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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】温度予測装置および温度予測方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/34 20060101AFI20230814BHJP
   G01K 3/14 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
H05K3/34 507K
G01K3/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019110033
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020201204
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝山 真次
(72)【発明者】
【氏名】福 信二
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-064002(JP,A)
【文献】特開2006-013418(JP,A)
【文献】特開2004-235196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/34
G01K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1被加熱物を加熱する加熱装置内の温度を予測する温度予測装置であって、
前記加熱装置は、前記第1被加熱物が移動する搬送過程の複数の位置の各々と当該位置における空気の温度との関係を示す第1設定温度分布に従って、当該位置に対応する設定温度の空気を前記搬送過程に向かって送風し、
前記温度予測装置は、
制御部と、
前記加熱装置内を移動する前記第1被加熱物の測定部位の測定温度と測定時刻との関係を示す第1測定温度プロファイルが保存される記憶部とを備え、
前記制御部は、
前記測定部位における前記第1被加熱物の温度と前記測定部位の周囲の空気の温度との差、および時間経過に伴う前記測定部位における前記第1被加熱物の温度差の関係を、熱伝達係数を用いて定義する関係式を用いて、特定時刻における前記測定部位の位置の空気の温度と、前記第1設定温度分布において前記特定時刻における前記測定部位の位置に対応する空気の温度との差がなくなるように前記熱伝達係数を決定し、
前記第1測定温度プロファイルおよび前記関係式を用いて、前記搬送過程における空気の温度分布を予測し、
前記測定部位の位置の空気の温度は、前記第1測定温度プロファイルから求められる、温度予測装置。
【請求項2】
前記搬送過程における空気の温度分布において、前記特定時刻における前記測定部位の位置の空気の温度は、最大である、請求項1に記載の温度予測装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記搬送過程における空気の温度分布に近づくように前記第1設定温度分布を補正して第2設定温度分布を生成し、
前記第2設定温度分布において前記複数の位置の各々に対応する温度を変化させることによって第3設定温度分布を生成し、
前記第3設定温度分布および前記関係式を用いて、前記測定部位の温度プロファイルを予測する、請求項1または2に記載の温度予測装置。
【請求項4】
前記第2設定温度分布において前記複数の位置の各々に対応する温度と、前記搬送過程における空気の温度分布において当該位置に対応する温度との差の絶対値は、基準値よりも小さい、請求項3に記載の温度予測装置。
【請求項5】
前記加熱装置は、前記第1設定温度分布を実現する複数の加熱機構を備え、
前記複数の加熱機構は、前記搬送過程に沿って配置され、
前記加熱機構は、前記第1被加熱物の搬送方向に沿って複数の加熱区間に分けられ、
前記複数の加熱区間には、前記複数の加熱機構がそれぞれ配置され、
前記温度予測装置は、表示部をさらに備え、
前記制御部は、前記複数の加熱区間において隣接する区間の境界を前記第1被加熱物が通過する時刻を示す直線を、前記測定部位の温度プロファイルに重ねて前記表示部に表示する、請求項1~4のいずれか1項に記載の温度予測装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1設定温度分布および前記第1設定温度分布の補正に用いられた補正値が登録されたデータベースを参照して前記第2設定温度分布を生成し、
前記記憶部には、前記加熱装置内を移動する第2被加熱物の測定部位の測定温度と測定時刻との関係を示す第2測定温度プロファイルがさらに保存され、
前記制御部は、前記第2設定温度分布および前記関係式を用いて前記第2被加熱物の測定部位の第2温度プロファイルを予測し、前記第2温度プロファイルの最高温度と前記第2測定温度プロファイルの最高温度との差がなくなるように前記熱伝達係数を修正する、請求項3または4に記載の温度予測装置。
【請求項7】
前記第1設定温度分布においては、空気の温度が第1温度に設定される第1温度領域、空気の温度が前記第1温度から第2温度に変化する温度遷移領域、空気の温度が前記第2温度に設定される第2温度領域の順に温度領域が設定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の温度予測装置。
【請求項8】
