IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社イノアックコーポレーションの特許一覧

特許7329899ダクト入りシートパッド及びその製造方法
<>
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図1
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図2
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図3
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図4
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図5
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図6
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図7
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図8
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図9
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図10
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図11
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図12
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図13
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図14
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図15
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図16
  • 特許-ダクト入りシートパッド及びその製造方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】ダクト入りシートパッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/74 20060101AFI20230814BHJP
   A47C 27/14 20060101ALI20230814BHJP
   B60N 2/56 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
A47C7/74 C
A47C27/14 A
A47C27/14 C
B60N2/56
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020181060
(22)【出願日】2020-10-29
(62)【分割の表示】P 2016205231の分割
【原出願日】2016-10-19
(65)【公開番号】P2021007860
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2020-10-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】松本 真人
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 佳宏
【合議体】
【審判長】中村 則夫
【審判官】一ノ瀬 覚
【審判官】八木 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-223304(JP,A)
【文献】特開2014-65382(JP,A)
【文献】特開2015-134562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - 2/90
A47C 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エア導入口が設けられると共にダクト経路にエア噴出口が設けられた配風用ダクトと、前記エア噴出口に連通する空気吹出口になる窪みを乗員当接側の表面に形成し、前記ダクトをインサート品にして一体発泡成形されているパッド本体と、を具備するダクト入りシートパッドにおいて、
前記ダクトの内側層を独立気泡構造の樹脂製発泡体とするとともに、外側層を多孔質体とし、且つ該ダクトが、そのダクトを作る一対の樋状半割部材を接合一体化して形成されてなることを特徴とするダクト入りシートパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用座席シートを構成するシートパッドで、ダクトを埋設したダクト入りシートパッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される座席シートの座部や背もたれを構成するシートパッドがある。シートパッドは着座乗員が表皮を介して接する場所で、夏季に汗ばむ一方、冬季は冷たく感じることから、空調エアを送る配風用ダクトを埋設一体化したシートパッドが種々提案されてきた(例えば特許文献1)。特許文献1は、ブロー成形等のパイプ状ダクトを埋設したシートパッドで、乗員が着座しても変形を起こし難く、空調エアの必要配風量が確保され満足するものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-110366
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1の発明は、ポリプロピレン樹脂等からなるダクトをインサートし、発泡ウレタンのパッド本体を一体発泡成形するシートパッドであるため、ダクトとパッド本体との接合力が弱い。よって、ダクトがもげ落ちないよう、ダクトをカバーしてパッド本体裏面への不織布等の裏当て材の被着が必要になっている。
また、ダクトがソリッド樹脂からなり、それなりに重い。近年は燃費の向上等でより一層の軽量化に応えていかねばならない動きがあり、ダクトにも軽量化への期待がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、軽量化を推進したダクト入りシートパッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、態様1に記載の発明の要旨は、エア導入口が設けられると共にダクト経路にエア噴出口が設けられた配風用ダクトと、前記エア噴出口に連通する空気吹出口になる窪みを乗員当接側の表面に形成し、前記ダクトをインサート品にして一体発泡成形されているパッド本体と、を具備するダクト入りシートパッドにおいて、前記ダクトの内側層を独立気泡構造の樹脂製発泡体とし、且つ該ダクトが、そのダクトを作る一対の樋状半割部材を接合一体化して形成されてなることを特徴とするダクト入りシートパッドにある。態様2の発明たるダクト入りシートパッドは、態様1で、ダクトの水平方向に配設されるダクト部の部位に、横断面形状を横幅よりも縦幅が小さい扁平形にして、且つその横幅方向中央部分に流路内へ向かう凹みが形成されることを特徴とする。態様3の発明たるダクト入りシートパッドは、態様1又は2で、ダクトには、前記エア噴出口の周縁に短筒部が設けられていることを特徴とする。態様4の発明たるダクト入りシートパッドは、態様1~3で、一対の樋状半割部材が、流路形成用凹所をつくる樋状部材の両側縁に鍔部を設け、一対ある樋状部材の一方にエア噴出口用孔を設けて一の樋状半割部材とし、他方の樋状部材にエア導入口用孔を設けて他の樋状半割部材としていることを特徴とする。態様5の発明たるダクト入りシートパッドは、態様3又は4で、ダクトが、内側層の外面に一体化した外側層を設け、該外側層を連続気泡構造の発泡体又は不織布からなる多孔質体とした積層構造のダクト壁からなることを特徴とする。
