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特許7329768糖尿病予防治療剤、血糖値上昇抑制剤、血糖値スパイク抑制剤及びグルコース取り込み阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】糖尿病予防治療剤、血糖値上昇抑制剤、血糖値スパイク抑制剤及びグルコース取り込み阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20230814BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230814BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20230814BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20230814BHJP
   A23L 33/125 20160101ALN20230814BHJP
   G01N 33/50 20060101ALN20230814BHJP
   G01N 33/15 20060101ALN20230814BHJP
【FI】
A61K36/48
A61P3/10
A61K35/742
A23L33/10
A23L33/125
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019084096
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020180075
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501481492
【氏名又は名称】株式会社ゲノム創薬研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関水 和久
(72)【発明者】
【氏名】松本 靖彦
【審査官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-058500(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061353(WO,A1)
【文献】特開2002-275027(JP,A)
【文献】特開2012-171923(JP,A)
【文献】特開2009-096777(JP,A)
【文献】生活衛生,2009年,Vol. 53, No. 4,pp.257-260
【文献】飯島記念食品科学振興財団年報,2003年,Vol.2001,p.228-232
【文献】日本食品化学学会第14回総会・学術大会講演要旨集,2008年,p.63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 35/742
A61P 3/00-3/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆に水を該納豆の2~10質量倍量加えて、撹拌機で、20℃で撹拌し、その後、残存している大豆を除いて濾過し、濾液である水溶液を得て、該水溶液に2容量倍量のエタノールを加えたときの沈殿物である、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とするインスリン非依存性の腸管からのグルコース取り込み阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載のインスリン非依存性の腸管からのグルコース取り込み阻害剤であることを特徴とする糖尿病予防治療剤。
【請求項3】
請求項1に記載のインスリン非依存性の腸管からのグルコース取り込み阻害剤であることを特徴とする血糖値上昇抑制剤。
【請求項4】
請求項1に記載のインスリン非依存性の腸管からのグルコース取り込み阻害剤であることを特徴とする血糖値スパイク抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆由来の、糖尿病予防治療剤、血糖値上昇抑制剤、血糖値スパイク抑制剤及びグルコース取り込み阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、過剰なカロリー摂取による肥満や、その後に発症する糖尿病等の生活習慣病の発症が問題となっている。日頃から血糖値が上昇しないように注意することは、生活習慣病の発症を抑制する上で重要であるとされている。生活習慣病の予防のためには、食事療法や運動療法が効果的とされており、食事療法においては、主に血糖値の上昇が起こらないように摂取カロリーが制限される。
しかしながら、そのような食事療法を継続することは心理的に困難の場合があり、血糖値の上昇を抑制する物質(成分、剤等)や、該物質を含む飲食品(健康食品を含む)の開発が、継続的な療法を実施する上で有効であると考えられている。
【0003】
納豆は、大豆を納豆菌(Buccilus subtilis var natto)で発酵させて製造する日本で伝統的な食品である。納豆菌が大豆の表面で増殖すると、様々な多糖が産生され粘性を示すようになる。
