(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】透湿防水性布帛およびこれを含む衣類、ならびに該透湿防水性布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20230814BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20230814BHJP
D06M 23/16 20060101ALI20230814BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20230814BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20230814BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20230814BHJP
A41D 31/102 20190101ALI20230814BHJP
A41D 3/04 20060101ALI20230814BHJP
A41D 3/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
B32B27/12
D06M15/564
D06M23/16
A41D31/00 502Q
A41D31/02 C
A41D31/04 C
A41D31/04 F
A41D31/102
A41D3/04
A41D3/00 A
A41D3/00 B
(21)【出願番号】P 2019163028
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】西原 正勝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 香奈
(72)【発明者】
【氏名】藤本 剛広
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-238648(JP,A)
【文献】特開2010-209491(JP,A)
【文献】特開2008-188808(JP,A)
【文献】特開2007-239154(JP,A)
【文献】特開2007-176134(JP,A)
【文献】特開2008-069487(JP,A)
【文献】特開2002-129479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0355812(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D06M 10/00-16/00,19/00-23/18
A41D 1/02-1/04,3/00-3/08,29/00,31/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物の片面の全面に設けられている1層目の樹脂層と、前記1層目の樹脂層上にさらに樹脂層が部分的に設けられている2層目の樹脂層を有し、前記1層目の樹脂層の樹脂付着量が0.4~6.5g/m
2であり、前記2層目の樹脂層が設けられていない部分(A)と前記2層目の樹脂層が設けられている部分(B)のそれぞれJIS L1096(2010)A法に基づく剛軟度が、経、緯ともに部分(A)/部分(B)=0.40~0.85の関係を満たすことを特徴とする、透湿防水性布帛。
【請求項2】
前記2層目の樹脂層の樹脂付着量が10~50g/m
2であることを特徴とする、請求項1に記載の透湿防水性布帛。
【請求項3】
前記部分(A)の耐水度が600mmH
2O以上であり、かつJIS L1099(2012)A-1法に基づく透湿度が3500g/m
2・24hr以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の透湿防水性布帛。
【請求項4】
前記部分(B)の耐水度が3000mmH
2O以上であり、かつJIS L1099(2012)B-1法に基づく透湿度が3500g/m
2・24hr以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛。
【請求項5】
前記部分(A)のJIS L1096(2010)A法(フラジール形法)に基づく通気度が0.01~1.00cm
3/cm
2・sであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛。
【請求項6】
前記部分(A)の目付が85g/m
2以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛を含む衣類。
【請求項8】
前記部分(B)が衣類の肩部、肘部、膝部、腰部、臀部からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の部位の、少なくとも一部を形成していることを特徴とする、請求項7に記載の衣類。
【請求項9】
衣類を製造した際の肩部、肘部、膝部、腰部、臀部からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の部位の、少なくとも一部を形成する部分のみに、前記2層目の樹脂層を設けることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の透湿防水性布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透湿防水性布帛およびこれを含む衣類、ならびに該透湿防水性布帛の製造方法に関するものであり、より詳しくは、優れた透湿性、防水性を有しながら軽量で風合いが柔らかく、かつ衣類に用いた場合に運動時の違和感が抑制された衣類を提供する透湿防水性布帛およびこれを含む衣類、ならびに該透湿防水性布帛の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アウトドアウェアやレインコート等の防水性布帛には、着用時の蒸れ感を軽減するため透湿性の高い布帛がよく使用されているが、最近では、より高い透湿性および防水性を有し、軽量で、風合いが柔らかく、コンパクトな防水性布帛が求められるようになってきた。
