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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】粘着シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/29 20180101AFI20230814BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230814BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230814BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230814BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230814BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C09J7/29
C09J201/00
C09J11/06
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B27/18 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020552552
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2019032632
(87)【国際公開番号】W WO2020079948
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018196154
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226091
【氏名又は名称】日榮新化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛三
(72)【発明者】
【氏名】桑江 英志
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-006262(JP,A)
【文献】特開2000-094584(JP,A)
【文献】特開2016-107547(JP,A)
【文献】特開平7-100843(JP,A)
【文献】特開2012-43086(JP,A)
【文献】特開平6-220357(JP,A)
【文献】特開平9-192580(JP,A)
【文献】特表2001-517695(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0053379(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101553205(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、
前記基材フィルムの一方の面上に形成され、苦味成分を含み、溶剤系塗料の硬化物からなるコーティング層と、
前記基材フィルムの他方の面上に形成された粘着剤層とを備え、
前記コーティング層が露出しており、
前記コーティング層には、前記溶剤系塗料の樹脂固形分に対して2質量%以上の前記苦味成分が含まれている粘着シート。
【請求項2】
請求項1に記載の粘着シートにおいて、
前記コーティング層には、前記溶剤系塗料の樹脂固形分に対して10質量%以下の前記苦味成分が含まれていることを特徴とする粘着シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粘着シートにおいて、
前記コーティング層が硬化剤を含むことを特徴とする粘着シート。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか1つに記載の粘着シートにおいて、
前記苦味成分は、安息香酸デナトニウム、サッカリンデナトニウム、塩化デナトニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする粘着シート。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか1つに記載の粘着シートにおいて、
全光線透過率が70%以上であることを特徴とする粘着シート。
【請求項6】
請求項1~5のうちいずれか1つに記載の粘着シートにおいて、
前記コーティング層の膜厚は、0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする粘着シート。
【請求項7】
請求項1~6のうちいずれか1つに記載の粘着シートにおいて、
貼付された物品の誤飲を防止するために用いられることを特徴とする粘着シート。
