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  • 特許-組成物、積層体及び被覆金属製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】組成物、積層体及び被覆金属製品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230814BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230814BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20230814BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230814BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230814BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230814BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230814BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20230814BHJP
   C09D 167/03 20060101ALI20230814BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230814BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L69/00
C08L81/06
C08L101/00
B32B27/20 Z
B32B27/36
B32B15/08 G
B32B15/09 Z
C09D167/03
C09D7/65
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019068737
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164735
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】716001577
【氏名又は名称】オイケム合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山崎 昌男
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 奈穂子
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-234115(JP,A)
【文献】特開2009-221160(JP,A)
【文献】国際公開第2005/019363(WO,A1)
【文献】特開2012-210378(JP,A)
【文献】特開2013-032432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B32B 15/00- 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、該溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、該溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)を含む組成物であって、
前記溶媒は、25℃での前記熱可塑性樹脂(A)の溶解度が5質量%以下であり、25℃での前記熱可塑性樹脂(B)の溶解度が10質量%以上であるものであり、
前記溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子は、ポリブチレンナフタレート及び/又はポリエチレンナフタレートを含み、
前記溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)は、ポリエチレンイソフタレートナフタレート、ポリエーテルスルホン、及び、液晶ポリエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記溶媒が、エステル系溶媒ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、及び、水からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶媒が、ピロリドン系溶媒を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子と、前記溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)の質量比は、1:1~20:1であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の組成物をコーティングして得られることを特徴とする積層体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の組成物をコーティングして得られることを特徴とする被覆金属製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、積層体及び被覆金属製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属表面を腐食等から保護したり、意匠性を優れたものとしたりするためにコーティング層を設けることが広く行われており、コーティング層を設けるために好適な組成物が種々研究開発されている。
【0003】
例えば缶内面用塗料は、缶の内容物の風味やフレイバーを損なわないこと及び多種多様な缶に使用されることを想定して供給されるものであり、近年、その要求特性として、(1)環境ホルモン等の毒性及び環境汚染の懸念が持たれないこと、(2)加熱殺菌(レトルト)処理に耐えること(耐レトルト性)、(3)接着性、硬化性、加工性に優れること等が挙げられる。
【0004】
従来、缶内面塗料用樹脂としては、塩化ビニル系樹脂や、エポキシ-フェノール系樹脂が多く使用されているが、両者ともに上記環境ホルモンの問題が指摘されている(特に塩化ビニル系樹脂の場合は、樹脂中に残存する塩化ビニルモノマーが発ガン性等の重大な衛生性上問題のある物質であることが指摘されている。また、エポキシ-フェノール系樹脂では焼き付け温度が高く、前記したように環境ホルモンの発生が問題となる。)。
【0005】
かかる問題点を解決するために、これらに代わる内面コーティング材料の開発が行われている。更に、缶外面用塗料においても、前述した缶内面用塗料と同様に要求される加工性や耐レトルト性に加え、環境ホルモン対策も必要となりつつある。
【0006】
例えば、焼却時に有毒ガスや腐食性ガスを発生せず、塗膜中にビスフェノールA等の環境ホルモンを含有しないポリエステル系樹脂の缶内面用塗料への適応が試みられているが(例えば、特許文献1)、加工性、硬化性、及び、耐レトルト性を同時に満足する缶用に好適な塗料用組成物は依然として得られていない。
【0007】
また例えば、熱可塑性樹脂等で形成された基材上に、アルミニウム、金、銀、白金等の金属を蒸着してなる金属蒸着層を保護するために、アクリル系樹脂、変性エポキシ樹脂、変性エポキシ・アミノ樹脂等を塗布することが知られている。ここで、金属蒸着基材は、自動車、家電、食品、衣類等に使用される各種の構造物等に広く用いられており、特に、包装材料、太陽電池や有機EL、半導体等の電子デバイスでの使用が増加傾向であり、中でも、アルミニウムを蒸着した金属蒸着基材は、安価であるため、様々な用途に使用されている。
【0008】
しかしながら、金属蒸着層面にこれらの樹脂を保護コート層として塗布しても、耐熱性、耐摩耗性等の要求特性を充分に向上させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-350508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、加工性、硬化性、耐レトルト性又は耐熱性、及び、耐摩耗性という金属用コーティング材料に要求される特性を充分に満足する組成物を得るための工夫の余地があった。
【0011】
本発明は、加工性、硬化性、耐レトルト性又は耐熱性、及び、耐摩耗性を充分に満足する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した加工性、硬化性、耐レトルト性又は耐熱性、及び、耐摩耗性を充分に満足する組成物を得るために種々検討し、溶媒(本明細書中、溶剤とも言う。)、該溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、該溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)を含む組成物を調製した。本発明者は、この組成物をコーティングして得られた塗膜が、上述した要求特性を充分に満たすことを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、溶媒、該溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、該溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)を含むことを特徴とする組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物は、加工性、硬化性、耐レトルト性又は耐熱性、及び、耐摩耗性という金属用コーティング材料に要求される特性を充分に発揮できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】後述する実施例の組成物が塗膜化する際の様子を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0017】