【0003】
透湿防水性布帛としては、例えば特許文献1に、主としてポリウレタン樹脂を水に可溶な溶剤に溶解させてなるポリウレタン溶液を布帛にコーティングし、これを湿式凝固させたものが開示されている。
【0004】
特許文献2には、布帛上にまず多孔質膜を形成し、次に前記多孔質膜上に無孔質の膜を形成させる方法が開示されており、防水性と透湿性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-80583号公報
【文献】特開昭60-196336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の布帛では、高い防水性能を得るためには樹脂の付着量を多くする必要があり、その結果透湿性能が低下したり、布帛の重量が重くなったりする欠点があった。特許文献2に記載の布帛についても、布帛の重量が重くなり、上記と同様の欠点は解決されないままであった。
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた透湿性、防水性を有しながら軽量で風合いが柔らかく、かつ衣類に用いた場合に運動時の違和感が抑制された衣類を提供する透湿防水性布帛、およびこれを含む衣類、ならびに該透湿防水性布帛の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる透湿防水性布帛は以下の態様を含む。
(1)織物の片面の全面に設けられている1層目の樹脂層と、前記1層目の樹脂層上にさらに樹脂層が部分的に設けられている2層目の樹脂層を有し、前記1層目の樹脂層の樹脂付着量が0.4~6.5g/m2であり、前記2層目の樹脂層が設けられていない部分(A)と前記2層目の樹脂層が設けられている部分(B)のそれぞれJIS L1096(2010)A法に基づく剛軟度が、経、緯ともに部分(A)/部分(B)=0.40~0.85の関係を満たすことを特徴とする、透湿防水性布帛。
(2)前記2層目の樹脂層の樹脂付着量が10~50g/m2であることを特徴とする、前記(1)に記載の透湿防水性布帛。
(3)前記部分(A)の耐水度が600mmH2O以上であり、かつJIS L1099(2012)A-1法に基づく透湿度が3500g/m2・24hr以上であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の透湿防水性布帛。
(4)前記部分(B)の耐水度が3000mmH2O以上であり、かつJIS L1099(2012)B-1法に基づく透湿度が3500g/m2・24hr以上であることを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
(5)前記部分(A)のJIS L1096(2010)A法(フラジール形法)に基づく通気度が0.01~1.00cm3/cm2・sであることを特徴とする、前記(1)~(4)のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
(6)前記部分(A)の目付が85g/m2以下であることを特徴とする、前記(1)~(5)のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
【0008】
本発明にかかる衣類は以下の態様を含む。
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載の透湿防水性布帛を含む衣類。
(8)前記部分(B)が衣類の肩部、肘部、膝部、腰部、臀部からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の部位の、少なくとも一部を形成していることを特徴とする、前記(7)に記載の衣類。
【0009】
本発明にかかる透湿防水性布帛の製造方法は以下の態様を含む。
(9)衣類を製造した際の肩部、肘部、膝部、腰部、臀部からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の部位の、少なくとも一部を形成する部分のみに、前記2層目の樹脂層を設けることを特徴とする、前記(1)~(6)のいずれかに記載の透湿防水性布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる透湿防水性布帛は、優れた透湿性、防水性を有しながら軽量で風合いが柔らかく、衣類に用いた際、運動時の違和感を抑制することができるため、特にアウトドアウェアやレインコート等の各種衣類に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】走査型電子顕微鏡を用いて撮像された、本発明にかかる一つの実施形態における透湿防水性布帛の、前記2層目の樹脂層が設けられている部分(B)の断面写真(拡大倍率:2500倍)である。
【
図2】本発明にかかる透湿防水性布帛の製造工程に関して、ジャケットを製造した際の肘部を形成する部分のみに、前記2層目の樹脂層を設ける工程後の透湿防水性布帛の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えうることはもちろんである。
【0013】
<透湿防水性布帛>
本発明にかかる透湿防水性布帛(以下布帛とも呼ぶ)は、織物の片面の全面に設けられている1層目の樹脂層と、前記1層目の樹脂層上にさらに樹脂層が部分的に設けられている2層目の樹脂層を有し、前記1層目の樹脂層の樹脂付着量が0.4~6.5g/m2であり、前記2層目の樹脂層が設けられていない部分(A)と前記2層目の樹脂層が設けられている部分(B)のそれぞれJIS L1096(2010)A法に基づく剛軟度が、経、緯ともに部分(A)/部分(B)=0.40~0.85の関係を満たすことを特徴とするものである。
【0014】
本実施の形態における織物を構成する有用な繊維の素材としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、または、アセテートやキュプラ、ビスコースなどのレーヨンなどがあり、さらに、これらの他に、ポリ乳酸、芳香族ポリアミド、ポリイミドまたはポリフェニレンサルファイドなどの化学繊維、綿、麻、絹または羊毛などの天然繊維、あるいは、これらの素材の混繊、混紡または交織品を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0015】
