(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】水中通信装置及び水中通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 13/02 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
H04B13/02
(21)【出願番号】P 2020541193
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034265
(87)【国際公開番号】W WO2020050183
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2018165527
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://confit.atlas.jp/guide/print/jsap2019s/subject/11a-M113-11/detail 平成31年2月1日 2019年 第66回応用物理学会春季学術講演会 プログラム予稿集 平成31年2月25日 2019年 第66回応用物理学会春季学術講演会 東京工業大学 大岡山キャンパス(東京都目黒区大岡山2丁目12-1) 平成31年3月11日(開催期間:平成31年3月9日~平成31年3月12日)
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原田 洋
(72)【発明者】
【氏名】井山 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】梶家 美貴
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 佳斗
(72)【発明者】
【氏名】新谷 幸弘
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051932(WO,A1)
【文献】特開2012-233876(JP,A)
【文献】特開2017-161510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を発信する送信機と、
前記送信機と水を介して配置され、前記電気信号を受信する受信機と
を備える水中通信装置であって、
前記受信機は、
前記水に接する位置にチャネル領域が設けられた電界効果トランジスタと、
前記電界効果トランジスタのソース領域とドレイン領域の間に電位差を生じさせる駆動回路と
を有する水中通信装置。
【請求項2】
前記ソース領域と前記ドレイン領域上に保護膜を有する請求項1に記載の水中通信装置。
【請求項3】
前記送信機と前記受信機は、1m以上の間隔をあけて配置されている請求項1又は2に記載の水中通信装置。
【請求項4】
前記電気信号の周波数は、1kHz~10MHzである請求項1~3のいずれか1項に記載の水中通信装置。
【請求項5】
前記水が海水である請求項1~4のいずれか1項に記載の水中通信装置。
【請求項6】
電気信号を水中に発信する送信ステップと、
水を介して前記電気信号を受信する受信ステップと
を備える水中通信方法であって、
前記受信ステップは、前記水に接する位置にチャネル領域が設けられた電界効果トランジスタによって前記電気信号を受信する、水中通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中通信装置及び水中通信方法に関し、特に無線通信に適用するものである。
【背景技術】
【0002】
海などの水中における移動体同士の無線通信においては、音波や電磁波等の様々な通信媒体が用いられてきた。例えば、音波は、信号の減衰が少なく、伝送距離は長いが、伝送容量が小さく、伝送速度も低速である。電磁波は、減衰率が非常に大きいため実用的とはいえない。
【0003】
これに対し、光を用いた無線通信方式は、海水中での光の吸収が小さく、通信媒体に適している。光源として、レーザを用いた水中無線通信が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の場合、レーザは指向性が高いため、送信機と受信機を精度よく整列させる必要があるので、移動体通信に適用することは困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、水中における移動体通信に適用することができる水中通信装置及び水中通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る水中通信装置は、電気信号を発信する送信機と、前記送信機と水を介して配置され、前記電気信号を受信する受信機とを備える水中通信装置であって、前記受信機は、前記水に接する位置にチャネル領域が設けられた電界効果トランジスタと、前記電界効果トランジスタのソース領域とドレイン領域の間に電位差を生じさせる駆動回路とを有する。
【0008】