前記制御部は、サンプリングタイム毎に測定された前記測定部位の温度と当該サンプリングタイムとの関係を示す離散温度プロファイルに対して、ローパスフィルタによる平滑化処理を行うことによって前記第1測定温度プロファイルを生成する、請求項1~7のいずれか1項に記載の温度予測装置。
【請求項9】
前記関係式は、前記第1設定温度分布において前記特定時刻における前記測定部位の位置に対応する空気の温度との差がなくなるように決定された前記熱伝達係数を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【請求項10】
被加熱物を加熱する加熱装置内の温度を予測する温度予測方法であって、
前記加熱装置は、前記被加熱物が移動する搬送過程の複数の位置の各々と当該位置における空気の温度との関係を示す第1設定温度分布に従って、当該位置に対応する設定温度の空気を前記搬送過程に向かって送風し、
前記温度予測方法は、
前記加熱装置内を移動する前記被加熱物の測定部位の測定温度と測定時刻との関係を示す第1測定温度プロファイルを生成するステップと、
前記測定部位における前記被加熱物の温度と前記測定部位の周囲の空気の温度との差、および時間経過に伴う前記測定部位における前記被加熱物の温度差の関係を、熱伝達係数を用いて定義する関係式を用いて、特定時刻における前記測定部位の位置の空気の温度と、前記第1設定温度分布において前記特定時刻における前記測定部位の位置に対応する空気の温度との差がなくなるように前記熱伝達係数を決定するステップと、
前記第1測定温度プロファイルおよび前記関係式を用いて、前記搬送過程における空気の温度分布を予測するステップとを含み、
前記測定部位の位置の空気の温度は、前記第1測定温度プロファイルから求められる、温度予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置内を移動する被加熱部物の温度を予測する温度予測装置および温度予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱装置内を移動する被加熱部物の温度を予測する温度予測装置および温度予測方法が知られている。たとえば、特許第4226855号公報(特許文献1)には、加熱装置内を移動する基板(被加熱物)の搬送方向において、被加熱物が通過する測定位置における加熱温度と被加熱物の測定温度とを用いて、測定位置毎の加熱特性値を算出する温度予測方法が開示されている。当該温度予測方法においては、測定位置毎の加熱特性値を用いて、加熱装置の加熱条件が変更された場合における被加熱物の温度プロファイルを予測する。当該温度予測方法によれば、予め定められた要求条件に適合した温度プロファイルに従って被加熱物を加熱するための加熱装置の加熱条件を効率的に見出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4226855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱装置の内部においては、熱風循環による被加熱物と空気との間の熱伝達に加えて、たとえば加熱装置の内壁からの輻射熱、被加熱物内の熱伝導など、複数の熱力学現象が重畳的に発生している。加熱装置の内部を厳密にモデル化することは困難であるため、加熱装置内の温度予測においては加熱装置の内部のモデル化をある程度簡略化する必要がある。しかし、簡略化されたモデルによると、加熱装置内の温度予測の精度が低下し得る。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、加熱装置の内部のモデル化を簡略化しながら、加熱装置内の温度予測の精度の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る温度予測装置は、被加熱物を加熱する加熱装置内の温度を予測する。加熱装置は、被加熱物が移動する搬送過程の複数の位置の各々と当該位置における空気の温度との関係を示す第1設定温度分布に従って、当該位置に対応する設定温度の空気を搬送過程に向かって送風する。温度予測装置は、制御部と、記憶部とを備える。記憶部には、加熱装置内を移動する被加熱物の測定部位の測定温度と測定時刻との関係を示す第1測定温度プロファイルが保存される。制御部は、測定部位における被加熱物の温度と測定部位の周囲の空気の温度との差、および時間経過に伴う測定部位における被加熱物の温度差の関係を、熱伝達係数を用いて定義する関係式を用いて、特定時刻における測定部位の位置の空気の温度と、第1設定温度分布において特定時刻における測定部位の位置に対応する空気の温度との差がなくなるように熱伝達係数を決定する。制御部は、第1測定温度プロファイルおよび関係式を用いて、搬送過程における空気の温度分布を予測する。
【0007】
本発明の他の局面に係る温度予測方法は、被加熱物を加熱する加熱装置内の温度を予測する。加熱装置は、被加熱物が移動する搬送過程の複数の位置の各々と当該位置における空気の温度との関係を示す第1設定温度分布に従って、当該位置に対応する設定温度の空気を搬送過程に向かって送風する。温度予測方法は、加熱装置内を移動する被加熱物の測定部位の測定温度と測定時刻との関係を示す第1測定温度プロファイルを生成するステップを含む。温度予測方法は、測定部位における被加熱物の温度と測定部位の周囲の空気の温度との差、および時間経過に伴う測定部位における被加熱物の温度差の関係を、熱伝達係数を用いて定義する関係式を用いて、特定時刻における測定部位の位置の空気の温度と、第1設定温度分布において特定時刻における測定部位の位置に対応する空気の温度との差がなくなるように熱伝達係数を決定するステップを含む。