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  • 特許-受圧構造物用固定具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】受圧構造物用固定具
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019154881
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031997
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591028979
【氏名又は名称】北陽建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110434
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】原 滋俊
(72)【発明者】
【氏名】桜井 哲弥
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-118204(JP,A)
【文献】特開平09-279592(JP,A)
【文献】特開平11-061837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部分に孔部を有し法面に設置された盤状の受圧構造物の前記孔部に嵌合される受圧構造物用固定具であって、
前記孔部と嵌合したときに、前記受圧構造物底部の一部を構成し、前記法面から突出するロックボルトの頭部が挿通可能な開口部が設けられた底面部と、
前記底面部の底辺部位置から立設された側面部と、
前記側面部を立設方向に対して折り曲げることにより形成され、盤表面と当接することで前記受圧構造物を支持する支持面部とを備えること
を特徴とする受圧構造物用固定具。
【請求項2】
前記底面部と前記底面部の底辺部位置から立設された側面部とは上面が開放された有底直方体形状を構成すること
を特徴とする請求項1に記載の受圧構造物用固定具。
【請求項3】
前記受圧構造物用固定具は溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板から一体成型されること
を特徴とする請求項1に記載の受圧構造物用固定具。
【請求項4】
前記溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の板厚は4.5mm以上であること
を特徴とする請求項3に記載の受圧構造物用固定具。
【請求項5】
前記受圧構造物は縦桟と横桟とからなる升目が格子状構造を有するものであって、前記孔部は複数個の前記升目を構成する前記縦桟と前記横桟とが除かれた孔として形成されること
を特徴とする請求項1に記載の受圧構造物用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に法面対策工に用いられる受圧構造物を固定するための固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面の保護・補修や緑化等を目的とする施工では、法面に打設したロックボルト(補強鉄筋)の頭部を介して受圧構造物を設置した後、当該頭部を六角ナット等で締着することにより受圧構造物を法面に対して圧着させることが行われている。
【0003】
上記施工で用いられる受圧構造物としては、用途、施工場所に応じて様々なタイプのものが流通しており、中でも、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)からなり、盤状の受圧構造物(例えば、特許文献1参照)が、軽量・強靭・耐食性等の優れた特性を有するとして好まれて使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-90044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1等で例示される盤状の受圧構造物は、縦桟と横桟とからなる複数の升目が格子状に配置されており、その中央部分には鉄筋挿入工用の孔部が設けられている。孔部は、升目を構成する縦桟と横桟とが除かれた孔として形成されている。孔部は、モルタルやコンクリート又はそれらに代わる充填剤で充填されないと、受圧構造物としての圧着面積不足を招くことになる。また、孔部が空洞のままであると、鉄筋が浮いた状態となり、特に雪国等では雪の重みで鉄筋が下方に引っ張られ、受圧構造部が破損することがある。そのため、当該孔部には充填剤による充填が推奨されている。充填剤による充填を行わない場合を考慮し、例えば、線バネを屈曲することにより形成した位置決め部材を用いて受圧構造物の位置決めを行うものも知られている。ただし、この位置決め部材では、法面が不陸であるために設置が困難であり、また設置出来たとしても格子状受圧構造物から外れてしまうことがあった。
