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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】冷延鋼板および鋼製部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230814BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230814BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230814BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20230814BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20230814BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/00 301Z
C22C38/38
C22C38/60
C21D9/00 A
C21D9/46 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022566305
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2022023539
(87)【国際公開番号】W WO2022264947
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2021102029
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317003143
【氏名又は名称】株式会社特殊金属エクセル
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】土屋 栄司
(72)【発明者】
【氏名】松村 雄太
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 修平
(72)【発明者】
【氏名】小島 真由美
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康広
(72)【発明者】
【氏名】船川 義正
(72)【発明者】
【氏名】木戸 章雅
(72)【発明者】
【氏名】木村 英之
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/090472(WO,A1)
【文献】特開2017-190494(JP,A)
【文献】特開2015-190036(JP,A)
【文献】特開2010-138453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/00
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C: 0.6~1.25%、
Si:0.10~0.55%、
Mn:0.20~2.0%、
P :0.0005~0.05%、
S :0.03%以下、
Al:0.001~0.1%、
N :0.001~0.009%、
Cr:0.1~1.0%、ならびに
Ti:0.01~1.0%、Nb:0.05~0.5%、およびV:0.01~1.0%の1または2以上を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライト粒内に存在する、Nb、Ti、Vの少なくとも1つを含む炭化物の平均粒径が0.10μm以上、かつ、
前記炭化物のうち、粒径が0.10μm以上であるものの個数密度が100個/mm以上である冷延鋼板。
【請求項2】
前記成分組成が、質量%で、
Sb:0.1%以下、
Hf:0.5%以下、
REM:0.1%以下、
Cu:0.5%以下、
Ni:3.0%以下、
Sn:0.5%以下、
Mo:1%以下、
Zr:0.5%以下、
B :0.005%以下、および
W :0.01%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含む、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷延鋼板を焼入れ・焼戻し処理してなる鋼製部品。
【請求項4】
前記鋼製部品が、繊維機械用部品、軸受け部品、および刃物のいずれかである、請求項3に記載の鋼製部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷延鋼板に関し、特に、靱性に優れた鋼製部品を製造することができる冷延鋼板に関する。また、本発明は前記冷延鋼板を用いた鋼製部品、前記冷延鋼板の製造方法、および前記鋼製部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板は、様々な鋼製部品を製造するための素材として幅広く用いられている。中でも、高炭素鋼からなる冷延鋼板は、高い硬度を有しているため、繊維機械用部品、軸受け部品、機械用・家庭用刃物をはじめとする耐摩耗性が求められる用途に用いられている。