態様6に記載の発明の要旨は、エア導入部が設けられると共にダクト経路にエア噴出口が設けられた配風用ダクトを、発泡成形型にセットし、次いで、発泡原料の注入及び型閉じを経て、該ダクトを埋設一体化するパッド本体を発泡成形し、その発泡成形で、乗員当接側のパッド本体表面に形成する窪みを前記エア噴出口に合わせて空気吹出口にするダクト入りシートパッドの製造方法であって、前記ダクトの内側層が独立気泡構造の熱可塑性樹脂製発泡体にして、且つ該ダクトが、そのダクトを作る一対の樋状半割部材を接合一体化して形成されるようにして、該ダクトを発泡成形型にセットし、次に、発泡原料の注入及び型閉じを経て、ダクトを裏面側に埋設した前記パッド本体を発泡成形することを特徴とするダクト入りシートパッドの製造方法にある。態様7の発明たるダクト入りシートパッドの製造方法は、態様6で、ダクトの水平方向に配設されるダクト部の部位に、横断面形状を横幅よりも縦幅が小さい扁平形にして、且つその横幅方向中央部分に流路内へ向かう凹みが形成されることを特徴とする。態様8の発明たるダクト入りシートパッドの製造方法は、態様6又は7で、ダクトには、前記エア噴出口の周縁に短筒部が設けられていることを特徴とする。態様9の発明たるダクト入りシートパッドの製造方法は、態様6~8で、一対の樋状半割部材が、流路形成用凹所をつくる樋状部材の両側縁に鍔部を設け、一対ある樋状部材の一方にエア噴出口用孔を設けて一の樋状半割部材とし、他方の樋状部材にエア導入口用孔を設けて他の樋状半割部材としていることを特徴とする。態様10の発明たるダクト入りシートパッドの製造方法は、態様6~9で、前記ダクトが、内側層の外面に一体化した外側層を設け、該外側層を連続気泡構造の発泡体又は不織布からなる多孔質体とした積層構造のダクト壁からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のダクト入りシートパッド及びその製造方法は、従来のソリッド樹脂製ダクトに比べて断然軽くなって、軽量化を推進でき優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1のダクト入りシートパッド及びその製造方法で、そのシートパッドの平面図である。
図2図1のII-II線矢視図である。
図3図1のIII-III線矢視図である。
図4図1のIV-IV線矢視図である。
図5図4の部分拡大図である。
図6図5に代わる別態様図である。
図7】(イ)が樋状部材の縦断面図、(ロ)が半割部材の縦断面図である。
図8図8は(イ)が図5のエア噴出口周りの断面図、(ロ)が(イ)に代わる他態様図、(ハ)は(ロ)の短筒部を有するダクトを下型にセットした断面図である。
図9】型開状態で、発泡原料を注入している発泡型の説明断面図である。
図10図9の状態から型閉じし、発泡成形に向かう発泡型の説明断面図である。
図11】発泡成形を終えた説明断面図である。
図12】(イ)が図10の隆起部周りの拡大図、(ロ)が(イ)の状態から発泡原料が多孔質体へ浸入している説明図である。
図13】実施形態2のダクト入りシートパッド及びその製造方法で、その配風用ダクトの平面図である。
図14】(イ)が半割部材の縦断面図、(ロ)が(イ)の半割部材を接合一体化したダクトの縦断面図である。
図15図3に対応する基部を通るシートパッドの横断面図である。
図16】ダクト部を通るシートパッドの縦断面図である。
図17】(イ)がダクト部を通るシートパッドの横断面図で、(ロ)が乗員が着座した時の(イ)のダクトが変化する様子を表すシートパッドの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るダクト入りシートパッド及びその製造方法について詳述する。
(1)実施形態1
図1図12は本発明のダクト入りシートパッド(以下、単に「シートパッド」ともいう。)及びその製造方法の一形態で、図1はシートパッドの平面図、図2図1のII-II線矢視図、図3図1のIII-III線矢視図、図4図1のIV-IV線矢視図、図5図4の部分拡大図、図6図5に代わる別態様図、図7は(イ)が樋状部材の断面図、(ロ)が半割部材の断面図である。図8は(イ)が図5のエア噴出口周りの断面図、(ロ)が他態様図、(ハ)は(ロ)の短筒部付きダクトを下型にセットした断面図、図9は型開状態で発泡原料を注入している発泡型の説明断面図、図10は型閉じし、発泡成形に向かう発泡型の説明断面図、図11は発泡成形を終えた説明断面図、図12は(イ)が図10の隆起部周りの拡大図、(ロ)が(イ)から発泡原料が多孔質体へ浸入している説明図を示す。尚、各図は図面を判り易くするためダクト3等の要部を強調図示し、本発明と直接関係しない部分を省略する。凹みは図3図4にのみ示す。
【0010】
1)ダクト入りシートパッド
