(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】測位装置、測位方法、測位プログラム、測位プログラム記憶媒体、アプリケーション装置、および、測位システム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/43 20100101AFI20230814BHJP
G01S 19/52 20100101ALI20230814BHJP
【FI】
G01S19/43
G01S19/52
(21)【出願番号】P 2018162915
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2017168133
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504011612
【氏名又は名称】杉本 末雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 末雄
(72)【発明者】
【氏名】久保 幸弘
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105445(WO,A1)
【文献】特開2009-025233(JP,A)
【文献】特開2015-138021(JP,A)
【文献】特開2012-208033(JP,A)
【文献】特開2011-117830(JP,A)
【文献】特開2015-7640(JP,A)
【文献】国際公開第2010/050433(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/198501(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/014011(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
整数値バイアス
の値が同じ複数時刻において受信した測位信号の擬似距離および搬送波位相積算値を検出する受信部と、
前記擬似距離の時間差分値および前記搬送波位相積算値の時間差分値を用いて、観測方程式および状態方程式を設定し、前記観測方程式と前記状態方程式とを用いたフィルタ演算を実行することによって測位を行う、測位演算部と、
を備える、測位装置。
【請求項2】
前記測位演算部は、
移動体の測位を行う場合に、前記測位する位置を、WGS座標系から局地水平座標系へ座標変換し、
水平方向の動的モデルには、加速度の1次マルコフモデルを適用し、高さ方向の動的モデルには、速度の1次マルコフモデルを適用し、
前記観測方程式において、前記複数時刻の位置差を未知数として、前記複数時刻の位置の勾配ベクトルの平均値を用いる、
請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記測位演算部は、
前記水平方向の動的モデルに速度の項を含み、
該速度を、測位対象の速度として出力する、
請求項2に記載の測位装置。
【請求項4】
前記測位演算部は、
前記擬似距離の時間差分値を複数時刻で算出する時間差分値算出部と、
該複数時刻の擬似距離の時間差分値に対する二重時間差分値を算出する二重差分値算出部と、
該二重時間差分値が、異常検出用閾値以上であれば、前記測位信号の受信の異常を検出する異常検出部と、
を備える、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の測位装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の測位装置の各構成と、
前記測位演算部で算出された位置を用いたアプリケーション情報を生成するアプリケーション処理部と、
を備える、アプリケーション装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の測位装置の各構成、および、前記測位の結果を用いて衛星軌道情報の補正情報を生成する補正情報生成部を備える基地局と、
前記補正情報生成部からの補正情報を前記測位信号とともに送信する測位衛星と、
を備える、測位システム。
【請求項7】
整数値バイアス
の値が同じ複数時刻において受信した測位信号の擬似距離および搬送波位相積算値を検出し、
前記擬似距離の時間差分値および前記搬送波位相積算値の時間差分値を算出し、
前記時間差分値を用いた観測方程式および状態方程式を設定し、
前記観測方程式と前記状態方程式とを用いたフィルタ演算を実行することによって測位を行う、
測位方法。
【請求項8】
整数値バイアス