【0003】
一方で、繊維機械用部品、軸受け部品、機械用・家庭用刃物などの鋼製部品は、使用時に、往復運動による衝撃を繰返し受ける。そのため、鋼製部品には、往復運動による衝撃による破損を防止するため、靱性に優れることも求められる。
【0004】
しかし、金属材料は硬度が高くなるほど脆化するため、硬度と靱性を両立させることは困難である。例えば、鋼製部品の靱性を向上させるために、焼入れ・焼戻しを施すことが一般的に行われているが、焼入れ・焼戻しを行うことによって鋼材の硬度が低下するため、従来の焼入れ・焼戻し処理では硬度と靱性を高い水準で両立させることができない。
【0005】
そこで、硬度と靱性を両立させるための様々な方法が提案されている。
【0006】
たとえば、特許文献1、2では、Nb添加による結晶粒微細化効果を利用して高炭素冷延鋼板の靭性を改善する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3では、フェライト相からなるマトリックス中に粗大なNb含有炭化物を高密度に分散させることにより冷延鋼板の耐摩耗性を向上させるとともに、Nb添加による結晶粒微細化効果を利用して靱性を向上させる技術が提案されている。
【0008】
特許文献4では、マトリックス中に粗大なNb・Ti系炭化物を高密度に分散させるとともに、ボイドの個数密度を低減することで、冷延鋼板の耐摩耗性と靱性を向上させる技術が提案されている。
【0009】
特許文献5では、0.5~0.7質量%の炭素を含む鋼板に対して、最終的な焼入れ・焼戻しの前に焼鈍を行うことによりセメンタイトなどの炭化物の球状化率を向上させ、その結果として靭性を向上させる技術が提案されている。
【0010】
特許文献6では、最終的な焼入れ・焼戻しの調質を行う直前の段階において、焼鈍仕上の状態にすることで、素材に含まれる生成ボイドの個数密度を上昇させ、打抜き性に優れた軟質高炭素鋼板を生成する技術が提案されている。
【0011】
特許文献7では、高炭素鋼板において、ニオブ、チタン、バナジウム炭化物は含まない、セメンタイト炭化物の生成を制御し、セメンタイト炭化物の球状化率、個数密度を所望の数値とすることで、衝撃靭性と耐摩耗性を向上する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平05-345952号公報
【文献】特開2017-036492号公報
【文献】特開2015-190036号公報
【文献】特開2017-190494号公報
【文献】特開2009-024233号公報
【文献】特開2011-012316号公報
【文献】特許第6880245号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1、2で提案されている技術では、Nb添加による結晶粒微細化効果を利用することにより、高炭素冷延鋼板の靭性を向上させている。しかし、Nbの結晶粒微細化効果はNb含有量が0.1質量%程度で飽和するため、結晶粒微細化効果のみでは必要な靭性を得ることができない。
【0014】
また、特許文献3で提案されている技術においても、Nb添加による結晶粒微細化効果を利用して靱性を向上させている。しかし、特許文献3では、耐摩耗性向上のためにNb含有炭化物を利用しており、Nb含有炭化物は靭性を低下させる要因となる。そのため、Nb添加の効果とNb含有炭化物の効果が打ち消し合うことになり、必要な靭性が得られない。
【0015】
特許文献3と同様に、特許文献4で提案されている技術においても、硬質なNb・Ti系炭化物を高密度に分散させることによる耐摩耗性向上効果を利用している。しかし、Nb・Ti系炭化物を高密度に分散させた場合、冷間圧延時にマトリックスと炭化物の間にボイドが生じ、その結果、靭性が低下する。そこで特許文献4では、冷間圧延における圧延率を制限することにより、ボイドの発生を抑制している。しかし、この方法では、圧延率が制限されるため、必然的に製造可能な冷延鋼板の板厚や機械的特性も制限されることになり、本質的な解決手段とはいえない。
【0016】
また、特許文献5~7で提案されている技術においても、依然として靭性が十分では無かった。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、Nbなどの炭化物を用いて硬度を向上させた冷延鋼板において、さらに優れた靭性を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するための方法について検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0019】
(1)冷延鋼板におけるNb・Ti・V系炭化物のサイズと密度を適切に制御することにより、該冷延鋼板に焼入れ・焼戻しを施した後の靱性を効果的に向上させることができる。そしてその結果、硬度と靱性を高い水準で兼ね備えた鋼製部品の製造が可能となる。
【0020】
(2)使用する鋼スラブの成分組成と、冷延鋼板の製造条件を適切に制御することにより、冷延鋼板におけるNb・Ti・V系炭化物のサイズと密度を適切に制御することができる。
【0021】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0022】