【0004】
納豆菌が関連している技術として、ナットウキナーゼ(nattokinase)が糖尿病治療薬として有用であることが知られている(特許文献1)。しかしながら、ナットウキナーゼは、納豆に含有される酵素タンパク質の一種であって、そもそも水溶性の糖(鎖成分)ではないことに加え、特許文献1は、インスリン量を増加させることによる糖尿病治療薬であった。
【0005】
大豆タンパク質及び米糠を納豆菌で発酵させた発酵物を、更にプロテアーゼで処理してなる組成物を含有する抗糖尿病組成物が知られている(特許文献2)。
また、大豆摩砕物の固形画分を発酵させた大豆発酵組成物を含有する抗糖尿病組成物が知られている(特許文献3)
しかしながら、これらは、全てが水溶性でなかったり、インスリン量の増加に関係した糖尿病治療薬であったりした。
【0006】
納豆に含有される糖に関しては、現時点で以下のような状況にある。
すなわち、納豆には、ポリグルタミン酸とレバンという多糖が含まれており、ポリグルタミン酸(poly-γ-glutamic acid)は、インスリン等の医薬品の送達システム(Drug delivery system)の基材として利用されている。しかしながら、ポリグルタミン酸にショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制する活性があるという報告はない。
【0007】
また、レバンには、保湿性等の様々な機能があり、食品添加物、化粧品、医薬品開発に利用されている。しかしながら、納豆由来のレバンを投与しても、通常ラットやストレプトゾトシン処理した糖尿病ラットに対して血糖値を下げる効果は見られず、糖尿病症状の改善はないことが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
すなわち、納豆由来の水溶性粘性成分(画分)にショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制する効果があることを示した報告はない。
【0009】
一方、従来、食後高血糖の抑制や糖尿病の予防・治療剤の評価には、マウスやラット等の哺乳動物が用いられてきた。しかし、多数の哺乳動物を実験に供することに対しては、コストばかりでなく動物愛護の観点からも多くの問題が指摘されている。
本発明者らは、カイコを用いた評価系により、ヒトの血糖値上昇抑制剤や、ヒトの食後高血糖を抑制する活性物質の探索法(スクリーニング法)を確立し、食後高血糖の抑制剤や糖尿病の予防・治療剤を新たに見出すことに成功している(特許文献4、5、非特許文献2、3、4等)。
【0010】
また、ショ糖摂取による血糖値の一過的な上昇は、血糖値スパイクと呼ばれ、糖尿病を引き起こす要因の1つである。この血糖値スパイクの抑制は、糖尿病発症の予防に役立つと考えられ、そのような効果を有する物質(成分)、薬剤、健康食品、飲食品等の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-115434号公報
【文献】特開2013-032334号公報
【文献】特開2013-075883号公報
【文献】特開2009-058500号公報
【文献】国際公開第WO/2017/061353号
【非特許文献】
【0012】
【文献】de Melo FC, Zaia CT, Celligoi MA. Levan from Bacillus subtilis Natto: its effects in normal and in streptozotocin-diabetic rats. Braz J Microbiol. 2012; 43:1613-1619
【文献】Matsumoto Y, Ishii M, Sekimizu K. An in vivo invertebrate evaluation system for identifying substances that suppress sucrose-induced postprandial hyperglycemia. Scientific reports. 2016; 6:26354.
【文献】Ishii M, Matsumoto Y, Sekimizu K. Bacterial polysaccharides inhibit sucrose-induced hyperglycemia in silkworms. Drug discoveries & therapeutics. 2018; 12:185-188.
【文献】Ishii M, Matsumoto Y, Sekimizu K. Inhibitory effects of alpha-cyclodextrin and its derivative against sucrose-induced hyperglycemia in an in vivo evaluation system. Drug discoveries & therapeutics. 2018; 12:122-125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、安心・安全な天然由来の成分を含有し、インスリン分泌促進とは異なる作用機序で血糖値の上昇を抑制して糖尿病を予防・治療する剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、納豆の水溶性粘性画分が、カイコにおけるショ糖やグルコースの摂取による血糖値の上昇に対して抑制効果を示すことを見出した。