ダクト入りシートパッド1は、背もたれ用のバックパッドや着座した乗員の下半身を受け支えるクッションパッドで、本実施形態は図1のような車両前部クッションパッドに適用する。クッションパッドに表皮を被せてシートクッションの形にすれば、公知のバックパッドに表皮を被せたバックレストと公知のヘッドレストとで車両用座席シートを形成する。
ダクト入りシートパッド1は、パッド本体2とダクト3とを具備する。
【0011】
ダクト3は、エア導入口31が設けられると共にダクト経路にエア噴出口32が設けられた配風用ダクトである。この配風用ダクト3は内側層3Aを独立気泡構造の熱可塑性樹脂製発泡体とし、外側層3Bを不織布3B2(又は連続気泡構造の発泡体3B1)からなる多孔質体とした積層構造のダクト壁で構成されている(図4図6)。ここでは、図1のような平面視略H字状の配風流路uを有するダクト3で、扁平状中空基部3Kの車幅方向両端から一対のパイプ状ダクト部3Dが車両前後方向に延びる。ダクト3の表面側にはエア噴出口32が複数開設される。本発明の「表面」側とは乗員が座部に腰掛ける時に当接する面の側をいう。
ダクト3は、基部3K及び各ダクト部3Dがシートパッド裏面1b側で水平方向に配設される(図2,図3)。ダクト部3Dは断面形状が円形でなく、その水平方向に配設される部位で、横断面形状を横幅3Yよりも縦幅3Tが小さい扁平状の中空オーバル形とする(図4)。軽量化で厚みhが減少化傾向にあるシートパッド1で、ダクト部縦幅3Tをできるだけ小さくし、パッド本体2のクッション性厚み幅を大きく確保する。
【0012】
ダクト3の各ダクト部3Dには横幅方向中央部分に流路u内へ向かう凹み36が適宜形成される。図4に示す断面形状の凹み36がダクト3の延びる方向に連続又は断続的に形成される。本ダクト3は、既述のごとく独立気泡構造発泡体の内側層3Aと不織布3B2の外側層3Bとの積層構造のダクト壁を有しており、着座乗員によってダクト3が押し潰される虞がある。そこで、押し潰される前に凹み36の流路側当たり部39を底着きさせて、図4でいえば凹み36の左右両側に残される流路uで必要風量を確保する。前記基部3Kは、車幅方向中央部分に基部3K内へ向かう凹み36を、表面側と裏面側の両方に設けて、必要流路uを確保する(図3)。
【0013】
本実施形態のダクト3は、そのダクト3を作る一対の樋状半割部材4,5を接合一体化して形成されている。図7(イ)のような上下に二つ割りした一対の樋状部材41,51の成形後に、同図(ロ)のごとくエア導入口用孔42,エア噴出口用孔52を開設して一対の半割部材4,5とし、その後、両者を接合一体化して図1,図2のダクト3が作製される(詳細後述)。
【0014】
ダクト3の内側層3Aとなる独立気泡構造の熱可塑性樹脂製発泡体を構成する樹脂には、発泡ポリプロピレン,発泡ポリエチレン,発泡ポリスチレン等がある。発泡ポリウレタンは熱可塑性樹脂製発泡体でないが、本発明でいう熱可塑性樹脂製発泡体には含まれるものとする。内側層3Aを発泡ポリウレタン製にすることもできる。
ダクト3の外側層3Bとなる多孔質体の不織布3B2を構成する樹脂には、ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリエステル,ナイロン,PET等がある。不織布3B2は、接着剤を使用して繊維相互間を接着したものや、熱可塑性合成繊維を用いて、熱処理により繊維相互を融着させたもの等が存在する。不織布3B2に代えて多孔質体が連続気泡構造の発泡体3B1の場合、該発泡体を構成する樹脂には、発泡ウレタン,発泡ポリエチレン等がある。独立気泡構造の発泡体を圧縮して連続気泡構造とすることもできる。内側層3Aを構成する発泡体に加え、外側層3Bを構成する多孔質体も発泡ポリエチレン等の熱可塑性樹脂製であると、樋状部材41,51が真空成形し易くなりより好ましくなる。内側層3Aを構成する発泡体と外側層3Bを構成する多孔質体が同一の熱可塑性樹脂製であれば、樋状部材41,51の真空成形がさらに容易になり一層好ましくなる。
【0015】
パッド本体2は、発泡成形型7に軟質ポリウレタン発泡原料g等を注入して発泡成形された発泡体で、車両用シートパッド1の主要部を構成する。各エア噴出口32に連通する空気吹出口210になる窪み21を乗員当接側の表面2aに複数形成し、ダクト3をインサート品にして一体発泡成形される。パッド本体2の裏面2b側にはエア導入口31が露出する。シートパッド主要部を構成するメイン部2Aの両側にサイド部2Bを設け、シートパッド表面1a側の両境界に吊溝27を設ける。符号27aは縦溝、符号27bは横溝、符号2Cはバックレストとの合せ部を示す。