本発明に係る水中通信方法は、電気信号を水中に発信する送信ステップと、水を介して前記電気信号を受信する受信ステップとを備える水中通信方法であって、前記受信ステップは、前記水に接する位置にチャネル領域が設けられた電界効果トランジスタによって前記電気信号を受信する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気信号は、水中の減衰率が小さいので、送信機から発信された電気信号は、水中に離れて配置された受信機へ到達することができる。また電気信号は、水中を等方的に分散して伝播するので、送信機と精度よく整列されていない受信機で送信機から発信された電気信号を受信することができる。したがって、電気信号を用いる本実施形態の水中通信装置は、水中における移動体通信に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る水中通信装置を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る受信部を模式的に示す断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る受信部を模式的に示す断面図である。
【
図5】実験結果(1)を示すグラフであり、
図5Aは入力波形、
図5Bは距離が0.01mの場合の出力波形、
図5Cは距離が5mの場合の出力波形である。
【
図6】I-V特性を示すグラフであり、
図6Aは距離が0.01mの場合、
図6Bは距離が5mの場合である。
【
図8】実験結果(2)を示すグラフであり、
図8Aは入力波形、
図8Bは出力波形である。
【
図9】実験結果(3)を示すグラフであり、
図9Aは入力波形、
図9Bは出力波形である。
【
図14】距離が50mの場合のI-V特性を示すグラフである。
【
図18】実験結果(8)を示すグラフであり、
図18Aは入力波形、
図18Bは距離が0.1mの場合の出力波形、
図18Cは距離が5mの場合の出力波形である。
【
図20】実験結果(9)を示すグラフであり、
図20Aは入力波形、
図20Bは距離が0.1mの場合の出力波形、
図20Cは距離が0.5mの場合の出力波形である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第1実施形態
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(全体構成)
図1に示す水中通信装置10は、送信機12と受信機14とを備える。水中通信装置10は、水、本実施形態の場合、海水に浸漬されている。送信機12と受信機14は、通信経路としての海水を介して配置されている。送信機12と受信機14の間の距離は、特に限定されない。送信機12と受信機14の間の距離は、例えば、0.01m~100m程度、又は1m~50m程度である。
【0013】
送信機12と受信機14とは無線を介して接続される。本図に示す送信機12と受信機14は、それぞれ単体である場合について図示しているが、本発明はこれに限らない。例えば、送信機12は受信機14に対応する図示しない受信機と組み合わせられ、受信機14は送信機12に対応する図示しない送信機と組み合わせられ、全体として双方向通信が可能な水中通信装置としてもよい。
【0014】
送信機12は、電気信号を発信する。電気信号は、例えば、任意の周波数と波形を持った交流電圧信号であり、本実施形態の場合デジタル信号である。送信機12は、符号化部15と、変調部16と、送信部18とをこの順に接続して備えている。符号化部15は、入力された入力情報を伝送に適した符号化データに変換する。入力情報がアナログ情報の場合、当該入力情報は、アナログデジタル変換器(図示しない)によってデジタル化された状態で符号化部15へ入力される。変調部16は、符号化データを搬送波に重畳した変調信号を生成して出力する。送信部18は、変調信号を海水中に発信する。
【0015】
受信機14は、受信部22Aと、復調部20と、復号化部19とをこの順に接続して備えている。受信部22Aは、送信部18が送信した電気信号を、海水を介して受信して出力する。復調部20は、受信部22Aが出力した電気信号を元の符号化データに変換し、出力する。復号化部19は、復調部20が出力した符号化データに基づき、元の入力情報を取り出し、出力情報として出力する。元の入力情報がアナログ情報の場合、復号化部19から出力された出力情報は、デジタルアナログ変換器(図示しない)によってアナログ化された状態で受信機14から出力される。
【0016】
図2に示すように、受信部22Aは、電界効果トランジスタ23と、電界効果トランジスタ23のソース領域31とドレイン領域33の間に電位差を与える駆動回路26とを備える。
【0017】
図2に示す電界効果トランジスタ23は、チャネル領域39に水が導かれることから、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET:Ion-Sensitive Field-Effect Transistor)と呼ばれている。なお本図に示す電界効果トランジスタ23は、シリコン製ISFETと呼ぶ。
【0018】
図2に示す電界効果トランジスタ23は、シリコン基板27と、シリコン基板27の一方の主面において、一方の側に設けられたソース領域31と、他方の側に設けられたドレイン領域33とを備える。ソース領域31とドレイン領域33の間の領域は、電界効果トランジスタ23を動作させた際にチャネルとして機能する領域(以下、チャネル領域という)39となる。
