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特許7329786スプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】スプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 7/08 20060101AFI20230814BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230814BHJP
   H01L 21/312 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
B05B7/08
B05D3/00 D
B05D3/00 B
B05D3/00 F
H01L21/312 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019096857
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020189279
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】針貝 篤史
(72)【発明者】
【氏名】唐崎 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】置田 尚吾
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-060168(JP,A)
【文献】特開2010-058049(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0199824(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00 - 3/18
7/00 - 9/08
B05B12/00 -12/14
13/00 -13/06
B05C 7/00 -21/00
B05D 1/00 - 7/26
H01L21/301
21/312-21/32
21/47 -21/475
21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、沸点が水と同等あるいは水よりも高い溶剤と、を含む原料液を供給する第1供給部と、
常温で水よりも気化しやすく、前記原料液を希釈できる揮発性溶剤を供給する第2供給部と、
前記第1供給部と流体連通する第1流路、前記第2供給部と流体連通する第2流路、前記原料液を噴出する第1噴出孔、および前記揮発性溶剤を噴出する第2噴出孔を有するノズルと、
前記ノズルに対向して配置され、基板が載置されるステージと、
前記第1噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記原料液の流量を調整する第1流量調整部と、
前記第2噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整部と、
前記ノズルから噴出されて前記基板に堆積する前記原料液および前記揮発性溶剤を含む塗布膜の目標膜厚に応じて、前記塗布膜の目標膜厚が大きいほど、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を大きくするように、前記第1流量調整部および前記第2流量調整部の少なくとも一方を制御する制御部と、を備えたスプレー塗布装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記塗布膜の目標膜厚が大きいほど、前記原料液の流量(Fs)と前記揮発性溶剤の流量(Fv)との合計流量(s=Fv+Fs)を大きくする、請求項1に記載のスプレー塗布装置。
【請求項3】
樹脂と、沸点が水と同等あるいは水よりも高い溶剤と、を含む原料液を供給する第1供給部と、
常温で水よりも気化しやすく、前記原料液を希釈できる揮発性溶剤を供給する第2供給部と、
前記第1供給部と流体連通する第1流路、前記第2供給部と流体連通する第2流路、前記原料液を噴出する第1噴出孔、および前記揮発性溶剤を噴出する第2噴出孔を有するノズルと、
前記ノズルに対向して配置され、基板が載置されるステージと、
前記第1噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記原料液の流量を調整する第1流量調整部と、
前記第2噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整部と、
前記第1流量調整部および前記第2流量調整部の少なくとも一方を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記原料液および前記揮発性溶剤を前記ノズルから噴出させることにより前記基板上に前記原料液および前記揮発性溶剤を含む塗布膜を形成する塗布工程を複数回(N回、N:自然数)にわたって繰り返し行うように構成され、
最後(N回目)の前記塗布工程において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回(N-1回目)の前記塗布工程における流量比より小さくする、スプレー塗布装置。
【請求項4】
樹脂と、沸点が水と同等あるいは水よりも高い溶剤と、を含む原料液を供給する第1供給部と、