また、繊維の断面形状についても、特に限定されるものではなく、丸型、三角、星形、扁平、C型、中空、井形、ドックボーンなどが挙げられる。
【0016】
前記織物の組織は、特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織など任意の組織を用いることができるが、軽量薄地の布帛とする目的で平織が好ましく用いられる。また、布帛の引裂強力を向上させる目的でリップストップ、ダブルリップストップ等を用いてもよい。
【0017】
前記織物は、あらかじめ着色されていてもよいし、着色されていなくてもよい。織物をあらかじめ着色する場合には、分散染料、カチオン染料、酸性染料、直接染料、反応染料、建染染料、または、硫化染料などの染料、あるいは、蛍光増白剤、または、顔料などを用いて着色することができる。また、酸性染料を用いてナイロンを染色した場合に実施されている合成タンニン等を用いてのフィックス処理など、通常着色時に行われている各種処理を行ってもよい。なお、織物を着色するために用いられる材料は、これらのものに特に限定されるものではなく、織物の素材に合わせて適切なものを選択すればよい。
【0018】
また、着色方法は、原着、浸染、または、捺染などの方法があり、特に限定されるものではない。
【0019】
前記織物は、所期の目的を逸脱しない限りにおいて、撥水加工、カレンダー加工、難燃加工、制電加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、耐光向上加工、または、吸水加工、吸湿加工などが施されていてもよい。後述するコーティング加工で織物の片面に樹脂層を設ける場合、コーティングする樹脂が、織物の目から含浸して布帛の裏側に露出してしまうことを防ぐ観点から、樹脂をコーティングする工程の前にあらかじめ撥水加工、カレンダー加工、およびその両方を適宜行うことが好ましい。衣類とした際の着用時の雨などによる衣類の湿潤を防ぐ効果も有することから、撥水加工を行うことが特に好ましい。
【0020】
本実施の形態における、織物の片面の全面に設けられている1層目の樹脂層は、布帛に防水性を付与でき、かつ透湿性を有するものであれば、特に限定されない。1層目の樹脂層の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル、EPDM、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース等が挙げられ、中でも、衣類に用いた際に柔軟で風合いがよく、耐久性にも優れていることから、ウレタン樹脂を用いることが好ましい。1層目の樹脂層は、多孔質樹脂層または透湿性無孔樹脂層としてよい。具体的には延伸、ニードルパンチ、レーザー穿孔、機械発泡、化学発泡、湿式凝固等の方法で水蒸気が透過できる細孔を多数設けた多孔質樹脂層が挙げられ、その素材としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル、EPDM、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース等が挙げられ、中でも、水膨潤を起こさないことからポリエステル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂等の疎水性ウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂自体に透湿性を有する樹脂は、無孔膜であっても透湿膜として機能するため、無孔樹脂層として用いることもできる。透湿性無孔樹脂層を構成する樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース、ポリエステル等が挙げられ、中でも、透湿性が高いことからポリエーテル系ウレタン樹脂、透湿性ポリカーボネート系ウレタン樹脂等の親水性ウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
前記1層目の樹脂層の樹脂付着量は、0.4~6.5g/m2で、好ましくは0.7~4.5g/m2、さらに好ましくは1.0~4.0g/m2がよい。前記1層目の樹脂層の樹脂付着量が6.5g/m2を超えると、透湿性能が大きく低下したり、織物本来の風合いが損なわれたりするおそれがあり、かつ透湿防水性布帛の重量が重くなってしまう。1層目の樹脂層の樹脂付着量が0.4g/m2未満であると、十分に防水性能が発揮されないおそれがある。
【0022】
前記1層目の樹脂層の厚みは、6.5μm以下がよく、5.0μm以下が好ましく、4.5μm以下がより好ましく、3.0μm以下がさらに好ましい。前記1層目の樹脂層の厚みが6.5μmを超えると、透湿性能が大きく低下したり、織物本来の風合いが損なわれたりするおそれがあり、かつ透湿防水性布帛の重量が重くなってしまう。
一方で、前記1層目の樹脂層の厚みが薄くなりすぎると、織物の表面凹凸により、後述する走査型電子顕微鏡での観察では樹脂層が不明瞭となり、織物の全面を連続的に被覆できなくなる場合がある。本発明に係る透湿防水性布帛は、織物の片面の全面に設けられている1層目の樹脂層を有するが、本開示において「全面に設けられている」とは、織物の表面凹部や交絡点の糸の隙間などが樹脂で埋められ、表面凸部が樹脂で被覆されていない形態であっても、防水性能が発揮できるだけの樹脂が付着した状態を意味する。より高い防水性能を発揮させる観点から、前記1層目の樹脂層を織物の全面を連続的に被覆するように設けることが好ましく、その厚みを0.4μm以上とすることがより好ましい。1層目の樹脂層の厚みは、0.5μm以上、0.7μm以上、または1.0μm以上とすることができる。
【0023】