【0019】
チャネル領域39の寸法は、適宜設定される。例えば、チャネル長は、10~1000μm程度の値に設定され、チャネル幅は、0.01~50mm程度の値に設定される。電界効果トランジスタ23は、不純物注入により、Pチャネル型、Nチャネル型のいずれにもなり得る。
【0020】
チャネル領域39上には、SiO2からなる酸化膜41と、酸化膜41上にイオン感応膜43とが形成されている。酸化膜41は、ISFETのゲート絶縁膜として機能する。イオン感応膜43は、海水が接した際に、海水中のイオンとの相互作用により、チャネル領域39の表面に電圧を発生させる機能を有する膜である。本実施形態の場合、イオン感応膜43は、酸化膜41をイオンから保護する役割もある。イオン感応膜43は、例えば、Si3N4、Al2O3、Ta2O5、TiO2、アモルファス炭素膜を用いることができる。駆動回路26は、ソース領域31及びドレイン領域33に、電気的に接続されている。
【0021】
ソース領域31とドレイン領域33の表面、及び、酸化膜41とイオン感応膜43の側面は、保護膜35,37で覆われている。保護膜35,37は、電界効果トランジスタ23を海水に浸漬した際に、ソース領域31、ドレイン領域33、チャネル領域39が、海水を介して導通するのを防ぐ膜である。保護膜35,37の材料としては、例えば、酸化物(ガラス、パイレックス(登録商標)等)、窒化物(窒化ケイ素等)、レジスト、有機物(テフロン(登録商標)のフッ化系樹脂等)を用いることが好ましい。保護膜35,37の厚さは、0.1μm以上1mm以下であることが好ましい。
【0022】
電界効果トランジスタ23を駆動する駆動回路26は、ソース領域31及びドレイン領域33に電気的に接続されている。例えば、本図には図示しないが、ソース領域31は接地され、ドレイン領域33は、抵抗体、直流電源を介して接地してもよい。ソース領域31及びドレイン領域33は、送信機12とは電気的に分離した状態で、接地される。すなわち送信機12と受信機14とは、海水を通じてのみ、電気化学的に接続される。
【0023】
電界効果トランジスタ23のチャネル領域39は、海水に接している。受信機14は、防水性のケース(図示しない)内に収容するのが好ましい。当該ケースは、外部に通じる窓を有する。電界効果トランジスタ23は、チャネル領域39側の表面が当該窓から外部に露出するように配置される。窓を通じて海水がチャネル領域39に接する。窓の内側には窓と電界効果トランジスタ23表面との間にシール材を設け、海水が窓と電界効果トランジスタ23表面の間を通ってケース内に進入するのを防ぐのが好ましい。
【0024】
(作用及び効果)
上記水中通信装置10を用いて、海水中で通信をする方法について説明する。まず、海水に送信機12及び受信機14を浸漬する。その際、送信機12及び受信機14は、それぞれ個別に接地する。電界効果トランジスタ23のチャネル領域39は、海水を介して送信部18と電気化学的に接続される。
【0025】
駆動回路26を用いて、電界効果トランジスタ23のソース領域31とドレイン領域33との間(ドレイン-ソース間)に電位差が生じるように、ソース領域31、ドレイン領域33の一方または両方に電圧を印加する。ドレイン-ソース間に設ける電位差は、-2V以上2V以下とすることが好ましい。なお、ソース領域31、ドレイン領域33に対して、電界効果トランジスタ23を海水に浸漬する前から、電圧を印加してもよい。
【0026】
送信機12は、入力された入力情報に基づき、所定の変調信号を生成し、当該変調信号に基づく電気信号を生成する。送信部18は、当該電気信号を通信経路である海水中に発信する。送信部18によって送信された電気信号は、等方的に分散しながら海水中を伝播し、受信機14の受信部22Aへ到達する。
【0027】
受信部22Aへ到達した電気信号によって、チャネル領域39の表面に電圧が印加される。チャネル領域39に電圧が印加されると、ソース領域31とドレイン領域33の間(チャネル領域39)にチャネルが誘起され、ソース領域31とドレイン領域33との間(ドレイン-ソース間)の電位差に応じて、チャネル内を流れるドレイン電流IDSが変化する。ここでの電流IDSは、実施例として後述するように、通常の電界効果トランジスタで得られるようなIV特性を有するものである。
【0028】
上記の様にして受信部22Aは、ドレイン電流IDSの変化をドレイン-ソース間電圧(出力電圧)VDSの変化として検出することによって送信部18が送信した電気信号を検出する。受信機14は、当該電気信号から元の情報を取り出し、出力情報として出力する。
【0029】
電気信号は、海水中の減衰率が小さいので、送信機12から発信された電気信号は、海水中に離れて配置された受信機14へ到達することができる。また電気信号は、海水中を等方的に分散して伝播するので、送信機12と受信機14を精度よく整列させる必要がない。したがって、電気信号を用いる本実施形態の水中通信装置10は、海水中における移動体通信、例えば海水中を移動するロボットとの通信に適用することができる。
【0030】