また、納豆の水溶性粘性画分の、酵素処理による多糖画分、すなわち糖鎖成分も、ショ糖摂取後の血糖値の上昇に対する抑制活性を有することを見出して本発明に至った。
なお、カイコを用いた評価系を用いて、前記した通り、ヒトの血糖値上昇抑制や、ヒトの食後高血糖の抑制を評価できることが確かめられており、カイコを用いた評価系を用いて、ヒトに対する上記効果を有する物質の探索法(スクリーニング法)も確立されている(特許文献4、5、非特許文献2、3、4等)。
本発明では、カイコを用いる糖に関する上記評価系を、単に「カイコ評価系」と略記する。
【0015】
更に、本発明者は、納豆の酵素処理多糖画分(糖鎖成分)が、ヒトの腸管細胞におけるグルコースの取り込みを阻害することを、ヒトの腸管由来のCaco-2細胞を用いて立証することによって本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とする糖尿病予防治療剤を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制剤を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とする腸管からのグルコース取り込み阻害剤を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とする血糖値スパイク抑制剤を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、カイコ評価系を利用して納豆の種類をスクリーニングする工程を有することを特徴とする、糖尿病予防治療剤、血糖値上昇抑制剤、グルコース取り込み阻害剤、又は、血糖値スパイク抑制剤の、製造方法若しくはスクリーニング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、食品として馴染みのある納豆を原料として用いて、そこから血糖値上昇を抑制することができる剤を得ることができる。すなわち、本発明によれば、安全であり安心感を与える天然由来(一般食品由来)の血糖値上昇抑制剤、グルコース取り込み(輸送)阻害剤等を提供することができる。
【0022】
また、本発明の剤によれば、腸管からのグルコース取り込みを阻害することができるので、グルコースの血中濃度を抑制することができる。
【0023】
上記の本発明の効果は、何れも、ショ糖等の糖の摂取による血中グルコース濃度の抑制に係るものであり、インスリンに依存した効果は確認されていないので、糖を含有する食事をした直後に血糖値が急激に上昇する血糖値スパイクの抑制に極めて効果があるものである。
【0024】
糖尿病を治療する剤は、インスリン分泌を促進(分泌不全を改善)するもの、インスリン抵抗性を排除(改善)するもの、糖吸収を抑制するもの等があるが、本発明は「糖吸収を抑制するもの」である。
糖の吸収・輸送には、糖を腸管の細胞に取り込むこと、及び、腸管の細胞から糖を血液中に放出することを含むが、本発明によれば、実施例5に示したように、特に前者を抑制すること、すなわち、グルコースの腸の細胞への取り込みを抑制することができる。
【0025】
上記した血糖値スパイクは、健常人でも起こるものである。本発明は、糖尿病患者に適用できるだけではなく、糖尿病を予防したい人、糖尿病を軽減したい人、健常人等にも好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】納豆の水溶性粘性画分、ヒトにおけるα-グリコシダーゼ阻害剤であるボグリボースを、ショ糖を含有する餌に混合してカイコに投与した後、カイコの体液中のグルコース濃度を測定した結果を示すグラフである。
図2】評価試料を、ショ糖を含有する餌に混合してカイコに投与した後の、カイコの体液中のグルコース濃度の用量依存性を示すグラフである。 A.納豆の水溶性粘性画分の用量依存性を示すグラフ B.難消化性デキストリンの用量依存性を示すグラフ
図3】納豆中の糖鎖成分(酵素処理多糖画分)を、ショ糖を含有する餌に混合してカイコに投与した後、カイコの体液中のグルコース濃度を測定した結果を示すグラフである。
図4】納豆の水溶性粘性画分を、ショ糖含有餌又はグルコース含有餌に混合してカイコに投与した後、カイコの体液中のグルコース濃度を測定した結果を示すグラフである。
図5】納豆中の糖鎖成分(酵素処理多糖画分)の添加により、ヒト腸管細胞であるCaco-2細胞のグルコース取り込みが阻害されることを示すグラフである(対照は難消化性デキストリン)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0028】
本発明は、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とする糖尿病予防治療剤である。
