(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】色覚補正レンズ及び光学部品
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20230814BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20230814BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20230814BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B5/20
G02B5/22
G02C7/04
(21)【出願番号】P 2021501741
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002234
(87)【国際公開番号】W WO2020174950
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-01-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019033326
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】和田 英樹
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】大▲瀬▼ 裕久
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502352(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0220352(US,A1)
【文献】特開2012-215808(JP,A)
【文献】特表2016-511840(JP,A)
【文献】国際公開第2014/133110(WO,A1)
【文献】特表2016-503196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C11/00-13/00
G02B5/20-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色覚異常者の色覚異常を補正する色覚補正レンズであって、
凸面を有する第1樹脂層と、
前記凸面に積層された第2樹脂層とを備え、
前記第1樹脂層は、第1波長帯域の光を吸収する吸収材料を含み、
前記第2樹脂層は、第2波長帯域の蛍光を発する蛍光材料を含み、
前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、少なくとも一部が重なって
おり、
前記第2波長帯域は、前記第1波長帯域に含まれない帯域を含む、
色覚補正レンズ。
【請求項2】
前記第1波長帯域は、440nm以上600nm以下の範囲に含まれる
請求項1に記載の色覚補正レンズ。
【請求項3】
前記第2波長帯域は、440nm以上600nm以下の範囲に含まれる
請求項1又は2に記載の色覚補正レンズ。
【請求項4】
前記蛍光材料は、300nm以上440nm以下の光を受けた場合に前記蛍光を発する
請求項1~3のいずれか1項に記載の色覚補正レンズ。
【請求項5】
前記第1樹脂層の屈折率は、前記第2樹脂層の屈折率に等しい
請求項1~4のいずれか1項に記載の色覚補正レンズ。
【請求項6】
前記第1樹脂層は、前記第2樹脂層と同じ樹脂材料を用いて形成されている
請求項1~5のいずれか1項に記載の色覚補正レンズ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の色覚補正レンズを備える光学部品。
【請求項8】
前記光学部品は、メガネ、コンタクトレンズ、眼内レンズ又はゴーグルである
請求項7に記載の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色覚補正レンズ及び光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色覚異常者の色識別能力を補助するための眼鏡レンズが知られている。