常温で水よりも気化しやすく、前記原料液を希釈できる揮発性溶剤を供給する第2供給部と、
前記第1供給部と流体連通する第1流路、前記第2供給部と流体連通する第2流路、前記原料液を噴出する第1噴出孔、および前記揮発性溶剤を噴出する第2噴出孔を有するノズルと、
前記ノズルに対向して配置され、基板が載置されるステージと、
前記第1噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記原料液の流量を調整する第1流量調整部と、
前記第2噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整部と、
前記第1流量調整部および前記第2流量調整部の少なくとも一方を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記原料液および前記揮発性溶剤を前記ノズルから噴出させることにより前記基板上に前記原料液および前記揮発性溶剤を含む塗布膜を形成する塗布工程を複数回(N回、N:自然数)にわたって繰り返し行うように構成され、
2回目以降の前記塗布工程(M回目、2≦M≦N)において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回(M-1回目)の前記塗布工程における流量比(r=Fv/Fs)より大きくすることにより、単位時間当たりに形成される前記塗布膜の厚みを徐々に小さくする、スプレー塗布装置。
【請求項5】
前記制御部は、
2回目以降の前記塗布工程(M回目、2≦M≦N)において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回の前記塗布工程(M-1回目)における流量比(r=Fv/Fs)より大きくすることにより、単位時間当たりに形成される前記塗布膜の厚みを徐々に小さくし、
最後(N回目)の前記塗布工程において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回(N-1回目)の前記塗布工程における流量比(r=Fv/Fs)より小さくする、請求項3に記載のスプレー塗布装置。
【請求項6】
前記第1流量調整部は、第1バルブ開度を調整することにより前記原料液の流量を調整する第1流量調整バルブを含み、
前記第2流量調整部は、第2バルブ開度を調整することにより前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整バルブを含み、
制御部は、前記第1バルブ開度を調整する第1アクチュエータおよび前記第2バルブ開度を調整する第2アクチュエータを制御する、請求項1~5のいずれか1項に記載のスプレー塗布装置。
【請求項7】
記樹脂が水溶性樹脂である、請求項1~6のいずれか1項に記載のスプレー塗布装置。
【請求項8】
樹脂と、沸点が水と同等あるいは水よりも高い溶剤と、を含む原料液、および常温で水よりも気化しやすい揮発性溶剤を準備する準備工程と、
ノズルの第1流路に供給される前記原料液の流量を調整する第1流量調整工程と、
前記ノズルの第2流路に供給される前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整工程と、
前記ノズルの前記第1流路に供給された前記原料液および前記ノズルの前記第2流路に供給された前記揮発性溶剤を、前記ノズルに対向して配置された基板に向かって噴出することにより、前記原料液および前記揮発性溶剤を混合させて基板上に塗布膜を形成する塗布工程と、を備え、
前記原料液の流量および前記揮発性溶剤の流量は、前記塗布膜の目標膜厚に応じて、前記塗布膜の目標膜厚が大きいほど、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を大きくするように調整される、樹脂膜の形成方法。
【請求項9】
前記塗布膜の目標膜厚が大きいほど、前記原料液の流量(Fs)と前記揮発性溶剤の流量(Fv)との合計流量(s=Fv+Fs)を大きくする、請求項に記載の樹脂膜の形成方法。
【請求項10】
樹脂と、沸点が水と同等あるいは水よりも高い溶剤と、を含む原料液、および常温で水よりも気化しやすい揮発性溶剤を準備する準備工程と、
ノズルの第1流路に供給される前記原料液の流量を調整する第1流量調整工程と、
前記ノズルの第2流路に供給される前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整工程と、
前記ノズルの前記第1流路に供給された前記原料液および前記ノズルの前記第2流路に供給された前記揮発性溶剤を、前記ノズルに対向して配置された基板に向かって噴出することにより、前記原料液および前記揮発性溶剤を混合させて基板上に塗布膜を形成する塗布工程と、を備え、
前記第1流量調整工程、前記第2流量調整工程、および前記塗布工程は、複数回(N回、N:自然数)反復して行われ、
最後(N回目)の前記塗布工程において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回(N-1回目)の前記塗布工程における流量比より小さくする、樹脂膜の形成方法。
【請求項11】
樹脂と、沸点が水と同等あるいは水よりも高い溶剤と、を含む原料液、および常温で水よりも気化しやすい揮発性溶剤を準備する準備工程と、
ノズルの第1流路に供給される前記原料液の流量を調整する第1流量調整工程と、
前記ノズルの第2流路に供給される前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整工程と、