【0006】
上記形状的な問題に加え、受圧構造物の施工には施工の煩雑さといった問題も有している。作業員は法面頂上からロープでぶら下がりながら、受圧構造物を設置した後、孔部に充填剤を充填する必要がある。重い充填剤を持ち、ロープでぶら下がりながら充填作業を行うにはかなりの重労働が強いられる。ましてや法面が急勾配である場合、重労働に加え、安全性の確保にも配慮する必要がある。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであり、本発明は、受圧構造物の性能担保と施工の簡便さを図ることができる受圧構造物用固定具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る受圧構造物用固定具は、中央部分に孔部を有し法面に設置された盤状の受圧構造物の前記孔部に嵌合される受圧構造物用固定具であって、孔部と嵌合したときに、受圧構造物底部の一部を構成し、法面から突出するロックボルトの頭部が挿通可能な開口部が設けられた底面部と、底面部の底辺部位置から立設された側面部と、側面部を立設方向に対して折り曲げることにより形成され、盤表面と当接することで受圧構造物を支持する支持面部とを備えることを特徴としている。
【0009】
また、上記の本発明に係る受圧構造物用固定具は、底面部と前記底面部の底辺部位置から立設された側面部とは上面が開放された有底直方体形状を構成することを特徴としている。
【0010】
さらに、上記の本発明に係る受圧構造物用固定具は、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板から一体成型されることを特徴としている。このとき、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の板厚は4.5mm以上であることが好ましい。
【0011】
さらにまた、上記の本発明に係る受圧構造物用固定具が固定する受圧構造物は、縦桟と横桟とからなる升目が格子状構造を有するものであって、孔部は複数個の升目を構成する縦桟と横桟とが除かれた孔として形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、受圧構造物の性能担保と施工の簡便さを図ることができる受圧構造物用固定具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る受圧構造物用固定具10の構成を説明するための斜視図である。
図2】(a)は受圧構造物用固定具10の構成を説明するための上面図であり、(b)は下面図である。
図3】本実施形態に係る受圧構造物用固定具10の受圧構造物50に対する嵌合状態を説明するための上方斜視図である。
図4】本実施形態に係る受圧構造物用固定具10の受圧構造物50に対する嵌合状態を説明するための下方斜視図である。
図5】本実施形態に係る受圧構造物用固定具10を用い、法面Sに対して受圧構造物50を支持・固定する施工法を説明するための断面図である。
図6】受圧構造物50の一形態を説明するための斜視図である。
図7】他の実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0015】
本実施形態に係る受圧構造物用固定具10の説明に先立ち、受圧構造物用固定具10が支持・固定する受圧構造物50の構成について図6を用いて説明する。図6は受圧構造物50の一形態を説明するための斜視図であり、このような受圧構造物50の具体的態様として、株式会社ダイクレ製のグリーンパネル(登録商標)を挙げることができる。図6に示すように、受圧構造物50は、縦桟51と横桟53とからなる複数の正方状の升目55が格子状(本実施形態では9行×9列)に配置された盤状のFRP構造物である。受圧構造物50の中央部分にはロックボルトの頭部挿入用の孔部57が設けられている。孔部57は縦桟51と横桟53とが除かれた升目9個に相当する孔として形成されている。従来技術に係る施工では、法面に対する圧着面積不足の解消のため、モルタル等の充填剤が孔部57に充填される。本実施形態に係る受圧構造物用固定具10は、モルタル充填を不要としながらも受圧構造物50の法面に対する圧着面積不足の解消を図ることを可能とするものであり、以下詳細に説明する。
【0016】
図1は本実施形態に係る受圧構造物用固定具10の構成を説明するための斜視図である。図2(a)は受圧構造物用固定具10の構成を説明するための上面図であり、図2(b)は下面図である。
【0017】