例えば、特許文献1に記載された色覚異常者用眼鏡レンズでは、識別困難である色に対応する波長領域の透過率が単調増加又は単調減少する分光スペクトル曲線を有する部分反射膜がレンズの表面に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の色覚異常者用メガネレンズでは、外観の色づきが強く違和感を与えやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、外観の色づきが抑制された色覚補正レンズ及び光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る色覚補正レンズは、凸面を有する第1樹脂層と、前記凸面に積層された第2樹脂層とを備え、前記第1樹脂層は、第1波長帯域の光を吸収する吸収材料を含み、前記第2樹脂層は、第2波長帯域の蛍光を発する蛍光材料を含み、前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、少なくとも一部が重なっている。
【0007】
また、本発明の一態様に係る光学部品は、上記色覚補正レンズを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外観の色づきが抑制された色覚補正レンズなどを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る色覚補正レンズの模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る色覚補正レンズの吸収材料の吸収スペクトルの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る色覚補正レンズの色素材料の吸収スペクトルの例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る色覚補正レンズの蛍光材料の励起スペクトル及び蛍光スペクトルの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る色覚補正レンズの吸収材料の吸収スペクトルと蛍光材料の蛍光スペクトルとの関係の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る色覚補正レンズの吸収材料の吸収スペクトルと蛍光材料の蛍光スペクトルとの関係の別の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る色覚補正レンズの吸収材料の吸収スペクトルと蛍光材料の蛍光スペクトルとの関係の別の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る色覚補正レンズの吸収材料の吸収スペクトルと蛍光材料の蛍光スペクトルとの関係の別の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る色覚補正レンズの吸収材料の吸収スペクトルと蛍光材料の蛍光スペクトルとの関係の別の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態に係る色覚補正レンズの光学特性を説明するための図である。
【
図11】
図11は、実施の形態に係る色覚補正レンズを備えるメガネの斜視図である。
【
図12】
図12は、実施の形態に係る色覚補正レンズを備えるコンタクトレンズの斜視図である。
【
図13】
図13は、実施の形態に係る色覚補正レンズを備える眼内レンズの平面図である。
【
図14】
図14は、実施の形態に係る色覚補正レンズを備えるゴーグルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の実施の形態に係る色覚補正レンズ及び光学部品について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0012】
また、本明細書において、一致又は等しいなどの要素間の関係性を示す用語、及び、球面などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0013】
(実施の形態)
[構成]
まず、本実施の形態に係る色覚補正レンズの構成について、
図1を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1を示す断面図である。
図1に示されるように、色覚補正レンズ1は、第1樹脂層10と、第2樹脂層20とを備える。
【0015】
色覚補正レンズ1は、色覚異常者の色覚異常を補正するレンズである。一般的な色覚異常者は、先天性赤緑色覚異常者であり、赤色光に比べて緑色光を強く知覚する。色覚補正レンズ1は、緑色光の透過を抑制することで、赤色光と緑色光との知覚のバランスを保つことができ、色覚を補正することができる。
【0016】
