(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】電池パック
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20230814BHJP
H01M 50/213 20210101ALI20230814BHJP
H01M 50/229 20210101ALI20230814BHJP
H01M 50/284 20210101ALI20230814BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20230814BHJP
H01M 10/643 20140101ALI20230814BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20230814BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20230814BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
H01M50/204 401H
H01M50/213
H01M50/229
H01M50/284
H01M50/293
H01M10/643
H01M10/647
H01M10/658
(21)【出願番号】P 2019102992
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】595098011
【氏名又は名称】東洋システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 寿朗
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 寿春
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 昇
(72)【発明者】
【氏名】宗像 一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄司 秀樹
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3218586(JP,U)
【文献】特開2019-083150(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159000(WO,A1)
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】国際公開第2017/125985(WO,A1)
【文献】特開2019-211908(JP,A)
【文献】特開2019-135684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 10/60-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により水蒸気を発生する水和物を含む無機充填材を含有する樹脂組成物により形成されかつ複数の筒状の保持部を有する樹脂構造体と、
各々が前記複数の筒状の保持部の各々内に挿入されることで前記樹脂構造体に保持されている複数の柱状の充電池と、
を含み、
前記樹脂構造体において、前記保持部のうちの隣り合うもの同士の外側面によって画定された空間が形成されており、
前記空間の上方を塞ぐように配置された回路保護基板を備えることを特徴とする電池パック。
【請求項2】
前記樹脂組成物に含有される前記無機充填材は、前記樹脂組成物の全量を100質量%としたときに30質量%~95質量%の範囲内であることを特徴とする、
請求項1に記載の電池パック。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、樹脂成分として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びメラミン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含有していることを特微とする、
請求項1又は2に記載の電池パック。
【請求項4】
前記無機充填材は、二価もしくは三価の金属水酸化物、二価の金属硫酸塩水和物、亜鉛のオキソ酸塩、シリカ、アルミナ、ドーソナイト、及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項5】
前記樹脂組成物
に含有される樹脂成分がウレタン樹脂であり、前記無機充填材が二価もしくは三価の金属水酸化物であることを特徴とする、
請求項4に記載の電池パック。
【請求項6】
前記保持部の厚さは、0.5~3.0mmの範囲内であることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項7】
嵌合前における前記充電池の最大幅に対する前記保持部の前記充電池を保持する空間の最大幅の比が、60%~100%の範囲内であることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の充電池を整列して収納した電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
