(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】切削工具及び切削工具を使用したディスク保持治具の作製方法
(51)【国際特許分類】
B23D 13/00 20060101AFI20230814BHJP
B23D 13/04 20060101ALI20230814BHJP
B23D 5/02 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
B23D13/00
B23D13/04
B23D5/02
(21)【出願番号】P 2020088631
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】520154276
【氏名又は名称】株式会社テクノプラスト
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(72)【発明者】
【氏名】中村 明
(72)【発明者】
【氏名】中村 亨
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録実用新案第20-0425304(KR,Y1)
【文献】特開2011-194481(JP,A)
【文献】特開2003-127026(JP,A)
【文献】特表2009-512567(JP,A)
【文献】特表2010-535639(JP,A)
【文献】特開2017-119344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 13/00
B23D 13/04
B23D 5/02
B23C 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形であって中心軸を中心に回転させる回転体と、
前記回転体の側面から放射方向に延出して形成された切削刃と、
を備え、
前記切削刃は、四角柱の先端に
前記回転体の中心軸方向に視認した場合に前記切削刃の側面に対して斜めに形成された刃が形成され、前記回転体の回転方向に前記刃の先端が配置されるように取り付けられており、
前記回転体は、円柱状の第1回転体と、前記第1回転体と略同直径を有する第2回転体と、に分割可能であり、
前記第1回転体には、前記切削刃が取付可能な切削刃用溝が設けられており、
前記第2回転体は、前記第1回転体と一体とした場合に、前記切削刃用溝に相当する位置に切削刃固定用ボルトを挿入するためのねじ穴を有しており、前記切削刃固定用ボルトを締め付けることで前記切削刃を前記切削刃用溝に固定可能であることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記切削刃用溝には、前記切削刃の刃と反対側には、前記切削刃の前記回転体からの突出量を調整可能な突出量調整ねじが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記切削刃は、回転軸方向に間隔を有し、かつ回転方向に角度をずらして複数設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記複数の切削刃は、中心からずらして配置されていることを特徴とする請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記複数の切削刃は、隣接する切削刃と当接しており、すべての前記切削刃を前記切削刃を介して押圧可能な固定用ボルトを有することを特徴とする請求項3又は4に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具及び切削工具を使用したディスク保持治具の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの平板に溝を形成する方法として、種々の方法が提案されている。例えば、マシングによって切削加工する方法や、プラスチックインジェクションによって、成形加工する方法等がある。
【0003】
マシニングを使用して溝を形成する方法としては、例えば、マシニングセンタ-にミニシエーパーカッターを保持し主軸を固定しシエーパー方式により加工することにより、円弧細深溝及びテ-パ面取り付細深溝をカッター剛性を高め高速、高精度に加工する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、切削工具及び切削工具を使用したディスク保持治具の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明にかかる切削工具は、
円柱形であって中心軸を中心に回転させる回転体と、
前記回転体の側面から放射方向に延出して形成された切削刃と、
を備え、
前記切削刃は、四角柱の先端に刃が形成されており、前記刃は、先端が斜めに形成されており、前記回転体の回転方向に前記刃の先端が配置されるように取り付けられていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成を採用することによって、切削刃が回転体の外周を回転するので、この回転軌道に被切削物を配置することによって、被切削物に溝を作製することができる。
【0009】
また、本発明にかかる切削工具において、
前記回転体は、円柱状の第1回転体と、前記第1回転体と略同直径を有する第2回転体と、に分割可能であり、
前記第1回転体には、前記切削刃が取付可能な切削刃用溝が設けられており、
前記第2回転体は、前記切削刃用溝に向かって取り付けられる切削刃固定用ボルトによって前記切削刃を前記切削刃用溝に固定可能であることを特徴とするものであってもよい。
【0010】
かかる構成を採用することによって、切削刃を容易に回転体に取り付けることができ、交換も容易に行うことができる。
【0011】
さらに、本発明にかかる切削工具において、
前記切削刃用溝には、前記切削刃の刃と反対側には、切削刃の回転体からの突出量を調整可能な突出量調整ねじが設けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0012】
かかる構成を採用することによって、切削刃の回転体からの微妙な突出量の調整を行うことができるようになる。
【0013】
さらに、本発明にかかる切削工具において、