前記ノズルの前記第1流路に供給された前記原料液および前記ノズルの前記第2流路に供給された前記揮発性溶剤を、前記ノズルに対向して配置された基板に向かって噴出することにより、前記原料液および前記揮発性溶剤を混合させて基板上に塗布膜を形成する塗布工程と、を備え、
前記第1流量調整工程、前記第2流量調整工程、および前記塗布工程は、複数回(N回、N:自然数)反復して行われ、
2回目以降の前記塗布工程(M回目、2≦M≦N)において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回(M-1回目)の前記塗布工程における流量比(r=Fv/Fs)より大きくすることにより、単位時間当たりに形成される前記塗布膜の厚みを徐々に小さくする、樹脂膜の形成方法。
【請求項12】
2回目以降の前記塗布工程(M回目、2≦M≦N)において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回の前記塗布工程(M-1回目)における流量比(r=Fv/Fs)より大きくすることにより、単位時間当たりに形成される前記塗布膜の厚みを徐々に小さくし、
最後(N回目)の前記塗布工程において、前記原料液の流量(Fs)に対する前記揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)を、前回(N-1回目)の前記塗布工程における流量比(r=Fv/Fs)より小さくする、
請求項10に記載の樹脂膜の形成方法。
【請求項13】
記樹脂が水溶性樹脂である、請求項8~12のいずれか一項に記載の樹脂膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法に関し、とりわけプラズマダイシングのマスクとして塗布される樹脂膜(保護膜)を塗布するためのスプレー塗布装置および水溶性樹脂膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板を素子チップにダイシング(個片化)する技術の一つとして、プラズマエッチングにより基板を素子チップに個片化するプラズマダイシング技術が知られている。プラズマダイシングされる基板の表面には、プラズマエッチングを行う前に、素子チップを被覆するとともに素子チップ間の分割領域を露出する開口を備えるマスクが形成される。特許文献1に記載のプラズマダイシングで用いられるマスクは、ダイシングされる基板上に水溶性ポリマーの水溶液をスピンコートすることにより塗布した後、例えばホットプレート上で乾燥することにより形成される。なかでも特許文献1には、塗布する工程が、ICの上面の上に水溶性ポリマーの水溶液をスピンコーティングする工程と、水溶液を乾燥させる工程を含む発明が記載されている(請求項7)。
【0003】
また特許文献2には、保持テープに保持された基板にレジストパターンを形成した後、基板をプラズマによりエッチングする素子チップの製造方法が提案され、レジストパターンは、レジスト成分と溶媒とを含むレジスト溶液をスプレー塗布することにより形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-523112号公報
【文献】特開2018-056178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スプレー塗布によりマスクを形成する場合、通常、あらかじめ樹脂成分と溶媒を所定の割合で混合(調合)した原料液が用いられる。ノズルから噴出された原料液は、ミストの状態で基板に到達し、塗布膜を形成する。この時、基板に到達したミストに含まれる溶媒は、その一部が塗布膜に一旦取り込まれ、その後塗布膜の表面から気化する。しかしながら、塗布速度が過度に速かったり、塗布膜の膜厚が大きくなると、塗布膜内部からの溶媒の気化が抑えられて溶媒が残留しやすくなり、塗布膜の耐プラズマ性が低下するという課題があった。そのため、塗布膜を形成した後で、耐プラズマ性を向上させるための乾燥工程が必要となったり、乾燥工程を省略するためにはマスクの厚みを薄くしたりする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によれば、形成される塗布膜の厚み(目標膜厚)に応じて、最適な流量比で噴出された原料液と揮発性溶剤とを基板に塗布することにより、塗布膜を安定した品質で形成することができるスプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法を提供することができる。
【0007】
具体的には、本発明に係る第1の態様は、スプレー塗布装置に関し、このスプレー塗布装置は、樹脂を含む原料液を供給する第1供給部と、揮発性溶剤を供給する第2供給部と、前記第1供給部と流体連通する第1流路、前記第2供給部と流体連通する第2流路、前記原料液を噴出する第1噴出孔、および前記揮発性溶剤を噴出する第2噴出孔を有するノズルと、前記ノズルに対向して配置され、基板が載置されるステージと、前記第1噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記原料液の流量を調整する第1流量調整部と、前記第2噴出孔から前記基板に向けて噴出する前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整部と、前記ノズルから噴出された噴霧状の前記原料液および前記揮発性溶剤で前記基板上に形成された塗布膜の目標膜厚に応じて、前記第1流量調整部および前記第2流量調整部の少なくとも一方を制御する制御部と、を備える。
