(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】船速制御装置、船速制御方法、および、船速制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B63H 21/21 20060101AFI20230814BHJP
G05B 11/36 20060101ALN20230814BHJP
【FI】
B63H21/21
G05B11/36 501B
(21)【出願番号】P 2019166739
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植野 秀樹
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088119(JP,A)
【文献】特開2016-182877(JP,A)
【文献】特開2019-148212(JP,A)
【文献】特開2009-241754(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057133(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0022447(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/21
G05B 1/00- 7/04,
11/00-13/04,
17/00-17/02,
21/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実船速と目標船速との差分に基づいて、スロットル演算値を算出する演算部と、
前記実船速が、安全性に基づいたスロットル上限値によって決定される第1閾値未満であり、前記スロットル演算値が前記スロットル上限値以上であると、スロットル指令値を前記スロットル上限値に設定するスロットル指令値設定部と、
を備える、船速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の船速制御装置であって、
前記スロットル指令値設定部は、
前記実船速が前記第1閾値以上であると、前記スロットル上限値による制限を解除し、前記スロットル演算値を前記スロットル指令値に設定する、
船速制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の船速制御装置であって、
前記スロットル指令値設定部は、
前記スロットル上限値によって決定される値で、かつ、前記第1閾値よりも高い値に、第2閾値を設定しており、
前記目標船速の算出元となる自動船速制御時の最終的な船速である設定船速
が前記第2閾値以上のとき、
前記スロットル指令値を前記スロットル上限値で制限する、
船速制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の船速制御装置であって、
前記スロットル指令値設定部は、
前記設定船速が前記第2閾値未満のとき、前記スロットル上限値以下で、前記差分の大きさに応じたスロットル指令値を設定する、
船速制御装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の船速制御装置であって、
前記設定船速から前記目標船速を算出する目標値フィルタを備え、
前記スロットル指令値設定部は、
前記目標値フィルタによって設定された目標船速が前記第2閾値以上であり、前記実船速が前記第1閾値未満であると、前記目標船速を前記第2閾値に設定する、
船速制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の船速制御装置であって、
前記演算部は、
PID制御によって、前記スロットル演算値を算出し、
前記実船速が前記第1閾値未満であり、前記目標船速が前記第2閾値に設定される期間において、前記PID制御の積分ゲインを大きく設定する、
船速制御装置。
【請求項7】
実船速と目標船速との差分に基づいて、スロットル演算値を算出し、
前記実船速が、スロットル上限値によって決定される第1閾値未満であり、前記スロットル演算値が前記スロットル上限値以上であると、スロットル指令値を前記スロットル上限値に設定する、
、船速制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の船速制御方法であって、
前記実船速が前記第1閾値以上であると、前記スロットル上限値による制限を解除し、前記スロットル演算値を前記スロットル指令値に設定する、
船速制御方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の船速制御方法であって、
前記スロットル上限値によって決定される値で、かつ、前記第1閾値よりも高い値に、第2閾値を設定しており、