本発明の組成物は、溶媒、該溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、該溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)を含む。
【0018】
(熱可塑性樹脂)
本発明の組成物において、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)、及び、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)として用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンイソフタレートナフタレート(PIN)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、非晶ポリアリレート、液晶ポリエステル等の芳香族ポリエステル樹脂;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンアルカノエート、ポリブチレンアルカノエート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、MXD6ナイロン等のポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィン、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶プラスチック等があげられる。また、熱可塑性樹脂としては、再生PET樹脂等に代表される再生樹脂を用いることもでき、さらに結晶性、非結晶性のどちらであってもよい。ただし、これらに限定されるものではない。
【0019】
熱可塑性樹脂は、本発明の組成物における溶媒中で、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)と、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)とが存在するように、溶媒に対する溶解度を考慮して適宜選択することができる。溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)と、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)とは、同一組成の樹脂から得られるものであってもよいが、それぞれ異なる組成の樹脂から得られるものであることが好ましい。言い換えれば、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)は、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)とはポリマー種が異なることが好ましい。溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)と、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)とが、それぞれ異なる組成の樹脂から得られるものであることにより、物性のバランス、例えば結晶性、非結晶性のバランスを好適に調整することができ、本発明の効果が顕著なものとなる。なお、本発明の組成物において、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)と、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)とが、それぞれ異なる組成の樹脂である場合に、例えば、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子と同一組成の樹脂の一部が溶媒に溶解していてもよい。
【0020】
[溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子]
本発明の組成物において、上記溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子は、ポリブチレンナフタレート及び/又はポリエチレンナフタレートを含むことが好ましい。
【0021】
上記ポリブチレンナフタレートは、下記式(1)で表される構成単位(繰り返し単位)を少なくとも一部にもつものであればよいが、当該構成単位から実質的に構成されるものであることが好ましい。なお、該ポリブチレンナフタレートの末端基は、水酸基、カルボキシル基が好適なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
【化1】
【0023】
上記ポリエチレンナフタレートは、下記式(2)で表される構成単位(繰り返し単位)を少なくとも一部にもつものであればよいが、当該構成単位から実質的に構成されるものであることが好ましい。なお、該ポリエチレンナフタレートの末端基は、水酸基、カルボキシル基が好適なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
【化2】
【0025】
本発明の組成物において、本発明に係る溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)は、25℃での溶媒への溶解度が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、実質的に溶媒に溶解しないことが特に好ましい。
【0026】
本発明に係る溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子の数平均粒子径は10nm~1000μmであることが好ましく、より好ましくは100nm~500μmであり、更に好ましくは0.5~30μmであり、特に好ましくは1~10μmである。数平均粒子径が1000μmをこえると、塗膜の膜厚が大きくなる、又は、薄膜にした場合に、連続膜にならない等の問題が生じる傾向がある。また、数平均粒子径が10nmより小さい場合は、得られた懸濁液の粘度が高くなり、分離操作が困難になる傾向がある。
本明細書中、数平均粒子径は、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子をメタノールで希釈したものを、スピンコーターを用いてPETフィルムに塗布し、乾燥して得られた塗膜を、走査型電子顕微鏡(SU1510、日立ハイテクノロジーズ社製)又は光学顕微鏡(VHX-2000、キーエンス社製)にて測定するものである。
【0027】
溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子は、例えば、一旦熱可塑性樹脂(A)を高温で溶媒中に溶解させた後、冷却することで得ることができる。
上記熱可塑性樹脂(A)を溶解する際の溶媒の温度は、70~200℃であることが好ましい。熱可塑性樹脂(A)が、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートである場合は、130~190℃であることがより好ましく、140~185℃であることがさらに好ましい。溶媒の温度が70℃未満であると、熱可塑性樹脂(A)が溶解し難い傾向にあり、200℃をこえると熱可塑性樹脂(A)あるいは溶媒の分解が起こり黄色に変色する傾向がある。
【0028】
上記熱可塑性樹脂(A)を溶媒中に溶解するために、超音波、攪拌機等を用いてもよい。攪拌機としては、たとえば、ホモジナイザー、ホモミキサー、ロールミル、ビーズミル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0029】
上記熱可塑性樹脂(A)を溶媒中に溶解させる際に、熱可塑性樹脂(A)の配合量は、溶液中1~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましい。配合量が1質量%未満であると、生産性の点で問題がある。また、30質量%を超えると、熱可塑性樹脂(A)が溶解し難い傾向がある。
【0030】
上記熱可塑性樹脂(A)の溶液の冷却手段としては、特に限定されず、室温に放置してもよいし、熱交換器等の冷却装置を用いてもよい。なお、熱交換器による冷却方法としては、熱可塑性樹脂(A)の溶液そのものを、熱交換器を使用して冷却してもよく、熱交換器を使用して20~-90℃に冷却された溶媒と該熱可塑性樹脂(A)の溶液を混合することで冷却してもよい。
【0031】
[溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)]
本発明の組成物において、上記溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)は、ポリエチレンイソフタレートナフタレート、ポリエーテルスルホン、液晶ポリエステル、及び、ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0032】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートは、ナフタレンジカルボン酸成分(ナフタレンジカルボン酸由来の構成単位)と、イソフタル酸成分(イソフタル酸由来の構成単位)とを少なくとも一部にもつものであればよい。
【0033】
