LBP1のアミノ酸配列は、機能によって、N末端側の5アミノ酸で構成される領域をブロックA、次の疎水性に富む11アミノ酸で構成される領域をB、次の4アミノ酸で構成される領域をC、次の塩基性アミノ酸に富む8アミノ酸で構成される領域をD、C末端の2アミノ酸で構成される領域をEという5つのブロックに分けられている。
ここで、Bブロックは、それを構成するアミノ酸のうちの少なくとも半数以上が疎水性アミノ酸で構成されており、C末端の近傍に位置している。なお、Bブロックを構成しているアミノ酸の配列は、上記Bブロックの逆配列(上記表1参照)となっていてもよい。
【0035】
また、Dブロックは、塩基性のアミノ酸であるアルギニンが6個以上連続しており、N末端近傍に位置している。Dブロックの配列は、上記表1に示した通りであるが、配列番号3中に含まれる2つのXが同時にアルギニン又はリジンとなることはなく、一方がアルギニンのときは他方はリジンである。
【0036】
A、C、及びEの各ブロックの並び順は、図2(A)~(C)に示したようにN末端からC末端に向かって、最初にE又はAブロック、最後がA又はEブロック、これら2つのブロックに挟まれるように3つのブロックが並んでいる。そして、これらN末端側のブロックとC末端側のブロックとに挟まれる3つのブロックは、D、C及びBの順番で並んでいる。ここで、各ブロックのアミノ酸配列は、上述したように逆順の配列となっていてもよい。
【0037】
このようなアミノ酸配列を有するペプチドは、これらをコードするDNAを合成し、それらを所定の遺伝子配列を有するベクターに組み込んでコンストラクトを作製し、そのコンストラクトを用いて発現させることができる。上記DNAの合成は、常法に従って行ってもよく、また、DNA合成を受託する企業、例えば、ジーンワールド社等に委託してもよい。
【0038】
本発明の別の実施態様は、上記のアミノ酸配列をコードするDNAを含むタンパク発現用のコンストラクトである。本発明の発現用コンストラクトは、5’側から3’側に向かって、タグ領域と、蛍光タンパク遺伝子領域と、本発明の上記ペプチドをコードする遺伝子を組み込むための領域であるランダム領域と、ストップコドンとを含み、蛍光タンパク遺伝子領域とランダム領域とは連結領域を介して連結されている。そして、5’側に蛍光タンパク遺伝子を組み込むための領域を有し、ランダム領域とストップコドンとは直接に連結されている(図2(D)参照)。
【0039】
本発明の上記発現用コンストラクトの構造は、多くの点において、N末端で結合するLBP1を発現する発現用コンストラクト(図1(B)参照)とは大きく相違する。具体的には、イニシエーター(ATG)が含まれていない、LBPが組み込まれるランダム領域と蛍光遺伝子領域との順番が異なる、フラグ遺伝子の組み込み位置が相違する等の相違がある。
【0040】
ここで、タグ領域として使用するタグとしては、例えば、FLAG(登録商標、DYKDDDDK、DDDDK等が知られている)、HA、His、Myc、V5、HN等が市販されており、これらを使用することができる。しかし、HA、His及びHNタグ等を使用することが、発現タンパクの精製後の処理の点から好ましい。また、蛍光タンパク遺伝子領域には、赤色蛍光、緑色蛍光等、種々の蛍光を発するタンパクの遺伝子を組み込むことができ、これらについても市販されているが、蛍光強度の測定の点から、mCherry、AcGFP1、DsRed-monomerを使用することが好ましい。上記蛍光タンパク遺伝子領域を組み込むための領域としては、例えば、リンカー長柔軟性が高いGGGS等のリンカー配列(以下、「連結用配列」という。)を挙げることができ、上記連結領域としては、GGGSGGGS等を挙げることができる。
【0041】
また、前記ランダム領域に、本発明の膜相互作用ペプチドをコードするDNA配列を組み込んでおくと、このコンストラクトを用いて、本発明のペプチドと蛍光タンパクとの融合タンパクを発現させることができる。そして、発現された融合タンパクを、所望のリン脂質を用いて作製したリポソームとインキュベートすることによって、本発明のペプチドが上記リポソームとどのような相互作用を行なっているかということを検討することができる。
【0042】
ここで、本発明の膜相互作用ペプチドとしては、例えば、上述した10~100アミノ酸から構成され、C末端側に前記結合領域を、また、N末端側に前記なくとも6つの疎水性アミノ酸で構成される疎水性領域を有するペプチドを挙げることができる。これらの中でも、上記配列番号8~10で表されるペプチド(以下、これらを「LBPr1」、「LBPr2」及び「LBPr3」という。)であることが、リポソーム膜を構成する脂質二重層とユニークな相互作用をすることから好ましい。
【0043】
上述したLBP1は、N末端でリポソームと結合するペプチドであるが、リポソームと相互作用させた場合には、リポソームの脂質二重層が赤色蛍光を発し、図1(C)上段のような蛍光観察像が得られる。また、共焦点レーザー顕微鏡を用いると、図1(D)上段のような観察像が得られる。図1(C)及び1(D)については、下段に上段の観察像をトレースした線図付した。
【0044】
本発明のコンストラクトのランダム領域として使用するペプチドは、上述したように、LBP1のアミノ酸配列を5つに分けたA~Eのブロックを、種々の順番で並べ替えて作製し、後述するcDNAディスプレイ法を所望のラウンド行ってセレクションして得ることができる。
【0045】
前記ランダム領域は、本発明の膜相互作用ペプチドを発現するための領域として所望のアミノ酸長で設計することができる。10~100アミノ酸残基で構成することが、融合タンパク発現用コンストラクト中に組み込む際の操作性等の点から好ましく、25~40アミノ酸残基で構成することが、上記の操作性に加えて。cDNAディスプレイ法によるセレクションがより行ないやすいという点で好ましい。
【0046】
本発明のさらに別の実施態様は、上述した膜相互作用ペプチドを内包するか、又はその表面に結合させているリポソームである。
リポソームの厚みは、リポソームを構成する脂肪酸中の炭素鎖数で定まるため、このアミノ酸残基の数を、リポソームを構成する脂質二重層の厚み(図3参照)によって、適宜増減させることが好ましい。ペプチドの長さを脂質二重層の厚みとマッチする長さとすると、ペプチド刺さるような態様でリポソームと相互作用する場合には、その相互作用をより安定したものとすることができる。
【0047】
上述した膜相互作用ペプチドのアミノ酸組成は、上記ペプチドを構成するアミノ酸残基数を100としたときに、極性かつ塩基性のアミノ酸が50~70%、極性かつ無電荷のアミノ酸が15~29%、疎水性アミノ酸が10~20%、及び極性かつ酸性アミノ酸が1~5%であることが、リポソームと様々な相互作用をするペプチドを、後述するcDNAディスプレイ法によって取得する上で好ましい。前記ランダム領域が30~40アミノ酸残基で構成され、そのアミノ酸組成が、極性かつ塩基性のアミノ酸が60%、極性かつ無電荷のアミノ酸が23.2%、疎水性アミノ酸が15%、及び極性かつ酸性アミノ酸が1.8%であると、リポソーム膜を透過してリポソームに内包される性質を有するものとなるために好ましい。
【0048】
また、前記極性かつ無電荷のアミノ酸はグリシン、セリン、トレオニン、アスパラギン(Asn)及びグルタミン(Gln)であり、グリシン、セリン及びトレオニンが15%以上かつ、グリシンとセリンとが同量であることが、リポソーム結合活性の高いペプチドを、後述するインビトロスクリーニングによって取得する上でさらに好ましい。