保護膜35,37は、電界効果トランジスタ23のソース領域31及びドレイン領域33を覆うことによって、海水がソース領域31及びドレイン領域33に接触するのを防いで、電界効果トランジスタ23を安定的に動作させることができる。
【0031】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る受信部について説明する。上記実施形態の場合、受信部の電界効果トランジスタとしてシリコン製ISFETを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らない。
図3に示す電界効果トランジスタ24は、シリコン基板28と、シリコン基板28の一方の主面に形成されたダイヤモンド薄膜30と、ダイヤモンド薄膜30上に形成されたソース電極32及びドレイン電極34と、ソース電極32の表面を覆う保護膜36と、ドレイン電極34の表面を覆う保護膜38とを備えている。電界効果トランジスタ24は、ダイヤモンド薄膜30を有し、ダイヤモンド薄膜30の接液部に酸化物を有していないことから、ダイヤモンド電解質溶液ゲート(electrolyte Solution Gate, SG)FET(以下、ダイヤモンドSGFETという)と呼ばれている。
【0032】
ダイヤモンド薄膜30の表面において、チャネルとして機能する部分(チャネル領域)40を挟んで、一方の側(ソース領域)の上にソース電極32が設けられ、他方の側(ドレイン領域)の上にドレイン電極34が設けられている。
【0033】
チャネル領域40の寸法は、受信部22Bの特性に応じて適宜設定される。例えば、チャネル長は、10~1000μm程度の値に設定され、チャネル幅は、0.01~50mm程度の値に設定されている。また、ソース電極32、ドレイン電極34の長さは、0.01~50mm程度の値に設定され、ソース電極32、ドレイン電極34の幅は、0.01~100mm程度の値に設定されている。
【0034】
また、チャネル領域40は、水素終端処理がされた水素化層が設けられている。水素化層は、ドレイン電極34とソース電極32との間のダイヤモンド薄膜30の表面を水素終端することによって形成されている。水素終端は、周知のように、ダイヤモンド薄膜30の表面における炭素原子の未結合手(ダングリングボンド: dangling bond)に水素を結合させた状態にすることである。水素化層は、表面にイオンが結合することにより、その水素化層の直下に、2次元正孔ガス(2DHG:two-dimensional hole gas)を誘起してP型導電層(チャネル、図示せず)を形成する。
【0035】
(製造方法)
電界効果トランジスタ24の製造方法を説明する。まず、研磨処理がなされたシリコン基板28の一方の主面に対してダイヤモンド粉末の核付けを行う核付け処理を行う。ダイヤモンド粉末の核付け方法としては、ダイヤモンド微粒子が入った溶液を、超音波法、浸漬法、その他の方法でシリコン基板28の表面に塗布し、その溶媒を乾燥させる方法等を用いることができる。
【0036】
次いで、例えば熱フィラメントCVD法によって、シリコン基板の表面にダイヤモンド薄膜30を成膜する。具体的には、炭素源(例えば、メタン、アルコール、アセトン等の低分子有機化合物)を水素ガス等とともにフィラメントに供給する。そして、炭素ラジカル等が発生する温度域(例えば、1800~2800℃)までフィラメントを加熱して、この雰囲気内にダイヤモンドが析出する温度域(例えば、750~950℃)になるようにシリコン基板28を配置する。
【0037】
その後、シリコン基板28上に成膜されたダイヤモンド薄膜30に対して水素終端処理を行う。具体的には、成膜されたダイヤモンド薄膜30の表面の炭素終端を水素終端に置換することで高密度水素終端とする処理が行われる。この水素終端処理としては、フッ化水素酸水溶液による処理、水素プラズマ処理、水素雰囲気中の加熱処理、水素ラジカル処理、陰極還元法の何れかを選択することができる。
【0038】
次に、シリコン基板28上に成膜されたダイヤモンド薄膜30の表面にレジストをスピンコートし、露光及び現像を行ってレジストをパターニングする処理を行う。その後、Au/Tiスパッタリングしてリフトオフすることによって、Au/Ti薄膜が、シリコン基板28の一方の主面に形成される。これにより、シリコン基板28上にソース電極32及びドレイン電極34が形成される。
【0039】
続いて、ダイヤモンド薄膜30及びAu/Ti薄膜が形成されたシリコン基板28上に保護膜36,38となるレジストをスピンコートし、露光及び現像により、レジストをパターニングする処理が行われる。レジストが除去された領域は、ダイヤモンド薄膜30が露出した状態となる。ダイヤモンド薄膜30が露出した領域はチャネルとして機能する。以上のようにして電界効果トランジスタ24を得ることができる。
【0040】
3.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。上記実施形態の場合、水が海水である場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、血液、唾液、体液、雨水、水道水、塩水、電解液、地下水にも適用することができる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)ダイヤモンドSGFETを用いた検証