ナフタレンジカルボン酸としては、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。これらの中から、1種又は2種以上を選択して使用できる。好ましくは2,6-ナフタレンジカルボン酸(NDC)である。
【0034】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートは、下記式(3)で表される構成単位(繰り返し単位)を少なくとも一部にもつものであることが好ましく、当該構成単位から実質的に構成されるものであることがより好ましい。該ポリエチレンイソフタレートナフタレートの末端基は、水酸基、カルボキシル基が好適なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
【化3】
【0036】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおけるイソフタル酸成分(イソフタル酸由来の構成単位)の含有量は、全酸成分(全酸成分由来の構成単位)を100モル%としたとき、10モル%を超えることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましく、30モル%以上であることが一層好ましく、40モル%以上であることが特に好ましい。また、該イソフタル酸由来の構成単位の含有量は、90モル%以下であることが好ましく、85モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましく、70モル%以下であることが一層好ましく、60モル%以下であることが特に好ましい。
【0037】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおけるナフタレンジカルボン酸成分(ナフタレンジカルボン酸由来の構成単位)の含有量は、全酸成分由来の構成単位を100モル%としたとき、10モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましく、30モル%以上であることが一層好ましく、40モル%以上であることが特に好ましい。また、該ナフタレンジカルボン酸由来の構成単位の含有量は、90モル%未満であることが好ましく、85モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましく、70モル%以下であることが一層好ましく、60モル%以下であることが特に好ましい。
【0038】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおけるイソフタル酸成分とナフタレンジカルボン酸成分(イソフタル酸由来の構成単位とナフタレンジカルボン酸由来の構成単位)の合計の含有量は、全酸成分由来の構成単位を100モル%としたとき、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましく、80モル%以上であることが一層好ましく、90モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
【0039】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおけるイソフタル酸由来の構成単位とナフタレンジカルボン酸由来の構成単位との比率(モル比率)は、10/90~90/10であることが好ましく、15/85~85/15であることがより好ましく、20/80~80/20であることが更に好ましく、30/70~70/30であることが一層好ましく、40/60~60/40であることが特に好ましい。
【0040】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおけるエチレングリコール成分(エチレングリコール由来の構成単位)の含有量は、全グリコール成分(全グリコール由来の構成単位)を100モル%としたとき、30モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0041】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおける数平均分子量(Mn)は、800以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、2000以上であることが更に好ましい。また、該数平均分子量(Mn)は、40000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましく、20000以下であることが更に好ましい。
上記数平均分子量の測定方法は、実施例で記載する通りである。
【0042】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおける酸価と水酸基価の合計量は、40eq/t以上であることが好ましく、50eq/t以上であることがより好ましく、65eq/t以上であることが更に好ましく、100eq/t以上であることが特に好ましい。また、該酸価と水酸基価の合計量は、4000eq/t以下であることが好ましく、2500eq/t以下であることがより好ましく、2000eq/t以下であることが更に好ましく、1000eq/t以下であることが特に好ましい。
上記酸価及び水酸基価の測定方法は、実施例で記載する通りである。
【0043】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートは、ポリエステルの公知の重縮合方法により製造することができる。例えば、酸成分とグリコール成分をエステル化させてオリゴマーを得て、これを更に減圧下、高温で溶融重縮合させる直接重合法、酸成分の炭素数1~2の低級アルキルエステル体とグリコール成分をエステル交換させてオリゴマーを得て、これを更に減圧下、高温で溶融重縮合させるエステル交換法などを挙げることができる。
【0044】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートは、前述のイソフタル酸成分とナフタレンジカルボン酸成分の含有量を超えない範囲で、イソフタル酸成分とナフタレンジカルボン酸成分以外の2価以上の酸成分Zと、前述のエチレングリコール成分の含有量を超えない範囲で、エチレングリコ―ル成分以外の2価以上のグリコール成分Yからなる1種又は数種のモノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。
【0045】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートを製造するための重縮合を行う場合、重合触媒を用いても良い。重合触媒としては、例えば、チタン化合物(テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルアセトネート等)、アンチモン化合物(トリブトキシアンチモン、三酸化アンチモン等)、ゲルマニウム化合物(テトラ-n-ブトキシゲルマニウム、酸化ゲルマニウム等)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛等)、アルミニウム化合物(酢酸アルミニウム、アルミニウムアセチルアセテート等)等を挙げることができる。上記重合触媒は1種又は2種以上使用してもよい。中でも、重合の反応性の面からチタン化合物が好ましい。
【0046】
イソフタル酸成分とナフタレンジカルボン酸成分以外の2価以上の酸成分Zとしては、脂環族多価カルボン酸由来の構成単位、脂肪族多価カルボン酸由来の構成単位、又は、芳香族多価カルボン酸由来の構成単位であることが好ましい。脂環族多価カルボン酸の例としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物等の脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。脂肪族多価カルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。芳香族多価カルボン酸の例としてはテレフタル酸、オルソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。また、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、スルホテレフタル酸、及び/又は、それらの金属塩、アンモニウム塩等のスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中から、1種又は2種以上を選択して使用できる。好ましくは芳香族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸であり、中でも、テレフタル酸、アジピン酸又はセバシン酸がより好ましい。
【0047】
