(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】食品加工素材の製造方法及び加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20230814BHJP
A23B 7/022 20060101ALI20230814BHJP
A23B 7/005 20060101ALI20230814BHJP
A23B 7/05 20060101ALI20230814BHJP
A23B 7/045 20060101ALI20230814BHJP
A23B 7/08 20060101ALI20230814BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20230814BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23B7/022
A23B7/005
A23B7/05
A23B7/045
A23B7/08
A23L5/00 K
(21)【出願番号】P 2022140295
(22)【出願日】2022-09-02
【審査請求日】2022-11-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://soubun.my.salesforce.com/sfc/p/7F000005AhVc/a/7F000000qUzw/WOIUi2QnXog0_OPPzkp6B3H3MDDkWCLnJA11DlAKYss(掲載日:令和4年8月24日) 日本食品科学工学会 第69回大会(オンライン開催)(開催日:令和4年8月26日)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】浜名 洋司
(72)【発明者】
【氏名】重田 有仁
(72)【発明者】
【氏名】中津 沙弥香
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-026143(JP,A)
【文献】特開平07-289160(JP,A)
【文献】特開2006-212027(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103919074(CN,A)
【文献】特開昭58-023745(JP,A)
【文献】特許第3686912(JP,B2)
【文献】凍結含侵法ガイドブック,第5版,広島県立総合技術研究所 食品工業技術センター,2019年,https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/394428.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元の食品素材の外観形状が保持された食品加工素材の製造方法であって、
液体を導入可能とする事前処理が施された食品素材を準備する工程と、
前記食品素材に前記液体を導入する工程と、
前記液体導入後の食品素材を
前記液体に浸漬した状態で冷凍する工程と、
冷凍した食品素材を解凍中または解凍後に、甘味料含有物質に接触させる工程と、
を含み、
前記液体導入工程での前記液体の導入量が、前記食品素材に対して3質量%以上であり、
前記導入工程で用いる前記液体の糖含有量が、50質量%以下であり、
前記接触工程で用いる前記甘味料含有物質の糖含有量が、前記液体の糖含有量よりも15質量%以上高いことを特徴とする、食品加工素材の製造方法。
【請求項2】
前記接触工程で用いる前記甘味料含有物質の糖含有量が、15質量%以上100質量%以下である、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項3】
前記食品素材が青果物である、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項4】
前記液体導入工程において、前記事前処理が、針刺し、スリット、カット、研削、穴あけ、へた除去、および剥皮からなる群から選択される少なくとも1種の処理である、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項5】
前記液体導入工程において、前記液体の導入が0.080MPa以下の減圧処理により行われる、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項6】
前記液体導入工程において、前記食品素材を加熱中または加熱後に前記液体を導入する、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項7】
前記液体導入工程に用いる前記液体が、水および食用油の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項8】
前記液体導入工程に用いる前記液体が、酵素、甘味料、酸味料、香料、塩類、乳化剤、酸化防止剤、食用色素、および食用アルコールからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項7に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項9】
前記接触工程に用いる前記甘味料含有物質が、水、食用油、酵素、酸味料、香料、塩類、乳化剤、調味料、酸化防止剤、食用色素、および食用アルコールからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項10】
前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を加熱処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項11】
前記接触工程後
の食品素材を冷凍処理する工程または
解凍後の食品素材を前記接触工程中
に冷凍処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項12】
前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を乾燥処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項13】
前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を加熱処理する工程の後に、冷凍処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項14】
前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を加熱処理する工程の後に、乾燥処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項15】
前記接触工程後
の食品素材を冷凍処理する工程または
解凍後の食品素材を前記接触工程中
に冷凍処理する工程の後に、乾燥処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の食品加工素材の製造方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の製造方法により得られた食品加工素材を用いる、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元の食品素材の外観形状が保持されて、歩留まりがよく、食感のよい食品加工素材の製造方法に関する。さらに、本発明は、当該製造方法により得られた食品加工素材を用いる、加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広島県では多種類の野菜や果樹等農産物が生産されている。常緑果樹では、ハッサク、じゃぼんといった発祥品種があり、レモン、ネーブルオレンジ、はるか、ダイダイ、安政柑、西之香、じゃぼんといった収穫量全国1位の柑橘が複数種類ある。特にレモンは有名で、国内収穫量の63%を占める。ここ数年で「瀬戸内レモン」ブランドが確立されて、生果や加工材料の需要が急激に高まっており、それに対応するため生産拡大が推進されている。同時に、流通体制の安定化とリスク分散の観点から、レモン以外にも、ハッサク、はるか、瑞季等のブンタン類等の中晩柑も含めた柑橘ブランド力強化が必要に迫られている。その他果樹では、ブドウ、ナシ、カキ、モモ、イチジク、リンゴ、スモモ、オリーブ、ブルーベリー、ビワ、キウイフルーツ、アンズ、ウメ、クリ等の産地があり、生産振興に取り組んでいる。野菜では、キャベツやアスパラガス、トマト、ホウレンソウ、ヒロシマナ、青ネギ、白ネギ、ワケギ、コマツナ、キュウリ、ダイコン、サヤエンドウ、ナス、タマネギ、ジャガイモ、クワイ、カボチャ、ピーマン、イチゴ、チンゲンサイ、エダマメ、ブロッコリー、ミズナ、小豆などの生産を振興している。また、レモンをはじめとする県産果実に加え、イチゴ、デーツ、赤シソ、ヒロシマナ、ショウガなどの農産物を原料とする食品加工企業も多数存在する。
【0003】
食品の呈味性や保存性を改善するため、高濃度の糖、塩などを含む液体に浸漬した浸漬食品や浸漬及び乾燥処理により水分活性を0.6~0.98に調整した食品加工素材は、浸漬工程において食品加工素材が脱水・収縮するため、歩留まりが低下し、食感が悪くなり(硬くかみ切りにくくなり)、外観も保持できなくなるという課題があった。