電池パックとしては、複数の充電池の間をポッティング材(ポッティング樹脂)により充填したものが知られている。例えば、特許文献1には、複数の円柱状の充電池を整列させた状態で、これら充電池の間にポッティング樹脂部が充填形成されている電池パックが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の電池パックでは、ポッティング材を充填したポッティング樹脂部を形成することで、充電池同士の間隔を1.0mm以下に近接させてエネルギー密度の低下を回避している。また、ポッティンク樹脂部が充電池の外周面に密着しているので、充電池に生じた熱がポッティング樹脂部全体に分散され、熱連鎖の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポッティング材を用いた電池パックの製造方法では、一般的には、複数の充電池を整列させてモジュール化して成形型等に収容し、成形型等の内部に液状のポッティング材を注入して硬化させる。そのため、ポッティング材を充填する際には、例えば、充電池の間に充填されるポッティング材を均等な厚みに制御することが難しい、気泡を含まないようにポッティング材を充填することも容易ではない、充填させる必要がない箇所までポッティング材が流れ込んでしまう、といった充填時の課題が生じる。これら充填時の課題は、得られる電池パックの品質に影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
また、ポッティング材を硬化する際には、液状のポッティング材を硬化するために加熱が必要である、ポッティング材を硬化させるために所定の硬化時間が必要である、といった硬化時の課題も生じる。これら硬化時の課題は、電池パックの製造コスト又は製造効率等に影響を及ぼす恐れがある。また、得られた電池パックにおいても、充電池の間に硬化したポッティング材が充填されているため、当該電池パックの検査も容易ではないという課題も生じる。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、消火効果及び類焼防止の効果を奏することができる電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電池パックは、加熱により水蒸気を発生する水和物を含む無機充填材を含有する樹脂組成物により形成されかつ複数の筒状の保持部を有する樹脂構造体と、
各々が前記複数の筒状の保持部の各々内に挿入されることで前記樹脂構造体に保持されている複数の柱状の充電池と、を含み、
前記樹脂構造体において、前記保持部のうちの隣り合うもの同士の外側面によって画定された空間が形成されおり、
前記空間の上方を塞ぐように配置された回路保護基板を備えることを特徴とする電池パック。
【0009】
上記本発明の構成によれば、上記無機充填材を含有する保持部が類焼時の加熱により水蒸気を放出するので、消火効果及び類焼防止の効果を奏することができる。上記本発明においては、上記樹脂構造体が上記複数の保持部のうちの隣り合う保持部の外側面によって画定された空間を有している。当該空間は、充電池の類焼またはそれに至る前の過熱が発生した際に、隣接する充電池への熱の伝導を妨げる断熱機能を発揮する。これらより電池パックの安全性を向上させることができる。
【0010】
上記本発明の構成によれば、樹脂が存在しない空間を上記樹脂構造体が有するので、ボッティング材を充填するよりも電池パックの重量を低減することができ、電池パックの軽量化を図ることができる。
【0011】
また、上記本発明の構成によれば、上記無機充填材を含有する樹脂製保持部は、充電池からの熱を良好に拡散できるだけでなく、電池パックでは充電池を保持部の収納空間に嵌合させるので、充電池からの熱を隣接部分に分散することもできる。
【0012】
さらに、上記本発明の構成によれば、電池パックは、複数の充電池を保持部の収納空間にそれぞれ整列して嵌合して配置させるだけなので、得られた電池パックを外観で確認するだけでも検査が可能となる。
【0013】
また、上記本発明の構成によれば、ボッティング材を用いない故に以下の効果が得られる。
(1)複数の充電池を上記複数の保持部の収納空間にそれぞれ整列して嵌合するだけで電池パックを製造することができので、液状のポッティング材を充填するよりも製造効率を向上することができ、上記保持部により、液状のポッティング材を充填するよりも充電池同士の間隔精度を向上することができる。
(2)ポッティング材が気泡を含んだり不要な箇所に流れ込んだりしないようにするための対応(成形型、加熱手段、あるいはポッティング材が2液混合型であれば混合手段等の設備)が不要となり、液状のポッティング材を硬化させる硬化時間も不要となる。そのため、電池パックの製造効率を向上できるだけでなく製造コストの増加も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る実施例の電池パックの分解斜視図である。
【
図2】本実施例の電池パックの電池パック化手法の各工程における電池パックアセンブリの斜視図である。
【
図3】本実施例の電池パックの電池パック化手法の各工程における電池パックアセンブリの斜視図である。
【
図4】本実施例の電池パック及びこれを構成する際の最少電池セルユニットの例を示す模式的上面図である。
【
図5】本実施例の電池パックにおける充電池20及び保持部11を示す斜視図である。
【
図6】本実施例の電池パックにおける保持部に充電池を嵌合して電池セルを形成する方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の代表的な実施例の電池パックを、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。本実施例は本発明の一例であって、これにより本発明が限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明に係る実施例の電池パック10の分解斜視図である。
図1に示すように、電池パック10は、複数の筒状の保持部11を有する樹脂構造体12と、当該保持部11の収納空間11aのそれぞれに収容された柱状の充電池20と、を有する。収納空間11aは充電池20を保持する貫通空間である。保持部11の複数の収納空間11aの各々には複数の充電池20が各々嵌合されている。なお、説明の便宜、保持部11とこれに嵌合した充電池20を「電池セル30」と称する。樹脂構造体12は、保持部11のうちの隣り合う保持部11の外側面によって画定された空間11bを有している。空間11bは収納空間11aに平行に延在する貫通空間である。樹脂構造体12は加熱により水蒸気を発生する水和物を含む無機充填材を含有する樹脂組成物により形成されている。