エチレングリコール以外の2価以上のグリコール成分Yとしては、脂肪族グリコ-ル由来の構成単位、脂環族グリコ-ル由来の構成単位、エ-テル結合含有グリコ-ル由来の構成単位又は芳香族含有グリコール由来の構成単位であることが好ましい。脂肪族グリコ-ルの例としては、1,2-プロピレングリコ-ル、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、3-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオ-ル、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジメチロールヘプタン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオ-ル等を挙げることができる。脂環族グリコ-ルの例としては、1,4-シクロヘキサンジオ-ル、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、トリシクロデカンジオ-ル、トリシクロデカンジメチロール、スピログリコ-ル、水素化ビスフェノ-ルA、水素化ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物、及び、プロピレンオキサイド付加物、等を挙げることができる。エ-テル結合含有グリコ-ルの例としては、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ル、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル、ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド付加物又はネオペンチルグリコールプロピレンオキサイド付加物も必要により使用しうる。芳香族含有グリコールの例としては、パラキシレングリコ-ル、メタキシレングリコ-ル、オルトキシレングリコ-ル、1,4-フェニレングリコ-ル、1,4-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノ-ルA、ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物、及び、プロピレンオキサイド付加物等の、ビスフェノ-ル類の2つのフェノ-ル性水酸基にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドをそれぞれ1モル~数モル付加して得られるグリコ-ル類等を例示できる。これらの中から、1種又は2種以上を選択して使用できる。好ましくは脂肪族グリコール又はエーテル結合含有グリコールであり、中でも1,4-ブタンジオールまたはジエチレングリコールがより好ましい。
【0048】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートにおいて、イソフタル酸成分とナフタレンジカルボン酸成分及び/又はエチレングリコ―ル成分に3官能以上の化合物を共重合しても良い。3官能以上の化合物としては、3官能以上のポリカルボン酸、3官能以上のポリオールが挙げられる。3官能以上のポリカルボン酸としては、例えばトリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)等が挙げられ、3官能以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、α-メチルグルコシド等が挙げられる。
【0049】
なお、上述した酸価及び水酸基価は、従来公知の方法で付与することができる。
例えば酸価を付与する方法としては、重合後期に分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物を付加する解重合方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重合し、酸価を有するポリエチレンイソフタレートナフタレートを得る方法等があるが、操作の容易さ、目標とする酸価を得やすいことから前者の解重合方法が好ましい。
【0050】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートに酸価を付与するための分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物のうち、カルボン酸モノ無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフルフリル)-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物等の一無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選び使用できる。その中でも、汎用性、経済性の面から無水トリメリット酸が好ましい。
【0051】
上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートに酸価を付与するための分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物のうち、カルボン酸ポリ無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物などがあり、これらの中から1種又は2種以上を選び使用できる。その中でも、エチレングリコールビストリメリテート二無水物が好ましい。
【0052】
前記の酸価を付与するための分子内にカルボン酸無水物基を有する化合物は、カルボン酸モノ無水物とカルボン酸ポリ無水物をそれぞれ単独で使用することもできるし、併用して使用することもできる。
【0053】
上記ポリエーテルスルホンは、芳香族環とスルホニル結合(-SO2-)とエーテル結合(-O-)とを含む繰り返し単位を有する重合体である。
上記ポリエーテルスルホンは、下記式(4-1)~(4-3)で表される構成単位(繰り返し単位)のいずれかを少なくとも一部にもつものであることが好ましく、当該構成単位から実質的に構成されるものであることがより好ましい。該ポリエーテルスルホンの末端基は、水酸基、カルボキシル基が好適なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
-[C-SO-C-O]- (4-1)
-[C-O-C-SO-C-O]- (4-2)
-[C-C-O-C-SO-C-O]- (4-3)
【0054】
上記液晶ポリエステルは、通常芳香族基を有する構成単位を少なくとも一部にもつポリエステル樹脂であり、例えば、下記一般式(5-1)で表される構成単位を有することが好ましい。また、本発明に係る液晶ポリエステルは、更に、下記一般式(5-2)で表される構成単位及び/又は下記一般式(5-3)で表される構成単位を有していてもよい。該液晶ポリエステルの末端基は、水酸基、カルボキシル基が好適なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
-[O-Ar-CO]- (5-1)
-[O-Ar-O]- (5-2)
-[O-R-O]- (5-3)
【0055】
上記一般式(5-1)中、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6~18のアリール基を表す。アリール基としては、例えばフェニレン基、トリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が好ましいものとして挙げられるが、フェニレン基、ナフチレン基がより好ましい。置換基は、例えば炭素数1~12の炭化水素基が挙げられる。
【0056】
上記一般式(5-2)中、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6~18のアリール基を表す。アリール基としては、例えばビフェニレン基が好ましい。置換基は、例えば炭素数1~12の炭化水素基が挙げられる。
【0057】
上記一般式(5-3)中、Rは、炭素数1~8のアルキレン基を表す。該アルキレン基は、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。
【0058】
本発明に係る液晶ポリエステルは、更に、下記一般式(6-1)で表される構成単位及び/又は下記一般式(6-2)で表される構成単位を有することが好ましい。これにより、樹脂の溶剤への溶解度をより高いものとすることができ、組成物のコーティング時に厚塗りが可能となり、重ね塗りの回数を充分に省略できるため、低コスト化が可能である。
-[NH-Ar-O]- (6-1)
-[NH-Ar-NH]- (6-2)
【0059】
上記一般式(6-1)中、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6~18のアリール基を表す。アリール基としては、例えばフェニレン基、トリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が好ましいものとして挙げられるが、フェニレン基、ナフチレン基がより好ましく、フェニレン基が更に好ましい。置換基は、例えば炭素数1~12の炭化水素基が挙げられる。
【0060】
上記一般式(6-2)中、Arは、置換基を有していてもよい炭素数6~18のアリール基を表す。アリール基としては、例えばフェニレン基が好ましい。置換基は、例えば炭素数1~12の炭化水素基が挙げられる。
【0061】
上記一般式(6-1)で表される構成単位、上記一般式(6-2)で表される構成単位の中でも、上記一般式(6-1)で表される構成単位が好ましい。
【0062】
なお、本発明に係る液晶ポリエステルは、上記一般式(6-1)で表される構成単位、上記一般式(6-2)で表される構成単位以外の、柔軟成分(例えば、窒素原子含有モノマー)由来の構成単位を有していてもよい。これにより、樹脂の溶剤への溶解度をより高いものとすることができる。
【0063】
本発明に係る液晶ポリエステルの市販品としては、例えば、液晶ポリマー(VR300、VR500、いずれも住友化学社製)等が好適なものとして挙げられる。
【0064】
本発明に係るポリカーボネートは、モノマーの構成単位同士の結合部がカーボネート基 (-O-CO-O-)であるものを言い、下記一般式(7)で表される構成単位を有するものであることが好ましい。
-[Ar-C(CH-Ar-O-CO-O]- (7)
【0065】