実際に、受信部として
図3に示した構成のダイヤモンドSGFETを用いて、水中で送信部から送信した電気信号を受信部で受信することが可能か、検証した。検証には、
図4に示す実験装置58を用いた。送信機12は、参照電極64と、当該参照電極64に接続された交流電源66とを有する。参照電極64は、Ag/AgClの金属電極と、飽和KClの内部電解質と、これらを収容する筒状のガラス容器とを有する。交流電源66は、電圧が-0.8±0.2Vであり、任意の周波数及び波形の電気信号を発生可能なファンクションジェネレータ(図示しない)を通じて、電気信号として、周波数が100kHzのパルス波を発信する。ファンクションジェネレータは、接地した。
【0042】
受信部22Bは、電界効果トランジスタ24と、ドレイン電極に抵抗体67を介して接続された直流電源69とを有する。電界効果トランジスタ24は、チャネル長を10μm、チャネル幅を1mm、ソース電極、ドレイン電極の長さを0.5mm、ソース電極、ドレイン電極の幅を1mmの値に設定した。
【0043】
抵抗体67は100Ωのものを用いた。直流電源69の電圧は、-2.0Vである。直流電源69及びソース電極は、接地した。NaClの濃度が3.5質量%の塩水を充填したホース68内に、参照電極64、及び電界効果トランジスタ24を配置した。ホース68は、半径1.25cmのものを用いた。なお、ファンクションジェネレータ及び受信部22Bは、共通の接地母線に接続したうえで接地した。
【0044】
参照電極-チャネル間の距離を0.01m、5mとした場合において、参照電極64から送信された電気信号に対する電界効果トランジスタ24の出力電圧V
DSを測定した。その結果を
図5A,5B,5Cに示す。
図5A,5B,5Cは、横軸が時間(μs)、縦軸が振幅(mV)を示す。
図5Aが送信機12から送信された電気信号(入力信号)、
図5Bが距離0.01mの場合の出力電圧V
DS、
図5Cが距離5mの場合の出力電圧V
DSである。
【0045】
参照電極64から入力された周期10μs、振幅400mVの矩形波に対し、参照電極-チャネル間の距離を0.01m、5mとした電界効果トランジスタ24の出力電圧VDSの波形は、いずれも周期が同じで振幅が10mVの矩形状であり、反転した。当該結果から、参照電極-チャネル間の距離が0.01m、5mのいずれの場合も、電位の変化に対し電界効果トランジスタ24が安定的、かつ高速で応答することが確認できた。入力信号の周波数が100kHzのとき、参照電極-チャネル間の距離が0.01m~5mの範囲では、入力信号に対する振幅の減衰率が変わらないことが分かった。
【0046】
図6A,6Bは、電界効果トランジスタ24のI-V特性を測定した結果を示す。
図6A,6Bの横軸はドレイン-ソース間電圧V
DS(V)、縦軸がドレイン-ソース間電流(ドレイン電流)I
DS(μA)を示す。ゲート-ソース間電圧V
GSを0V~-1Vの範囲で0.2Vずつ変化させた。
図6Aは距離が0.01mの場合、
図6Bは距離が5mの場合の結果である。
図6A,6Bより、参照電極-チャネル間の距離に依存することなく、同程度の飽和電流が得られ、安定して動作することが確認できた。
【0047】
(実施例2)シリコン製ISFETを用いた検証
次に、受信部として
図2に示した構成のシリコン製ISFETを用いて、海水中において、送信部から送信した電気信号を受信部で受信することが可能か、検証した。検証には、
図7に示す回路構成を用いた。参照電極-チャネル間の距離が1mの場合と10mの場合は、参照電極64としてPt金属電極を用いた。参照電極-チャネル間の距離が50mの場合は、参照電極64として、Ag/AgClの金属電極と、飽和KClの内部電解質と、これらを収容する筒状のガラス容器とを有するものを用いた。交流電源66の電圧は、2.0±0.2Vとした。
【0048】
受信部22Aは、電界効果トランジスタ23と、ドレイン領域に抵抗体67を介して接続された直流電源69とを有する。電界効果トランジスタ23は、シリコン基板上にドナーとしてリンをドープしてソース領域及びドレイン領域が形成されている。イオン感応膜はSi3N4で形成した。チャネル長は100μm、チャネル幅は2mm、ソース領域、ドレイン領域の長さは2mm、ソース領域、ドレイン領域の幅は0.2mmの値に設定した。抵抗体67は1kΩのものを用いた。直流電源69の電圧は2.0Vである。参照電極64及び電界効果トランジスタ23は海水71中に配置し、直流電源69及びソース領域は接地した。なお、送信機12及び受信機14は、共通の接地母線73に接続したうえで接地した。
【0049】
入力信号の周波数を1kHz、参照電極-チャネル間の距離を1mとした場合の結果を
図8A,8Bに示す。
図8A,8Bは、横軸が時間(ms)、縦軸が振幅(mV)を示す。
図8Aが入力信号、
図8Bが出力電圧V
DSである。
【0050】
入力信号の周波数を1kHz、参照電極-チャネル間の距離を10mとした場合の結果を
図9A,9Bに示す。
図9A,9Bは、横軸が時間(ms)、縦軸が振幅(mV)を示す。
図9Aが入力信号、
図9Bが出力電圧V
DSである。
【0051】