前記1層目の樹脂層を構成する樹脂には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種添加剤を添加してもよい。例えば、イソシアネート系、オキサゾリン系、エポキシ系、カルボジイミド系などの架橋剤、活性炭等の移行昇華防止剤、炭酸カルシウムや多孔質シリカ等の無機フィラー、および界面活性剤等のセル調整剤、ポリオキシアルキレングリコール等の透湿性付与剤、酸化チタンやカーボンブラック等の顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、柔軟剤、浸透剤、撥水剤、乳化剤、増粘剤等が挙げられる。
【0024】
本発明では、前記1層目の樹脂層上にさらに樹脂層(2層目)が部分的に設けられている。このような構成の透湿防水性布帛を用いることで、衣類の防水性が特に必要な部分、具体的には地面やイス、リュックサックなどと接触して圧力がかかり、外部から水が衣類に浸透しやすくなる肩部、肘部、膝部、腰部、臀部などにおいては特に高い防水性を有し、身頃やその他衣類の広い面積部分では透湿性が高く、かつ軽量で風合いが柔らかな衣類を製造することができる。
【0025】
前記2層目の樹脂層として、多孔質樹脂層および透湿性無孔樹脂層を用いることができる。前記2層目の樹脂層には、前記1層目の樹脂層と同様の素材および添加剤を用いることができるが、耐久性に特に優れるポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。1層目の樹脂層上に部分的に積層する都合上、簡易な工程で積層可能な透湿性無孔樹脂層を用いることが好ましく、柔軟性や耐久性の観点から透湿性のウレタン樹脂を含む透湿性無孔樹脂層を用いることがより好ましい。また、2層目の樹脂層を構成する樹脂中への顔料等の添加により着色することにより、意匠性を向上させたり、裁断や打抜きなど分離工程の際にガイドとなる効果を与えたりすることができる。特に、後述する前記2層目の樹脂層上に裏材としてさらに別の織物や編物、不織布等の繊維布帛を積層する場合では、縫製工程にて部分(B)が衣類の目的とする部位の位置に合致するよう、裁断や打抜きなど分離工程の際に繊維布帛から透けて見える前記2層目の樹脂層の色がガイドとなる効果を得られるため、好ましい。
【0026】
前記2層目の樹脂層の樹脂付着量は、10g/m2以上、15g/m2以上、または20g/m2以上とすることができ、一方で50g/m2以下、45g/m2以下、40g/m2以下、35g/m2以下、または30g/m2以下とすることができる。前記2層目の樹脂層の樹脂付着量は、10~50g/m2が好ましく、より好ましくは15~35g/m2であり、さらに好ましくは20~30g/m2である。前記2層目の樹脂層の樹脂付着量が50g/m2を超えると、透湿性能が大きく低下したり、織物本来の風合いが損なわれたりするおそれがあり、かつ透湿防水性布帛の重量が重くなってしまう。より高い防水性能を発揮させる観点から、前記2層目の樹脂層の樹脂付着量が10g/m2以上であることが好ましい。
【0027】
前記2層目の樹脂層の厚みは、10~50μmが好ましく、より好ましくは15~35μmであり、さらに好ましくは18~30μmである。前記2層目の樹脂層の厚みが50μmを超えると、透湿性能が大きく低下したり、織物本来の風合いが損なわれたりするおそれがあり、かつ透湿防水性布帛の重量が重くなってしまう。より高い防水性能を発揮させる観点から、前記2層目の樹脂層の厚みが10μm以上であることが好ましい。
【0028】
本発明では、前記2層目の樹脂層が設けられていない部分(A)と前記2層目の樹脂層が設けられている部分(B)のそれぞれJIS L1096(2010)A法に基づく剛軟度が、経、緯ともに部分(A)/部分(B)=0.40~0.85の関係を満たす。0.40以上であれば、衣類中に剛軟度の異なる部分が存在したとしても運動時に違和感を与えにくい。また、0.85以下であれば、前記2層目の樹脂層によって部分(B)の防水性を高めることができる。このような構成の透湿防水性布帛を用いることで、衣類の特定の部分のみが高い防水性能を有しており、かつ樹脂の総付着量が多い部分が存在しても運動時の違和感を与えにくい衣類を製造することができる。
剛軟度は、経、緯ともに部分(A)/部分(B)=0.50~0.80であればより好ましく、0.60~0.80であればさらに好ましい。
一実施形態における透湿防水性布帛は、前記1層目の樹脂層および2層目の樹脂層上に裏材としてさらに別の織物や編物、不織布等の繊維布帛を積層してもよい。繊維布帛により、例えば耐摩耗性や肌触り、意匠性などを向上させることができる。
【0029】
また、軽量で風合いが柔らかな衣類を得るという観点から、前記部分(A)の目付は85g/m2以下が好ましく、75g/m2以下がより好ましく、70g/m2以下が特に好ましい。一方、衣類としての十分な耐久性を得るとの観点から、前記部分(A)の目付は20g/m2以上が好ましく、25g/m2以上がより好ましく、30g/m2以上が特に好ましい。
【0030】
上記の構成を有する透湿防水性布帛によれば、当該透湿防水性布帛の前記部分(A)の防水性を向上させることができ、例えば600mmH2O以上、好ましくは800mmH2O以上、より好ましくは1000mmH2O以上の耐水度を達成することが可能である。身頃など、衣類のうち圧力がかかる機会が少ない部分においては、耐水度が600mmH2O以上であれば実用上十分な防水性能を得られる。一方、耐水度を高くするためには樹脂付着量が多くなる傾向があるため、軽量で風合いが柔らかな衣類を得るとの観点から、前記部分(A)の耐水度は35000mmH2O以下が好ましく、10000mmH2O以下がより好ましく、5000mmH2O以下が特に好ましい。
【0031】
上記の構成を有する透湿防水性布帛によれば、当該透湿防水性布帛の前記部分(A)の透湿度を顕著に向上させることができ、例えばJIS L1099(2012)A-1法に基づく透湿度について、3500g/m2・24hr以上、好ましくは5500g/m2・24hr以上、より好ましくは7500g/m2・24hrの透湿度を達成することができる。上記A-1法に基づく透湿度が3500g/m2・24hr以上であれば、衣類内の蒸れを十分に抑えることができる。部分(A)は身体と接触する機会が少ない部分に用いられるため、透湿度はJIS L1099(2012)B-1法よりも、空気中の水蒸気の透過性の測定法である上記A-1法に準拠して測定した値が重要であるが、上記B-1法に基づく透湿度が7500g/m2・24hr以上であると好ましい。一方、透湿度が高すぎると汗の蒸発が早すぎて体が冷えてしまうので、上記A-1法に基づく透湿度が20000g/m2・24hrs以下、または15000g/m2・24hrs以下、および/または上記B-1法に基づく透湿度が100000g/m2・24hrs以下、または50000g/m2・24hrs以下であることが好ましい。