また、本発明は、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制剤でもある。
【0029】
本発明は、限定はされないが、インスリン分泌促進用ではない糖尿病予防治療剤又はインスリン分泌促進用ではない血糖値上昇抑制剤でもある。すなわち、作用機序的に若干のインスリン分泌が付随的に予期せず関与してしまう場合まで本発明から排除されるものではないが、本発明は、非インスリン分泌促進用糖尿病予防治療剤又は非インスリン分泌促進用血糖値上昇抑制剤でもある。
また、言い換えると、本発明は、インスリン非依存性の糖尿病予防治療剤又はインスリン非依存性の血糖値上昇抑制剤であり、インスリン分泌促進用でもなくインスリン抵抗性改善(若しくは抵抗性軽減)用でもない、糖尿病予防治療剤又は血糖値上昇抑制剤でもある。
【0030】
本発明によって、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分が、血糖値スパイクを抑制すること、腸管からのグルコース取り込みを阻害することが見出された。
上記した効果は、何れも、インスリン分泌とは関係がないので、本発明は、インスリン分泌促進用ではない、糖尿病予防治療剤又は血糖値上昇抑制剤である。
【0031】
β細胞刺激によるインスリン分泌促進は、β細胞の疲弊をまねいたり、膵臓に副作用を与えたりするおそれもあるため、上記したような効果を有し、上記した効果を奏する用途に用いられる本発明の糖尿病予防治療剤又は血糖値上昇抑制剤は極めて有用である。
【0032】
本願の実施例に示した通り、腸管からのグルコース取り込み阻害は、糖尿病予防用、血糖値上昇抑制用、血糖値スパイク抑制用等として有用であることから、本願発明の糖尿病予防治療剤又は血糖値上昇抑制剤は、2型糖尿病の患者のみならず、それらの予備軍や、1型糖尿病の患者や、それらを予防したい健常人等にも好適に適用できる。
【0033】
「納豆の水溶性粘性画分」や「納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分」の原料となる納豆の種類は、本発明の前記した効果を発揮するものであれば特に限定はない。実施例1に示したように、評価した納豆#1、#2、#3及び#4の中には、ショ糖摂取後の血中グルコース濃度の上昇を大きく抑制したものがあった(図1)。
【0034】
ただし、実施例1で評価したもののうち納豆#4が最も効果があった(納豆の種類の間で差が見られた)ことから、複数の納豆を評価して、効果の高い納豆を採用することが好ましい。「納豆」は、原料となる豆と納豆菌を含んでいる。従って、本発明で「納豆の種類」とは、少なくとも、大豆等の種類と納豆菌の種類のことを言う。
納豆の種類ごとにカイコにおけるショ糖摂取後の血糖値の上昇に対する抑制効果は異なっていた。従って、カイコ評価系を用いて、より活性の高い納豆の種類の探索ができると考えられる。
従って、本発明は、カイコ評価系を利用して、前記効果又は下記剤の効果を特に奏する納豆をスクリーニングする工程を有することを特徴とする、糖尿病予防治療剤、血糖値上昇抑制剤、グルコース取り込み阻害剤又は血糖値スパイク抑制剤の、製造方法若しくはスクリーニング方法でもある。
【0035】
「納豆の水溶性粘性画分」とは、納豆に水を該納豆の2~10質量倍量加えて、撹拌機で、20℃で撹拌し、その後、残存している大豆を除いて濾過し、濾液である水溶液を得て、該水溶液に2容量倍量のエタノールを加えたときの沈殿物のことを言う。
ただし、上記のようにして得られるようなものならば、本発明における「納豆の水溶性粘性画分」であり、それは実際に上記具体的獲得方法で得られたものには限定されない。
【0036】
「納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分」とは、「酵素処理多糖画分」と同義であり、上記した納豆の水溶性粘性画分を、実施例3に示したように酵素で処理した後、エタノールを加えて生じた沈殿物のことを言う。
ただし、上記のようにして得られるようなものならば、本発明における「納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分」「酵素処理多糖画分」であり、それは上記具体的獲得方法で実際に得られたものには限定されない。
【0037】
本発明は、納豆の水溶性粘性画分、又は、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分を含有することを特徴とする、腸管からのグルコース取り込み阻害剤であり、血糖値スパイク抑制剤でもある。
「納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分(酵素処理多糖画分)」が、腸管からのグルコースの取り込み(又は輸送)を阻害することは、実施例5で立証された。従って、それを含む「納豆の水溶性粘性画分」もグルコース取り込み阻害剤となり得る。
【0038】
更に、「納豆の水溶性粘性画分」が、「腸管からのグルコース取り込み阻害剤」となり得ることは、実施例4において、ショ糖のみならずグルコースを摂取させた場合でも血糖値の上昇を抑制したことからも立証された。
【0039】
