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  • 特許-低温液体貯蔵用タンク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】低温液体貯蔵用タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/08 20060101AFI20230814BHJP
   F17C 3/08 20060101ALI20230814BHJP
   B65D 90/06 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
F17C13/08 302Z
F17C3/08
B65D90/06 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018096540
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2019199949
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小谷 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】若林 雅樹
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186018(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015008428(DE,A1)
【文献】特開2012-229026(JP,A)
【文献】特開2006-308084(JP,A)
【文献】特開2012-112431(JP,A)
【文献】特開2014-193726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0325821(US,A1)
【文献】特公昭50-003204(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/08
F17C 3/08
B65D 90/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液体を貯蔵する鋼板からなる内槽と、
内槽を囲繞して内包するように配設される外槽と、
前記内槽と前記外槽の間に設けられる真空断熱層とを備え、
且つ、前記外槽が、前記真空断熱層に接するように配設されたコンクリート部と、該コンクリート部の表面全体を被覆するように一体に取り付けられた鋼板からなるライナー部とを備えるとともに、前記ライナー部を前記コンクリート部の前記真空断熱層と反対側の外面側に配設して構成され、
前記外槽の底版の下方および側方に、該底版を囲繞する支持底版が設けられ、
前記支持底版は、杭基礎を介して構築されており、
前記支持底版は、杭と接合される底板部と、該底板部の周縁部から立ち上がるように形成された側板部と、を有し、
前記底板部の上面に前記外槽の前記底版の前記ライナー部が接するように配置され、
前記側板部は、前記外槽の前記底版の側面を覆う高さで形成されていることを特徴とする低温液体貯蔵用タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化水素などの低温液体の貯蔵に用いられる低温液体貯蔵用タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)等の低温液体を貯蔵するためのタンクとして、内槽と外槽を有する二重殻構造のタンクが用いられている。
【0003】
また、この種のタンクは、例えば、コンクリート製の基礎版と、基礎版上に設置される金属製の内槽(貯槽)及び外槽と、内槽と外層の間に充填されて保冷機能、断熱機能を発揮するウレタンフォーム、ポリイソシアヌレートフォーム、パーライトなどの保冷材(断熱材)とを備えて構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-194256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、水素は、従来の化石燃料と異なり、様々な原料から大量に製造可能であるとともに、燃焼時に水しか発生せず温室効果ガスを全く排出しない究極のクリーン性能を実現できるため、水素をエネルギー源として発電等に利用することが注目されている。
【0006】
水素発電等を実用化する上で、今後、LNGやLPGの貯蔵タンクのような万kLオーダーの大型の液化水素用の貯蔵タンクが必要になるが、-253℃の超低温の液化水素を従来の貯蔵タンクにそのまま貯蔵することは難しい。このため、超低温の液化水素を万kLオーダーで大量に貯蔵できるタンクが強く求められている。
【0007】
超低温の液化水素を大量に貯蔵できるタンクとして、液化水素を貯蔵する内槽と、内槽を囲繞して内包するように配設される外槽と、内槽と外槽の間に設けられる真空断熱層とを備え、且つ、外槽が、コンクリート部と、該コンクリート部の表面に一体に不透気材を設けてなるライナー部(鋼板など)とを備えるとともに、該ライナー部をコンクリート部の外面側に配設した構造のタンクが知られている。
【0008】