【0017】
図1に示すように、電池パック10の複数の充電池20は、導線であるリード部材LMを介して互いに電気的に接続されている。電池パック10において、充電池20の3本ごとがリード部材LMにより並列に接続され一組になされている。この3本組並列の充電池20の4つの組が互いに直列に接続されている。
【0018】
電池パック10の正極と負極の一方の端面は、樹脂構造体12に隣接した電極面シートESにより覆われている。電極面シートESは、空間11bに対応する孔Hを有し、さらに、リード部材LMの3つのタブTを通すための対応する数の貫通したタブ孔THを有する。各タブ孔THがリード部材LMのタブTに対応して配置されている。
【0019】
樹脂構造体12の保持部11を用いた電池パック化の手法を下記(1)~(3)で説明する。
図2と
図3は本実施例の電池パック10の電池パック化手法の各工程における電池パックアセンブリの斜視図である。
【0020】
(1)
図2に示すように、各々の充電池20の外装の側面に保持部11を被せ電池セル30とした後、直並列仕様に合わせて、リード部材LMを充電池20の正極と負極へ溶接して電池パック本体を作成する。
図2(a)に示すように、樹脂構造体12の筒状の保持部11の収納空間に柱状の充電池20を直並列仕様に合わせて嵌め合わせて収容する。保持部11の高さを充電池20の高さと略同一であるように一体と構成して1つの樹脂構造体12のみで、各充電池20の側面全体を被覆してもよいが、複数の電池セル30を図示しないジグでまとめて、
図2(b)に示すように、リード部材LMを充電池20両端の正極と負極上へ配置して、
図2(c)に示すように、リード部材LMの溶接位置WDで正極と負極に溶接する。この溶接により複数の電池セル30が確実にばらけなくなる。
【0021】
(2)
図3(a)に示すように、溶接したリード部材LMの上に電極面シートESを貼り付ける。この貼り付けにより、充電池20の電極側からの発火に対しての類焼対策を行ことができる。この電極面シートESは、上記無機充填材を含有する樹脂製保持部又はポッティング材から製作する。
【0022】
(3)
図3(b)に示すように、電極面シートESの上に回路保護基板PBを取り付ける。この取り付けにより、電極面シートESとリード部材LMを保護する。電極面シートESは、リード部材LMの3つのタブTが対応する電極面シートESのタブ孔THに嵌るように配置される。リード部材LMのタブTと回路保護基板PBは半田付け接続される。その後、例えば所定の筐体(図示せず)の内部に電池セル30を収納して、電池パックが完成する。
【0023】
[樹脂構造体の保持部]
図4は本実施例の電池パック及びこれを構成する際の最少電池セルユニットの例を示す模式的上面図である。
図4(b)に示すように、樹脂構造体12は、保持部11にて充電池20が、所定の間隔(Dc=1.0mm以上)を保って平行に配列される収納空間11aを有している。また、樹脂構造体12の空間11bは、隣接した保持部11同士の間で平行に緊密に配列され多管状に形成されている。収納空間11aと空間11bは、それぞれ樹脂構造体12の中に独立に存在している。空間11bは充電池20の類焼等の異常時において、充電池20の断熱部として機能する。具体的には、例えば、空間11bがある故に、類焼時または類焼の直前期の昇温時等に、1の電池が高熱になった際に隣接する他の電池に熱が伝導しづらいという効果が奏される。また、通常時においては空間11bに気体が流通することによる充電池20が発生する熱の放熱効果も得ることができる。さらに、上記無機充填材を含有する保持部が、充電池20の類焼時の加熱により水蒸気を放出するので、消火効果及び類焼防止効果を発揮することができる。
【0024】
収納空間11aの具体的な構成は、収納対象である充電池の形状に合わせた収納空間を有すればよい。すなわち収納空間11aは、充電池20の形状と同様の筒状の空間である。樹脂構造体12の保持部11の収納空間11a内に充電池20を嵌合した状態、すなわち、組み立て途中の充電池20の外周面に保持部11を接触させた保持状態では、保持部11の両端で充電池20の両端で端面が露出している。
【0025】
図4(b)は、
図2に示す電池セルをまとめて電池パックを構成する際の最少電池セルユニット31Aを一例に3個密着させた様子を示す模式的上面図である。
【0026】
電池パック10を製造する際に、複数の電池セル30をまとめたユニットとしては特に限定されないが、例えば、
図4(b)に示すように、4つの電池セル30をまとめて最小限の電池セルユニットである電池パックユニット31Aを構成することができる。
図4(b)に示す電池パックユニット31Aは、4つの電池セル30を上面から見たときに四角形状に並列配置したユニットとして構成される。この電池パックユニット31Aであれば、隣接する4つの電池セル30の間に、空間11bが形成される。この空間11bは、樹脂構造体12として見たときに、樹脂が存在しない空間となる。それゆえ、ポッティング材を充填する従来の電池パックに比べて、樹脂の重量を低減することができるので、電池パックの軽量化を図ることができる。
【0027】
図4(c)に示すように、保持部11は樹脂構造体12の一体としてハニカム状になるように緊密に形成されていてもよい。これにより、保持部11の部品点数削減になる。
【0028】
また、
図4(d)(e)に示す電池パックユニット31Bは、3つの電池セル30を上面から見たときに三角形状に並列配置したユニットとして構成される。この電池パックユニット31Bであれば、隣接する3つの電池セル30の間に、空間11bが形成される。この空間11bは、樹脂構造体12として見たときに、樹脂が存在しない空間となる。それゆえ、ポッティング材を充填する従来の電池パックに比べて、樹脂の重量を低減することができるので、電池パックの軽量化を図ることができる。