また、前記疎水性ペプチドは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン及びプロリンであり、プロリンとロイシン、及びアラニンとバリンとがそれぞれ、等量で含まれることが、リポソーム結合活性の高いペプチドを、後述するインビトロスクリーニングによって取得する上で好ましい。
【0049】
本発明のリポソームの材料は特に限定されないが、例えば、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoglycerol(以下、「DOPG」ということがある。)及び/又は1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(以下、「DOPC」ということがある。)を用いることができる(図3参照)。ここで、上記のリポソームは、DOPG又はDOPCのいずれか一方の材料で、単一のリン脂質からなるリポソーム(以下、「単純リポソーム」という。)として構成されてもよく、DOPG及びDOPCを用いたリポソーム(以下、「混合リポソーム」という。)として構成されてもよい。
【0050】
上記のような単純リポソーム又は混合リポソームと、本発明の融合タンパクとを共存させることによって、リポソームの構成材料と上記膜相互作用ペプチドとの反応性を調べることができる。
例えば、上記DOPCから構成される単純リポソームとLBPr1とを共存させると、LBPr1が膜に結合のみなのか、膜を透過してリポソーム内に取り込まれるのかを、蛍光タンパクが発する蛍光によって追跡し、確認することができる。
【0051】
さらに、本発明の膜相互作用ペプチドを、上記混合リポソームと共存させる場合には、DOPCとDOPGとの混合比を変えることで、リポソーム膜と本発明のペプチドとの相互作用がどのように変化するのかを確認することができる。
すなわち、リポソームを構成する脂質の種類とその割合とを変化させることで、本発明のペプチドと上記膜との相互作用がどのように変化するのかを調べることができる。
【0052】
本発明の膜相互作用ペプチドの作製方法は特に限定はされないが、例えば、上記のコンストラクト作製方法で作製したコンストラクトを用いて、106オーダーのcDNAを包含するcDNAライブラリを作製し、このcDNAライブラリをcDNAディスプレイ法に供して、インビトロで選択する、ことができる。ここで、前記cDNAディスプレイ法による本実施形態の脂質二重層結合ペプチドのスクリーニング方法を図4に示す。
このスクリーニング方法は、(a1)mRNA調製工程と;(a2)第1複合体形成工程と;(a3)第2複合体形成工程と;(a4)粒子結合工程と;(a5)第3複合体形成工程と;(a6)第3複合体遊離工程と;(a7)選択工程と、を備えている。
【0053】
まず、(a1)mRNA調製工程では、前記のコンストラクトから転写によってmRNAを調製する。そして、(a2)第1複合体形成工程において、前記mRNA調製工程で得られたmRNAを、ピューロマイシンを結合させたリンカーに結合させて、第1複合体を形成させる。ここで形成される第1複合体は、上記の通り、リンカー-mRNA複合体である。次に、(a3)第2複合体形成工程において、翻訳によって合成された前記mRNA配列に対応するアミノ酸配列を有するペプチドをピューロマイシンに結合させる。すなわち、この工程で形成される第2複合体は、ペプチド-リンカー-mRNA複合体である。
【0054】
次いで、(a4)粒子結合工程において、上記のようにして得られた第2複合体を、磁性粒子に結合させる。引き続き、(a5)第3複合体形成工程において、前記磁性粒子と結合した第2複合体のmRNAを逆転写し、cDNAを形成させる。このため、ここで形成される第3複合体は、前記ペプチド-リンカー-mRNA/cDNAとなる(以下、「cDNAディスプレイ」ということがある)。次に、(a6)複合体遊離工程において、前記第3複合体形成工程で得られたcDNAディスプレイを前記磁性粒子から遊離させ、引き続き、(a7)選択工程において、前記遊離された第3複合体をリポソームと結合させて選択する。
【0055】
無細胞翻訳系として、市販のキット、例えば、Retic Lysate IVT Kit(Ambion社製)等を利用してもよい。例えば、このキットのプロトコルに従って、無細胞翻訳反応に使用される全ての試薬を穏やかに撹拌して遠心し、氷上に置く。反応液は、約20~約50μLスケールとし、次のような順番で混合して調製し、反応させることができる。上記のキットを使用する場合には、約0.5~約1μLの20 x Translation Mix minus-Met、約0.5~約1μLの20 x Translation Mix minus-Leu、及び約15~約20μLのRetic lysateを泡立たないよう注意深くピペッティングして混合する。
【0056】
この混合液を約25~約50μLのサンプル溶液中に添加し、反応液が所望の量、例えば、約20~約30μLになるようにDEPC水を加える。そして、泡が立たないように再度丁寧に混合し、30℃にて20分間、翻訳反応をさせる。上記翻訳反応後に、連結体Aと合成タンパク質の連結を促進するため、上記反応液に約15~約25μLの約2~約4Mの塩化カリウム、及び4~8μLの0.5~2Mの塩化マグネシウムを加え約37℃にて約30~約50分間反応させる。
【0057】
上記の溶液中に約80~約100 pmol相当のcDNAディスプレイ分子がある場合、約50~約70μLの量の磁性ビーズ、例えば、ダイナル社製のDynabead MyOne C1を加え、室温で、1約5~約30分間インキュベートし、リンカーのピューロマイシンに合成されたペプチドが付加された連結体(リンカー-mRNA-ペプチド連結体)を磁性ビーズの表面にリンカー部分で結合させる。なお、蛍光分子が結合されているリンカーを使用すると、蛍光のリポソーム表面での局在を確認することができる。
【0058】
次いで、例えば、ReverTra Ace(東洋紡製)を用いて、約40~約44℃にて、約30分間反応させ、この連結体に結合しているmRNAの逆転写を行い、cDNAが連結された連結体(リンカー-mRNA-ペプチド-cDNA連結体)を得る。引き続き、適当な酵素、例えば、RNase T1、を用いて、約35~38℃にて、約10分間反応させ、cDNAが連結された連結体(cDNAディスプレイ)を磁性ビーズから遊離させる。
ここで使用する蛍光分子としては、フルオレセイン、GFP等を挙げることができる。
【0059】
次に、本実施形態のリポソームを作製する方法について説明する。
リポソーム作製工程は、(b1)脂質溶液調製工程と;(b2)脂質膜形成工程と;(b3)リポソーム溶液作製工程と;(b4)リポソーム回収工程と;を備えている。
ここで、上記の(b1)脂質溶液調製工程では、脂質の有機溶媒溶液を調製する。また、上記の(b2)脂質膜形成工程では、前記脂質溶液調製工程で調製した脂質溶液を固相上で乾燥させて脂質膜を形成させる。上記の(b3)リポソーム溶液作製工程では、前記脂質膜にグッド緩衝液を加えてリポソーム溶液を作製する。上記の(b4)リポソーム回収工程では、前記リポソーム溶液に糖を含有するグッド緩衝液を加えてリポソームを回収する。
【0060】
すなわち、上記の(b1)脂質溶液調製工程で使用する脂質としては、例えば、DOPG、DOPC等を挙げることができる。光学顕微鏡でも観察することがきる、一枚の脂質二重層からなる巨大なリポソーム(以下、「ベシクル」ということがある。)を作製することができるため、DOPCを使用することが好ましい。また、有機溶媒としては、ジクロルメタン、クロロホルム、四塩化炭素等の有機溶媒を挙げることができるが、クロロホルムを使用することが、作業の簡便さの点から好ましい。