また、実施例1~4は全て、食事(給餌)から1時間後の血中グルコース濃度を測定し、グルコース濃度の上昇を抑制する効果を確認していることから、納豆の水溶性粘性画分も、納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分(酵素処理多糖画分)も、血糖値スパイク抑制剤となり得ることが立証された。納豆の水溶性粘性画分は、腸管細胞のグルコース取り込みを阻害することにより、食後高血糖を抑制するので、食後高血糖抑制剤として有用である。
【0040】
また、少なくともグルコースの取り込みが阻害されれば、血糖値上昇抑制剤、糖尿病予防治療剤となり得ることは明らかである。
【0041】
本発明の剤は、一般飲食品、健康飲食品、薬剤等に含有させて使用できる。本発明の剤は、水等を含んで湿潤状態になっているものでもよく、乾燥して粉末状態になったものでもよい。
【0042】
一般飲食品に含有させて使用するときは、本発明の剤自体を飲食してもよく、水等の液体又は可食性の固体で希釈して使用することも好ましい。また、一般飲食品に含有させるときは、料理の際に配合させてもよいし、ふりかけ・調味料等として使用することも好ましい。
【0043】
上記一般飲食品の種類としては、特に限定はないが、例えば、ゼリー、キャンディー、チョコレート、ビスケット、グミ等の菓子類;緑茶、紅茶、コーヒー、清涼飲料等の嗜好飲料;醗酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、ラクトアイス等の乳製品;野菜飲料、果実飲料、ジャム類等の野菜・果実加工品;スープ等の液体食品;御飯類、パン類、麺類等の穀物(加工)品;ふりかけ等の各種調味料;肉、魚、野菜等の副食類;等が挙げられる。
【0044】
健康飲食品、薬剤等に含有させて使用するときの剤型としては、特に限定はないが、具体的には、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶剤、懸濁剤等)等が挙げられる。
中でも、経口固形剤又は経口液剤が、簡便で前記効果を発揮し易い点から好ましい。
【0045】
上記経口固形剤としては、本発明の「納豆の水溶性粘性画分又は納豆の水溶性粘性画分に含まれる糖鎖成分」に、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤、保存安定剤、腸溶剤、崩壊遅延剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0046】
該賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。
該結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
該崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
該滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
該着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0047】
前記経口液剤としては、例えば、前記有効成分に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0048】
該矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
該緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
該安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0049】
前記注射剤としては、例えば、前記有効成分に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を配合し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
該pH調節剤及び該緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。
【0050】
本発明の剤の投与対象動物としては、特に限定はないが、例えば、ヒト;サル;ウマ;ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ等の家畜;ネコ、イヌ等のペット;マウス、ラット等の実験動物;等が挙げられる。
【0051】
本発明の剤の投与量としては、特に限定はなく、投与対象の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与量は、納豆の水溶性粘性画分の量として、1mg~30gが好ましく、10mg~10gがより好ましく、100mg~3gが特に好ましい。
糖鎖成分(酵素処理多糖画分)の好ましい投与量や、経口固形剤又は経口液剤に含有されているときは、納豆の水溶性粘性画分の量に換算して、上記好適投与量が適用される。
【実施例
【0052】
以下、実施例及び検討例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。
【0053】