【0029】
図5は本実施例の電池パックにおける嵌合前の充電池20及び保持部11を示す斜視図である。
【0030】
充電池20及び保持部11の嵌合前において、保持部11の内径Dh(収納空間11aの直径、収納空間の最大幅)は充電池20の外径Db(充電池の最大幅)よりも小さく設定することができる。これにより、保持部11に充電池20を嵌合した状態では、保持部11は充電池20の外周面に実質的に密着することになる。保持部11は、無機充填材を含有する樹脂組成物により形成されているので、充電池20から熱が生じても、これを良好に拡散(放熱)できるだけでなく、電池パックでは保持部同士が密着又は一体なので、任意の充電池20からの熱を、隣接する電池セル30の保持部11全体に分散させることもできる。これにより放熱効果をより一層向上することができる。
【0031】
保持部11の厚さDtは、電池パックを構成したときに、隣接する充電池20の間で類焼等の熱連鎖を抑制するように、所定の間隔(Dc=1.0mm以上、
図4(a))を確保できればよい。それゆえ、保持部の厚さDtは、充電池20同士の間隔(充電池間距離)に応じて適宜設定することができる。
【0032】
保持部11の厚さDtは、代表的には、0.5~3.0mmの範囲内であればよい。上限については、2.0mm以下であってもよいし、1.5mm以下であってもよい。下限が0.5mmであれば、電池セル30同士を隣接させた状態では、隣接する充電池20同士の最少間隔(最少の充電池間距離)は1.0mm程度にすることができる。これにより熱連鎖を良好に抑制することができる。
【0033】
保持部11の厚さDtが3.0mm以下であれば、充電池20の種類、電池パックの具体的な構成等の諸条件にもよるが、電池パックの単位容積当たりに収納できる充電池の本数を好適化することができる。それゆえ、電池パックのエネルギー密度の低下を有効に抑制することができる。また、諸条件によっては、保持部の厚さDtが3.0mmを超えていても電池パックのエネルギー密度の低下を回避できる場合がある。このような場合では、例えば、熱連鎖の抑制を優先させて保持部の厚さを設定すればよい。このように保持部11が均一な厚さを有する保持部であれば、従来の電池パックのように、液状のポッティング材を充填するよりも充電池同士の間隔の精度を向上することができる。
【0034】
保持部11の収納空間11aは、収納される充電池(本実施例では、例えば、円柱状の充電池20)の形状に合わせた円柱空間として設計されればよい。ここで、本実施例では、
図1に示すように、収納空間11aの直径すなわち保持部11の内径Dhは、充電池20の直径(外径)Dbと同径であってもよいが、直径Dbよりも小さい方が好ましい(Dh≦Db)。
【0035】
保持部11は弾性又は柔軟性を有するものとして構成されていることが好ましいが、この場合、保持部の内径Dhを充電池20の外径Dbよりも小さめに設定することで、充電池20を保持部11に嵌合させたときに、当該充電池20の外周面に保持部11の内周面を密着させることができる。保持部11は、無機充填材を含有するため、充電池20が発熱してもその熱を良好に拡散(放熱)することができる。この場合、保持部11の内周面が充電池20の外周面に良好に密着することで、放熱効率を向上させることができる。
【0036】
ここで、本実施例では、充電池20は円柱状であるが、保持部11の嵌合対象となる充電池の形状には、円柱状以外にも角柱状等のさまざまな形状が含まれる。充電池が円柱状の場合には、充電池の外径(直径)と保持部11の内径(収納空間11aの直径)とを対比させればよいが、円柱状以外であれば、充電池の幅(横断面方向の寸法)は一定値にならない。そこで、充電池が円柱状でない場合には、充電池の最大幅(横断面方向の最大寸法)を基準とすればよい。なお、説明の便宜上、充電池の最大幅(円柱状の場合、充電池の外径又は直径)に対する保持部11の収納空間の最大幅(円柱状の場合、収納空間の直径又は保持部の内径)の比を「保持部径比」(
図5において100×Dh/Db%)と称する。
【0037】
より具体的には、保持部11と充電池20の嵌合前に、保持部径比が、60%~100%の範囲内であればよく、好ましくは80%~98%の範囲内であればよく、より好ましくは93%~97%(95±2%)の範囲内であればよい。
【0038】
保持部径比が100%を超えると、保持部の収納空間の最大幅が充電池の最大幅よりも大きくなる。それゆえ、保持部の内周面が充電池の外周面に良好に密着できなくなるおそれがある。また、保持部11に充電池を嵌合して電池セル30を構成した際に、充電池から保持部11が脱離しやすくなるおそれがある。その結果、電池パックを構成したときに、熱連鎖を良好に抑制したり充電池からの熱を良好に拡散したりできなくなるだけでなく、電池パックとしての構造的な安定性も低下する可能性がある。なお、充電池の形状によっては、保持部径比が100%を超えても、保持部11の密着性又は嵌合保持性を確保できる場合がある。
【0039】
保持部径比の範囲の下限については、保持部11の樹脂組成物の成分又は組成等に応じて適宜設定することができる。つまり、樹脂組成物の保持部の弾性又は柔軟性の程度に応じて、収納空間の最大幅(内径)を限界まで小さくすることが可能である。ただし、保持部が柔軟性に富む場合でも保持部径比を小さくし過ぎると、充電池が保持部に嵌合したときに保持部が大きく引き伸ばされることになり、その結果、電池パックを構成したときに、隣接する充電池同士の間で好適な間隔(充電池間距離)を保持できなくなるおそれがある。この観点に基づいて、保持部径比の代表的な下限としては、60%以上を挙げることができる。
【0040】