【0032】
前記部分(A)の通気度は、用途に応じて適宜設定することができるが、衣類内の蒸れを抑える観点から、前記部分(A)のJIS L1096(2010)A法(フラジール形法)に基づく通気度が0.01cm3/cm2・s以上であることが好ましく、0.02cm3/cm2・s以上であることがより好ましく、0.04cm3/cm2・s以上であることが特に好ましい。一方、通気度の上限は特に制限されないが、JIS L1096(2010)A法(フラジール形法)に基づく通気度について1.00cm3/cm2・s以下、0.50cm3/cm2・s以下、または0.10cm3/cm2・s以下とすることができる。
【0033】
上記の構成を有する透湿防水性布帛によれば、当該透湿防水性布帛の前記部分(B)の防水性を顕著に向上させることができ、例えば3000mmH2O以上、好ましくは4000mmH2O以上、より好ましくは5000mmH2O以上の耐水度を達成することが可能である。衣類のうち地面やイス、リュックサックなどと接触して圧力がかかり、外部から水が衣類に浸透しやすくなる肩部、肘部、膝部、腰部、臀部などを形成するのに用いることができる前記部分(B)の耐水度は前記部分(A)よりも高いことが必要とされ、具体的には、3000mmH2O以上が好ましく、4000mmH2O以上がより好ましく、5000mmH2O以上が特に好ましい。一方、耐水度を高くするためには樹脂付着量が多くなる傾向があるため、軽量で風合いが柔らかく、かつ運動時の違和感が抑制された衣類を得るとの観点から、耐水度は50000mmH2O以下が好ましく、30000mmH2O以下がより好ましく、15000mmH2O以下が特に好ましい。
【0034】
上記の構成を有する透湿防水性布帛によれば、当該透湿防水性布帛の前記部分(B)の透湿度を顕著に向上させることができ、例えばJIS L1099(2012)B-1法に基づく透湿度について、3500g/m2・24hr以上、好ましくは6500g/m2・24hr以上、より好ましくは9000g/m2・24hr以上の透湿度を達成することができる。上記B-1法に基づく透湿度が3500g/m2・24hr以上であれば、衣類内の蒸れを十分に抑えることができる。部分(B)は汗で濡れた身体と接触する機会が多い部分に用いられるため、透湿度はJIS L1099(2012)A-1法よりも、布帛に接触している水から発生する水蒸気の透過性の測定法である上記B-1法に準拠して測定した値が重要であるが、上記A-1法に基づく透湿度が900g/m2・24hr以上であることが好ましく、1500g/m2・24hr以上であることがより好ましい。一方、透湿度が高すぎると汗の蒸発が早すぎて体が冷えてしまうので、上記A-1法に基づく透湿度が20000g/m2・24hrs以下、または15000g/m2・24hrs以下、および/または上記B-1法に基づく透湿度が100000g/m2・24hrs以下、または50000g/m2・24hrs以下であることが好ましい。上記範囲の透湿防水性布帛の部分(A)および部分(B)の耐水度および透湿度は、上で説明した織物、1層目の樹脂層、2層目の樹脂層、および繊維布帛に用いられる材料やその特性(例えば、厚み、および細孔の孔径など)を適切に選択および/または制御することによって達成することが可能である。
【0035】
以下、本発明にかかる透湿防水性布帛の製造方法の例について具体的に説明する。
【0036】
まず、基材となる織物を準備する。織物には前記のものを用いることができ、必要に応じ、湯洗い、精練、リラックス、熱セット等を行う。前記加工は公知の方法で行えばよい。もちろん本発明以外の他の性能を付与するため、特殊な条件にて前記加工を行うことを否定するものではない。
【0037】
また、必要に応じ、染色加工、捺染加工、撥水加工、制電加工、吸水加工、SR加工、抗菌防臭加工、制菌加工、消臭加工、紫外線遮蔽加工、防炎加工、カレンダー加工を行ってもよい。特に、後述するコーティング加工を施す場合には、樹脂含浸防止の観点から、撥水加工および/またはカレンダー加工を施すとよい。
【0038】
続いて、前記織物の片面の全面に1層目の樹脂層を設ける。前記織物の片面の全面に連続している1層目の樹脂層を設けることが好ましい。
織物の片面の全面に1層目の樹脂層を設ける手段としては、あらかじめ作製しておいた樹脂膜を接着剤を介して織物に積層するラミネート法や、織物に直接樹脂を塗布して製膜させるコーティング法、版上の樹脂を織物に押し付ける印刷法、樹脂を織物に向けて噴霧するスプレー法などが挙げられるが、比較的少量の樹脂を織物に付与することができるコーティング法が好適に用いられる。
【0039】
コーティング法としては、公知のコーティング法を用いることができる。反応して硬化する液状モノマーや、加熱溶融、または溶媒もしくは分散媒を適宜用いるなどで流動性を与えた樹脂または樹脂組成物を、ナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、リバースコーター、押し出しコーターなどを用いて織物の片面に塗布することにより、樹脂を織物に付与することができる。機械発泡により樹脂層を多孔質層とする場合には、適切な粘度の樹脂をミキサーなどを用いて泡立てて用いればよい。
【0040】
織物の片面の全面に樹脂を塗布した後、加熱または活性エネルギー線の照射による樹脂の硬化や、冷却による固化、加熱乾燥または湿式凝固による溶媒または分散媒の除去等を行い、樹脂を織物の片面の全面に製膜させることにより、前記1層目の樹脂層を設けることができる。
【0041】
続いて、前記1層目の樹脂層上にさらに部分的に2層目の樹脂層を設ける。