【0061】
リポソームに包含された溶液と、リポソームの外液との比重の違いを利用してリポソームを精製するために、異なる種類の糖を同じ濃度で含有するグッドの緩衝液を調製した。グッドの緩衝液を調製するための糖含有溶液としては、例えば、約0.05~約0.2Mのスクロースを含有する約10~約30 mMのモルホリノプロパンスルホン酸(以下、「MOPS」ということがある。)バッファーと、約0.05~約0.2Mのグルコースとを含有する約10~約30 mMのMOPSバッファーとを調製してもよい。約30~約50μLのDOPC(AVT)を約900~約1,000μLの有機溶媒、例えば、クロロホルム、に溶解させて、0.5~2 mMの脂質クロロホルム溶液を所望の量、例えば、約0.75~約1.5 mL調製する。
【0062】
適当な大きさのガラスシャーレ、例えば、直径約5 cmのガラスシャーレを界面活性剤で洗浄して乾燥させる。このシャーレ中に、上記の脂質クロロホルム溶液を全量流し込み、シャーレ全体に広げる。次いで、窒素ガスをシャーレ内に流し込み、有機溶媒を揮発させる。引き続き、真空ポンプをデシケータに接続し、この中に上記のシャーレを入れて一晩置く。例えば、約0.1 Mのスクロースを含有する約20 mMのMOPSバッファーを約20 mL、脂質膜が撹拌されないように、このシャーレ内に静かに注ぐ。約35~約39℃で約2~約4時間静置して水和させ、リポソームを作製する。以下、リポソームを「ベシクル」ということがある。
【0063】
リポソーム調製の際には、上記のように、例えば、約0.1 Mのスクロースを含有する約20 mMのMOPSバッファー(pH約6.8~約7.2)を使用し、このバッファーが内包されているリポソームを作製する。このリポソーム含有溶液を約1~約3mLとって、所望の容量、例えば、15 mL容量の遠心管に入れ、ここに所望の量、例えば、約12 mLの0.1 Mグルコース含有MOPSバッファー(20 mM、pH 6.8~7.2)を加える。
リポソームが包含するバッファーよりも、リポソームの外液であるバッファーの比重の方が重いときは、リポソームを浮遊させて精製し、逆の場合には、遠心分離によって沈降させて精製する。遠心によって沈降させる場合には、遠心管の底に集積したリポソームを、シリンジを用いて回収することができる。以上のようにして、光学顕微鏡で観察可能な、巨大一枚膜ベシクル(giant unilamellar vesicles、以下、「GUV」ということがある)を調製する。
【0064】
次いで、(b2)脂質膜形成工程では、前記脂質溶液調製工程で調製した脂質溶液を固相上で乾燥させて脂質膜を形成させる。上記のような脂質を、上記のような有機溶媒に所望の濃度、例えば、0.5~2 mMとなるように溶解させ、固相上に流して薄膜を形成させる。使用する固相としては、上記のような有機溶解を使用することからガラスシャーレが好ましい。こうした固相上に流した後に、例えば、窒素ガスを吹き付けると、形成される薄膜の厚みが一定になる。その後、薄膜を形成させた固相を終夜静置し、さらに乾燥させて、有機溶媒を完全に揮発させる。
【0065】
次いで、(b3)リポソーム溶液作製工程では、上記のようにして作製した脂質膜に、所望の濃度に調製した糖を含有するグッドの緩衝液(以下、「バッファー」ということがある。)を静かに加えて、所望の温度で所望の時間、静置し、リポソーム溶液を作製する。ここで、グッドの緩衝液の中でも、MOPSを使用することが、こうしたバッファーの調製及び保存が容易であることから好ましい。グッドの緩衝液は、約10~約50 mMの濃度で使用することが、反応効率の点から好ましい。
【0066】
また、ここで上記の緩衝液に添加する等としては、スクロース、グルコース等を挙げることができる。こうした糖の含有量は、例えば、約0.05~約0.2 mMとすることが、リポソームの精製、リポソームとペプチドとの結合、及びリポソームとペプチドとの結合体の精製が容易であるために好ましい。
例えば、約0.5~約2 mMのDOPCのクロロホルム溶液を調製し、この溶液をガラスシャーレに注ぐ。その後、窒素ガスを吹き付けて、シャーレの内壁に脂質が薄い膜を作るようにクロロホルムを除去する。その後、例えば、真空ポンプに連結したデシケータ中でさらに一晩乾燥させる。
【0067】
次に、約0.05~約0.2Mの上述した糖を含む約10~約50 mMのグッドの緩衝液に脂質膜を加えて、32~40 ℃にて2~5時間インキュベートして水和させ、リポソームを作製する。例えば、約0.05~0.2 Mのスクロースを含む約20 mMのMOPSバッファー中に、上記のようにして作製した脂質膜を加えて、約35~37℃で約2~4時間インキュベートして水和させる。この方法で、直径0.01~10 μmのリポソームを作製することができる。
引き続き、(b4)リポソーム回収工程では、前記リポソーム溶液に糖を含有するグッドの緩衝液を添加して、遠心によりリポソームを回収する。この工程で使用する糖としては、グルコース、スクロース等を挙げることができるが、グルコースを使用することが、リポソームを容易に沈降させることができるために好ましい。
【0068】
上記のようにして作製したリポソーム溶液に、所望の濃度の糖を含有するグッドの緩衝液を所望の量加えて遠心し、リポソームを回収する。例えば、0.05~0.2 mMのグルコースを含有する10~50 mMのMOPSを4~6倍容加えて遠心する。この溶液を使用することにより、リポソーム内に封入されたスクロース含有MOPSの比重の方が、リポソーム外液であるグルコースを含有するMOPSの比重よりも大きくなるために、遠心するだけで、リポソームを沈降させることができる。沈降したリポソームについては、例えば、シリンジ等で回収することができる。
以上のようにして作製したリポソームは、再結合を起こさないように、遮光して、例えば、4℃にて使用時まで保存する。
【0069】
次に、膜と相互作用するcDNAディスプレイの回収工程は、(c1)溶液添加工程と;(c2)分離工程と;(c3)回収工程とを備えている。(c1)溶液添加工程では、前記リポソーム含有するリポソーム溶液に、上記のようにして得たcDNAディスプレイ含有溶液を添加する。引き続き、前記の(c2)分離工程で、前記リポソームと前記cDNAディスプレイ溶液との混合液を、例えば、5,000xgで5分間、室温にて遠心して分離する。その後、前記の(c3)回収工程で、前記リポソームと相互作用しているcDNAディスプレイをリポソームごと回収する。ここで、前記cDNAディスプレイが前記リポソームに結合している場合、及び前記リポソームの膜を透過して内包されている場合のいずれであっても、この操作によって回収することができる。以上のようにして、膜相互作用ペプチドを得ることができる。
【0070】
本発明のコンストラクトをインバースPCRに供することにより、ランダム領域を別のペプチドと入れ換えることもできる。例えば、図5(A)~5(D)に示すように、鋳型として、本発明のペプチド及び蛍光タンパク遺伝子との融合タンパクをコードするDNAが組み込まれたベクターと、例えば、膜透過性ペプチド(Cell Penetrating Peptides; CPPs)として知られているR8の塩基配列をタグとして付けた所望のプライマー1及び2を使用する。
【0071】
上記ベクター遺伝子のC末端からN末端までの1/2付近の位置に組み込まれた上記ランダム領域を含むDNA鎖に、図5(D)に示すような位置で上記プライマー1を結合させる。次いで、相補差にも同様の位置で上記プライマー2を結合させる。引き続き、PCRを所望の条件で行うことにより、図5(C)に示すようなランダム領域の本発明のペプチドが、上記R8に置換された蛍光タンパク-R8融合タンパクを得ることができる。