1.質量%で、
C: 0.6~1.25%、
Si:0.10~0.55%、
Mn:0.20~2.0%、
P :0.0005~0.05%、
S :0.03以下、
Al:0.001~0.1%、
N :0.001~0.009%、
Cr:0.1~1.0%、ならびに
Ti:0.01~1.0%、Nb:0.05~0.5%、およびV:0.01~1.0%の1または2以上を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライト粒内に存在する、Nb、Ti、Vの少なくとも1つを含む炭化物の平均粒径が0.1μm以上、かつ、
前記炭化物のうち、粒径が0.1μm以上であるものの個数密度が100個/mm以上である冷延鋼板。
【0023】
2.前記成分組成が、質量%で、
Sb:0.1%以下、
Hf:0.5%以下、
REM:0.1%以下、
Cu:0.5%以下、
Ni:3.0%以下、
Sn:0.5%以下、
Mo:1%以下、
Zr:0.5%以下、
B :0.005%以下、および
W :0.01%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含む、上記1に記載の冷延鋼板。
【0024】
3.上記1または2に記載の冷延鋼板を焼入れ・焼戻し処理してなる鋼製部品。
【0025】
4.前記鋼製部品が、繊維機械用部品、軸受け部品、および刃物のいずれかである、上記3に記載の鋼製部品。
【0026】
5.上記1または2に記載の成分組成を有する鋼スラブを加熱し、
加熱された前記鋼スラブを、仕上圧延入側温度:Ac3点以上の条件で熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板を、前記熱間圧延終了から冷却開始までの時間:2秒以下、平均冷却速度:25℃/s以上、冷却停止温度:720℃以下の条件で冷却し、
冷却された前記熱延鋼板を巻取り、
前記巻取後の熱延鋼板に、焼鈍温度:650℃以上、780℃以下、焼鈍時間:3時間以上の条件での第1の焼鈍を施し、
前記第1の焼鈍後の熱延鋼板に、圧延率:15%以上での冷間圧延と、焼鈍温度:600~800℃での第2の焼鈍とを、2回以上繰返し施し、その後、さらに圧延率20%以上での最終冷間圧延を施す、冷延鋼板の製造方法。
【0027】
6.前記第2の焼鈍における昇温速度が50℃/h以上である、上記5に記載の冷延鋼板の製造方法。
【0028】
7.上記5または6に記載の製造方法で製造された冷延鋼板を、焼入温度:700℃以上800℃以下、保持時間:1分以上、60分未満の条件で焼入れし、次いで、焼戻温度:150~300℃、保持時間:20分以上、3時間以下の条件で焼戻しする、鋼製部品の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、Nbなどの炭化物を用いて硬度を向上させた冷延鋼板において、さらに優れた焼入れ・焼戻し後の靭性を得ることができる。そのため、本発明の冷延鋼板は、繊維機械用部品、軸受け部品、機械用・家庭用刃物をはじめとする各種鋼製部品の素材として極めて好適に用いることができる。また、本発明によれば、前記冷延鋼板を用いた鋼製部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。また、本発明では、フェライト粒内に存在する、Nb、Ti、Vの少なくとも1つを含む炭化物に着目する。そのため、以下の説明においては、「フェライト粒内に存在する、Nb、Ti、Vの少なくとも1つを含む炭化物」のことを単に「炭化物」と言う場合がある。
【0031】
[成分組成]
本発明の冷延鋼板は、上述した成分組成を有する。以下、その限定理由について説明する。なお、以下の説明において、含有量の単位としての「%」はとくに断らない限り「質量%」を指すものとする。
【0032】
C:0.6~1.25%
Cは、焼入れ・焼戻し後の硬度を向上するために必要な元素である。また、Cは、セメンタイト、Nb、Ti、V等の元素と炭化物を生成するために必要な元素でもある。必要な炭化物を生成し、焼入れ・焼戻し後の強度を得るためには、C含有量を0.6%以上とする必要がある。そのため、C含有量は0.6%以上、好ましくは0.7%以上とする。一方、C含有量が1.25%を超えると、過剰に硬さが上昇し脆化する。また、C含有量が1.25%を超えると、加熱時の表面スケールが強固になる結果、表面性状が劣化する。そのため、C含有量は1.25%以下、好ましくは1.20%以下とする。
【0033】
Si:0.10~0.55%
Siは、固溶強化により強度を上げる効果を有する元素である。前記効果を得るために、Si含有量を0.10%以上、好ましくは0.12%以上、より好ましくは0.14%以上とする。一方、Si含有量が過剰であると、Si酸化物が生成し、靭性が低下する。一方、Si含有量が過剰であると、フェライトの生成と粒成長が促進されて炭化物の粒界への析出が促進され、粒内への炭化物の析出が抑制される。また、Siが過剰であると、加熱時の表面スケールが強固になる結果、表面性状が劣化する。そのため、Si含有量は0.55%以下、好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.45%以下とする。