【請求項8】
請求項1~6のうちいずれか1つに記載の粘着シートにおいて、
動物を忌避するために用いられることを特徴とする粘着シート。
【請求項9】
請求項3に記載の粘着シートを製造する方法であって、基材フィルムの一方の面上に、苦味成分と硬化剤を含む溶剤系塗料を塗布し、前記溶剤系塗料中の樹脂固形分と硬化剤との硬化反応により、露出したコーティング層を形成する工程と、
前記基材フィルムの他方の面上に粘着剤層を設ける工程と
を含むことを特徴とする粘着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示された技術は、コーティング層が設けられた粘着シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳幼児が液体洗剤等を誤飲するのを防止するために、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂と、苦味成分である安息香酸デナトニウムとを含有する水溶性フィルムからなる包装体が用いられることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-108426号公報
【文献】特許5736730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、玩具等の誤飲を防ぐ目的で特許文献1に記載の包装体を用いる場合、包装体を開封した後、玩具自体の誤飲を防ぐことはできない。
一方、特許文献2には、粘着剤層に催吐性を有する誤飲防止剤を含有させた粘着シートが開示されている。しかし、玩具にこの粘着シートを貼り付けたとしても、当該粘着シートを剥がさなければ粘着剤層は露出しないので、玩具の誤飲を防ぐことはできない。
本発明は、被着体の誤飲を効果的に防ぎうる粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示された粘着シートは、基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面上に形成され、苦味成分を含み、溶剤系塗料の硬化物からなるコーティング層と、前記基材フィルムの他方の面上に形成された粘着剤層とを備えている。前記コーティング層には、前記溶剤系塗料の樹脂固形分に対して2質量%以上の前記苦味成分が含まれている。特に、前記コーティング層が硬化剤を含むことが好ましい。
又、本発明の粘着シートの製造方法は、基材フィルムの一方の面上に、苦味成分と硬化剤を含む溶剤系塗料を塗布し、前記溶剤系塗料中の樹脂固形分と硬化剤との硬化反応によりコーティング層を形成する工程と、
前記基材フィルムの他方の面上に粘着剤層を設ける工程と
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本明細書に開示された粘着シートによれば、苦味成分を含む溶剤系塗料の硬化物からなるコーティング層が設けられているので、被着体の誤飲を効果的に防止しうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本明細書に開示された粘着シートの一例を示す断面図である。
図2図2は、本明細書に開示された粘着シートに対するアルコールを用いた拭き取り試験の結果を示す図である。
図3図3は、溶剤系塗料に硬化剤を加えて作製したコーティング層を有する粘着シートに対するアルコールを用いた拭き取り試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
当初、本願発明者らは、被着体の誤飲を防止するために、粘着シートの表面に苦味成分を含む水溶性樹脂をコーティングすることを考えた。しかし、この粘着シートでは、水洗いや水拭きによって苦味を呈するコーティング層が消失する可能性があることが分かった。従って、被着体が玩具等である場合、汚れを落とすために水洗いしたり、乳幼児が舐めたりすることで、誤飲防止効果が失われる可能性があると考えられた。
そこで、本願発明者らは、水洗いした場合でもコーティング層の苦味を維持できるように、溶剤系塗料からなるコーティング層を粘着シートに設けることを検討し、本願発明に想到した。
【0009】
(実施形態)
図1は、本明細書に開示された粘着シート10の一例を示す断面図である。同図に示すように、本実施形態の粘着シート10は、基材フィルム5と、基材フィルム5の一方の面上に形成され、溶剤系塗料の硬化物からなるコーティング層7と、基材フィルム5の他方の面上に形成された粘着剤層3と、粘着剤層3の基材フィルム5とは反対側の面上に設けられた剥離ライナー1とを備えている。ここで、「溶剤系塗料」とは、水には難溶性であるのに対して有機溶媒にはよく溶ける塗料を意味する。
【0010】