このようにして、ランダム領域を所望の配列を有するペプチドと置換することにより、本発明の膜相互作用ペプチドの特性を確認することができる。
【0072】
本発明のペプチドは、上述したように、リポソームの膜に対する透過性を有していてもよい。本実施形態のペプチドがリポソームの膜に対する透過性を有している場合には、例えば、細胞内に取り込ませたい物質と融合させることで、細胞内に膜不透過性の物質を取り込むことを可能にすることができる。このため、新たなドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System、以下「DDS」ということがある。)のキャリアとして、又は細胞内分子の機能解析用途として使用することができる。
【0073】
本実施形態のペプチドは、リポソームの膜とそのC末端側で結合するというアミノ酸配列を有している。このことは、多くの生理活性ペプチド・タンパクの活性発現必要とされるN末端側の構造が維持されること、及びN末端側をフリーにすることができるため、N末端側が必要となる分子の生理活性を保持して細胞内に集積できることという、創薬応用上、極めて大きな利点を有している。そして、N末端側を容易に修飾することができ、N末端に様々な物質を結合させることによって、上記リポソーム膜表面又は細胞膜表面をこうした物質で修飾することができる。
【実施例
【0074】
(実施例1)リポソームの作製
リポソーム内液であるインナー溶液とリポソーム外液であるアウター溶液を下記表2に示す組成で調製した。各溶液は6N HClを用いてpH 7.5に調製し、milliQ水を用いて50mLにメスアップした。
【0075】
【表2】
【0076】
以下にリポソームの作製方法を示す。
溶媒としてクロロホルムを用い、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoglycerol(DOPG)と1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine (DOPC)のストック溶液をそれぞれ10 mMになるように調製した。10 mM DOPGストック溶液、10 mM DOPCストック溶液をそれぞれ50μlずつダーラム管に入れ、窒素ガスを吹き付けてクロロホルムを揮発させた。さらに真空ポンプで一晩乾燥させ、クロロホルムを充分に取り除いた。
【0077】
真空ポンプから取り出したダーラム管に流動パラフィンを200μl加え、パラフィルムで蓋をし、Yamato 3210で1時間超音波を当て脂質を溶かし、その後、終濃度1μM フルオレセインアミンを加えたインナー溶液を20μl加えてボルテックスし、w/oエマルジョンを得た(流動パラフィン中)。
【0078】
このエマルジョン1.7 mLをマイクロチューブに入れ、200μlのアウター溶液の上に静かに乗せ、脂質界面を安定させるため4℃で1時間静置した。静置後、Swing manで約4,000 rpmにて10分程遠心し、最後にチューブ上層のw/oエマルジョンを除き、下層の底から50 μlのリポソーム溶液を回収した(図6参照)。以上の操作により、リポソーム内液と外液とが異なる組成となっている状態のリポソームを得た。
【0079】
(実施例2)脂質二重層結合ペプチド用コンストラクトの構築
(1)コンストラクトの設計
2(D)に示す構造を有するコンストラクトを、以下のようにして構築した。
まず、ランダム領域については、アルギニン含有量が多くかつストップコドンの出現確率が小さくなるように塩基のバランスを調整した配列に基づいて設計した。
上記コンストラクトの具体的な構成は、5’側から3’側に向かって、ヒスチジンタグ(HNtag)、GGGS領域、蛍光タンパク遺伝子領域、GGGSGGGS領域、ランダム領域、ストップコドン領域とした(図2(D)参照)。上記蛍光タンパク遺伝子領域には、赤色蛍光タンパク質であるmCherryの遺伝子を組み込み、ストップコドン領域はTGAとした。上記コンストラクトの製造はジーンワールド(株)に委託した。
【0080】
(2)N末結合ペプチド(LB-1)の配列
上記ランダム配列として組み込むヌクレオチド配列は、本願の発明者等が以前に取得したN末側でリポソームと結合するペプチドのランダム領域(LB1)のアミノ酸配列(図1(A)参照)に基づいて検討した。
【0081】
このコンストラクトから、後述するcDNAディスプレイ法を用いて、図1(B)に示すようなLB1融合タンパク質を得た。実施例1で形成されたリポソームと、このLB1融合タンパク質(蛍光標識タンパク質)とを、上記融合タンパク質の終濃度を1μMとして、25℃で3時間インキュベートし、これを試料溶液として使用した。リポソームのみを4℃で3時間インキュベートした溶液を対照溶液として使用した。これらの溶液をそれぞれ、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。この蛍光標識タンパク質とインキュベートしたリポソームでは、リポソームの外側に蛍光が集中している蛍光顕微鏡像が得られた(図1(C)及び(D)参照)。蛍光が集中していた箇所は、共焦点顕微鏡で観察した上記リポソームの脂質二重層と一致しており、上記蛍光標識タンパク質は、上記リポソームの脂質二重層に結合していることが確認された。
【0082】
ここで、LB1のアミノ酸配列を、N末端側からC末端側に向かってA~Eの5つのブロックに分けた(図1(A)参照)。LBP1は、疎水性アミノ酸に富む領域と塩基性アミノ酸に富む領域とを含み、これらを、それぞれBブロック(疎水性アミノ酸に富む領域)、及びDブロック(塩基性アミノ酸に富む領域)とした(図1(A)及び下記表3参照)。
【0083】
【表3】
【0084】
LB-1がN末端、C末端のいずれで上記リポソームと結合しているかについては、LB-1のアミノ酸配列が、疎水性アミノ酸を含むBブロックをN末端側に有していこと、及び図1(C)に示す蛍光顕微鏡像から、N末端側で上記リポソームと結合していると判断された。
【0085】
(3)LB-1の改変
以上の結果に基づいて、LB-1の配列を改変し、C末端領域で脂質膜に結合するタンパク質(ペプチド)の取得を目指し、ランダム配列として組み込むためのアミノ酸配列を検討した。まず、上記LB-1のアミノ酸配列のN末端とC末端とを逆にしたもの(LBPr1、図2(A)及び上記表3参照)を設計した。また、LBP1のブロック構成を入れ代えたLBPr2及びLBPr3図2(B)及び2(C)並びに上記表3参照)を設計し、これら3つのペプチドの合成を、ジーンワールド社に委託した。
【0086】
(実施例3)cDNAディスプレイ法によるインビトロでの選択
(1)mRNAの合成
実施例2で作製した各コンストラクトとT7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(プロメガ(株)製)とを用いて、添付のプロトコルに従って5~30 pmol/μLのmRNAを合成した。
【0087】
(2)連結体の形成(mRNAとリンカーのライゲーション)
リンカーとして、cnvKリンカーを用いた。cnvKリンカー(polyA + cnvK)は、ビオチンフラグメント(poly A + cnvK:主鎖)と側鎖とを有し、下記の配列表の配列番号12に記載された配列を有している。
[配列12]
5'AAAAAAAAAAAAAAAAAAAANTTTCCAKGCCGCCCCCCGTCCT 3'
