(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】α-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/70 20060101AFI20230814BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C08F4/70
C08F210/02
(21)【出願番号】P 2019049945
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2018062248
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】小西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 宏将
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 央士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直正
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-029170(JP,A)
【文献】特開2016-017134(JP,A)
【文献】特開2005-263895(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102174129(CN,A)
【文献】RUDIGER J. Nowack et al.,New Phenylnickel‐(2‐phosphinobenzenesulfonate) Triphenylphosphine Complexes as Highly Active Ethylene Polymerization Catalysts,Journal of Inorganic and General Chemistry,2005年10月,Volume631, Issue13‐14,Pages 2775-2781,<DOI: 10.1002/zaac.200500134>, 特にScheme 1, Table 1のentry6, 7, p.2776左側欄下段
【文献】EITE Drent et al.,Palladium catalysed copolymerisation of ethene with alkylacrylates: polar comonomer built into the linear polymer chain,Chemical Communications,The Royal Society of Chemistry,2002年,Issue 7,Pages 744-745,<DOI: 10.1039/B111252J>, 全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00 - 4/82
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)又は(B)で表される化合物と、下記一般式(C)
で表されるニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物とを反応させて得られる金属錯体を用いることを特徴とするα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【化1】
[一般式(A)~(C)中のR
3~R
11、E
1、X
1
およびMは以下の通りである。
X
1は酸素または硫黄を表す。
E
1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有基が2以上置換する炭素数5~30の炭化水素基を表す。
R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR
2
、CO
2R
2、CO
2M’、C(O)N(R
1)
2、C(O)R
2、SR
2、SO
2R
2、OSO
2R
2、P(O)(OR
2)
2-y(R
1)
y、CN、NHR
2、N(R
2)
2、Si(OR
1)
3-x(R
1)
x、OSi(OR
1)
3-x(R
1)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
2)
2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R
1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R
2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。
R
9~R
11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。
また、一般式(A)中、
Zは、水素原子、または脱離基である。
mはZの価数を表す。
さらに、一般式(C)中、
Mは、ニッケル又はパラジウムを表す。]
【請求項2】
下記一般式(D)で表される金属錯体を用いることを特徴とするα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【化2】
[一般式(D)中のR
3~R
11、E
1、X
1、Mは以下の通りである。
Mはニッケルまたはパラジウムを表す。
X
1は酸素または硫黄を表す。
E
1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有基が2以上置換する炭素数5~30の炭化水素基を表す。
R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR
2
、CO
2R
2、CO
2M’、C(O)N(R
1)
2、C(O)R
2、SR
2、SO
2R
2、OSO
2R
2、P(O)(OR
2)
2-y(R
1)
y、CN、NHR
2、N(R
2)
2、Si(OR
1)
3-x(R
1)
x、OSi(OR
1)
3-x(R
1)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
2)
2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R
1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R
2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。
R
9~R
11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。]
【請求項3】
前記R
8が、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR
2
、CO
2R
2、CO
2M’、C(O)N(R
1)
2、C(O)R
2、SR
2、SO
2R
2、OSO
2R
2、P(O)(OR
2)
2-y(R
1)
y、CN、NHR
2、N(R
2)
2、Si(OR
1)
3-x(R
1)
x、OSi(OR
1)
3-x(R
1)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
2)
2M’またはエポキシ含有基である(ここで、R
1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R
2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。)、請求項1又は2に記載のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(A)又は(B)で表される化合物と、下記一般式(C)
で表されるニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物とを反応させて得られる金属錯体を用いることを特徴とするα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【化3】
[一般式(A)~(C)中のR
3~R
11、E
1、X
1
およびMは以下の通りである。
X
1は酸素または硫黄を表す。
E
1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR
2
、CO
2R
2、CO
2M’、C(O)N(R
1)
2、C(O)R
2、SR
2、SO
2R
2、OSO
2R
2、P(O)(OR
2)
2-y(R
1)
y、CN、NHR
2、N(R
2)
2、Si(OR
1)
3-x(R
1)
x、OSi(OR
1)
3-x(R
1)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
2)
2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R
1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R
2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。ただし、R
8はt-ブチル基ではない。
R
9~R
11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。
また、一般式(A)中、
Zは、水素原子、または脱離基である。
mはZの価数を表す。
さらに、一般式(C)中、
Mは、ニッケル又はパラジウムを表す。]
【請求項5】
下記一般式(D)で表される金属錯体を用いることを特徴とするα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【化4】
[一般式(D)中のR
3~R
11、E
1、X
1、Mは以下の通りである。
Mはニッケルまたはパラジウムを表す。
X
1は酸素または硫黄を表す。
E
1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R
5~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR
2
、CO
2R
2、CO
2M’、C(O)N(R
1)
2、C(O)R
2、SR
2、SO
2R
2、OSO
2R
2、P(O)(OR
2)
2-y(R
1)
y、CN、NHR
2、N(R
2)
2、Si(OR
1)
3-x(R
1)
x、OSi(OR
1)
3-x(R
1)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
2)
2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R
1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R
2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。ただし、R
8はt-ブチル基ではない。
R
9~R
11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。]
【請求項6】
前記R
8が、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR
2
、CO
2R
2、CO
2M’、C(O)N(R
1)
2、C(O)R
2、SR
2、SO
2R
2、OSO
2R
2、P(O)(OR
2)
2-y(R
1)
y、CN、NHR
2、N(R
2)
2、Si(OR
1)
3-x(R
1)
x、OSi(OR
1)
3-x(R
1)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
2)
2M’またはエポキシ含有基である(ここで、R
1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R
2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。)、ただしt-ブチル基ではない、請求項4又は5に記載のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記R
9およびR
11がメチル基、前記R
10が水素原子である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記金属錯体と有機アルミニウム化合物を含むオレフィン重合用触媒の存在下、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するホスフィンフェノレート配位子とニッケルアセチルアセトナート型化合物から成る金属錯体を含むオレフィン重合用触媒を用いたα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンと極性基含有ビニルモノマーである酢酸ビニルや(メタ)アクリル酸エステルとを高温高圧のラジカル重合で共重合する方法はよく知られている。しかしながら、この方法では、多数の分岐生成により結晶性の低い共重合体となるため、得られた共重合体の強度が低いという欠点がある。また、Brookhartらはα-ジイミン配位子を有するパラジウム錯体を触媒として、エチレンとアクリル酸エステルの共重合体が製造できることを報告している(非特許文献1参照)。しかしながら、得られた共重合体は分岐構造に富むものであり、結晶性の低いものである。
【0003】
Pughら(非特許文献2参照)、野崎ら(非特許文献3参照)、Goodallら(特許文献1参照)は、ホスフィノスルホン酸配位子を有するパラジウム錯体を触媒として用いることにより、エチレンとアクリル酸メチルの共重合体が得られることを報告している。しかしながら、これらの公知文献で用いられている触媒は、希少な資源であり、かつ、高価なパラジウムを用いているため、工業的な応用には問題が大きい。
【0004】
我々は、いわゆるSHOP系と呼ばれる、リンと酸素を配位原子とする配位子を有するニッケル触媒を用いることにより、分岐が少ないエチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体が得られることを報告している(特許文献2参照)。しかしながら、工業化に向けては、空気不安定なニッケル(0)およびパラジウム(0)ソースを用いている為に触媒の取扱いが困難であること、触媒活性が不十分であることが課題として挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2007/0049712号明細書
【文献】国際公開第2010/050256号
【文献】特開2005-307021号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】S.Mecking et al.、「J.Am.Chem.Soc.」1998、120、 888.
【文献】E.Drent et al.、「Chem.Commun.」2002、744.