第1樹脂層10は、透光性を有する板状の部材である。具体的には、第1樹脂層10は、透明な樹脂材料を所定形状に成型することで形成されている。例えば、第1樹脂層10は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリシラザン、シロキサン、アリルジグリコールカーボネート(CR-39)、又は、ポリシロキサン複合アクリル樹脂などの樹脂材料を用いて形成されている。
【0017】
第1樹脂層10の板厚は、例えば、1mm以上3mm以下である。第1樹脂層10は、凸面10a及び凹面10bを有する。凸面10a及び凹面10bの各々の曲率半径は、60mm以上800mm以下である。あるいは、凸面10a及び凹面10bの各々の曲率半径は、100mm以上300mm以下であってもよい。凸面10aの曲率半径と凹面10bの曲率半径とは異なっていてもよい。例えば、凸面10aの曲率半径は、凹面10bの曲率半径より小さくてもよい。また、凸面10a及び凹面10bは、例えば球面であるが、完全な球面でなくてもよい。例えば、第1樹脂層10の断面視において、凸面10a及び凹面10bの真円度は、数μm以上十数μm以下であってもよい。
【0018】
第1樹脂層10は、凸レンズ又は凹レンズなどの光を集光又は拡散する機能を有してもよい。第1樹脂層10の大きさ及び形状は、例えば、人が装着可能なメガネ又はコンタクトレンズなどに合った大きさ及び形状である。
【0019】
なお、第1樹脂層10の大きさ及び形状は、上述した例に限定されない。第1樹脂層10の板厚は、例えば、1mmより小さくてもよく、又は、3mmより大きくてもよい。第1樹脂層10の板厚は、部位によって異なっていてもよい。つまり、第1樹脂層10は、板厚が薄い部分と厚い部分とを有してもよい。
【0020】
第2樹脂層20は、第1樹脂層10の凸面10aに積層されている。
図1に示される例では、第2樹脂層20は、凸面10aに接触し、凸面10aの全体を覆うように設けられている。
【0021】
第2樹脂層20は、透光性を有する薄膜層である。第2樹脂層20は、凸面10aに樹脂材料を塗布し、硬化させることで形成される。第2樹脂層20の膜厚は、例えば、10μm以上100μm以下であるが、これに限らない。例えば、第2樹脂層20の膜厚は、30μm以上であってもよく、70μm以下であってもよい。第2樹脂層20は、凸面10aに沿って湾曲した形状を有する。第2樹脂層20の膜厚は、例えば均一であるが、部位によって異なっていてもよい。
【0022】
本実施の形態では、第2樹脂層20は、第1樹脂層10と同じ樹脂材料を用いて形成されている。このため、第2樹脂層20の屈折率は、第1樹脂層10の屈折率に等しい。これにより、第1樹脂層10と第2樹脂層20との界面で反射する光の量を減らすことができるので、色覚補正レンズ1を透過する光の量が減るのを抑制することができる。
【0023】
なお、第2樹脂層20は、第1樹脂層10とは異なる樹脂材料を用いて形成されていてもよい。例えば、第2樹脂層20は、第1樹脂層10とは種類が異なり、かつ、屈折率が等しい樹脂材料を用いて形成されていてもよい。
【0024】
図1には、第1樹脂層10の一部及び第2樹脂層20の一部がそれぞれ、点線で囲まれた矩形の枠内に拡大して模式的に示されている。なお、点線の枠内では、第1樹脂層10及び第2樹脂層20の各々の断面を表す網掛けの図示が省略されている。
【0025】
図1に示される例では、第1樹脂層10は、吸収材料12を含む。第2樹脂層20は、蛍光材料22を含む。なお、
図1は模式図であり、吸収材料12は、第1樹脂層10中に溶けた状態で分散されている。あるいは、吸収材料12は、微粒化されて凝集粒子体を構成しながら第1樹脂層10中に分子状態で分散されていてもよい。蛍光材料22についても同様である。
【0026】
[吸収材料]
吸収材料12は、第1樹脂層10内に均等に分散されている。例えば、吸収材料12は、第1樹脂層10の全体に均等に分散されている。あるいは、吸収材料12は、第1樹脂層10の平面視における中央領域のみに分散されていてもよい。なお、平面視とは、第1樹脂層10の凸面10aを正面から見る場合である。吸収材料12は、第1樹脂層10の凸面10aを含む表層部分のみに分散されていてもよい。
【0027】
吸収材料12は、第1波長帯域の光を吸収する材料である。第1波長帯域は、440nm以上600nm以下の範囲に含まれる。吸収材料12は、可視光帯域のうち、第1波長帯域以外の光を実質的に吸収しない。可視光帯域は、例えば380nm以上780nm以下の範囲である。
【0028】