温度予測方法は、第1測定温度プロファイルおよび関係式を用いて、搬送過程における空気の温度分布を予測するステップを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る温度予測装置および温度予測方法は、測定部位における被加熱物の温度と測定部位の周囲の空気の温度との差、および時間経過に伴う測定部位における被加熱物の温度差の関係を、熱伝達係数を用いて定義する関係式を用いて、特定時刻における測定部位の位置の空気の温度と、第1設定温度分布において特定時刻における測定部位の位置に対応する空気の温度との差がなくなるように熱伝達係数を決定するにより、加熱装置の内部のモデル化を簡略化しながら、加熱装置内の温度予測の精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る加熱装置の一例であるリフロー炉および温度予測装置の一例であるリフロー炉の制御装置の外観斜視図である。
図2図1の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3図1のリフロー炉の内部構成を示す図である。
図4図1の制御装置によって行われる温度予測の過程の一例を示すフローチャートである。
図5】データロガーが熱電対を介して図3のプリント回路板に接続されている様子を示す図である。
図6】測定温度プロファイルの平滑化処理を説明するためタイムチャートである。
図7】設定温度分布、平滑化された測定温度プロファイル、および炉内温度分布を併せて示す図である。
図8図7の設定温度分布、炉内温度分布、および補正された設定温度分布を併せて示す図である。
図9】温度予測のシミュ―レーション結果を示す図である。
図10】実施の形態2に係る温度予測装置によって行われる温度予測の過程の一例を示すフローチャートである。
図11】実施の形態2に係る温度予測装置によって行われる温度予測の過程の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰り返さない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る加熱装置の一例であるリフロー炉100および温度予測装置の一例であるリフロー炉100の制御装置30の外観斜視図である。図1において、X軸、Y軸、およびZ軸互いに直交している。後に説明する図3および図5においても同様である。
【0012】
図1に示されるように、リフロー炉100には、入口部110および出口部120が設けられている。リフロー炉100は、トンネル型の搬送過程を有する加熱装置である。入口部110から被加熱物がリフロー炉100内部の搬送コンベアに投入される。リフロー炉100の内部では、搬送コンベアを移動する被加熱物が加熱される。
【0013】
制御装置30は、たとえば、リフロー炉100内の温度、加熱機構の送風量、および搬送コンベアの搬送速度を制御する。被加熱物は、たとえば、ソルダーペーストによって複数の実装部品が配置されたプリント回路板である。ソルダーペーストとは、はんだの粉末にフラックスを加えて、適当な粘度にしたペーストであり、クリームはんだとも呼ばれる。プリント回路板上にはんだ付けされる実装部品としては、たとえば、セラミックコンデンサ等の受動素子部品や、トランジスタ等の能動素子が形成された半導体チップ、あるいはこれらが集積された集積回路などを挙げることができる。
【0014】
図2は、図1の制御装置30の構成を示す機能ブロック図である。図2に示されるように、制御装置30は、処理回路31(制御部)と、メモリ32(記憶部)と、入出力部33と、表示部34とを含む。処理回路31は、ローパスフィルタ310を含む。処理回路31は、専用のハードウェアを含んでもよいし、メモリ32に格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)を含んでもよい。処理回路31が専用のハードウェアを含む場合、たとえば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Applicatmion Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、あるいはこれらを組み合わせたものが処理回路31に該当する。処理回路31がCPUを含む場合、制御装置30の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、CPUは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、あるいはDSP(Digital Signal Processor)とも呼ばれる。
【0015】
ソフトウェアあるいはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ32に格納される。メモリ32には、リフロー炉100内の温度制御、送風制御、および搬送コンベアの駆動速度制御を行うための制御ソフトウェアのプログラムおよび温度予測ソフトウェアのプログラムが記憶されている。処理回路31は、メモリ32に記憶されたプログラムを実行する。メモリ32には、不揮発性または揮発性の半導体メモリ(たとえばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、あるいはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory))、および磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)が含まれる。