前記1層目の樹脂層上に前記2層目の樹脂層を設ける手段としては、前記1層目の樹脂層を設ける手段と同様の手段を用いることができるが、前記2層目の樹脂層は部分的に、比較的複雑な形状で設けることとなるため、印刷法が好適に用いられる。
【0042】
印刷法としては、公知の印刷法を用いることができる。反応して硬化する液状モノマーや、加熱溶融、または溶媒もしくは分散媒を適宜用いるなどで流動性を与えた樹脂または樹脂組成物を、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などにより、前記1層目の樹脂層上に部分的に付与することができる。高い防水性能を要求される部分のみ、例えば衣類を製造した際に高い防水性能を要求される肩部、肘部、膝部、腰部、臀部からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の部位の、少なくとも一部を形成する部分のみに上記樹脂または樹脂組成物を付与することが好ましい。
その後、前記1層目の樹脂層と同様の方法により製膜し、前記2層目の樹脂層を設けることができる。このようにして、高い防水性能を要求される部分のみ、例えば衣類を製造した際に高い防水性能を要求される肩部、肘部、膝部、腰部、臀部からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の部位の、少なくとも一部を形成する部分のみに前記2層目の樹脂層を設けることができる。
【0043】
樹脂層に透湿性を付与することを目的に樹脂層を多孔質樹脂層とする加工を行う場合、前記1層目の樹脂層の製膜後、または前記2層目の樹脂層の製膜後、またはそれぞれの工程の後に、延伸、ニードルパンチ、レーザー穿孔などの加工を行えばよい。ただし、機械発泡または化学発泡樹脂を用いる場合、または湿式凝固を行う場合には製膜と同時に樹脂層が多孔質樹脂層となる条件で加工を行う。また、製膜と同時に樹脂層が多孔質樹脂層となる条件での加工の後に、ニードルパンチ等の加工をさらに行ってもよい。
【0044】
次に、必要に応じて染色加工、捺染加工、撥水加工、制電加工、吸水加工、SR加工、抗菌防臭加工、制菌加工、消臭加工、紫外線遮蔽加工、防炎加工、カレンダー加工、仕上げセットを公知の方法で行ってもよい。また、耐摩耗性や肌触り、意匠性向上などを目的として、前記樹脂層上に裏材としてさらに別の織物や編物、不織布等の繊維布帛を積層してもよい。前記樹脂層と裏材は、公知の接着剤を用いて接着することができ、必要に応じて熱圧着、エージング等の処理を行ってもよい。
【0045】
なお、前記加工は織物が長尺の形状で加工してもよく、衣類を縫製する際の型紙の形状など所定の形状に裁断または打抜きなどで分離された比較的小片のパーツごとに加工してもよく、さらに長尺の形状で加工を開始し、一連の工程の途中で所定の形状に分離して小片パーツとし、その後の加工を引き続き行ってもよい。長尺の形状で加工を行う場合、縫製工程にて部分(B)が衣類の目的とする部位の位置に合致するよう、裁断や打抜きなど分離工程の際に、ガイドとなる目印や輪郭線などを印刷などの方法で付与したり、前記2層目の樹脂層上に裏材としてさらに別の繊維布帛を積層する場合は特に、前記2層目の樹脂層を構成する樹脂中へ顔料を添加する等で前記2層目の樹脂層を繊維布帛から透けて見える程度の濃度に着色したりすることが好ましい。
【0046】
<透湿防水性布帛を含む衣類>
本発明にかかる透湿防水性布帛を含む衣類は、前記透湿防水性布帛を用いて製造された衣類であり、好ましくは、前記2層目の樹脂層が設けられている部分(B)が衣類の肩部、肘部、膝部、腰部、臀部からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の部位の、少なくとも一部を形成していることを特徴とする衣類である。具体的には、ウインドブレーカー、コート、ジャケット、ヤッケ、アノラック、スキーウエアー、スノーボードウエアー、合羽、作業服などが挙げられる。
【0047】
本発明にかかる透湿防水性布帛を含む衣類は、衣類の防水性が特に必要な部分においては特に高い防水性を有し、身頃やその他衣類の広い面積部分では透湿性が高く、かつ軽量で風合いが柔らかく、運動時の違和感が抑制された衣類を提供することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本発明の実施例および比較例に記載の各性能評価は次の方法により行った。また、実施例および比較例における「部」は、「質量部」を意味する。
【0049】
<目付および樹脂付着量>
2層目の樹脂層が設けられていない部分(A)から100cm2の試験片を採取して質量を測定し、1m2当りの質量に換算した値を部分(A)の目付とした。
部分(A)の目付から織物と裏材の目付を合計した値を引くことにより得られた値を1層目の樹脂層の樹脂付着量とした。
また、2層目の樹脂層が設けられている部分(B)から100cm2の試験片を採取して質量を測定し、1m2当りの質量に換算した値を部分(B)の目付とした。部分(B)の目付から部分(A)の目付を引くことにより得られた値を2層目の樹脂層の樹脂付着量とした。
<樹脂層の厚み>
走査型電子顕微鏡(SEMEDX Type H形:株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用い、透湿防水性布帛の断面を1000倍~5000倍にて観察し、1層目の樹脂層の任意の5カ所の厚みを測定し、それらの平均値を求め、樹脂層の厚みとして決定した。2層目の樹脂層の厚みも同様の方法で決定した。
【0050】
<剛軟度>
2層目の樹脂層が設けられていない部分(A)、および2層目の樹脂層が設けられている部分(B)のそれぞれから採取した試験片について、JIS L1096(2010)A法(45°カンチレバー法)に準じて剛軟度を測定した。経および緯それぞれ5回ずつ測定し、それらの平均値を求めた。剛軟度の比の値は、それぞれの平均値の比の値とした。なお、試験片の接地面は織物の面とした。
【0051】
<耐水度>
耐水度は、部分(A)から採取した試験片について、JIS L1092(2009)A法(低水圧法)に準じた方法で測定した。測定結果が2000mmH2Oを超えたものは、改めて部分(A)から採取した試験片を用いてJIS L1092(2009)B法(高水圧法)に準じた方法で耐水度を測定した。