【0034】
Mn:0.20~2.0%
Mnは、焼入れを促進するとともに焼戻し軟化を抑制することにより、硬度を向上させる作用を有する元素である。焼戻し軟化を抑制するためには、Cがセメンタイトとして生成することを抑制するか転位回復を遅らせる必要があるが、Mnはその両方の作用を有しており、Mnを添加することにより焼戻し後も転位密度の高い高硬度な組織を維持することができる。前記効果を得るために、Mn含有量を0.20%以上、好ましくは0.25%以上とする。一方、Mn含有量が2.0%を超えると、Mnが偏析することによりバンド状の組織が生成する。特に、MnSの偏析部では異常な粒成長や組織の不均質が生じやすく、フェライト粒界への局所的な析出が生じるため粒内の炭化物生成が抑制される。また、加工時の割れおよび形状不良の原因となる。そのため、Mn含有量は2.0%以下、好ましくは1.95%以下とする。
【0035】
P:0.0005~0.05%
Pを微量添加することで、固溶強化による強度向上効果が得られる。前記効果を得るために、P含有量を0.0005%以上、好ましくは0.0008%以上とする。一方、P含有量が0.05%を超えると、粒界脆化により靭性が低下する。そのため、P含有量は0.05%以下、好ましくは0.045%以下とする。
【0036】
S:0.03%以下
Sは、Mnと硫化物を形成することにより靭性を低下させる。そのため、S含有量は0.03%以下、好ましくは0.02%以下とする。一方、靱性向上の観点からは、S含有量は低ければ低いほどよいため、S含有量の下限はとくに限定されず、0%であってよい。しかし、過度の低減は製造コストの増加を招くため、工業的生産の観点からは、S含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.001%以上とすることがより好ましい。
【0037】
Al:0.001~0.1%
Alは、製鋼時の脱酸のために必要な元素である。そのため、Al含有量は0.001%以上とする。一方、Alが過剰であると窒化物が形成され、前記窒化物を起点とした割れやボイドの形成が促進される結果、靭性が低下する。そのため、Al含有量は0.1%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.06%以下とする。
【0038】
N:0.001~0.009%
窒素は、微細な窒化物形成により、粒径を微細化し靭性を向上する元素である。そのため、N含有量は0.001%以上とする。一方、Nが過剰であるとAlと結合して窒化物が形成され、前記窒化物を起点とした割れやボイドの形成が促進される結果、靭性が低下する。そのため、N含有量は0.009%以下、好ましくは0.008%以下とする。
【0039】
Cr:0.1~1.0%
Crは鋼の焼入れ性を高め、強度を向上させる元素である。前記効果を得るために、Cr含有量は0.1%以上、好ましくは0.12%以上とする。一方、Crが過剰であると粗大なCr炭化物およびCr窒化物が形成され、前記Cr炭化物およびCr窒化物の周囲でボイドが発生する結果、靭性が低下する。そのため、Cr含有量は1.0%以下、好ましくは0.95%以下とする。
【0040】
上記成分組成は、Ti:0.01~1.0%、Nb:0.05~0.5%、およびV:0.01~1.0%から選択される1または2以上を含有する。所望の炭化物の個数密度を得るためには、Ti、Nb、およびVの少なくとも1つを前記の量で添加する必要がある。
【0041】
Ti:0.01~1.0%
Tiは、炭化物を粒内に形成し、靭性を向上させる効果を有する元素である。Tiを添加する場合、前記効果を得るために、Ti含有量を0.01%以上、好ましくは0.015%以上とする。一方、Tiを過剰に添加すると、オーステナイト化温度が高くなるため、熱間圧延時の温度低下によって鋼板の表面にフェライトが生成しやすくなる。表面に生成したフェライトはその後の冷延および焼鈍を経た後も残存し、粒界への炭化物生成が優先される結果、粒内の炭化物生成が抑制される。そのため、Ti含有量は1.0%以下、好ましくは0.9%以下とする。
【0042】
Nb:0.05~0.5%
Nbは、炭化物を粒内に形成し、靭性を向上させる効果を有する元素である。また、Nbは結晶粒微細化にも効果が大きい元素である。Nbを添加する場合、前記効果を得るために、Nb含有量を0.05%以上とする。一方、Nbを過剰に添加すると粒界に炭化物が生成するとともに、粒内に生成する炭化物の個数密度が減少する。粒界に生成した炭化物はボイドや割れの起点になることから靭性が低下する。そのため、Nb含有量は0.5%以下、好ましくは0.45%以下とする。
【0043】
V:0.01~1.0%
Vは、炭化物を粒内に形成し、靭性を向上させる効果を有する元素である。また、Vは焼入れ性を向上させる効果も有しており鋼の強度を向上させる。また、焼戻し軟化を抑制するためには、Cがセメンタイトとして生成することを抑制するか転位回復を遅らせる必要があるが、Vはその両方の作用を有しており、Vを添加することにより焼戻し後も加工組織を維持することができ、靭性が向上する。Vを添加する場合、前記効果を得るために、V含有量を0.01%以上とする。一方、Vを過剰に添加すると粒界に生成する炭化物が粗大化し、粒界に生成した炭化物がボイドや割れの起点になることから靭性が低下する。そのため、V含有量は1.0%以下、好ましくは0.95%以下とする。