【0004】
果実類などの多くの青果物においては、果皮と果肉は食感や味、加工特性も異なることから、従来は多くの場合、別々に加工されて素材提供されてきた。特に果皮は苦味、収斂味が強いことから、苦味、収斂味抑制を目的とした茹でこぼし処理などが行われているが、果皮に含まれる呈味・香気・機能性成分が失われるという課題があった。また、消費者の嗜好の変化により、なるべく簡便に食せる青果物及びその加工品が求められており、従来から求められてきた外観の良さに加えて、皮ごと食べられる加工品に対するニーズが高まっている。一方で、果皮と果肉の加工特性が異なることから、果皮と果肉が一体となった青果物を加工すると、加熱により果肉が過剰軟化する一方、果皮が軟化せず、また、苦味、収斂味が残存し、香気が失われるといった課題があった。
【0005】
果実類などの青果物においては、消費者の嗜好の変化に合わせて、ブドウではシャインマスカット、柑橘類では瑞季など、皮ごと食べやすい品種の育成が進んでいるが、それらの皮ごと食べやすいとされている品種についても、栽培方法などにより皮ごと食べる場合の食べやすさにはばらつきがあり、さらなる皮ごと食べる場合の食べやすさの改善が課題となっている。
【0006】
加えて、柑橘類ピールの糖漬けなど皮のみで構成される加工品や、モモの糖漬け、ショウガの糖漬けなど、可食部のみで構成される果実や野菜加工品についても、前述したとおり、浸漬工程において脱水・収縮することから、歩留まり低下、果皮の硬化、外観の劣化などの課題が残っている。
【0007】
果実類の食感、呈味性、食べ易さの簡便性を改善するいくつかの手法が既に公知となっているが、加工における歩留まりや食感、外観、呈味性、香気の点において改善の余地が残されている。
【0008】
従来から、果実類などの青果物においては、栽培途中の摘果や間引き、収穫しても規格外で商品や加工の原料にならず、廃棄される量が多いことが社会問題となっている。さらに、近年は、食の簡便化のニーズが高まったことにより、カット野菜やカットフルーツの需要が増加しており、今後も利用が増加することが想定されている。それに伴い、キャベツの芯など、青果物の芯、皮、茎、根、花などの非可食部分の廃棄量も増加することが想定される。これらの加工中に発生する非可食部分などの廃棄量の削減も、食品ロス削減や環境負荷軽減、そして持続可能な社会の実現に向けた社会的な課題となっている。
【0009】
特許文献1には、果実を、その果実の糖含有量の1~2倍の糖含有量のペクチンエステラーゼ含有水溶液に浸漬した状態で、該ペクチンエステラーゼ含有水溶液を含む反応系内を1~650mmHgで3分~24時間減圧する工程と、前記水溶液から前記果実を取り出した後、該果実の品温が1~95℃となるように該果実を糖含有水溶液に浸漬して該果実の糖含有量を25~50度に調整する工程と、前記糖含有水溶液から前記果実を取り出した後、該果実を凍結する工程と、を含む、冷凍状態で適度な硬さが維持されて生の果実のような食感を有するイチゴ加工品ならびに冷果の提供を目的とした冷凍果実加工品の製造方法が記載されている。
【0010】
特許文献2には、果菜類を凍結したあと、(減圧下で)糖液に浸漬することを特徴とする、糖液を効率的に含浸させ、その風味や色調の劣化を起こさず、傷やかけのない品質に優れた果菜類を得るための果菜類への糖液含浸法が記載されている。
【0011】
特許文献3には、野菜類を加熱処理または凍結処理するに当たり、予め野菜類に高糖濃度(少なくとも50%以上)を有する糖液および/または糖アルコール液を含浸させることを特徴とする野菜類の軟化防止方法が記載されている。
【0012】
特許文献4は、一口サイズの大きさの果実類または食用花卉類を、減圧下で水を含浸(好ましくは元の重量の少なくとも5重量%以上)させた後、緩慢凍結(好ましくはまず-1~-10℃の雰囲気下で3時間以上かけて行い、ついで-15℃以下の雰囲気下で十分凍結を行う)することにより組織中の空隙を増大し、ついで、これを凍結乾燥し、得られた凍結乾燥物を、常温条件下では固化しているが30~50℃で溶融する食用油脂類の溶融物中に浸漬して食用油脂を減圧下で凍結乾燥物の内部にまで含浸させた後、常温下で全体を固形状にすることを特徴とする菓子の製造方法について記載されている。
【0013】
非特許文献1には、モモを原材料とした加工食品の製造法が記載されている。本文献は、事前に半割して種を取り、皮をむき、0.3%L-アスコルビン酸・クエン酸液に浸漬し、色止めをした後、水分を取ったモモ果実について、10%の砂糖(最終糖含有量に合わせて調整可能)を添加し、真空包装を行った後、常温で60分程度放置して砂糖を溶かし、スチームコンベクションオーブンで90℃、30分加熱し、加熱終了後に90分以内に3℃まで冷却し、冷蔵又は冷凍保管することで、果肉の褐変防止、加熱調理の際の香気成分維持、冷解凍時のドリップ抑制ができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第5027099号公報
【文献】特開平07-289160公報
【文献】特開平9-327276号公報
【文献】特開2002-291415号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】モモの真空調理法、福島県農業総合センター生産環境部流通加工科、2019年3月作成
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
食品素材の保形性、呈味性を高めるために、高濃度の調味液に浸漬する加工方法が古くから行なわれている。例えば、果実などでは、常温流通可能な糖度とするために55°Brixを超える高糖度溶液に浸漬する高濃度溶液浸漬処理が行なわれている。このような高濃度の調味液に浸漬すること、または浸漬後に乾燥することなどにより、食品素材の水分活性を0.6~0.98に調整し保存性を高め、加えて調味により呈味性を高めた食品が知られている。例えば、果菜類の糖漬けやドライフルーツなどが挙げられる。しかし、高濃度の溶液に浸漬すると、食品素材と高濃度溶液の浸透圧差により食品素材が脱水・収縮し、歩留まりが低下する。また、脱水・収縮により食感が硬くなり、外観形状も劣化する。また、脱水時に食材に含まれる香気も失われる。また、皮、芯、茎、根、花などの非可食部を加工する場合には、軟化や苦味、収斂味除去を目的として茹でこぼしなどの処理が行われるが、皮などの非可食部に含まれる香気成分、呈味成分、機能性成分が流出し、食品素材本来の味、香気成分、食感、機能性が失われてしまう。また、芯、茎、根、花などの部位にも特有の香気成分、機能性成分が含まれているが、硬く、呈味性にも劣ることから、食用とされていないことが多い。加えて、皮などの非可食部と果肉などの可食部の加工特性が異なることから、両者を同一手法で加工できないため、皮などの非可食部と可食部が一体となった形状の加工品を製造することは困難である。本発明の目的は、浸漬工程における食品素材(皮などの非可食部及び可食部)の脱水・収縮を抑制し、ひいては食感改善、外観形状の劣化防止、香気成分、呈味成分、機能性成分の流出防止が可能な食品加工素材の製造方法を提供することである。また、加工特性の異なる皮などの非可食部と可食部を同一手法で処理可能で、且つ脱水・収縮を抑制し、ひいては食感改善、外観形状の劣化防止、香気成分、呈味成分、機能性成分、香気成分の流出防止が可能な皮などの非可食部と可食部が一体である食品加工素材の製造方法を提供することである。
【0017】
特許文献1は、冷凍イチゴの食感を改善する製法であり、冷蔵や常温における浸漬食品の歩留まり、外観形質維持、食感向上などに関する記載、工夫がない。特許文献1では、25~50度の糖液で浸漬した後、冷凍果実加工品及び冷果とするために冷凍されているが、冷凍処理は保存性向上の目的で使用されており、歩留まり向上等の目的で使用されていない。また、皮に対する脱水・収縮、食感などの改善に関する記載もない。
【0018】
特許文献2は、冷凍果菜類の食感を改善する製法であり、冷蔵や常温における浸漬食品の歩留まり、外観形質維持、食感向上などに関する記載、工夫がない。特許文献2では、果菜類を凍結したあと、糖液を浸漬、減圧含浸しているが、冷凍前に液体導入を行っておらず、冷凍処理は保存性向上の目的で使用されており、歩留まり向上等の目的で使用されていない。また、皮に対する脱水・収縮、苦味、収斂味、食感などの改善に関する記載もない。
【0019】
特許文献3は、加熱時における野菜の軟化を抑制する製法であり、冷蔵や常温における浸漬食品の歩留まり、外観形質維持、食感向上などに関する記載、工夫がない。特許文献3では、50%以上の高濃度の糖液含浸を行っているが、そのような高濃度の溶液では、食材が脱水・収縮する。脱水・収縮を補うために、浸漬に次いで水戻し処理を行なっているが、脱水・収縮時及び水戻し処理時に食材に含まれる呈味成分、香気成分、機能性成分が失われてしまう。特許文献3では、浸漬・水戻し後に冷凍処理を行なっているが、冷凍処理は保存性向上の目的で使用されており、歩留まり向上等の目的で使用されていない。また、皮に対する脱水・収縮、苦味、収斂味、食感などの改善に関する記載もない。
【0020】