前記切削刃は、回転軸方向に間隔を有し、かつ回転方向に角度をずらして複数設けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0014】
かかる構成を採用することによって、一回転で複数の溝を作製することができる。
【0015】
さらに、本発明かかる切削工具において、前記複数の切削刃は、中心からずらして配置されていることを特徴とするものであってもよい。
【0016】
かかる構成を採用することによって、回転中心に切削時に応力が集中することを防止することができ、切削刃及び回転体の寿命を伸ばすことができる。
【0017】
さらに、本発明にかかる切削工具において、前記複数の切削刃は、隣接する切削刃と当接しており、すべての切削刃を切削刃を介して押圧可能な固定用ボルトを有することを特徴とするものであってもよい。
【0018】
かかる構成を採用することによって、1つの切削刃固定用ボルトによって、すべての切削刃を固定することができる。
【0019】
また、本発明にかかる切削工具を使用してディスク保持治具を作製する方法は、
先端側が細くかつ薄くなるように形成された複数の突起部が長尺のプラスチック板の長手方向に沿って間に溝を有するように複数並列して形成され、
前記突起部とは、側面が傾斜面で形成され根元側の第1側面と側面が垂直面で形成された先端側の第2側面とを有し、表面及び前記第1側面からなる辺と表面及び前記第2側面とからなる辺とは、180°以下の角度を有し、
前記突起部の第1側面と隣接する第1側面とは、根元側にV字状に形成されたV字溝を有することを特徴とするディスク保持治具を作製するための作製方法において、
前記切削刃の回転軌道が前記第1側面と一致する位置となるように、プラスチック板を配置した後、前記回転体を回転させてプラスチック板を切削する工程と、
前記切削刃の回転軌道が前記第2側面と一致する位置となるように、プラスチック板を配置した後、前記回転体を回転させてプラスチック板を切削する工程と、
からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる切削工具によれば、複雑な突起部を有する溝を効率よくかつ正確に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1Aは、第1実施形態にかかる切削工具100の斜視図であり、
図1Bは、切削工具100の分解斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態にかかる切削工具100の第1回転体11の正面図である。
【
図3】
図3Aは、切削刃20の正面図であり、
図3Bは、切削刃20の側面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態にかかる切削工具100で作製されるディスク保持治具200の正面図及び断面図である。
【
図5】
図5は、ディスク保持治具200の使用方法を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明にかかる切削工具100を使用してディスク保持治具200を作製する方法を説明する説明図である。
【
図7】
図7Aは、第2実施形態にかかる切削工具100の斜視図であり、
図7Bは、切削工具100の分解斜視図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態にかかる切削工具100の第1回転体11の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明にかかる切削工具100及び切削工具100を使用したディスク保持治具200の作製方法の実施形態について、図を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0023】
本実施形態にかかる切削工具100の斜視図が
図1に示されている。切削工具100は、
図1Aに示すように、主として、略円柱形の回転体10と、この回転体10の側面から放射方向に延出するように取り付けられる切削刃20と、を備えている。回転体10は、
図1Bに示すように、円柱状の第1回転体11と、第1回転体11と略同じ直径を有する第2回転体12と、を備えている。
【0024】
第1回転体11には、切削刃20が挿入可能な切削刃用溝11bが第2回転体12側の底面11cが開口するように設けられている。切削刃用溝11bは、
図2に示すように切削刃20が突出する側と反対側は、ねじ穴が設けられており、突出量調整ねじ30が挿入されている。この突出量調整ねじ30は、第1回転体11の内部に配置される長さに形成されており、全長に渡ってねじ溝が設けられている。また、端面には六角孔等が形成されていて、切削刃用溝11bへの突出長さを調整することができ、これにより、切削刃20の微妙な回転体10からの突出量を調整することができる。また、第2回転体12側の底面11cには、
図1に示すように第2回転体12側に設けられる固定用ボルト13のねじ穴11dが複数形成されている。
【0025】
一方、第2回転体12には、ねじ穴11dに螺合する固定用ボルト13が挿入される固定用ボルト孔12cが設けられており、この固定用ボルト孔12cを介して固定用ボルト13(図はねじ溝が省略されている。)でねじ穴11dに固定することよって第1回転体11と第2回転体12とを一体にすることができる。第1回転体11と第2回転体12を一体とした場合に、切削刃用溝11bに相当する位置に切削刃20を固定するための切削刃固定用ボルト14(図はねじ溝が省略されている。)を挿入するためねじ切りされたねじ穴12dが設けられている。
【0026】
切削刃20は、
図3に示すように、四角柱の先端に刃21が形成されている。刃21は、
図3Aに示すように、正面20aから見た場合に先端が斜めに形成されており、側面20bから見た場合には、先端が三角形となるように形成されている。
【0027】
こうして作製された第1回転体11、第2回転体12及び切削刃20は、切削刃用溝11bに切削刃20を挿入する。この際に、切削刃20は回転体10の回転方向に刃21の先端21aが配置されるように、すなわち、裏側20cが回転方向側に配置されるように挿入する。そして、切削刃20が挿入された状態で、第2回転体12を第1回転体11に重ねるようにして配置し、固定用ボルト13で第2回転体12は第1回転体11に固定される。さらに、切削刃固定用ボルト14を締め付けることで切削刃20が回転体10に固定される。