しかしながら、ライナー部を外槽の外面側に配設した際に、タンクの基礎が杭基礎の場合、ライナー部と杭との取り合い部分においてライナーの性能が低下する虞があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、杭基礎構造を有し、液化水素のような超低温の液体を万kLオーダーの大量であっても好適に貯蔵することが可能な低温液体貯蔵用タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の低温液体貯蔵用タンクは、低温液体を貯蔵する鋼板からなる内槽と、内槽を囲繞して内包するように配設される外槽と、前記内槽と前記外槽の間に設けられる真空断熱層とを備え、且つ、前記外槽が、前記真空断熱層に接するように配設されたコンクリート部と、該コンクリート部の表面全体を被覆するように一体に取り付けられた鋼板からなるライナー部とを備えるとともに、前記ライナー部を前記コンクリート部の前記真空断熱層と反対側の外面側に配設して構成され、前記外槽の底版の下方および側方に、該底版を囲繞する支持底版が設けられ、前記支持底版は、杭基礎を介して構築されており、前記支持底版は、杭と接合される底板部と、該底板部の周縁部から立ち上がるように形成された側板部と、を有し、前記底板部の上面に前記外槽の前記底版の前記ライナー部が接するように配置され、前記側板部は、前記外槽の前記底版の側面を覆う高さで形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明の低温液体貯蔵用タンクによれば、真空断熱層を真空状態にすると、多孔体であるコンクリート部(コンクリート体)の間隙中の空気も抜け、コンクリート部の外側に設けられたライナー部(不透気材)にコンクリート部に吸着する力が働く。
また、コンクリート部にひび割れが生じてしまった場合においても、真空断熱層を真空状態にすると、ひび割れを通じてコンクリート部の空気が抜け、コンクリート部の外側に設けられたライナー部にコンクリート部に吸着する力が働くことになる。
【0014】
これにより、真空断熱層を真空にするとともに、ライナー部の不透気材がコンクリート部の外面に自動的に密着することになる。
【0015】
よって、本発明の低温液体貯蔵用タンクにおいては、ライナー部の不透気材が真空断熱層を真空にするとともにコンクリート部の外面に密着することにより、コンクリート部の内側にライナー部を設けた場合と比較し、ライナー部の不透気材をコンクリート部に接合するためのアンカーなどの本数を大幅に削減することができるとともに、気密性を好適に確保することが可能になる。
【0016】
また、コンクリート部の外面にライナー部の鋼板などの不透気材を接合するため、コンクリート部の内面に鋼板などの不透気材を接合する場合と比較し、この不透気材の取り付け作業を容易にすることができ、施工性を大幅に向上させることも可能になる。
【0017】
また、真空断熱層を真空にするとともに、ライナー部の不透気材がコンクリート部の外面に自動的に密着するため、不透気材をコンクリート部の内面に接合する場合のように真空の負圧によってアンカーの間の部分が湾曲変形したり、座屈変形することがない。また、不透気材に剥がれが生じることもない。これにより、厚さが薄い鋼板を不透気材として採用しても信頼性の高いライナー部を形成することが可能になる。
【0018】
さらに、本発明の低温液体貯蔵用タンクにおいては、杭基礎を介して支持底版が設けられ、該支持底版に支持されるように外槽が設けられている。つまり、外槽と杭とが直接接合される構成ではないため、外槽に設けられたライナー部に影響することなくタンクを構築することができる。つまり、杭を用いてタンクを構築した場合においても信頼性の高いライナーを形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
したがって、杭基礎構造を有し、液化水素のような超低温の液体を万kLオーダーの大量であっても好適に貯蔵することが可能な低温液体貯蔵用タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る低温液体貯蔵用タンクを示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る低温液体貯蔵用タンクを示す断面図であり、図1のA部を拡大した図である。
図3】本発明の一実施形態に係る低温液体貯蔵用タンクを示す断面図であり、図1のB部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1から図3を参照し、本発明の一実施形態に係る低温液体貯蔵用タンクについて説明する。ここで、本実施形態は、例えば液化水素などの超低温液体の貯蔵に用いて好適なタンクに関するものである。
【0022】
本実施形態の低温液体貯蔵用タンク1は、図1及び図2に示すように、低温液体Lを貯蔵する金属製(鋼板)の内槽2と、内槽2を囲繞するように設けられる外槽3と、内槽2と外槽3の間に設けられ、断熱性能を確保するための真空断熱層4と、を備えて構成されている。
【0023】
真空断熱層4は、空気を吸引するなどして真空状態で保持されるとともに、例えば粉末/固体状の輻射シールド材5を充填して構成されている。なお、輻射シールド材5は、例えば低温液体Lが接触することによって内槽2の鋼板が原子/分子レベルで振動し、この振動に伴う伝熱作用(電磁波)を吸収/遮断して断熱性が低下することを防止するためのものである。
【0024】
次に、本実施形態の外槽3は、例えば鉄筋コンクリート造の底版部、側壁部、屋根部を備えたコンクリート部(コンクリート体)6と、コンクリート部6の表面に、この表面全体を被覆するように一体に取り付けられた鋼板などの不透気材からなるライナー部7とを備えて構成されている。
【0025】
ここで、内槽2とコンクリート部6(外槽3)との間に真空断熱層4を設ける場合には、外槽3のコンクリート部6が多孔体であるため、通常、このコンクリート部6の内面6a(真空断熱層4側の表面)に不透気材(気密部材)としての鋼板をアンカーなどの固定手段で固定してライナー部を設ける。
しかしながら、この場合には、真空断熱層4の負圧によってライナー部の鋼板に大きな吸引力が発生し、隣り合うアンカー間の鋼板部分が湾曲変形したり、座屈変形するおそれが生じる。また、鋼板の剥がれが生じるおそれもある。
【0026】
これに対し、本実施形態の低温液体貯蔵用タンク1においては、図2図1参照)に示すように、外槽3のコンクリート部6の外面6bに鋼板などの不透気材をアンカーなどの固定手段で固定してライナー部7を設けるようにする。なお、ライナー部7は、例えば複数の鋼板を溶接等によって接合し、内側の気密性を確保できるように形成する。