特許文献4は、チョコレートを含浸させた、凍結乾燥の菓子類の製法であり、浸漬食品の歩留まり、外観形質維持、食感向上などに関する記載、工夫がない。特許文献4では、水を食材に含浸した後に冷凍しているが、これらの処理は食材内の氷結晶を成長させ、離水を促し、素材への凍結乾燥後の空隙を大きくすることを目的としており、歩留まり向上等の目的で使用されていない。また、皮に対する脱水・収縮、苦味、収斂味、食感などの改善に関する記載もない。
【0021】
非特許文献1において、モモを原材料とした加工食品の製造法が記載されており、糖または糖溶液をモモと共に真空包装し、長期保存する場合は冷凍することで果肉の褐変防止、加熱調理の際の香気成分維持、冷解凍時のドリップ抑制ができることが記載されている。しかし、非特許文献1ではモモ重量の10%の砂糖を真空包装時に加えることが記載されているが、このような低糖度では保存性の向上には不十分である。また、非特許文献1では、糖または糖溶液をモモと共に真空包装し、長期保存する場合は冷凍することが記載されているが、保存性をより高めるために糖度を高めるための追加の浸漬工程に関する記載がなく、また、高糖度の糖、糖液を添加した場合の脱水防止、ひいては歩留まり低下防止や収縮防止などに関する記載や適切な糖度範囲などの記載もない。また、非特許文献1において、冷凍処理はできあがった加工食品の保存性を高めるための工程として用いられており、浸漬における脱水・収縮防止の観点での使用するよう記載されていない。また、剥皮したモモを試料としており、皮に対する脱水・収縮、苦味、収斂味、食感などの改善に関する記載がない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、以下の製造方法を新たに見出した。すなわち、食品素材に対し液体導入のための事前処理を予め行った後、次いで、特定の糖含有量以下の液体(導入液)を導入する処理(液体導入処理)を行う。この液体導入処理を行った食品素材に対し、さらに冷凍処理を行った上、次いで、導入液よりも糖含有量が高い甘味料含有物質に接触させる処理(接触処理)を行なう。これらの一連の処理を行なうことで、従来の技術思想にはなかった、高い糖含有量の甘味料含有物質に接触処理を行った際の食品素材の脱水・収縮を抑制できることを新たに見出した。これら一連の処理による脱水・収縮抑制は、生成品の歩留まりの改善、食感の改善、外観形状の維持、食品素材の持つ呈味成分、香気成分、機能性成分の流出防止につながる。また、食品素材の皮などの非可食部に対しても同様の効果があることから、従来は食べることが困難であった皮などの非可食部の食味・食感を改善することも可能である。さらに、本処理は加工特性の異なる皮などの非可食部と可食部を同時に処理することが可能であるため、皮などの非可食部と可食部が一体となった加工品、皮などの非可食部のみ、可食部のみの加工品といった多様な形態の加工品を製造することが可能となる。本発明者らは、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0023】
本発明の一態様によれば、以下の発明が提供される。
[1] 元の食品素材の外観形状が保持された食品加工素材の製造方法であって、
液体を導入可能とする事前処理が施された食品素材を準備する工程と、
前記食品素材に前記液体を導入する工程と、
前記液体導入後の食品素材を冷凍する工程と、
冷凍した食品素材を解凍中または解凍後に、甘味料含有物質に接触させる工程と、
を含み、
前記導入工程で用いる前記液体の糖含有量が、50質量%以下であり、
前記接触工程で用いる前記甘味料含有物質の糖含有量が、前記液体の糖含有量よりも15質量%以上高いことを特徴とする、食品加工素材の製造方法。
[2] 前記接触工程で用いる前記甘味料含有物質の糖含有量が、15質量%以上100質量%以下である、[1]に記載の食品加工素材の製造方法。
[3] 前記食品素材が青果物である、[1]または[2]に記載の食品加工素材の製造方法。
[4] 前記液体導入工程において、前記事前処理が、針刺し、スリット、カット、穴あけ、へた除去、および剥皮からなる群から選択される少なくとも1種の処理である、[1]~[3]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[5] 前記液体導入工程において、前記液体の導入が0.080MPa以下の減圧処理により行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[6] 前記液体導入工程において、前記食品素材を加熱中または加熱後に前記液体を導入する、[1]~[5]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[7] 前記液体導入工程に用いる前記液体が、水および食用油の少なくとも1種を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[8] 前記液体導入工程に用いる前記液体が、酵素、甘味料、酸味料、香料、塩類、乳化剤、酸化防止剤、食用色素および食用アルコールからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、[7]に記載の食品加工素材の製造方法。
[9] 前記接触工程に用いる前記甘味料含有物質が、水、食用オイル、酵素、酸味料、香料、塩類、乳化剤、調味料、酸化防止剤、食用色素および食用アルコールからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、[1]~[8]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[10] 前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を加熱処理する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[11] 前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を冷凍処理する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[12] 前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を乾燥処理する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[13] 前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を加熱処理する工程の後に、冷凍処理する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[14] 前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を加熱処理する工程の後に、乾燥処理する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[15] 前記接触工程後または前記接触工程中の食品素材を冷凍処理する工程の後に、乾燥処理する工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の食品加工素材の製造方法。
[16] [1]~[15]のいずれかに記載の製造方法により得られた食品加工素材を用いる、加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、高濃度の糖との接触時における食品素材の脱水・収縮を抑制することにより、食品素材へ糖を導入して水分活性を下げ、保存性をあげつつも、元の食品素材の外観形状を保持しながら、歩留まりが良い食品加工素材の製造方法を提供することができる。さらに、当該方法により得られた食品素材は、食感が良く、食品素材の有する呈味成分、香気成分、機能性成分の流出を抑制することもできる。また、果皮などのこれまで非可食であった部分も含めて食べやすくなり、外観、食感・呈味のいずれも好ましく喫食できる。特に果実類、野菜類の皮、芯、茎、根、花などの非可食部には食品素材特有の香気成分、機能性成分を多く含んでいることから、これらを可食とすることで食品素材の持つ有用成分を摂取することが可能となる。
一方、皮などの非可食部は硬く苦味、収斂味成分を含有していることが多いため、喫食する場合は咀嚼を繰り返すことにより皮の苦味、収斂味成分が口内に流出し、より呈味性が劣化する傾向にあった。しかし、本処理によれば皮などの非可食部を軟らかく食感改善できるため、喫食時に咀嚼を過剰に繰り返すことなく嚥下できることから、結果的に口腔内への苦味、収斂味成分の流出も抑えられ、苦味、収斂味の抑制にもつながる。また、皮などの非可食部と可食部が一体となった加工品の場合、本発明によれば皮と可食部の軟らかさが近づくことから、両者の咀嚼回数と咀嚼による食品素材の含有成分の流出度合いが近づく。これにより、皮などの非可食部の苦味、収斂味と可食部の甘味、酸味などの呈味成分が同時に口腔内に広がるため、甘味・酸味などが苦味、収斂味を中和し、官能的に感じる苦味、収斂味の緩和にもつながる。また、軟らかく咀嚼し易くなることから、口腔内でまとまりやすくなり(食塊を形成し易くなり)、飲み込み易くなる。