コーティング層7には、苦味成分が含まれている。苦味成分としては、例えば、デナトニウム塩もしくはその誘導体、オクタアセチルスクロース、クェルセチン、クァシン、ホップ抽出物等からなる群から選ばれた1つ又は2つ以上の混合物を用いることができる。これらの苦味成分は安全性が高いので、粘着シート10の被着体が、乳幼児を対象とする玩具等である場合でも、好ましく用いられる。上述の物質のうち、安息香酸デナトニウム、サッカリンデナトニウム、塩化デナトニウム又はこれらの混合物を苦味成分として用いる場合、少量でも誤飲防止効果を発揮できる。
【0011】
粘着シート10から剥離ライナー1を剥がしてこの粘着シート10を被着体に貼付した場合、苦味成分を含むコーティング層7が露出することになるので、特許文献2に記載の粘着シートとは異なり、被着体自体が誤飲されるのを防ぐことができる。また、粘着シート10は適切な形状に裁断すれば被着体を選ばずに貼り付けることができる。この粘着シート10は、直接玩具等の物品表面に貼り付けられてもよいが、一方の面に印刷層が設けられ、他方の面に粘着剤層が設けられたラベルの印刷層上に貼り付けられてもよい。
【0012】
本実施形態の粘着シート10では、コーティング層7が溶剤系塗料の硬化物により形成されているので、水洗いや水拭きを行った後でもコーティング層7が流失しにくくなっている。このため、被着体が玩具等の場合であっても、誤飲防止効果を長期間維持することができる。コーティング層7を形成するための塗料としては、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系等の公知の溶剤系塗料を用いることができる。
【0013】
苦味成分は、ヒトが苦味を感じるのに十分な濃度でコーティング層7に含まれていればよい。コーティング層7は溶剤系塗料の硬化物により形成されているので、水性塗料の硬化物により形成される場合に比べて、唾液に対して苦味成分が溶け出しにくくなっている。例えば、特許文献1に記載の水溶性フィルムでは、苦味成分である安息香酸デナトニウムのPVA樹脂に対する添加濃度を0.001質量%としても苦味を感じさせることができる。これに対し、本実施形態の粘着シート10では、コーティング層7の樹脂固形分に対する苦味成分の割合は、2質量%以上となっている。苦味に対する感度は個人差があるが、樹脂固形分に対する苦味成分の含有割合を2質量%以上とすれば、十分に誤飲防止効果を発揮させることができる。一方、苦味成分の濃度は、当該苦味成分が塗料に溶解できる上限以下であればよいが、苦味成分の析出を避けるために、樹脂固形分に対する苦味成分の含有割合を10質量%以下としてもよい。苦味成分は、コーティング層7にそのまま混入されていてもよいし、水溶性の微細なカプセル内に封入されていてもよい。
【0014】
コーティング層7の膜厚は特に限定されないが、製造のしやすさ及び製造コストを考慮して、0.1μm以上10μm以下としてもよく、0.5μm以上5μm以下程度としてもよい。コーティング層7が厚い程、コーティング層7は長期間維持され、誤飲防止効果も長持ちする。
【0015】
基材フィルム5の構成材料は特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル等であってもよい。
【0016】
基材フィルム5の構成材料は、透光性を有していてもよく、着色されたり、ラミネートの場合、マット加工が施されていてもよい。粘着シート10の全光線透過率(JIS K7361-1に準じて測定)が70%程度以上であれば、下地となるラベルの装飾層等の意匠性を損なうことなく粘着シート10が適用される物品の誤飲を防ぐことができる。この場合、どのような模様が施されたラベル又は被着体に対しても使用できるので、粘着シート10の汎用性を高めることができる。
【0017】
なお、本明細書において、「粘着シートの全光線透過率」とは、具体的には、粘着シート10から剥離ライナー1を剥がした状態の粘着シート10の本体部分11の全光線透過率」を指すものとする。
【0018】
基材フィルム5の膜厚は特に限定されないが、取り扱い易さや製造コストの面から、2μm以上250μm以下程度であってもよく、10μm以上100μm以下程度としてもよい。
【0019】
粘着剤層3は、一般的な粘着剤の硬化物により形成されていればよい。粘着剤層3の形成に用いられる粘着剤は、例えば公知のアクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤又はポリエステル系粘着剤等であってもよい。この粘着剤層3の膜厚は特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であってもよい。粘着剤層3の被着体に対する粘着力は任意に設定されてよいが、目安としてステンレス鋼に対して少なくとも5N/25mm程度以上であれば使用者(例えば乳幼児)が被着体に貼り付けられた粘着シート10を剥がしにくくすることができ、8N/25mm以上であれば粘着シート10をより剥がしにくくすることができる。粘着シート10が再剥離可能なタイプである場合には、粘着剤層3の被着体に対する粘着力は5N/25mm未満であってもよい。