【文献】T.Kochi et al.、「Dalton Trans.」2006,25.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記課題を同時に達成するためには、安定性が高いニッケル(II)又はパラジウム(II)の使用が必要と考えられる。
特許文献3には、ホスホニウム塩とニッケル(II)化合物とを組み合わせた触媒が開示されているが、エチレン重合しか報告されておらず、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合が進行するか不明である。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ある特定の構造を有するSHOP系配位子とニッケル(II)化合物及び/又はパラジウム(II)化合物とを組み合わせることにより、従来よりも取扱いが容易で、かつ高活性を有するオレフィン重合用触媒を見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これまで金属源として用いてきたニッケルシクロオクタジエン(Ni(cod)2)の代わりにビス(アセチルアセトナート)ニッケル(II)を用いると、従来の触媒よりもはるかに容易に取り扱えて、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合が高活性で進行することを見出し、本発明を創作するに至った。
【0009】
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法は、下記一般式(A)又は(B)で表される化合物と、下記一般式(C)の構造を有するニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物とを反応させて得られる金属錯体を用いることを特徴とする。
【0010】
【0011】
[一般式(A)~(C)中のR3~R11、E1、X1は以下の通りである。
X1は酸素または硫黄を表す。
E1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R5~R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR2,CO2R2、CO2M’、C(O)N(R1)2、C(O)R2、SR2、SO2R2、OSO2R2、P(O)(OR2)2-y(R1)y、CN、NHR2、N(R2)2、Si(OR1)3-x(R1)x、OSi(OR1)3-x(R1)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR2)2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。
R9~R11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。
また、一般式(A)中、
Zは、水素原子、または脱離基である。
mはZの価数を表す。]
【0012】
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法は、下記一般式(D)で表される金属錯体を用いることを特徴とする。
【0013】
【0014】
[一般式(D)中のR3~R11、E1、X1、Mは以下の通りである。
Mはニッケルまたはパラジウムを表す。
X1は酸素または硫黄を表す。
E1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R5~R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR2,CO2R2、CO2M’、C(O)N(R1)2、C(O)R2、SR2、SO2R2、OSO2R2、P(O)(OR2)2-y(R1)y、CN、NHR2、N(R2)2、Si(OR1)3-x(R1)x、OSi(OR1)3-x(R1)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR2)2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。
R9~R11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。]
【0015】
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法においては、前記R3及びR4が、それぞれ独立に、少なくとも一つのヘテロ原子含有基を有する炭素数5~30の炭化水素基であってもよい。
【0016】
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法においては、前記R8が、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR2,CO2R2、CO2M’、C(O)N(R1)2、C(O)R2、SR2、SO2R2、OSO2R2、P(O)(OR2)2-y(R1)y、CN、NHR2、N(R2)2、Si(OR1)3-x(R1)x、OSi(OR1)3-x(R1)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR2)2M’またはエポキシ含有基であってもよい(ここで、R1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。)。
【0017】
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法においては、前記R9およびR11がメチル基、前記R10が水素原子であってもよい。
【0018】
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法においては、前記金属錯体と有機アルミニウム化合物を含むオレフィン重合用触媒の存在下、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に用いられる金属錯体を含むオレフィン重合用触媒は、従来の触媒よりもはるかに容易に取り扱えて、高活性でα-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.金属錯体
本発明の金属錯体は、下記一般式(A)又は(B)で表される化合物と、下記一般式(C)の構造を有するニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物とを反応させて得られることを特徴とする。
【0021】
【0022】
[一般式(A)~(C)中のR3~R11、E1、X1は以下の通りである。
X1は酸素または硫黄を表す。
E1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R5~R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR2,CO2R2、CO2M’、C(O)N(R1)2、C(O)R2、SR2、SO2R2、OSO2R2、P(O)(OR2)2-y(R1)y、CN、NHR2、N(R2)2、Si(OR1)3-x(R1)x、OSi(OR1)3-x(R1)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR2)2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。
R9~R11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。
また、一般式(A)中、
Zは、水素原子、または脱離基である。
mはZの価数を表す。]
【0023】
得られる金属錯体中において、一般式(A)又は(B)で表される化合物は配位子となることから、一般式(A)又は(B)で表される化合物と上記遷移金属化合物との反応は、通常、配位子交換反応となる。
一般式(A)又は(B)で表される化合物と上記遷移金属化合物とを反応させる条件は、特に限定されない。得られる金属錯体が上記遷移金属化合物よりも熱力学的に安定である場合には、一般式(A)又は(B)で表される化合物と上記遷移金属化合物とを室温(15~30℃)で混合することにより配位子交換反応が進行する。一方、得られる金属錯体が上記遷移金属化合物よりも熱力学的に不安定である場合には、配位子交換反応を十分に進行させるため、上記混合物を適宜加熱してもよい。
【0024】
一般式(A)又は(B)で表される化合物と、一般式(C)の構造を有するニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物とを反応させて得られる金属錯体としては、後述する一般式(D)に示す構造を有すると推定される。
しかし、一般式(A)又は(B)で表される化合物は、二座配位子であるから、当該化合物を一般式(C)の構造を有するニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物と反応させた場合には、一般式(D)に示す構造以外の構造を有する金属錯体が生成する可能性がある。例えば、一般式(A)又は(B)中のX1のみが遷移金属と結合を形成する場合や、これらの式中のE1のみが遷移金属と結合を形成する場合も考えられる。また、一般式(D)に示す金属錯体は、一般式(A)又は(B)で表される化合物と遷移金属化合物との1:1反応生成物であるところ、遷移金属の種類によっては異なる組成比の反応生成物が得られることも考えられる。例えば、2分子以上の一般式(A)又は(B)で表される化合物が1つの遷移金属と錯体を形成する場合も考えられるし、一般式(A)又は(B)で表される化合物1分子が2つ以上の遷移金属と反応して多核錯体を形成する場合も考えられる。
本発明においては、このような一般式(D)に示す構造以外の構造を有する金属錯体が、一般式(D)に示す金属錯体と同様に、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体の製造に用いることが可能であることを否定するものではない。
【0025】
以下、一般式(A)~(D)について説明する。
【0026】
[一般式(A)]
R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R3及びR4の炭化水素基に含まれていてもよいヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、セレン、ケイ素、ハロゲン、ホウ素等が挙げられる。
R3及びR4において、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基としては、以下の基が挙げられる。
n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、及び、n-デシル基等の直鎖状アルキル基。
イソペンチル基(3-メチルブチル基)、t-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、sec-ペンチル基(1-メチルブチル基)、2-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、1,2-ジメチルプロピル基、及び、イソヘキシル基(4-メチルペンチル基)等の非環状アルキル基。
ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基、及び、シンナミル基等のアルケニル基。
シクロペンチル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、及び、デカヒドロナフチル基(ビシクロ[4,4,0]デシル基)等のシクロアルキル基。
フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、テルフェニル基、フェナントレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、ピレニル基、及び、テトラセニル基等のアリール基。
ベンジル基、フェネチル基(2-フェニルエチル基)、9-フルオレニル基、ナフチルメチル基、及び、1-テトラリニル基等のアリールアルキル基。
トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、及び、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基。
【0027】
R3及びR4の炭化水素基が有するヘテロ原子を含む基としては、以下の基が挙げられる。
酸素含有基として、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、及び、エステル基等が挙げられる。
窒素含有基としては、アミノ基、及び、アミド基等が挙げられる。
硫黄含有基としては、チオアルコキシ基やチオアリーロキシ等が挙げられる。
リン含有置換基としては、ホスフィノ基が挙げられる。
セレン含有基としては、セレニル基が挙げられる。
ケイ素含有基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、及び、アルキルジアリールシリル基等が挙げられる。
フッ素含有基としては、フルオロアルキル基、及び、フルオロアリール基等が挙げられる。
ホウ素含有基としては、アルキルホウ素基、及び、アリールホウ素基等が挙げられる。
これらのヘテロ原子含有基のうち、アルコキシ基またはアリーロキシ基であってもよい。
【0028】
前記したヘテロ原子含有基に含まれるヘテロ原子としては、遷移金属に配位可能なものであってもよい。こうした遷移金属に配位可能なヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基の具体的な例としては、以下のものが挙げられる。
すなわち、酸素含有基として、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、及び、t-ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、o-メチルフェノキシ基、及び、o-メトキシフェノキシ基などのアリーロキシ基、アセチル基、及び、ベンゾイル基などのアシル基、並びに、アセトキシ基、カルボキシエチル基、カルボキシt-ブチル基、及び、カルボキシフェニル基などのエステル基などを挙げることができる。
窒素含有基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、及び、シクロヘキシルアミノ基などのジアルキルアミノ基などを挙げることができる。
硫黄含有基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオ-n-プロポキシ基、チオイソプロポキシ基、チオ-n-ブトキシ基、チオ-t-ブトキシ基、及び、チオフェノキシ基などのチオアルコキシ基、並びに、o-メチルチオフェノキシ基、及び、o-メトキシチオフェノキシ基などのチオアリーロキシ基などを挙げることができる。