【0044】
本発明の一実施形態における冷延鋼板は、以上の成分と、残部のFeおよび不可避的不純物とからなる成分組成を有する。
【0045】
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成は、任意に、Sb:0.1%以下、Hf:0.5%以下、REM:0.1%以下、Cu:0.5%以下、Ni:3.0%以下、Sn:0.5%以下、Mo:1%以下、Zr:0.5%以下、B:0.005%以下、およびW:0.01%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有することができる。
【0046】
Sb:0.1%以下
Sbは、耐食性向上に有効な元素であるが、過剰に添加すると熱間圧延で生成するスケール下に富Sb層を生成し、熱間圧延後に鋼板の表面へげ(キズ)を発生させる。そのため、Sb含有量は0.1%以下とする。一方、Sb含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Sb含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
【0047】
Hf:0.5%以下
Hfは、耐食性向上に有効な元素であるが、過剰に添加すると熱間圧延で生成するスケール下に富Hf層を生成し、熱間圧延後に鋼板の表面へげ(キズ)を発生させる。そのため、Hf含有量は0.5%以下とする。一方、Hf含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Hf含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0048】
REM:0.1%以下
REM(希土類金属)は、鋼の強度を向上させる元素である。しかし、REMを過剰に添加するとセメンタイトの球状化を遅延させ、冷間加工の際に不均質な変形を助長して表面性状を劣化させることがある。そのため、REM含有量は0.1%以下とする。一方、REM含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、REM含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
【0049】
Cu:0.5%以下
Cuは、耐食性向上に有効な元素であるが、過剰に添加すると熱間圧延で生成するスケール下に富Cu層を生成し、熱間圧延後に鋼板の表面へげ(キズ)を発生させる。そのため、Cu添加量は0.5%以下とする。一方、Cu含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0050】
Ni:3.0%以下
Niは鋼の強度を向上させる元素である。しかし、過剰に添加すると冷間加工の際に不均質な変形を助長して表面性状を劣化させることがある。そのため、Ni含有量は3.0%以下とする。一方、Ni含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0051】
Sn:0.5%以下
Snは、耐食性向上に有効な元素であるが、過剰に添加すると熱間圧延で生成するスケール下に富Sn層を生成し、熱間圧延後に鋼板の表面へげ(キズ)を発生させる。そのため、Sn含有量は0.5%以下とする。一方、Sn含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Sn含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
【0052】
Mo:1%以下
Moは鋼の強度を向上させる元素である。しかし、過剰に添加するとセメンタイトの球状化を遅延させ、冷間加工の際に不均質な変形を助長して表面性状を劣化させることがある。そのため、Mo含有量は1%以下とする。一方、Mo含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Mo含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0053】
Zr:0.5%以下
Zrは、耐食性向上に有効な元素であるが、過剰に添加すると熱間圧延で生成するスケール下に富Zn層を生成し、熱間圧延後に鋼板の表面へげ(キズ)を発生させる。そのため、Zr含有量は0.5%以下とする。一方、Zr含有量の下限はとくに限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Zr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0054】
B:0.005%以下
Bは、焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。しかし、B含有量が0.005%を超えると、焼入れの際に表面に割れが生じやすくなる。そのため、B含有量は0.005%以下とする。一方、B含有量の下限は特に限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Bを添加する場合、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