上記一般式(7)中、Ar及びArは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数6~18のアリール基を表す。アリール基としては、例えばフェニレン基、トリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が好ましいものとして挙げられるが、フェニレン基、ナフチレン基がより好ましく、フェニレン基が更に好ましい。置換基は、例えば炭素数1~12の炭化水素基が挙げられる。
【0066】
本発明に係る上記溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)は、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましい。また、該ガラス転移温度は、130℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることが更に好ましい。
例えば、上記ポリエチレンイソフタレートナフタレートのガラス転移温度が70℃以上、130℃以下であることが好ましい。
上記ガラス転移温度の測定方法は、実施例で記載する通りである。
【0067】
本発明に係る上記溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)は、25℃での溶媒への溶解度が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。
【0068】
本発明の組成物において、上記溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子と、上記溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)の質量比は、1:1~20:1であることが好ましい。
上記質量比は、2:1~15:1であることがより好ましく、5:1~10:1であることが更に好ましい。
【0069】
また本発明に係る熱可塑性樹脂全体の配合量(溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)と、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)として、互いに異なる組成の樹脂を配合する場合は、合計配合量)は、組成物固形分100質量%中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。熱可塑性樹脂全体の配合量が5質量%未満であると、目的とする効果が得られない場合がある。熱可塑性樹脂全体の配合量は、その上限値は特に限定されず、100質量%以下であればよいが、色材等の添加剤を別途配合する場合は、例えば70質量%以下であってもよい。
【0070】
(溶媒)
本発明の組成物における溶媒としては、特に限定されないが、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン、4-ブチロラクトン等のエステル系溶媒、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、及び、コハク酸ジメチル等の二塩基酸エステル系溶媒、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、ビス(2-メトキシエチル)エーテル等のエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒、及び、水、並びに、これらの混合物等があげられるが、これらに限定されるものではない。なかでもエステル系溶媒、エーテル系溶媒、ピロリドン系溶媒が好ましく、ピロリドン系溶媒がより好ましく、N-メチル-2-ピロリドンが更に好ましい。
【0071】
N-メチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒と、粒子を構成する、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の好ましいもの(ポリブチレンナフタレート及び/又はポリエチレンナフタレート)と、溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)の好ましいもの(ポリエチレンイソフタレートナフタレート、ポリエーテルスルホン、液晶ポリエステル、及び、ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種)との組み合わせが特に好ましい。
【0072】
熱可塑性樹脂全体の配合量が、溶液中1~30質量%となるようにすることが好ましく、5~25質量%となるようにすることがより好ましい。配合量が1質量%未満であると、生産性の点で問題がある。また、30質量%を超えると、溶解しなくなる場合がある。
【0073】
本発明の組成物は、溶媒、該溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、該溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)のみからなるものであってもよく、更に、溶媒、該溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、該溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)と、熱可塑性樹脂以外のその他の樹脂及び/又は添加剤との混合物からなるものであってもよい。
【0074】
上記その他の樹脂としては、一般的に塗料に用いられるものであれば特に限定されないが、例えばフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらは本来の趣旨に反するが本発明の効果を妨げるものではない。
【0075】
上記その他の樹脂を使用する場合、その他の樹脂の配合割合は、適宜設定すれば良いが、上記溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、上記溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)と上記その他の樹脂との合計量100質量%に対して、その他の樹脂の配合割合が、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。本発明の組成物がその他の樹脂を実質的に含有しないことが更に好ましい。
【0076】
本発明の組成物を金属材料に塗装する場合、基本的には上記樹脂の粒子を含む懸濁塗料として塗装する。
【0077】
本発明の組成物は、更に硬化剤を含有しても良い。
硬化剤は、上述した熱可塑性樹脂のいずれかと反応し架橋構造を形成するものが好ましく、例えば、フェノール樹脂、オキサゾリン樹脂、多価エポキシ化合物等のエポキシ化合物、尿素系、メラミン系、ベンゾグアナミン系等のアミノ樹脂、イソシアネート化合物、カルボジイミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アクリルアミド系架橋剤、ポリアミド系樹脂、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤等を挙げることができる。また多価金属塩も硬化剤として使用することができる。
【0078】
これらの硬化剤を使用する場合、その含有量は溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)100質量部に対し、5~50質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。硬化剤の配合量が5質量部を下回ると硬化性が不足する傾向にあり、50質量部を超えると塗膜が硬くなりすぎる傾向にある。
【0079】
本発明に使用する硬化剤として適切な多価エポキシ化合物としては、ノボラック型多価エポキシ樹脂、ビスフェノール型多価エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型多価エポキシ樹脂、アミノ基含有多価エポキシ樹脂、共重合型多価エポキシ樹脂等を挙げることができる。ノボラック型多価エポキシ樹脂の例としては、フェノール、クレゾール、アルキルフェノール等のフェノール類とホルムアルデヒドとを酸性触媒下で反応させて得られるノボラック類に、エピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものを挙げることができる。ビスフェノール型多価エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類にエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものや、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと前記ビスフェノール類の縮合物にエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものを挙げることができる。トリスフェノールメタン型多価エポキシ樹脂の例としては、トリスフェノールメタン、トリスクレゾールメタン等とエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるものを挙げることができる。アミノ基含有多価エポキシ樹脂の例としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等のグリシジルアミン系の多価エポキシ樹脂を挙げることができる。共重合型多価エポキシ樹脂の例としては、グリシジルメタクリレートとスチレンの共重合体、グリシジルメタクリレートとスチレンとメチルメタクリレートの共重合体、あるいは、グリシジルメタクリレートとシクロヘキシルマレイミド等との共重合体等を挙げることができる。