本実施形態に係る受圧構造物用固定具10は、中央部に孔部57を有する盤状の受圧構造物50を法面に対して支持・固定するものであって、当該孔部57と嵌合したときに、受圧構造物50底部の一部を構成し、法面から突出するロックボルト頭部が挿通可能な開口部が設けられた底面部と、底面部の底辺位置から立設された側面部と、側面部を立設方向に対して折り曲げることにより形成され、盤表面と当接することで受圧構造物50を支持する支持面部とを備えるものである。具体的には、図1図2(a)及び図2(b)に示されるように、本実施形態に係る受圧構造物用固定具10は、略正方形状となるように形成され、その中央に法面に打設されたロックボルトの頭部を挿通可能な円形状の開口部13が設けられた底面部11を有する。底面部11は孔部57との嵌合が可能となるように、当該孔部57の表面積(本実施形態では3行×3列分)よりも幾分小さい表面積を有するように構成され、底面部11の四方を形成する底辺部15からは側面部17が垂直方向に立設されている。側面部17には、受圧構造物50の孔部57と嵌合した際に当該受圧構造物57の盤表面と当接可能となるように、立設方向に対して略水平方向に折り曲げられた支持面部19が形成されている。
【0018】
すなわち、底面部11の表側底面部11aと四方の底辺部15から立設された側面部17とは上面が開放された有底直方体形状を形成し、その内部空間21には開口部13を介して挿通されたロックボルト頭部及び当該頭部を表側底面部11aに締着させるワッシャーやナット等が収容されることになる。従来技術に係る施工では、孔部57に充填され、固着したモルタル等の充填剤上部においてナット等を介したロックボルトの締着が行われるため、ロックボルト頭部が受圧構造物50の盤表面から大きく突出することになる。受圧構造物50からのロックボルト頭部の不必要な突出は圧迫感を与え、景観を損なうだけでなく、安全性への影響も危惧される。これに対して本実施形態に係る受圧構造物用固定具10によれば、内部空間21にロックボルト頭部及びワッシャー、ナットといったロックボルト頭部の締着に係る部材を収めることにより低頭化が可能であるため、圧迫感を低減し、景観並びに安全性に優れた施工を行うことができる。
【0019】
このような構成を有する受圧構造物用固定具10は、軽量、強靭且つ加工の容易さ等の観点から溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(ZAM鋼板(登録商標))を材料とし、これを船底型にプレス加工することで一体成型することができる。溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板は、高耐久めっき処理が施された鋼板であり、プレス加工してもめっきが剥がれ落ちず、一般のアルミめっきと比べ5~8倍の優れた耐食性とコストダウンとを可能とした鋼板である。なお、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板を用いる場合、板厚は4.5mm以上とすることが好ましい。本願発明者らは、当該鋼板を材料として用い本実施形態に係る受圧構造物用固定具10を試作して破壊荷重(最大荷重)試験を行ったところ、板厚を4.5mm以上とすることで120kN(板厚が6.0mm以上の場合は153kN)の耐荷重性を有することが明らかとなった。本実施形態に係る受圧構造物用固定具10が対象とする受圧構造物50を実際の法面に適用する場合、最大荷重でも100kN以下の荷重であるため、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の板厚を4.5mm以上とすることで耐荷重性に優れた受圧構造物用固定具10を提供することができる。
【0020】
図3は本実施形態に係る受圧構造物用固定具10の図6で説明する受圧構造物50に対する嵌合状態を説明するための上方斜視図であり、図4は本実施形態に係る受圧構造物用固定具10の受圧構造物50に対する嵌合状態を説明するための下方斜視図である。
【0021】
図3に示されるように、受圧構造物用固定具10の側面部17に形成された支持面部19は、受圧構造物50の孔部57と嵌合した際に当該受圧構造物50の盤表面Pと当接し、これを支持する。支持面部19は、表側底面部11aの四方の底辺部15から立設する側面部17を受圧構造物50の高さ方向長さHと略同じ長さとなる位置で当該立設方向に対して略水平方向に折り曲げることで形成されている。なお、本実施形態に係る各支持面部19は、盤表面Pの3升目分に相当する矩形領域を当接・支持するよう構成されるが、4カ所の支持面部19で、少なくとも120kNの耐荷重性を有するのであれば、その支持面領域・形状に制限はない。
【0022】
そして、図4に示されるように、受圧構造物50の孔部57と嵌合した際に、受圧構造物用固定具10の裏側底面部11bは、受圧構造物50の底部の一部を構成することになる。これにより、受圧構造物50の法面に対する圧着面積不足の解消を図ることができる。