【0008】
本発明に係る第2の態様は、樹脂膜の形成方法に関し、この樹脂膜の形成方法は、樹脂を含む原料液、および揮発性溶剤を準備する準備工程と、ノズルの第1流路に供給される前記原料液の流量を調整する第1流量調整工程と、前記ノズルの第2流路に供給される前記揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整工程と、前記ノズルの前記第1流路に供給された前記原料液および前記ノズルの前記第2流路に供給された前記揮発性溶剤を、前記ノズルに対向して配置された基板に向かって噴出することにより、噴霧状の前記原料液および前記揮発性溶剤を混合させて前記基板上に塗布膜を形成する塗布工程と、を備え、前記原料液の流量および前記揮発性溶剤の流量は、前記塗布膜の目標膜厚に応じて調整される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る樹脂膜の形成方法によれば、耐プラズマ性の良好な塗布膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】スプレー塗布装置の概略的構成を示すブロック図である。
図2】基板に塗布された塗布膜の目標膜厚と、原料液の流量に対する揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比との関係を示すグラフである。
図3】基板に形成された塗布膜の目標膜厚と、原料液の流量(Fs)と揮発性溶剤の流量(Fv)の合計流量との関係を示すグラフである。
図4】反復して行う各塗布工程において、ノズルから噴出される原料液および揮発性溶剤の最適な流量比を示すグラフである。
図5】反復して行う各塗布工程において、ノズルから噴出される原料液および揮発性溶剤の最適な流量比と、基板に形成される塗布膜の堆積速度を示すグラフである。
図6】反復して行う各塗布工程において、ノズルから噴出される原料液および揮発性溶剤の最適な流量比と、基板に形成される塗布膜の堆積速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るスプレー塗布装置1は、図1に示すように、樹脂を含む原料液を供給する第1供給部10と、揮発性溶剤を供給する第2供給部20と、第1供給部10と流体連通する第1流路12、第2供給部20と流体連通する第2流路22、原料液を噴出する第1噴出孔14、および揮発性溶剤を噴出する第2噴出孔24を有するノズル2と、ノズル2に対向して配置され、基板Sが載置されるステージ3と、第1噴出孔14から基板Sに向けて噴出する原料液の流量を調整する第1流量調整部16と、第2噴出孔24から基板に向けて噴出する揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整部26と、ノズル2から噴出された噴霧状の原料液および揮発性溶剤で基板Sに形成された塗布膜の目標膜厚に応じて、第1流量調整部16および第2流量調整部26の少なくとも一方を制御する制御部30と、を備える。
【0012】
本発明の実施形態に係るスプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法によれば、原料液および揮発性溶剤を、基板Sに塗布する直前に最適な組成比で噴出することにより、塗布膜の品質を安定化できる。
【0013】
具体的には、本発明の実施形態に係るスプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法によれば、塗布膜の目標膜厚に応じて最適な流量比で噴出された原料液と揮発性溶剤とを基板に塗布することにより、塗布膜の膜厚が大きくなっても塗布膜に残留する溶媒の量を抑制できるため、塗布膜の耐プラズマ性が低下しにくい。そのため、塗布膜を形成した後で、耐プラズマ性を向上させるための乾燥工程を省略できる。また、マスクの厚みを厚くしても耐プラズマ性が低下しにくい。
【0014】
また、基板の表面にバンプ等の凹凸がある場合、塗布膜に残留する溶媒の量によって塗布膜の流動性が変わり、塗布膜の段差被覆特性がばらつくことがあるが、本発明の実施形態に係るスプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法によれば、塗布膜に残留する溶媒の量を抑制できるため、段差被覆特性を安定化できる。
【0015】
また、本発明の実施形態に係るスプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法によれば、原料液および揮発性溶剤を、基板Sに塗布する直前に最適な組成比で噴出するため、あらかじめ原料液と揮発性溶剤が混合された薬液を用いる場合に比べ、溶媒が気化することによって粘度が経時変化してノズルからの噴霧が不安定になったり、塗布膜の品質がばらついたりするという不具合が起りにくく、安定した塗布が可能となる。
【0016】
特に、原料液が水溶性樹脂と不揮発性溶剤(例えば、水)を含む場合、原料液と揮発性溶剤との流量比を制御することにより、ノズルからの噴霧の安定化と塗布膜に残留する溶媒の量の抑制を両立しやすい。これにより、耐プラズマ性の良好な水溶性樹脂膜を、塗布後の加熱等による乾燥工程を行うことなく形成することが可能となる。基板を耐熱性に乏しい樹脂シートに保持した状態でマスク(保護膜)を形成するプラズマダイシングにおいて、マスクとしてこのような水溶性樹脂膜を用いることは有効である。