リン含有置換基としては、ジメチルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、ジ-n-プロピルホスフィノ基、及び、シクロヘキシルホスフィノ基などのジアルキルホスフィノ基などを挙げることができる。
セレン含有基としては、メチルセレニル基、エチルセレニル基、n-プロピルセレニル基、n-ブチルセレニル基、t-ブチルセレニル基、及び、フェニルセレニル基などのセレニル基などを挙げることができる。
【0029】
R3及びR4の炭化水素基は、炭素骨格を構成する炭素の一部が上記ヘテロ原子で置換されていてもよく、炭化水素基に上記ヘテロ原子含有基が1又は2以上置換していてもよく、その両方であってもよい。
R3及びR4においては、フェニル基にアルコキシ基が1又は2以上置換している基であってもよい。
R3及びR4の具体例としては、R3及びR4がいずれも2,6-ジメトキシフェニル基、2,6-ジエトキシフェニル基、及び、2,6-ジイソプロピルフェニル基などが挙げられ、特にR3及びR4がいずれも2,6-ジメトキシフェニル基であってもよい。
【0030】
R5~R8は、それぞれ独立に、(i)水素原子、(ii)ハロゲン、(iii)炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、又は、(iv)ヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる原子若しくは基を表す。
(ii)ハロゲンとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は、ヨウ素原子が挙げられる。
(iii)のR5~R8の炭化水素基に含まれていてもよいヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、セレン、ケイ素、ハロゲン、及び、ホウ素等が挙げられる。
(iii)の炭化水素基の内、「ヘテロ原子を含有する基」としては、具体的には、後述する(iv)ヘテロ原子含有置換基と同様の基が挙げられる。
以上を踏まえ、R5~R8の「炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基」としては、下記(1)~(4)で例示される基等が挙げられる。
(1)炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、側鎖を有していてもよい炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、及び炭素数7~30のアルキルアリール基等。
(2)上記(1)のそれぞれの基に上記ヘテロ原子が1又は2以上置換している基。
(3)上記(1)のそれぞれの基に上記「ヘテロ原子を含有する基」が1又は2以上置換している基。
(4)上記(1)のそれぞれの基に、上記ヘテロ原子が1又は2以上置換し、かつ、上記「ヘテロ原子を含有する基」が1又は2以上置換している基。
上記(3)については、例えば、アルコキシ基が置換しているアルキル基や、エステル基が置換しているアリール基等が挙げられる。
(iv)ヘテロ原子含有置換基とは、具体的にはOR2,CO2R2、CO2M’、C(O)N(R1)2、C(O)R2、SR2、SO2R2、OSO2R2、P(O)(OR2)2-y(R1)y、CN、NHR2、N(R2)2、Si(OR1)3-x(R1)x、OSi(OR1)3-x(R1)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR2)2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。
【0031】
R1及びR2の炭素数1~20の炭化水素基としては、以下の基が挙げられる。
n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、及び、n-デシル基等の直鎖状アルキル基。
イソペンチル基(3-メチルブチル基)、t-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、sec-ペンチル基(1-メチルブチル基)、2-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、1,2-ジメチルプロピル基、及び、イソヘキシル基(4-メチルペンチル基)等の非環状アルキル基。
ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基、及び、シンナミル基等のアルケニル基。
シクロペンチル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、及び、デカヒドロナフチル基(ビシクロ[4,4,0]デシル基)等のシクロアルキル基。
フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、テルフェニル基、及び、フェナントレニル基等のアリール基。
ベンジル基、フェネチル基(2-フェニルエチル基)、9-フルオレニル基、ナフチルメチル基、及び、1-テトラリニル基等のアリールアルキル基。
トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、及び、デシルフェニル基等のアルキルアリール基。
【0032】
R5~7は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、9-フルオレニル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、スルフォニル基、ニトリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシロキシ基、シクロヘキシルアミノ基、スルフォン酸ナトリウム、スルフォン酸カリウム、リン酸ナトリウム、又は、リン酸カリウムであってもよい。
これらの中でも特に、R5~7は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、イソブチル基、tert-ブチル基(t-ブチル基)、sec-ブチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、又は、ニトリル基であってもよい。
【0033】
なお、R5、R6およびR7から適宜選択された複数の基が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は、酸素、窒素、及び、硫黄からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
また、R5内に含まれる複数の基が互いに連結し、R5上に環を形成してもよい。R6、又はR7のいずれかが複数の基を含む場合も同様である。
【0034】
R8は、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR2,CO2R2、CO2M’、C(O)N(R1)2、C(O)R2、SR2、SO2R2、OSO2R2、P(O)(OR2)2-y(R1)y、CN、NHR2、N(R2)2、Si(OR1)3-x(R1)x、OSi(OR1)3-x(R1)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR2)2M’又は、エポキシ含有基であってもよい。(ここで、R1、R2、M’、x、及び、yは上記と同様のため、ここでの記載は省略する。)
【0035】
また、R8は、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基の例として、下記一般式(E)で表される基であってもよい。
【0036】
【0037】
[一般式(E)中、R12~R16は、それぞれ独立に、水素原子、一般式(F)で表される置換基(一般式(F)中、R17及びR18は、それぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有していても良い炭素数1~6の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成してもよい)、置換基を有していても良い炭素数6~12のアリール基、アダマンチル基、OR2、SR2、又はN(R2)2を表す。なお、R2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。
ただし、R12~R16のうち、少なくとも1つは一般式(F)で表される置換基、置換基を有していても良い炭素数6~12のアリール基、アダマンチル基、OR2、SR2、又はN(R2)2である。
R12~R16は相互に環形成しない。]
【0038】
一般式(E)中、R12~R16の炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、テルフェニル基、及び、フェナントレニル基等であってもよい。
R12~R16のアリール基が有する置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、メトキシ基、及び、エトキシ基等が挙げられる。
【0039】
上記一般式(F)において、ヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、セレン、ケイ素、ハロゲン、及び、ホウ素等が挙げられる。
一般式(F)において、R17及びR18のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~6の炭化水素基としては以下の置換基が挙げられる。
R17及びR18は、それぞれ独立にメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、及び、n-ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖状アルキル基であってもよい。
R17及びR18は、それぞれ独立にイソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基(t-ブチル基)、sec-ブチル基、イソペンチル基(3-メチルブチル基)、t-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、sec-ペンチル基(1-メチルブチル基)、2-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、1,2-ジメチルプロピル基、及び、イソヘキシル基(4-メチルペンチル基)等の炭素数3~6の分岐した非環状アルキル基であってもよい。
R17及びR18は、それぞれ独立にビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、及び、ヘキセニル基等の炭素数2~6のアルケニル基であってもよい。
R17及びR18は、それぞれ独立にアリル基、ブテニル基、ペンテニル基、及び、ヘキセニル基等の炭素数3~6のアルケニル基であってもよい。
R17及びR18が互いに環を形成して、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、及び、デカヒドロナフチル基(ビシクロ[4,4,0]デシル基)等の側鎖を有していてもよい炭素数3~10のシクロアルキル基であってもよい。
R17及びR18の炭化水素基は、炭素骨格を構成する炭素の一部が上記ヘテロ原子で置換されていてもよく、炭化水素基にヘテロ原子含有基が1又は2以上置換していてもよく、その両方であってもよい。ヘテロ原子含有基は、上述したR3~R4と同様の基を選択することができる。
【0040】
上記一般式(E)において、R12~R16のうち少なくとも1つが、一般式(F)で表される置換基、置換基を有していても良い炭素数6~12のアリール基又はアダマンチル基であってもよい。
また、上記一般式(E)において、R12及びR16が、一般式(F)で表される置換基、置換基を有していても良い炭素数6~12のアリール基、アダマンチル基、OR2、SR2、又はN(R2)2であってもよい。
さらに、上記一般式(E)において、R12及びR16が、一般式(F)で表される置換基、置換基を有していても良い炭素数6~12のアリール基又はアダマンチル基であってもよい。
R12及びR16の具体例としては、一般式(F)においてR17及びR18がいずれも水素原子であるメチル基、又は、R17及びR18がいずれもメチル基であるイソプロピル基であってもよい。
また、R13~R15の具体例としては、水素原子が挙げられる。
さらに、一般式(E)において、R12及びR16がいずれもメチル基又はイソプロピル基、且つ、R13~R15がいずれも水素原子である。
一般式(E)で表される基の具体例としては、例えば、2,6-ジメチルフェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、及び、2,6-イソプロピルフェニル基等が挙げられ、特に2,6-ジメチルフェニル基、又は2,6-イソプロピルフェニル基であってもよい。
【0041】
R8は特に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基(t-ブチル基)、sec-ブチル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,6-イソプロピルフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、9-フルオレニル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、スルフォニル基、ニトリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシロキシ基、シクロヘキシルアミノ基、スルフォン酸ナトリウム、スルフォン酸カリウム、リン酸ナトリウム、又は、リン酸カリウムであってもよい。
R8は、さらに、メチル基、イソブチル基、tert-ブチル基(t-ブチル基)、sec-ブチル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,6-イソプロピルフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、アントラセニル基、9-フルオレニル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、トリメトキシシリル基、又は、ニトリル基であってもよい。
【0042】
E1は、リン、砒素またはアンチモンを表す。これらの元素はいずれも周期表の第15族に属し、性質が似ているため、同様の効果が得られると推察される。この中でも、取り扱いが容易となる観点から、E1はリンであってもよい。
X1は、酸素または硫黄を表す。この中でも、X1は酸素であってもよい。
Zは、水素原子または脱離基を表す。Zは、具体的には、水素原子などを挙げることができる。
mはZの価数を表す。