の値が同じ複数時刻において受信した測位信号の擬似距離および搬送波位相積算値を検出する処理と、
前記擬似距離の時間差分値および前記搬送波位相積算値の時間差分値を算出する処理と、
前記時間差分値を用いた観測方程式および状態方程式を設定する処理と、
前記観測方程式と前記状態方程式とを用いたフィルタ演算を実行することによって測位を行う処理と、
を、演算処理装置に実行させる、測位プログラム。
【請求項9】
整数値バイアス
の値が同じ複数時刻において受信した測位信号の擬似距離および搬送波位相積算値を検出する処理と、
前記擬似距離の時間差分値および前記搬送波位相積算値の時間差分値を算出する処理と、
前記時間差分値を用いた観測方程式および状態方程式を設定する処理と、
前記観測方程式と前記状態方程式とを用いたフィルタ演算を実行することによって測位を行う処理と、
を、演算処理装置に実行させるプログラムが記憶された、測位プログラム記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSSの測位信号を用いて単独測位を行う測位技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単独測位を行う測位装置が各種考案されている。例えば、特許文献1に示すように、測位装置は、GPS(Global Positioning System)等のGNSS(Grobal Navigation Satellite Systems)の測位信号を受信し、擬似距離や搬送波位相積算値を用いて、位置の推定演算を行う。
【0003】
この際、測位装置は、特許文献1に示すようなカルマンフィルタを用いて、位置の推定演算を行う。そして、カルマンフィルタを用いる従来の方法では、電離層遅延および対流圏遅延等の誤差要因によって、位置の推定精度が低下してしまう。このような電離層遅延および対流圏遅延等の誤差要因を、観測方程式から消去するため、従来では、測位装置は、衛星間一重位相差、受信機間一重位相差、または、衛星と受信機の二重位相差を用いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の構成および方法では、対となる複数の測位衛星から測位信号を継続的に受信する必要があったり、複数の受信機(アンテナ)を必要とする。
【0006】
したがって、本発明の目的は、対となる複数の測位衛星からの測位信号を継続的に受信する必要が無く、少なくとも1つの受信機(アンテナ)によって、高精度な測位を実現する測位装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の測位装置は、受信部、および、測位演算部を備える。受信部は、複数時刻において受信した測位信号の擬似距離および搬送波位相積算値を検出する。測位演算部は、擬似距離の時間差分値および搬送波位相積算値の時間差分値を算出する。測位演算部は、時間差分値を用いて、観測方程式および状態方程式を設定する。測位演算部は、観測方程式と状態方程式とを用いたフィルタ演算を実行することによって測位を行う。
【0008】
この構成では、少なくとも1つの測位信号を複数の時刻で受信できていれば、観測方程式に含まれる未知数が少なくなり、測位精度が向上する。
【0009】
また、この発明の測位装置は、次の構成であってもよい。測位演算部は、移動体の測位を行う場合に、前記測位する位置を、WGS座標系から局地水平座標系へ座標変換する。測位演算部は、水平方向の動的モデルには、加速度の1次マルコフモデルを適用し、高さ方向の動的モデルには、速度の1次マルコフモデルを適用する。
【0010】
この構成では、移動体に対する状態方程式が、より適切に設定される。
【0011】
また、この発明の測位装置は、次の構成であってもよい。測位演算部は、水平方向の動的モデルに速度の項を含み、速度を、測位対象の速度として出力する。
【0012】
この構成では、位置とともに速度が算出される。
【0013】
また、この発明の測位装置は、次の構成であってもよい。測位演算部は、時間差分値算出部、二重差分値算出部、および、異常検出部を備える。時間差分値算出部は、擬似距離の時間差分値を複数時刻で算出する。二重差分値算出部は、複数時刻の擬似距離の時間差分値に対する二重時間差分値を算出する。異常検出部は、二重時間差分値が異常検出用閾値以上であれば、測位信号の受信の異常を検出する。
【0014】
この構成では、観測異常、すなわち、測位信号の受信の異常が、容易に検出される。
【0015】
また、この発明のアプリケーション装置は、上述のいずれかに記載の測位装置の各構成と、アプリケーション処理部と、を備える。アプリケーション処理部は、測位演算部で算出された位置を用いたアプリケーション情報を生成する。