【0020】
剥離ライナー1は、使用時に剥離ライナー1から粘着シート10の本体部分11を容易に剥がせる構成を有していればよい。例えば、グラシン紙、上質紙、樹脂フィルム等の基材の粘着剤層3側の面上に公知の離型剤層が形成されたものを剥離ライナー1として用いてもよい。
【0021】
なお、コーティング層7の形成に用いた苦味成分及び溶剤系塗料入りの塗料を、直接玩具等の物品に塗布して当該物品の誤飲防止を図ることも考えられる。しかしながら、本実施形態の粘着シート10は、必要に応じて被着体から剥がしたり、新しいものに貼り替えたりすることができる点で、塗料を物品に直接塗布する方法よりも優れている。この利点は、印刷されたラベルの表面に粘着シート10を貼り付ける場合であっても変わらない。
【0022】
なお、以上で説明した粘着シート10は、実施形態の一例であり、粘着シートの構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更してもよい。
【0023】
-粘着シートの製造方法-
粘着シート10を製造するためには、まず、市販の溶剤系塗料をトルエンや酢酸エチル等の溶媒により適度な粘度になるように希釈することにより、塗液を調製する。この塗液を基材フィルム5の一方の面にコーターを用いて薄く塗工し、乾燥後の膜厚が0.1μm以上10μm以下程度のコーティング層7を形成する。ここで、塗液の塗工に用いるコーターは、ナイフコーター、コンマ型コーター、マイクロバーコーター、エアナイフコーター、リバースロールコーター、リバースグラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター等から適宜選択することができる。
【0024】
次に、剥離ライナー1の剥離面に市販の粘着剤を含む塗液を塗工し、乾燥させることにより粘着剤層3を形成する。続いて、当該粘着剤層3の剥離ライナー1とは反対側の面に、基材フィルム5のコーティング層7とは反対側の面を貼り合せることにより、本実施形態の粘着シート10を形成することができる。粘着シート10は、その後、適宜スリッター及び断裁機によって所定のサイズになるように加工することができる。その後、剥離ライナー1が剥離された粘着シート10は、例えば、裏面が粘着加工され、表面に印刷層が設けられたラベルの印刷層に貼り付けられてもよい。この場合、粘着シート10を含むラベル積層体(以下、単に「ラベル」と表記する)は、所定の形状になるよう抜き加工されてもよい。このラベルは、玩具等の物品に貼着される。
【0025】
なお、粘着加工工程においては上記方法に代えて、粘着剤を含む塗液の塗工を基材フィルム5のコーティング層7とは反対側の面に対して行った後、粘着剤層3を間に挟むようにして基材フィルム5と剥離ライナー1とを貼り合わせてもよい。また、コーティング層7の形成は、粘着加工工程の後に行ってもよい。
【0026】
なお、コーティング層7の形成に使用される溶剤系塗料中にエポキシ系、イソシアネート系、金属キレート系、メラミン系等の公知の硬化剤を加えてもよい。硬化剤の添加量は特に限定されないが、例えばコーティング層の形成に使用される溶剤系塗料中の樹脂固形分100質量部に対して0.1質量部~10質量部程度であってもよい。硬化剤の使用により、コーティング層7中の架橋密度を上げることができるので、水拭きに際してコーティング層を剥がれにくくすることができる。この結果、水拭き回数を増やしても硬化剤を使用しない場合に比べて苦味を維持しやすくなる。また、溶剤系塗料に硬化剤が添加されることによって、エタノール等のアルコールを含む液を用いて清拭が繰り返される場合にも苦味を維持しやすくなる。このため、消毒のためにアルコールを含む液で繰り返し汚れを拭き取っても、誤飲防止効果を長期間発揮できるようになる。
【0027】
また、本実施形態の粘着シート10は、単独又はラベル積層体の形態で動物忌避シートとして利用することも可能である。犬や猫、猪等はヒトと同様に苦味成分を忌避する傾向があるので、例えば動物による糞尿被害や食害が発生している場所に粘着シート10又はラベル積層体を配置しておくことにより、これらの被害を低減することができる。この粘着シート10の動物忌避効果は、味覚による情報に大きく依存する動物に対してより有効である。このため、本実施形態の粘着シート10では、例えば犬よりも猫に対する忌避効果の方がより大きくなっている。
【0028】