【0017】
好適には、第1流量調整部16は、第1バルブ開度を調整することにより原料液の流量を調整する第1流量調整バルブを含み、第2流量調整部26は、第2バルブ開度を調整することにより揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整バルブを含み(ともに図示せず)、制御部30は、第1バルブ開度を調整する第1アクチュエータおよび第2バルブ開度を調整する第2アクチュエータ(ともに図示せず)を制御するように構成される。
【0018】
添付図面を参照して、本発明の実施形態に係るスプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法を以下説明する。まず、スプレー塗布装置1の全体的構成について説明した後、スプレー塗布装置1の各構成部品について説明し、各構成部品の動作を含む樹脂膜の形成方法について以下説明する。
【0019】
[スプレー塗布装置の全体的構成]
図1は、スプレー塗布装置1の概略的構成を示すブロック図である。スプレー塗布装置1は、樹脂を含む原料液を貯蔵する原料液タンク10(第1供給部ともいう)、揮発性溶剤を貯蔵する溶剤タンク20(第2供給部ともいう)、および4流体ノズル2(以下、単に「ノズル2」ともいう。)を備える。また、スプレー塗布装置1は、原料液タンク10からノズル2に供給する原料液の流量を調整する第1流量調整部16、溶剤タンク20からノズル2に供給する揮発性溶剤の流量を調整する第2流量調整部26、圧縮空気をノズル2に供給するポンプ40、およびこれらの動作を制御する制御部30を備える。
【0020】
(第1供給部および第2供給部)
原料液タンク10(第1供給部)に貯蔵される原料液に含まれる樹脂は、樹脂膜を形成するものであれば、特に限定されるものではない。なかでも、水溶性を備え、比較的低粘度であり、高い耐熱性を有する点で、ポリスチレンスルホン酸、水溶性ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸をモノマーとする重合体あるいは共重合体、オキサゾール系ポリマー(例えば、2-エチル-4,5-ジヒドロキシ-オキサゾールをモノマーとする重合体あるいは共重合体)等が挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0021】
また原料液は水などの不揮発性溶剤を含んでもよい。不揮発性溶剤は、沸点が水と同等あるいは水よりも高く、原料液の流動性(粘性)を調整するものであれば、特に限定されるものではない。
【0022】
また溶剤タンク20(第2供給部)に貯蔵される揮発性溶剤は、常温で水よりも気化しやすく、原料液を希釈できるものであり、原料液と混合された際に流動性(粘性)を調整できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えばアセトンやイソプロピルアルコールであってもよい。
【0023】
(ノズル)
ノズル2は、原料液タンク10から原料液流量調整部(第1流量調整部ともいう)を介して流体連通する第1流路12、溶剤タンク20から溶剤流量調整部(第2流量調整部ともいう)を介して流体連通する第2流路22、およびポンプ40から空気流量調整部(第3流量調整部ともいう)を介して流体連通する周縁流路42を有する。またノズル2は、原料液を噴出する第1噴出孔14、および揮発性溶剤を噴出する第2噴出孔24を有する。
【0024】
ノズル2は、第1噴出孔14まで案内された原料液および第2噴出孔24まで案内された揮発性溶剤を、周縁流路42から噴出された高速の気流(圧縮した空気または窒素)によって、ノズルエッジ50(衝突焦点ともいう)で衝突させ、原料液と揮発性溶剤が微粒化して混合したミスト(噴霧液滴)を形成するように構成されている。またノズル2は、ノズルエッジ50に対向するように配置されたステージ3の上に載置された基板Sに向けて噴霧状の混合ミストを噴出する。すなわちノズル2は、原料液と揮発性溶剤を予め混合するものではなく、第1噴出孔14から基板Sに向けて噴出された原料液と、第2噴出孔24から基板Sに向けて噴出された揮発性溶剤とを高速気流によりノズルエッジ50で微粒化し混合して、基板Sに混合ミストを噴出するものである。
【0025】
ノズル2の構造は、図1に示すものに限定されず、第1流路12ならびに第2流路22および周縁流路42は、ノズルエッジ50を中心として同心円状に配置された環状開口を有するものであってもよい。また所望の拡散角(噴霧角)を得るために、ノズルエッジ50の長さを任意に調整してもよい。また、ノズル2の構造は、図1に示すものに限定されず、第1流路12と第2流路22がノズルの内部で合流するようになっており、原料液と揮発性溶剤がノズルの内部で混合されてから噴出されてもよい。
【0026】
(第1流量調整部および第2流量調整部)
第1流量調整部16および第2流量調整部26は、いわゆる流量調整弁であってもよく、第1バルブ開度および第2バルブ開度を調整することにより、独立したポンプ(図示せず)で加圧された原料液および揮発性溶剤の流量を調整するように構成されている。また第1流量調整部16および第2流量調整部26を構成する流量調整弁は、温度または圧力を補償する機能を有するものであってもよい。また第1バルブ開度および第2バルブ開度は、好適には、例えばピエゾ素子で構成された第1アクチュエータおよび第2アクチュエータによって自動的に調整することができる。