評価例1
<カイコの種類、飼育条件及び体液採取方法>
カイコは、以前報告した方法で飼育した(Kaito C, Akimitsu N, Watanabe H, Sekimizu K. Silkworm larvae as an animal model of bacterial infection pathogenic to humans. Microbial pathogenesis. 2002; 32:183-190.、及び、Kurokawa K, Kaito C, Sekimizu K. Two-component signaling in the virulence of Staphylococcus aureus: a silkworm larvae-pathogenic agent infection model of virulence. Methods Enzymol. 2007; 422:233-244.)。
【0054】
カイコの受精卵(交雑種ふ・よう×つくば・ね)は、愛媛養蚕株式会社から購入した。
孵化した幼虫は、室温で人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社)を与えて5齢幼虫まで育てた。飼育容器は、卵から2齢幼虫までを角型2号シャーレ(栄研器材)、それ以降をディスポーザブルのプラスチック製フードパック(フードパックFD 大深、中央化学株式会社)を用いた。飼育温度は27℃とした。特に記載しない限り、実験には4齢眠以後絶食させた5齢1日目の幼虫を用いた。
【0055】
ショ糖を人口餌に、ショ糖10質量%となるように混合し、更に評価するサンプル(試料)を混合した。5齢カイコに、サンプル(試料)を混合した餌、又は、混合していない餌を1時間与えた後、カイコの足をハサミで切って体液を採取し、グルコース濃度をグルコメーターで測定した(Accu-Chek,Roche)。
【0056】
実施例1
<納豆の水溶性粘性画分には、ショ糖摂取後の血液中のグルコース濃度の上昇を抑制する効果や、ショ糖摂取後の血糖値スパイクを抑制する効果があることの証明(1)>
市販の納豆4種(#1、#2、#3、#4)に、それぞれ水を加えてよく撹拌し、その後、大豆を除き、水抽出画分を得た。これに2倍量のエタノールを加え、生じた糸状の沈殿を遠心により集め、「水溶性粘性画分(Crude fraction)#1、#2、#3、#4」とした。
【0057】
得られた、水溶性粘性画分(Crude fraction)#1-4を、それぞれ、25mg/g diet)、及び、α-グリコシダーゼ阻害剤であるボグリボース(40mg/g diet)を、10質量%ショ糖を含有する餌に混合した。
各試料(水溶性粘性画分#1-4、ボグリボース)を混合した餌、又は、混合しなかった餌(Control)をカイコに食べさせ、1時間後のカイコの体液中のグルコース濃度を測定した。
【0058】
結果を図1に示す。
n=4-5/group、統計学的有意差検定は、Student’s t-testを用いて行った。図1中の棒線は、各試料の平均値を示す。
「*」を付したデータは、P<0.05である。
【0059】
<<結果>>
図1より、納豆から得られた水溶性粘性画分には、カイコにおけるショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制する効果があることが示唆された。納豆の水溶性粘性画分を混合しなかった餌(Control)に比べ、カイコの体液中のグルコース濃度の上昇抑制が見られたものがあった。特に、評価した納豆4種のうち、1種の納豆(#4)から得た水溶性粘性画分は、カイコの血糖値の上昇を大きく抑制することが分かった。
【0060】
前記した通り、投与した被験物質によるカイコでの血糖値の上昇抑制は、ヒトと相関がとれていることから(ヒトでも同様な結果が出ることが確かめられていることから)、納豆から得られた水溶性粘性画分には、血糖値上昇抑制効果があることが示唆され、血糖値上昇抑制剤となり得ることが示唆された。
また、上記結果は、給餌後1時間の結果であることから、血糖値スパイク抑制剤としての用途があることも示唆された。
【0061】
実施例2
<納豆の水溶性粘性画分には、ショ糖摂取後の血液中のグルコース濃度の上昇を抑制する効果や、ショ糖摂取後の血糖値スパイクを抑制する効果があることの証明(2)>
<<血糖値上昇に対する納豆の水溶性粘性画分による抑制(阻害)の用量依存性>>
納豆の水溶性粘性画分#4の用量依存性を測定した。納豆#4の水溶性粘性画分(Natto#4)を、13、25、50mg/g dietとなるように、10質量%ショ糖含有餌に混合した。また、ポジティブコントロールとして、ボグリボース(40mg/g diet)を10質量%ショ糖含有餌に混合した。
【0062】
上記試料を混合した餌、又は、混合しなかった餌(Control)をカイコに食べさせ、1時間後の体液中のグルコース濃度を測定した。
【0063】
結果を図2Aに示す。
n=5-10/group、統計学的有意差検定は、Student’s t-testを用いて行った。図2A中の棒線は、各試料の平均値を示す。
「*」を付したデータは、P<0.05である。
【0064】