前記目標船速の算出元となる自動船速制御時の最終的な船速である設定船速
が前記第2閾値以上のとき、
前記スロットル指令値を前記スロットル上限値で制限する、
船速制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の船速制御方法であって、
前記設定船速が前記第2閾値未満のとき、前記スロットル上限値以下で、前記差分の大きさに応じたスロットル指令値を設定する、
船速制御方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の船速制御方法であって、
前記設定船速から目標値フィルタによって前記目標船速を算出し、
前記目標値フィルタによって設定された目標船速が前記第2閾値以上であり、前記実船速が前記第1閾値未満であると、前記目標船速を前記第2閾値に設定する、
船速制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の船速制御方法であって、
PID制御によって、前記スロットル演算値を算出し、
前記実船速が前記第1閾値未満であり、前記目標船速が前記第2閾値に設定される期間において、前記PID制御の積分ゲインを大きく設定する、
船速制御方法。
【請求項13】
実船速と目標船速との差分に基づいて、スロットル演算値を算出し、
前記実船速が、スロットル上限値によって決定される第1閾値未満であり、前記スロットル演算値が前記スロットル上限値以上であると、スロットル指令値を前記スロットル上限値に設定する、
処理を演算処理装置に実行させる、船速制御プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載の船速制御プログラムであって、
前記実船速が前記第1閾値以上であると、前記スロットル上限値による制限を解除し、前記スロットル演算値を前記スロットル指令値に設定する、
処理を演算処理装置に実行させる、船速制御プログラム。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載の船速制御プログラムであって、
前記スロットル上限値によって決定される値で、かつ、前記第1閾値よりも高い値に、第2閾値を設定しており、
前記目標船速の算出元となる自動船速制御時の最終的な船速である設定船速
が前記第2閾値以上のとき、
前記スロットル指令値を前記スロットル上限値で制限する、
処理を演算処理装置に実行させる、船速制御プログラム。
【請求項16】
請求項15に記載の船速制御プログラムであって、
前記設定船速が前記第2閾値未満のとき、前記スロットル上限値以下で、前記差分の大きさに応じたスロットル指令値を設定する、
処理を演算処理装置に実行させる、船速制御プログラム。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載の船速制御プログラムであって、
前記設定船速から目標値フィルタによって前記目標船速を算出し、
前記目標値フィルタによって設定された目標船速が前記第2閾値以上であり、前記実船速が前記第1閾値未満であると、前記目標船速を前記第2閾値に設定する、
処理を演算処理装置に実行させる、船速制御プログラム。
【請求項18】
請求項17に記載の船速制御プログラムであって、
PID制御によって、前記スロットル演算値を算出し、
前記実船速が前記第1閾値未満であり、前記目標船速が前記第2閾値に設定される期間において、前記PID制御の積分ゲインを大きく設定する、
処理を演算処理装置に実行させる、船速制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船速を自動制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すような船速の制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すような従来の船速の制御方法によって自動船速制御を行った場合、実船速が低速の状態において、設定船速を高速にすると、安全性が低下することある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、安全性を確保しながら、高い設定船速に自動で追従するように、実船速を低速から高速に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の船速制御装置は、演算部、および、スロットル指令値設定部を備える。演算部は、実船速と目標船速との差分に基づいて、スロットル演算値を算出する。スロットル指令値設定部は、実船速が、安全性に基づいたスロットル上限値によって決定される第1閾値未満であり、スロットル演算値がスロットル上限値以上であると、スロットル指令値をスロットル上限値に設定する。