【0016】
この構成では、高精度な測位結果が得られることよって、より適切なアプリケーション情報が生成される。
【0017】
また、この発明の測位システムは、基地局と測位衛星とを備える。基地局は、上述のいずれかに記載の測位装置の各構成、および、測位結果を用いて衛星軌道情報の補正情報を生成する補正情報生成部を備える。測位衛星は、補正情報生成部からの補正情報を測位信号とともに送信する。
【0018】
この構成では、高精度な補正情報が得られることによって、より高精度な測位が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、極簡素な構成および処理によって、高精度な測位を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)は、本発明の実施形態に係る測位装置の構成を示すブロック図であり、(B)は、測位演算部の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る測位方法を示すフローチャートである。
【
図3】異常検出を行う場合の測位演算部の構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】(A)は、本発明の実施形態に係る補正システムの構成を示す図であり、(B)は、基地局の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る測位装置および測位方法について、図を参照して説明する。
図1(A)は、本発明の実施形態に係る測位装置の構成を示すブロック図であり、
図1(B)は測位演算部の構成を示すブロック図である。
【0022】
図1(A)に示すように、測位装置10は、受信部30、測位演算部40、および、記憶部50を備える。受信部30および測位演算部40は、それぞれに、1または複数の半導体素子やICによって実現されている。なお、受信部30および測位演算部40は、情報処理装置と該情報処理装置によって実行されるプログラムによって実現できる。記憶部50は、磁気デバイスや半導体デバイス等の既知の記憶媒体によって実現されている。なお、記憶部50が半導体デバイスである場合には、記憶部50は、測位演算部40に含まれる構成であってもよい。
【0023】
受信部30は、アンテナ20に接続されている。なお、アンテナ20を測位装置10に含めてもよい。
【0024】
アンテナ20は、複数の測位衛星SAT(
図1では1つの測位衛星のみを図示しており、他の測位衛星の図示は省略している。)からの測位信号SSを受信し、受信部30に出力する。測位信号SSとは、例えば、既知のGPS(Grobal Positioning System)信号等のGNSS(Grobal Navigation Satellite Systems)で用いられる測位信号である。
【0025】
受信部30は、測位信号SSを捕捉、追尾して、測位信号SSの擬似距離ρおよび搬送波位相積算値Φを検出する。受信部30は、複数の時刻において、測位信号SSの擬似距離ρおよび搬送波位相積算値Φを検出する。受信部30は、各時刻での擬似距離ρおよび搬送波位相積算値Φを、測位演算部40に出力する。
【0026】
測位演算部40は、擬似距離ρおよび搬送波位相積算値Φを記憶部50に記憶する。
図1(B)に示すように、測位演算部40は、時間差分値算出部41とフィルタ演算部42とを備える。時間差分値算出部41は、複数時刻の擬似距離ρの差分値(時間差分値)Δρを算出する。時間差分値算出部41は、同じ複数時刻の搬送波位相積算値Φの差分値(時間差分値)ΔΦを算出する。
【0027】
フィルタ演算部42は、擬似距離ρの時間差分値Δρと、搬送波位相積算値Φの時間差分値ΔΦとを用いて、次に示す原理に則して状態方程式と観測方程式とを設定し、カルマンフィルタ処理を実行する。これにより、観測方程式に含まれる電離層遅延、対流圏遅延等の未知数は無くなり、測位精度が向上する。
【0028】
なお、以下では、測位信号としてGPS信号のL1信号を用いる場合を、一例として説明する。
【0029】
時刻tでの擬似距離ρ(t)の観測モデルは、次の(式1)で表される。この観測モデルは、複数の測位衛星SATのそれぞれに対して個別に設定される。
【0030】
ρ(t)=r(t)+δI(t)+δT(t)+cδt(t)
+δbCA+eCA(t) (式1)