【0016】
パッド本体2はその一部が、図5のように前記ダクト3と接するダクト外面3aを越えて、多孔質体に係る不織布3B2の繊維間内にまで入り込んで硬化している。多孔質体が連続気泡構造の発泡体3B1の場合は、図6のように該発泡体の気泡内にまで入り込んで硬化している。ダクト外面3aに空隙がある不織布3B2や連続気泡構造の発泡体3B1の場合、パッド本体2の発泡成形過程で、発泡原料gがそこに容易に浸入して硬化し、該パッド本体2とダクト3とが一体化する。発泡原料gが外側層3Bのダクト外面3aから浸入した表層領域に、該発泡原料gの硬化層と多孔質体とが絡み合う結合表層Zができる所望のダクト入りシートパッド1になっている。
【0017】
さらにいえば、パッド本体2がダクト3をインサート品にして一体発泡成形されるが、ダクト3に設けるエア噴出口32周りは、本実施形態の図8(イ)に代えて、同図(ロ),(
ハ)のような周縁に短筒部33が張り出すエア噴出口32とすると、より好ましいダクト入りシートパッド1となる。パッド本体2の発泡成形で、下型8の隆起部82とでエア噴出口32からダクト3内への発泡原料gの浸入を効果的に阻止できるからである(詳細後述)。
【0018】
2)ダクト入りシートパッドの製造方法
ダクト入りシートパッド1は、前記ダクト3と発泡成形型7とを用いて、ダクト3を発泡成形型7にセットし、次いで、発泡原料gの注入及び型閉じを経て、ダクト3を埋設一体化するパッド本体2を発泡成形して得られる。エア導入口31が設けられると共にダクト経路にエア噴出口32が設けられた配風用ダクト3を発泡成形型7にセットし、パッド本体2の発泡成形で、乗員当接側のパッド本体表面2aに形成する窪み21をエア噴出口32に合わせて空気吹出口210にするダクト入りシートパッド1を造る。
【0019】
発泡成形型7は、図9ごとくの上型9と下型8とを備える。図示しないヒンジを支点にして図10のごとく型閉じすると、全体的にへこみ度合いが大きな下型キャビティ面81と一部にへこみを有するものの略平坦な上型キャビティ面91とで、ダクト入りシートパッド1のキャビティCをつくる。尚、図9図12の発泡成形型7は、車両設置状態にある図2のシートパッド1と上下が逆の姿態で、ダクトと一体のパッド本体2を発泡成形する型構造になっている。
【0020】
ダクト3は、既述のごとく内側層3Aが独立気泡構造の熱可塑性樹脂製発泡体にして、外側層3Bが不織布3B2(又は連続気泡構造の発泡体3B1)からなる多孔質体にした積層構造のダクト壁からなる。本発明のダクト3は、ソリッド樹脂のような剛性がないため、パイプ状にしてからエア噴出口32を開設するのが難しい。そこで、パッド本体2の発泡成形に先立ち、ダクト3が例えば以下のようにして造られる。
【0021】
まず、独立気泡構造の熱可塑性樹脂製発泡体と不織布3B2からなる多孔質体とが一体化した二層構造のダクト用シート状素材を準備する。内側層3A用の熱可塑性樹脂製発泡体と外側層3B用の不織布3B2は接着層を介して積層一体化されている。該接着層は、熱可塑性樹脂製発泡体と不織布3B2との接合面での加熱融着や接合面に介在させた低融点フィルム等で形成される。
次に、前記シート状素材を、真空成形(又は圧空成形)によって、内側層3Aが熱可塑性樹脂製発泡体で、外側層3Bが不織布3B2になる図7(イ)の樋状部材41,51に成形する。流路形成用凹所410,510をつくる樋状部材41,51の両側縁には、図示のような鍔部4b,5bが設けられる。続いて、一方の樋状部材51にエア噴出口用孔52を設けて一の半割部材5とし、他方の樋状部材41にエア導入口用孔42を設けて他の半割部材4とする。しかる後、両半割部材4,5の鍔部4b,5bを接合一体化してダクト3を形成する。本ダクト3がソリッド樹脂と違って柔軟性があり、パイプ状ダクトの状態下で、エア導入口31,エア噴出口32を設けるのは至難である。そこで、シート部材から成形された樋状部材41,51に、エア導入口用孔42,エア噴出口用孔52を設けて半割部材4,5にし、その後、両半割部材4,5を接着する。図7(ロ)のごとく、凹所510を下方に向け、エア噴出口用孔52を設けた樋本体5aの両側縁に延びる鍔部5bと、凹所410を上方へ向け、エア導入口用孔42を設けた樋本体4aの両側縁に延びる鍔部4bとを接着してダクト3を完成させる。ダクト3になった段階で、エア噴出口用孔52がエア噴出口32に、エア導入口用孔42がエア導入口31になる。