本実施例において、保持部11は、弾性又は柔軟性を有することが好ましいが、弾性又は柔軟性を評価する上での具体的な測定値(もしくは試験方法、測定方法については特に限定されない。保持部(樹脂組成物)の弾性又は柔軟性を評価する1つの測定値としては25℃における貯蔵弾性率を挙げることができる。本実施例においては、保持部の25℃貯蔵弾性率は特に限定されないが、代表的には、0.1~200MPaの範囲内を挙げることができる。
【0041】
すなわち、本実施例においては、保持部(樹脂組成物)の貯蔵弾性率(25℃)が0.1~200MPaの範囲内にあれば、保持部11としてより一層良好な弾性又は柔軟性を実現することができる。特に、樹脂組成物がウレタン樹脂組成物である場合には、25℃貯蔵弾性率がこの範囲内にあることで、良好な保持部11として用いることができる。
【0042】
また、保持部11の長さ(長手方向の寸法、全長)は特に限定されず、収納対象となる充電池の長さに応じて適宜設定すればよい。
【0043】
さらに、本実施例では、保持部11は、樹脂組成物のみで構成されているが、これに限定されず、保持部11は、必要に応じて保持部以外の部材等を備えていてもよい。また、本実施例では、保持部11は、長手方向に亘って断面寸法(外径及び内径)及び断面形状が実質同一であるが、本実施例はこれに限定されず、保持部の断面形状又は断面寸法は部分的に異なっていてもよい。
【0044】
[樹脂構造体を構成する樹脂組成物]
本実施例の樹脂構造体12を構成する樹脂組成物は、樹脂成分及び無機充填材を含有しているものであればよい。樹脂成分としては、電池パックの分野で公知の種々の樹脂(高分子又はプラスチック)を好適に用いることができる。代表的な樹脂成分としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びメラミン樹脂等を挙げることができる。これら樹脂は少なくとも1種類のみが用いられてもよいし、2種類以上が適宜組み合わせて(例えばポリマーブレンド又はポリマーアロイ等として)用いられてもよい。
【0045】
さらに、同じ種類の樹脂であっても、化学構造等の異なる樹脂が2種類以上組み合わせて用いられてもよい。例えば、樹脂成分がウレタン樹脂である場合、ポリイソシアネート及びポリオールの組合せとして異なるものを用いた2種類以上のウレタン樹脂を用いることができる。また、ポリイソシアネート及びボリオールの組合せが同じであるとしても、合成条件を変えて得られる2種類以上のウレタン樹脂を用いることもできる。
【0046】
本実施例の保持部11(樹脂構造体)の成分としてのウレタン樹脂は、25℃の貯蔵弾性率が1MPa以下の柔らかいものから2×103MPa程度の非常に硬いものまで製造することができ、弾性又は柔軟性について幅広いものである。
【0047】
それゆえ、電池パックの構成等に応じて、良好な弾性又は柔軟性を有する保持部(樹脂構造体)を得ることが可能となる。さらに、ウレタン樹脂は、他の樹脂に比べて、加工時の粘度が相対的に低く、常温での硬化が可能であり高温を必要としない。そのため、保持部を製造する際の加工性又は製造効率を良好なものとすることができる。
【0048】
ウレタン樹脂のより具体的な構成は特に限定されない。例えば、ウレタン樹脂の原料として用いられるポリイソシアネート及びポリオールとしては、公知のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ポリイソシアネートとしては、代表的には、イソシアネート基を2以上有する芳香族系、脂肪環族系、又は脂肪族系のポリイソシアネート、もしくはこれらを変性した変性ポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネートはプレポリマーであってもよい。また、ポリオールとしては、代表的には、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、多価アルコール、水酸基含有ジエン系ボリマー等を挙げることができる。これらポリイソシアネート又はポリオールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。また、ポリイソシアネート及びポリオールの樹脂化反応を促進させる触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、アミン触媒、金属化合物系触媒、イソシアヌレート化触媒等を挙げることができる。これら触媒も、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
樹脂構造体12を構成する樹脂組成物は、樹脂成分以外に少なくとも無機充填材を含有している。この無機充填材は、保持部11の難燃性又は放熱性に寄与することができる。具体的な無機充填材としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の二価もしくは三価の金属水酸化物や、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の二価の金属硫酸塩や、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛のオキソ酸塩や、シレカや、アルミナや、ドーソナイトや、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。これら無機充填材は1種類のみが用いられてもよいし2種類以上が適宜選択されて用いられてもよい。
【0050】
本実施例の樹脂構造体12においては、その樹脂組成物の無機充填材の中でも、特に二価もしくは三価の金属水酸化物、例えば、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウム等が好ましく用いられる。二価もしくは三価の金属水酸化物は、加熱により水が発生するため、保持部11に対して良好な難燃性を付与することが可能になるとともに、保持部の放熱性も良好なものとすることができる。
【0051】