【0043】
[一般式(B)]
一般式(B)は、アニオンの形で表されているが、そのカウンターカチオンは、本発明における遷移金属化合物との反応を阻害しない限りにおいて、任意のものを用いることができる。
カウンターカチオンとしては、具体的には、アンモニウム、4級アンモニウム、ホスホニウム、又は、周期表1族~14族の金属イオンを挙げることができる。
これらのうち特に、NH4
+、R2
4N+(ここでR2は、前記したとおりであり、4つのR2は、同じでも異なっていてもよい。以下同様である。)、R2
4P+、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Al3+であってもよく、さらに、R2
4N+、Li+、Na+、K+であってもよい。
【0044】
一般式(A)、又は、一般式(B)で示される化合物については、公知の合成法に基づいて合成することができる。
【0045】
[一般式(C)]
一般式(C)は、アニオンの形で表されているが、そのカウンターカチオンは、ニッケル(II)イオンまたはパラジウム(II)イオンである。
一般式(C)において、R9~R11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。
R9~R11の炭化水素基に含まれていてもよいヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、セレン、ケイ素、ハロゲン、及び、ホウ素等が挙げられる。
R9~R11の炭素数1~20の炭化水素基としては、以下の基が挙げられる。
n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、及び、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖状アルキル基。
イソペンチル基(3-メチルブチル基)、t-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、sec-ペンチル基(1-メチルブチル基)、2-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、1,2-ジメチルプロピル基、及び、イソヘキシル基(4-メチルペンチル基)等の非環状アルキル基。
ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基、及び、シンナミル基等のアルケニル基。
シクロペンチル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、及び、デカヒドロナフチル基(ビシクロ[4,4,0]デシル基)等のシクロアルキル基。
フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、テルフェニル基、及び、フェナントレニル基等のアリール基。
ベンジル基、フェネチル基(2-フェニルエチル基)、9-フルオレニル基、ナフチルメチル基、及び、1-テトラリニル基等のアリールアルキル基。
トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、及び、デシルフェニル基等のアルキルアリール基。
上記R9~R11の炭化水素基は、炭素骨格を構成する炭素の一部が上記ヘテロ原子で置換されていてもよく、炭化水素基にヘテロ原子含有基が1又は2以上置換していてもよく、その両方であってもよい。ヘテロ原子含有基は、上述したR3~R4と同様の基を選択することができる。
一般式(C)において、特に、R9およびR11がメチル基、R10が水素原子であってもよい。
【0046】
本発明で用いられる遷移金属化合物については、一般式(A)または(B)で示される化合物と反応して、重合能を有する錯体を形成可能なものが使用される。これらは、プリカーサー(前駆体)とも呼ばれることがある。
一般式(C)の構造を有するニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物の具体例としては、
ビス(アセチルアセトナート)ニッケル(II)、
ビス(アセチルアセトナート)パラジウム(II)、
Bis(2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato)nickel(II)、
Bis[1-(4-methylphenyl)-1,3-butanedionato]nickel(II)、
Bis(1,1,1-Trifluoro-2,4-Pentanedionato)nickel(II)、
Bis(hexafluoroacetylacetonato)nickel(II)、
Bis(6-methyl-2,4-heptanedionato)nickel(II)、
Bis(1-phenyl-1,3-butanedionato)nickel(II)、及び、
Bis[4,4,4-trifluoro-1-(2-furanyl)-1,3-butanedionato]nickel(II)等が挙げられる。
【0047】
[一般式(D)]
本発明の金属錯体は、下記一般式(D)で表されることを特徴とする。
【0048】
【0049】
[一般式(D)中のR3~R11、E1、X1、Mは以下の通りである。
Mはニッケルまたはパラジウムを表す。
X1は酸素または硫黄を表す。
E1はリン、砒素またはアンチモンを表す。
R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数5~30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R5~R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1~30のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基、OR2,CO2R2、CO2M’、C(O)N(R1)2、C(O)R2、SR2、SO2R2、OSO2R2、P(O)(OR2)2-y(R1)y、CN、NHR2、N(R2)2、Si(OR1)3-x(R1)x、OSi(OR1)3-x(R1)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR2)2M’またはエポキシ含有基を表す。ここで、R1は水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、R2は炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。
R9~R11は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のヘテロ原子を含有していても良い炭化水素基を表す。]
上記一般式(A)または(B)で表される化合物と、一般式(C)の構造を有するニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物との反応により得られる生成物中に、上記一般式(D)で表される本発明の金属錯体が含まれる。ただし、上述したように、当該反応によって得られる金属錯体の構造は、一般式(D)に示す構造のみに限定されるものではない。
【0050】
上記一般式(D)中のR3~R11、E1、X1は上記一般式(A)~(C)に記載の通りである。このように、上記反応生成物中の金属錯体と、一般式(D)に示す金属錯体との間には、ベンゼン環を含む主骨格や、これら置換基(R3~R11、E1、X1)の点において錯体構造の共通性がある。
以下、一般式(D)中のMについて説明する。
本発明において、Mは、ニッケルまたはパラジウムである。
Mの価数については2価であってもよい。ここでMの価数とは、有機金属化学で用いられる形式酸化数(formal oxidation number)を意味する。すなわち、ある元素1が関与する結合中の電子対を電気陰性度の大きい元素2に割り当てたとき、元素1の原子上に残る電荷の数を指す。
2価の遷移金属としては、例えば、ニッケル(II)、パラジウム(II)であってもよい。
【0051】
本発明における上記一般式(D)中の置換基等の具体的な組み合わせを、下記表1~3に示す。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。なお、下記例示において、Meはメチル基を、Etはエチル基を、nPrはノルマルプロピル基を、iPrはイソプロピル基を、nBuはノルマルブチル基を、tBuはターシャリーブチル基を、Cyはシクロヘキシル基を、Phはフェニル基を、Adはアダマンチル基を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
2.金属錯体の製造方法
本発明においては、上述したように、一般式(A)または(B)で表される化合物と、一般式(C)の構造を有するニッケル又はパラジウムから選ばれる遷移金属を含む遷移金属化合物とを反応させることにより、一般式(D)で表される金属錯体を製造することができる。
【0056】
本発明の反応生成物は、前述の一般式(A)または(B)で表される化合物と前述の遷移金属化合物(C)とを、例えば((A)又は(B)):(C)=1:99~99:1(モル比)を、0~100℃のトルエン及びベンゼン等の有機溶媒中で、減圧又は加圧下で1~86,400秒間反応させることにより得ることができる。
【0057】
上記反応後、遷移金属化合物を構成している成分であって、当該化合物中の遷移金属以外の成分は、一般式(A)中のZを除いた部分や一般式(B)の化合物によって置換されて、本発明の一般式(D)で表される金属錯体が生成する。
この置換反応は、定量的に進行するほうが好ましいが、場合によっては完全に進行しなくてもよい。
反応終了後、一般式(D)で表される錯体以外に、一般式(A)、一般式(B)、及び遷移金属化合物由来の他の成分が共存するが、本発明の共重合反応を行う際に、これらの他の成分は、除去してもよいし、除去しなくてもよい。一般的には、これらの他の成分は、除去した方が、高活性が得られるので除去してもよい。
【0058】
本発明において、錯体形成反応は、α-オレフィンの重合又はα-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器とは別の容器で予め行い、得られた一般式(D)の錯体をα-オレフィンの重合又はα-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に供してもよいし、錯体形成反応は、これらのモノマーの存在下で行ってもよい。
また、錯体形成反応は、α-オレフィンの重合又はα-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器の中で行ってもよい。この際に、これらのモノマーは存在していてもよいし、存在していなくてもよい。また、一般式(A)又は一般式(B)で示される成分については、それぞれ単独の成分を用いてもよいし、それぞれ複数種の成分を併用してもよい。
【0059】
3.オレフィン重合用触媒
本発明のオレフィン重合用触媒は、下記の成分(a)及び成分(b)を含むことを特徴とする。
成分(a):前記金属錯体
成分(b):有機アルミニウム化合物
【0060】
成分(a)は、上記金属錯体であり、1種類の金属錯体のみを用いてもよいし、2種類以上の金属錯体を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、一般式(D)で表される金属錯体を、重合または共重合の触媒成分として使用することができる。
前記したように、一般式(D)で表される金属錯体は、一般式(A)または(B)の構造を有する化合物と一般式(C)の構造を有する遷移金属化合物との反応によって、形成させることができる。
一般式(D)で表される金属錯体を触媒成分に用いる場合、単離したものを用いてもよいし、担体に担持したものを用いてもよい。
担体への金属錯体の担持は、α-オレフィンの重合又はα-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器中で、これらのモノマーの存在下または非存在下で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。
【0061】
使用可能な担体としては、本発明の主旨をそこなわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。一般に、無機酸化物及びポリマー担体等が使用できる。具体的には、SiO2、Al2O3、MgO、ZrO2、TiO2、B2O3、CaO、ZnO、BaO、及び、ThO2等またはこれらの混合物が挙げられ、SiO2-Al2O3、SiO2-V2O5、SiO2-TiO2、SiO2-MgO、及び、SiO2-Cr2O3等の混合酸化物も使用することができる。その他、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、及び、ポリイミド担体などが使用可能である。これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、及び、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0062】
無機ケイ酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、及び、珪藻土等が使用可能である。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。
粘土、及び、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、及び、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、及び、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、及び、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、及び、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、及び、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、並びに、リョクデイ石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、及び、合成テニオライト等が挙げられる。