入力信号の周波数を10MHz、参照電極-チャネル間の距離を10mとした場合の結果を
図10A,10B示す。
図10A,10Bは、横軸が時間(ms)、縦軸が振幅(mV)を示す。
図10Aが入力信号、
図10Bが出力電圧V
DSである。
【0052】
入力信号の周波数を1kHz、参照電極-チャネル間の距離を50mとした場合の結果を
図11A,11Bに示す。
図11A,11Bは、横軸が時間(ms)、縦軸が振幅(mV)を示す。
図11Aが入力信号、
図11Bが出力電圧V
DSである。
【0053】
入力信号の周波数を1MHz、参照電極-チャネル間の距離を50mとした場合の結果を
図12A,12Bに示す。
図12A,12Bは、横軸が時間(ms)、縦軸が振幅(mV)を示す。
図12Aが入力信号、
図12Bが出力電圧V
DSである。
【0054】
図8A,8B,9A,9Bより、入力信号の周波数が1kHzの場合、参照電極64から入力された周期1000μs、振幅400mVの矩形波に対し、参照電極-チャネル間の距離を1m、10mとした電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、いずれも周期が同じで振幅が130mVの矩形状であり、反転した。
図11A,11Bより、入力信号の周波数が1kHzの場合、参照電極64から入力された周期1000μs、振幅800mVの矩形波に対し、参照電極-チャネル間の距離を50mとした電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、周期が同じで振幅が100mVの矩形状であり、反転した。
【0055】
一方、
図10A,10Bより、入力信号の周波数が10MHzの場合、参照電極64から入力された周期0.1μs、振幅400mVの正弦波に対し、参照電極-チャネル間の距離を10mとした電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、周期が同じで振幅が80mVの正弦波で、反転しなかった。なお入力信号の波形は、パルス波を意図していたが、用いたファンクションジェネレータの特性によって、正弦波となった。また出力電圧V
DSの波形が入力信号の波形に対し反転しなかったのは、受信系が高い周波数では微分回路(ハイパスフィルタ)として動作し、入力信号の立ち上がりおよび立ち下がりを読み取っているためと考えられる。微分回路となっていることは、
図5A,5B,5C、
図8A,8B、
図9A,9B、
図10A,10B、
図11A,11B、
図12A,12B、後述する
図16A,16Bが入力信号の上昇が出力電圧では上向きのパルス、入力信号の減衰が出力電圧で下向きのパルスとなっていることでも確認される。
【0056】
また、
図12A,12Bより、入力信号の周波数が1MHzの場合、参照電極64から入力された周期1μs、振幅800mVの矩形波に対し、参照電極-チャネル間の距離を50mとした電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、周期が同じで振幅が80mVの正弦波であり、反転した。
【0057】
当該結果から、参照電極-チャネル間の距離が1m、10m、入力信号の周波数が1kHz、10MHzの場合、及び、参照電極-チャネル間の距離が50m、入力信号の周波数が1kHz、1MHzの場合において、電位の変化に対し、電界効果トランジスタが安定的、かつ高速で応答することが確認できた。入力信号の周波数が1kHzのとき参照電極-チャネル間の距離が1m~10mの範囲では、入力信号に対する振幅の減衰率が変わらないことが分かった。
【0058】
次に、
図7に示す回路構成を用いて、電界効果トランジスタ23の海水中におけるI-V特性を測定した。参照電極-チャネル間の距離が1mの場合と10mの場合は、参照電極64としてPt金属電極を用いた。参照電極-チャネル間の距離が50mの場合は、参照電極64として、Ag/AgClの金属電極と、飽和KClの内部電解質と、これらを収容する筒状のガラス容器とを有するものを用いた。
【0059】
図13Aは距離が1mの場合、
図13Bは距離が10mの場合、
図14は距離が50mの場合の結果を示す。
図13A,13B,
図14の横軸はドレイン-ソース間電圧V
DS(V)、縦軸がドレイン-ソース間電流(ドレイン電流)I
DS(μA)を示す。本図より、参照電極-チャネル間の距離に依存することなく、同程度の飽和電流が得られ、安定して動作することが確認できた。
【0060】
(実施例3)シリコン製ISFETを用いた、接地の影響の検証
次に、送信部及び受信部を、共通の接地母線に接続せず、それぞれ直接接地する場合において、水中において、送信部から送信した電気信号を受信部で受信することが可能か、検証した。検証には、
図15に示す実験系を用いた。互に電気的に接続されていない建物60,62の電源に対し、一方を参照電極64、他方を
図2に示した構成の電界効果トランジスタ(シリコン製ISFET)23に接続した。参照電極64は、Ptの金属電極を用いた。参照電極64と電界効果トランジスタ23は、ビーカー70内のNaClの濃度が3.5質量%の塩水に浸漬した。抵抗体67は1kΩのものを用いた。直流電源69の電圧は2.0Vである。
【0061】