図2は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の吸収材料12の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図2において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は透過率(単位:%)を表している。
図2は、吸収材料12が分散されたポリカーボネート製の板材(例えば第1樹脂層10)の吸収スペクトルを示している。
【0029】
図2に示されるように、吸収材料12は、吸収ピークの波長(すなわち、ピーク波長)が約530nmである。ピーク波長における透過率は約15%であり、440nm以上600nm以下の波長帯域における最小値となっている。透過率が40%以上60%以下の範囲内において、吸収材料12のピークの帯域幅は、約55nm以上約79nm以下の範囲にある。
【0030】
吸収材料12は、例えば、1種類以上の色素材料を含んでいる。
図3は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の第1樹脂層10に分散される色素材料の吸収スペクトルの例を示す図である。
図3は、11種類の色素材料C1~C11の各々が分散されたポリカーボネート製の板材の吸収スペクトルを示している。
【0031】
色素材料C1~C11はそれぞれ、440nm以上600nm以下の範囲に吸収ピークを有する。例えば、
図3に示される色素材料C1~C11の中から1種類又は複数種類の色素材料を選択し、所定の割合で混合したものを吸収材料12として用いることができる。吸収材料12として利用可能な色素材料としては、ポリフィリン系色素、フタロシアニン系色素、メロシアニン系色素又はメチン系色素などを用いることができる。
【0032】
[蛍光材料]
蛍光材料22は、第2樹脂層20内に均等に分散されている。例えば、蛍光材料22は、第2樹脂層20の全体に均等に分散されている。あるいは、吸収材料12が第1樹脂層10の一部の領域のみに分散されている場合、蛍光材料22は、平面視において吸収材料12が分散された領域に重複する領域に分散されていてもよい。具体的には、吸収材料12が分散された領域と蛍光材料22が分散された領域とは、平面視において一致していてもよい。蛍光材料22は、第2樹脂層20の表層部分のみに分散されていてもよい。
【0033】
蛍光材料22は、第2波長帯域の蛍光を発する材料である。第2波長帯域は、440nm以上600nm以下の範囲に含まれる。蛍光材料22は、ダウンコンバージョン蛍光体材料であり、短波長の励起光によって励起されて、励起光より長波長の蛍光を発する。
【0034】
図4は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の蛍光材料22の励起スペクトル及び蛍光スペクトルの一例を示す図である。
図4において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は強度を表している。実線のグラフが励起光を表しており、破線のグラフが蛍光を表している。
【0035】
本実施の形態では、蛍光材料22は、300nm以上440nm以下の光を受けた場合に蛍光を発する。具体的には、
図4に示されるように、蛍光材料22の励起スペクトルは、約440nm及び約480nmの各々にピークを有する。つまり、例えば480nmに強い強度を有する励起光が蛍光材料22に照射された場合に、蛍光材料22は、
図4に示される蛍光スペクトルを有する蛍光を発する。蛍光材料22は、約490nm及び約520nmの各々に蛍光のピーク波長を有する。
【0036】
蛍光材料22は、例えば、ペリレン系緑色蛍光色素、クマリン系緑色蛍光色素、イミダゾール系緑色蛍光色素、又は、オキサジアゾール系緑色蛍光色素を用いることができる。第1樹脂層10に含まれる吸収材料12の吸収波長帯域である第1波長帯域に応じて、適切な蛍光波長を有する蛍光色素を蛍光材料22として用いることができる。蛍光材料22の励起スペクトルにおけるピーク波長と、蛍光スペクトルにおけるピーク波長との組み合わせも特に限定されない。例えば、蛍光材料22は、励起光のピーク波長が380nmであり、かつ、蛍光のピーク波長が464nmである7-(ジエチルアミノ)-2H-1-ベンゾピラン-2-オンであってもよい。あるいは、蛍光材料22は、励起光のピーク波長が400nmであり、かつ、蛍光のピーク波長が480nmである3-フェニル-7-(ジエチルアミノ)-2H-1-ベンゾピラン-2-オンであってもよい。また、例えば、蛍光材料22は、励起光のピーク波長が403nmであり、かつ、蛍光のピーク波長が516nmである4-(トリフルオロメチル)-7-(ジエチルアミノ)クマリンであってもよい。