これら具体例のうち特に、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、及び、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロサイト、及び、ハロサイト等のハロサイト族、クリソタイル、リザルダイト、及び、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、及び、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、及び、海緑石等の雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、並びに、合成テニオライト等であってもよく、さらに、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、及び、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、並びに、合成テニオライト等であってもよい。
【0063】
これらの担体は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、及び、硫酸等の酸による酸処理および/または、LiCl、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、Li2SO4、MgSO4、ZnSO4、Ti(SO4)2、Zr(SO4)2、及び、Al2(SO4)3等の塩類処理を行ってもよい。該処理において、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。また粉砕及び造粒等の形状制御や乾燥処理を行ってもよい。
【0064】
成分(b)として使用される、有機アルミニウム化合物の一例は、次の一般式(G)で表される。
Al(Rp)aX(3-a)・・・一般式(G)
一般式(G)中、Rpは、炭素数1~20の炭化水素基、Xは、水素原子、ハロゲン、アルコキシ基又はシロキシ基を示し、aは0より大きく3以下の数を示す。
一般式(G)で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、及び、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、並びに、ジエチルアルミニウムモノクロライド、及び、ジエチルアルミニウムモノメトキシドなどのハロゲン又はアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられる。
【0065】
これらの中では、有機アルミニウム化合物は、トリイソブチルアルミニウムであってもよい。また、上記の有機アルミニウム化合物を2種以上併用してもよい。また、上記の有機アルミニウム化合物をアルコール、又は、フェノールなどで変性して用いてもよい。これらの変性剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、フェノール、2,6-ジメチルフェノール、及び、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどが例示され、特に、2,6-ジメチルフェノール、及び、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどであってもよい。
【0066】
また、成分(b)の有機アルミニウム化合物の一種として、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。
上記有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al-O-Al結合を有し、その結合数は通常1~100個であり、特に1~50個の範囲であってもよい。
このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
有機アルミニウム化合物と水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。不活性炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、及び、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、並びに、芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用してもよい。
【0067】
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記一般式(H)で表される化合物が使用可能であるが、トリアルキルアルミニウムであってもよい。
(Rx)tAl(X3)(3-t)・・・一般式(H)
(一般式(H)中、Rxは、炭素数1~18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、アラルキル基などの炭化水素基を示し、X3は、水素原子又はハロゲンを示し、tは、1≦t≦3の整数を示す。)
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、及び、ドデシル基などが挙げられ、メチル基、及び、イソブチル基などであってもよく、特にメチル基であってもよい。上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。
【0068】
水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Al(モル比))は、0.25/1~1.2/1、特に、0.5/1~1/1であってもよい。反応温度は、通常-70~100℃であり、-20~20℃の範囲であってもよい。反応時間は、通常5分~24時間であり、10分~5時間の範囲であってもよい。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、及び、硫酸アルミニウム水和物などに含まれる結晶水、並びに、反応系中に水が生成しうる成分等を利用することもできる。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなる混合物を含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、好適である。MAO溶液を溶媒留去して得られた固体状のドライメチルアルミノキサン(DMAO)もまた好適である。
もちろん、有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また、前記有機アルミニウムオキシ化合物を前述の不活性炭化水素溶媒に溶解又は分散させた溶液としたものを用いても良い。
【0069】
本発明に係るオレフィン重合用触媒の調製法においては、成分(a)と成分(b)を接触させる方法は、特に限定されない。
上記の成分(a)と成分(b)の接触は、α-オレフィンの重合又はα-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器中で、これらのモノマーの存在下または非存在下で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。また、当該接触は、窒素などの不活性ガス中において、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、又は、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。接触は、-20℃から溶媒の沸点の間の温度で行うことができ、特に室温から溶媒の沸点の間での温度で行ってもよい。
【0070】
4.α-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法は、前記オレフィン重合用触媒存在下、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合することを特徴とする。
なお、本明細書では「(メタ)アクリル」とは「アクリルもしくはメタクリル」を意味する。つまり、例えば、「(メタ)アクリル酸」との記載は「アクリル酸もしくはメタクリル酸」との記載と同義である。
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法の一実施形態は、上記重合用触媒の存在下で、α-オレフィンと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを共重合するものである。
本発明におけるα-オレフィンは、一般式(I):CH2=CHRwで表される。ここで、Rwは、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基であり、分岐、環、および不飽和結合等を有していてもよい。Rwの炭素数が20より大きいと、十分な重合活性が発現しない傾向がある。このため、なかでも、Rwが水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であるα-オレフィンが挙げられる。
さらに、α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキセン、及び、スチレン等が挙げられる。なお、単独のα-オレフィンを使用してもよいし、複数のα-オレフィンを併用してもよい。
本発明のα-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法においては、α-オレフィンがエチレンであってもよい。
【0071】
本発明における(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、一般式(J):CH2=C(Ry)CO2(Rz)で表される。ここで、Ryは、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、分岐、環、および不飽和結合等を有していてもよい。Rzは、炭素数1~30の炭化水素基であり、分岐、環、および不飽和結合等を有していてもよい。さらに、Rz内の任意の位置にヘテロ原子を含有していてもよい。
Ryの炭素数が11以上であると、十分な重合活性が発現しない傾向がある。したがって、Ryは、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、(メタ)アクリル酸エステルとしては、Ryが水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であってもよい。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、Ryがメチル基であるメタクリル酸エステルまたはRyが水素原子であるアクリル酸エステルであってもよい。同様に、Rzの炭素数が30を超えると、重合活性が低下する傾向がある。よって、Rzは炭素数1~30であり、炭素数1~12であってもよく、さらに炭素数1~8であってもよい。
また、Rz内に含まれていても良いヘテロ原子としては、酸素、硫黄、セレン、リン、窒素、ケイ素、フッ素、及び、ホウ素等が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素、ケイ素、及び、フッ素等であってもよく、さらに酸素であってもよい。また、Rzは、ヘテロ原子を含まないものであってもよい。
【0072】
さらに(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸-2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジメチルアミド、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、及び、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等であってもよい。なお、単独の(メタ)アクリル酸エステルを使用してもよいし、複数の(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0073】
本発明の重合反応は、液体化合物として、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、及び、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶媒、液化α-オレフィン等の液体、並びに、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、及び、エチレングリコール等の極性溶媒等の存在下あるいは非存在下に行われる。
また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。
さらに、イオン液体も溶媒として使用可能である。
なお、触媒の高い重合活性及び共重合体の高い分子量を得る観点から、重合反応においては、上述の炭化水素溶媒及びイオン液体等を用いてもよい。
【0074】
本発明では、公知の添加剤の存在下または非存在下で重合反応を行うことができる。
添加剤としては、ラジカル重合を禁止する重合禁止剤、及び、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤等であってもよい。
添加剤としては、キノン誘導体、及び、ヒンダードフェノール誘導体などであってもよい。
添加剤としては、具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル4-メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、及び、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。
また、添加剤として、無機フィラーおよび有機フィラーの少なくともいずれか一方を使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行っても良い。さらに、イオン液体を添加剤として用いてもよい。
【0075】
本発明における添加剤としては、ルイス塩基であってもよい。
適切なルイス塩基を選択することにより、触媒活性、共重合体の分子量、及び、(メタ)アクリル酸エステルの共重合性を改良することができる。
ルイス塩基の量としては、重合系内に存在する触媒成分中の遷移金属Mに対して、0.0001当量~1000当量であってもよく、特に0.1当量~100当量であってもよく、さらに0.3当量~30当量であってもよい。
ルイス塩基を重合系に添加する方法については、特に制限はなく、任意の手法を用いることができる。
ルイス塩基は、例えば、本発明の触媒成分と混合してもよいし、モノマーと混合してもよいし、触媒成分やモノマーとは独立に重合系に添加してもよい。また、複数のルイス塩基を併用してもよい。
【0076】
ルイス塩基としては、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル類、アリールニトリル類、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、ホスフェート類、ホスファイト類、チオフェン類、チアンスレン類、チアゾール類、オキサゾール類、モルフォリン類、及び、環状不飽和炭化水素類などを挙げることができる。