<<血糖値上昇に対する難消化性デキストリンによる抑制(阻害)の用量依存性>>
難消化性デキストリン(Indigestible dextrin)を、50、100、200mg/g dietとなるように、10質量%ショ糖含有餌に混合した。また、ポジティブコントロールとして、アカルボース(40mg/g diet)を、10質量%ショ糖含有餌に混合した。
【0065】
各試料を混合した餌、又は、混合しなかった餌(Control)をカイコに食べさせ、1時間後の体液中のグルコース濃度を測定した。
【0066】
結果を図2Bに示す。
n=5-10/group、統計学的有意差検定は、Student’s t-testを用いて行った。図2B中の棒線は、各試料の平均値を示す。
「*」を付したデータは、P<0.05である。
【0067】
<<結果>>
納豆から得られた水溶性粘性画分#4は、用量依存的にショ糖摂取によるカイコの血糖値の上昇を抑制した(図2A)。
【0068】
一方、難消化性デキストリンは、代表的な水溶性食物繊維であり、その溶液は粘性を示し、ラットにおける食後高血糖を下げる効果があることが報告されている(Wakabayashi S, Kishimoto Y, Matsuoka A. Effects of indigestible dextrin on glucose tolerance in rats. J Endocrinol. 1995; 144:533-538.)。
しかしながら、この難消化性デキストリンは、200mg/g dietとなるようにカイコの餌に加えても、ショ糖摂取後の血糖値の上昇は抑制されなかった(図2B)。
【0069】
以上の結果は、納豆の水溶性粘性画分(成分)には、ショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制する活性があり、それは、難消化性デキストリンより高いことを示唆している。
納豆から得られた水溶性粘性画分は、血糖値上昇抑制剤となり得ることが示唆され、また、上記結果は、給餌後1時間の結果であることから、血糖値スパイク抑制剤としての用途があることも示唆された。
【0070】
実施例3
<納豆の糖鎖成分には、ショ糖摂取後の血液中のグルコース濃度の上昇を抑制する効果や、ショ糖摂取後の血糖値スパイクを抑制する効果があることの証明>
実施例1のようにして納豆から得た水溶性粘性画分に対して、DNase、RNase、proteinse K処理、及び、フェノール処理を行い、酵素処理多糖画分、すなわち納豆中の糖鎖成分を得た。
具体的には、エタノール沈殿画分に、DNaseI(1000unit/mL;Promega)、及び、RNaseA(10μg/mL;NIPPON GENE CO.,LTD.)を添加して、37℃で24時間インキュベーションし、更に、Proteinase Kを加え、37℃で24時間インキュベーションした後、等体積のフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(50:49:1)を加え、懸濁後、遠心し、上層画分に2倍量のエタノールを加え、生じた沈殿を遠心により集め乾燥させ、酵素処理多糖画分とした。
【0071】
この酵素処理多糖画分(納豆中の糖鎖成分)の乾燥重量1g当たりに含まれる、糖、DNA、RNA及びタンパク質の量を定量した結果、表1の通りであり、糖の含有量は32質量%であるのに対し、DNA、RNA及びタンパク質の量は、何れも1質量%以下であった(表1参照)。
【0072】
【表1】
【0073】
納豆の水溶性粘性画分(Non-treated Natto #4、50mg/g diet)、DNase、RNase、proteinse K処理、及び、フェノール処理を行った酵素処理多糖画分(納豆中の糖鎖成分)(Enzyme-treated Natto #4、50mg/g diet)、及び、アカルボース(40mg/g diet)を、それぞれ10質量%ショ糖含有餌に混合した。
【0074】
各試料を混合した餌、又は、混合しなかった餌(Control)をカイコに食べさせ、1時間後の体液中のグルコース濃度を測定した。
【0075】
結果を図3に示す。
n=5-10/group、統計学的有意差検定は、Student’s t-testを用いて行った。図3中の棒線は、各試料の平均値を示す。
「*」を付したデータは、P<0.05である。
【0076】
<<結果>>
酵素処理多糖画分(納豆中の糖鎖成分)を、ショ糖を含有する餌に加えると、実施例1及び実施例2で得られた、水溶性粘性画分の結果と同様に、カイコの血糖値の上昇が抑制された(図3)。
以上の結果は、納豆の多糖成分が、ショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制する活性を有することを示唆している。
納豆に含まれる多糖成分は、血糖値上昇抑制剤となり得ることが示唆され、また、上記結果は、給餌後1時間の結果であることから、血糖値スパイク抑制剤としての用途があることも示唆された。
【0077】
実施例4
<納豆の水溶性粘性画分に、グルコースの取り込み(輸送)を阻害する活性があることの証明>
納豆の水溶性粘性画分#4(50mg/g diet)を、10質量%ショ糖含有餌、又は、10質量%グルコース含有餌に混合した。