また、無機充填材としては、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の二価の金属硫酸塩も好ましく用いることができる。二価の金属硫酸塩は、水和物を形成しやすいため、二価もしくは三価の金属水酸化物と同様に加熱により水蒸気を発生する。あるいは、無機充填材としては、炭酸水素ナトリウムも好ましく用いることができる。炭酸水素ナトリウムも加熱により水を生成する。さらには、二価もしくは三価の金属水酸化物に対して炭酸水素ナトリウムを併用してもよい。炭酸水素ナトリウムは、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムよりも相対的に安価である。そこで、これらを組み合わせて用いることで、良好な難燃性及び放熱性を実現しつつ保持部の製造コストの増加を低減することができる。
【0052】
無機充填材は、粉末として樹脂成分に配合されればよい。無機充填材の平均粒径は特に限定されないが、一般的には、0.5μm~40μmの範囲内であればよく、2μm~20μmの範囲内がより好ましい。また、無機充填材の粉末の形状も特に限定されず、球状、フレーク状(鱗片状)、針状、不定形状等の各種の形状を採用することができる。なお、平均粒径の測定方法は特に限定されず、公知のレーザー回折法による粒度分析から求めればよい。
【0053】
樹脂構造体12を構成する樹脂組成物には、樹脂成分及び無機充填材以外に、公知の添加剤が含有されてもよい。添加剤としては、例えば、発泡剤、整泡剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等を挙げることができるが、特に限定されない。特に、本実施例においては、樹脂構造体12の保持部11が難燃性を有することが重要となる。そこで、樹脂組成物が難燃剤を含有することが好ましい。
【0054】
具体的な難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、メラミン系難燃剤等を挙げることができる。リン系難燃剤としては、トリス(2-クロロエチル)フォスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)フォスフェート等のハロゲン含有リン酸エステルや、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリスキシレニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート等のノンハロゲンリン酸エステルや、ポリリン酸アンモニウム等を挙げることができる。また、ハロゲン系難燃剤としては、デカブロモジフェニルエーテル、ベレータブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモベンゼン等を挙げることができる。また、メラミン系難燃剤としては、メラミンシアヌレート等を挙げることができる。さらに、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物も難燃剤として用いることができる。アンチモン化合物はハロゲン系難燃剤と併用することで難燃性をより向上することができる。
【0055】
[無機充填材]
本実施例においては、樹脂構造体12を構成する樹脂組成物は、少なくとも樹脂成分及び無機充填材の2成分で構成されていればよいが、無機充填材の含有量は具体的に限定されない。樹脂構造体12の保持部11の難燃性を考慮すれば、樹脂組成物の全量(全樹脂組成物)を100質量%としたときに、無機充填材の含有量(含有率)は30質量%~95質量%の範囲内であればよく、45質量%~70質量%の範囲内であることが好ましい。
【0056】
無機充填材の含有量が95質量%を超えると、樹脂成分の種類にもよるが、樹脂組成物企体における樹脂成分の含有量が少なくなり過ぎて、良好な保持部を得られない可能性がある。また、無機充填材の含有量が50質量%未満であると、無機充填材又は樹脂成分の種類にもよるが、無機充填材が少なすぎて、保持部に良好な難燃性又は放熱性を付与できなくなる可能性がある。
【0057】
[充電池]
樹脂構造体12の収納空間11aの収納対象となる充電池20の種類は、特に限定されず、公知のさまざまな充電池を挙げることができる。具体的には、例えば、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池をあげることかできる。これらの中でもリチウムイオン電池が特に好ましい。また、収納対象となる充電池の形状も特に限定されないが、代表的には、円柱、角柱(四角柱又は直方体)等の縦長の形状を挙げることができる。本実施例では、収納対象となる充電池20が円柱状のリチウムイオン電池20である場合を挙げて説明する。
【実施例】
【0058】
本発明について、実施例及び比較例に基づいてより具体的に説明する。なお、以下の実施例における耐類焼試験は次に示すようにして実施した。
【0059】
[耐類焼試験]
18650型リチウムイオン電池(放電容量3Ah)の3本を樹脂構造体3本の保持部にそれぞれ嵌合させ保持部の外側面によって1本の空間を画定させて固定して試験用電池パックを作製した。
【0060】
試験用電池パックの3本のリチウムイオン電池のうち、一つのリチウムイオン電池に対して、その外周からN45鉄釘を30mm/秒の速度で刺して貫通させた。鉄釘を貫通させたリチウムイオン電池を「熱源電池」とし、熱源電池に隣接するリチウムイオン電池を「隣接電池」として、25℃の環境下において、隣接電池の温度を測定しながら、熱源電池から他の充電池に類焼が発生するか否かを確認した。類焼が発生しない場合を「○」、類焼が発生した場合を「×」として評価した。
【0061】
[実施例1]