【0016】
図3は、図1のリフロー炉100の内部構成を示す図である。図3に示されるように、リフロー炉100は、搬送コンベア2と、加熱機構41~47,51~57と、温度センサSa1~Sa7,Sb1~Sb7と、冷却機構61,62とを含む。
【0017】
加熱機構41~47および冷却機構61は、入口部110から出口部120に向かってこの順に間隔を開けて並べられている。加熱機構51~57および冷却機構62は、入口部110から出口部120に向かってこの順に間隔を開けて並べられている。加熱機構41~47は、加熱機構51~57とZ軸方向においてそれぞれ対向している。冷却機構61および62は、Z軸方向において対向している。
【0018】
搬送コンベア2は、加熱機構41~47と加熱機構51~57との間において、入口部110から出口部120に延在する搬送過程に沿って配置されている。搬送コンベア2の搬送方向は、矢印3によって示される方向である。加熱機構41~47,51~57の各々は、制御装置30によって設定された温度まで空気を加熱し、搬送コンベア2に向かって当該空気を送風する。冷却機構61,62の各々は、制御装置30によって設定された温度まで空気を冷却し、搬送コンベア2に向かって当該空気を送風する。加熱機構41~47,51~57から送風される空気の温度は、温度センサSa1~Sa7,Sb1~Sb7によってそれぞれ測定され、制御装置30に出力される。
【0019】
制御装置30は、加熱機構41~47,51~57が送風する空気の温度(設定温度)および単位時間当たりの送風量を制御する。制御装置30は、搬送コンベア2の搬送速度を制御する。制御装置30は、Z軸方向に対向する2つの加熱機構の設定温度を同じ温度に設定する。制御装置30は、冷却機構61,62の設定温度を同じ温度に設定する。
【0020】
リフロー炉100の内部は、搬送コンベア2に沿って複数の区間Sc1~Sc9に分けられる。区間Sc1は、入口部110に投入されたプリント回路板1(第1被加熱物)が最初に通過する区間である。区間Sc1~Sc8(複数の加熱区間)には、加熱機構41~47がそれぞれ配置されているとともに加熱機構51~57がそれぞれ配置されている。区間Sc9には、冷却機構61,62が配置されている。
【0021】
プリント回路板1は、搬送コンベア2の搬送速度で入口部110から出口部120まで移動する。プリント回路板1は、搬送過程において加熱されることによってはんだ付けされる。はんだ付けの対象箇所においては、はんだの溶融温度以上に昇温される必要がある。また、回路を構成する実装部品には許容される耐熱温度がある。そのため、実装部品の耐熱温度を超えて昇温された場合には、実装部品に不具合が生じる恐れがある。すなわち、リフロー炉100内の温度は、はんだの融解温度以上かつ耐熱温度以下という条件を満たす必要がある。
【0022】
たとえば、はんだの溶融温度が217℃であり、実装部品の耐熱温度が240℃である場合、プリント回路板1の全体が230℃に均一に昇温されれば、当該条件は満たされる。しかし、プリント回路板1上には様々な材料で構成された実装部品が不均一に配置されているため、昇温し易い箇所と昇温し難い箇所とで温度の上昇率が異なる。実際の製造工程において当該条件が満たされるように、リフロー炉100内の搬送過程におけるプリント回路板1の温度を予め高精度に予測することが求められる。
【0023】
リフロー炉100の内部においては、熱風循環による被加熱物と空気との間の熱伝達に加えて、たとえばリフロー炉100の内壁からの輻射熱および被加熱物内の熱伝導など、複数の熱力学現象が重畳的に発生している。リフロー炉100の内部を厳密にモデル化することは困難であるため、リフロー炉100内の温度予測においてはリフロー炉100の内部のモデル化をある程度簡略化する必要がある。しかし、簡略化されたモデルによると、リフロー炉100内の温度予測の精度が低下し得る。
【0024】
そこで、リフロー炉100においては、搬送過程を移動するプリント回路板1の温度プロファイルを予め測定する。制御装置30は、たとえばニュートンの冷却法則のような比較的単純な物理法則を用いて、当該温度プロファイルからリフロー炉100内の空気の温度分布を算出し、或るサンプリングタイムにおけるプリント回路板1の測定部位の位置の空気の温度が当該位置に対応する加熱機構41~47,51~57の設定温度に近づくように当該測定部位の熱伝達係数を決定する。制御装置30は、当該熱伝達係数を用いてプリント回路板1の温度予測を行う。制御装置30によれば、リフロー炉100の内部のモデル化を簡略化しながら、リフロー炉100内の温度予測の精度の低下を抑制することができる。
【0025】
図4は、図1の制御装置30によって行われる温度予測の過程の一例を示すフローチャートである。図4に示されるように、温度予測の過程は、S101~S107の順に進む。S101において被加熱物の温度測定が行われる。S101において測定された温度プロファイル(測定データ)は、制御装置30のメモリ32に保存される。S102において、温度予測ソフトウェアに測定データが読み込まれる。S103において、S101で温度プロファイルが測定された際の加熱機構41~47,51~57の設定温度分布(搬送過程の複数の位置の各々と当該位置における空気の温度との関係)および搬送コンベア2の搬送速度が制御装置30に入力される。S103においては、S101を行うに際してリフロー炉100の操作部に入力された設定温度分布および搬送速度が参照されてもよい。S104においてリフロー炉100内の温度分布(炉内温度分布)が予測される。S105において、被加熱物の測定部位毎の熱伝達係数が算出される。S106において設定温度分布が補正される。S107において、S106で補正された設定温度分布が変更された場合の被加熱物の測定部位の温度プロファイルを予測(シミュレート)する。以下では、S101~S107の処理内容について詳細に説明する。