【0007】
この構成では、実船速を低速から高速に制御するときに、スロットル開度が過度に急激に高くなることが抑制される。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、安全性を確保しながら、高い設定船速に自動で追従するように、実船速を低速から高速に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る船速制御装置を含む船体制御システムの構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、オートパイロット制御部(AP制御部)の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、船速制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図4(A)は、本願発明の制御、処理を行った場合の、実船速V、目標船速Vt、および、スロットル指令値Rの時刻遷移と、設定船速Vpとを示すグラフであり、
図4(B)は、従来の制御、処理を行った場合の、実船速V、目標船速Vt、および、スロットル指令値Rの時刻遷移と、設定船速Vpとを示すグラフである。
【
図5】
図5は、本願発明の船速制御方法における状態選択処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本願発明の船速制御方法における目標船速およびスロットル指令値の設定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る船速制御装置、船速制御方法、および、船速制御プログラムについて、図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る船速制御装置を含む船体制御システムの構成を示す機能ブロック図である。
図2は、オートパイロット制御部(AP制御部)の構成を示す機能ブロック図である。
【0011】
(船体制御装置10の構成)
図1に示すように、船体制御装置10は、本体101、および、リモコンレバー102を備える。本体101およびリモコンレバー102は、オートパイロット制御(自動航行制御)を行う船舶の船体に装備される。船体制御装置10は、推進力発生部91、および、舵機92に接続する。なお、推進力発生部91および舵機92は、例えば、船外機、船内機、船内外機他、各種の推進器等に備えられている。また、推進力発生部91および舵機92は、船体に1つずつ備えられている。すなわち、本実施形態の船体制御装置10が装備される船舶は、所謂、1軸1舵の船舶である。
【0012】
(本体101の構成)
本体101は、AP制御部20、AP操作部30、センサ40、および、表示部50を備える。
【0013】
AP制御部20、AP操作部30、センサ40、および、表示部50は、船舶用のデータ通信ネットワーク100によって互いに接続する。AP制御部20、リモコンレバー102、および、推進力発生部91は、例えば、推進力用通信網(CAN等)を介して接続する。AP制御部20と舵機92とは、アナログ電圧またはデータ通信を介して接続する。
【0014】
AP制御部20は、例えば、CPU等の演算処理装置と記憶部とによって構成される。記憶部は、AP制御部20で実行するプログラムを記憶する。また、記憶部は、CPUの演算時に利用される。
図2に示すように、AP制御部20は、メイン制御部21、船速制御部22、および、舵角制御部23を備える。
【0015】
メイン制御部21は、概略的には、AP制御部20で実行する船速および舵角のオートパイロット制御(自動航行制御)の主制御を行う。例えば、メイン制御部21は、AP操作部30によるオートパイロット制御の設定を受け付ける。メイン制御部21は、この設定内容を解析して、設定されたオートパイロット制御を実現するように、船速制御部22および舵角制御部23の処理タイミング等を制御する。また、メイン制御部21は、リモコンレバー102の操作状態検出部201からの操作状態を監視する。メイン制御部21は、監視結果を考慮して、オートパイロットの制御を行うこともできる。
【0016】
メイン制御部21は、AP操作部30からの設定船速を船速制御部22に与える。また、メイン制御部21は、AP操作部30からの設定方位を舵角制御部23に与える。ここで、設定船速は、オートパイロット制御において最終的に追従させる船速(速度)である。また、設定方位は、オートパイロット制御において最終的に追従させる船体方位である。なお、設定船速は、船速制御部22が直接取得してもよく、設定方位は、舵角制御部23が直接取得してもよい。
【0017】