【0025】
本発明では、これまで品質が保持できないため製造が難しかった食品加工素材又は加工食品の高い糖含有量化が実現できる。また、脱水・収縮防止目的で用いる冷凍工程には、保存性向上効果もある。さらに、準備工程、液体導入工程と、冷凍工程と、接触工程を経た食品素材または接触工程中の食品素材について、加熱工程、乾燥工程、冷凍工程を追加することも可能であることから、これにより、端境期までの通年の素材供給や、保存・加工に適した時期、あるいは安価な時期の食品加工素材又は加工食品の保存、通年供給が可能となる。さらに、殺菌、酵素失活、乾燥などを利用することにより、冷蔵・常温流通が可能となり、流通・販売経路の拡大、流通コストの削減も可能となる。
【0026】
果実等は、果皮が硬く口に残るため、果皮と果肉を一緒に食べない場合が多い。レモンや中晩柑類などは、特に果皮が剥きにくいだけでなく、苦味、収斂味もある。そのため、果皮を食す場合は何度も茹でこぼして苦味、収斂味を抜いてから糖漬けする加工が一般的であった。しかし、茹でこぼしは、苦味、収斂味とともに有益な機能性成分や香気成分も失われてしまう。このようなことから、青果物の皮、芯、茎、根、花、摘果果実などの非可食部には機能性成分や特有の香気があり、栄養価が高いことが知られているにもかかわらず、食感や味の面で嗜好性が低く、これまで食品として利用されない場合が多かった。本発明では、食品素材の皮などの非可食部について苦味、収斂味等のマスキングが可能なレベルの高い糖含有量の甘味料含有物質に接触させた場合でも軟らかくかみ切りやすい食品素材として提供でき、可食化できる。そのため、これまで未利用であった皮、茎、根、花、芯、摘果果実などの非可食部等の食品素材としての活用が可能になるだけでなく、食品素材の栄養強化・機能性成分増加を実現でき、その食品加工素材、加工食品を利用することで、消費者の健康増進、QOL向上にもつながる。
【0027】
本発明を用いることで、歩留まりが向上するとともに、青果物の皮、茎、根、花、芯、摘果果実などこれまで食することが困難で非可食とされてきた食品素材が可食化することは、食品ロス軽減や廃棄物削減、原料使用率の向上につながる。これまで非可食部の果皮等と可食部の果肉等に分離して加工せざるを得なかった食品素材においては、分離しなくても加工可能とする手法を提供でき、皮などの非可食部と果肉などの可食部の同時加工が可能となるので、製造過程での省力化にもつながる。また、本発明では、冷凍前に導入する液体についても、水または低濃度液であるため、従来の複数段階で浸漬する加工法と比較し、排水する場合でも環境負荷を低減できる。
【0028】
本発明を用いることで、菓子、飲料、調味料、調理食品等において、新しい商品開発に寄与できる。具体的には、元の食品素材の外観形状を保持しながら、歩留まりの良い、食感のよい、素材本来の呈味性を有する青果物等の食品加工素材を製造することができる。例えば、広島県内で生産されているハート型のレモンに適用すれば、ハート型の果実断面形状をそのまま保持した食感の良いレモン加工素材が製造できる。さらに、これらの食品加工素材を用いて、冷凍品、シロップ漬、リキュール漬、塩漬、酢漬、オイル漬、具材感のあるドレッシング、水煮、乾燥品、機能性表示食品等の加工食品を製造することができる。当該加工素材・食品は、加熱殺菌していない冷凍流通食品、加熱殺菌を加えた冷凍流通食品、低温殺菌を加えたチルド流通食品、低温殺菌を加えた常温流通食品、レトルト殺菌を加えた常温流通食品、乾燥処理を加えたチルド・常温流通食品への加工が可能である。また、包装形態としては、パウチ、瓶詰、缶詰、カップなどが可能であるがこれに限らない。当該加工食品は、冷凍、加熱殺菌後の常温流通、乾燥食品への加工が可能なため、ニーズが高まるが端境期で生果が手に入らない時期にも安定した素材提供を可能にし、保存・加工に適した良い時期の素材又は安価な時期の素材の保存も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[食品加工素材の製造方法]
本発明は、元の食品素材の外観形状が保持された食品加工素材の製造方法であって、少なくとも、食品素材の準備工程と、液体導入工程と、冷凍工程と、接触工程とを含むものである。本発明の方法は、接触工程後または接触工程中に、加熱処理工程、冷凍処理工程、および乾燥処理工程の少なくとも1種をさらに含んでもよい。加熱処理工程、冷凍処理工程、および乾燥処理工程は任意の順序で2工程以上を組み合わせてもよい。例えば、加熱処理工程後に冷凍処理工程を行ったり、加熱処理工程後に乾燥処理工程を行ったり、冷凍処理工程後に乾燥処理工程を行ったりしてもよい。本発明によれば、これまで課題とされてきた食品素材の収縮・脱水を起こりにくくすることにより、元の食品素材の外観形状を保持しながら、歩留まりを向上した食品加工素材を得ることができる。さらに、当該食品加工素材の食感を軟らかくかみ切りやすく改善することができる。さらに、このような食品加工素材は、果皮などのこれまで非可食とされてきた部分もかみ切りやすくなり、口腔内でのまとまりが良くなって飲み込み易くなり、苦みなども感じにくくなる。
【0030】
[準備工程]
準備工程は、液体を導入可能とする事前処理が施された食品素材を準備する工程である。食品素材としては、植物性食品素材、好ましくは青果物が対象となる。それらの収穫時期や保存状態は特に限定されない。青果物は、生の状態、冷凍状態、軽くブランチングした状態、および軽くブランチング後の冷凍状態のいずれでもよいが、非加熱の状態(生の状態もしくは冷凍状態)が好ましい。食品素材の具体的な種類としては特に限定されないが、レモン、スダチ、カボス、じゃぼん、ライム、シークァーサー、ユズ、ダイダイ等の香酸柑橘類、温州ミカン、ネーブルオレンジ、オレンジ、グレープフルーツ、ブンタン、イヨカン、ハッサク、はるか、安政柑、西之香、マンダリン、ポンカン、スウィーティー、黄宝、瑞季、汐里、ボナルーナ等の柑橘類、リンゴ、ナシ、モモ、スモモ、オウトウ、アンズ、ウメ、ブドウ、カキ、イチジク、ブルーベリー、オリーブ、ビワ、パイナップル、バナナ、マンゴー、キウイフルーツ、クリ、デーツなど果実類、イチゴ、メロン、ウリ、スイカ、キュウリ、ナス、トマト、ミニトマト、ピーマン、パプリカ、ハクサイ、キャベツ、ヒロシマナ、ワケギ、ホウレンソウ、チンゲンサイ、青ネギ、白ネギ、ワケギ、コマツナ、カボチャ、タマネギ、ショウガ、アスパラガス、ダイコン、ニンジン、レンコン、ゴボウ、サヤエンドウ、エダマメ、ブロッコリー、ミズナ、トウモロコシなどの野菜類、シイタケ、マツタケなどのキノコ類、ジャガイモ、クワイなどのイモ類、大豆、小豆などの豆類、米、麦などの穀類が挙げられる。
【0031】
原材料への事前処理は、食品素材の内部に液体を導入可能とするための液体導入経路を作成するものである。具体的には、針刺し、スリット、カット、研削、穴あけ、へた除去、および剥皮等を行うことが挙げられる。これらの処理は、1種単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。これらの処理により、少なくとも1か所に液体導入経路が確保されれば食品素材内部への液体導入が可能である。例えば、直径1mmの針で1箇所刺す処理でも食品素材内部への液体の充満は可能である。
【0032】
事前処理で食品素材を研削する場合、単刃、多刃、卸金、ヤスリ等を用いることができる。食品素材を丸ごと加工する場合の研削量としては、原材料の質量に対して、好ましくは0.5~3.0質量%であり、より好ましくは0.8~2.5質量%であり、さらに好ましくは1.0~2.2質量%である。研削量が上記範囲内であれば、食品素材に液体を導入可能とするための液体導入経路を作成しながら、食感を改善することができる。
【0033】
事前処理でカットする場合、原材料の蔕部切除、臍部切除、果肉が切断される櫛切り等の縦方向カット、横方向カット等が挙げられる。カット後の食品素材は、皮、果肉などの全部位が一緒の状態でも、部位ごとに分離した状態でもよく、形状は特に限定はされない。
【0034】
[液体導入工程]
食品素材への液体導入工程は、準備工程後の事前処理が施された食品素材の内部に液体(以下、「導入液」ということがある)を導入する工程である。液体の導入方法は、特に限定されないが、食品素材の空隙に液体を十分に導入できる方法であればよく、食品素材を加熱中または加熱後に液体を導入してもよい。例えば、食品素材を液体に浸漬、浸漬して加熱、加熱後の浸漬、圧力処理のいずれか一つの方法かこれらを組み合わせて行ってもよい。原材料の種類、サイズ、形状に応じて適宜調節することができる。
【0035】
液体導入工程で用いる導入液の添加量は、食品素材の空隙に液体を十分に導入できる量であれば特に限定されないが、食品素材に対して、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、さらにより好ましくは100質量%以上であり、また、500質量%以下であってもよく、400質量%以下であってもよく、300質量%以下であってもよい。
【0036】
液体導入工程における加熱温度条件は特に限定されないが、例えば、好ましくは45~100℃であり、より好ましくは75~100℃である。
【0037】
食品素材の空隙を充満するために圧力処理を行うことが好ましい。圧力処理の条件は、原材料のサイズや形状に応じて適宜調節することができる。圧力処理は減圧処理であっても、加圧処理であってもよい。