【0080】
本発明に使用する多価エポキシ化合物の硬化反応に、硬化触媒を使用することができる。例えば2-メチルイミダゾールや1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールや2-フェニル-4-メチルイミダゾールや1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物やトリエチルアミン、トリエチレンジアミンやN’-メチル-N-(2-ジメチルアミノエチル)ピペラジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7や1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5や6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等の3級アミン類及びこれらの3級アミン類をフェノールやオクチル酸や4級化テトラフェニルボレート塩等でアミン塩にした化合物、トリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネートやジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモナート等のカチオン触媒、トリフェニルフォスフィン等が挙げられる。これらのうち、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7や1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5や6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等の3級アミン類及びこれらの3級アミン類をフェノールやオクチル酸等や4級化テトラフェニルボレート塩でアミン塩にした化合物が熱硬化性及び耐熱性、金属への接着性、配合後の保存安定性の点で好ましい。
【0081】
本発明に使用する硬化剤として適切なフェノール樹脂としては、例えばアルキル化フェノール類及び/又はクレゾール類とホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基でアルキル化されたアルキル化フェノール、p-tert-アミルフェノール、4、4’-sec-ブチリデンフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-シクロヘキシルフェノール、4,4’-イソプロピリデンフェノール、p-ノニルフェノール、p-オクチルフェノール、3-ペンタデシルフェノール、フェノール、フェニルo-クレゾール、p-フェニルフェノール、キシレノール等とホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。
【0082】
本発明に使用する硬化剤として適切なアミノ樹脂としては、例えば尿素、メラミン、ベンゾグアナミン等のホルムアルデヒド付加物、更にこれらの化合物を炭素原子数が1~6のアルコールによりアルコキシ化したアルキルエーテル化合物を挙げることができる。具体的には、メトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロール-N,N-エチレン尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミン等が挙げられる。好ましくはメトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールメラミン及びメチロール化ベンゾグアナミンであり、それぞれ単独又は併用して使用することができる。
【0083】
本発明に使用する硬化剤として適切な多価イソシアネート化合物としては、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。低分子化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族多価イソシアネート化合物、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族多価イソシアネートを挙げることができる。また、これらの多価イソシアネート化合物の3量体等を挙げることができる。また高分子化合物としては、複数の活性水素を有する化合物と前記低分子ポリイソシアネート化合物の過剰量とを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物を挙げることができる。複数の活性水素を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の多価アミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の水酸基とアミノ基を有する化合物、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類等の活性水素含有ポリマーを挙げることができる。
【0084】
前記多価イソシアネート化合物は、ブロック化イソシアネートであってもよい。ブロック化イソシアネートは上記イソシアネート化合物とイソシアネートブロック化剤とを従来公知の方法より適宜付加反応させて得られる。イソシアネートブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノール等のフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレンクロルヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール等のハロゲン置換アルコール類、t-ブタノール、t-ペンタノール等の第3級アルコール類、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピルラクタム等のラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステル等の活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、尿素類、ジアリール化合物類、重亜硫酸ソーダなども挙げられる。
【0085】
本発明に使用する硬化剤として適切な多価オキサゾリン化合物は、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作製できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン、等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0086】
本発明の組成物は、更に触媒を含有しても良い。触媒を含有することで、硬化膜の性能を向上させることができる。触媒としては、硬化剤がフェノール樹脂、アミノ樹脂の場合、例えば硫酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸及びこれらをアミンブロック(アミンを添加し一部中和している)したもの等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を使用することができる。ポリエチレンイソフタレートナフタレートとの相容性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸及びこの中和物が好ましい。硬化剤がイソシアネート化合物の場合、触媒としては、例えばオクチル酸第一錫、ジブチル錫ジラウリレート等の有機スズ化合物、トリエチルアミン等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を使用することができる。
【0087】
本発明の組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で塗布層に他の機能性を付与するために、各種の添加剤を含有させても構わない。前記添加剤としては、例えば、酸化チタン、シリカ、アルミナ等の公知の無機もしくは有機の粒子、顔料、染料、帯電防止剤、レベリング剤、蛍光染料、蛍光増白剤、可塑剤、分散剤、紫外線吸収剤、顔料分散剤、沈降防止剤、抑泡剤、消泡剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、つや消し剤、増粘剤、防カビ剤、防腐剤、導電剤、消泡剤、表面平滑剤、潤滑剤又は難燃剤等が挙げられる。更にポリエチレンイソフタレートナフタレート以外の樹脂、例えばポリエチレンイソフタレートナフタレート以外のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エチレン-重合性不飽和カルボン酸共重合体、及び、エチレン-重合性カルボン酸共重合体アイオノマー等を適宜配合することができる。
【0088】
本発明の組成物又は本発明の組成物を用いて得られる塗布層中に含有させることのできる粒子としては、シリカ、カオリナイト、タルク、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、等の無機粒子、アクリル又はメタアクリル系、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ナイロン、スチレン/アクリル系、スチレン/ブタジエン系、ポリスチレン/アクリル系、ポリスチレン/イソプレン系、ポリスチレン/イソプレン系、メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート系、メラミン系、ポリカーボネート系、尿素系、エポキシ系、ウレタン系、フェノール系、ジアリルフタレート系、ポリエステル系等の有機粒子が挙げられる。