苦味に対する感受性は人によって異なるが、一般的に加齢とともに苦味を感じにくくなるので、子供は大人よりも苦味に敏感であると言える。また、喫煙者は苦味に対して鈍感になる傾向にある。従って、コーティング層7に配合する苦味成分の濃度を比較的低濃度(例えば、溶剤系塗料の樹脂固形分に対して2質量%以上6質量%未満)とすることにより、本実施形態の粘着シート10の誤飲防止効果を子供に対して選択的に発揮させやすくすることができる。これに対し、老人に対する誤飲防止効果を期待する場合には、コーティング層7に配合する苦味成分の濃度を比較的高濃度(例えば、溶剤系塗料の樹脂固形分に対して6質量%以上10質量%以下)にすることができる。上述の苦味の感じ方の違いを利用して苦味成分の濃度が互いに異なる複数の粘着シート10を1つのセットにして老化チェッカーとすることもできる。例えば、一番苦味成分濃度が低い粘着シート10の苦味を感じることができれば「若い」と判定し、最も苦味成分濃度が高い粘着シート10の苦味を感じることができなければ「老化している」と判定することができる。
【実施例
【0029】
<実施例1>
100質量部のトルエン、100質量部の酢酸エチル及び5質量部のメタノールの混合溶媒に、安息香酸デナトニウム粉末(マクファランスミス社製;製品名「ビトレックス」)0.492部を溶解させた。次に、この安息香酸デナトニウム溶液(合計205.492質量部)と、トルエン及び酢酸エチルを含む市販の熱可塑性アクリル酸エステル系ポリマー(溶剤系塗料)溶液(樹脂固形分24.6質量%)100質量部とを混合して塗液を調製し、当該塗液を透明なPETフィルム(東レ株式会社製;製品名「ルミラーT11」)の一方の面に塗工した。次いで、100℃、1分間PETフィルムを乾燥させることにより、膜厚が1μmのコーティング層をPETフィルム上に形成した。この粘着シートのコーティング層中には、質量基準で樹脂固形分に対して2.00質量%の安息香酸デナトニウムが含まれていることになる。このPETフィルムを用いて図1に示すような構成を有する粘着シートを作製した。粘着シートの全光線透過率(JIS K7361-1に準じて測定)は91.72%であった。
【0030】
<実施例2>
熱可塑性アクリル酸エステル系ポリマー溶液100質量部に対して混合する安息香酸デナトニウム粉末を1.23質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着シートを作製した。この粘着シートのコーティング層中には、樹脂固形分に対して5.00質量%の安息香酸デナトニウムが含まれていることになる。この粘着シートの全光線透過率は91.84%であった。
【0031】
<実施例3>
コーティング層を形成するための塗液に、熱可塑性アクリル酸エステル系ポリマー100質量部に対して市販のメラミン系硬化剤0.91部と市販のイソシアネート系硬化剤0.45部とを添加したことを除き実施例2と同一の方法により粘着シートを作製した。
【0032】
<比較例1>
熱可塑性アクリル酸エステル系ポリマー溶液100質量部に対して混合する安息香酸デナトニウム粉末を0.123質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着シートを作製した。この粘着シートのコーティング層中には、樹脂固形分に対して0.50質量%の安息香酸デナトニウムが含まれていることになる。この粘着シートの全光線透過率は91.73%であった。
【0033】
<比較例3>
200質量部の水に安息香酸デナトニウム粉末0.00147質量部を溶解させた。この安息香酸デナトニウム溶液(合計200.00147質量部)と、水を含むPVA樹脂(大成化薬株式会社製;製品名「マルタイト150」)の溶液(樹脂固形分14.7質量%)とを混合して塗液を調製し、当該塗液を透明なPETフィルムの一方の面に塗工した。次いで、100℃、1分間PETフィルムを乾燥させることにより、膜厚が1μmのコーティング層をPETフィルム上に形成した。この粘着シートのコーティング層中には、樹脂固形分に対して0.01質量%の安息香酸デナトニウムが含まれていることになる。この粘着シートの全光線透過率は91.72%であった。
【0034】
<比較例3>
乾燥後のコーティング層に含まれる安息香酸デナトニウムが、同層の樹脂固形分に対して0.05質量%となるように調整したことを除き、比較例2と同様の方法によって粘着シートを作製した。この粘着シートの全光線透過率は91.69%であった。
【0035】
<比較例4>
乾燥後のコーティング層に含まれる安息香酸デナトニウムが、同層の樹脂固形分に対して0.10質量%となるように調整したことを除き、比較例2と同様の方法によって粘着シートを作製した。この粘着シートの全光線透過率は91.77%であった。
【0036】
<比較例5>
乾燥後のコーティング層に含まれる安息香酸デナトニウムが、同層の樹脂固形分に対して0.50質量%となるように調整したことを除き、比較例2と同様の方法によって粘着シートを作製した。この粘着シートの全光線透過率は91.79%であった。