【0038】
減圧処理の条件は、0.080MPa以下であることが好ましい。より大きな食品素材や大量の液体を導入したい場合には、減圧処理は0.020MPa以下であることが好ましい。また、目標圧力到達後の保持時間に限定はないが、1分以上の保持時間がある方が好ましく、5分以上ある方がより好ましい。また、減圧処理を繰り返してもよい。
【0039】
減圧処理の方法は、バッチ式、軟質フィルムを用いた真空パック式のいずれにも適用する
【0040】
圧力処理は、10MPa以上の加圧処理でも適応できる。
【0041】
次の工程である冷凍工程を開始するまでの時間に限定はないが、0.3時間以上置くことがより好ましい。
【0042】
液体の導入量は、特に限定されないが、原材料の食品素材に対して、好ましくは3質量%以上150質量%以下であり、より好ましくは4質量%以上145質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以上140質量%以下である。
【0043】
(導入液)
液体導入工程で用いる液体(導入液)は、糖含有量が50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、さらにより好ましくは15質量%以下である。
【0044】
導入液は、少なくとも、水および食用油の少なくとも1種を含むことが好ましい。食用油としては、例えば、キャノーラ油、米油、エゴマ油、オリーブ油、亜麻仁油、ナタネ油、ゴマ油、サラダ油、およびグレープシード油等が挙げられる。これらの食用油は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの乳化油でもよい。
【0045】
導入液は、水または油に溶質を溶解させた溶液でもよい。溶質としては、酵素、甘味料、酸味料、香料、塩類、乳化剤、酸化防止剤、食用色素、食用アルコールおよびその他の成分等が挙げられる。これらの溶質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
導入液に含まれる酵素としては、例えば、セルラーゼ、ペクチナーゼ、およびヘミセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。原材料の状態によっては、タンパク質を分解するプロテアーゼ、多糖類を分解するアミラーゼ、グルカナーゼ、マンナーゼ、キシラーゼ、イヌリナーゼ、脂質を分解するリパーゼ等をさらに併用することができる。
【0047】
上記酵素の導入量は、酵素の種類に応じて適宜調節することができる。上記酵素の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.00001~0.5gであり、より好ましくは0.00005~0.4gであり、さらに好ましくは0.0001~0.3gである。
【0048】
酵素を導入した場合、酵素反応のタイミングは特に限定されない。基質を作用させる温度と時間は、原材料や酵素の種類によって適宜選択できる。例えば、微生物の繁殖を抑制しながら反応させるためには、反応温度は、好ましくは1~60℃、より好ましくは10℃以下であり、反応時間は、好ましくは0~48時間であり、より好ましくは0~24時間で、液体導入工程後に静置する、接触工程中に反応させる等の条件を挙げることができる。
【0049】
導入液に含まれる甘味料は、甘味料の種類によって甘味度および苦味、収斂味緩和効果の影響が異なるため、希望する呈味に応じて適宜選択することができる。甘味料としては、例えば、パラチノース、ソルビトール、マルチトール、トレハロース、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アラビノース、スクロース、ステビア、サッカリン、グルコース、フルクトース、キシロース、マルトース、ラフィノース、スタキオース、アドバンテーム、ネオテーム、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、粗糖等が挙げられる。これらの甘味料は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に柑橘の苦味、収斂味抑制には、トレハロース、ソルビトール、ステビア、スクロースが適している。
【0050】
甘味料の導入量は、甘味料の種類や希望する呈味に応じて適宜調節することができる。甘味料の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.00001~50gである。
【0051】
導入液に含まれる酸味料は、酸味料の種類によって酸味度および苦味、収斂味緩和効果の影響が異なるため、希望する呈味に応じて適宜選択することができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、アルコルビン酸、グルコン酸、グルクロン酸、およびガラクツロン酸、醸造酢等が挙げられる。これらの酸味料は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
酸味料の導入量は、酸味料の種類や希望する呈味に応じて適宜調節することができる。酸味料の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.004~1.5gである。
【0053】
導入液に含まれる香料は、食品素材の種類によって適宜選択できる。
【0054】
香料の導入量は、香料の種類や希望する呈味に応じて適宜選択することができる。香料の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.000003~0.05gである。また、エタノール等の溶媒に溶解された食用香料を用いる場合、導入液に香料が0.01~5質量%含まれることが好ましい。
【0055】
導入液に含まれる塩類としては、例えば、食塩、カルシウム塩、および醤油等が挙げられる。これらの塩類は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
塩類の導入量は、塩類の種類や希望する呈味に応じて適宜選択することができる。塩類の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.008~1.5gである。
【0057】
導入液に含まれる乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記の油脂とともに、乳化油脂として用いることもできる。
【0058】
乳化剤の導入量は、乳化剤の種類に応じて適宜選択することができる。乳化剤の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.0009~3.0gである。
【0059】
導入液に含まれる酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
酸化防止剤の導入量は、酸化防止剤の種類に応じて適宜選択することができる。酸化防止剤の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.0001~3.0gである。
【0061】
導入液に含まれる食用色素としては、例えば、アナトー色素、クチナシ色素、ニンジンカロテンなどのカロチノイド色素、ウコン色素などのクルクミン色素、コチニール色素、食用タール系色素、銅クロロフィルなどのクロロフィル色素、ベニバナ色素などのフラボノイド色素、赤キャベツ色素などアントシアニン色素等が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
食用色素の導入量は、食用色素の種類に応じて適宜選択することができる。食用色素の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.0001~3.0gである。
【0063】
導入液に含まれる食用アルコールとしては、酒精などの食品添加物、市販のアルコール飲料を用いることができる。例えば、ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー、およびリキュール等が挙げられる。食用アルコールのアルコール度数は特に限定されず、通常、3~96度である。
【0064】
食用アルコールの導入量は、食用アルコールの種類に応じて適宜選択することができる。食用アルコールの導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.3~38gである。
【0065】
導入液に含まれる他の成分としては、食用の原材料であれば特に限定されない。他の成分としては、例えば、アミノ酸、核酸、pH調製剤、保存料・日持ち向上剤、保水剤、寒天やジェランガム、ポリデキストロース、セルロース等の多糖類等を挙げることができる。また、冷凍耐性向上効果を目的に糖類、油脂、タンパク質等を導入させてもよい。これらの他の成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
導入液のpHは、食品に好適な範囲であれば特に限定されないが、好ましくは2~9であり、より好ましくは2.5~7.0である。