ダクト3には、水平方向に配設される基部3K及びダクト部3Dの部位で、横断面形状を横幅3Yよりも縦幅3Tが小さい扁平形にして、且つその横幅方向中央部分に流路u内へ向かう凹み36が適宜形成される(図4,図9)。
【0022】
前記ダクト3と前記発泡成形型7を用いて、ダクト入りシートパッド1が例えば次のように製造される。
まず、発泡成形型7を図9の型開状態とする。この型開状態下の下型8に、ダクト3をその裏面側が上向くようにセットする。外側層3Bの多孔質体たる不織布3B2(又は連続気泡構造の発泡体3B1)を熱可塑性樹脂製とし、一対の樋状半割部材4,5を接合一体化して形成したダクト3を下型8にセットする。ダクト3にはエア導入口31がシールテープで塞ぐ前処理がなされている。外側層3Bの不織布3B2(又は連続気泡構造の発泡体3B1)は、内側層3Aの独立気泡構造の熱可塑性樹脂製発泡体と同じ熱可塑性樹脂であればより好ましい。
下方側へ向けた各エア噴出口32へ下型8の隆起部82の先端部分を挿入して、該エア噴出口32を塞ぐようにして、ダクト3が下型8にセットされる。
【0023】
次に、型開状態のまま下型キャビティ面81上に、注入ホースNL等を使用してシートパッド成形用ウレタン発泡原液等の発泡原料gを所定量注入する。
続いて、上型9を作動させ型閉じする(図10)。上型9と下型8との型閉じで、ダクト3がインサートセットされたシートパッド1用キャビティCができる。この型閉じで、弾性のあるダクト3が上型9によって押え付けられ、反作用で、円錐台状隆起部82の先端部分がエア噴出口32の内周壁に強く密着し、エア噴出口32に封をする。
【0024】
ちなみに、前記エア噴出口32の周縁に図8(ハ)ごとくの短筒部33が設けられると、型閉じ時に隆起部82によるエア噴出口32をより高い精度で封止でき好適となる。短筒部33は内径側が独立気泡構造の発泡体からなる内側層3Aになる。型閉じで、隆起部82が挿入されて当接する独立気泡構造の内側層3Aは弾性のあるガスケットの役目を担えるので、エア噴出口32をより確実に封止できる。短筒部53は、エア噴出口用孔52を開設するにあたり、パンチTの先端部を図8(ロ)のような形状にしたりパンチTの加熱温度等を調整したりして設けることができる。尚、樋状部材51に設けた短筒部53は、ダクト3になると短筒部33になる。
【0025】
型閉じ後、主工程の発泡成形に移る。表面2a側に着座乗員の当接側部分を有する、軟質ポリウレタン発泡成形体からなるパッド本体2を発泡成形する。エア噴出口32を隆起部82で封止した状態で、ダクト3を裏面2b側に埋設したパッド本体2を発泡成形する。
ここで、型閉じ後の発泡成形の初期は、図12(イ)のごとく発泡原料gの発泡が進行し、その上面が上昇していく。続いて、図12(ロ)のごとくダクト外面3aに発泡原料gが到達するが、ダクト3の外側層3Bが不織布3B2であるため、発泡原料gが繊維間内へたやすく入り込んでいく。発泡原料gの一部が、該ダクト3と接するダクト外面3aを越えて、多孔質体に係る不織布3B2の該不織布を構成する繊維間内(又は連続気泡構造の発泡体3B1の気泡内)へと浸入し、硬化する。外側層3Bのダクト外面3a側にしみ込んだ発泡原料gが不織布3B2と絡み合って硬化一体化した結合表層Zができる。
【0026】
パッド本体2の発泡成形を終えると、特に裏当て材に頼らなくても、斯かる結合表層Zの形成によってダクト3とパッド本体2とが強固に結合一体化した所望のダクト入りシートパッド1が造られる(図5)。不織布3B2に代え、外側層3Bを連続気泡構造の発泡体3B1とした場合も、相互に連通する気泡内へ発泡原料gが浸入,硬化して結合表層Zを形成でき(図6)、ダクト3とパッド本体2とが結合一体化した所望のダクト入りシートパッド1を造ることができる。
符号88は吊溝形成用盛上り部、符号89,符号99は型合せ面を示す。他の構成は、1)で述べたダクト入りシートパッド1と同様で、説明を省略する。1)と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0027】
(2)実施形態2