(式1)において、r(t)は測位装置10と測位衛星SATとの幾何学距離であり、δI(t)は電離層遅延であり、δT(t)は対流圏遅延であり、δt(t)は測位装置10および測位衛星SATの時計誤差であり、δbCAは測位装置10および測位衛星SATのコードに対するバイアス誤差であり、eCA(t)は観測誤差である。また、cは光速である。
【0031】
また、時刻tでの搬送波位相積算値Φ(t)の観測モデルは、次の(式2)で表される。この観測モデルは、複数の測位衛星SATのそれぞれに対して個別に設定される。
【0032】
Φ(t)=r(t)-δI(t)+δT(t)+cδt(t)
+δbL1+λN+λεL1(t) (式2)
(式2)において、r(t)は測位装置10と測位衛星SATとの幾何学距離であり、δI(t)は電離層遅延であり、δT(t)は対流圏遅延であり、δt(t)は測位装置10および測位衛星SATの時計誤差であり、δbL1は測位装置10および測位衛星SATの搬送波位相に対するバイアス誤差であり、NはL1信号に対する整数値バイアスであり、εL1(t)は観測誤差である。また、cは光速である。
【0033】
ここで、時刻t1と時刻t2を設定し、時刻t1と時刻t2との時間間隔を短く設定する。例えば、時間間隔を約10秒以下とする。なお、時間間隔は、測位衛星の速度および測位装置の概略の移動速度に応じて適宜設定すればよく、一例として3秒から5秒程度であるとよい。時刻t1と時刻t2との時間間隔が短いと、測位衛星および測位装置の移動距離は小さい。したがって、時刻t1での電離層遅延δI(t1)と、時刻t2での電離層遅延δI(t2)とは、一致しているものとして考えることが可能である。同様に、時刻t1での対流圏遅延δT(t1)と、時刻t2での対流圏遅延δT(t2)とは、一致しているものとみなせる。
【0034】
したがって、電離層遅延δI(t1)と電離層遅延δI(t2)との差分値は略0である。同様に、対流圏遅延δT(t1)と対流圏遅延δT(t2)との差分値も略0である。
【0035】
また、時刻t1と時刻t2との時間間隔が短く、測位衛星および測位装置の移動距離は小さいので、時刻t1での整数値バイアスと時刻t2での整数値バイアスとは同じとして考えることができる。
【0036】
また、測位装置および測位衛星の時計誤差やバイアス誤差は、時刻t1と時刻t2で変化しないと考えることができる。
【0037】
したがって、時刻t1での擬似距離ρ(t1)と時刻t2での擬似距離ρ(t2)との時間差分値Δρ(t1,t2)は、次の(式3)で近似できる。
【0038】
Δρ(t1-t2)=r(t1)-r(t2)+ECA(t1,t2) (式3)
なお、ECA(t1,t2)は、擬似距離の時間差分値Δρに対するコード位相の観測誤差である。
【0039】
同様に、時刻t1での搬送波位相積算値Φ(t1)と時刻t2での搬送波位相積算値Φ(t2)との時間差分値ΔΦ(t1,t2)は、次の(式4)で近似できる。
【0040】
ΔΦ(t1-t2)=r(t1)-r(t2)+EL1(t1,t2) (式4)
なお、EL1(t1,t2)は、搬送波位相積算値の時間差分値ΔΦに対する搬送波位相の観測誤差である。
【0041】
ここで、r(t)は、測位装置10と測位衛星SATとの距離であり、測位装置10の位置をu(t)、測位衛星SATの位置をSp(t)とし、距離演算を示す記号をDISとすると、次の(式5)となる。
【0042】
r(t)=DIS(u(t)-Sp(t)) (式5)
測位衛星SATの位置Sp(t)は、測位信号に重畳された航法メッセージ、他の精密軌道情報が提供されるシステム(例えば、MADOCA)からの情報等によって取得が可能である。
【0043】
したがって、上述の(式3)および(式4)に、(式5)を代入することによって、測位装置10の位置u(t)に対する、擬似距離の時間差分値Δρおよび搬送波位相差積算値の時間差分値ΔΦを用いた観測モデルを設定できる。そして、この観測モデルを用いることによって、既知の式変形から、測位装置10の位置に対する観測方程式を設定できる。
【0044】
また、状態方程式は、次のように設定できる。
【0045】
(A)静止状態(Static)の場合
静止状態の場合、測位装置10は移動していない。したがって、u(tk)=u(tk-1)となり、状態方程式を設定できる。
【0046】
したがって、静止状態に対して、カルマンフィルタを適用でき、測位装置10の位置u(t)を推定演算できる。なお、観測誤差が白色雑音で仮定できる場合は、一般的なカルマンフィルタの理論を用いればよく、観測誤差が有色雑音の場合は、状態・観測雑音に相関のあるカルマンフィルタの理論を用いればよい。
【0047】
(B)移動状態(kinematic)の場合