【0089】
本発明の組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で金属化合物等を含有させても構わない。金属化合物を構成する金属としては、特に限定されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1価の金属や、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、銅、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等の2価以上の金属が挙げられる。金属化合物は、上記金属を含有する化合物であり、化合物としては、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物や、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、硫酸塩等の無機塩や、酢酸塩、ギ酸塩、ステアリン酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩等のカルボン酸塩や、スルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、酸化物、炭酸塩であることが好ましい。また、金属化合物として金属単体を用いてもよい。
【0090】
本発明の組成物は、コーティング材料として好適に用いることができるものである。また、フィルム;ガラス;アルミ缶、スチール缶、ブリキ缶等の金属缶;普通鋼板、めっき鋼板、潤滑鋼板等の鋼板;金属蒸着層等の金属又は金属上のプライマー層を被覆するのに好適な被膜を形成することができるものである。
【0091】
本発明の組成物をコーティングして塗膜(被膜)を形成する場合の該組成物の塗布量は、該組成物の乾燥後の質量が、0.1~50g/mであることが好ましく、より好ましくは1~50g/mであり、さらに好ましくは3~20g/mであり、特に好ましくは3~10g/mである。
【0092】
本発明の組成物からの塗膜の形成は、本発明の組成物をコーティング(塗布又は塗装とも言う。)した後に、加熱により溶媒を蒸発させ、その後粒子を溶融させることで好適に行うことができる。これにより、ピンホールがなく、均一な塗膜が形成される。
【0093】
本発明の組成物をコーティングする際の加熱温度は100~300℃が好ましく、150~290℃がより好ましく、200~280℃がさらに好ましい。100℃を下回ると、溶媒の蒸発不足や樹脂の軟化・溶融不足、結晶化不足により充分な耐久性を有する被膜が形成されないおそれがある。300℃を上回ると、樹脂の着色等の樹脂物性劣化を引き起こすおそれがある。
【0094】
また加熱時間は、1~60分が好ましく、1.5~30分がより好ましく、2~20分がさらに好ましい。1分を下回ると、溶媒の蒸発不足や樹脂の軟化・溶融不足、結晶化不足により充分な耐久性を有する被膜が形成されないおそれがある。60分を上回ると、樹脂の着色等の樹脂物性劣化を引き起こすおそれがある。
【0095】
本発明に係る塗膜の平均厚みは、仕上がり品を所定の寸法に収める観点から、35μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
上記平均厚みは、その下限値は特に限定されないが、通常は1μm以上である。
【0096】
(積層体)
本発明は、本発明の組成物をコーティングして得られることを特徴とする積層体でもある。
本発明の積層体は、例えば、フィルム、ガラス等の基材に対して本発明の組成物をコーティングして得ることができる。コーティングには、スプレーコート法、ハケ塗り法、ヘラ塗り法、ロールコーター、スピンコーター、バーコーター等を用いて塗布する方法、浸漬塗装法、電着塗装法、静電塗装法等の方法を適宜用いることができる。
本発明の積層体は、例えば、フィルム、ガラス等の、金属基材以外の基材と、本発明の組成物をコーティングして得られる被膜とが積層したものである。
【0097】
(被覆金属製品)
本発明は、本発明の組成物をコーティングして得られることを特徴とする被覆金属製品でもある。
本発明の被覆金属製品は、例えば、アルミ缶、スチール缶、ブリキ缶等の金属缶;普通鋼板、めっき鋼板、潤滑鋼板等の鋼板;金属蒸着層等の金属又は金属上のプライマー層に対して本発明の組成物をコーティングして得ることができる。コーティングには、上述したのと同様に、スプレーコート法、ハケ塗り法、ヘラ塗り法、ロールコーター、スピンコーター、バーコーター等を用いて塗布する方法、浸漬塗装法、電着塗装法、静電塗装法等の方法を適宜用いることができる。
【0098】
本発明の被覆金属製品に含まれる金属としては、特に限定されないが、例えばステンレス鋼、ニッケル-チタン合金、チタン、チタン合金、コバルト-クロム合金、ニッケル-クロム合金、金合金、白金加金、金銀パラジウム合金、銀合金等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0099】
本発明の被覆金属製品としては、例えば、アルミ缶、スチール缶、ブリキ缶等の金属缶;普通鋼板、めっき鋼板、潤滑鋼板等の鋼板;金属蒸着層を有する自動車、家電等が挙げられる。
【0100】
本発明の積層体及び被覆金属製品において樹脂の基材への密着性をより向上するため、材料の表面にプライマー層を更に設けてもよい。プライマー層を形成するための組成物には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、シリコーン樹脂等を使用することができる。また、ラクトン環を有する化合物、オキサドリン環を有する化合物、シランカップリング剤等を更に添加してもよい。
【0101】
なお、本発明の積層体及び被覆金属製品における塗膜被覆部分は、製品の全体にわたるものであってもよく、その一部のみであってもよい。
【0102】
(ポリエチレンイソフタレートナフタレート)
本発明はまた、イソフタル酸由来の構成単位の含有量が、全酸成分由来の構成単位を100モル%としたとき、10モル%を超え、90モル%以下であることを特徴とするポリエチレンイソフタレートナフタレートでもある。該イソフタル酸由来の構成単位の含有量は、例えば30モル%以上、70モル%以下であることが好ましい。
本発明のポリエチレンイソフタレートナフタレートは、流動性があるため、当該ポリエチレンイソフタレートナフタレートを含む組成物(特に、樹脂の粒子を含む懸濁塗料)を用いてコーティング層を形成する際に、溶剤が抜けやすくなり、コーティング層を好適に形成することができる。
本発明のポリエチレンイソフタレートナフタレートは、例えば、ガラス転移温度が70℃以上、130℃以下であることが好ましい。
【0103】
なお、図1は、後述する実施例の組成物を塗膜化する際の様子を示す概念図である。塗料を塗布し、加熱処理を行った際には、ポリエチレンイソフタレートナフタレート(PIN-OH、PIN-COOH)に流動性があるため、溶剤が抜けやすくなる。また、ポリエチレンナフタレートの粒子(PEN微粒子)も、細密配列が可能となる。その結果、後述するように、加工性、硬化性、耐レトルト性や耐熱性、及び、耐摩耗性を充分に発揮することができる。なお、PIN-OHは、末端が水酸基であるポリエチレンイソフタレートナフタレート樹脂を意味し、PIN-COOHは、末端がカルボキシル基であるポリエチレンイソフタレートナフタレート樹脂を意味する。
【実施例
【0104】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得るものである。
【0105】
<数平均分子量>
ポリエチレングリコールイソフタレートナフタレート(以下、PINという)樹脂試料を、樹脂濃度が0.5質量%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により数平均分子量を測定した。流速は0.6mL/分、カラム温度は40℃とした。カラムにはTOSOH製 TSKgel SuperHM-H 2本、TSKgel SuperH2000を用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0106】
<酸価>
PIN樹脂試料0.8gを20mlのN,N-ジメチルホルミアミドに溶解し、フェノールフタレインを指示薬存在下、0.1Nのナトリウムメトキシドのメタノール溶液で滴定し、溶液が赤色に着色した点を中和点とし、PIN樹脂10gあたりの当量(eq/10g)に換算して表示した。
【0107】
<水酸基価>
PIN樹脂試料0.5gを10mlの0.5Nの無水酢酸のピリジン溶液に溶解後、純水10mLを添加し、フェノールフタレインを指示薬存在下、0.2Nの水酸化ナトリウムの水:メタノール=1:19混合溶液で滴定し、溶液が赤色に着色した点を中和点とし、PIN樹脂10gあたりの当量(eq/10g)に換算して表示した。
【0108】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)により測定した。PIN樹脂試料5mgをアルミニウム製の抑え蓋型容器に入れて密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却し、次いで150℃まで20℃/分にて昇温させた。この過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。