ここで、上記主鎖の5'末端にはBioTEGが結合しており、また、上記塩基配列中のNはリボGを、Kはシアノビニルカルバゾールをそれぞれ表す。また、ピューロマイシン-セグメント(側鎖)は、下記の配列を有する。
【0088】
5' (5S)TCTFZZCCP
【0089】
上記の側鎖の遊離末端となるPは、タンパク質結合部位としてのピューロマイシンである。また、下記の塩基配列中、(5S)は5' Thiol C6を、FはFITC-dTを、そしてZは Spacer 18をそれぞれ表す。上記の主鎖及び側鎖の化学合成は、つくばオリゴサービス(株)に委託した。
【0090】
まず、0.2 Mのリン酸ナトリウム(pH 7.2)に、15 nmolのビオチンフラグメント(poly A + cnvK) (終濃度150μM)及びEMCS((株)同仁化学研究所製、終濃度16.7 mM)を加え、37℃で30分インキュベートした。その後、Quick-Precip Plus Solution(Edge BioSystems社製)を用いてエタノール沈殿させた。
【0091】
次に37.5 nmol分のピューロマイシン-セグメントを終濃度417μMとなるように、50 mMのDTTを含む1Mのリン酸水素ナトリウム水溶液に溶解し、シェーカーを用いて室温で1時間撹拌した。次いで、NAP5カラムを用いて、0.15 MのNaClを含む0.1 Mのリン酸ナトリウム(pH 7.0)にバッファーを交換した。
【0092】
上記バッファー交換済みの還元ピューロマイシン-セグメント溶液を、上記のEMCS修飾済みビオチン-フラグメント(poly A + cnvK)のエタノール沈殿産物と混合し、4℃で一晩放置した。続いて、DTTを終濃度50 mMとなるように上記反応液に投入し、室温で30分間撹拌した。その後、Quick-Precip Plus Solution (Edge BioSystems社製)を用いて、エタノール沈殿を行なった。エタノール沈殿産物を、100μLのNuclease-free water(ナカライテスク社製)に溶解し、以下の条件でC18カラムによるHPLC精製を行った。
【0093】
A液:0.1 Mの酢酸トリメチルアンモニウム(超純水中)
B液:80%アセトニトリル
プログラム:A液とB液との組成比は、開始時のA液85%を45分かけて65%とするグラディエント
流速:1mL/分
分画:1mL
【0094】
画分中の成分は、蛍光及び紫外吸収(280 nm)で確認した。30~32分までの画分では、蛍光とUVの両方でピークが見られた。30~32分までの画分を集め、真空エバポレターを用いて溶媒を蒸発させた。その後、Quick-Precip Plus Solutionを用いてエタノール沈殿を行ない、Nuclease-free waterに溶解して-20℃で保存した。
【0095】
UV照射時間は、30秒以上あれば十分であるが、安全を見込んで約1分とした。RiboMAX Large Scale RNA Production Systems-T7を使用して転写を行なった。上記ペプチドのmRNA転写によってと、上記cnvKリンカー(poly A + cnvK)とを、各々終濃度が1μMとなるように、100 mMのNaClを含む25 mMのTris-HClバッファー(pH 7.5)に加えた。90℃で1分間インキュベートし、その後、70℃で1分間インキュベートして、0.08℃/秒の速さで25℃まで降温してピューロマイシン-リンカー(poly A + cnvK)をmRNAの3'末端に結合させてmRNA-リンカー連結体を得た。
【0096】
(3)cDNAディスプレイ法によるスクリーニング
(3-1)無細胞翻訳系
無細胞翻訳系にはRetic Lysate IVT Kit(Ambion社製)を利用した。混合の方法等は、キットのプロトコルを参照して行った。無細胞翻訳反応に使用される全ての試薬を穏やかに撹拌して遠心した後、氷上に置いた。25μLスケールの反応液は次のような順番で混合して調製し、反応させた。0.625μLの20 X Translation Mix minus-Met、0.625μLの20 X Translation Mix minus-Leu、及び17μLのRetic lysateを泡立たないよう注意深くピペッティングし、混合した。
【0097】
この混合液を36.5μLのサンプル溶液中に添加し、反応液が25μLになるようにDEPC水を加えた。そして、泡が立たないように再度丁寧に混合した。混合後30℃にて20分間、翻訳反応をさせた。上記翻訳反応後に、連結体Aと合成タンパク質の連結を促進するため、上記反応液に20μLの3Mの塩化カリウム、及び6μLの1Mの塩化マグネシウムを加え37℃で40分間反応させた。
【0098】
(3-2)ペプチドの精製
上記の溶液中に90 pmol相当のcDNAディスプレイ分子がある場合、60μLの量の磁性ビーズ(ダイナル社製、Dynabead MyOne C1)を加え、室温で20分間インキュベートし、リンカーのピューロマイシンに合成されたペプチドが付加された連結体(リンカー-mRNA-ペプチド連結体)を磁性ビーズの表面にリンカー部分で結合させた。なお、ここでは、蛍光分子(GFP)が結合されているリンカーを使用した。次いで、ReverTra Ace(東洋紡製)を用いて、42℃、30分の条件で反応させ、この連結体に結合しているmRNAの逆転写を行い、cDNAが連結された連結体(リンカー-mRNA-ペプチド-cDNA連結体)を得た。引き続き、RNase T1を用いて、37℃、10分の条件で反応させ、cDNAが連結された連結体(cDNAディスプレイ)を磁性ビーズから遊離させた。
以上のようにして、cDNAディスプレイ法により、LBPr1~3を得た。
【0099】
(実施例4)LBPr1融合タンパク質(mCherry-LBPr1)の取得
(1)LBPr1融合タンパク質の発現
凍結保存しておいたコンピテントセル(BL21(DE3))を氷上で解凍し、1.7 mLマイクロチューブに50μLのコンピテントセルと1μLのプラスミド溶液(DNA 1 pg~10μg)とを加え、氷上で20分静置した。このマイクロチューブに42℃のヒートショックを45秒与え、その後3分氷上で静置した。その後、SOC mediumを400μL加え、37℃で1時間振盪培養を行った。振盪培養後、100μg/mLのアンピシリンを加えて作製したLB寒天培地に100μLコンピテントセルを撒いて、37℃で18時間インキュベートした。
【0100】
インキュベーション後、作製された大腸菌のコロニーを100μg/mLのアンピシリを加えた1.5 mLのLB培地に加え、37℃で18時間振盪培養を行った。振盪培養を終えた後、羽根つき三角フラスコを用いて100 mLにスケールアップして28℃でさらに4時間振盪培養を行った。4時間振盪培養をした後、IPTGを終濃度1mMになるように培養液に加え、28℃で20時間ほど振盪培養を行い、タンパク質(mCherry-LBPr1)の発現を誘導した。
【0101】
(2)LBPr1融合タンパク質の精製
予め重量を測っておいた50 mL遠沈管2本に実施例4の培養液を50 mLずつ加え、2000 x gで5分遠心分離を行った。遠心分離後上澄みの培養液を捨て、沈殿物である大腸菌の重量を計測した。大腸菌1 mg当たり5 mLのBugbusterを大腸菌に加え、泡立てないように懸濁する。その後30分間室温で静かに振盪させ、溶菌する。その後14000 x gで20分遠心分離を行い、タンパク質溶液を1.7 mLマイクロチューブに回収した。
【0102】