交流電源66から発信される入力信号の電圧を1.6±0.4V、周波数を1kHzとした場合の結果を
図16A,16Bに示す。
図16A,16Bは、横軸が時間(ms)、縦軸が振幅(mV)である。
図16Aが入力信号、
図16Bが出力電圧V
DSである。参照電極64から入力された周期1000μs、振幅800mVの矩形波に対し、電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、周期が同じで振幅が700mVの矩形状であり、反転した。当該結果から、共通の接地母線に接続せず、それぞれ直接接地した場合でも、電界効果トランジスタ23が安定的、かつ高速で応答することが確認できた。
【0062】
(実施例4)シリコン製ISFETと、独立した電源を用いた検証
次に、受信部としてシリコン製ISFETを用い、送信部及び受信部を、共通の接地母線に接続せず、かつ互いに電気的に接続されていない独立した電源にそれぞれ接続し、水中において、送信部から送信した電気信号を受信部で受信することが可能か、検証した。検証には、
図17に示す実験装置71を用いた。
図17は、
図4に示した実験装置58と同様の構成については同様の符号が付されている。
【0063】
送信機12は、図示しないが、インターフェースを介してファンクションジェネレータがノートパソコンに接続されており、当該ノートパソコンに内蔵されているバッテリを交流電源66として用いた。交流電源66の電圧は、1.6V±1.0Vとした。
【0064】
受信機14は、図示しないが、インターフェースを介してノートパソコンに接続されており、当該ノートパソコンに内蔵されているバッテリを直流電源69として用いた。直流電源69の電圧は、2Vとした。ノートパソコンは、いずれも外部電源に接続しないで用いた。電界効果トランジスタ23は、実施例2と同じシリコン製ISFETを用いた。
【0065】
NaClの濃度が3.5質量%の塩水を充填したホース68内に、参照電極64、及び電界効果トランジスタ23を配置した。ホース68は、内径2cmのものを用いた。上記のようにして、送信機12と受信機14は、ホース68内の塩水のみで電気的に接続されている。
【0066】
参照電極-チャネル間の距離を0.1m、5mとした場合において、参照電極64から送信された電気信号に対する電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSを測定した。その結果を
図18A,18B,18Cに示す。
図18A,18B,18Cは、横軸が時間(μs)、縦軸が振幅(V)又は(mV)を示す。
図18Aが送信機12から送信された電気信号(入力信号)、
図18Bが距離0.1mの場合の出力電圧V
DS、
図18Cが距離5mの場合の出力電圧V
DSである。
【0067】
参照電極64から入力された周期10μs、振幅2Vの矩形波に対し、参照電極-チャネル間の距離を0.1m、5mとした電界効果トランジスタ23の出力電圧VDSの波形は、いずれも、矩形波の立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて、それぞれ55mV、15mVのピーク電圧を有する微分波形であった。矩形波の立ち上がり、立下りに発生する高調波成分が塩水内を伝搬し、その結果、電界効果トランジスタ23のチャネルの電位が変化する。チャネルの電位が変化するとドレイン電流が増減し、ドレイン電圧の変化として観測される。出力電圧VDSの波形から、直流的な電位変化は伝播していないことが認められる。
【0068】
次に、
図19に示す実験装置74を用いて検証した。
図19は、
図4及び
図17と同様の構成については同様の符号が付されている。
図19に示す実験装置74は、
図17の実験装置71に対し、ホース68をタンク76に変えた点が異なる。タンク76は、直径50cmの円柱状の内部空間(容量100L)を有する。当該タンク内に、NaClの濃度が3.5質量%の塩水(60L)を充填すると共に、参照電極64、及び電界効果トランジスタ23を配置した。送信機12と受信機14は、タンク76内の塩水のみで電気的に接続されている。
【0069】
参照電極-チャネル間の距離を0.1m、0.5mとした場合において、参照電極64から送信された電気信号に対する電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSを測定した。その結果を
図20A,20B,20Cに示す。
図20A,20B,20Cは、横軸が時間(μs)、縦軸が振幅(V)又は(mV)を示す。
図20Aが送信機12から送信された電気信号(入力信号)、
図20Bが距離0.1mの場合の出力電圧V
DS、
図20Cが距離0.5mの場合の出力電圧V
DSである。
【0070】
参照電極64から入力された周期10μs、振幅2Vの矩形波に対し、参照電極-チャネル間の距離を0.1m、0.5mとした電界効果トランジスタ23の出力電圧VDSの波形は、いずれも矩形波の立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて、それぞれ25mV、25mVのピーク電圧を有する微分波形であった。
【0071】