【0026】
リフロー炉100においては、加熱機構41~47,51~57が或る設定温度分布(第1設定温度分布)に従って送風する状態で、被加熱物の温度が搬送過程においてどのように変化するかが予め測定される。なお、リフロー炉100における設定温度分布とは、複数の加熱機構と複数の設定温度との対応関係を示す。たとえば、或る設定温度分布において、加熱機構41~47の設定温度がそれぞれT1~T7に設定され、加熱機構51~57の設定温度がそれぞれT1~T7に設定される。なお、被加熱物の温度測定において使用される設定温度分布としては、当該被加熱物の形状に類似する形状を有する他の被加熱物を過去に加熱した際に使用した設定温度分布を用いることができる。被加熱物の温度測定においては、被加熱物に対して最適な設定温度分布を用いる必要はない。
【0027】
図5は、データロガー8が熱電対71,72を介して図3のプリント回路板1に接続されている様子を示す図である。図4のS101においては、図5に示された状態でプリント回路板1およびデータロガー8がリフロー炉100の搬送過程を移動する。図5に示されるように、プリント回路板1には、実装部品81~83が配置されている。熱電対71,72各々の一方端は、データロガー8に接続されている。熱電対71の他方端は、実装部品81の測定部位P1に接続されている。熱電対72の他方端は、プリント回路板1の測定部位P2に接続されている。データロガー8には、サンプリングタイム毎にサンプリング時刻(測定時刻)と測定部位P1,P2各々の測定温度とが関連付けられて保存される。データロガー8は、測定部位P1の測定温度プロファイル(第1測定温度プロファイル)および測定部位P2の測定温度プロファイル(第1測定温度プロファイル)を作成する。
【0028】
測定部位として、プリント回路板1において温度を精密に制御することが必要な部位が選定されることが望ましい。当該部位としては、たとえば、最も耐熱温度が低く加熱し易い部品、あるいは、最も加熱し難いはんだ付け部を挙げることができる。測定部位として適当な箇所は、実装部品の材料、あるいはプリント回路板1の配線パターンの配置から、選定可能である。測定部位を1つに限定することが困難である場合には、複数の測定部位(たとえば5~6カ所)が選定されることが望ましい。たとえば、樹脂製のコネクタの体熱温度、あるいはアルミ電解コンデンサの耐熱温度は比較的低いことが多いため、これらの部品のボディ部に熱電対を取り付けて、加熱による到達温度が耐熱温度以下であるかを確認することが望ましい。あるいは、搬送コンベア2に比較的近い部品のはんだ付け部は、加熱機構からの受熱が不十分となることがあり、当該はんだ付け部に熱電対を取り付けて、はんだ付けに必要な溶融温度、および溶融時間に達しているかを確認することが望ましい。なお、測定部位は上述の箇所に限定されるものではなく、プリント回路板1の任意の部位を測定部位とすることができる。また、測定部位は複数である必要はなく、被加熱物の最も特徴的な1箇所が測定部位として選定されていてもよい。
【0029】
データロガー8によって測定された測定温度プロファイルは、図1の制御装置30のメモリ32に保存される。また、制御装置30には、測定温度プロファイルが作成されたときの設定温度分布および搬送コンベア2の搬送速度が入力される。処理回路31は、測定温度プロファイルを平滑処理する。
【0030】
一般的に、データロガー8において測定温度は、温度測定の分解能に従って、サンプリングタイム毎に離散的な値に変換されて測定温度プロファイル(離散温度プロファイル)に記録される。サンプリングタイムの間隔としては、0.1s~1sの値が好ましい。また、測定温度の分解能としては、0.1℃~1℃の値が好ましい。また、一般的なリフロー炉の本体内では加熱機構の吹き出し口が等間隔に設けられて断続的にプリント回路板への風量が変化する。このため、単位時間毎の温度偏差が大きく、隣り合う測定温度の温度変化率が時間毎に大きく変動する。測定温度が離散的な値である場合、および加熱機構の加熱能力に変動がある場合には、測定温度プロファイルから算出されるリフロー炉の本体内の温度の偏差が増幅される傾向がある。そこで、リフロー炉100においては、リフロー炉100の温度の算出に先だって、測定温度プロファイルに対して平滑処理が行われる。具体的には、処理回路31は、ローパスフィルタ310を用いて測定温度プロファイルにおいてサンプリングタイムが隣接する2つの測定温度の温度変化率を平滑化する。
【0031】
図6は、測定温度プロファイルの平滑化処理を説明するためタイムチャートである。図6において、グラフ9は、測定部位の実際の温度プロファイルを表す。グラフ10は、測定された離散温度プロファイルを表す。グラフ11は、平滑化された測定温度プロファイルを表す。時刻st1~st14は、サンプリングタイムを表す。また、図6においては、サンプリングタイム毎のサンプリング値およびローパスフィルタ310によるフィルタ処理値の対応が示されている。なお、説明の便宜のため、図6における温度測定の分解能は10℃としている。すなわち、図6において測定温度は、10の倍数の温度である。
【0032】