移動状態の場合、測位装置10の移動モデルを、加速度または速度を用いた1次近似モデルで設定する。具体的には、例えば、次のように設定する。まず、位置u(t)をWGS座標系からENU座標系に変換する。この座標変換は、既知の方法によって実現可能である。
【0048】
そして、ENU座標系におけるEast方向とNorth方向の移動モデルは、加速度1次マルコフモデルに設定する。また、ENU座標系におけるUp方向の移動モデルは、速度1次マルコフモデルに設定する。
【0049】
これにより、移動状態に対する状態方程式を設定できる。
【0050】
したがって、移動状態に対して、カルマンフィルタを適用でき、測位装置10の位置u(t)を推定演算できる。
【0051】
以上のような構成および処理を用いることによって、観測方程式における、電離層遅延、対流圏遅延、時計誤差、およびバイアス誤差の誤差要因を無くすことができ、推定精度を向上できる。また、1重位相差、2重位相差を用いないことによって、演算が簡素化される。さらに、少なくとも1つのアンテナで測位演算が可能である。
【0052】
なお、移動状態の場合においては、カルマンフィルタに用いる二時刻tk-1、tkの時間差が極小さいと、距離差r(tk)-r(tk-1)に相当する値を算出するための位置u(tk)、u(tk-1)に乗算する勾配ベクトルG(tk-1)、G(tk)が殆ど変化しない。この場合、G(tk)-G(tk-1)によって決まるカルマンゲインが小さくなり、推定誤差が大きくなってしまうことがある。
【0053】
この場合、位置差u(tk)-u(tk-1)を未知数として、勾配ベクトルG(tk-1)、G(tk)が殆ど同じであることを利用して、勾配ベクトルの平均値(G(tk-1)+G(tk))/2を用いて観測方程式を設定すればよい。これにより、安定して、高精度な測位が可能になる。
【0054】
また、移動状態の場合、状態方程式に含まれる速度の項を用いることによって、測位装置10は、速度を算出することも可能である。
【0055】
また、上述の構成では、1つのアンテナを用いる態様を示したが、複数のアンテナを用いてもよい。この場合、測位装置10は、複数のアンテナのそれぞれに対して、上述の測位演算を実行する。そして、測位装置10は、これらの複数のアンテナの位置に対する平均値等の統計処理を行ってもよい。これにより、位置の推定精度をさらに向上することが可能になる。
【0056】
また、上述の説明では、各処理をそれぞれの機能部で分担して実行する態様を示した。しかしながら、上述の各処理をプログラム化して記憶部50に記憶しておき、CPU等の演算装置で実行してもよい。この場合、
図2に示す処理を実行すればよい。
図2は、本発明の実施形態に係る測位方法を示すフローチャートである。
【0057】
演算装置は、第1時刻t1での擬似距離ρ1と搬送波位相積算値Φ1を検出する(S101)。演算装置は、第2時刻t2での擬似距離ρ2と搬送波位相積算値Φ2を検出する(S102)。
【0058】
演算装置は、第1時刻t1の擬似距離ρ1と第2時刻t2の擬似距離ρ2との時間差分値Δρ12=ρ1-ρ2を算出する。また、演算装置は、第1時刻t1の搬送波位相積算値Φ1と第2時刻t2の搬送波位相積算値Φ2との時間差分値ΔΦ12=Φ1-Φ2を算出する(S103)。
【0059】
演算装置は、擬似距離の時間差分値Δρ12、および、搬送波位相積算値の時間差分値ΔΦ12を観測値として、測位装置の位置を推定するための状態方程式および観測方程式を設定する(S104)。
【0060】
演算装置は、ステップS104で設定した状態方程式および観測方程式に対してカルマンフィルタ処理を実行し、測位装置の位置を算出する(S105)。
【0061】
なお、上述の測位装置および測位方法では、観測値に異常検出も可能である。
図3は、異常検出を行う場合の測位演算部の構成を示すブロック図である。
【0062】
測位演算部40Aは、時間差分値算出部41、二重差分値算出部43、および、異常検出部44を備える。時間差分値算出部41は、複数時刻の擬似距離ρの差分値(時間差分値)Δρを算出する。二重差分値算出部43は、異なる時刻で得られた時間差分値Δρaと時間差分値Δρbとの二重差分値ΔΔρabを算出する。異常検出部44は、二重差分値Δρabを異常検出用の閾値Thと比較する。異常検出部44は、二重差分値Δρabが異常検出用の閾値Thを超えていれば、観測値の異常、すなわち、測位信号の受信の異常を検出する。
【0063】
なお、この異常検出処理は、上述のように演算処理装置とプログラムによって実現することもできる。
図4は、観測値の異常検出のフローチャートである。
【0064】