【0067】
[冷凍工程]
冷凍工程における冷凍条件は、導入した液体が凍結し、次工程の接触工程における脱水・収縮防止の目的が達成できれば緩慢凍結、急速凍結など方法に制限はない。例えば、冷凍条件は、-40~-5℃で、0.2~24時間程度で凍結することが好ましい。食品素材を凍結させた後、次の工程である接触工程を開始するまでの冷凍期間は特に制限されない。例えば、冷凍工程において凍結した食品素材を、-20℃で1年間保存するなど長期間保存してもよい。
【0068】
[接触工程]
接触工程は、冷凍した食品素材を解凍中または解凍後に、甘味料含有物質に接触させる工程である。食品素材の解凍条件は、特に限定されないが、例えば、冷蔵庫で静置する、室温(約15~40℃)または低温(約0~15℃)で静置する、流水に浸漬するなどの方法がある。また、冷凍状態の食品素材を、甘味料含有物質を含む浸漬液に浸漬し、浸漬液中で解凍してもよい。
【0069】
(甘味料含有物質)
接触工程に用いる甘味料含有物質(接触物質)の糖含有量は、液体導入工程で用いる液体(導入液)の糖含有量よりも15質量%以上高く、好ましくは20質量%以上高く、より好ましくは25質量%以上高く、さらに好ましくは30質量%以上高く、さらにより好ましくは35質量%以上高く、特に好ましくは40質量%以上高く、最も好ましくは50質量%以上高い。また、甘味料含有物質の糖含有量は、15質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上であり、さらにより好ましくは50質量%以上であり、また、100質量%以下であり、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、75質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
本発明においては、甘味料含有物質と導入液の糖含有量の差、甘味料含有物質の糖含有量、および導入液の糖含有量を上記程度に調節することで、食品素材の収縮・離水を起こりにくくすることにより、元の食品素材の外観形状を保持しながら、歩留まりを向上した食品加工素材を得ることができる。
【0070】
甘味料含有物質は、少なくとも甘味料を含むものである。甘味料としては、パラチノース、ソルビトール、マルチトール、トレハロース、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アラビノース、スクロース、ステビア、サッカリン、グルコース、フルクトース、キシロース、マルトース、ラフィノース、スタキオース、アドバンテーム、ネオテーム、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、粗糖等が挙げられる。これらの甘味料は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に柑橘の苦味、収斂味抑制には、トレハロース、ソルビトール、ステビア、スクロースが適している。
【0071】
甘味料含有物質は、水、食用オイル、酵素、酸味料、香料、塩類、乳化剤、調味料、酸化防止剤、食用色素、および食用アルコールからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでもよく、これら以外の他の成分をさらに含んでもよい。食用オイル、酵素、酸味料、香料、塩類、乳化剤、食用アルコール、および他の成分としては、上述の導入液と同様の種類のものを用いることができる。調味料としては、甘味系調味料、酸味系調味料、および塩味系調味料等を用いることができる。
【0072】
甘味料含有物質は、液体状であってもよく、固体状であってもよい。液体状の場合、糖液や、水または糖液中に甘味料および酵素等の成分が溶解ないし懸濁されたもの等が挙げられる。さらに、導入液に甘味料粉末を溶解ないし懸濁させて、甘味料含有物質として用いてもよい。また、固体状の場合、甘味料粉末や、甘味料と酵素等の他の成分との混合粉末等が挙げられる。接触工程において食品素材を解凍中または解凍後に固体状の甘味料含有物質に接触させた場合、食品素材中の水分等に固体状の甘味料含有物質が溶解して、甘味料含有物質が液体状になっても、一部溶解して懸濁状態になってもよい。甘味料含有物質が液体状の場合は、食品素材に対して好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上500質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上400質量%以下、さらにより好ましくは100質量%以上300質量%以下の量を添加することが望ましい。甘味料含有物質が固体状の場合は、食品素材に対して好ましくは150質量%以下、より好ましくは15質量%以上100質量%以下、さらにより好ましくは25質量%以上50質量%以下の量を加えることが望ましい。
【0073】
接触工程は、常圧でも減圧状態で行ってもよい。接触時間は特に限定されないが、好ましくは1時間~1ヶ月であり、より好ましくは20~72時間である。また、接触温度は特に限定されないが、好ましくは0~40℃であり、より好ましくは0~15℃である。減圧処理の条件は、導入工程と同じ条件を採用することができる。接触工程の回数に制限はなく、例えば糖含有量の異なる甘味量含有物質を多段階に接触させたり、減圧処理を繰り返してもよい。接触工程を繰り返す場合、接触工程の間隔に制限はない。接触工程を経た食品素材を長期保存しても良い。
【0074】
(加熱処理工程)
接触工程を経た食品素材または接触工程中の食品素材に対して、保存性向上等の目的で、加熱処理をさらに実施してもよい。加熱処理は、食品素材の殺菌処理や、食品素材の内在酵素や導入した酵素の失活処理の役割を果たしてもよい。加熱処理工程の条件は特に限定されないが、例えば、65~121℃の温度で、0.1~2時間行うことが好ましい。加熱処理の手法としては、例えば、レトルトやボイル等が挙げられる。加熱処理工程を加えても、歩留まり向上、食感向上、香気成分及び外観形状の保持などの効果は得られる。
【0075】
(冷凍処理工程)
接触工程を経た食品素材または接触工程中の食品素材に対して、保存性向上等の目的で、冷凍処理工程をさらに実施してもよい。冷凍処理工程は、上述の加熱処理工程の後に実施してもよい。冷凍処理工程の条件は特に限定されないが、例えば、緩慢凍結、急速凍結などが挙げられる。具体的には、-40~-5℃の温度で、0.2~24時間で凍結することが好ましい。冷凍処理工程を加えても、歩留まり向上、食感向上、香気成分及び外観形状の保持などの効果は得られる。また、冷凍処理工程において凍結した食品素材を、-20℃で1年間保存するなど長期間保存してもよい。
【0076】
(乾燥処理工程)
接触工程を経た食品素材または接触工程中の食品素材に対して乾燥処理工程をさらに実施してもよい。乾燥処理工程を加えても、外観、歩留まり、食感向上、香気成分及び外観形状の保持などの効果は得られる。また、乾燥処理工程により食感・食味の改変と流通・保存性を付加できる。乾燥処理工程は、上述の加熱工程および冷凍処理工程の少なくとも一つの工程の後に実施してもよい。乾燥処理工程の条件は特に限定されないが、例えば、33℃~90℃の温度で、0.2~72時間行うことが好ましい。冷風乾燥により5~25℃の温度で24~96時間行ってもよい。また、表面の乾燥だけが進行し、内部の乾燥が進行していない現象を解消するため、加熱や冷風など送風乾燥の間に例えば、0~30℃の温度で、5~72時間あんじょうを行ってもよい。また、真空凍結乾燥、マイクロ波乾燥などを行ってもよい。
【0077】
[加工食品の製造方法]
加工食品の製造方法は、上記の製造方法により得られた食品加工素材を用いることを特徴とする。上記の製造方法により得られた食品加工素材を用いるものであれば、その他の製法等の条件は特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。
【実施例】
【0078】
[試験例1]
[実施例1]
原材料である青果リンゴ(品種:フジ)を縦方向に1/8櫛切りに切断後、リンゴの質量を測定した。リンゴと、それと同質量の脱イオン水(導入液)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)して脱気包装し、4℃で2時間静置して水を素材内部に浸潤させた。液体導入後のリンゴの質量を測定した結果、液体導入量はリンゴの質量に対して29質量%であった。その後、-20℃でリンゴを凍結させた。凍結させたリンゴは、軟質フィルムごと完全解凍後にフィルムから取り出した。新たな軟質フィルムに、取り出したリンゴと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液(接触物質)を入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後に脱気包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して126質量%であり、質量が増加した。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0079】
[比較例1]