図6に示されるように、サンプリングタイム毎の実際の温度プロファイル9の温度が、当該温度に最も近い10の倍数の温度として測定される。たとえば、サンプリングタイムst3における測定部位の実際の温度は22℃付近であるが、測定温度は20℃として測定される。処理回路31は、離散温度プロファイル10をローパスフィルタによって平滑化することにより測定温度プロファイル11を生成する。
【0033】
測定温度プロファイルにおいて連続する2つのサンプリングタイム間の温度差ΔTは、測定部位周辺の空気の温度Ta(リフロー炉100内の温度)と測定部位の温度Tbとの温度差、および測定部位の熱伝達係数αを用いて、以下の関係式(1)(ニュートンの冷却法則の式)のように表される。式(1)においてCは定数である。なお、測定部位が複数の材料を含む場合、当該複数の材料が均質化された密度を有する仮想的な物質から当該測定部位が構成されていると見なす。以下では、当該仮想的な物質の熱伝達係数を、仮想的な熱伝達係数とも呼ぶ。
【0034】
【数1】
【0035】
式(1)からリフロー炉100内の温度Taは、以下の式(2)のように表される。
【0036】
【数2】
【0037】
プリント回路板1の搬送速度(搬送コンベア2の速度)から、サンプリングタイムにおける測定部位の搬送過程における位置が求められる。したがって、測定温度プロファイル11および式(2)を用いることにより、測定部位の搬送過程における位置と当該位置における空気の温度との関係を示す炉内温度分布が求められる。
【0038】
図7は、設定温度分布12、平滑化された測定温度プロファイル13、および炉内温度分布14を併せて示す図である。プリント回路板1の搬送速度は既知であるため、時刻は当該時刻における測定部位の搬送過程における位置に対応する。図3も併せて参照しながら、時刻tm1までの時間帯は図3の区間Sc1に対応する。時刻tm1~tm2の時間帯は、区間Sc2に対応する。時刻tm2~tm3の時間帯は、区間Sc3に対応する。時刻tm3~tm4の時間帯は、区間Sc4に対応する。時刻tm4~tm5の時間帯は、区間Sc5に対応する。時刻tm5~tm6の時間帯は、区間Sc6に対応する。時刻tm6~tm7の時間帯は、区間Sc7に対応する。時刻tm7~tm8の時間帯は、区間Sc8に対応する。時刻tm8以降の時間帯は、区間Sc9に対応する。すなわち、時刻tm1~tm8の各々に対応する点線は、隣接する区間の境界を被加熱物が通過する時刻を表す。時刻ts(特定時刻)は、設定温度分布12の温度が最大となる時刻および炉内温度分布14が最大となる時刻であり、時刻tm6~tm7の時間帯に含まれる。
【0039】
実際のリフロー炉100内においては、空気と測定部位との間の熱伝達に加えて、リフロー炉100の内壁からの熱輻射、プリント回路板1内の熱伝導といった物理現象も発生している。しかし、空気と測定部位との間の熱伝達に比べると、他の物理現象が温度Taに与える影響は小さい。そのため、式(2)において熱伝達係数αを適切に設定することにより、温度Taの予測に充分な精度を得ることができる。
【0040】
熱伝達係数αは、炉内温度分布14において時刻tsに対応する温度と、設定温度分布12において時刻tsに対応する温度との差がなくなる(あるいは許容範囲内に収まる)ように決定される。図7においては、時刻tsにおいて炉内温度分布14の温度と設定温度分布12の温度がほぼ一致している。特定時刻としては、時刻tsのように、はんだを溶融させる時間帯(区間)に含まれ、炉内温度分布14の温度が最大となる時刻が望ましい。ただし、最も出口部120に近い区間の温度は出口部120側の区間の影響を受け易く、当該区間においてはリフロー炉100内の搬送過程の幅方向の温度のばらつきが大きい恐れがある。このような区間に最大温度が含まれる場合、当該区間に対応する時間帯の時刻を避けることが望ましい。そのため、特定時刻は、炉内温度分布14の温度が最大となる時刻に限定されない。各測定部位の測定温度プロファイルに対して、炉内温度分布が生成されるとともに、当該炉内温度分布の特定時刻における温度が当該特定時刻における設定温度分布の温度とほぼ一致するように測定部位毎に仮想的な熱伝達係数が決定される。
【0041】
設定温度分布12は、各区間に対応する時間帯において温度が一定のプロファイルとして表現され得る。炉内温度分布14は、設定温度分布12に従って変化していることが望ましい。すなわち、炉内温度分布14の各区間において、設定温度分布12の各区間(時間帯)に設定された温度に保たれているのが望ましい。しかし、実際のリフロー炉100内において、各区間の温度は一定ではなく、各区間に隣接する区間の影響を受けて温度のばらつきが生じる。隣接する区間の設定温度の差が大きいほど、設定温度と実際のリフロー炉100内の温度の差は大きくなり得る。特に入口部110および出口部120ではリフロー炉100内の温風が搬送過程に沿って外部に流出するため、設定温度と実際のリフロー炉100内の温度の差は顕著に大きくなり得る。
【0042】
測定部位の違いによらず、設定温度分布12と炉内温度分布14とに差異がある場合には、当該差はリフロー炉100の基本的な構造、あるいは加熱機構の温度制御方法によるものと考えることができる。測定部位毎に算出した炉内温度分布14に差異がある場合には、搬送方向に垂直な方向の測定部位の位置に依存したリフロー炉100内の温度のばらつきなどによる差異と、被加熱物の測定部位毎の熱伝導率などの熱特性の違いによる差異が組み合わされたものであると推測することができる。
【0043】