これらのうち、特にルイス塩基は、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、及び、芳香族エステル類などであってもよく、さらにルイス塩基は、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピペリジン誘導体、イミダゾール誘導体、アニリン誘導体、ピペリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピロール誘導体、及び、フラン誘導体などであってもよい。
【0077】
具体的なルイス塩基の化合物としては、ピリジン、ペンタフルオロピリジン、2,6-ルチジン、2,4-ルチジン、3,5-ルチジン、ピリミジン、N、N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、2,2’-ビピリジン、アニリン、ピペリジン、1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ピリジル)-s-トリアジン、キノリン、8-メチルキノリン、フェナジン、1,10-フェナンスロリン、N-メチルピロール、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデカ-7-エン、1,4-ジアザビシクロ-[2,2,2]-オクタン、トリエチルアミン、ベンゾニトリル、ピコリン、トリフェニルアミン、N-メチル-2-ピロリドン、4-メチルモルフォリン、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、フラン、2,5-ジメチルフラン、ジベンゾフラン、キサンテン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、ジベンゾチオフェン、チアンスレン、トリフェニルホスフォニウムシクロペンタジエニド、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリピロリジノホスフィン、及び、トリス(ピロリジノ)ボランなどを挙げることができる。
【0078】
本発明において、重合形式は特に制限されない。
重合形式は、媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、または、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが挙げられる。
また、バッチ重合、セミバッチ重合、又は、連続重合のいずれの形式でもよい。
また、リビング重合であってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。
さらに、いわゆるchain transfer agent(CSA)を併用し、chain shuttling、又は、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
【0079】
未反応モノマー及び媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。
リサイクルの際、これらの未反応モノマー及び媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。
生成共重合体と未反応モノマーおよび媒体との分離には、従来公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、及び、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
重合温度、重合圧力および重合時間に、特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。すなわち、重合温度は、通常-20℃~290℃であり、0℃~250℃であってもよい。重合圧力は、0.1MPa~300MPaであってもよく、特に、0.3MPa~250MPaであってもよい。重合時間は、0.1分~10時間であってもよく、特に、0.5分~7時間であってもよく、さらに1分~6時間であってもよい。
【0080】
本発明において、重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン、及び、二酸化炭素等の不活性ガスが使用でき、窒素であってもよい。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。
例えば、バッチ重合の場合、あらかじめ所定量のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を重合反応器に供給してもよい。
また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を重合反応器に連続的に、または間歇的に供給し、重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0081】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。
その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法、及び、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法等が挙げられる。
重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。すなわち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、及び、遷移金属錯体中のリガンド構造の制御により分子量を制御する等が挙げられる。
連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素ガス、及び、メタルアルキルなどを使用することができる。
【0082】
特に本発明により得られる共重合体は、共重合体の極性基にもとづく効果により、良好な塗装性、印刷性、帯電防止性、無機フィラー分散性、他樹脂との接着性、及び、他樹脂との相溶化能などが発現する。こうした性質を利用して、本発明の共重合体は、さまざまな用途に使用することができる。例えば、フィルム、シート、接着性樹脂、バインダー、相溶化剤、及び、ワックスなどとして使用可能である。
【実施例】
【0083】
以下の実施例および比較例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。以下の合成例で、特に断りのない場合、操作は精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。
【0084】
1.評価法
(1)融点Tm、結晶化温度Tc:
融点Tm及び結晶化温度Tcは、以下の示差走査熱量測定(DSC)により求めた。
PerkinElmer社製PYRIS Diamond DSC示差走査熱量測定装置を使用して、試料(約5mg)を210℃で5分間融解後、10℃/minの速度で-20℃まで降温し、-20℃で5分保持した後に、10℃/minの速度で210℃まで昇温することにより融解曲線を得た。
融解曲線の降温段階における主発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度Tcとした。
また、融解曲線において融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとした。
(2)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及び、分子量分布Mw/Mn:
重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及び、分子量分布Mw/Mnは、以下のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求めた。
試料(約20mg)をポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PL-SP 260VS用のバイアル瓶に採取し、バイアル瓶に安定剤としてBHTを含有するo-ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加えて試料溶液とし、試料溶液のポリマー濃度が0.1(質量%)になるように調整した。
上記試料は、ポリマーを上記高温GPC用前処理装置PL-SP 260VS中で135℃に加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して調製した。
なお、本発明におけるGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーは無かった。
次に、カラムとして東ソー社製TSKgel GMH-HT(30cm×4本)およびRI検出器を装着した東ソー社製HLC-8321GPC/HTを使用してGPC測定を行った。
測定条件としては、試料溶液注入量:約300μl、カラム温度:135℃、溶媒:o-ジクロロベンゼン、流量:1.0ml/minを採用した。
試料の分子量の算出は以下のように行った。
すなわち、標準試料として市販の単分散ポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびエチレン系重合体の粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて試料の分子量の算出を行った。
なお、粘度式としては、[η]=K × Maを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38×10-4、a=0.70を使用し、エチレン系重合体に関してはK=4.77×10-4、a=0.70を使用した。
【0085】
2.配位子、錯体
(合成例1):配位子B-423の合成
以下のスキーム1に従って配位子B-423を合成した。
なお、以降の化学式中、-OMOMとはメトキシメトキシ基(-OCH2OCH3)を、iPrはイソプロピル基を表す。
【0086】
【0087】
(i)化合物2の合成
2,6-ジメトキシベンゼン(化合物1、50g、0.36mol)の無水THF(500ml)溶液に、窒素雰囲気下でn-ブチルリチウムのn-ヘキサン溶液(166ml,0.42mol)を0℃で徐々に加えた。ここに、ヨウ素(96.5g,0.38mol)の無水THF(200ml)溶液を0℃で40分間かけて滴下し、得られた溶液を室温で終夜攪拌した。その後、ここに80mlのメタノールを滴下し、得られた混合物を減圧下にて濃縮した。濃縮残差に水(200ml)を加えた後、酢酸エチル(250ml)で3回抽出した。混合物から有機層を回収し、Na2S2O3および食塩水で該有機層を洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥した。乾燥後、有機層から無機塩を濾別し、減圧下で有機層の濃縮を行い、得られた残渣をメタノール(50ml)で4回洗浄して乾燥させたところ、スキーム1で示した化合物2が黄色の固体として得られた。収量:63g(収率:66%)。
【0088】
(ii)化合物3の合成
スキーム1で示した化合物2(2.64g、10.0mmol)のTHF(5.0ml)溶液にiso-PrMgCl(2M、5.25ml)を0℃で加えた。得られた反応混合物を25℃で1時間撹拌した。その後、反応混合物にPCl3(618mg、4.50mmol)を-78℃で加えた。
反応混合物を25℃まで3時間かけて昇温し、黄色懸濁液を得た。この懸濁液の溶媒を減圧留去し、化合物3を黄色固体として得た。化合物3は精製することなく、次の反応に用いた。
【0089】
(iii)化合物5の合成
スキーム1で示した化合物4(30g、220mmol)のTHF(250ml)溶液にn-BuLi(2.5M、96ml)を0℃で加え、得られた溶液を30℃で1時間撹拌した。当該溶液にB(OiPr)3(123g、651mmol)を-78℃で加え、反応混合物を30℃で2時間撹拌して白色懸濁液を得た。
この懸濁液に塩酸(1M)を加えてpH=6~7に調整し、反応液を濃縮して混合物を得た。
得られた混合物を石油エーテル(80ml)で洗浄し、スキーム1で示した化合物5を26g得た。
【0090】
(iv)化合物7の合成
スキーム1で示した化合物5(5.00g、27.5mmol)、化合物6(4.42g、18.3mmol)、Pd2(dba)3(168mg、0.183mmol)、s-Phos(2-Dicyclohexylphosphino-2’,6’-dimethoxybiphenyl)(376mg、0.916mmol)、K3PO4(7.35g、34.6mmol)をフラスコに量りとり、ここにトルエン(40ml)を加えた。この反応溶液を110℃で12時間反応させ、黒色懸濁液を得た。
この懸濁液にH2O(50ml)を加え、EtOAc(55ml)で3回抽出し、有機層を回収した。
有機層を食塩水(20ml)で洗浄してNa2SO4で脱水した。
有機層を濾過して有機層から溶媒を減圧留去した後、濃縮残差をシリカゲルカラムで精製することにより1.3gのオイル状物質をスキーム1で示した化合物7として得た。
【0091】
(v)化合物8の合成
スキーム1で示した化合物7(6.5g、22mmol)のTHF(40ml)溶液にn-BuLi(2.5M、9.15ml)を0℃で滴下した。得られた溶液を30℃に昇温して1時間撹拌した。その反応溶液を-78℃に冷却してCuCN(2.1g,23mmol)を加え、30℃で1時間撹拌した。
その後、反応溶液を-78℃に冷却してスキーム1で示した化合物3(6.7g、20mmol)のTHF(40ml)溶液を加え、30℃で12時間撹拌して白色の懸濁液を得た。
懸濁液にH2O(50ml)を加えると白色沈殿が生じた。
白色沈殿を濾過で回収してジクロロメタン(20ml)に溶解させ、アンモニア水(80ml)を加えて混合液とし、当該混合液を3時間撹拌した。
得られた生成物をジクロロメタン(50ml)で3回抽出してNa2SO4で脱水した後、濃縮して黄色のオイル状物質を得た。このオイル状物質をシリカゲルカラムで精製し、スキーム1で示した化合物8を2.9g得た。
【0092】
(vi)B-423の合成
スキーム1で示した化合物8(2.9g、4.8mmol)のジクロロメタン(20ml)溶液にHCl/EtOAc(4M、50ml)を0℃で加え、得られた溶液を30℃で2時間撹拌して淡黄色溶液を得た。その溶液の溶媒を減圧留去し、濃縮残差にジクロロメタン(50ml)を加え、飽和NaHCO3水溶液(100ml)で洗浄し、配位子B-423を2.5g得た。
得られた配位子B-423のNMR帰属値を以下に示す。
[NMR]
1H NMR(CDCl3、δ、ppm):7.49(t、1H)、7.33(t、1H)、7.22(m、4H)、6.93(d、1H)、6.81(t、1H)、6.49(dd、4H)、6.46(br、1H)、3.56(s、12H)、2.63(sept、2H)、1.05(d、6H)、1.04(d、6H);
31P NMR(CDCl3、δ、ppm):-61.6(s).