船速制御部22は、概略的には、設定船速から目標船速を算出する。目標船速とは、自動船速制御中において、実船速を設定船速に近づけるために設定される船速である。船速制御部22は、目標船速と実船速との差分を入力としてPID制御を行うことで、実船速を目標船速に近づけるための制御船速を算出し、当該制御船速からスロットル演算値を算出する。船速制御部22は、後述の各条件、実船速V、設定船速Vp、目標船速Vt、および、スロットル演算値Reを用いて、スロットル指令値Rを設定する。船速制御部22は、スロットル指令値Rを、推進力発生部91に出力する。推進力発生部91は、スロットル指令値Rに応じて推進力を制御する。船速制御部22が、本発明の「船速制御装置」に対応する。
【0018】
舵角制御部23は、概略的には、設定方位から目標方位を算出する。目標方位とは、自走舵角制御中において、船体方位を設定方位に近づけるために設定された方位である。舵角制御部23は、目標方位と船体方位との偏角を入力としてPID制御を行うことで、指令舵角を設定する。舵角制御部23は、指令舵角を、舵機92に出力する。舵機92は、指令舵角に応じて舵角を制御する。
【0019】
AP操作部30は、例えば、タッチパネル、物理的なボタンやスイッチ等によって実現される。AP操作部30は、オートパイロット制御に関連する設定の操作を受け付ける。AP操作部30は、設定内容をAP制御部20に出力する。
【0020】
センサ40は、船体制御装置10が備えられた船舶(船体)の速度(実船速V)、および、船体方位(船首方位や船尾方位)を計測する。例えば、センサ40は、GNSS(例えば、GPS)の測位信号を利用した測位センサ、慣性センサ(加速度センサや角速度センサ等)、磁気センサ等によって実現される。
【0021】
表示部50は、例えば、液晶パネル等によって実現される。表示部50は、AP制御部20から入力された通常のオートパイロットの航行に関連する情報を表示する。なお、表示部50は、省略することも可能であるが、あることが好ましく、表示部50があることによって、ユーザは、オートパイロットの制御状態や航行状態を容易に把握できる。
【0022】
(リモコンレバー102の構成)
リモコンレバー102は、操作レバー200、および、操作状態検出部201を備える。
【0023】
操作レバー200は、手動航行時におけるユーザからの操作を受け付ける。操作状態検出部201は、センサ等によって実現される。操作状態検出部201は、操作レバー200の操作状態を検出する。操作状態検出部201は、検出した操作レバーの操作状態(角度)を、推進力発生部91に出力する。手動航行時には、推進力発生部91は、この操作状態に応じた大きさの推進力を発生する。操作状態は、上述のように、AP制御部20によって監視されている。例えば、AP制御部20は、手動操作からオートパイロット制御への切り替え時に、この操作状態を参照して、オートパイロット制御の初期制御を実行する。
【0024】
(船速制御部22の構成)
図3は、船速制御部の構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、船速制御部22は、目標値フィルタ221、差分演算器222、PID制御部223、および、スロットル指令値設定部224を備える。
【0025】
目標値フィルタ221は、設定船速Vpを入力として、目標船速Vtを出力する。目標船速Vtは、自動船速制御の開始時における実船速Vと設定船速Vpとの間の値に設定され、自動船速制御の開始時の実船速Vから設定船速Vpに、徐々に近づくように設定される。
【0026】
差分演算器222は、目標船速Vtから実船速Vを差分して、速度偏差ΔVを出力する。
【0027】
PID制御部223は、速度偏差ΔVを入力として、既知のPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)の演算を行い、制御速度Veを算出する。そして、PID制御部223は、制御速度Veからスロットル演算値Reを算出する。制御速度Veとスロットル演算値Reとの関係は、一意的に決められている。
【0028】
スロットル指令値設定部224は、スロットル演算値Reからスロットル指令値Rを設定する。スロットル指令値設定部224は、スロットル指令値Rを、推進力発生部91に出力する。
【0029】
なお、推進力発生部91は、スロットル指令値Rに応じて推進力を発生する。船体は、この推進力を受けて航行し、その速度(実船速V)は、センサ40によって計測される。センサ40によって計測された実船速Vは、差分演算器222にフィードバックされる。
【0030】
以下、上述の実船速VのフィードバックによるPID制御が繰り返されることによって、実船速Vは、設定船速Vpに近づき、近づいた後には、適宜追従する。
【0031】
このような制御、処理において、船速制御部22は、次の処理を行う。
【0032】