【0055】
W:0.01%以下
Wは、焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。しかし、W含有量が0.01%を超えると、焼入れの際に表面に割れが生じやすくなる。そのため、W含有量は0.01%以下とする。一方、W含有量の下限は特に限定されないが、添加効果を高めるという観点からは、Wを添加する場合、W含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0056】
[炭化物]
次に、本発明の冷延鋼板に含まれる炭化物について説明する。
【0057】
平均粒径:0.10μm以上
個数密度:100個/mm以上
部品加工を開始する前工程における冷間圧延前の段階であらかじめNb、Ti、V系炭化物が粒内に生成している組織を作っておき、その後、冷間圧延を施した際に生成する加工組織を経て、その後の焼入れ・焼戻し処理を施すと、一部、微細なNb、Ti、V系炭化物が亜粒界に再析出する。この組織によって、繰り返し変形によって導入されるひずみに対する抵抗力が増し、最終製品の靱性が向上する。この効果を得るためには、フェライト粒内に存在する、Nb、Ti、Vの少なくとも1つを含む炭化物の平均粒径を0.10μm以上とする必要がある。同様の理由から、前記炭化物のうち、粒径が0.10μm以上であるものの個数密度を100個/mm以上とする必要がある。
【0058】
炭化物の平均粒径が0.10μm未満であると、焼入れ・焼戻し処理後に析出する微細なNb,TI,V炭化物量が不十分で高い靭性向上効果が得られない。また、炭化物の個数密度が、100個/mm未満であると、平均粒径の場合と同様に、焼入れ・焼戻し処理後に析出する微細なNb,TI,V炭化物量が不十分で高い靭性向上効果が得られない。
【0059】
[板厚]
前記冷延鋼板の板厚はとくに限定されず、任意の厚さとすることができるが、0.1mm以上とすることが好ましく、0.2mm以上とすることがより好ましい。また、板厚の上限についてもとくに限定されないが、2.5mm以下とすることが好ましく、1.6mm以下とすることがより好ましく、0.8mm以下とすることがさらに好ましい。板厚が0.2mm以上、0.8mm以下である場合には、メリヤス針などの繊維機械部品用の素材としてとくに好適に用いることができる。
【0060】
[冷延鋼板の製造方法]
次に、本発明の一実施形態における冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0061】
前記冷延鋼板は、上記成分組成を有する鋼スラブに対して、以下の工程を順次施すことにより製造することができる。
(1)加熱
(2)熱間圧延
(3)冷却
(4)巻取り
(5)第1の焼鈍
(6)冷間圧延
(7)第2の焼鈍
(8)最終冷間圧延
そして、上記(6)および(7)の工程は、2回以上繰り返す。以下、各工程について説明する。
【0062】
(1)加熱
まず、上述した成分組成を有する鋼スラブを加熱する。前記鋼スラブは、特に限定されることなく任意の方法で製造することができる。例えば、前記鋼スラブの成分調整は、高炉転炉法で行ってもよく、電炉法で行ってもよい。また、溶鋼からスラブへの鋳造は、連続鋳造法で行ってもよく、分塊圧延で行ってもよい。
【0063】
前記加熱は任意の方法で行うことができるが、加熱炉を用いて行うことが好ましい。
【0064】
加熱炉を用いて前記加熱を行う場合、加熱炉の炉内温度はとくに限定されないが、鋼成分を均質化し、鋼スラブ中の偏析および未固溶炭化物を溶解させるという観点からは、1100℃以上とすることが好ましい。
【0065】
前記加熱における保持時間はとくに限定されないが、未固溶炭化物を十分に溶解させるという観点からは、保持時間を1時間以上とすることが好ましい。
【0066】
(2)熱間圧延
次いで、加熱された前記鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする。前記熱間圧延においては、常法にしたがい、粗圧延と仕上圧延とを行うことができる。
【0067】
仕上圧延入側温度:Ac3点以上
前記熱間圧延における仕上圧延入側温度がAc3点未満であると、熱延後の鋼板中に展伸したフェライトが生成し、この展伸したフェライトが最終的に得られる冷延鋼板にも残留する。その結果、粒界炭化物の生成が促進され、粒内炭化物の生成は抑制されることから、靭性が低下する。そのため、前記熱間圧延における仕上圧延入側温度はAc3点以上とする。一方、前記仕上圧延入側温度の上限は特に限定されないが、1200℃以下とすることが好ましい。
【0068】
なお、前記Ac3点(℃)は、下記(1)式で求められる。
Ac3(℃) = 910 - (203 * C1/2) + (44.7 × Si) - (30 × Mn) - (11 × Cr) + (400 × Ti) + (460 × Al) + (700 × P) +(104 × V) + 38 …(1)