また、蛍光材料22は、励起光のピーク波長が423nmであり、かつ、蛍光のピーク波長が455nmである7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸であってもよい。蛍光材料22は、励起光のピーク波長が419nmであり、かつ、蛍光のピーク波長467nmである2-[3-[1-(5-Carboxypentyl)-3,3-dimethyl-1,3-dihydro-indol-2-ylidene]-propenyl]-3,3-dimethyl-1-propyl-3H-indolium bromideであってもよい。また、蛍光材料22は、励起光のピーク波長が549nmであり、かつ、蛍光のピーク波長563nmである6-[(7-Diethylamino-2-oxo-2H-chromene-3-carbonyl)-amino]-hexanoic acid 2,5-dioxo-pyrrolidin-1-yl esterであってもよい。
【0037】
本実施の形態では、
図5に示されるように、吸収材料12の吸収波長帯域である第1波長帯域90と、蛍光材料22の蛍光波長帯域である第2波長帯域92とは、少なくとも一部が重なっている。
図5は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の吸収材料12の吸収スペクトルと蛍光材料22の蛍光スペクトルの関係の一例を示す図である。
図5は、
図2に示される吸収材料12の吸収スペクトルと、
図4に示される蛍光材料22の蛍光スペクトルとを重ねて表示している。
【0038】
図2及び
図5に示される例では、第1波長帯域90は、例えば透過率が80%以下になる帯域であり、具体的には、約440nm以上約600nm以下である。
図4及び
図5に示される例では、第2波長帯域92は、例えば、蛍光の強度がピークの10%以上になる範囲であり、約470nm以上約580nm以下である。したがって、第2波長帯域92は、第1波長帯域90に含まれている。
【0039】
本実施の形態では、
図5に示されるように、吸収材料12が吸収する光のピーク波長は、蛍光材料22が発する蛍光のピーク波長よりも長波長側に位置している。吸収材料12が吸収する光のピーク波長は、蛍光材料22の蛍光スペクトルの第2波長帯域92に含まれる。蛍光材料22が発する蛍光のピーク波長は、吸収材料12の吸収スペクトルの第1波長帯域90に含まれる。吸収材料12が吸収する光のピーク波長は、蛍光材料22が発する蛍光のピーク波長に一致していてもよい。あるいは、吸収材料12が吸収する光のピーク波長は、蛍光材料22が発する蛍光のピーク波長より短波長側に位置していてもよい。
【0040】
なお、第2波長帯域92の一部は、第1波長帯域90に含まれていなくてもよい。
図6~
図9はそれぞれ、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の吸収材料12の吸収スペクトルと蛍光材料22の蛍光スペクトルとの関係の別の例を示す図である。
【0041】
例えば、
図6に示されるように、蛍光スペクトルの第2波長帯域92の短波長側の帯域と、吸収スペクトルの第1波長帯域90の長波長側の帯域とが重なっていてもよい。このとき、第2波長帯域92の長波長側の帯域は、第1波長帯域90には含まれていない。また、第1波長帯域90の短波長側の帯域は、第2波長帯域92には含まれていない。
【0042】
あるいは、
図7に示されるように、蛍光スペクトルの第2波長帯域92の長波長側の帯域と、吸収スペクトルの第1波長帯域90の短波長側の帯域とが重なっていてもよい。このとき、第2波長帯域92の短波長側の帯域は、第1波長帯域90には含まれていない。また、第1波長帯域90の長波長側の帯域は、第2波長帯域92には含まれていない。
【0043】
また、例えば、
図8に示されるように、吸収スペクトルの第1波長帯域90は、蛍光スペクトルの第2波長帯域92に含まれていてもよい。このとき、第1波長帯域90の短波長側の端部と第2波長帯域92の短波長側の端部とは一致していてもよい。あるいは、第1波長帯域90の長波長側の端部と第2波長帯域92の長波長側の端部とは一致していてもよい。なお、これらの端部の関係は、
図5に示されるように、蛍光スペクトルの第2波長帯域92が、吸収スペクトルの第1波長帯域90に含まれている場合についても同様に適用されてもよい。
【0044】
また、例えば、
図9に示されるように、吸収スペクトルの第1波長帯域90と、蛍光スペクトルの第2波長帯域92とは、完全に一致していてもよい。