船速制御部22には、スロットル上限値Rs、閾値THs、閾値THrが設定されている。スロットル上限値Rsは、例えば、船体の速度が0(停止状態)の状態から急激にスロットル開度を高くしても、搭乗者または船舶に対して安全性を担保できるスロットル指令値(スロットル開度に対応)によって決定される。スロットル上限値Rsを超えることによって、搭乗者または船舶に危険が生じると判断できる数値である。
【0033】
スロットル上限値Rsは、船体の仕様、積載重量、外乱抵抗等によって調整可能である。また、スロットル上限値Rsは、搭乗者の経験、搭乗者の過去の航行時の状態をセンサで検出して、その検出結果から搭乗者が危険と感じるスロットル指令値を推定し、この推定値によって設定することも可能である。
【0034】
閾値THsは、スロットル上限値Rsを船速に変換した値である。閾値THrは、閾値THsに対して係数k(k<1)を乗算した値である。kは、例えば、約0.6である。係数kは、安全性や船速の設定船速までの到達速度等を考慮して、適宜設定できる。閾値THrが、本発明の「第1閾値」に対応し、閾値THsが、本発明の「第2閾値」に対応する。
【0035】
(設定船速Vpが閾値THs未満の場合(設定船速Vpが低い場合))
船速制御部22は、設定船速Vpが閾値THs未満であれば、スロットル上限値Rs以下の範囲内において、スロットル指令値Rを設定する。
【0036】
(設定船速Vpが閾値THs以上の場合(設定船速Vpが高い場合))
船速制御部22のスロットル指令値設定部224は、実船速Vと閾値THrとを比較する。スロットル指令値設定部224は、実船速Vが閾値THr未満(V<THr)であれば、スロットル演算値Reとスロットル上限値Rsとを比較する。スロットル指令値設定部224は、スロットル演算値Reがスロットル上限値Rs以上であれば、スロットル指令値設定部224は、スロットル上限値Rsをスロットル指令値Rに設定する。一方、スロットル指令値設定部224は、スロットル演算値Reがスロットル上限値Rs未満であれば、スロットル演算値Reをスロットル指令値Rに設定する。
【0037】
船速制御部22の目標値フィルタ221は、算出した目標船速Vtと閾値THsとを比較する。目標値フィルタ221は、算出した目標船速Vtが閾値THs以上であれば、差分演算器222に出力する目標船速Vtを、閾値THsに制限する。一方、目標値フィルタ221は、算出した目標船速Vtが閾値THs未満であれば、算出した目標船速Vtを、差分演算器222に出力する。
【0038】
船速制御部22のPID制御部223は、実船速Vが閾値THr未満であれば、積分ゲインを大きくする。一方、PID制御部223は、実船速Vが閾値THr以上であれば、積分ゲインを元に戻す。
【0039】
このような制御、処理を行うことによって、実船速Vおよびスロットル指令値Rは、
図4(A)に示すように遷移する。
図4(A)は、本願発明の制御、処理を行った場合の、実船速V、目標船速Vt、および、スロットル指令値Rの時刻遷移と、設定船速Vpとを示すグラフである。
図4(B)は、
図4(A)の比較対象として、従来の制御、処理を行った場合の、実船速V、目標船速Vt、および、スロットル指令値Rの時刻遷移と、設定船速Vpとを示すグラフである。従来の制御、処理では、スロットル指令値Rおよび目標船速Vtの制限を行っていない。
【0040】
図4(A)、
図4(B)に示す態様では、設定船速Vpは、閾値THsよりも高い。したがって、上述の設定船速Vpが高い場合の制御、処理が実行される。
【0041】
(本願構成の場合)
図4(A)に示すように、実船速Vが略0の低速において、自動船速制御が開始されると、スロットル指令値Rは徐々に高くなる。これに伴い、実船速Vも経時的高くなる。ここで、本願の構成を用いることによって、実船速Vが閾値THrに達するまでは、スロットル指令値Rは、スロットル上限値Rs以下に制限される。この際、目標船速Vtも、閾値THs以下に制限される。これにより、スロットル指令値R、および、これに対応するスロットル開度が過剰に高くなることを抑制できる。したがって、加速時の安全性は、確保される。すなわち、船体制御装置10は、安全性を確保しながら、高い設定船速に自動で追従するように、実船速を低速から高速に制御できる。
【0042】
なお、実船速Vが設定船速Vpに近づいたときには、目標船速Vtの制限、スロットル指令値Rの制限は、解除されている。したがって、実船速Vは、設定船速Vpに、安定して追従する。
【0043】
さらに、この期間において、PID制御の積分ゲインを大きくすることによって、スロットル指令値Rを制限した期間であっても、実船速Vの上昇率を高く確保できる。すなわち、速度の立ち上がりを早めることができる。なお、この積分ゲインの調整は、省略することも可能であるが、あることが好ましい。
【0044】
(従来構成の場合)
一方、本願発明の構成を用いなければ、