また、長さx深さx幅が100x70x60cmの直方体形状のタンク(容量420L)に塩水を300L充填して同様の実験を行った。参照電極64から振幅1V、周波数10MHzの矩形波を入力したところ、参照電極-チャネル間の距離を90cmとした電界効果トランジスタ23において、
図20Bと同様の微分波形が観測された。
【0072】
図21は、実験装置74(
図19)において参照電極-チャネル間距離に対し出力電圧V
DSのピーク電圧を測定した結果を示す。
図21の横軸は参照電極-チャネル間距離(cm)、縦軸は出力電圧V
DSのピーク電圧(V)を示す。
図21から明らかなように、50kHz~1MHzの入力信号に対し、参照電極-チャネル間の距離が10cm~50cmの電界効果トランジスタ23において、出力電圧V
DSのピーク電圧が安定して得られることが確認された。
【0073】
塩水の正イオンと負イオンからなるプラズマイオン振動が伝導の媒介となっている。参照電極がもたらす局所的な電位変化によって、正イオンと負イオンの分布に偏りが生じる。この分布の偏りが振動(一種のプラズマ振動)し、塩水中を伝播すると考えられる。場合によってはプラズマ・ソリトン波として波形が崩れずに長距離移動することも考えられる。
【0074】
以上の結果から、送信部として参照電極、受信部としてシリコン製ISFETを備える水中通信装置は、信号電位と受信電位(ソース)が共通で無い場合、すなわち共通母線を用いて接地していない場合でも、塩水を介してデジタル信号伝送が可能であることが確認できた。
【0075】
(実施例5)ダイヤモンドSGFETと、独立した電源を用いた検証
次に、受信部としてダイヤモンドSGFETを用い、送信部及び受信部を、共通の接地母線に接続せず、かつ互いに電気的に接続されていない独立した電源にそれぞれ接続した場合において、水中において、送信部から送信した電気信号を受信部で受信することが可能か、検証した。検証には、
図17に示す実験装置71において、電界効果トランジスタ23を、ダイヤモンドSGFETを用いた電界効果トランジスタ24に変えた装置を用いた。電界効果トランジスタ24は、実施例1と同じダイヤモンドSGFETを用いた。送信機12と受信機14は、ホース(内径2cm)68内の塩水のみで電気的に接続されている。
【0076】
参照電極-チャネル間の距離を1mとした場合において、参照電極64から送信された電気信号に対する電界効果トランジスタ24の出力電圧V
DSを測定した。その結果を
図22のaに示す。また送信機12及び受信機14を共通の接地母線に接続して接地した以外は同じ構成とした実験装置において、参照電極64から送信された電気信号に対する電界効果トランジスタ24の出力電圧V
DSを測定した結果を
図22のbに示す。
図22のa及びbは、横軸が時間(μs)、縦軸が振幅(V)又は(mV)を示す。
【0077】
図22のaから明らかなように、入力信号の周波数が1MHzの場合、参照電極64から入力された周期1μs、振幅2.0Vの矩形波に対し、電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、90mVのピーク電圧を有する微分波形であった。
【0078】
図22のbから明らかなように、入力信号の周波数が1MHzの場合、参照電極64から入力された周期1μs、振幅0.4Vの矩形波に対し、電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、周期が同じで振幅が40mVの正弦波であり、反転した。
【0079】
以上の結果から、共通母線を用いないことで、出力電圧VDSの波形が入力信号の直流成分の影響を受けないことが確認できた。
【0080】
送信部として参照電極、受信部としてダイヤモンドSGFETを備える水中通信装置は、信号電位と受信電位(ソース)が共通で無い場合、すなわち共通母線を用いて接地していない場合でも、塩水を介してデジタル信号伝送が可能であることが確認できた。
【0081】
(実施例6)シリコン製ISFETと、独立した電源を用いた検証の再現性
実施例4の実験装置71(
図17)を用いて、参照電極-チャネル間の距離を90cmとした場合において、参照電極64から送信された10MHzの電気信号に対する電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSを繰り返し測定した。その結果を
図23に示す。
図23は、横軸が時間(μs)、縦軸が出力電圧V
DSの振幅(mV)を示す。
【0082】
図23から明らかなように、参照電極64から入力された周期0.1μs、振幅1Vの矩形波に対し、電界効果トランジスタ23の出力電圧V
DSの波形は、同じ周期の微分波形であった。また出力電圧の波形は、1回目から11回目までほぼ同様であった。このことから、送信部として参照電極、受信部としてシリコン製ISFETを備える水中通信装置は、再現性が高い通信が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0083】
10 水中通信装置
12 送信機
14 受信機
23,24 電界効果トランジスタ
26 駆動回路
31 ソース領域
32 ソース電極
33 ドレイン領域
34 ドレイン電極
35,36,37,38 保護膜
39,40 チャネル領域