【0045】
蛍光材料22が発する蛍光の強度は、吸収材料12によって吸収される成分を打ち消す強度である。例えば、蛍光の強度は、所定の強度の光が色覚補正レンズ1に入射した場合に、当該光のうち吸収材料12によって吸収される成分の強度と同等の強度である。一例として、蛍光の波長成分毎の強度は、吸収材料12によって吸収される波長成分の強度の0.5倍以上1.5倍以下の範囲である。あるいは、蛍光の波長成分毎の強度は、吸収材料12によって吸収される波長成分の強度の0.8倍以上1.2倍以下の範囲であってもよい。
【0046】
[色覚補正レンズの光学特性]
図10は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の光学特性を説明するための図である。
図10には、色覚補正レンズ1をメガネとして用いた場合に、当該メガネの装着者であるユーザ30と、ユーザ30以外の他人32とを模式的に示している。ユーザ30は、色覚異常者である。
図10に示されるように、色覚補正レンズ1は、ユーザ30側に第1樹脂層10が位置し、他人32側に第2樹脂層20が位置するように用いられる。
【0047】
色覚異常者であるユーザ30の目には、色覚補正レンズ1を、第2樹脂層20、第1樹脂層10の順に透過する光L1が入射される。このため、光L1は、第2樹脂層20を通過する際に蛍光材料22を励起して緑色光を発生させる。ここで発生した緑色光、及び、光L1に含まれていた緑色成分は、第1樹脂層10を通過する際に吸収材料12によって吸収される。したがって、ユーザ30の目には、緑色成分が減少した光が入射されるので、赤色光と緑色光との知覚のバランスを保つことができ、色覚が補正される。つまり、色覚補正レンズ1の色覚補正機能を適切に発揮させることができる。
【0048】
一方、他人32がユーザ30の顔を見る場合、
図10に示されるように、色覚補正レンズ1によって反射された光L2、及び、色覚補正レンズ1を、第1樹脂層10、第2樹脂層20の順に透過する光L3が入射される。光L2は、例えば、屈折率の大きい第1樹脂層10と屈折率の小さい空気層との界面である凹面10bによる反射光である。光L2は、凹面10bで反射された後、光L3と同様に、第1樹脂層10、第2樹脂層20の順に色覚補正レンズ1を透過する。
【0049】
このため、光L2及び光L3は、第1樹脂層10に含まれる吸収材料12によって緑色成分の吸収を受けた後、第2樹脂層20に含まれる蛍光材料22を励起して緑色光を発生させる。これにより、光L2及び光L3は、第1樹脂層10を通過する際に減少した緑色成分が、第2樹脂層20を通過する際に補われる。したがって、他人32の目に入る光L2及び光L3は、吸収により減少した緑色成分が補われた光であるので、色覚補正レンズ1を通過する前の本来の光L2及び光L3の色に近い色を知覚することができる。
【0050】
このように、本実施の形態によれば、ユーザ30にとっては色覚補正の機能を発揮させることができ、かつ、他人32が見たときの外観の色づきが抑制された色覚補正レンズ1を実現することができる。
【0051】
[光学部品]
上述した色覚補正レンズ1は、様々な光学部品に用いられる。
【0052】
図11~
図14は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1を備える光学部品の例を示す図である。具体的には、
図11、
図12及び
図14はそれぞれ、光学部品の一例であるメガネ40、コンタクトレンズ42及びゴーグル46の斜視図である。
図13は、光学部品の一例である眼内レンズ44の平面図である。例えば、各図に示されるように、メガネ40、コンタクトレンズ42、眼内レンズ44及びゴーグル46は、色覚補正レンズ1を備える。
【0053】
例えば、メガネ40は、左右のレンズとして2つの色覚補正レンズ1を備える。コンタクトレンズ42及び眼内レンズ44は、その全体が色覚補正レンズ1であってもよい。あるいは、コンタクトレンズ42及び眼内レンズ44の中央部分のみが色覚補正レンズ1であってもよい。ゴーグル46は、両目を覆うカバーレンズとして1つの色覚補正レンズ1を備える。
【0054】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1は、凸面10aを有する第1樹脂層10と、凸面10aに積層された第2樹脂層20とを備える。第1樹脂層10は、第1波長帯域90の光を吸収する吸収材料12を含む。第2樹脂層20は、第2波長帯域92の蛍光を発する蛍光材料22を含む。第1波長帯域90と第2波長帯域92とは、少なくとも一部が重なっている。