本実施形態のダクト入りシートパッド及びその製造方法は、図13図16のごとく、エア導入口31がダクト3の裏面側に設けられるのではなく、ダクト3の側方で、水平配設されるパイプ状ダクト3の一の側方に露出するパイプ穴をエア導入口31として活用する。
ダクト3は図13のような平面視十字形で、交差部の基部3Kから車両前後方向と車幅方向にダクト部3Dが延びる。図13の右方が車両前方にあたり、前方部のダクト部3Dの先端部分は閉じられる。左方の車両後方ダクト部3Dで、パイプ状流路uがそのまま露出しており、左端部の開口がエア導入口31になる。
【0028】
ダクト3は、実施形態1と同じように、シート状素材から一対の樋状部材41,51を成形する。流路形成用凹所410,510をつくる樋状部材41,51の両側縁には鍔部4b,5bが設けられる。次に、表面側に配される樋状部材51にエア噴出口用孔52を設けると共にその一側(一端側)に側面視で樋形状をした開口用樋状部59ができるよう形成して、表面側半割部材5とする。ここでは樋状部材51の流路形成用凹所510が一側で樋形状に現れるので、特に開口用樋状部59の形成を要しない。また、裏面側に配される樋状部材41にも、該開口用樋状部59との対向部位に開口用樋状部49を形成するが、樋状部材41の流路形成用凹所410が一側で樋形状に現れるので、特に開口用樋状部49の形成を要せず、該樋状部材41が裏面側半割部材4になる。その後、図14(イ)のごとく両半割部材4,5の鍔部4b,5bを対向させて、両半割部材4,5の接合一体化により、同図(ロ)のような両開口用樋状部49,59でエア導入口31ができるダクト3を形成する。符号Lは両半割部材4,5の接合ラインを示す。
【0029】
そして、前記ダクト3をインサート品にして一体発泡成形されているパッド本体2を備えるダクト入りシートパッド1において、ダクト壁の内側層3Aを独立気泡構造の発泡体とし、ダクト壁の外側層3Bを不織布3B2(又は連続気泡構造の発泡体3B1)とした積層構造のダクト壁とし、且つパッド本体の一部25がダクト外面3aを通過して不織布3B2の繊維間内(又は多孔質体に係る発泡体の気泡内)にまで入り込んで硬化しているダクト入りシートパッド1になっている。
図15図3に対応する断面図で、図3と同じような断面図になる。一方、図16図2に対応する断面図であるが、シートパッド裏面1b側でエア導入口31が車両後方へ向けて開口する姿態にし、さらに該エア導入口31の車両後方側に空調ユニットからの接続配管用スペースを確保している。
また、図17(イ)は図16のダクト部3Dでの断面図を示すが、実施形態1と同様の凹み36がダクト部3Dに形成される。乗員が着座した際、中黒矢印で示す乗員の重みでダクト流路uが潰れる前に、同図(ロ)のごとく凹み36の流路側当たり部39が底着きして、凹み36の左右両側に残される流路uで必要風量が確保されるようにしている。尚、凹み36はダクト部3Dの延びる方向に連続的又は断続的に設けられるが、図13図16は図示を省略する。符号Mは着座乗員の臀部を示す。他の構成は実施形態1と同様で、その説明を省く。実施形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0030】
(3)効果
このように構成したダクト入りシートパッド及びその製造方法は、ダクト3のダクト壁が内側層3Aを独立気泡構造の熱可塑性樹脂製発泡体としているので、気密性を確保でき、配風ダクト3として機能発揮する。そして、内側層3Aを発泡体にし、且つ外側層3Bを連続気泡構造の発泡体3B1又は不織布3B2からなる多孔質体としているので、従来のソリッドで剛性,重量のあるブロー成形ダクトに比べて、格段に軽量化できる。ハイブリッド車や電気自動車等の普及に向け、車両の各部品について軽量化の推進が期待されるが、斯かる構成のダクト3を採用したシートパッド1は、その期待に十分応えることができる。燃費向上に役立つダクト入りシートパッド1となる。
【0031】
その一方で、内側層3Aを独立気泡構造の発泡体にし、外側層3Bを連続気泡構造の発泡体3B1又は不織布3B2からなる多孔質体にしたダクト3であると、剛性の低下が心配になる。しかるに、外側層3Bが不織布3B2又は連続気泡構造の発泡体3B1であり、パッド本体2の発泡成形で、発泡原料gの一部がダクト外面3aから不織布3B2の網目空間や連続気泡の気泡内へ浸入,硬化し、硬い結合表層Zを外側層3Bのダクト外面3a側に造るので、発泡体や不織布3B2で構成されたダクト3といっても剛性が増し、着座乗員によって簡単には押し潰されない。