原材料である青果リンゴ(品種:フジ)を縦方向に1/8櫛切りに切断後、リンゴの質量を測定した。リンゴと、それと同質量の脱イオン水(導入液)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)して脱気包装し、4℃で2時間静置して水を素材内部に浸潤させた後、リンゴを凍結させずにフィルムから取り出した。新たな軟質フィルムに、取り出したリンゴと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液(接触物質)を入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後に脱気包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して97質量%であり、質量が減少した。官能評価の結果、外観形状は、果肉にへこみが見られ、比較例2よりは優れるが、実施例1よりは劣った。食感は、特に果皮近辺での瑞々しさが少なく、噛み切り難かった。瑞々しさが足りないことから、口腔内でがの最初の一噛みの歯切れが悪く、香気成分や甘味、酸味の立ち方が不十分であった。
【0080】
[比較例2]
原材料である青果リンゴ(品種:フジ)を縦方向に1/8櫛切りに切断後、リンゴの質量を測定した。リンゴと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液(接触物質)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後に脱気包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して56質量%であり、質量が減少した。官能評価の結果、外観は、果肉が収縮してへこみが大きく不良であった。食感は、硬く強い歯ごたえが感じられ、口に皮が残った。
【0081】
[比較例3]
原材料である青果リンゴ(品種:フジ)を縦方向に1/8櫛切りに切断後、リンゴの質量を測定した。リンゴを軟質フィルムで包装して-20℃で冷凍させた後、完全に解凍した。解凍したリンゴと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液(接触物質)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後に脱気包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して103質量%であった。官能評価の結果、外観は、茶褐色に変色し比較例2よりも不良であった。食感は比較例2よりも軟らかかかったが、口に皮が残り、実施例1のような柔らかさと歯切れの良さはなかった。
【0082】
[比較例4]
原材料である青果リンゴ(品種:フジ)を縦方向に1/8櫛切りに切断後、リンゴの質量を測定した。リンゴと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液(接触物質)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後に脱気包装し、4℃で2時間静置した。その後、リンゴを-20℃で冷凍させた後、完全に解凍した。解凍後のリンゴを80~90℃で30分間蒸気殺菌して加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して87質量%であり、質量が減少した。官能評価の結果、外観は、果肉が収縮してへこみが大きく不良であった。食感は、比較例2よりも軟らかかった。
【0083】
[比較例5]
原材料である青果リンゴ(品種:フジ)を縦方向に1/8櫛切りに切断後、リンゴの質量を測定した。リンゴを軟質フィルムで包装して、-20℃で冷凍させた後、完全に解凍した。解凍したリンゴと、それと同質量の脱イオン水(導入液)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)して脱気包装し、4℃で2時間静置し水を素材内部に浸潤させた後、リンゴを取り出した。新たな軟質フィルムに、取り出したリンゴと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液(接触物質)を入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後に脱気包装した。その後、リンゴを80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して109質量%であった。官能評価の結果、外観は、果肉の収縮によるへこみ、変色、変形が見られ、比較例2よりも不良であった。食感は、比較例2よりも軟らかであったが、実施例1よりは硬めであった。
【0084】
実施例1、比較例1~5の工程の順序を表1に示した。また、実施例1、比較例1~5で得られたリンゴについて、歩留まり(加工後のリンゴの質量/加工前のリンゴの質量×100(%))、並びに、外観形状および食感の評価結果を表1に示した。
外観形状および食感は、下記の基準により評価した。
[外観形状の評価基準]
5:従来法と比較し、委縮(へこみ、変形)、変色(褐変)が少ないか、ほとんど見られず、外観形状が明らかに優れた。
4:従来法と比較し、委縮(へこみ、変形)、変色(褐変)がやや少なかった。
3:従来法(比較例2のように、糖液浸漬のみを行ったもの)の委縮(へこみ、変形)、変色(褐変)の程度を基準値3とした。
2:従来法と比較し、委縮(へこみ、変形)、変色(褐変)がやや多かった。
1:従来法と比較し、委縮(へこみ、変形)、変色(褐変)が甚大であり、外観形状が明らかに劣った。
[食感の評価基準]
5:従来法と比較し、皮も含めて歯切れが良く、軟らかく、皮の口残りが少なく、食感が明らかに優れた。
4:従来法と比較し、皮も含めてやや歯切れが良く、やや軟らかく、やや皮の口残りが少なかった。
3:従来法(比較例2:糖液浸漬のみを行ったもの)の皮を含めた歯切れ、軟らかさ、皮の口残りの程度を基準値3とした。
2:従来法と比較し、皮も含めてやや歯切れが悪く、やや硬く、やや皮が口に残った。
1:従来法と比較し、皮も含めて歯切れが悪く、硬く、皮が口に残り、食感が明らかに劣った。
【表1】
【0085】
[試験例2]
[実施例2]
導入液を20質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して126質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0086】
[実施例3]
導入液を30質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して125質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0087】
[実施例4]
導入液を40質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して125質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0088】
[実施例5]
導入液を50質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して122質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0089】
[比較例6]
導入液を70質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して87質量%であり、質量が減少していた。官能評価の結果、外観は、果肉が収縮してへこみが大きく不良であった。食感は、比較例2よりも軟らかかった。
【0090】
[実施例6]
接触物質を20質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して111質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0091】
[実施例7]
接触物質を30質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して113質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0092】
[実施例8]
接触物質を40質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して116質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0093】
[実施例9]
接触物質を50質量%スクロース溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して118質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0094】
[実施例10]
接触物質を、70質量%スクロース溶液に15質量%のスクロース粉末を懸濁されたものに変更した以外は、実施例1と同様にして加工素材を得た。加工後のリンゴの質量を測定したところ、原材料に対して122質量%であり、質量が増加していた。官能評価の結果、外観形状が良く、瑞々しく噛み切りやすい食感であった。瑞々しいことから、口腔内で最初に噛み切ったときに香気成分が立ちやすく、甘味と酸味を良好に感じられた。