【0027】
次に、図1に示すように、本実施形態の低温液体貯蔵用タンク1は、地盤Gに配された複数の杭11を介して構築されている。つまり、低温液体貯蔵用タンク1は、杭基礎構造10を有している。
【0028】
図1図3に示すように、杭11の上端部(先端部)11aは、支持底版21に一部が入り込むようにして接合されている。本実施形態では、杭11と支持底版21は鉄筋コンクリート造で構成されている。なお、杭11および支持底版21の構造については、鉄筋コンクリート造以外の構造であってもよい。
【0029】
支持底版21は、杭11と接合される底板部22と、底板部22の周縁部から鉛直上方に立ち上がるように形成された側板部23と、を有している。
【0030】
底板部22は、外槽3の底版8が載置可能な大きさの平板状に形成されている。側板部23は、外槽3の底版8の側面を覆う高さで形成されている。
【0031】
そして、支持底版21の底板部22と側板部23とで形成された凹部24に、外槽3の底版8が載置されるようにして低温液体貯蔵用タンク1が配設されている。
【0032】
このように構成した本実施形態の低温液体貯蔵用タンク1においては、真空断熱層4を真空状態にすると、多孔体であるコンクリート部6の間隙中の空気も抜け、コンクリート部6の外側に設けられたライナー部7にコンクリート部6に吸着する力が作用する。また、コンクリート部6にひび割れが生じた場合であっても、ひび割れを通じてコンクリート部6の空気が抜け、ライナー部7にコンクリート部6に吸着する力が作用する。
【0033】
これにより、真空断熱層4を真空にするとともに、ライナー部7の鋼板(不透気材)がコンクリート部6の外面6bに自動的に密着することになる。
【0034】
よって、本実施形態の低温液体貯蔵用タンク1においては、ライナー部7の鋼板が真空断熱層4を真空にするとともにコンクリート部6の外面6bに密着するため、コンクリート部6の内側にライナー部を設けた場合と比較し、ライナー部7の鋼板をコンクリート部6に接合するためのアンカーなどの本数を大幅に削減することができる。
【0035】
また、外面6bに鋼板を接合することで、コンクリート部6の内面6aに鋼板を接合する場合と比較し、鋼板の取り付け作業を容易にすることができ、施工性を大幅に向上させることも可能になる。
【0036】
また、真空断熱層4を真空にするとともに、ライナー部7の鋼板がコンクリート部6の外面6bに自動的に密着するため、鋼板をコンクリート部6の内面6aに接合する場合のように真空の負圧によって隣り合うアンカーの間の部分が湾曲変形したり、座屈変形することがない。また、鋼板に剥がれが生じることもない。これにより、厚さが薄い鋼板を採用しても信頼性の高いライナー部7を形成することが可能になる。
【0037】
さらに、本実施形態の低温液体貯蔵用タンク1においては、杭11を介して支持底版21が設けられ、該支持底版21に支持されるように外槽3が設けられている。つまり、外槽3と杭11とが直接接合される構成ではないため、外槽3に設けられたライナー部7に影響することなくタンク1を構築することができる。つまり、杭11を用いてタンク1を構築した場合においても信頼性の高いライナーを形成することができる。
そして、上記構成を備えることにより、地震時などに低温液体貯蔵用タンク1に作用する水平力に抵抗でき、かつ外槽3の外面全面にライナー部7を設けることができる。
【0038】
したがって、本実施形態の低温液体貯蔵用タンク1によれば、杭基礎構造10を有し、液化水素のような超低温の液体を万kLオーダーの大量であっても好適に貯蔵することが可能になる。
【0039】
以上、本発明に係る低温液体貯蔵用タンクの一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0040】
例えば、本実施形態では、本発明に係る低温液体貯蔵用タンクが液化水素を貯蔵するものとして説明を行ったが、勿論、LNG、LPG等の他の低温液体の貯蔵に本発明に係る低温液体貯蔵用タンクを適用しても構わない。
【0041】
本実施形態のライナー部7の不透気材が鋼板であるものとして説明を行ったが、不透気材は気密性を確保することが可能であれば特にその材質を限定する必要はなく、例えば樹脂などを材質としたもの(FRP板(樹脂繊維複合板)など)であってもよい。
【0042】
また、真空断熱層4に粉末状又は固体状の輻射シールド材5を充填して輻射による伝熱を防止(抑止)するものとしたが、板状の輻射シールド材を真空断熱層4の中間部分に設置するようにしてもよい。
【0043】
この場合には、内槽2に貯蔵した低温液体1によって内槽2が冷却されることで原子/分子レベルの振動が発生し、この振動(電磁波)によって輻射が生じた場合であっても、真空断熱層4の中間部に配設された板状の輻射シールド材によって輻射を遮断することができる。これにより、確実に真空断熱層4によって伝熱作用を遮断することができ、信頼性の高い低温液体貯蔵用タンク1を実現することが可能になる。
【0044】
また、板状の輻射シールド材を配設した状態の真空断熱層4の大部分が空間のままで保持され、この空間部分が真空状態になる。このため、従来の粉末状/固体状の輻射シールド材5を充填した場合と比較し、容易に真空断熱層4の真空度を高めることができ、且つ容易に真空度を維持することが可能になる。
【0045】
さらに、板状の輻射シールド材を採用すると、真空断熱層4内に粉末状/固体状の輻射シールド材5を充填する場合と比較し、容易にメンテナンスを行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0046】
1 低温液体貯蔵用タンク
2 内槽
3 外槽
4 真空断熱層
5 粉末状/固体状の輻射シールド材
6 コンクリート部
6a 内面
6b 外面
7 ライナー部
8 底版
11 杭
21 支持底版
L 低温液体
図1
図2
図3