【0055】
これにより、吸収材料12によって吸収される成分を蛍光材料22が発する蛍光によって補うことができるので、第2樹脂層20側から他人32が見たときの色覚補正レンズ1の外観の色づきを抑制することができる。一方で、蛍光材料22が発する光が吸収材料12によって吸収されるので、第1樹脂層10側から見るユーザ30の目には、吸収材料12による吸収を受けた光が入射する。したがって、色覚補正レンズ1は、ユーザ30の色覚を補正することができる。
【0056】
以上のように、本実施の形態によれば、色覚補正の機能を維持しつつ、外観の色づきが抑制された色覚補正レンズ1を実現することができる。
【0057】
また、例えば、第1波長帯域90は、440nm以上600nm以下の範囲に含まれる。
【0058】
これにより、先天性赤緑色覚異常者の色覚を補正することができる。
【0059】
また、例えば、第2波長帯域92は、440nm以上600nm以下の範囲に含まれる。
【0060】
これにより、吸収材料12による吸収による色覚補正レンズ1の色づきを効果的に打ち消すことができる。
【0061】
また、例えば、蛍光材料22は、300nm以上440nm以下の光を受けた場合に蛍光を発する。
【0062】
これにより、太陽光などに含まれる紫外光成分によって蛍光材料22が励起されるので、十分な強度の蛍光を発生させることができるので、色覚補正レンズ1の外観の色づきを抑制することができる。
【0063】
また、例えば、第1樹脂層10の屈折率は、第2樹脂層20の屈折率に等しい。
【0064】
これにより、第1樹脂層10と第2樹脂層20との界面で反射する光の量を減らすことができるので、色覚補正レンズ1を透過する光の量が減るのを抑制することができる。
【0065】
また、例えば、第1樹脂層10は、第2樹脂層20と同じ樹脂材料を用いて形成されている。
【0066】
これにより、第1樹脂層10の屈折率と第2樹脂層20の屈折率とを容易に等しくすることができる。
【0067】
また、例えば、本実施の形態に係る光学部品は、色覚補正レンズ1を備える。例えば、光学部品は、メガネ40、コンタクトレンズ42、眼内レンズ44又はゴーグル46である。
【0068】
これにより、メガネ40などの、ユーザ30が装着可能な光学部品が実現される。仮に、外観の色づきが補正されないメガネ40をユーザ30が装着している場合には、他人32に違和感を与える恐れがある。本実施の形態によれば、メガネ40の外観の色づきが抑制されるので、他人32にとっての日常生活における違和感を低減することができる。
【0069】
(その他)
以上、本発明に係る色覚補正レンズ及び光学部品について、上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0070】
例えば、第1樹脂層10の屈折率は、第2樹脂層20の屈折率と異なっていてもよい。第1樹脂層10と第2樹脂層20との屈折率差が大きい場合には、第1樹脂層10と第2樹脂層20との間に、第1樹脂層10の屈折率と第2樹脂層20の屈折率との間の屈折率を有する中間層が設けられていてもよい。これにより、第1樹脂層10と中間層との界面での屈折率差、及び、第2樹脂層20と中間層との界面での屈折率差を緩和し、これらの界面での光の反射を抑制することができる。このように、第1樹脂層10と第2樹脂層20とは接触していなくてもよい。言い換えると、第2樹脂層20は、第1樹脂層10の凸面10aに、他の層を介して積層されていてもよい。
【0071】
また、例えば、蛍光材料22の励起波長は、蛍光波長よりも長波長であってもよい。例えば、蛍光材料22の励起波長は、550nm以上780nm以下の範囲であってもよい。つまり、蛍光材料22は、アップコンバージョン蛍光体材料であってもよい。
【0072】
また、例えば、吸収材料12が吸収する光の波長帯域である第1波長帯域の一部は、440nm未満であってもよく、600nmより大きくてもよい。また、蛍光材料22が発する蛍光の波長帯域である第2波長帯域の一部は、440nm未満であってもよく、600nmより大きくてもよい。
【0073】
また、例えば、吸収材料12及び蛍光材料22の少なくとも一方は、色素材料でなくてもよい。
【0074】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 色覚補正レンズ
10 第1樹脂層
10a 凸面
12 吸収材料
20 第2樹脂層
22 蛍光材料
40 メガネ(光学部品)
42 コンタクトレンズ(光学部品)
44 眼内レンズ(光学部品)
46 ゴーグル(光学部品)
90 第1波長帯域
92 第2波長帯域