ここで、上記(1)式における元素記号は、各元素の含有量(質量%)を指し、当該元素が含まれていない場合にはゼロとする。
【0069】
(3)冷却
熱間圧延終了から冷却開始までの時間:2秒以下
次に、前記熱延鋼板を冷却する。その際、熱間圧延終了から冷却開始までに長時間経過すると、粗大なフェライトが生成し、Ti、Nb、およびVの少なくとも1つを含む炭化物が粒界に不均質に析出する。この不均質な組織は、後の冷延・焼鈍において均質化することがなく、粒内における炭化物生成の妨げとなる。そのため、前記熱間圧延終了から冷却開始までの時間を2秒以下とする。一方、上記の観点からは、前記熱間圧延終了から冷却開始までの時間は短ければ短いほどよいため、下限は特に限定されない。しかし、工業的な生産の観点からは、0.5秒以上であってよく、0.8秒以上であってもよい。
【0070】
平均冷却速度:25℃/s以上
前記冷却における平均冷却速度が25℃/s未満であると、フェライト粒が粗大化し、生成する炭化物が局在化するため、その後の冷間圧延と焼鈍を繰り返した際に、粒界への炭化物生成が集中し粒内炭化物の生成が抑制される。そのため、平均冷却速度は25℃/s以上とする。一方、平均冷却速度の上限はとくに限定されないが、過度に冷却速度が高いと、その後の巻取時の変態による体積膨張により巻取形状が不良となる。そのため、巻取形状を良好とする観点からは、平均冷却速度を160℃/s以下とすることが好ましく、150℃/s以下とすることがより好ましい。
【0071】
冷却停止温度:720℃
また、前記冷却における冷却停止温度が高すぎても、同様にフェライト粒が粗大化するため、冷間圧延と焼鈍を繰り返した際に、粒内への炭化物生成が抑制される。そのため、冷却停止温度は720℃以下とする。一方、冷却停止温度の下限はとくに限定されないが、過度に冷却停止温度が低いと、その後の巻取時の変態による体積膨張により巻取形状が不良となる。そのため、冷却停止温度を620℃以上とすることが好ましく、640℃以上とすることがより好ましい。
【0072】
(4)巻取り
前記冷却を停止した後に、冷却された前記熱延鋼板をコイル状に巻取る。その際、巻取り温度はとくに限定されないが、600~730℃とすることが好ましい。この温度とすることで板状のセメンタイトを析出させることでコイルの巻取形状が安定する。
【0073】
(5)第1の焼鈍
焼鈍温度:650℃以上、780℃以下
焼鈍時間:3時間以上
前記巻取後の熱延鋼板に、焼鈍温度:650℃以上、780℃以下、焼鈍時間:3時間以上の条件での第1の焼鈍を施す。巻取後の熱延鋼板の組織は、板状に生成した炭化物とフェライトが並んだパーライト組織である。パーライト組織は安定であるため、高温で長時間保持を行わないと均質化しない。パーライト組織を崩し、その後の冷間圧延と焼鈍プロセスで粒内に所望の炭化物を生成させるためには、焼鈍温度を650℃以上、焼鈍時間を3時間以上とする必要がある。一方、焼鈍温度が780℃より高いと、一部分から優先的に相変態が開始するため、局所的に粗大な組織となり、不均一な組織となることから粒内炭化物が得られにくく、所望の炭化物個数密度が得られない。前記焼鈍時間の上限は特に限定されないが、過度に長いと生産性が低下することにく加え、効果も飽和する。そのため、20時間以下とすることが好ましい。
【0074】
なお、第1の焼鈍に先だって、熱延鋼板を酸洗することも好ましい。
【0075】
(6)冷間圧延
(7)第2の焼鈍
熱間圧延後の鋼板には板状の炭化物が生成している。この板状の炭化物は安定であるため、後々まで残存しやすく、最終的に残った板状の炭化物はボイド生成および割れの原因となり、靭性を低下させる。そこで、板状の炭化物を粒子形状とし焼鈍による加熱によって再溶解させ、粒内へ炭化物を析出させるために、前記第1の焼鈍後の熱延鋼板に、冷間圧延と第2の焼鈍とを、2回以上繰返し施す。
【0076】
圧延率:15%以上
前記冷間圧延における圧延率が15%未満であると、粒界の炭化物が粗大化するため、粒内に生成する炭化物の個数密度が低下すると共に粒内炭化物の粒径が小さくなる。そのため、前記圧延率を15%以上とする。一方、前記圧下率の上限は特に限定されないが、70%以下とすることが好ましい。
【0077】
焼鈍温度:600~800℃
前記第2の焼鈍における焼鈍温度が800℃より高いと、粒界の炭化物が粗大化するため、粒内に生成する炭化物の個数密度が低下すると共に粒内炭化物の粒径が小さくなる。そのため、前記焼鈍温度を800℃以下とする。一方、前記焼鈍温度が600℃未満であると、粒内炭化物の生成が抑制され、所望の粒径が得られない。そのため、前記焼鈍温度を600℃以上とする。
【0078】
前記第2の焼鈍における昇温速度はとくに限定されないが、昇温速度が遅すぎると、フェライト粒界に炭化物が生成しやすくなるため、粒内の炭化物生成が抑制される。そのため、靱性向上効果をさらに高めるという観点からは、前記第2の焼鈍における昇温速度を50℃/hr以上とすることが好ましい。一方、前記昇温速度の上限についても特に限定されないが、200℃/s以下とすることが好ましい。
【0079】