リフロー炉100においては、リフロー炉100が被加熱物に与える熱影響、およびリフロー炉100内の温度のばらつき等を含むリフロー炉100内の複雑な熱力学現象をニュートンの冷却法則を用いて簡易的にモデル化することにより、炉内温度分布14を算出することができる。なお、リフロー炉100内部の熱力学現象を簡易的にモデル化するために用いられる物理法則は、ニュートンの冷却法則に限定されない。当該物理法則は、被加熱物の測定部位における温度と当該測定部位の周囲の空気の温度との差、および時間経過に伴う当該測定部位における被加熱物の温度差の関係を、熱伝達係数を用いて定義する関係式を導く物理法則であれば、どのような物理法則であってもよい。
【0044】
図8は、図7の設定温度分布12、炉内温度分布14、および補正された設定温度分布15を併せて示す図である。図8に示されるように、設定温度分布12と炉内温度分布14との差異が比較的少ない区間Sc4~Sc8においては、設定温度分布12を炉内温度分布と見做し、以下の式(3)を用いて当該測定部位の温度プロファイルを予測することができる。リフロー炉100内の或る位置の温度Taとして、設定温度分布12における当該位置に対応する温度を用いる。
【0045】
【数3】
【0046】
しかし、たとえば区間Sc1~Sc3のように、区間によっては設定温度分布12と炉内温度分布14とが乖離し得るため、設定温度分布12をそのまま温度予測に用いると、温度予測の精度が低下し得る。そこで、設定温度分布12が炉内温度分布14に近づくように設定温度分布12を区間毎に補正する。補正値は、区間毎に定数として設定されてもよいし、区間毎の設定温度に比例した値に設定されてもよい。図8においては、被加熱物の温度測定において実際に用いられた設定温度分布12が補正され、設定温度分布15(第2設定温度分布)が得られている。設定温度分布15は、設定温度分布12よりも炉内温度分布14に近い温度分布である。設定温度分布15は、炉内温度分布14を近似する設定温度分布であり、温度予測のシミュレーションにおいて用いられる。
【0047】
実際の設定温度分布12は、温度予測のシミュレーションにおいて用いられる設定温度分布15よりも補正値の分だけずれている。温度予測のシミュレーションにおいて用いられた設定温度分布に符号を逆転させた補正値を足すことによって得られる設定温度分布を実際に用いることにより、温度予測のシミュレーションの結果を実際のリフロー炉100内において再現することができる。
【0048】
図9は、温度予測のシミュ―レーション結果を示す図である。図9において、設定温度分布15は、図8の補正された設定温度分布15と同一である。設定温度分布16は、設定温度分布15が変更された設定温度分布である。測定部位の温度プロファイル17,18は、設定温度分布15,16にそれぞれ基づくシミュレーション結果である。図9に示されるように、設定温度分布15に対する設定温度分布16の変化に応じて、温度プロファイル18は温度プロファイル17に対して変化している。設定温度分布15の補正値の符号を逆転させた値を設定温度分布16に足すことによって得られる設定温度分布を実際に用いることにより、温度プロファイル18を実際のリフロー炉100内において再現することができる。
【0049】
入口部110および出口部120の各々に仮想的な区間を設定して当該区間を設定温度分布に加えることにより、入口部110および出口部120の設定温度を補正することが可能である。また、隣接する2つの区間(第1区間および第2区間)について、第1区間が第1温度に設定される第1温度領域を含み、第2区間が第2温度に設定される第2温度領域を含む場合、第1区間と第2区間との間に空気の温度が第1温度から第2温度に変化する温度遷移領域が設定されてもよい。温度遷移領域が設定されることにより、設定温度分布12を炉内温度分布14により近い形状とすることができる。設定温度分布12は、時間軸と温度軸とを備えたグラフ上では、直線の組み合わせによって表現することができる。さらに平滑処理によって設定温度分布12を炉内温度分布14に近づけることもできる。
【0050】
再び図8を参照して、設定温度分布12と炉内温度分布14との差の絶対値が基準値(たとえば5℃)以下となるように各区間の補正値を設定し、補正された設定温度分布15を用いることにより、温度予測の精度を向上させることができる。被加熱物の各測定部位に対して個別の補正値が設定されてもよい。簡便的用途あるいは、各測定部位にて算出された炉内温度分布14の差異が比較的小さい場合には、各測定部位に対して同一の補正値を用いてもよい。また、設定温度分布は、搬送コンベア2の搬送速度をより早い速度に変更する場合、各区間を通過する時間がより短くなるものとして表すことができる。搬送速度をより遅い速度に変更する場合には、各区間を通過する時間が長くなるものとして表すことができる。搬送速度が変更された場合においても、被加熱物の温度測定を再度行うことなく、補正後の設定温度分布および仮想的な熱伝達係数を用いることにより、温度予測をすることができる。
【0051】
なお、実施の形態1においては、トンネル型の搬送過程を有するリフロー炉について説明した。実施の形態に係る加熱装置は、設定温度を段階的に変化させることができるプログラム式加熱炉であってもよい。また、実施の形態1においては、加熱装置の制御装置において被加熱物の温度測定および被加熱物の温度予測の双方が行われる場合について説明した。被加熱物の温度測定および被加熱物の温度予測は同一の装置において行われる必要はない。たとえば汎用PC(Personal Computer)のような、被加熱物の温度測定を行った装置とは別個の装置によって、被加熱物の温度予測が行われてもよい。
【0052】
以上、実施の形態1に係る温度予測装置によれば、加熱装置の内部のモデル化を簡略化しながら、加熱装置内の温度予測の精度の低下を抑制することができる。
【0053】
実施の形態2.