【0093】
(合成例2):配位子B-443の合成
以下のスキーム2に従って配位子B-443を合成した。
【0094】
【0095】
(i)化合物10の合成
上記スキーム2で示した化合物5(11.8g、64.8mmol)、化合物9(8.0g、43mmol)、Pd(dba)2(249mg、0.432mmol)、及び、s-Phos(2-Dicyclohexylphosphino-2’,6’-dimethoxybiphenyl)(887mg、2.16mmol)、並びに、K3PO4(17.3g、81.7mmol)を反応容器に量りとり、そこにトルエン(80ml)を加えた(ここで、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す)。
得られた混合物を110℃で24時間反応させ、黒色懸濁液を得た。
その懸濁液を30℃に冷却してH2O(250ml)を加えた後、ジクロロメタン(250ml)で3回抽出した。
有機層をNa2SO4で乾燥後、溶媒を減圧留去した。
得られた残差はシリカゲルカラムで精製し、得られたオイル状物質を80℃で1時間減圧乾燥することでスキーム2に示した化合物10を黄色オイル状物質として6.6g得た。
【0096】
(ii)化合物11の合成
スキーム2で示した化合物10(10g、41mmol)のTHF(40ml)溶液にn-BuLi(2.5M、18.2ml)を0℃で加え、当該溶液を30℃に昇温した後1時間撹拌した。
得られた懸濁液にCuCl(4.49g、45.4mmol)を0℃で加え、30℃に昇温した後1時間撹拌した。
この懸濁液に化合物3(13.9g、40.9mmol)のTHF(80ml)溶液を-78℃でゆっくり滴下し、66℃で16時間撹拌することで黄色懸濁液を得た。
懸濁液を濾過してろ液を濃縮し、濃縮残差にジクロロメタン(150ml)とアンモニア水(50ml)を加えて30℃で2時間撹拌した。
得られた溶液に対してジクロロメタン(50ml)で3回抽出操作を行い、得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過して、濃縮することによって粗生成物を得た。
粗生成物をシリカゲルカラムによって精製し(展開溶媒として、石油エーテル: EtOAc:ジクロロメタン=1:0:0-20:1:1-10:1:1)、精製物に石油エーテル:EtOAc=5:1の混合溶液(150ml)を加えて、混合溶液を40mlまで濃縮して析出物を濾過により回収することにより、スキーム2で示した化合物11を白色固体として得た。
【0097】
(iii)B-443の合成
スキーム2で示した化合物11(5.0g、9.2mmol)のジクロロメタン(50ml)溶液にHCl/EtOAc(4M、83ml)を加え、当該溶液を30℃で2.5時間撹拌した。
その後、当該溶液を濃縮し、濃縮残差に脱気したNaHCO3水溶液(60ml)を加えてpHを6.5~7.0に調整した。
得られた生成物をジクロロメタン(60ml)で3回抽出し、生成物を含む溶液から溶媒を減圧留去してB-443を白色固体として4.5g得た。
得られた配位子B-443のNMR帰属値を以下に示す。
[NMR]
1H NMR (CDCl3,δ,ppm):7.46(br,1H)、7.25-7.05(br,5H)、6.92(br,1H)、6.84(be,1H)、6.50(br,4H)、3.57(s,12H)、2.02(s,6H);
31P NMR (CDCl3,δ,ppm):-61.6(s).
【0098】
(合成例3):配位子B-14の合成
配位子B-14は、特開2010-260913に記載された合成例1に従い合成した。
配位子B-14の構造式は以下に示す。
【0099】
【0100】
(合成例4):配位子B-30の合成
配位子B-30は、特開2010-260913に記載された合成例5に従い合成した。
配位子B-30の構造式は以下に示す。
【0101】
【0102】
(合成例5):配位子B-56DMの合成
配位子B-56DMは、特開2010-260913に記載された合成例6に従い合成した。
配位子B-56DMの構造式は以下に示す。
【0103】
【0104】
(合成例6):配位子B-27DMの合成
配位子B-27DMは、国際公開第2010/050256号に記載された合成例4に従い合成した。
配位子B-27DMの構造式は以下に示す。
【0105】
【0106】
(合成例7):配位子B-125の合成
配位子B-125は、特開2013-209350に記載された合成例7に従い合成した。
配位子B-125の構造式は以下に示す。
【0107】
【0108】
3.共重合
(実施例1)
配位子B-423を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-423/Ni(acac)2錯体の合成
以下の操作は、全て窒素雰囲気下で行った。
以下、ニッケルアセチルアセトンをNi(acac)2と記載する。
Ni(acac)2(90.0mg、0.35mmol)をトルエン(30mL)に溶解させて溶液1を得て、当該溶液1を配位子として合成例1で得られたB-423(200mg、0.36mmol)に加えて反応溶液を得た。
反応溶液を室温で10分撹拌後、反応溶液から溶媒を減圧留去して濃赤紫色固体を得た。
この濃赤紫色固体をヘキサン(10mL)で2回洗浄し、濃赤紫色固体を減圧乾燥することで赤紫色固体の反応生成物(金属錯体1)を得た(収量247g、収率99%)。
得られた金属錯体1のNMR帰属値を以下に示す。
[NMR]
1HNMR(C6D6,δ,ppm):7.65(d,1H)、7.25-7.35(m,3H)、7.07(t,2H)、6.97(d,1H)、6.51(t,1H)、6.26(d,4H)、4.83(brs,1H)、3.44(s,12H)、3.14(sept,2H)、1.44(d,6H)、1.29(s,6H)、1.21(d,6H)
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
内容積2Lの誘導撹拌式オートクレーブに、乾燥トルエン(1L)、アクリル酸t-ブチル(23.0ml、158mmol)、及び、トリ-n-オクチルアルミニウム(0.1mmol)を導入し混合物を得た。
混合物を撹拌しながらオートクレーブを110℃に昇温した後、エチレンをオートクレーブに供給し、オートクレーブ内のエチレン分圧が3.0MPaになるように調整した。
調整終了後、上記(i)で得られた反応生成物(金属錯体1:20μmol)をオートクレーブに供給し、エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合を開始させた。
エチレンとアクリル酸t-ブチルを1時間重合させた後、オートクレーブに1,2-ブタンジオールを導入して重合反応を停止させた。
オートクレーブから未反応ガスを除去した後、オートクレーブを開放し、オートクレーブにエタノールを加えて共重合体を沈殿させ、沈殿物を得て、当該沈殿物を濾過して、洗浄して、加熱乾燥することによりエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合体を得た。
重合結果は表4に記載した。
表4において、tBAはアクリル酸t-ブチルを示す。
また、活性(CE)は、重合に用いた金属錯体1molあたり、重合時間1時間あたりの共重合体収量(g)を表す。得られた共重合体に関するGPCおよびDSC測定の結果についても表4に記載した。
【0109】
(実施例2)
配位子B-423を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-423/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例1で得られたB-423(33.1mg、0.060mmol)を50mL2口ナスフラスコに空気雰囲気下で秤量し、窒素置換した。
グローブボックス内でNi(acac)2(28.2mg、0.110mmol)を別の2口ナスフラスコに秤量し、窒素雰囲気下でトルエン(11.0mL)を加えて0.01mol/Lの溶液1とした。
このNi(acac)2の0.01mol/Lトルエン溶液6.0mLを、B-423の入った50mL2口ナスフラスコに窒素雰囲気下で加えて溶液2を得て、当該溶液2を室温で1分撹拌し、金属錯体2を含む反応溶液を得た。
なお、反応溶液は赤紫色に変化した。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体2を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表4に示す。
なお、活性は配位子B-423とNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0110】
(実施例3)
配位子B-423を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-423/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例1で得られたB-423(38.4mg、0.069mmol)を50mL2口ナスフラスコに空気雰囲気下で秤量した。
グローブボックス内でNi(acac)2(23.7mg、0.092mmol)を別の2口ナスフラスコに秤量し、空気雰囲気下でトルエン(6.9mL)を加えて0.01mol/Lの溶液1とした。
このNi(acac)2の0.01mol/Lトルエン溶液6.0mLを、B-423の入った50mL2口ナスフラスコに空気雰囲気下で加えて溶液2を得て、当該溶液2を室温で30分撹拌し、金属錯体3を含む反応溶液を得た。
なお、反応溶液は赤紫色に変化した。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体3を40μmol用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表4に示す。
なお、活性は配位子B-423とNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0111】
(実施例4)
配位子B-443を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-443/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例2で得られたB-443(30.1mg、0.060mmol)を用い、Ni(acac)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子のモル比が1:1になるようにNi(acac)2のトルエン溶液を配位子に添加したこと以外は、実施例2と同様にして金属錯体4の形成を行った。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体4を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表4に示す。
なお、活性は配位子B-443とNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0112】
(比較例1)
配位子423/Ni(cod)2を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-423/Ni(cod)2錯体の形成
以下の操作は、全て窒素雰囲気下で行った。以下、ビス-1,5-シクロオクタジエンニッケル(0)をNi(cod)2と記載する。
Ni(cod)2(53.8mg、0.196mmol)を2口ナスフラスコに秤量し、トルエン(19.6ml)を加えて0.01mol/Lの溶液とした。
このNi(cod)2の0.01mol/Lトルエン溶液8.0mlを、合成例1で得られたB-423(44.9mg、0.0804mmol)の入った2口ナスフラスコに加え、40℃で30分撹拌し、金属錯体Aを含む反応溶液を得た。
反応溶液の色が黄色から橙色に変化した。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
上記(i)で得られた金属錯体Aを含む反応溶液(2.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表4に示す。
なお、活性は配位子B-423とNi(cod)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0113】
(比較例2)
配位子B-443を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-443/Ni(cod)2錯体の形成
配位子として合成例2で得られたB-443(69.6mg、0.253mmol)を用い、Ni(cod)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子のモル比が1:1になるようにNi(cod)2のトルエン溶液を配位子に添加したこと以外は、比較例1と同様にして金属錯体Bの形成を行った。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
上記(i)で得られた金属錯体Bを含む反応溶液(8.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表4に示す。
なお、活性は配位子B-443とNi(cod)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0114】
(比較例3)
配位子として合成例1で得られたB-423(25.1mg、0.044mmol)を50mL2口ナスフラスコに空気雰囲気下で秤量した。
グローブボックス内でNi(cod)2(27.0mg、0.098mmol)を別の2口ナスフラスコに秤量し、空気雰囲気下でトルエン(9.8mL)を加えて0.01mol/Lの溶液とした。なお、この時にNi(cod)2の一部は分解し、ニッケル(0)成分が黒色沈殿として生成した。
このNi(cod)2の0.01mol/Lトルエン溶液4.4mlを、B-423が入ったフラスコに空気雰囲気下で加え、反応させたが、沈殿物が生成し、錯体の分解が観測された。このため、重合評価には至らなかった。
【0115】
【0116】
(実施例5)
配位子B-14を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-14/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例3で得られたB-14(30.0mg、0.066mmol)を用い、Ni(acac)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子B-14のモル比が1:1になるようにNi(acac)2のトルエン溶液を配位子B-14に添加したこと以外は、実施例2と同様にして、金属錯体5を含む反応溶液を得た。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体5を含む反応溶液(2.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-14とNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0117】