樹脂成分としてウレタン樹脂(商品名:エイムフレックスEF-243、第一工業製薬株式会社製)、並びに、無機充填材として水酸化アルミニウムを用い、無機充填材の含有量が65質量%の樹脂組成物を調製(製造)した。この樹脂組成物を用いて、保持部径比95%であり、その厚さが1.5mm、1.0mm及び0.5mmの3種類の保持部を作製(製造)し、それぞれ実施例1の電池パックとした。したがって、これら保持部により構成される試験用電池パックでは、隣接するリチウムイオン電池間の距離(充電池間距離)は、それぞれ3.0mm、2.0mm、及び1.0mmとなる。これら実施例1の電池パックについて、耐類焼試験を実施した。その結果(隣接電池の温度及び類焼の評価)を表1に示す。
【0062】
[実施例2]
無機充填材として水酸化マグネシウムを用いた以外は実施例1と同様にして、3種類の厚さの保持部を作製し、それぞれ実施例2の電池パックとして、耐類焼試験を実施し、その結果を表1に示す。
【0063】
[実施例3]
無機充填材として硫酸マグネシウム水和物を用いた以外は実施例1と同様にして、3種類の厚さの保持部を作製し、それぞれ実施例3の電池パックとして、耐類焼試験を実施し、その結果を表1に示す。
【0064】
[実施例4]
無機充填材として硫酸カルシウム水和物を用いた以外は実施例1と同様にして、3種類の厚さの保持部を作製し、それぞれ実施例4の電池パックとして、耐類焼試験を実施し、その結果を表1に示す。
【0065】
[実施例5]
無機充填材として、水酸化アルミニウム及び炭酸水素ナトリウムを1:1で混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして、3種類の厚さの保持部を作製し、それぞれ実施例5の電池パックとして、耐類焼試験を実施し、その結果を表1に示す。
【0066】
[実施例6]
無機充填材として、水酸化マグネシウム及び炭酸水素ナトリウムを1:1で混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして、3種類の厚さの保持部を作製し、それぞれ実施例6の電池パックとして、耐類焼試験を実施し、その結果を表1に示す。
【0067】
[実施例7]
無機充填材として炭酸水素ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして、3種類の厚さの保持部を作製し、それぞれ実施例7の電池パックとして、耐類焼試験を実施し、その結果を表1に示す。
【0068】
[比較例]
無機充填材を配合しなかった(すなわちウレタン樹脂のみを用いた)以外は実施例1と同様にして、その厚さが1.5mm及び1.0mmの2種類の保持部を作製し、比較例の電池パックとして、耐類焼試験を実施し、その結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
[実施例1~7及び比較例の対比]
実施例1~7の結果から明らかなように、1.0mm以上の充電池間距離を有するこれら実施例に係る電池パックであれば、耐類焼試験によっても類焼が発生せず、良好な難燃性及び放熱性を実現できることがわかる。一方、比較例に係る電池パックは、保持部に無機充填材を含有しないため、良好な難燃性及び放熱性が実現できなかった。
【0071】
[電池パックの製造における保持部の収納空間へ充電池の嵌合方法]
図6は本実施例の電池パックにおける保持部11に充電池20を嵌合して電池セル30を形成する方法を示す模式図である。電池パックの製造方法は特に限定されないが、例えば、筐体(図示せず)の内部に電池セル30を収納した後に、複数のリチウムイオン電池20同士をリード部材LMで接続する方法を挙げることができる。保持部11の収納空間11aへ充電池を嵌合する方法すなわち保持部11の収納空間11a内にリチウムイオン電池20を収納する電池セル30の電池パックユニットの形成工程は、例えば、
図6(A)~(G)に示すように、充電池を嵌合する際に収納空間11aにエアーを吹き込む方法を挙げることができる。
【0072】
具体的には、まず、
図6(A)に示すように、保持部11を立設した状態として、その上面にリチウムイオン電池20の下端を位贋合わせする。収納空間11aの内径Dhはリチウムイオン電池20の外径Dbよりも小さい(
図1参照)ので、
図6(B)に示すように、そのまま載置した状態では、リチウムイオン電池20の下端が保持部11の上端に載置されるだけである。なお、
図6(A)及び
図6(B)では、収納空間11aの内径Dh=Dh0として図示する。
【0073】
次に、
図6(G)に示すように、エアノズル33の先端を、リチウムイオン電池20の下端が載置された保持部11の上端の上側に配置する。この状態では、エアノズル33の先端は、リチウムイオン電池20の下端と保持部11のE端との間で、保持部11の内部の収納空間11a内に向かっていることになる。この状態では、
図6(C)に示すように、収納空間11aの内径はDh=Dh0のままである。
【0074】
次に、
図6(D)に示すように、エアノズル33からエアーを噴射し、リチウムイオン電池20の下端と保持部11の上端との間から、収納空間11aに向けてエアーを吹き込む。保持部11が良好な弾性又は柔軟性を有していれば、エアーの吹込みにより保持部11が膨張する。その結果、収納空間11aの内径Dhは、当初のDh0からDh1に拡大する(Dh1>Dh0)。内径Dh=Dh1は、リチウムイオン電池20の外径Dbよりも大きな値となる(Dh1>Db)。この状態で、図中ブロック矢印で示すように、リチウムイオン電池20の上端から下側に向かって力を加える。
【0075】
これにより、
図6(E)及び
図6(F)に示すように、リチウムイオン電池20は、内径Dhが拡大した収納空間11a内に容易に挿入されていく。このとき、エアノズル33から収納空間11aに対するエアーの吹込みは継続される。その後、エアーの吹込みを停止すれば、保持部11の膨張は解除されるので、
図6(G)に示すように、保持部11は、収納空間11a内に収納されたリチウムイオン電池20の外周面に密着し、電池セル30が形成される。なお、リチウムイオン電池20の外径はDbであるので、