ヒスチジンとNi-NTAの配位結合を用いた精製(His-tag精製)を行った。精製の際に用いる2種類のバッファーの組成を下記表2に示す。PBS(-)は、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline)であり、(-)はCa2+、Mg2+が含まれていないことを示す。
【0103】
【表4】
【0104】
His-tag精製の実験方法は下記の通りとした。まず、Ni-NTA agarose 1 mLをPoly-Prep(登録商標)クロマトグラフィーカラム(カラム)に詰めて、PBS(-) 3 mLで平衡化させた。このカラムに実施例4で大腸菌から抽出したタンパク質溶液を加えた。洗浄バッファーを10 mL加え、mCherry-LBPr1以外のタンパク質などを洗い落とす。溶出バッファーを1 mL加え、mCherry-LBPr1をカラムから1.7 mLマイクロチューブに回収した。
さらに、同様の方法でmCherry-LBPr2、mCherry-LBPr3タンパクを作製し、精製した。
【0105】
(実施例5)リポソームと各融合タンパク質(mCherry-LBPr1、mCherry-LBPr2及びmCherry-LBPr3)との反応
(1)リポソーム溶液(DOPC)の調製
リポソーム外液とは異なるリポソーム内液を包含する溶液を得るために、実施例1の表X1に示すインナー溶液に1μMのフルオレセインアミン(緑色蛍光物質)を加えたリポソーム内液と、0.1 Mのグルコース、100 mMのトリス塩酸(pH 7.5)及び50 mM NaClを含むリポソーム外液とをそれぞれ調製した。
【0106】
50μLの10 mMリン脂質(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、DOPC)を含む200μLの液体パラフィンの混合物を遠心管に入れ、その上に上記リポソーム内液を注いでボルテックスし、上記のリポソーム内液を包含するリポソーム含有溶液を調製した。このリポソーム含有溶液を上記リポソーム外液上に静かに注ぎ、4℃で1時間静置し、3,000回転/分の条件で遠心して、上記リポソームを上記リポソーム外液中に移行させ、内液と外液とが異なるリポソーム溶液(以下、「DOPC」という。)を調製した。
【0107】
(2)リポソームと各融合タンパク質(mCherry-LBPr1、mCherry-LBPr2及びmCherry-LBPr3)との反応
このDOPC、に実施例4で得た精製mCherry-LBPr1、mCherry-LBPr2、又はmCherry-LBPr3を、それぞれ終濃度が1μMになるように加え、冷却サーモブロックローテーター(SNP-24B)を用いて4℃で3時間反応させた。反応修了後、各融合タンパク質がリポソームに結合しているか否かを共焦点レーザー顕微鏡及びフローサイトメトリーを用いて観察した。
【0108】
mCherry-LBPr1とインキュベーションした結果は以下の通りであった。蛍光観察では、インキュベーション開始前には、赤色蛍光で検出すると、融合タンパク質が存在する外液は赤く、フルオレセインアミンを含む内液で満たされているリポソームは黒い球形として観察された。また、緑色蛍光で検出すると、フルオレセインアミンが存在しないリポソーム外液は黒く、リポソームは緑色の球形として検出された。
【0109】
インキュベーション終了後に赤色蛍光で検出したところ、リポソームの形状は検出されず、mCherry-LBPr1がリポソームの脂質二重層を透過していることが示された。また、緑色蛍光で検出したところ、リポソーム内液は外液中の殆ど漏れ出していないことが観察された。このため、mCherry-LBPr1は、リポソームの脂質二重層にポアを形成することなくリポソーム内に移行していることが明らかになった。
【0110】
これに対し、mCherry-LBPr2又はmCherry-LBPr3とDOPCとをインキュベーションした場合には、インキュベーション後でもリポソームは黒い球形として蛍光観察され、これらはリポソーム内には移行しないことが明らかになった。フローサイトメトリーの観察結果を図7(A)~7(C)に示す。
【0111】
(3)LBPr1と融合させる蛍光タンパク質による透過性の変化の検討
図3に示すコンストラクトのmCherryに代えて、GFP-LBPr1を作製した。この作成はジーンワールド社に依頼した。また、リポソームのインナー溶液には、終濃度1μMのmCherryを加え、リポソームの外液には、終濃度1μMのGFPを加え、上記と同様にして、内包リポソーム外液とは異なるリポソーム内液を包含するリポソームを作製し、GFP-LBPr1がリポソームの脂質二重層を透過するか否かを検討した。
結果を図8(A)~図8(B)に示す。インキュベーション開始時にはリポソームが黒い球形で検出されたが、インキュベーション終了時には、リポソームを示す球形の濃さはかなり薄くなっていた。このため、GFP-LBPr1はリポソーム(DOPC)内部に取り込まれていることが推察された。
【0112】
(4)リポソームの組成によるLBPr1とリポソームとの相互作用の変化
リン脂質として1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-rac-(1-グリセリン)ナトリウム(DOPG)を使用したときの、リポソームとmCherry-LBPr1との相互作用を検討した。コントロールには、mCherryペプチドを含むリポソーム外液を使用した。結果を図9及び図10示す。この結果より、mCherry-LBPr1はリポソーム(DOPG)の表面には結合するが内部に取り込まれていないことが示された。
【0113】
ついで、リポソームを、DOPGとDOPCの混合物から作製した。混合比率はDOPG:DOPC=5:5、6:4、7:3、8:2、9:1とした。これらのDOPGとDOPCの混合リポソームとmCherry-LBPr1とを上記と同様に反応させた。結果を図11(A)~図12(B)に示す。
この結果より、リポソームのDOPG:DOPCが7:3以上となると、mCherry-LBPr1はリポソームを透過せず、その表面に結合することが示された。すなわち、DOPGの割合が高くなると、mCherry-LBPr1はリポソームの脂質二重層を透過できなくなることが示された。
【0114】
(実施例6)HeLa細胞とmCherry-LBPr1との相互作用
(1)細胞アッセイ
DMEM(-)又はPBS(-)中にて、HeLa細胞とmCherry-LBPr1とを接触させ、リポソームを使用した場合との相違を検討した。
【0115】
【表5】
【0116】
表中、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium)を示し、(+)、(-)は10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)の添加の有無を表す。EDTAは、エチレンジアミン四酢酸(Ethylenediaminetetraacetic acid)の略号であり、EDTA/PBS(-)は、EDTAをPBS(-)で希釈していることを示す。また、トリプシン/PBS(-)は、トリプシンをPBS(-)で希釈していることを示す。
【0117】
DMEM(+)を含むTPP 組織培養フラスコ(25 cm2)中でHeLa細胞を培養し、この培養上清をアスピレーターで除去した。次いで1mLの0.2 mMのEDTA/PBS(-)を加え、室温で1分間静置して金属イオンをキレートさせ、このバッファーをアスピレーターで除去した。次いで、このフラスコ中に0.25%(v/v)のトリプシン/PBS(-)を1 mL加え、5% CO2インキュベータ中、37℃にて3分間インキュベートし、HeLa細胞をフラスコから剥がした。HeLa細胞がフラスコから剥がれていることを確認して4mLのDMEM(+)を加え、ピペッティングした。