【0037】
<比較例6>
乾燥後のコーティング層に含まれる安息香酸デナトニウムが、同層の樹脂固形分に対して1.00質量%となるように調整したことを除き、比較例2と同様の方法によって粘着シートを作製した。この粘着シートの全光線透過率は91.70%であった。
【0038】
-誤飲防止効果の確認試験-
作製された各粘着シートから2.5cm×2.5cmのサイズの試験片を切り出し、これを水拭き前の試験片とした。次に、各粘着シートから切り出された試験片を、コーティング層側から純水を含ませた布を用いて一方向に10回拭き、これを水拭き後の試験片とした。水拭き前及び水拭き後の各試験片のコーティング層を舌で1回軽く舐めて苦味を感じるか否かを男性3名、女性2名の計5名で確認し、下記の通り評価した。布は一度の水拭きのたびに新しいものに交換した。
【0039】
苦味を感じた人数が4人及び5人である場合を「優」、2人及び3人である場合を「不十分」、0人及び1人である場合を「不良」と評価した。味覚には個人差があることを考慮に入れ、乳幼児の誤飲を確実に防止するためには大多数の者が苦味を感じる必要があると考えてこのような基準を設定した。
また、「苦味維持の度合い」は、水拭きの前後で苦味に変化が無い場合には「良」と判定し、水拭き後に苦味評価が低下している場合には「不良」と判定した。
【0040】
-エタノール拭きに対するコーティング層の耐久性試験-
実施例2、3で作製された粘着シートから2.5cm×2.5cmのサイズの試験片を複数枚切り出した後、この試験片のコーティング層に対し、濃度99.5%のエタノールを含ませた布を用いて一方向に向かって最小で0回、最大で50回までの所定の回数拭き取りを繰り返した。布は一度拭くたびに新しいものに交換した。拭き取りの際の荷重は約300gとした。次いで、拭き取りが終わった各試験片のコーティング層の状態を光学顕微鏡を用いて観察するとともに、コーティング層を舌で1回軽く舐めて苦味を感じるか否かを男性1名により確認し、評価した。苦味の評価は「有り」と「無し」の二種類のみとした。
【0041】
-試験結果-
粘着シートの誤飲防止効果についての試験結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1、2と比較例1との水拭き前の結果から、溶剤系塗料を用いた場合、コーティング層において、樹脂固形分に対する苦味成分の割合が少なくとも2質量%以上であれば、十分な誤飲防止効果があることが確認できた。この結果から、樹脂固形分に対する苦味成分の割合が2%程度以上であれば、誤飲防止効果があるものと考えられた。
【0044】
また、実施例1、2と比較例1~6の水拭き前の結果との比較から、コーティング層の形成に水性塗料を用いる場合には、溶剤系塗料を用いる場合に比べて苦味成分の含有濃度が低くても苦味を感じさせられることが分かった。しかし、10回の水拭き後の試験結果から、水性塗料を用いた場合には、苦味成分の濃度を比較的高くした場合であっても水拭きによって容易に誤飲防止効果が失われることが分かった。これに対し、実施例1、2の結果から、溶剤系塗料を用いる場合には、水拭きを繰り返しても苦味成分は除去されにくく、誤飲防止効果が保持されていることが確認できた。
【0045】
また、図2は、実施例2で作製された粘着シートをエタノール拭きした結果を示す図であり、図3は、実施例3で作製された粘着シートをエタノール拭きした結果を示す図である。
【0046】
図2に示すように、硬化剤を使用せずに形成させたコーティング層では、エタノールを用いて3回拭き取りを行った時点でコーティング層が筋状に剥がれ始め、10回目の拭き取りが終わった時点でコーティング層は完全に除去された。また、6回目の拭き取り後までは苦味が維持されていたが、10回目の拭き取り後には苦味も無くなっていた。
【0047】
これに対し、図3に示すように、硬化剤を使用した場合には、20回目の拭き取り後までコーティング層の外観に変化はなく、40回目の拭き取り後まで苦味を維持できることが確認された。
【0048】
表1、図2及び図3に示す結果から、エタノールを用いた拭き取りの方が水を用いた拭き取りに比べてコーティング層が除去されやすいことと、コーティング層を形成する際に硬化剤を用いることにより、エタノール拭きに対する耐久性を大幅に向上させることができることとが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本明細書に開示された粘着シートは、玩具等、誤飲される可能性がある被着体の誤飲防止に用いられる。
【符号の説明】
【0050】
1 剥離ライナー
3 粘着剤層
5 基材フィルム
7 コーティング層
10 粘着シート
11 本体部分
図1
図2
図3