【0028】
次に、こうして作製された切削工具100の使用方法について説明する。まず、切削工具100によって作製されるディスク保持治具200について説明する。ディスク保持治具200の正面図及び断面図が
図4に示されている。本実施形態にかかるディスク保持治具200は、
図5に示すように、コンパクトディスク、DVD等の光ディスク300を複数枚保持し、これら光ディスク300を洗浄したり、ディスク表面に被膜を作製したり、改質するために、所定の液体に浸漬するための治具として使用される。
【0029】
本実施形態にかかるディスク保持治具200は、
図4に示すように、長尺の長方形からなるプラスチック板の長い側面の一方に山形状の突起部210が複数連なるように並列して形成されている。突起部210と突起部210との間の溝211に光ディスク等は保持される。突起部210は、
図4の拡大図に示すように、根元部212から長手方向dに対して傾斜角度αが大きい第1傾斜部213と、中腹から長手方向dに対して傾斜角度βが小さく形成される第2傾斜部214とを有するように途中で角度が変化する2つの傾斜部213、214で形成されている。すなわち、第1傾斜部213と第2傾斜部214とは、180°以下の角度を有するように形成されている。また、先端は長手方向と水平となるように面取りがされている。第1傾斜部213の側面である第1側面215は傾斜面で形成されており、その根元部212側の一部は、
図4のA-A断面図に示すように、V字状の溝に形成されており、途中から隣接する突起部210との間に溝211を有するように作製される。第2傾斜部214の側面である第2側面216は、
図4のB-B断面図に示すように、プラスチック板の表面に対して垂直となるように形成されている。突起部210は、
図4のC-C断面図に示すように、表面側が傾斜して形成されており、根元から先端に向かうに従って薄くなるように作製されている。こうして作製された突起部210によれば、突起部210と隣接する突起部210との間に光ディスク等を載置する際に、始めは、突起部210と隣接する突起部210との間の溝211が広く形成されるため、挿入しやすくすることができ、載置された状態では、V字状の溝211に光ディスク等が保持されることによって、光ディスク等がV字の両側によってしっかり当接される。そのため長手方向への移動が抑えられ確実に保持することができる。
【0030】
上述したように、突起部210は、複雑な形態をなしており、通常切削では作製が困難であるが、本発明は、以下のような作製方法を採用することによって、上述した突起部210を作製することができる。まず、長方形のプラスチック板であって、突起部210を作製する側の表面側が傾斜して先端に向かうに従って薄くなるように作製されている長方形のプラスチック板を用意する。切削工具100は回転機構を有する装置、例えばNC旋盤機等に回転体10が中心軸ax(
図1参照)を中心に回転するように取り付ける。そして、
図6に示すように、切削刃20の回転軌道Rが第1側面215と一致する位置に調整する。この段階で切削工具100を回転させる。これにより、第1側面215が作製される。次に、切削刃20の回転軌道Rと、ディスク保持治具200を作製するプラスチック板との相対位置を変更し切削刃20の回転軌道Rが第2側面216と一致する位置に調整し、切削工具100を回転させることで、垂直の第2側面216を有する溝211が作製される。そして、隣り合う溝を作製するために、切削工具100を隣り合う溝211の作製位置となるように溝幅γ分移動し、同様の工程を繰り返すことにより、複数の溝211が形成されると同時に突起部210が作製されることになる。
【0031】
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる切削工具100が
図7に示されている。第2実施形態にかかる切削工具100は、切削刃20が3つ設けられている点が第1実施形態と異なる。
【0032】
第2実施形態にかかる切削工具100は、切削刃用溝11bが、120°ずつ円周方向に角度を有するように設けられており、溝の深さは、切削刃20の軸の深さ方向の厚さΔと同じ厚さだけ順次、深くなるように形成されている。このため、切削刃20は、120°ずつずれた状態で取り付けられるとともに、切削刃20の先端は、軸方向に切削刃20の軸の厚さΔ分、順次ずれて配置される。この際に、切削刃20は隣り合う切削刃20とは、当接している状態となる。このすべての切削刃20が交差する位置に切削刃固定用ボルト14aを設けることによって、すべての切削刃20を順次押圧することになり、1つの切削刃固定用ボルト14aですべての切削刃20を固定することができる。勿論、
図7に示すように、個別の切削刃20用に切削刃固定用ボルト14を設けても良い。また、この際に、切削刃20は、
図8に示すように、切削刃20が被切削物を切削する際に、中心Cに応力が集中することがないように、中心Cからずれて配置されている。これにより、切削刃20及び回転体10の寿命を伸ばすことができる。
【0033】
かかる第2実施形態にかかる切削工具100を使用することによって、同時に隣接する3つの溝211を同時に作製することができ、作製時間の削減を図ることができる。
【0034】
なお、第2実施形態においては、切削刃20は3つ設けることとしたが、切削刃20の数は限定するものではない。切削刃20は、回転軸方向に間隔を有するように複数設けられているとともに、かつ回転方向に角度をずらして設けられていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
上述した実施の形態で示すように、切削工具100として産業上利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
10…回転体、11…第1回転体、11b…切削刃用溝、11c…底面、11d…ねじ穴、12…第2回転体、12c…固定用ボルト孔、12d…ねじ穴、13…固定用ボルト、14…切削刃固定用ボルト、14a…切削刃固定用ボルト、20…切削刃、20a…正面、20b…側面、20c…裏側、21…刃、21a…先端、100…切削工具、200…ディスク保持治具、210…突起部、211…溝、212…根元部、213…第1傾斜部、214…第2傾斜部、215…第1側面、216…第2側面、300…光ディスク