【0027】
(制御部)
制御部30は、第1流量調整部16の第1バルブ開度を調整する第1アクチュエータおよび第2流量調整部26の第2バルブ開度を調整する第2アクチュエータ(ともに図示せず)を制御して、ノズル2から噴出される原料液の流量(Fs)および揮発性溶剤の流量(Fv)を制御するように構成されている。また制御部30は、ノズル2の周縁流路42から噴出される高速の気流の流速を調整するようにポンプ40(および圧力レギュレータ44)の動作を制御する。さらに制御部30は、詳細を図示しないが、オペレータが塗布膜の目標膜厚を予め設定したり、原料液および揮発性溶剤の噴出を複数回にわたって繰り返し行うようにプログラムするための入力手段と、塗布膜の実際の膜厚を計測した値を表示したり、ポンプ40の圧力、第1バルブ開度、および第2バルブ開度をオペレータに表示する出力手段とを備える。入力手段は、オペレータが入力する上記以外の情報以外のものを入力することができ、同様に出力手段は、オペレータがスプレー塗布装置1の操作に関して判断するために必要な任意の情報を表示することができる。こうした入力手段および出力手段は、例えば汎用性の高いタッチパネル式のマン・マシン・インターフェイス(MMI)であってもよい。
【0028】
このように本実施形態に係るスプレー塗布装置1の制御部30は、ノズル2から噴出された原料液および揮発性溶剤で基板上に形成された塗布膜の目標膜厚に応じて、第1流量調整部および第2流量調整部の両方、またはいずれか一方を制御することにより、原料液および揮発性溶剤を最適な組成比で噴出することにより、塗布膜の品質を安定化できる。
【0029】
さらに、複数の塗布工程で樹脂膜を形成する際、1層目の塗布膜を厚膜に形成し、2層目の塗布膜を薄膜に形成する等、原料液および揮発性溶剤の最適な組成比を容易に切り替えることができ、異なる膜厚を有する塗布膜を形成するために、多様な塗布条件の選択肢を提供することができる。
【0030】
[樹脂膜の形成方法]
本実施形態に係る樹脂膜の形成方法は、樹脂を含む原料液、および揮発性溶剤を準備する準備工程と、ノズル2の第1流路に供給される原料液の流量(Fs)を調整する第1流量調整工程と、ノズル2の第2流路に供給される揮発性溶剤の流量(Fv)を調整する第2流量調整工程と、ノズル2の第1流路に供給された原料液およびノズルの第2流路に供給された揮発性溶剤を、ノズル2に対向して配置された基板に向かって噴出することにより、噴霧状の原料液および揮発性溶剤を混合させて基板S上に塗布膜を形成する塗布工程と、を備え、原料液の流量(Fs)および揮発性溶剤の流量(Fv)は、塗布膜の目標膜厚に応じて調整される。このように、本実施形態に係る樹脂膜の形成方法によれば、基板Sに塗布する直前に、原料液および揮発性溶剤を最適な組成比で噴出することにより、塗布膜の品質を安定化できる。
【0031】
(塗布膜の目標膜厚に応じた流量調整)
上述のように、ノズル2から噴出される原料液の流量(Fs)および揮発性溶剤の流量(Fv)は、塗布膜の目標膜厚に応じて調整することができる。図2は、基板Sに形成された塗布膜の目標膜厚と、原料液の流量(Fs)に対する揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)との関係を示すグラフである。図3は、基板Sに形成された塗布膜の目標膜厚と、原料液の流量(Fs)と揮発性溶剤の流量(Fv)の合計流量(s=Fv+Fs)との関係を示すグラフである。
なお、塗布膜の目標膜厚とは、予め設定される塗布膜の厚みであって、例えばオペレータがタッチパネルを用いて制御部30に事前に入力した塗布膜の所望の厚みである。
【0032】
図2は、塗布膜の目標膜厚が大きいほど、流量比(r=Fv/Fs)が大きくなるように調整されることを示す。図3は、塗布膜の目標膜厚が大きいほど、合計流量(s=Fv+Fs)が大きくなるように調整されることを示す。
【0033】
従来、あらかじめ原料液と溶媒が所定の割合で混合(調合)された薬液(プリミックス薬液)を用いてスプレー塗布を行うことが一般的であった。スプレー塗布では、ノズルから噴出された薬液は、ミストの状態で基板に向けて移動し、基板に到達後、塗布膜を形成する。この時、基板に到達したミストに含まれる溶媒は、その一部が一旦塗布膜に取り込まれるが、その後塗布膜の表面から気化する。上述のプリミックス薬液を用いる場合、ノズルから噴出され基板に到達するミストに含まれる樹脂成分と溶媒の割合は、ほぼ一定に保たれることになる。そのため、塗布膜の堆積速度が過度に速いと、単位時間あたりに基板表面に供給される溶媒の量が、単位時間あたりに塗布膜の表面から気化する溶媒の量を上回り、塗布膜に溶媒が残留しやすくなる。また、塗布膜の膜厚が厚い場合も塗布膜の内部に残存する溶媒の気化が抑制されるため、塗布膜に溶媒が残留しやすくなる。塗布膜に溶媒が過度に残留すると、塗布膜の耐プラズマ性が低下する。そのため、塗布膜を形成した後で、耐プラズマ性を向上させるための乾燥工程が必要となったり、乾燥工程を省略するためにはマスクの厚みを薄くしたりする必要があった。
【0034】
また、塗布膜に残留する溶媒の量によって塗布膜の流動性が変わり、段差被覆特性がばらつくという課題もあった。特に基板Sがその表面にバンプ等の凹凸を備える場合、段差被覆特性がばらつくと、凹凸を確実にカバーすることができず、表面にピンホール等を有する不均一な塗布膜が形成される。こうした不均一な塗布膜は、後工程のエッチング工程に支障をもたらし、歩留まりを低下させる。