図4(B)に示すように、低速から高速への加速時に、スロットル指令値Rおよびスロットル開度が過度の高くなり、実船速Vの変化との差が大きくなる。これにより、例えば、ユーザによる視覚情報と聴覚情報とが乖離してしまい、ユーザに不安を与え、安全性は低下してしまう。
【0045】
(船速制御方法)
上述の説明では、船速制御を、複数の機能ブロックで実現する態様を示した。しかしながら、船速制御部22を、船速制御プログラムを実行するCPU等の演算処理装置によって実現することも可能である。この場合、船速制御部22は、次に示す処理を実行すればよい。
図5は、本願発明の船速制御方法における状態選択処理を示すフローチャートである。
図6は、本願発明の船速制御方法における目標船速およびスロットル指令値の設定処理を示すフローチャートである。
【0046】
(状態選択)
図5に示すように、船速制御部22は、自走船速制御における低速もしくは停止状態から高速への切り替えの初期状態として、状態=”加速初期”を選択する(S101)。船速制御部22は、船速制御中でなければ(S102:NO)、状態=”加速初期”の選択を継続する。
【0047】
船速制御部22は、船速制御中であると(S102:YES)、実船速Vと閾値THrとを比較する。船速制御部22は、実船速Vが閾値THr未満であれば(S103:YES)、スロットル演算値Reとスロットル上限値Rsとを比較する。船速制御部22は、実船速Vが閾値THr以上であれば(S103:NO)、状態=”制限無し”を選択し(S108)、ステップS102に戻る。
【0048】
船速制御部22は、スロットル演算値Reがスロットル上限値Rs未満であれば(S104:YES)、状態=”加速初期”を選択し(S105)、ステップS102に戻る。船速制御部22は、スロットル演算値Reがスロットル上限値Rs以上であり(S104:NO)、ステップS104時において状態=”加速初期”であるか否かを検出する。船速制御部22は、状態=”加速初期”であれば(S106:YES)、状態=”加速制限”に移行し(S107)、ステップS102に戻る。船速制御部22は、状態=”加速初期”でなければ(S106:NO)、状態の遷移を行わず、ステップS102に戻る。
【0049】
(目標船速Vtおよびスロットル指令値Rの設定)
図6に示すように、船速制御部22は、目標値フィルタ処理を実行する(S201)。船速制御部22は、状態=”加速初期”、または、状態=”加速制限”であるか否かを判定する。船速制御部22は、状態=”加速初期”、または、状態=”加速制限”でなければ(S202:NO)、ステップS206に移る。
【0050】
船速制御部22は、状態=”加速初期”、または、状態=”加速制限”であれば(S202:YES)、目標値フィルタ処理で算出された目標船速Vtと閾値THsとを比較する。
【0051】
船速制御部22は、算出された目標船速Vtが閾値THsよりも大きければ(S203:YES)、速度偏差ΔVの算出に用いる目標船速Vtを閾値THsに制限する(S204)。そして、船速制御部22は、PID制御における積分ゲインを大きくする(S205)。船速制御部22は、算出された目標船速Vtが閾値THs以下であれば(S203:NO)、ステップS206に移る。
【0052】
船速制御部22は、目標船速Vtと実船速Vの差分である速度偏差Δを入力としてPID制御を行い、スロットル演算値Reを算出する(S206)
船速制御部22は、状態=”加速制限”でなければ(S207:NO)、スロットル演算値Reをスロットル指令値Rに設定して(S210)、ステップS201に戻る。
【0053】
船速制御部22は、状態=”加速制限”であれば(S207:YES)、スロットル演算値Reとスロットル上限値Rsとを比較する。船速制御部22は、スロットル演算値Reがスロットル上限値Rsよりも大きければ(S208:YES)、スロットル指令値Rをスロットル上限値Rsで制限し(S209)、ステップS201に戻る。船速制御部22は、スロットル演算値Reがスロットル上限値Rs以下であれば(S208:NO)、スロットル演算値Reをスロットル指令値Rに設定して(S210)、ステップS201に戻る。
【0054】
このような処理を行うことによって、船速制御部22は、安全性を確保しながら、高い設定船速に自動で追従するように、実船速を低速から高速に制御できる。
【符号の説明】
【0055】
10:船体制御装置
20:AP制御部
21:メイン制御部
22:船速制御部
23:舵角制御部
30:AP操作部
40:センサ
50:表示部
91:推進力発生部
92:舵機
100:データ通信ネットワーク
101:本体
102:リモコンレバー
200:操作レバー
201:操作状態検出部
221:目標値フィルタ
222:差分演算器
223:PID制御部
224:スロットル指令値設定部