【0109】
<PIN樹脂組成>
PIN樹脂試料を、重クロロホルムまたは重ジメチルスルホキシドに溶解し、VARIAN社製 NMR装置400-NMRを用いて、H-NMR分析を行った。その積分比より、モル比を求めた。
【0110】
(合成例1)
PIN樹脂No.1の製造
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにイソフタル酸50部、ナフタレンジカルボン酸161部、テレフタル酸85部、エチレングリコール205部を仕込み、窒素雰囲気2気圧加圧下、160℃から230℃まで3時間かけてエステル化反応を行った。放圧後テトラブチルチタネート0.01部を仕込み、次いで系内を徐々に減圧していき、30分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。その後、無水トリメリット酸5.8部を仕込み、210℃で2時間攪拌した後、内容物を取り出し冷却した。得られたPIN樹脂No.1の組成、数平均分子量等の特性を表1に示した。
【0111】
(合成例2~5)
PIN樹脂No.2~No.5の製造
表1に示すように仕込み原料およびその比率を変更した以外はPIN樹脂No.1と同様にして、PIN樹脂No.2~No.5を合成し、PIN樹脂No.1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0112】
【表1】
【0113】
合成例5で合成したPIN樹脂No.5は、比較例3で後述するように溶剤に溶解しなかったため、本実施例では本発明に係る「溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)」には該当しない。
【0114】
(合成例6)(熱可塑性樹脂(A)の溶解、析出)
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた2Lフラスコに溶剤N-メチルピロリドン935gを仕込んだ。室温にて撹拌しながらポリエチレンナフタレート樹脂(帝人製TN8065S)165gを少しづつ添加し分散後、液温を190℃まで上昇させて溶解させた。これを徐冷すると、数平均粒子径2~3μmの樹脂粒子が析出した。固形分15%の、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)(ポリエチレンナフタレート樹脂)を得た。
【0115】
(実施例1)
温度計、攪拌機、還流冷却器を取り付けた200mLフラスコに溶剤N-メチルピロリドン80gを仕込み、室温にて撹拌しながら合成したPIN樹脂No.1 20gを少しずつ添加し分散させ、190℃で1時間撹拌した後、内容物を取り出し冷却し、固形分20%のPIN樹脂溶液を製造した。得られた溶液を、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)、および硬化剤等と配合し、硬化性、加工性、耐レトルト性及び耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
【0116】
(実施例2~6)
表2に示すように仕込み原料及びその比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PIN樹脂溶液を製造した。得られた溶液は、実施例1と同様に、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)、および硬化剤等を配合し、硬化性、加工性、耐レトルト性及び耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。いずれも高い溶解性を示し、また配合組成物は結晶性と非晶性のバランスを好適に調整することができ、高い硬化性、加工性、耐レトルト性および耐摩耗性を示した。
【0117】
(比較例1、2)
表2に示すように仕込み原料及びその比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PIN樹脂溶液の製造を試み、PIN樹脂溶液が得られたものについてはさらに、実施例1と同様に、溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)、および硬化剤等を配合し、硬化性、加工性、耐レトルト性及び耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
【0118】
(評価)
<試験片の作製>
ブリキ板(JIS G 3303(2008) SPTE、70mm×150mm×0.3mm)の片面にバーコーターで缶塗料用組成物を乾燥後の膜厚が10±2μmになるように塗装し、焼付条件200℃(PMT:基材到達最高温度)×10分間として硬化焼き付けを行い、これを試験片とした(以下、試験片という)。
【0119】
<硬化性の評価>
試験片の硬化膜面に、メチルエチルケトンを浸したガーゼフェルトを1cm接触するように押し当て、500gの荷重をかけてラビング試験を行った。硬化膜が剥がれるまでの回数(1往復で1回とする)を、以下の基準で評価した。
(判定)
◎:50回以上でも塗膜が剥がれず、硬化膜に変化がみられなかった
○:25~49回で硬化膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
△:16~24回で硬化膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
×:15回以下で硬化膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
【0120】
<加工性の評価>
得られた試験片を、硬化膜が外側となる方向に180°折り曲げ加工を施し、折り曲げ部に発生する硬化膜の割れについて、通電値を測定することにより評価した。アルミ板製の電極(幅20mm、奥行き50mm、厚さ0.5mm)の上に1%NaCl水溶液に浸したスポンジ(幅20mm、奥行き50mm、厚さ10mm)を載せたものを用意し、スポンジの20mmの辺と平行になるように試験片の折り曲げ部の中央部付近をスポンジに接触させた。アルミ板電極と試験板の裏面の非塗装部との間に5.0Vの直流電圧をかけ、通電値を測定した。通電値が小さい方が折り曲げ特性が良好であることを意味する。
(判定)
◎:0.5mA未満
○:0.5mA以上1.0mA未満
△:1.0mA以上2.0mA未満
×:2.0mA以上
【0121】
<耐レトルト性の評価>
試験片を立ててステンレスカップに入れ、これにイオン交換水を試験片の半分の高さになるまで注ぎ、これをレトルト試験機(トミー工業(株)製 ES-315)の圧力釜の中に設置し、130℃×60分のレトルト処理を行なった。処理後の評価は一般的に硬化膜に対してより厳しい条件にさらされることになると思われる蒸気接触部分で行い、硬化膜の白化、ブリスターの状態を目視で以下のように判定した。
(判定)
◎:良好(白化、ブリスターともになし)
○:わずかに白化はあるがブリスターはない
△:若干の白化および/または若干のブリスターがある
×:著しい白化および/または著しいブリスターがある
【0122】
<耐摩耗性の評価>
スチールウール摩耗試験を実施した。5×13cmの試験片を作成し、ラビングテスター:I型(太平理化工業(株)製)のヘッドに、スチールウール(#0000)を取り付け、0.98N/cmの荷重をかけて規定回数(5、10、20、50、100回)ラビング(摺動距離50mm、往復速度40往復/分)、金属基材が露出するまでのラビング回数を目視で判定した。
◎:100回以上でも塗膜が剥がれず、硬化膜に変化がみられなかった
○:51~99回で硬化膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
△:21~50回で硬化膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
×:20回以下で硬化膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
【0123】
表2に記載の成分は、具体的には以下の通りである。
ポリエーテルスルホン樹脂:BASF社製、E6010GP、固形分20%
液晶ポリエステル:住友化学株式会社製、VR500、固形分20%
PR-899:Allnex社製、レゾール型フェノール樹脂
Cymel(登録商標)1123:Allnex社製、メチル/エチル化ベンゾグアナミン
エポクロス(登録商標)RPS-1005:日本触媒社製、オキサゾリン基含有反応性ポリスチレン
Nacure(登録商標)5076:King Industries社製、ドデシルベンゼンスルホン酸
【0124】
【表2】
【0125】
(比較例3)
PIN樹脂No.5は、上述した実施例と同様に、溶剤N-メチルピロリドン80gにPIN樹脂No.5 20gを少しずつ添加して190℃で1時間撹拌した後も未分散物が大量に存在し、さらに1時間攪拌を続けたが溶解できなかった。イソフタル酸成分の含有量が少なく、また、ナフタレンジカルボン酸成分の含有量が多いことから、溶剤溶解性が低かったためと推定される。
【0126】
実施例1~6のように、溶媒、該溶媒に溶解していない熱可塑性樹脂(A)の粒子、及び、該溶媒に溶解している熱可塑性樹脂(B)を含む組成物は、加工性、硬化性、耐レトルト性や耐熱性、及び、耐摩耗性を充分に満足するものであった。
一方、比較例1のように、樹脂として溶媒に溶解していない樹脂粒子(A)のみを用いた組成物では、硬化時の溶媒が抜けにくく、硬化性が悪い。また、比較例2のように、樹脂として溶媒に溶解している樹脂(B)のみを用いた場合は、加工性、耐レトルト性や耐摩耗性に劣るものとなる。
図1