【0035】
本発明によれば、原料液と揮発性溶媒は、あらかじめ所定の割合で混合(調合)されるのではなく、目標膜厚に応じて異なる割合で混合される。ノズルから噴出された原料液と揮発性溶媒は、ミストの状態で基板に向けて移動し、基板に到達後、適当な流動性(粘性)をもって基板に均一に塗布され、塗布膜を形成する。この時、ミストに含まれる揮発性溶媒は、その含有率が目標膜厚に応じて過剰にならないように調整されており、噴霧された直後から気化しはじめる。そして、基板に到達するまでミストに残存している揮発性溶媒は、基板Sに塗布された後速やかに気化するため、揮発性溶媒は、堆積した塗布膜には残留しにくい。
すなわち、揮発性溶媒は、ミストが安定して形成されるように原料液を希釈するためのものである。これにより、原料液に含まれる不揮発性溶媒の量を必要以上に増やすことなく安定した塗布が可能となる。
【0036】
さらに、原料液に含まれる不揮発性溶媒の量を抑制できるため、塗布膜に残存する溶媒の量を低減できる。その結果、耐プラズマ性を向上させるために堆積した塗布膜を加熱(乾燥)する工程を簡略化したり、実質的に省略したりすることができる。
【0037】
また、揮発性溶媒は、ミストが基板に到達した後で、原料液に含まれる樹脂が基板に均一に塗布されるように塗布膜に適当な流動性(粘性)を与えることもできる。これにより、基板Sがその表面にバンプ等の凹凸を備える場合であっても、段差被覆特性を制御することで凹凸を確実にカバーすることが可能となり、表面にピンホール等の欠陥のない均一な塗布膜を形成することができる。
【0038】
本実施形態によれば、制御部30は、図2に示すように、塗布膜の目標膜厚が大きいほど、流量比(r=Fv/Fs)が大きくなるように、第1流量調整部16および第2流量調整部26の両方、またはいずれか一方を制御する。こうして塗布膜の目標膜厚が大きい場合には、揮発性溶剤の流量比を増大させることにより原料液の供給量を相対的に少なくして、単位時間あたりに基板に堆積する塗布膜の膜厚(すなわち、堆積速度)を小さくする。これにより、塗布膜に残存する溶媒の気化を促進し、塗布膜に残存する溶媒の量を低減できる。
【0039】
より具体的には、目標膜厚を有する塗布膜を基板上に堆積させるための最適な流量比(r=Fv/Fs)を予め実験的に検証する(例えば10μmの目標膜厚に対して、r=1.5)。図2では、塗布膜の目標膜厚と流量比(r=Fv/Fs)は、単調増加する線形関数となるように図示したが、一次関数に限定されるものではなく、多次元関数または指数関数で表されるものであってもよい。また複数の目標膜厚を有する塗布膜を基板上に堆積させるための最適な流量比(r=Fv/Fs)を予め実験的に検証して、塗布膜の目標膜厚と最適な流量比の対応関係(テーブル)を事前に作成し、制御部30の内蔵メモリ(図示せず)に記憶させておいてもよい。そして実際に水溶性樹脂膜を形成する際には、制御部30は、上記関数またはテーブルを参照して、オペレータがタッチパネルを用いて入力した塗布膜の目標膜厚に対応する原料液と揮発性溶媒が最適な流量でノズル2に供給されるように第1流量調整部16および第2流量調整部26の両方、またはいずれか一方を制御する。
【0040】
図2で上記説明したように、塗布膜の目標膜厚が大きいほど、流量比(r=Fv/Fs)が大きくする場合、さらに、図3に示すように、合計流量(s=Fv+Fs)も大きくなるように調整してもよい。これにより、図2で上記説明したように、揮発性溶媒の流量を増大させた場合において、塗布膜の堆積速度の低下を抑制することができる。なお、塗布膜の堆積速度とは、単位時間あたりに基板Sに堆積される塗布膜の厚みをいう。
【0041】
同様に図3では、塗布膜の目標膜厚と合計流量(s=Fv+Fs)は、単調増加する線形関数となるように図示したが、線形関数に限定されるものではなく、多次元関数または指数関数で表されるものであってもよい。
【0042】
さらに、図2および図3に関し、複数の目標膜厚を有する塗布膜を基板上に堆積させるための最適な流量比(r=Fv/Fs)および合計流量(s=Fv+Fs)を予め実験的に検証して、塗布膜の目標膜厚と最適な流量比ならびに合計流量の対応関係(テーブル)を事前に作成し、制御部30の内蔵メモリ(図示せず)に記憶させておいてもよい。そして実際に樹脂膜を形成する際には、制御部30は、上記関数またはテーブルを参照して、オペレータがタッチパネルを用いて入力した塗布膜の目標膜厚に対応する原料液と揮発性溶媒が最適な流量でノズル2に供給されるように第1流量調整部16および第2流量調整部26の両方、またはいずれか一方を制御する。
【0043】
(塗布膜の塗布回数に応じた流量調整1)
図4は、第1流量調整工程、第2流量調整工程、および塗布工程を複数回(N回、N:自然数)反復して行うことにより樹脂膜を形成するとき、各塗布工程において、ノズル2から噴出される原料液および揮発性溶剤の最適な流量比(r=Fv/Fs)を示すグラフである。
【0044】