【0095】
実施例1~10、比較例6で得られたリンゴについて、歩留まり(加工後のリンゴの質量/加工前のリンゴの質量×100(%))、並びに、外観形状および食感の評価結果、水分活性値を表2に示した。外観形状および食感の評価基準は、試験例1と同様である。
【0096】
【0097】
[試験例3]
[実施例11]
原材料である皮つきレモン(果実と果皮が一体となっている)を赤道面に沿って3mm厚にスライスした後、レモンの質量を測定した。レモンと、それと同質量の20質量%スクロース溶液(導入液)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)して脱気包装し、4℃で2時間静置して導入液を素材内部に浸潤させた。液体導入後のレモンの質量を測定した結果、液体導入量はレモンの質量に対して13質量%であった。その後、-20℃でレモンを凍結させた。凍結させたレモンは完全解凍後に軟質フィルムから取り出した。新たな軟質フィルムに、取り出したレモンと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液に10質量%のスクロース粉末を懸濁されたもの(接触物質)を入れて包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のレモンの質量を測定したところ、原材料に対して103質量%であり、質量が増加した。官能評価の結果、外観は糖液浸漬のみを行った場合と比較し、果皮および果肉の委縮がみられなかった。食感は、糖液浸漬のみを行った場合及び比較例7と比較し、軟らかく、果皮も噛みきりやすく、苦味も感じなかった。
【0098】
[比較例7]
原材料である皮つきレモン(果実と果皮が一体となっている)を赤道面に沿って3mm厚にスライスした後、レモンの質量を測定した。レモンと、それと同質量の20質量%スクロース溶液(導入液)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)して脱気包装し、4℃で2時間静置して導入液を素材内部に浸潤させた後、レモンを凍結させずに軟質フィルムから取り出した。新たな軟質フィルムに、取り出したレモンと、その1.5倍質量の70質量%スクロース溶液に10質量%のスクロース粉末を懸濁されたもの(接触物質)を入れて包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のレモンの質量を測定したところ、原材料に対して86質量%であり、質量が減少した。官能評価の結果、外観は糖液浸漬のみを行った場合と比較し、果皮及び果肉の委縮は小さかった。食感は、糖液浸漬のみを行った場合と比較し、軟らかく苦味も感じにくかったが、実施例11と比較するとやや硬く、果皮が噛み切りにくかった。
【0099】
[実施例12]
原材料である皮つきレモン(果実と果皮が一体となっている)を赤道面に沿って4mm厚にスライスした後、レモンの質量を測定した。レモンと、それと同質量の脱イオン水(導入液)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)して脱気包装し、4℃で2時間静置して水を素材内部に浸潤させた後、-20℃でレモンを凍結させた。凍結させたレモンは完全解凍後に軟質フィルムから取り出した。新たな軟質フィルムに、取り出したレモンと、その0.5倍質量の砂糖粉末(糖含有量100%、接触物質)とを入れて包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で20時間静置して加工素材を得た。加工後のレモンの質量を測定したところ、原材料に対して104質量%であり、質量が増加した。官能評価の結果、外観は糖液浸漬のみを行った場合と比較し、果皮及び果肉の委縮が見られず、食感は、糖液浸漬のみを行った場合と比較し、軟らかく、果皮が噛み切りやすく、苦味も感じられなかった。
【0100】
[実施例13]
原材料である皮つきレモン(果実と果皮が一体となっている)の両端(果梗部、果頂部)を切除した後、レモンの質量を測定した。レモンと、それと同質量の酵素含有液(酵素量:ペクチナーゼ0.03%、導入液:イオン交換水)を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)して脱気包装し、4℃で2時間静置して導入液を素材内部に浸潤させた後、-20℃でレモンを凍結させた。凍結させたレモンは完全解凍後に軟質フィルムから取り出した。新たな軟質フィルムに、取り出したレモンと、その1.5倍質量の40質量%スクロース溶液(接触物質)とを入れて包装後、80~90℃で30分間蒸気殺菌した後に4℃で48時間静置して加工素材を得た。加工後のレモンの質量を測定したところ、原材料に対して108質量%であり、質量が増加した。官能評価の結果、外観は果皮および果肉の委縮が見られず、食感も軟らかく、皮の口残りもなく、苦味も感じられなかった。
【0101】
実施例11~13、比較例7で得られたレモンについて、歩留まり(加工後のレモンの質量/加工前のレモンの質量×100(%))、並びに、外観形状および食感の評価結果を表3に示した。外観形状および食感の評価基準は、試験例1と同様である。
【0102】
【0103】
[試験例4]
下記表4に記載の各種食品素材について、縦方向に1/8櫛切りに切断後に剥皮して果皮のみを分離した後に、実施例1の製造条件、実施例1の加熱殺菌工程無しの製造条件、比較例2の製造条件、および比較例3の製造条件で加工食品素材を得た。得られた加工食品素材について、歩留まり、外観形状および食感の評価結果を表4に示した。外観形状および食感の評価基準は、試験例1と同様である。実施例1系列および実施例1系列の加熱殺菌工程無しの結果から分かる通り、本処理を行なうことで、加熱殺菌を行っても歩留まり、外観形状、食感を維持した食品素材が得られた。なお、実施例1系列における液体導入後、冷凍工程の前の時点の各素材の液体導入量は、はるか、紅ハッサク、および瑞季でそれぞれ77質量%、74質量%、および90質量%であった。
【0104】
【0105】
[試験例5]
下記表5に記載の各種食品素材について、適宜、事前処理を施した後に、実施例1の製造条件で、かつ、比較例1および比較例2の少なくとも1つの製造条件で加工食品素材を得た。得られた加工食品素材について、歩留まり、外観形状および食感の評価結果を表5に示した。外観形状および食感の評価基準は、試験例1と同様である。なお、実施例1系列における液体導入後、冷凍工程の前の時点の各素材の液体導入量は、ウメ、モモ、バナナ、ナシ、ブドウ(ピオーネ)およびブドウ(シャインマスカット)でそれぞれ7質量%、11質量%、23質量%、16質量%、3質量%、および3質量%であった。
【0106】
【0107】
[試験例6]
下記表6に記載の各種食品素材について、適宜、事前処理を施した後に、実施例1の製造条件で、かつ、比較例1~比較例3の少なくとも1つの製造条件で加工食品素材を得た。なお、アスパラ(条件変更例)は、実施例1、比較例1および比較例2の製造条件において、液体導入工程でブランチングのための湯煮により液体を導入した例である。また、プリンスメロン(条件変更例)は、実施例1および比較例1の製造条件において、液体導入工程での減圧処理を行わずに常圧で液体を導入した例である。得られた加工食品素材について、歩留まり、外観形状および食感の評価結果を表6に示した。外観形状および食感の評価基準は、試験例1と同様である。なお、実施例1系列における液体導入後、冷凍工程の前の時点の各素材の液体導入量は、ショウガ、キャベツ、ダイコン、イチゴ、プリンスメロン、およびプリンスメロン(条件変更例)でそれぞれ4質量%、33質量%、15質量%、14質量%、25質量%および12質量%であった。
【0108】
【0109】
[試験例7]
青果リンゴ(品種:フジ)を用い、実施例1の製造条件で接触工程まで実施した。その後、接触工程後のリンゴに、蒸気殺菌処理の代わりに冷凍処理、乾燥処理、および凍結乾燥処理のいずれか1つの追加工程を行って、加工食品素材を得た。得られた加工食品素材の歩留まり、外観形状および食感について、試験例1と同様に評価した結果、糖液浸漬のみを行った場合と比較して、歩留まりが優れ、外観形状および食感のいずれも「5」点で優れていた。
【要約】
【課題】元の食品素材の外観形状が保持された食品加工素材の製造方法であって、加工時の収縮・離水を起こりにくくすることにより、歩留まりを向上し、かつ、食感を改善できる食品加工素材の製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、元の食品素材の外観形状が保持された食品加工素材の製造方法であって、液体を導入可能とする事前処理が施された食品素材を準備する工程と、前記食品素材に前記液体を導入する工程と、前記液体導入後の食品素材を冷凍する工程と、冷凍した食品素材を解凍中または解凍後に、甘味料含有物質に接触させる工程と、を含み、前記導入工程で用いる前記液体の糖含有量が、50質量%以下であり、前記接触工程で用いる前記甘味料含有物質の糖含有量が、前記液体の糖含有量よりも15質量%以上高いことを特徴とする。
【選択図】なし