試料を混合した餌、又は、混合しなかった餌(Control)をカイコに食べさせ、1時間後の体液中のグルコース濃度を測定した。
【0078】
結果を図4に示す。
n=6-7/group、統計学的有意差検定は、Student’s t-testを用いて行った。図4中の棒線は、各試料の平均値を示す。
「*」を付したデータは、P<0.05である。
【0079】
腸管内のショ糖は、α-グリコシダーゼにより、グルコースとフルクトースに分解され、腸管細胞に取り込まれる(Matsumoto Y, Ishii M, Sekimizu K. An in vivo invertebrate evaluation system for identifying substances that suppress sucrose-induced postprandial hyperglycemia. Scientific reports. 2016; 6:26354.)。
ヒトにおけるα-グリコシダーゼ阻害剤であるアカルボースやボグリボースでは、カイコにおいてもショ糖摂取後の血糖値の上昇を阻害するが、グルコース摂取による血糖値の上昇は抑制しないことが知られている(同上論文)。
【0080】
一方、図4から分かるように、納豆から得た水溶性粘性画分の餌への添加は、ショ糖及びグルコース何れの摂取後も、カイコの血糖値の上昇を抑制した。この結果は、納豆の水溶性粘性画分は、グルコースの輸送を阻害する活性を有することを示唆している。
納豆の水溶性粘性画分は、血糖値上昇抑制剤となり得ること、また、グルコースの取り込み(輸送)阻害剤となり得ることが示唆された。
【0081】
実施例5
<納豆の糖鎖成分に、グルコース取り込み阻害活性があることの証明>
既に、本願発明の発明者は、カイコにおけるグルコース摂取後の高血糖を抑制する乳酸菌、Enterococcus faecalis YM0831株が、ヒトの腸管由来であるCaco-2細胞のグルコース取り込みを阻害することを確認している。
Caco-2細胞における2-NBDGの取り込み系において、納豆の酵素処理多糖画分(納豆中の糖鎖成分)(Enzyme-treated Natto #4)を加えて、Caco-2細胞におけるグルコースの取り込みを蛍光測定によって定量した。
【0082】
具体的には、Caco-2細胞を用いたグルコース取り込み実験は、以下に示す方法に従って行った。
Caco-2細胞は、American Type Cell Collection (ATCC, Manassas, VA, USA)から分与された。Caco-2細胞は、10%FBS (Gibco, NY, USA)、1% penicillin/streptomycin (Gibco, NY, USA)を加えたDMEM (Gibco, NY, USA)培地中で、37℃、5%CO条件下にて培養した。
Caco-2細胞を、96ウェルプレート(Tissue culture testplate 96F: TPP, Switzerland)で単層になるまで培養し、更に血清を含まないDMEM培地中で24時間培養した。
【0083】
その後、培養液をNa buffer [10 mM HEPES (pH 7.4), 140 mM NaCl, 20 mg/ml BSA]に置換し、15分間培養した。更に、Na bufferに最終濃度50μM 2-deoxy-2-[(7-nitro-2, 1, 3-benzoxadiazol-4-yl)amino]-D-glucose (2-NBDG: Cayman Chemical, MI, USA)を加え、10分間インキュベーションした。その後、細胞を冷やしたPBSで2回洗浄し、細胞を蛍光顕微鏡で観察した。細胞の蛍光強度をImage J ver. 1.43u (National Institutes of Health, USA)で定量した。
【0084】
結果を図5に示す。
n=3/group、統計学的有意差検定は、Student’s t-testを用いて行った。図4中の棒線は、各試料の平均値を示す。
「*」を付したデータは、P<0.05 vs control、エラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
【0085】
図5に示すように、納豆の酵素処理多糖画分(納豆中の糖鎖成分)の添加により、ヒト腸管細胞であるCaco-2細胞のグルコース取り込みが阻害されることを見出した。
一方、難消化性デキストリンを添加しても、Caco-2細胞のグルコース取り込みは阻害されなかった(図5)。
以上の結果から、納豆の酵素処理多糖画分(納豆中の糖鎖成分)は、腸管細胞のグルコース取り込みを阻害する高い活性を有すると考えられる。
納豆の酵素処理多糖画分(納豆中の糖鎖成分)は、グルコース取り込み阻害剤となり得ることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の剤は、腸管からのグルコースの取り込みを阻害するので、血糖値スパイク抑制剤、食後高血糖抑制剤等の他、血糖値上昇抑制剤、糖尿病予防治療剤としても有用なので、健康食品分野、医薬品分野、食品業界等で広く利用可能である。

図1
図2
図3
図4
図5