【0118】
49 mLの DMEM(+)をこのフラスコ中に加え、十分にピペッティングして細胞懸濁液とした。この細胞懸濁液を、8枚のポリ-D-リジンコートディッシュ(35 mm ガラス底面、以下、単に「ディッシュ」ということがある。)にそれぞれ3 mLずつ注ぎ、5%CO2インキュベータ中、37℃にて一晩インキュベートした。8枚のディッシュの中から培養状態の良好な6枚を選び、培養上清(DMEM(+))をアスピレーターで除去し、その後、試料の観察条件に合わせて、2 mLのDMEM(-)又はPBS(-)を加え、アスピレーターでこれらのバッファーを除去する操作(以下、「洗浄」という。)を3回行い、デッシュ中に残っているDMEM(+)を除去した。
【0119】
各試料及び対照を観察するために、2mLのDMEM(-)又はPBS(-)を加えた。各試料に1.45 mMのmCherry-LBPr1 (試料番号1及び2)を13.8μL、または81.8μMのmCherry (試料番号3及び4)を244μL加えた(終濃度はいずれも10μM)。その後、各試料及び対照を、5%CO2インキュベータ中、37℃にて1時間インキュベーションした。2mLのDMEM(-)で細胞を洗浄し、その後2mLのDMEM(-)を加えて、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
1時間インキュベートした試料を共焦点顕微鏡で観察した結果を図13に示す。図13(A)はDMEM(-)中、同(B)はPBS(-)中で、それぞれmCherryのみ又はmCherry-LBPr1を加えた場合の顕微鏡像である。矢印は、赤色蛍光が観察された細胞を示す。
mCherry-LBPr1を加えると、DMEM(-)又はPBS(-)のいずれを用いた場合でも、細胞内に赤色蛍光が観察されたが、mCherryを加えた場合には観察されなかった。このことから、mCherry-LBPr1を加えて1時間インキュベートすると、mCherry-LBPr1がリポソームと相互作用させた場合と同様に、脂質二重層を透過することが確認された。
【0120】
(実施例7)細胞アッセイ中でのmCherry-LBPr1の作用
(1)細胞アッセイ
DMEM(-)又はPBS(-)を使用して細胞アッセイを行ない、フローサイトメーターを用いてmCherry-LBPr1のHeLa細胞中への取り込みの確認を行った。
【0121】
【表6】
【0122】
DMEM(+)を入れたTPP組織培養用フラスコ(25 cm2)中でHeLa細胞を培養し、培養上清をアスピレーターで除去した。次いで、1mLの0.2 mM EDTA/PBS(-)を加え、室温で1分間静置して金属イオンをキレートさせ、このバッファーをアスピレーターで除去した。0.25 %(v/v)のトリプシン/PBS(-)を1 mL加え、5%CO2インキュベータ中、37℃にて3分間インキュベーションし、細胞をフラスコから剥がした。細胞がフラスコから剥がれていることを確認した後に4mLのDMEM(+)を加え、十分にピペッティングし、50 mL遠心管に移し、更に14 mLのDMEM(+)を加えて、ピペッティングして細胞懸濁液とした。
【0123】
この懸濁液を1,000 rpmで1分間遠心し、上清をアスピレーターで除去した。ここに14 mLのDMEM(+)を再度加えてピペッティングし、この懸濁液を12ウェルTPP 組織培養用プレートの各ウェル中に1 mLずつ注いた。各ウェルには、さらに1mLのDMEM(+)を加え、5%CO2インキュベータ中、37℃にて2日間インキュベーションした。各ウェルの培養上清をアスピレーターで除去し、400μLのDMEM(-)で各ウェル内を3回洗浄し、その後400μLのDMEM(-)を加えた。
【0124】
添加するタンパク質の終濃度を10μMにするために、試料番号1~3にはそれぞれ0.6μLの6.72 mMのmCherry-LBPr1を、また、試料番号4~6には0.84μLの4.77 mMのmCherryを加えた。これらのタンパク質を加えた試料1~6を対照と共に、5% CO2インキュベータ中、37℃にて、15分、1時間、又は2時間インキュベートした。その後、500μLのDMEM(-)で3回洗浄し、次いで250μLの0.2 mM EDTA/PBS(-)を加え、室温で1分間静置し、上清を回収した。
【0125】
回収した溶液に、Accutase及びAccumaxをそれぞれ250μLずつ加え、5% CO2インキュベータ中、37℃にて3分間インキュベートし、細胞をプレートから剥がして回収した。250μLの0.25%(v/v)トリプシン/PBS(-)を各ウェルに加え、5% CO2インキュベータ中、37℃にて3分間インキュベートし、その後、各ウェル内に残っている細胞を剥がし、500μLのPBS(-)を各ウェルに加えて、この操作で剥がした細胞を回収した。以上のようにして回収した細胞懸濁液は、ウェルごとにまとめ(全量1.5 mL)て15 mLの遠心管に入れ、1,000 rpmで2分間遠心し、上清を捨てた。沈殿した細胞を1mLのPBS(-)で2回洗浄し、次いで、1mLのPBS(-)をそれぞれ加え、各遠心管の内容物の全量を、1.7 mLのマイクロチューブにそれぞれ移した。
【0126】
(2)FACSによる観察結果
FACSによる測定の直前に、Cell strainerを用いて細胞同士を分離させ、その後、速やかに測定を行った。結果を図14及び下記表7に示す。
【0127】
【表7】
【0128】
図14から明らかなように、mCherryのみを添加した場合には、15分から120分の間、FACS像に大きな変化は見られなかった。これに対し、mCherry-LBPr1を添加した場合には、検出された像が上方向に時間と共にシフトしており、HeLa細胞中へのアップテイクが起きていることが示された。上記表7に示すように、mCherry-LBPr1のアップテイク効率は、1時間以内に約85%に達し、2時間では95%を超えていた。
以上から、mCherry-LBPr1は、リポソームの場合と同様に、HeLa細胞の膜も透過することが示された。
【0129】
(実施例8)細胞中でのmCherry-LBPr1の局在の検討
オルガネラの標識を行い、DMEM(-)中でHeLa細胞にmCherry-LBPr1を作用させた。標識試薬としては、核用にHoechest 33342((株)同仁化学研究所)を、初期エンドソーム用にCellLight(登録商標) Early Endosomes-GFP(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))を、また、後期エンドソーム用にCellLight Late Endosomes-GFP(同社)を使用した。ここで、Hoechest 33342/PBS(-)は、Hoechest 33342をPBS(-)で希釈していることを示す(下記表8参照)。
【0130】
【表8】
【0131】
実験は以下のように行った。まず、フラスコ中、HeLa細胞をDMEM(+)中で培養し、培養上清をアスピレーターで除去した。ここに、1mLの0.2 mM EDTA/PBS(-)を加え、室温で1分間静置して金属イオンをキレートさせた。このバッファーをアスピレーターで除去し、1mLの0.25%(v/v)のトリプシン/PBS(-)を加えて、5%CO2インキュベーター中、37℃にて3分間インキュベートし、細胞をフラスコから剥がした。細胞がフラスコから剥がれていることを確認した後に、4mLのDMEM(+)を加え、十分にピペッティングして細胞懸濁液とした。ついで、この細胞懸濁液に24 mLのDMEM(+)を更に加え、十分にピペッティングした。