図4に示す樹脂膜の形成方法によれば、1回目から(N-1)回目までの塗布工程では、原料液の流量(Fs)に対する揮発性溶剤の流量(Fv)の流量比(r=Fv/Fs)は一定であり、最後(N回目)の塗布工程では、流量比をより小さくする。1回目から(N-1)回目までの塗布工程では、実質的に同じ厚みの塗布膜が反復して堆積(形成)され、最後(N回目)の塗布工程では、流量比(r=Fv/Fs)を小さくする(揮発性溶剤の流量(Fv)を低減させる)ことにより、最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜の堆積速度を増加させて、最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜の膜厚を増やし、最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜に残存する溶媒の量を増やし、最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜の流動性を高めることができる。その結果、流動性の高められた最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜に対する重力によるセルフレベリングの作用により、樹脂膜を構成する最上膜の表面を平滑化できる。
【0045】
図4において、1回目から(N-1)回目までの塗布工程の流量比(r=Fv/Fs)は、一定であり、最後(N回目)の塗布工程の流量比は、先の(1回目から(N-1)回目までの)塗布工程の流量比より小さくなるように調整されているが、これに限定されるものではない。最後(N回目)の塗布工程の流量比は、少なくとも前回(N-1回目)の塗布工程の流量比より小さくすることにより、最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜の流動性を高め、セルフレベリング作用を利用して、樹脂膜を構成する最上膜の表面を平滑化できる。
【0046】
図5および図6は、第1流量調整工程、第2流量調整工程、および塗布工程を複数回(N回、N:自然数)反復して行うことにより樹脂膜を形成するとき、各塗布工程において、ノズル2から噴出される原料液および揮発性溶剤の最適な流量比(r=Fv/Fs、左縦軸)を黒丸印で、および基板Sに形成(堆積)される塗布膜の堆積速度(単位時間あたりに堆積する塗布膜の厚み、右縦軸)を黒三角印で示すグラフである。なお、これに限定されないが、図4図6に示す塗布工程の回数は合計5回で、1回の塗布工程当たりの塗布膜の目標膜厚は10μmであってもよい。
【0047】
(塗布膜の塗布回数に応じた流量調整2)
図5に示す樹脂膜の形成方法によれば、1回目からN回目(最後)までの塗布工程の流量比(r=Fv/Fs)が徐々に大きくすることにより、塗布膜の堆積速度(単位時間当たりに形成される塗布膜の厚み)を徐々に小さくする。これにより、塗布回数が後になるにつれて、塗布膜に残存する溶媒の量を低減できる。さらに、塗布工程中の塗布膜の膜厚を測定し、その情報を残りの塗布工程の時間等の塗布条件に反映させることで、塗布膜の全体としての厚みを目標膜厚に高い精度で近づけることが可能となる。
【0048】
なお、図5を参照して上記説明した水溶性樹脂膜の形成方法の変形例または択一例として、図6に示すように、最後(N回目)の塗布工程では、流量比を、前回(N-1)回目の塗布工程における流量比より小さくなるように調整してもよい。1回目から(N-1)回目までの塗布工程の流量比(r=Fv/Fs)を徐々に大きくすることにより、塗布膜の堆積速度(単位時間当たりに形成される塗布膜の厚み)を徐々に小さくするように調整する点は、図5と同様である。
【0049】
最後(N回目)の塗布工程における流量比(r=Fv/Fs)を前回(N-1回目)より小さくして、揮発性溶剤の相対的な流量(Fv)を小さくすることにより、最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜の流動性を高め、セルフレベリング作用を利用して、先の塗布工程で形成された塗布膜の凹凸を平坦化することができる。なお、この最後(N回目)の塗布工程において、揮発性溶剤の流量(Fv)が小さくなるように調整されるので、最後(N回目)の塗布工程で形成される塗布膜の堆積速度は大きくなる。
【0050】
上記説明したように、本発明に係る実施形態によれば、原料液および揮発性溶剤を基板に塗布する直前に最適な組成比で混合することにより、塗布膜の膜厚が大きくなっても塗布膜に残留する溶媒の量を抑制できるため、塗布膜の耐プラズマ性が低下しにくい。また、塗布膜に残留する溶媒の量を抑制できるため、段差被覆特性を安定化できる。塗布膜の適当な流動性を維持しつつ、揮発性溶媒を十分に気化させて、乾燥工程を簡略化または実質的に省略するとともに、塗布膜の目標膜厚に応じて、最適な成分比で混合される原料液と揮発性溶剤を基板に噴出することにより、均一な目標膜厚を有する塗布膜を信頼性よく塗布することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、プラズマダイシング用のマスク等として塗布される樹脂膜(保護膜)を塗布するためのスプレー塗布装置および樹脂膜の形成方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…スプレー塗布装置
2…4流体ノズル
3…ステージ
10…第1供給部(原料液タンク)
12…第1流路
14…第1噴出孔
16…第1流量調整部
20…第2供給部(溶剤タンク)
22…第2流路
24…第2噴出孔
26…第2流量調整部
30…制御部
40…ポンプ
42…周縁流路
50…ノズルエッジ(衝突焦点)
S…基板

図1
図2
図3
図4
図5
図6