前記冷間圧延と第2の焼鈍の繰返し回数は、2回以上とする。冷間圧延と焼鈍を2回以上繰り返すことにより、炭化物生成を促し、最終的に所望の粒内の炭化物サイズと個数密度とすることができる。前記繰返し回数の上限はとくに限定されないが、5回よりも多く繰り返しても効果が飽和するため、前記繰返し回数は5回以下とすることが好ましい。
【0080】
(8)最終冷間圧延
圧延率20%以上
上記のように冷間圧延と第2の焼鈍を2回以上繰り返した後、さらに圧延率20%以上での最終冷間圧延を施す。圧延率:20%以上で最終冷間圧延を行うことにより、焼入れ・焼戻しの際に粒内に所望の個数密度の炭化物が析出し、靭性が向上する。前記最終冷間圧延における圧延率は大きい方が良いが、65%以上であると鋼板の形状が不安定になる場合がある。そのため、前記圧延率は65%未満とすることが好ましい。
【0081】
以上の条件を満たすことで、焼入れ焼戻し後の靱性に優れる冷延鋼板を製造することができる。なお、最終的に得られた冷延鋼板に、さらに任意の表面処理を行ってもよい。
【0082】
[鋼製部品の製造方法]
また、本発明の一実施形態においては、上記製造方法で製造された冷延鋼板に、焼入れと焼戻しを施すことにより鋼製部品を製造することができる。前記焼入れ焼戻しの条件はとくに限定されないが、より高い靭性を得るためには、焼入温度:700℃以上900℃以下、保持時間:1分以上、60分未満の条件で焼入れし、次いで、焼戻温度:150~400℃、保持時間:20分以上、3時間以下の条件で焼戻しすることが好ましい。前記焼入温度は、750℃以上850℃以下とすることがより好ましい。また、前記焼戻温度は、200~300℃とすることがより好ましい。
【0083】
前記焼入れにおける冷却は、とくに限定されず、任意の方法で行うことができる。前記冷却は、例えば、空冷、水焼入れ、油焼入れのいずれかであってよい。
【0084】
なお、前記焼入れ焼戻しに先だって、任意に加工を行って、冷延鋼板を所望の形状とすることもできる。
【実施例
【0085】
以下、本発明の作用効果を確認するために、以下に述べる手順で冷延鋼板を製造し、得られた冷延鋼板の、焼入れ・焼戻し後の靭性を評価した。
【0086】
まず、表1に示す成分組成を有する鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にて鋼スラブとした。次いで、前記鋼スラブに対して、加熱、熱間圧延、冷却、巻取り、第1の焼鈍、冷間圧延、第2の焼鈍、および最終冷間圧延を順次施して、最終板厚:約0.4mmの冷延鋼板とした。各工程は、表2、3に示す条件で実施し、冷間圧延および第2の焼鈍は表2、3に示した回数繰り返した。
【0087】
(炭化物の測定方法)
得られた冷延鋼板から組織観察用試験片を採取した。前記組織観察用試験片の圧延方向断面(L断面)を研磨した後、前記研磨面を、1~3vol%ナイタール液を用いて腐食させることにより組織を現出させた。次いで、前記組織観察用試験片の表面を、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて倍率3000倍にて撮像し組織画像を得た。得られた組織画像から、粒内に生成したNb、Ti、V系炭化物について切断法にて粒径を測定し、測定視野内の炭化物をカウントすることで個数密度を算出した。3視野の平均値を算出し、粒径と個数密度とした。測定結果を表4、5に示す。Nb、Ti、V系の炭化物の同定はSEM-EDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)分析を用いて行った。観察視野に対して、元素マッピングを行い、セメンタイトとそれ以外の炭化物に分離し、それ以外の炭化物をNb、Ti、V系炭化物とした。
【0088】
(焼入れ・焼戻し後の靱性)
次に、得られた冷延鋼板に焼入れ・焼戻しを施した後の靱性を評価するために、以下の手順で試験を行い、シャルピー衝撃試験における衝撃値を測定した。まず、得られた冷延鋼板に焼入れと焼戻しを施した。前記焼入れは、該冷延鋼板を、予め800℃に加熱した炉内で10分間保持した後、80℃に油焼入れすることにより行った。前記焼戻しは、焼入れされた冷延鋼板を、予め250℃に加熱した炉内で1時間保持した後、空冷することにより行った。
【0089】
その後、シャルピー衝撃試験を行って衝撃値を測定した。測定結果を表4、5に示す。前記シャルピー衝撃試験には、焼入れ・焼戻し後の冷延鋼板から採取した、ノッチ深さ2.5mm、ノッチ半径0.1mm(ノッチ幅0.2mm)の試験片を使用した。前記試験片のUノッチは放電加工で形成した。本発明では衝撃値が8J/cm以上である場合に焼入れ・焼戻し後の靱性が優れていると判断した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
表1~5に示した結果から分かるように、本発明の条件を満たす冷延鋼板は、焼入れ・焼戻し後の靱性に優れている。本発明によればNb・Ti・V系炭化物による高い硬度と、優れた靱性とを両立させることができるため、本発明の冷延鋼板を用いることにより、硬度と靱性を高い水準で兼ね備えた鋼製部品を製造することができる。そのため、本発明の冷延鋼板は、繊維機械用部品、軸受け部品、刃物など、各種鋼製部品の素材として極めて好適に用いることができる。