【0132】
以上のようにして得られた細胞懸濁液を、3 mLずつ8枚のディッシュに注ぎ、5%CO2インキュベータ中、37℃にて一晩インキュベートした。上記8枚のディッシュの中から、細胞の状態が良好なものを4枚選び、試料1及び2については100μLのCellLight Early Endosomes-GFPをそれぞれ加え、試料3及び4については100μLのCellLight Late Endosomesをそれぞれ加えて、5%CO2インキュベータ中、37℃にて一晩インキュベートしてエンドソームを標識した。
【0133】
以上のように、標識試薬で処理した試料番号1~4の細胞、及び試料番号5及び6の細胞は、それぞれディッシュ中に移した。各ディッシュ中に、2mLの5μg/mL Hoechest 33342/PBS(-)を加え、5%CO2インキュベータ中、37℃にて10分間インキュベートして核を標識した。インキュベーション終了後に、各ディッシュ内の細胞を3mLのDMEM(-)で3回洗浄し、未反応のHoechest 33342を除去した。その後、各ディッシュに2mLのDMEM(-)を加えた。
【0134】
添加したタンパク質の終濃度を10μMとするために、試料番号1、3及び5に対しては、628 μMのmCherry-LBPr1を、また、試料番号2、4及び6に対しては、479μMのmCherryを添加した。ついで、これらの試料を5%CO2インキュベーター中、37℃にて2時間インキュベートした。インキュベーション終了後、各ディッシュを2mLのDMEM(-)で洗浄し、その後2mLのDMEM(-)を加えた。各試料を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
結果を図15~16に示す。図15に示されるように、mCherry-LBPr1は、HeLa細胞の核には局在せず、初期エンドソームに局在しており、また、図16に示されるように、mCherry-LBPr1はHeLa細胞の後期エンドソームに局在していることが示された。
以上から、赤色蛍光で検出されるmCherry-LBPr1が、緑色蛍光で検出されるエンドソームと共局在していることが明らかになり、このことは、mCherry-LBPr1がHeLa細胞の細胞内にエンドサイトーシスによって取り込まれていることを示している。このため、LBPr1はリポソーム膜を透過する性能を有するCPPであることが示された。
【0135】
(実施例9)異なる脂質二重層結合ペプチド(mCherry-R8)用コンストラクトの構築
(1)コンストラクトの設計
以上の実験から、予想外であったが、LBPr1が細胞膜を透過するタンパク質であることが明らかとなった。細胞透過タンパク質(CPPs)としては、例えば、TATタンパク質又はR8ペプチド(8個のアルギニンで構成されたペプチド。以下、「R8」と略すことがある。)が知られている。そこで、図5に示すように、LBPr1に代えて、R8ペプチド」又は)を組み込んだコンストラクトを設計した。
【0136】
(2)インバースPCRによるmCherry-R8の合成
鋳型として、mCherry-LBPr1を用いた。mCherry-LBPr1のC末端から半分の配列を、pET21αベクター中の一方のDNA鎖に組込み、mCherry-LBPr1の相補鎖をpET21αベクター中の他方のDNA鎖中に組み込んだ。
R8を付けたプライマーを使用してPCRを行ない、LBPr1に代えてR8を含むPCR産物、すなわち、mCherry-R8を得た(図6参照)。(使用したプライマーとPCR条件の記載が必要です。)
【0137】
(実施例10)mCherry-LBPr1とmCherry-R8との比較
実施例9で得られたmCherry-R8、mCherry-LBPr1、及びmCherryのみを用いて、リポソーム(DOPC)の透過性を比較した。
リポソーム内液は、上記表2に示すインナー溶液に1μMの付すオレセインアミンを添加して調製した。また、リポソーム外液は、0.1 Mのグルコース及び50 mMのNaClを含む100 mMのトリス塩酸バッファー(pH 7.5)に1μMのmCherryを添加して調製した。
【0138】
実施例5に示す手順でリポソーム内液と外液とが異なるDOPCリポソームを作製し、ここにmCherryのみ、mCherry-LBPr1、又はmCherry-R8のいずれかを加えてインキュベートし、膜透過性を共焦点レーザー顕微鏡及びFACSを用いて比較した。結果を図17に示す。
図17(A)に示すように、mCherryのみを添加した場合には、リポソームは、外液よりも暗い赤色の球形の影として検出された。また、蛍光スペクトラムは両端が高く中央部が低くなっており、mCherryが外液中には存在するが、内液中には存在していないこと、すなわち、膜を透過していないことを示していた。
【0139】
mCherry-R8を添加した場合(図17(B)参照)には、リポソームは、外液よりも暗い赤色の球形の影として検出され、mCherryのみを加えた場合と大差はなかった。また、蛍光スペクトラムもmCherryのみを加えた場合のものと大きな差異は見られなかった。これに対し、mCherry-LBPr1を添加した場合(図17(C)参照)には、リポソームは検出されなくなった。また、蛍光スペクトラムからは、中央部が下がるという傾向は消失し、mCherry-LBPr1がリポソーム膜と透過していることが示された。
リポソーム内の蛍光強度とリポソーム外の蛍光強度との比(リポソーム内の蛍光強度/リポソーム外の蛍光強度x100)を、mCherry-R8とmCherry-LBPr1とについて求めた(n=10)。その結果、図18に示すように、mCherry-LBPr1はmCherry-R8の約3倍高いことが明らかになった。
以上から、DOPCリポソームの膜透過については、mCherry-LBPr1の疎水性アミノ酸のみならず、塩基性アミノ酸も寄与しているものと思われた。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、医薬、診断薬、環境分析、食品分析、研究用バイオイメージング等の幅広い分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0141】
配列番号1:ブロックBrのアミノ酸配列(C末端でリポソームと相互作用するリポソーム相互作用ペプチドのブロックBのアミノ酸配列が逆配列となっている)
配列番号2:前記リポソーム相互作用ペプチドのブロックBのアミノ酸配列
配列番号3:前記リポソーム相互作用ペプチドのブロックDのアミノ酸配列
配列番号4:ブロックCrのアミノ酸配列(前記リポソーム相互作用ペプチドのブロックCのアミノ酸配列が逆配列となっている)
配列番号5:前記リポソーム相互作用ペプチドのブロックCのアミノ酸配列
配列番号6:前記リポソーム相互作用ペプチドのブロックAのアミノ酸配列
配列番号7:ブロックArのアミノ酸配列(前記リポソーム相互作用ペプチドのブロックAのアミノ酸配列が逆配列となっている)
配列番号8:LBPr1、本発明の前記リポソーム相互作用ペプチド
配列番号9:LBPr2、本発明の前記リポソーム相互作用ペプチド
配列番号10:LBPr3、本発明の前記リポソーム相互作用ペプチド
配列番号11:LBP1、N末端でリポソームと結合するペプチド
配列番号12:cnvKリンカーの主鎖のヌクレオチド配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
0007329750000001.app