測位装置10の測位演算部40は、擬似距離の時間差分値Δρの更なる時間差分値である二重差分値ΔΔρを算出する(S202)。具体的には、測位演算部40は、上述のように、第1時刻t1の擬似距離ρ1と第2時刻t2の擬似距離ρ2との時間差分値Δρ12を算出する。また、測位演算部40は、同様に、第2時刻t2の擬似距離ρ2と第3時刻t3の擬似距離ρ3との時間差分値Δρ23を算出する。測位演算部40は、時間差分値Δρ23と時間差分値Δρ12との二重差分値ΔΔρを算出する。なお、この説明では、2つの時間差分値に同じ時刻の擬似距離が含まれているが、これに限るものではない。
【0065】
測位演算部40は、二重差分値ΔΔρを、異常検出用の閾値Thと比較する(S202)。異常検出用の閾値Thは、既に取得している測位結果等を参照して、必要とする測位精度よりも劣化したときの時間差分値の変化量に基づいて設定されている。
【0066】
測位演算部40は、二重差分値ΔΔρが閾値Thを超えれば(S202:YES)、観測値である擬似距離が異常であると判定する(S203)。
【0067】
測位演算部40は、二重差分値ΔΔρが閾値Thを超えなければ(S202:NO)、観測値である擬似距離が正常であると判定する(S204)。
【0068】
このように、本実施形態の構成および処理を用いることによって、観測値の異常を検出できる。なお、この説明では、擬似距離の場合を示したが、搬送波位相積算値を用いても異常の検出は可能である。
【0069】
上述の測位装置は、自装置の位置を用いた各種のアプリケーション装置に適用できる。例えば、
図5は、本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の構成を示すブロック図である。
【0070】
図5に示すように、ナビゲーション装置1は、測位装置10、アンテナ20、および、ナビゲーション処理部61を備える。ナビゲーション装置1が、本発明の「アプリケーション装置」に対応し、ナビゲーション処理部61が、本発明の「アプリケーション処理部」に対応する。
【0071】
測位装置10およびアンテナ20は、上述の構成を備える。測位演算部40は、測位結果を、ナビゲーション処理部61に出力する。
【0072】
ナビゲーション処理部61は、測位結果を適用した既知の方法から、自装置が搭載される移動体の目的位置までのルート照会、ルート案内、または、現在位置の周辺情報等のナビゲーション情報を生成する。ナビゲーション処理部61は、ナビゲーション情報を、図示しない表示部等に表示する。ここで、本実施形態の測位装置10を用いることによって、自装置位置を高精度に得られるので、ナビゲーション装置1は、高精度なルート照会、ルート案内や、より適切な周辺情報を提供できる。
【0073】
上述の説明では、測位装置の位置を算出する態様を示したが、測位装置を基地局に備えて、上記の推定演算を用いて、測位衛星の位置を高精度に算出することも可能である。そして、この算出結果を用いることによって、衛星軌道情報に対する補正情報を算出することもできる。
図6(A)は、本発明の実施形態に係る補正システムの構成を示す図であり、
図6(B)は、基地局の構成を示すブロック図である。
【0074】
図6(A)、
図6(B)に示すように、基地局2は、測位装置10、アンテナ20、送信用アンテナ20T、補正情報生成部71、および、送信部72を備える。アンテナ20および測位装置10は、上述の構成を備える。測位演算部40は、測位結果を、補正情報生成部71に出力する。
【0075】
補正情報生成部71は、基地局2の位置(補正用の基準位置)を予め記憶している。補正情報生成部71は、補正用の基準位置と測位位置とを比較する。補正情報生成部71は、補正用の基準位置と測位位置との比較結果から、既知の方法を用いて、衛星位置の誤差を算出する。補正情報生成部71は、この衛星位置の誤差から衛星軌道情報の補正情報を生成する。補正情報生成部71は、補正情報を送信部72に出力する。
【0076】
送信部72は、送信用アンテナ20Tを介して、補正情報を測位衛星SATに送信する。測位衛星SATは、受信した補正情報によって、補正情報の更新を行う。
【0077】
このようなシステムの構成を用いることによって、補正情報を高精度に更新でき、測位精度が向上する。
【符号の説明】
【0078】
1:ナビゲーション装置
2:基地局
10:測位装置
20:アンテナ
30:受信部
40:測位演算部
41:時間差分値算出部
42:フィルタ演算部
43:二重差分値算出部
44:異常検出部
50:記憶部
61:ナビゲーション処理部
71:補正情報生成部
72:送信部
20T:送信用アンテナ
SAT:測位衛星
SS:測位信号