また、部分(B)から採取した試験片の耐水度については全て、JIS L1092(2009)B法(高水圧法)に準じた方法で測定した。
なお、試験片の接水面は織物の面とした。
【0052】
<透湿度>
JIS L1099(2012)A-1法(塩化カルシウム法)およびJIS L1099(2012)B-1法(酢酸カリウム法)に基づく透湿度を測定し、24時間当りの透湿量に換算した値をそれぞれ透湿度A-1および透湿度B-1とした。
測定には、部分(A)および部分(B)のそれぞれから採取した試験片を用いた。
なお、試験片の接水面は樹脂膜面とした。
【0053】
<通気度>
部分(A)から採取した試験片について、JIS L1096(2010)A法(フラジール形法)に準じて測定した。
【0054】
<運動時の快適性>
各実施例、比較例の透湿防水性布帛から作製したジャケットを試着し、運動時の快適性を以下の3段階で評価した。
◎:風合いが非常に柔らかく、関節の可動に関して違和感がほぼない。
○:風合いが柔らかく、関節の可動に関して違和感がそれほどない。
×:風合いが硬い、もしくは関節の可動に関して違和感がある。
【0055】
実施例1
ナイロンのリップストップ生地(繊維太さ:経糸22デシテックス/20フィラメント、緯糸22デシテックス/20フィラメント。繊維密度:経糸224本/2.54cm、緯糸149本/2.54cm、目付:40.4g/m2)を酸性染料でネビー色に染色した。
次いでこのナイロン生地に、アサヒガ-ド AG-E081(フッ素系撥水剤、AGC株式会社製)の5%水溶液を用いて撥水加工を行ってから、170℃、圧力(線圧)128kgf/cmにてカレンダー加工したナイロン生地を織物として用いた。
【0056】
次に、コーティング法により下記樹脂組成物1を前記織物のカレンダー加工面に、ナイフコーターを用いて塗布した。続いて、120℃で90秒熱処理し、織物の片面の全面に1層目の樹脂層を設けた。得られた樹脂層の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂層は無孔層であった。
【0057】
<樹脂組成物1>
クリスボン S-525 100部
(透湿性ポリエーテル系ウレタン樹脂溶液、DIC株式会社製)
2-ブタノン(MEK) 40部
(希釈用溶媒)
コロネート HL 1部
(イソシアネート系架橋剤、東ソー株式会社製)
【0058】
次に、前記1層目の樹脂層上に、
図2の4および5で示したジャケットの袖パーツの輪郭線をスクリーンを用いてスクリーンプリントを行った。続いて、下記樹脂組成物2を、
図2の6で示した部分に800メッシュのスクリーンを用いてスクリーンプリントし、150℃で90秒熱処理し、1層目の樹脂層上に、
図2の6で示した部分に2層目の樹脂層が設けられた透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の性能を表1に記した。
【0059】
<樹脂組成物2>
スーパーフレックス 650 100部
(透湿性ポリカーボネート系ウレタン樹脂、第一工業製薬株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
【0060】
得られた透湿防水性布帛を用い、2層目の樹脂層が設けられた部分6が肘部となるよう、印刷した輪郭線に沿って裁断、縫製を行ってジャケットを作製した。ジャケットを試着して運動時の快適性の評価した結果を表1に記した。
【0061】
実施例2
1層目の樹脂層の樹脂付着量を変更した以外は実施例1と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0062】
実施例3
実施例1と同様にして織物を準備し、コーティング法により下記樹脂組成物3を前記織物の片面に、ナイフコーターを用いて塗布した。23℃の水に60秒浸漬してウレタン樹脂を凝固させ、さらに120℃で120秒熱処理し、織物の片面の全面に1層目の樹脂層を設けた。得られた樹脂層の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂層は多孔質層であった。
【0063】
<樹脂組成物3>
クリスボン MP-858 100部
(ポリエステル系ウレタン樹脂溶液、DIC株式会社製)
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 40部
(希釈用溶媒)
コロネート HL 1部
(イソシアネート系架橋剤、東ソー株式会社製)
【0064】
その後、実施例1と同様にして1層目の樹脂層上に、
図2の6で示した部分に2層目の樹脂層が設けられた透湿防水性布帛を得た。さらに実施例1と同様にしてジャケットを作製した。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0065】
実施例4
1層目の樹脂層の樹脂付着量を変更した以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0066】
実施例5
2層目のスクリーンプリント工程にて、使用するメッシュを1600メッシュに変更し、2層目の樹脂層の樹脂付着量を減らした以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0067】
実施例6
2層目のスクリーンプリント工程にて、使用するメッシュを400メッシュに変更し、2層目の樹脂層の樹脂付着量を増やした以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0068】
実施例7
ポリエステルの平織生地(繊維太さ:経糸83デシテックス/72フィラメント、緯糸83デシテックス/72フィラメント、繊維密度:経糸110本/2.54cm、緯糸93本/2.54cm、目付:74.0g/m2)を分散染料でグレー色に染色した。
次いでこのポリエステル生地に、アサヒガード AG-E081(フッ素系撥水剤、AGC株式会社製)の5%水溶液を用いて撥水加工を行ってから、170℃、圧力(線圧)128kgf/cmにてカレンダー加工したポリエステル生地を織物として用いた。