図6(G)では、収納空間11aの内径はリチウムイオン電池20の外径Dbに対応する。
【0076】
このように、保持部11が保持部であり、かつ、弾性又は柔軟性を有していれば、その内部の収納空間にエアーを吹き込むことで、保持部が膨張する。これにより、収納空間の内径(最大幅)をリチウムイオン電池20の外径(最大幅)よりも大きくした状態で維持することができる。その結果、保持部11内にリチウムイオン電池20を容易かつ迅速に収納することができる。また、エアーの吹込みを停止すれば膨張が解除されるので、保持部11はリチウムイオン電池20の外周に良好に密着することができる。これにより、電池セル30を効率的に形成することができるので、電池パックの製造効率を向上することができる。
【0077】
一方、ポッティング材を用いる従来の場合には、電池パック内部にポッティング材を注入する際に、当該ポッティング材が気泡を含むおそれがある。ポッティング材が気泡を含んだ状態で硬化すれば、ポッティング材の特性に影響を及ぼすおそれがある。また、従来の場合では、リチウムイオン電池20の上端等のような不要な箇所にポッティング材が付着しないようにするためにポッティング材の流動を規制する枠材又は型材が必要になる。また、液状のポッティング材を加熱硬化させるためには加熱手段が必要であり、あるいは、従来のポッティング材が2液混合型であれば、ポッティング材を調製するための混合手段も必要となる。
【0078】
これに対して、本実施例では、液状のポッティング材を用いず保持部の保持部11をリチウムイオン電池20の外周面に装着させるだけである。それゆえ、枠材、型材、加熱手段、混合手段等が不要になるだけでなく、ポッティング材を硬化させるための硬化時間も不要となる。そのため、電池パックを製造するに際して、その製造効率を向上できるだけでなく製造コストの増加も抑制することができる。
【0079】
[実施例8]
実施例1で調製した樹脂組成物を用いて、18650型リチウムイオン電池の外径と同一の保持部、すなわち、保持部径比が100%の保持部を作製して、実施例8の電池パックとした。この保持部を、エアーの吹込みにより18650型リチウムイオン電池の外周に装着して(
図6(A)~(G)参照)、装着時の作業性を評価するとともに、保持部のリチウムイオン電池の外周への密着性を目視により評価した。その結果を表2に示す。
【0080】
なお、嵌合時の作業性については、リチウムイオン電池を保持部に容易に嵌合できれば「○」、保持部への嵌合が容易でないが嵌合できれば「△」、保持部に嵌合できなければ「×」として評価した。また、保持部のリチウムイオン電池の外周の密着性については、隙間が確認できなければ「○」、隙間が確認されるものの全体として密着性が認められれば「△」、隙間が多く保持部の脱落の可能性が認められれば「×」として評価した。
【0081】
[実施例9]
実施例1で調製した樹脂組成物を用いて、18650型リチウムイオン電池の外径に対して、その内径が97.8%の保持部、すなわち、保持部径比が97.8%の保持部を作製して、実施例9の保持部とした。この保持部に18650型リチウムイオン電池を嵌合して、実施例8と同様にして作業性及び密着性を評価した。その結果を表2に示す。
【0082】
[実施例10~12]
保持部径比が95.6%、89.2%、又は77.0%の保持部を作成して、それぞれ実施例10の電池パック、実施例11の電池パック、又は実施例12の電池パックとした。これらの保持部に18650型リチウムイオン電池を嵌合して、実施例8と同様にして作業性及び密着性を評価した。その結果を表2に示す。
【0083】
[参考例1、2]
保持部径比が104.5%(すなわち18650型リチウムイオン電池の外径よりも内径が大きい)、又は、58.8%の保持部を作成して、それぞれ参考例1の保持部、又は、参考例2の保持部とした。これら保持部に18650型リチウムイオン電池を嵌合して、実施例8と同様にして作業性及び密着性を評価した。その結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
[実施例8~12及び参考例1、2の対比]
実施例8~12の結果から明らかなように、保持部径比が好ましくは、60~100%の範囲内であれば、リチウムイオン電池と保持部の嵌合(電池セルの形成)を容易かつ効率的に実施することができた。
【0086】
また、参考例1のように、保持部径比が100%を超える場合には、作業性は良好であったが密着性については隙間が確認された。ただし、保持部からリチウムイオン電池が脱落することはなかった。さらに、参考例2のように、保持部径比が60%を下回る場合であってもリチウムイオン電池と保持部の嵌合は可能であった。参考例2では、密着性は良好であったが、作業性については良好とは言い難かった。
【0087】
それゆえ、保持部径比が60~100%の範囲から外れたとしても(参考例1及び2)、電池セルの形成は可能であるが、好ましくは、保持部径比の範囲を60~100%の範囲内に設定することで、良質の電池セルを容易かつ効率的に製造できることが明らかとなった。
【0088】
よって、保持部を構成する樹脂組成物の樹脂成分にウレタン樹脂が含まれる場合には、好ましい保持部径比の範囲の下限としては80%以上を挙げることができ、より好ましい下限として93%以上を挙げることができる。同様に、好ましい上限としては、98%以下を挙げることができ、より好ましい下限としては97%を挙げることができる。これにより、充電池に対する保持部11の密着性及び嵌合保持性を向上できる。
【0089】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、及び改変を行うことができる。
【符号の説明】
【0090】
10 電池パック
11 保持部
11a 収納空間
11b 空間
樹脂構造体12
20 充電池(リチウムイオン電池)
30 電池セル
31A、31B 電池パックユニット
33 エアノズル