【0023】
次に、本実施形態に係る受圧構造物用固定具10を用い、法面Sに対して受圧構造物50を支持・固定する施工法について図5を用いて説明する。まず、施工対象の法面Sに対して削孔した孔30(例えば、φ65mm×2000mm等)に、法面S表面から頭部が突出するようにロックボルト31を挿入し、孔隙間にグラウト33を注入することによりロックボルト31を固定する。なお、ロックボルト31としては、例えば、六角ナット37との螺合が可能となるように、表面に防錆用の亜鉛めっきが施された異形形棒鋼(D19~D25、長さ2000~5000mm等)を用いることができる。
【0024】
そして、孔部57を介してロックボルト31頭部が露出するように受圧構造物50を法面S表面に設置後、同じく開口部13を介してロックボルト31頭部が露出するように受圧構造物用子固定具10を孔部57に嵌合させる。最後にロックボルト31頭部をワッシャー35及び六角ナット37で締着し、受圧構造物50を固定する。なお、必要に応じて、ロックボルト31頭部を防錆加工を施したアルミキャップ部材で覆ってもよい。ロックボルト31頭部の締着に伴い、受圧構造物用固定具10の支持面部19は受圧構造物50の盤表面Pと当接し支持する。これにより、受圧構造物50を法面S表面に対し、所定の耐荷重性をもって圧着させることができる。加えて、本実施形態に係る受圧構造物用固定具10は、嵌合した際に受圧構造物50底部の一部を構成する底面部を有することから、法面S表面に対する受圧構造物50の圧着面積不足の解消を図ることができるため、モルタル充填の必要がなく、確実に受圧構造物50を法面S表面に固定することができる。
【0025】
上記説明においては、本実施形態に係る受圧構造物用固定具の形態の一例として、嵌合した際に受圧構造物底部の一部を構成する略正方形状の底面部を有し、上面が開放された有底直方体状に形成された構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図7に示すように、同心円状に配置された環状の桟61と、ロックボルト頭部が挿通される孔部67を形成する中央の環状の桟61から放射状に配置される桟63とで構成され、各升目65が円弧状に形成された受圧構造物60に対し、これを支持・固定する円環状の支持面部29を備えた受圧構造物用固定具20の形態とすることも可能である。
【0026】
受圧構造物用固定具20は、略正円形状となるように形成され、その中央に法面に打設されたロックボルトの頭部を挿通可能な円形状の開口部23が設けられた底面部21を有する。底面部21は孔部67との嵌合が可能となるように、当該孔部67の表面積よりも幾分小さい表面積を有するように構成され、底面部21の円周を形成する円周部25からは側面部27が垂直方向に立設されている。側面部27には、受圧構造物60の孔部67と嵌合した際に当該受圧構造物67の盤表面と当接可能となるように、立設方向に対して略水平方向に折り曲げられた円環状の支持面部29が形成されている。
【0027】
図7で示す受圧構造物用固定具20を用いた場合においても、孔部67を介してロックボルト頭部が露出するように受圧構造物60を法面表面に設置後、同じく開口部23を介してロックボルト頭部が露出するように受圧構造物用子固定具20を孔部67に嵌合させる。最後にロックボルト頭部をワッシャー及び六角ナットで締着し、受圧構造物60を固定する。ロックボルト頭部の締着に伴い、受圧構造物固定具20の支持面部29は受圧構造物60の盤表面と当接し支持する。これにより、受圧構造物60を法面表面に対し、所定の耐荷重性をもって圧着させることができる。加えて、受圧構造物用固定具20は、嵌合した際に受圧構造物60底部の一部を構成する底面部を有することから、法面表面に対する受圧構造物60の圧着面積不足の解消を図ることができるため、モルタル充填の必要がなく、確実に受圧構造物50を法面S表面に固定することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態に係る受圧構造物用固定具によれば、受圧構造物の性能担保と施工の簡便さを図ることができる受圧構造物用固定具を提供することができる。
【符号の説明】
【0029】
10,20 受圧構造物用固定具
11,21 底面部
13,23 開口部
15 底辺部
25 円周部
17,27 側面部
19,29 支持面部
30 孔
31 ロックボルト
33 グラウト
35 ワッシャー
37 六角ナット
50,60 受圧構造物
51 縦桟
53 横桟
55,65 升目
57,67 孔部
61,63 桟
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7