【0069】
次に、コーティング法により前記樹脂組成物3を前記織物の片面に、ナイフコーターを用いて塗布した。23℃の水に60秒浸漬してウレタン樹脂を凝固させ、さらに120℃で120秒熱処理し、織物の片面の全面に1層目の樹脂層を設けた。得られた樹脂層の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、樹脂層は多孔質層であった。
【0070】
次に、前記1層目の樹脂層上に、
図2の4および5で示したジャケットの袖パーツの輪郭線をスクリーンを用いてスクリーンプリントを行った。続いて、下記樹脂組成物4を、
図2の6で示した部分に800メッシュのスクリーンを用いてスクリーンプリントし、150℃で90秒熱処理し、1層目の樹脂層上に、
図2の6で示した部分に白色である2層目の樹脂層が設けられた透湿防水性布帛を得、さらに実施例1と同様にしてジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0071】
<樹脂組成物4>
スーパーフレックス 650 100部
(透湿性ポリカーボネート系ウレタン樹脂、第一工業製薬株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
DIALAC WHITE HS-7300 3部
(白色顔料、DIC株式会社製)
【0072】
実施例8
2層目のスクリーンプリント工程に用いる樹脂として、下記樹脂組成物5を用いた以外は実施例3と同様にして、後の工程で裏材を積層する前の中間材料となる、1層目の樹脂層上に、
図2の6で示した部分に赤色である2層目の樹脂層が設けられた透湿防水性布帛を得た。
【0073】
<樹脂組成物5>
スーパーフレックス 650 100部
(透湿性ポリカーボネート系ウレタン樹脂、第一工業製薬株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
RYUDYE-W RED FFGR 5部
(赤色顔料、DIC株式会社製)
【0074】
次に、グラビアコーターを用いてタイフォース NH-320(湿気硬化型ホットメルトタイプポリウレタン接着剤、DIC株式会社製)を110℃に加熱し溶融させ、点状に、前記樹脂層上に転写した。続いて、接着剤を転写した樹脂層と酸性染料にてグレーに染色されたナイロン製ハーフトリコット(繊維太さ:9デシテックス/5フィラメント。目付:10.8g/m2)を対面させて貼り合せ、ニップロールを用いて100℃で熱圧着した。続いて、70℃で72時間エージングすることで、裏材が積層された透湿防水性布帛を得、さらに実施例1と同様にしてジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0075】
比較例1
2層目の樹脂層を設ける工程を行わないこと以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0076】
比較例2
1層目の樹脂層の樹脂付着量を変更した以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。なお、透湿防水性布帛の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、1層目の樹脂層は付着量が少なく不明瞭であり、厚みを測定できなかった。
【0077】
比較例3
1層目の樹脂層の樹脂付着量を変更した以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0078】
比較例4
2層目のスクリーンプリント工程にて、使用するメッシュを2000メッシュに変更し、2層目の樹脂層の樹脂付着量を減らした以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0079】
比較例5
2層目のスクリーンプリント工程にて、使用するメッシュを250メッシュに変更し、2層目の樹脂層の樹脂付着量を増やした以外は実施例3と同様にして、透湿防水性布帛およびジャケットを得た。透湿防水性布帛の性能およびジャケットの評価結果を表1に記した。
【0080】
【0081】
表1に示すように、1層目の樹脂層の樹脂付着量が0.3g/m2である比較例2は、身頃やその他広い面積部分である部分(A)の耐水度が不十分であり、2層目の樹脂層が設けられていない比較例1、および2層目の樹脂層の樹脂付着量が8.0g/m2と少ないために、部分(A)と部分(B)の剛軟度の比(経×緯)の値が0.87×0.85と1.0に近くなる比較例4は、衣類の防水性が特に必要な部分である部分(B)の耐水度が不十分であった。また、1層目の樹脂層の樹脂付着量が6.6g/m2である比較例3は、部分(A)、部分(B)ともに透湿度が不十分であり、かつジャケットを試着して運動時の快適性の評価した結果、風合いが硬かった。さらに、2層目の樹脂層の樹脂付着量が60.1g/m2と多いために、部分(A)と部分(B)の剛軟度の比(経×緯)の値が0.39×0.35と低くなる比較例5は、部分(B)の透湿度が不十分であり、かつジャケットを試着して運動時の快適性の評価した結果、関節の可動に関して違和感があった。
【0082】
これとは対照的に、1層目の樹脂層の樹脂付着量が0.4~6.5g/m2であり、剛軟度の比の値が経、緯とも0.40~0.85である実施例1~8のすべての透湿防水性布帛は、優れた透湿性、防水性を有しかつ、これらの透湿防水性布帛から製造されたジャケットは、風合いが柔らかく、関節の可動に関して違和感がなかった。特に、部分(A)の目付が75g/m2以下であり、剛軟度の比の値が経、緯とも0.50以上である実施例1~5および8の透湿防水性布帛から製造されたジャケットは、風合いが非常に柔らかく、関節の可動に関して違和感がほぼなかった。また、1層目の樹脂層の樹脂付着量が4.5g/m2以下である実施例1~3および5~8は、部分(A)の透湿度が特に優れていた。
【符号の説明】
【0083】
1 織物
2 1層目の樹脂層
3 2層目の樹脂層
4 ジャケットの外袖パーツ
5 ジャケットの内袖パーツ
6 2層目の樹脂層が設けられている部分(B)