実施の形態2においては、設定温度分布に対する補正値をデータベースに登録することにより、炉内温度分布および設定温度分布の比較による補正値の算出を行うことなく被加熱物の温度予測を可能とする構成について説明する。
【0054】
実施の形態2において参照されるデータベースには、測定部位の材質等の被加熱物(第1被加熱物)の情報、過去に実施された当該被加熱物の温度測定に基づいて補正された設定温度分布、加熱機構の配置に基づく各区間の長さ、温度遷移領域の長さ、および各区間に対応する補正値等の情報が加熱装置の識別情報に関連付けられて登録されている。以下では、データベースにおいて加熱装置の識別情報に関連付けられた情報を単に加熱装置の情報と呼ぶ。データベースにおいて加熱装置の識別情報を検索キーとして、加熱装置の情報が検索可能である。当該データベースは、図2のメモリ32に形成されていてもよいし、外部のサーバに形成されていてもよい。当該データベースを参照することにより、今回使用する被加熱物の構造(たとえばプリント回路板上の測定部位の材質)に基づいて、当該構造に対応した補正値を特定することができる。
【0055】
図10は、実施の形態2に係る温度予測装置によって行われる温度予測の過程の一例を示すフローチャートである。図10に示されるフローチャートは、図4に示されるフローチャートのS104~S106がS204~S206に置き換えられたフローチャートである。図10に示されるように、実施の形態2において温度予測の過程は、S101~S103,S204~S206,S107の順に進む。実施の形態1と同様にS101~S103が行われた後、S204において、S101で使用された加熱装置の識別情報を用いて当該加熱装置の情報がデータベースにおいて検索される。S205において、S204で検索された情報を用いてS101における設定温度分布を補正し、補正された設定温度分布に基づいて温度プロファイルを予測する。S206において、S205で生成された温度プロファイルがS101で測定された測定温度プロファイルに近づくように、S205において用いられた熱伝達係数が修正される。S107において、変更された設定温度分布および修正された熱伝達係数を用いて測定部位の温度予測が行われる。
【0056】
実施の形態2においては、データベースに登録されている情報から、補正された設定温度分布が生成される。当該設定温度分布を用いて、温度測定を行った被加熱物(第2被加熱物)に対する温度予測が行われる。予測した温度プロファイルが測定された温度プロファイルに近づくように温度予測において用いられた測定部位の仮想の熱伝達係数が修正される。
【0057】
熱伝達係数を修正する方法としては、たとえば、測定温度プロファイルの最高温度と予測した温度プロファイルの最高温度との差がなくなる(あるいは許容範囲内に収まる)ように、温度予測において用いられた測定部位の熱伝達係数を修正する方法を挙げることができる。温度プロファイルの最高温度に着目することにより、最高温度以外の測定データが不要となるため被加熱物の測定データの全てを温度予測ソフトウェアに入力する必要がない。たとえば或るロケーションにおいて測定された温度プロファイルの最高温度を他のロケーションに伝達し、当該最高温度を温度予測ソフトウェアに入力することにより、当予測された温度プロファイルの最高温度が遠隔地から伝達された最高温度に一致するように熱伝達係数を算出することができる。当該方法によれば、遠隔地の間で、たとえば電話連絡によって測定温度プロファイルの最高温度を伝えることによって、被加熱物の温度予測をすることが可能となる。
【0058】
図11は、実施の形態2に係る温度予測装置によって行われる温度予測の過程の他の例を示すフローチャートである。図11に示されるフローチャートは、図10に示されるフローチャートからS102が除かれているとともに、S205の後にS215が追加され、S206がS216に置き換えられたフローチャートである。図11に示される温度予測の過程は、S101,S103,S204,S205,S215,S216,S107の順に進む。S101,S103,S204,S205が行われた後、S215において、S101で生成された測定温度プロファイルの最高温度が温度予測ソフトウェアに入力される。S216において、S215で入力された最高温度とS205において予測された温度プロファイルの最高温度との差がなくなるようにS205において用いられた熱伝達係数が修正される。S107において、変更された設定温度分布に基づく測定部位の温度予測が行われる。
【0059】
実施の形態2において参照されるデータベースは、構造が同じ加熱装置間で共用可能である場合が多い。或る加熱装置による被加熱物の測定データに基づく補正値等のデータがデータベースに登録されていない場合でも、当該加熱装置と同様の構造を有する加熱装置のデータがデータベースに登録されていれば、当該データを利用することで、温度予測をすることが可能である。また、複数のロケーションに配置された加熱装置の情報を1つのデータベースに集約することで、複数の加熱装置の設定温度分布および搬送速度等の条件を一元的に管理することができる。
【0060】
データベースには、炉内温度プロファイルが登録されてもよい。互いに異なる加熱装置毎に作成された炉内温度プロファイルを比較することにより、加熱装置毎の特徴を、炉内温度プロファイルの形状から容易に確認することができる。また、定期的に(たとえば1ヶ月毎に)、或る加熱装置において炉内温度プロファイルを生成し、今回の炉内温度プロファイルと過去に生成された炉内温度プロファイルとを比較することにより、当該加熱装置の健全性を点検することができる。同様に、被加熱物の複数の測定部位の測定データから算出された炉内温度プロファイルを比較することにより、加熱装置内の温度のばらつき、あるいは加熱装置内の風路の一部が塞がっているというような局所的な不具合を検出することが可能となる。
【0061】
以上、実施の形態2に係る温度予測装置によれば、加熱装置の内部のモデル化を簡略化しながら、加熱装置内の温度予測の精度の低下を抑制することができる。
【0062】
今回開示された各実施の形態は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせて実施することも予定されている。今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 プリント回路板、2 搬送コンベア、8 データロガー、30 制御装置、31 処理回路、32 メモリ、33 入出力部、34 表示部、41~47,51~57 加熱機構、61,62 冷却機構、71,72 熱電対、81~83 実装部品、100 リフロー炉、110 入口部、120 出口部、310 ローパスフィルタ、Sa1~Sa7,Sb1~Sb7 温度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11