(実施例6)
配位子B-30を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-30/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例4で得られたB-30(34.1mg、0.059mmol)を用い、Ni(acac)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子B-30のモル比が1:1になるようにNi(acac)2のトルエン溶液を配位子B-30に添加したこと以外は、実施例2と同様にして、金属錯体6を含む反応溶液を得た。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体6を含む反応溶液(2.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-30とNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0118】
(実施例7)
配位子B-56DMを用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-56DM/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例5で得られたB-56DM(47.3mg、0.101mmol)を用い、Ni(acac)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子B-30のモル比が1:1になるようにNi(acac)2のトルエン溶液を配位子B-30に添加したこと以外は、実施例2と同様にして、金属錯体7を含む反応溶液を得た。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体7を含む反応溶液(2.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-56DMとNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0119】
(実施例8)
配位子B-27DMを用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-27DM/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例6で得られたB-27DM(43.6mg、0.077mmol)を用い、Ni(acac)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子B-27DMのモル比が1:1になるようにNi(acac)2のトルエン溶液を配位子B-27DMに添加したこと以外は、実施例2と同様にして、金属錯体8を含む反応溶液を得た。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体8を含む反応溶液(2.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-27DMとNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0120】
(実施例9)
配位子B-125を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-125/Ni(acac)2錯体の形成
配位子として合成例7で得られたB-125(29.9mg、0.053mmol)を用い、Ni(acac)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子B-125のモル比が1:1になるようにNi(acac)2のトルエン溶液を配位子B-125に添加したこと以外は、実施例2と同様にして、金属錯体9を含む反応溶液を得た。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
金属錯体として上記(i)で得られた金属錯体9を含む反応溶液(2.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-125とNi(acac)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0121】
(比較例4)
配位子B-14を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-14/Ni(cod)2錯体の形成
配位子として合成例3で得られたB-14(92.4mg、0.203mmol)を用い、Ni(cod)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子のモル比が1:1になるようにNi(cod)2のトルエン溶液を配位子に添加したこと以外は、比較例1と同様にして金属錯体Cの形成を行った。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
上記(i)で得られた金属錯体Cを含む反応溶液(4.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-14とNi(cod)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0122】
(比較例5)
配位子B-30を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-30/Ni(cod)2錯体の形成
配位子として合成例4で得られたB-30(72.2mg、0.126mmol)を用い、Ni(cod)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子のモル比が1:1になるようにNi(cod)2のトルエン溶液を配位子に添加したこと以外は、比較例1と同様にして金属錯体Dの形成を行った。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
上記(i)で得られた金属錯体Dを含む反応溶液(4.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-30とNi(cod)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0123】
(比較例6)
配位子B-56DMを用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-56DM/Ni(cod)2錯体の形成
配位子として合成例5で得られたB-56DM(109.3mg、0.232mmol)を用い、Ni(cod)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子のモル比が1:1になるようにNi(cod)2のトルエン溶液を配位子に添加したこと以外は、比較例1と同様にして金属錯体Eの形成を行った。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
上記(i)で得られた金属錯体Eを含む反応溶液(4.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-56DMとNi(cod)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0124】
(比較例7)
配位子B-27DMを用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-27DM/Ni(cod)2錯体の形成
配位子として合成例6で得られたB-27DM(137.1mg、0.243mmol)を用い、Ni(cod)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子のモル比が1:1になるようにNi(cod)2のトルエン溶液を配位子に添加したこと以外は、比較例1と同様にして金属錯体Fの形成を行った。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
上記(i)で得られた金属錯体Fを含む反応溶液(4.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-27DMとNi(cod)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0125】
(比較例8)
配位子B-125を用いるエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合:
(i)B-125/Ni(cod)2錯体の形成
配位子として合成例7で得られたB-125(66.5mg、0.118mmol)を用い、Ni(cod)2のトルエン溶液(0.01mol/L)を調製し、Niと配位子のモル比が1:1になるようにNi(cod)2のトルエン溶液を配位子に添加したこと以外は、比較例1と同様にして金属錯体Gの形成を行った。
(ii)エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合
上記(i)で得られた金属錯体Gを含む反応溶液(4.0ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合を行った。結果を表5に示す。
なお、活性は配位子B-125とNi(cod)2が1対1のモル比で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0126】
実施例5のNi(acac)2を用いた錯体を含むオレフィン重合用触媒と比較例4のNi(cod)2を用いた錯体を含むオレフィン重合用触媒について、比較例4のオレフィン重合用触媒の活性を100%としたときの、比較例4のオレフィン重合用触媒に対する、実施例5のオレフィン重合用触媒の活性を比較した。結果を表5に示す。
同様にして、比較例5に対する実施例6、比較例6に対する実施例7、比較例7に対する実施例8、及び、比較例8に対する実施例9のオレフィン重合用触媒の活性をそれぞれ比較した。結果を表5に示す。
【0127】
【0128】
4.考察
上記表4の比較例1から分かるように、配位子としてB-423と遷移金属化合物としてNi(cod)2とを用いた金属錯体を含むオレフィン重合用触媒を用いたエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合では、重合活性が3.9×105(g/mol)と低い。
これに対し、上記表4の実施例1~2から分かるように、本発明の配位子としてB-423と遷移金属化合物としてNi(acac)2とを用いた金属錯体(実施例1~実施例2)を含むオレフィン重合用触媒を用いたエチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合では、重合活性が5.3×105(g/mol)以上と高い。
また、表4に示すように、配位子としてB-443を用いた実施例4と比較例2を対比した場合も、上記と同様の傾向が確認できた。
さらに、表5に示すように、配位子としてB-14を用いた実施例5と比較例4を対比した場合、配位子としてB-30を用いた実施例6と比較例5を対比した場合、配位子としてB-56DMを用いた実施例7と比較例6を対比した場合、配位子としてB-27DMを用いた実施例8と比較例7を対比した場合、及び、配位子としてB-125を用いた実施例9と比較例8を対比した場合も、上記と同様の傾向が確認できた。
また、実施例3と比較例3を比較した場合、空気雰囲気下で調製したNi(acac)2を用いた金属錯体は実施例1と同程度の重合活性を有しているのに対し(実施例3)、空気雰囲気下で調製したNi(cod)2を用いた金属錯体は不安定で、重合評価には至っていない(比較例3)。したがって、Ni(cod)2を用いた金属錯体は厳密な窒素雰囲気化での調製が必要で、高度な実験技術が要求されるのに対し、Ni(acac)2を用いた金属錯体は空気雰囲気下で調製でき、容易に取り扱うことができる。
さらに、実施例1~3と比較例1の重量平均分子量、分子量分布、結晶化度及び融点は同程度であり、得られる共重合体の品質も維持されていることがわかる。実施例4と比較例2の重量平均分子量、分子量分布、結晶化度及び融点も同程度であることが確認できた。
また、表5に示すように、実施例5と比較例4、実施例6と比較例5、実施例7と比較例6、実施例8と比較例7、及び、実施例9と比較例8の重量平均分子量、分子量分布、結晶化度及び融点もそれぞれ同程度であることが確認できた。
このように、本発明の特定の配位子とニッケル(II)の遷移金属化合物を用いた金属錯体は、当該配位子とニッケル(0)の遷移金属化合物を用いた金属錯体の場合と比較して、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合において高い重合活性を発揮でき、且つ、空気雰囲気下で調製でき取り扱いが容易であることがわかる。
以上より、本発明の金属錯体は、従来よりも高い重合活性で、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合を達成でき、優れた技術的意義を持つことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明により、工業的に容易に、高活性で、(メタ)アクリル酸エステルとα-オレフィンとの共重合体が製造可能となり、且つ、得られた共重合体の分子量も高い。
また、共重合体だけでなく、α-オレフィン重合体においても高い分子量が得られると推定される。
一般にポリマーの物性において分子量は支配的要因の一つであり、分子量を上げることによって、ポリマー鎖間の相互作用が強まるため、本発明で得られた共重合体は、機械的・熱的物性に優れ、有用な成形体として応用可能である。
さらに、本発明においては、希少かつ高価なパラジウムの代わりに、ニッケルを金属中心とした触媒を使用することができる。
このように、本発明は、α-オレフィン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体の新規な製造法を提供するものであり、工業的にきわめて有用である。