【0032】
さらに、ダクト3が水平方向に配設される部位で、横断面形状を横幅3Yよりも縦幅3Tが小さい扁平形にして、クッション性パッド本体2の厚みをできる限り大きくとれるように設定し、且つ該ダクト3の横幅方向中央部分に流路u内へ向かう凹み36を形成することによって、ダクト3の必要風量を確保する。例えば、図17(イ)の状態のシートパッド1に乗員が着座すると、撓んでダクト3が押し潰される前に、凹み36の流路側当たり部39が同図(ロ)のごとく底着きして、凹み36の両側にできる流路uが残り、必要風量は確保される。
【0033】
加えて、従来のポリプロピレン樹脂製等のブロー成形ダクトは、パッド本体2のウレタン発泡原料gとの接着力が弱く、ダクトを埋設したシートパッド1を製造しても、ダクトがもげ落ち易いので、不織布3B2等の裏当て材を必要としたが(特許文献1)、本発明はダクト3とパッド本体2との一体化に優れ、裏当て材を要しない。ダクト3の外側層3Bが連続気泡構造の発泡体3B1又は不織布3B2であると、パッド本体2の発泡成形過程で、発泡原料gの一部がダクト外面3aを越えて、発泡体の気泡内又は不織布3B2の該不織布を構成する繊維間内へ浸入,硬化する。そして、外側層3Bのダクト外面3a側に、ダクト3とパッド本体2とを強固に結合する結合表層Zを造るので、裏当て材なしでも両者の強力な接合一体化が図れる。裏当て材の部品点数を減らすこともできる。
【0034】
そして、ダクト3の多孔質体が熱可塑性樹脂製であると、ダクト3の内側層3A及び外側層3Bともに熱可塑性樹脂製になるので、ダクト3の成形が容易になる。ダクト壁の内側層3Aの発泡体と外側層3Bの多孔質体が同一の熱可塑性樹脂製であれば、ダクト3の成形がより一層容易になる。
【0035】
また、ダクト3が、そのダクト3を作る一対の樋状半割部材4,5を接合一体化して形成されると、柔軟性のあるダクト3でも、エア噴出口用孔52を形成した半割部材5にしてから接合してダクト3を形成するので、ダクト3を簡単に造ることができる。
ダクト3用のシート状素材から一対の樋状部材41,51に成形し、次に、一方の樋状部材51にエア噴出口用孔52を設けて一の半割部材5とすると共に、他方の樋状部材41に前記エア導入口用孔42を設けて他の半割部材4とし、続いて、両半割部材4,5を接合一体化してダクト3に形成すると、該ダクト3は極めて容易且つ確実に作製できる。エア導入口用孔42がダク3トのエア導入口31になり、エア噴出口用孔52がダクトのエア噴出口32になる。また、一方の樋状部材51に前記エア噴出口用孔52を設けて一の半割部材5とするのに代えて、一方の樋状部材51に前記エア噴出口用孔52を設けると共にその一側に開口用樋状部59を形成して一の半割部材5にし、且つ前記他の半割部材4にも該開口用樋状部59との対向部位に開口用樋状部49を形成して、両半割部材4,5の接合一体化により両開口用樋状部49,59で前記エア導入口31を設けるようにすると、ダクト3の一側にエア導入口31を簡便に設けることができる。加えて、エア導入口31の配置対応が広がり、ダクト設計の融通性がきく。
このように、本ダクト入りシートパッド及びその製造方法は、上述した種々の優れた効果を発揮し極めて有益である。
【0036】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。パッド本体2,ダクト3,半割部材4,5,発泡成形型7等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。実施形態はクッションパッドに適用したが、背もたれ用バックパッドにも適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 シートパッド
2 パッド本体
2a 表面
21 窪み
210 空気吹出口
3 ダクト(配風用ダクト)
3A 内側層
3B 外側層
3B1 連続気泡構造の発泡体
3B2 不織布
3a ダクト外面
31 エア導入口
32 エア噴出口
36 凹み
4,5 半割部材
41,51 樋状部材
42 エア導入口用孔
49,59 開口用樋状部
52 エア噴出口用孔
7 発泡成形型
g 発泡原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17